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出版

タイトル 道路事業における地質リスク評価手法の研究
著者 中西昭友・小松慎二
出版 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
ページ 5〜6 発行 2019/06/20 文書ID rp201905400003
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  • タイトル
  • 道路事業における地質リスク評価手法の研究
  • 著者
  • 中西昭友・小松慎二
  • 出版
  • 第54回地盤工学研究発表会発表講演集
  • ページ
  • 5〜6
  • 発行
  • 2019/06/20
  • 文書ID
  • rp201905400003
  • 内容
  • 0003B - 00第 54 回地盤工学研究発表会(さいたま市) 2019 年 7 月道路事業における地質リスク評価手法の研究地質リスク変状事例解析道路事業応用地質株式会社正会員○中西 昭友応用地質株式会社小松 慎二1.はじめに道路事業では,建設・維持管理時に,計画・設計段階で想定していない不具合やトラブルが発生することは少なくない.この中でも「地質・土質・地下水など地盤に関わるリスク(地質リスク)」は「事業期間の延長」「事業費の増加」への影響が大きい.紀伊半島南部は,プレートの境界付近に位置し,海洋プレートの沈み込みにより形成された付加体(牟婁層群),陸地から流れてきた砂や泥が堆積した前弧海盆堆積体(田辺層群,熊野層群),その後のマグマ活動により形成された火成岩体(熊野酸性岩類)からなる.平成 27 年に供用した紀勢自動車道では,このような複雑な地質特有の特性を素因としたトラブルが複数発生した.隣接して計画されている道路でも同様の地質リスクの発現が予想されることから,これらの事例を解析し,対策(対応)優先度を決定するための評価手法を検討した.表 1 リスクランク設定例2.リスクランクの設定道路事業では,事業期間や事業費に多大な影響を与える可能手法リスクランク想定事象と対応方針回 避AA事象が発現した場合,通常計画可能な構造物や対策工による対応が困難.通常容認される以上の事業費がかかる.⇒路線を変更する等により回避する.A事象が発現した場合,構造形式の変更が必要となる場合や,安全性が著しく低下する可能性がある.⇒詳細な調査を実施して,完全なリスク低減を講じる.B事象が発現した場合,軽微な追加対策や,対策範囲の変更により対応できる.⇒通常の地質調査を行い,調査結果に応じて対策工を検討する.C事前の低減対策等の必要性が低いため,施工段階や維持管理段階にリスクを保有する.(構造物の規模が小さいものを含む)性のある地質リスクに対しては早期にリスク対応方針を決めておき,リスクの分析による不確実性の評価と,優先度(リスクランク)を決めることが重要となる.一般的なリスクマネジメントでは,リスクへの対応として「移転」「回避」「低減」「保有」がある.このうち,「移転」は保険を掛けるなどでの低 減対応であり,PFI 事業等を除けば道路事業への対応が難しいため,「回避」「低減」「保有」について表 1 のとおり設定した.リスクランクは,できる限り客観的に定量評価するため,既往文献1)2)を参考として「影響度」×「発生確率」でマトリクス保 有表を作成して評価した(表).影響度は,「費用」「期間」表 2 リスクマトリクス表の例(法面の不安定化に関わるケース)「安全」「環境」の 4 項目について,文献 ) を例に基本方針(めやす)を設定し,各事象(落石,崩壊,土石流,支持地盤発 生 確 率の不確実性など)の閾値を決定した.発生確率は,過去の事例小中大特大BAAA大BBA中BBA小CBBでは「%」や「確率年」で評価されているが,%や確率年の設定は多くの事例が必要であり,現段階で本事業に合わせた解析は困難なため,技術指針等を参考にするとともに変状事例を解析して設定した.影響3.変状事例解析を用いた発生確率の設定方法度ローカルな地質特性を把握するために,周辺道路の地形地質,地質構造,道路構造物の緒元,地質リスク発現状況を収集整理(個数)した.切土のり面では, 全体の 17%,16 箇所で変状が記録されている.このうち 14 箇所は地質構造が流れ盤を呈する法面で発生しており,特に標準貫入試験が貫入不能となる岩盤中で発生したものが多く見られた.地質構造が流れ盤構造を呈する法面の見かけ傾斜の関係を図 1 に示す.変状箇所の見かけ傾斜は,10~20°と緩傾斜なものが 9 箇所と最も多くなっている.つづいて,図 2 に A 道路に加えて周辺道路での変状 1 箇所ずつのデータを土質工学会(1976)3)による流れ盤法面における限界勾配の関係上にプロットした.法面勾配 1:1.2 よりも急勾配の切土では,この事例と同様の結果を示すものの 1:1.2 より緩傾斜,特に見かけ傾斜 20°以下の領域では,境界域や安全側の範囲で多くのA Study on the Methodology of Evaluating Georiskin Road Project5409箇所3530データ数︓48変状あり25未変状20151050〜10〜20〜30〜40〜50流れ盤法⾯ ⾒かけ傾斜( °)60〜図 1 見かけ傾斜別変状記録(流れ盤構造)Akitomo Nakanishi,OYO corporationShinji Komatsu,OYO corporation ◆ 変状発生個変状が発生していることがわかる.