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出版

タイトル 建設プロジェクトにおける地盤調査の重要性と現況
著者 東畑郁生
出版 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
ページ 13〜14 発行 2019/06/20 文書ID rp201905400007
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  • タイトル
  • 建設プロジェクトにおける地盤調査の重要性と現況
  • 著者
  • 東畑郁生
  • 出版
  • 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
  • ページ
  • 13〜14
  • 発行
  • 2019/06/20
  • 文書ID
  • rp201905400007
  • 内容
  • 0007A - 01第 54 回地盤工学研究発表会(さいたま市) 2019 年 7 月建設プロジェクトにおける地盤調査の重要性と現況現地調査技術者地位向上関東学院大学国際会員○東畑郁生はじめに地盤工学が社会において重要な一翼を担っていることは、会員各位にとっては当然の認識であろう。しかし世の中では必ずしもそう思っていない現実があり、海外でも多くの国で状況は同じある。そこで国際地盤工学会では ProfessionalImage Committee という組織を設立し、地盤工学の地位向上に取り組んでいる。その座長が筆者であるが、対応して国内でも「地盤工学の社会的地位向上推進委員会」を設立し、活動を行っている。本日の DS もその活動の一環である。本稿では、この国内委員会の活動内容、目的、現在までの成果などを紹介する。1.地盤工学の実績について実績を社会に向けて発信、宣伝することは、地位向上の努力においては基本である。どのような実績があるのか、少し考えただけでも、ダムや用水施設等の水資源利用、上下水道、陸海空の交通機関、防災、土木建築構造物の基礎など枚挙にいとまがない。ところが社会では、これらの施設、特に地下に埋設されている部分のことを天与の便宜としか認識していない。目に見えないものの重要性には想像が及ばないのは、人間の本質かもしれない。私見であるが、地盤工学関係機関による地位向上への努力は、あまりプラスになっていない。マイナスになるのを防いでいるのかも図 1 パリ最古の下水道(下水道博物館にて)しれないが、それだけでは当初の目的を達成したことにはならないであろう。その理由の一つに、他の分野も同様の努力をしていることがある。同じ土俵で同じ努力をしていては、ハイテク、金融、先端医療などを上回る成果を挙げることは、難しいであろう。一点強調すべきなのは、200 年前までは汚穢の極みと伝染病の巣窟であった欧州の大都市で衛生を改善し、人間の健康に大きく貢献したのが下水道の整備であったことである(図 1)。医学の進歩より下水道の方が人類の健康への貢献が大きかった、と感じている人もいる。下水道をはじめとするインフラ老朽化が問題になっている現在、この実績をもっとアピールすべきである。2.国際地盤工学会 Professional Image Committee の活動目的国際学会では、次の 7 つの目的を掲げている。①実績の宣伝、②地質リスクの抑制、③新たな可能性の発掘、④宣伝媒体の作成、⑤社会との意思直接疎通、⑥発注者との意思疎通、⑦業績表彰等。中でも①②③⑤⑥⑧を重視している。①は正統的アプローチだが、上述のように、従前型の実績宣伝だけでは思うような成果が得られないのではないか、と考えている。本年の 2 月にフランスの地盤工学会から、少し味付けの変わった宣伝 PPT が提出されたほか、街へ出て「あなたにとって地盤工学ってなあに?」というスタイルの宣伝素材も作られた。見ていて面白いものがある。②の地質リスクの抑制は、国内委員会の活動の中心である。これについては特に次章で詳述する。③は、地盤工学が従来行なってこなかった事柄である。今回の研究発表会でも、室内実験、現場調査、設計などの業績報告は数多くあるし、顧客のむずかしい要求に対応できた成功例の報告も、多いはずである。しかし地盤工学が今後どのような分野であるべきなのか、50 年後の将来像などを考えている発表は、無いはずである。これを他分野と比べて欲しい。IoT、マシンラーニング、e ビジネス、先端医療、電気飛行機など、アピールが目白押しである。顧客を満足させて事足れりではなく、人類文明が 50 年後にどうあるべきか、提案を矢継ぎ早に出しているのが、先端技術分野の実態である。そしてそれに魅力を感じた人材が、これらの分野に飛び込んでいく。ファンドもそこへ流れている。未来構想力が全く違う。3.