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出版

タイトル 地質リスクマネジメントの効果に関する検討
著者 東野圭悟・中山健二
出版 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
ページ 11〜12 発行 2019/06/20 文書ID rp201905400006
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  • タイトル
  • 地質リスクマネジメントの効果に関する検討
  • 著者
  • 東野圭悟・中山健二
  • 出版
  • 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
  • ページ
  • 11〜12
  • 発行
  • 2019/06/20
  • 文書ID
  • rp201905400006
  • 内容
  • 0006A - 07第 54 回地盤工学研究発表会(さいたま市) 2019 年 7 月地質リスクマネジメントの効果に関する検討地質リスクマネジメント地質リスク学会事例整理中央開発株式会社川崎地質株式会社正会員正会員◯東野中山圭悟健二1.概要我が国の地質構造は世界中でも稀なほど複雑で脆弱なため,毎年各地で地震や台風などの豪雨により自然災害が発生し,社会基盤に大きな被害を与えている。このような地質・地盤の脆弱性に起因するような地質リスクによる被害は,社会基盤の建設から維持管理に至るまでのライフサイクルコストにも大きな影響を与える。そのため,計画段階などのなるべく早い段階で,発生する可能性が高い地質リスクを特定し,そのリスク対応を設計や工事に盛り込んでマネジメントすることで事後対応から予防保全へと転換することができ,ライフサイクルコストを低減することが可能である1)。本論文では,平成 22 年から実施されている「地質リスクマネジメント事例研究発表会(主催:地質リスク学会)」の投稿論文(全 8 回,合計 135 論文)3)を整理し,地質リスクマネジメントの効果(コスト)について整理した結果について報告する。表 1 リスク区分 2)2.地質リスクマネジメントのリスク区分 2)リスク区分内容地質リスク学会では,地質リスクを「地質に係わる事業リスク」と定義し,地質リスク事例に対A型地質リスクを回避した事例して表 1 のように区分し,地質リスクマネジメンB型地質リスクが発現した事例トによるリスク対応について評価している。C型発現した地質リスクを最小限に回避した事例A 型とは地質リスクを回避した事例であり,工D型その他(A 型~C 型のいずれにも属さない事例)事着工前に地質リスクを適切に判断し,追加調査,設計変更等を行うことで,工費の削減に成功した事例である。B 型とは,工事着工前に地質リスクを考慮していなかったため,地質リスクが発現した事例である。そのため,B 型における地質リスクマネジメントの効果は,地質リスクマネジメントを適切に行っていれば(リスク対応費を掛けていれば)防ぐことができたと考えられる事例である。C 型とは,工事着工前に地質リスクを考慮していなかった工事の途中に地質リスクに気が付き適切に対処した結果,発現した地質リスクを最小限に回避した事例である。それぞれの地質リスクマネジメントの効果は下式により評価できる。A 型の効果=当初工事費-(変更後工事費+リスクを回避するために要した費用)(式 1)B 型の効果=(変更後工事費+リスク発現に伴う追加費用)-(理想的なリスク管理を行った場合の費用)(式 2)C 型の効果=(回避しなかった場合の工事費)-(当初工事費+リスク発現に伴う追加費用+リスクを最小限に回避するために要した費用)(式 3)3.事例収集表 2 収集した事例一覧本検討では,平成 22 年から平成 29 年分類A型B型C型D型に実施された「地質リスクマネジメント01_トンネル9103事例研究発表会(主催:地質リスク学会)」02_ダム1031の投稿論文(全 8 回,合計 135 論文) 3)を整03_河川5121理した。今回収集した事例を一覧表にし04_斜面19151914て表 2 に示す。05_基礎杭6000表 2 より,投稿論文のうち約半数が06_基礎地盤951207_根切り1102「斜面」に関する事例であり,リスク区08_土壌汚染1012分による論文数の違いが認められないこ09_住宅地紛争0000とから,地質というある意味目に見えな10_その他3016いものを評価することの難しさを表して合計54232731いるものと考えられる。また,収集した全体に占める割合(40%)(17%)(20%)(23%)事例の合計をリスク区分毎に確認すると,A 型が全体の 40%と最も多く,地盤工学を専門とする技術者自身の成功体験を記した論文が多く投稿されている傾向にあると考えられる。Evaluation of the effect of the Geo risk management全体13596761744010135AZUNO Keigo:Chuokaihatsu CorporationNAKAYAMA Kenji:Kawasaki Geological Engineering Corporation11 1.E+3トンネルダム1.E+2河川斜面1.E+1基礎杭基礎地盤根切り1.E+0土壌汚染その他当初工事費+リスク発現に伴うA型追加費用(百万円)当初工事費+リスク発現に伴う追加費用(百万円)当初工事費(百万円)1.E+4ダム基礎杭土壌汚染河川基礎地盤その他1.E+31.E+21.E+11.E+0A型不明1.E-1-0.200.20.40.60.81不明実際にかかった費用と当初工事費の比実際に掛かった費用と当初工事費の比=(変更工事費+追加費用)÷当初工事費=(変更工事費+追加費用)÷当初工事費当初工事費+リスク発現にトンネル斜面根切り伴う追加費用(百万円)当初工事費+リスク発現に伴う追加費用(百万円)当初工事費(百万円)1.E+41.E+3トンネル1.E+2河川斜面1.E+1基礎地盤1.E+0根切り1.E-1不明1.E-1不明 