つぎに,すべり面の性状と変状規模(切土段数)の関係を図 3 に整理した.すべり面に断層破砕帯や層理面沿いの破砕泥岩が挟在する箇所は全体の 18 箇所であった.特に 3 段以上の変状のケースではすべて破砕帯等の挟在が確認されている.これらのことから,切土のり面における地すべりの発生確率は,土軟硬による評価のみでは地質構造的素因によるリスクを見逃す可能性が高く,見かけ傾斜が 10~40°までの流れ盤構造を呈する法面,特に破砕した泥岩や断層破砕帯を挟在する箇所は変状の可能性が高いと判断される.不安定法境界域面傾斜安定側角β盛土のり面では,路面の沈下や変状が認められた箇所が数箇所で確認された.この地域に分布する田辺層群,熊野層群は新⾒かけ傾斜⾓α '図 2 見かけ傾斜・法面傾斜別と崩壊事例第三紀中新世(約 1400 万年前)に前弧海盆に堆積した堆積岩類でスレーキング性を有する.変状が発生した盛土区間と変状が(個数)発生していない区間において,盛土材料の掘削元となる切土の14り面から新鮮部の試料を採取し,岩の破砕率試験とスレーキン12グ率試験を実施した.変状が発生した区間の材料は,スレーキ10ング率が 80%,破砕率が 30%で「設計要領第一集土工建設編データ数︓29破砕帯あり破砕帯なし8(平成 28 年 3 月)NEXCO」による圧密沈下を考慮するスレーキング性材料の区分で「区分(3)スレーキングする可能性が高6いため対策」が必要にあたる.4このような事例解析の結果を踏まえて,地質リスクの発現事土砂・風化帯破砕帯なしは風化境界のすべりが多い2象ごとにリスクランクを設定するための発生確率を設定した.0のり面・自然斜面の不安定化に関わる事象に関わる設定例を表13 に示す.23変状規模(段数)45〜図 3 すべり面の性状と変状規模4.計画道路の地質リスク評価結果表 3 発生確率の設定例ローカルな地質リスク要因を漏れなく把握するため,計画箇(のり面・自然斜面の不安定化に関わる事象)所周辺の地形判読,地表地質踏査(L=9.2km)を行った.発地質リスク評価結果は,地質リスク管理表として,地質図,地質リスク要因,発現事象,リスクランク,リスク措置計画等を一覧表として整理した.本評価により設定したリスクランクA は 14 箇所で,このうち 8 箇所が,切土法面での流れ盤構造を素因とした地すべりリスクが高い箇所であった.切土法面では,一旦変状や崩壊が発生すると地山のせん断強度が低下するため,大規模な対策が必要となることも多い.事前に変状を予測してすべり面となる地質構造(流れ盤、クサビ崩壊)確率中大節理面等が見かけ傾斜10~40°程度の流れ盤構造断層、節理面等の組み合わせはみられない層理面等が見かけ傾斜10~40°以上の流れ盤構造断層、節理面の組み合わせがある破砕帯、粘土層等の弱面が見かけ傾斜10~40°の流れ盤構造を呈する周辺に同構造の変状履歴がある断層破砕帯、熱水変深層風化や深部まで 幅1m以内の断層破砕 質帯など周辺に比較風化帯・ゆるみ帯ゆるんだ地山が分布 帯や熱水変質帯が分 して強度の低い地山断層破砕帯する布するが広く分布する(幅1m以上)対策を行うことにより,対策費用の増加や工期の延長を防ぐことができると考えている.切土法面の不安定化リスクが懸念さ地すべり等の活動誘起段差地形等が認められる表層崩壊跡が見られるやや明瞭な地すべり地形が認められるクリープ変形の形跡がある地下水の状況集水地形がある流水跡がある断層沿いから湧水が高標高部に湧水点があるある特異な水理地質構造常時流水があるが分布するれる箇所では,法面勾配を 1:1.2 と緩く計画し,用地幅の変更による手戻りや地元負担を最小限に留めるとともに,不確実性の確認のための詳細な調査を提案した.生小スレーキング(JGS2124-2006、設計要領第一集)1(1)材22(材)明瞭な地すべり地形が認められる現地踏査により滑動性が確認される3、4(3)材5.おわりに道路事業では,一旦地質リスクが発現すると,その規模によっては事業全体の見直しや大幅な変更が必要なケースも少なくない.道路土工 切土工・斜面安定工指針(平成 21 年度版)には,すべりの可能性がある場合は「詳細な調査が必要」とされている.しかし,これまでの地質調査や設計業務のプロセスでは詳細な調査が必要な箇所の抽出や対応優先度を決定するプロセスが欠如していた.地質リスクマネジメントはこれらのプロセスを補完し,調査-設計-施工に至る道路事業の生産性を向上させ,維持管理段階の負担を軽減させることができると考える.参考文献1)土木学会:道路事業におけるリスクマネジメントマニュアル(Ver.1),2010.32)地質リスク学会・一般社団法人全国地質調査業協会連合会:地質リスクマネジメント入門,2010.43)土質工学会:土質基礎工学ライブラリー12 切土ノリ面,1998.126
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