地質リスクのコントロールと抑制公共事業であれ民間事業であれ、コスト削減の要請が高まっている。総事業コスト削減の一環として、地盤調査のコストも一律削減を受けることが少なくない。問題は、地盤調査を簡略化したことによって見落とされた問題は、施工以降の段階で初めて露出し、施工コストや期間を増加させる。調査コストの節約は簡単に規定できるが、後日の問題発現と総コスト増大は、制御できないのである。このような状況を地質リスクと呼ぶ(これだけが地質リスクではないが、本稿ではこの種のリスクを念頭に置いている)。むしろ地盤調査に予算と時間を十分配当し、地盤の性状を十分に把握してから次段階に進めば総コストをコントロールできる、あるいは削減できる可能性がある。このような視点を推進するため本稿の活動は、この分野で実績のある地質リスク学会および全地連との協働作業として推進している。地質リスク学会では、先年、国内 140 件のプロジェクトについて調査を行い、地質リスクを事前に予測して回避に成功した事例(A グループ)、全く失敗してコスト増大に及んだ事例(B)、そして中間としてプロジェクト中途でリスクの存在を認識して対応し、最悪の事態を防いだ事例(C)、に分類した。図 2 は、その分類である。多様な建設プロ4.Significance of subsoil investigation in construction projects andits current situationIkuo Towhata Kanto Gakuin University13 ジェクトから、事例が収集されている。A の中でも地質リスク学会が特に成功例として挙げているのが、北九州空港連絡橋の基礎である。当初は N 値に基づき深い基盤に支持される杭基礎として設計されていたのを、地盤調査の予算を 1億円から 3 億円に増額して詳細な地盤調査を行い、杭の長さを減らして摩擦杭として設計ですることができた。これによる工費削減は 100 億円、すなわち二億円増額により 50 倍の削減を実現したのである。このような成功例のまとめが図3 である。*が北九州空港の事例である。リスクの出現により増加しかねなかった実コストが●、それを現場の調査予算増額によって、〇まで減らすことに成功した。きわめて少額の〇は、プロジェクトそのものの根本的変更を意味する。プロジェクトの大小を問わず、地盤調査によって総コストの縮減が期待できることがわかる。逆に、リスクの管理に失敗し、コストの増大に至ったケース B を図 4 にまとめた。実コストが●で、45 度線より上方にあることが、初期予算からの増加を意味する。そして反省を込めてこのくらいの費用で収まったはずなのに、という数値が〇である。後者でもなお初期の予算から増えている場合があるが、●よりは少額である。現実には、プロジェクトの途中でリスクに気づき、現場調査を追加して実態把握し、必要な対策を実施して事態を収拾することが大半であろう。このようなケースが C であり、まとめが図 5 である。現場調査・リスク管理により、総コストを●から〇へ削減することができた、とされる。〇もなお 45 度線より上にあり、リスクが予算増大につながったものの、それをある程度以下に制御できたことが、地盤調査の成果であった。理想はAである。地盤調査の可能性を社会や発注者に理解いただき、総コストの削減と、余剰資源を新たな事業に振り向けることを訴えたい。また、優れた地盤技術者の存在価値が高まることにより、生活水準が向上することも、地盤工学の地位向上、イメージ改善に有益と考える。5. 地盤工学の将来像地盤工学の持てる能力は、従来思いもよらなかった分野に応用できるのではないか、というのが筆者の考えである。その例が、現在推進中の福島事故原発の廃炉作業であり、廃炉地盤工学という分野が現在発展中である。他にも可能性があると確信している。地球と人類との関係でいえば、気候変動以外にも人口爆発という大問題が進行していて、インドやアフリカでは増加の収まる気配が無い。生存の基盤が大地にあるのは明白であるから、地盤工学に果たすべき役割があるであろう。このような問題に取り組む場合、新しい発想が必要であることは言うを俟たないが、もう一つ、できない理由をあれこれ探すことは避けるべきである。大事なのは、どうやればできるか、ということであり、なぜできないのかを証明することなどではない。図 2 分析対象プロジェクトの内訳図 3 リスク管理成功ケース(A)の当初コスト(横軸)とリスク管理(調査)有無両ケースの総コスト(縦軸)との関係図 4 リスク管理できなかったケース(B)の増大実コストと本来少なかったはずのコスト図 5 中途でリスク管理を実施したケース(C)の、コスト削減実績(●から〇へ削減)14
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