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出版

タイトル 海外から見た日本の建設工事安全の課題
著者 平岡伸隆・吉川直孝・大幢勝利・豊澤康男
出版 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
ページ 7〜8 発行 2019/06/20 文書ID rp201905400004
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  • タイトル
  • 海外から見た日本の建設工事安全の課題
  • 著者
  • 平岡伸隆・吉川直孝・大幢勝利・豊澤康男
  • 出版
  • 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
  • ページ
  • 7〜8
  • 発行
  • 2019/06/20
  • 文書ID
  • rp201905400004
  • 内容
  • 0004A - 01第 54 回地盤工学研究発表会(さいたま市) 2019 年 7 月海外から見た日本の建設工事安全の課題労働安全 地盤技術者 法制度 (独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 国際会員 ○平岡 伸隆国際会員 吉川 直孝 非会員大幢 勝利 国際会員 豊澤 康男1.はじめに日本では建設業における労働災害による死亡者数が全産業の中で最も多く,労働安全衛生行政において大きな課題である。特に地盤に関する建設工事においては,地盤が自然物であるがゆえに現象が複雑であり,安全を確保するためには技術者として地盤工学の正しい知識と,それに基づく判断が要求される。ここで重要となるのは,地盤技術者の判断が計画・設計段階,もしくは異常が認められた場合の設計変更の提案において,適切に反映されることであり,発注者・設計者・施工者・労働者が一体となって工事安全を検討することである。そこで本稿では,設計段階からの安全衛生に関する海外の法制度について論ずる。図 1 海外と日本の 10 万人死亡率2.国際的な建設業における労働災害統計国際的な建設業における労働災害による死亡者数を比較するため,主要国の建設就業者 10 万人あたりの死亡者数(死亡率)を図 1 に示す。日本のデータは厚生労働省の職場のあんぜんサイト,英国は英国安全衛生庁(Health & SafetyExecutive, HSE),その他の国は The world's leading source of labour statistics (ILO-STAT)から得たものをまとめた。国際的な統計データは,各国がそれぞれの基準によって集計しており,労働災害発生から死亡を認める期間,建設業の範疇,交通事故の範疇,一人親方(self-employee)を含めるか否か,統計データを保険記録から集計した場合の被保険者の割合等が数値に影響する。したがって,各国間の単純な比較は困難であるが, 2001 年以降において日本の死亡率の減少傾向が緩やかなのに対し,シンガポールの減少率が非常に大きい傾向にあることや英国の死亡率が低水準であることが確認できる。これらの違いについて複合的な要因が挙げられ一義的な要因は特定できないが,本稿では英国・シンガポールの建設業に関する法制度,資格制度について着目する。3.英国の Construction (Design and Management) Regulations (CDM)英国では 1972 年に報告された「労働における安全と保健」,いわゆるローベンス報告を受けて労働安全衛生法が1974 年に制定された。これは,「リスクを発生させた者とその事業を実施する者がそのリスクを担うべきである。」という理念に基づいたものである。European Union(EU)における指令「建設現場安全衛生指令(92/57/EEC)」からの流れで,英国の建設業において Construction (Design and Management) Regulations(以下,CDM)が 1994 年に制定(CDM1994)された。その後,2000 年に CDM2000, 2007 年に CDM2007 へ改正されており,CDM2007 では「安全衛生調整」を担う CDM 調整者(CDM coordinator)を設けることが定められている。英国では発注者が専門的な知識を有していないことがあるため,CDM 調整者は発注者へのアドバイスを行うとともに設計者,施工者等と発注者との連絡調整も行っていた。ただし,CDM 調整者は,コンサルタントが主に担っていたため,担当する建設プロジェクトに共同に取り組むという意識を生まず,第 3 者的な役割に留まり,うまく機能しなかった例が多く見られた。そこで実質的に建設プロジェクトに共同で取り組むため,2015 年に CDM2015 へ改正した。CDM2015 では,CDM 調整者を廃止し,新たに主設計者(Principal Designer)という役割を設けている。主設計者は,建設プロジェクトの設計を担うだけでなく,CDM 調整者の役割であった発注者へのアドバイス,設計者や施工者間の連絡調整の役割も担うものである。CDM2015 は一部の注文住宅の工事で規制が緩和されているが,ほぼ全ての工事に適用される。CDM2015 では,発注者および設計者の安全衛生における責務は大きいものとし,施工者や労働者の責務とともに刑罰付きで規定している。また建設業就業者の職務遂行能力を担保するための資格制度があり,建設技能認証制度(The Construction SkillsCertification Scheme, CSCS)が広く普及している。CSCS は 1995 年に導入された任意の制度であり,HSE が運営するものではない。2001 年に建設業界が現場では職務遂行能力を持つ労働者のみを作業させることを公約したため,CSCS が広く採用され,急速に普及した。現在,ほとんどの建設現場は CSCS の資格を有した者しか労働を許可していない。4.シンガポールの The Workplace Safety and Health (Design for Safety) Regulations 2015 (DfS2015)シンガポールでは Factories Act 1973(工場法)で労働者の安全衛生が規定されていたが,英国の CDM1994 についての検討,2004 年に発生した Nicoll Highway 等の重大災害等を受けて,安全衛生に対する関心が高まり,2006 年にIssues on safety of construction works in Japan with the viewof overseasNobutaka HIRAOKA, Naotaka KIKKAWA,Katsutoshi OHDO, Yasuo TOYOSAWA, JNIOSH7 Workplace Safety and Health Act 2006(労働安全衛生法)が発出された。