1.E+0 1.E+1 1.E+2 1.E+3 1.E+4 1.E+5(想定)リスクマネジメントの効果(百万円)(想定)地質リスクマネジメントの効果(百万円)=(当初工事費+追加費用)-リスク管理をした場合の想定費用=(当初工事費+リスク発現に伴う追加費用)-理想的なリスク管理をした場合の想定費用)1.E+51.E-1不明1.E-1不明 1.E+0 1.E+1 1.E+2 1.E+3 1.E+4 1.E+5リスクマネジメントの効果(百万円)地質リスクマネジメントの効果(百万円)=当初工事費-(変更工事費+追加費用)=当初工事費-(変更工事費+追加費用)1.E+5B型1.E+4トンネル河川斜面基礎地盤根切り1.E+41.E+31.E+21.E+11.E+0B型不明1.E-1-0.200.20.40.60.81不明リスクマネジメントの効果の割合理想的な費用と実際に掛かった費用の比=リスク管理をした場合の想定費用÷(当初工事費+追加費用)=理想的なリスク管理をした場合の想定費用)÷(当初工事費+リスク発現に伴う追加費用)1.E+5C型1.E+41.E+3ダム1.E+2河川斜面1.E+1基礎地盤土壌汚染1.E+0その他不明1.E-1不明 1.E+0 1.E+1 1.E+2 1.E+3 1.E+4 1.E+51.E-1リスクマネジメントの効果(百万円)地質リスクマネジメントの効果(百万円)=リスク回避しない工事費-(当初工事費+追加費用+追加費用)=リスク回避しない工事費-(当初工事費+リスク発現に伴う追加費用+リスクを最小限に回避に要した費用)1.E+5回避しなかった場合の工事費(百万円)回避しなかった場合の工事費(百万円)1.E+51.E+5回避しなかった場合の工事費(百万円)回避しなかった場合の工事費(百万円)4.地質リスクマネジメントの効果地質リスクマネジメントの効果に関する整理結果を図 1 に示す。図 1 には,上段に当初工事費と地質リスクマネジメントの効果を,下段に当初工事費と実際に掛かった費用との比を示している。また,左からリスク区分 A 型,B 型,C型の整理結果を示している。図 1 上段より,地質リスクマネジメントの効果等が一部を除いて 0 以上であることから,いずれも地質リスクマネジメントの効果が認められた事例であることが分かる。また,リスク区分によらず工事規模が大きいほど地質リスクマネジメントの効果が大きくなっており,河川や斜面といった工事分類にもよらず一定の傾向を示している。一方で,当初工事費等と地質リスクマネジメントの効果等がほぼ等しい結果となっている事例も多く認められる。これらについては追加調査等を実施した結果,大規模な対策を講じる必要がなくなった事例などが含まれているものと考えられる。図 1 下段は実際に掛かった費用と当初工事費の比であることから,横軸の数字が小さいほど地質リスクマネジメントによる効果が大きかったことを示している。そのため,図 1 上段で(地質リスクマネジメントの効果≒当初工事費)となった事例はほぼ 0 に近い数字となっている。実際に掛かった費用は当初工事費と比較していずれも小さくなっており,リスク区分によらず地質リスクマネジメントの効果があったことが確認できる。また,実際に掛かった費用と当初工事費の比は大きくバラついているが,当初工事費の違いによる影響は認められない。言い換えると,図 1 上段のように,当初工事費の大きな事業規模のものほど地質リスクマネジメントの効果が大きいと言える。なお,本文中では主に A 型の事例をもとに説明したが,B 型及び C 型についても同様の傾向であった。1.E+4ダム河川斜面基礎地盤土壌汚染その他1.E+31.E+21.E+11.E+0C型不明1.E-1-0.200.20.40.60.81不明リスクマネジメントの効果の割合リスク回避しない工事比と事後対応した場合の工事費の比=(当初工事費+追加費用+追加費用)÷リスク回避しない工事費=リスク回避しない工事費÷(当初工事費+リスク発現に伴う追加費用+リスクを最小限に回避に要した費用)図 1 地質リスクマネジメントの効果に関する整理結果(左から,リスク区分 A 型,B 型,C 型の整理結果を示す。)5.まとめ本検討では,地質リスクマネジメントによるコスト削減が,事業規模が大きいほど,また,リスク区分や工事分類によらず効果があることが明らかとなった。また,地質リスク学会が提案している「地質リスク分析のためのデータ収集様式」2)の有効性も明らかとなったものと考えられる。しかし,今回整理した地質リスクマネジメントの効果には,地質リスクの発現による事業が遅延した経済的な損失や,地質リスクに対応した時期などを考慮できていないことから,今後はこれらの事例収集を進めるとともに「時間」の概念を取り入れた評価を検討する予定である。6.謝辞本論文に記載した整理は,地質リスク学会(会長:高知工科大学経済・マネジメント学群教授 渡邊法美)から事例研究発表会の論文提供を受け,地盤工学の社会的地位向上推進委員会(委員長:東京大学名誉教授 東畑郁生)の活動の一環として実施した。特に委員会では,東畑委員長をはじめ多くの方々から貴重なご意見を頂いた。ここに感謝の意を表します。【参考文献】1) (一社)全国地質調査業協会連合会:地質リスク調査検討業務発注ガイド, P3~6,2016.102) 高知工科大学フロンティア工学教室(渡邊法美,小笠原真継,永野正展,岩松暉):地質リスク分析のためのデータ収集様式の研究報告書, (財)日本建設情報総合センター研究助成事業, pp.4~7, pp.17-24, pp58~67, 2008.83) 地質リスク学会:第 1 回~第 8 回地質リスク事例研究発表会, http://www.georisk.jp/?page_id=56112
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