さらに 2008 年には建設業における設計段階からの安全衛生を考慮した Guideline on Design for Safety in Buildings and Structures (DfS Guideline)が制定され,2010 年には DfSCoordinator が開発・導入された。ここでの DfS は義務付けられたものではなかったが,2015 年に Workplace Safety andHealth(Design for Safety)Regulations 2015(以下,DfS2015)が制定され,2016 年 8 月から義務化された。DfS2015 では,DfS Coordinator に変わり DfS Professional(安全設計専門家)が設けられ,PE(後述)の資格又は同等の学位が必要となっている。DfS2015 は発注者・設計者・施工者・安全設計専門家の各パーティーが建設プロジェクトの安全衛生に直接的に関わるような仕組みとなっている。発注者・設計者・安全設計専門家は,基本設計および詳細設計の各段階においてデザインレビューミーティングを開催する。そのミーティングの中でデザインレビューを実施し,全てのリスクをリスク登録表に記載し,設計からリスクを除去・低減するか,または次の段階に申し送らなければならない。続く仮設設計では,施工者もミーティングに参加することとなる。なお,安全設計専門家は,発注者,設計者または外部機関からの有資格者である。DfS2015 は契約額が 1000 万シンガポールドル以上の工事に適用され,発注者・設計者・施工者の責務が規定されているが,WSH Council は契約額に関わらず DfS を適用することを推奨している。また,シンガポールでは Professional Engineer (PE)という資格制度がある。これは日本の技術士に相当するが,その性質は日本の技術士より強力である。PE は Professional Engineer Act に基づいた資格制度であり,PE(Civil),PE(Electrical),PE(Mechanical), PE(Chemical), そして PE(Geo)で構成される。土木工事においては Civil(土木全般)と Geotechnical(地盤工学)のみであり,PE(Geo)は地盤工学の実務経験を 5 年以上(そのうち PE(Civil)の資格を有してから 3 年以上)を経験して試験に合格したもの,もしくは地盤工学の実務経験 4 年以上(そのうち PE(Civil)の資格を有してから 3 年以上)を経験し,指定された大学の修士号か博士号を有したものに与えられる。このことからも,地盤技術者は高い経験と知識を有さなければならないことがわかる。設計にあたっては PE を有する設計者 Design Qualified Person (QP (Design))を指名する必要があり,高さまたは深さが 1.5 m を超える掘削工事では PE(Civil),6 m を超える掘削工事では PE(Geo)を有する者の保証(Endorse)が必要となる。また,施工が設計図どおりに進められているか監視する QP (supervision)も PE が必要となる。さらに,高さまたは深さ 4 m を超える掘削の場合は第三者の認定照査者 Accredited Checker (AC),6 m を超える場合は AC (Geo)に設計の認定を受けなければならず,AC はそれぞれ PE(Civil),PE(Geo)の資格を有してから 10 年の実務経験が必要となる。なお,設計を保証した PE は建設中の事故はもちろん,完成後も設計の瑕疵による事故について刑事責任を負い,非常に重い責任がかかっているが,その分,報酬も高額である。設計における地盤条件の不確実性は Geotechnical Baseline Report (GBR)1)を活用し,想定を超えた地質変化が分かった場合の設計変更については,発注者・設計者・施工者で協議し,工費・工期の見直しが認められている。5.日本の法制度日本においては 1947 年に制定された労働基準法から派生して 1972 年に労働安全衛生法が施行され,それまで建設業で年間 2400 名以上だった死亡者数が今日では約 300 名まで大幅に減少した。同法第 3 条の 3 では「建設工事の注文者等仕事を他人に負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない」とある。ただし,より具体的な規定を記した労働安全衛生規則では,土木工事に関するほとんどの条文の主語が「事業者は……」であり,施工者(事業者)の責任が主である。図 1 に示したとおり,近年は死亡率の減少が横ばい状態であり,このような状況の中,土木学会安全問題研究委員会土木工事の技術的安全性確保・向上検討小委員会では,平成 28 年 12 月 1 日に発注者,設計者,施工者,労働者が一体となって工事安全の検討を行うことを提言している。さらに,平成 28 年 12 月 16 日に,「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」(法律第 111 号)が制定され,建設工事の請負契約において適正な請負代金の額,工期等が定められること,建設工事従事者の安全及び健康の確保に必要な措置が,設計,施工等の各段階において適切に講ぜられること等,計画・設計段階から工事安全の検討を行うことが規定されている。また,平成 29 年 3 月には,国土交通省港湾局より,施工過程の安全性を考慮した設計を行うことを示した「港湾工事おける大規模仮設工等の安全性向上に向けた設計・施工ガイドライン」が制定されている。6.まとめ10 万人死亡率の低い英国や,近年大幅に死亡率を低下させたシンガポールでは,計画・設計段階といった建設プロジェクトの上流から安全衛生に関してアプローチをしていることがわかる。また資格制度と罰則規定によって労働安全衛生の向上を実現しており,こうした背景が死亡災害低下に繋がっているものと考えられる。ただし,当然この中には歴史的背景,国土,風土,人柄,保健制度,関連法令にわたるまで「文化の違い」も大きく影響しており,英国やシンガポールの取り組みを,そのまま日本に適用できるものではない。これまで築き上げてきた「日本独自のよさ」を活かしつつ,労働安全衛生の向上が望まれる。地盤技術者においては,地盤調査方法および地盤条件の不確かさを想定した保証条件の明確化,安全な施工のために地盤工学に基づいた設計,発注者・設計者・施工者の連携等の課題が残る。参考文献1)岩崎公俊・折原敬二:Geotechnical Baseline Report (GBR)について,地盤工学会誌,Vol. 57, No. 5, pp.32-33, 2009.8
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