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出版

タイトル 6. 圧密とせん断(X線CTから見る土質力学)
著者 肥後 陽介・高野 大樹・大谷 順
出版 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
ページ 43〜50 発行 2018/02/01 文書ID jk201807210022
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  • タイトル
  • 6. 圧密とせん断(X線CTから見る土質力学)
  • 著者
  • 肥後 陽介・高野 大樹・大谷 順
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
  • ページ
  • 43〜50
  • 発行
  • 2018/02/01
  • 文書ID
  • jk201807210022
  • 内容
  • X 線 CT から見る土質力学.肥後陽京都大学大学院介(ひご工学研究科大ようすけ)准教授谷熊本大学大学院圧密とせん断高野大樹(たかのだいき)国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所 主任研究官順(おおたに先端科学研究部じゅん)教授局所化現象は,世界中で大きな研究的興味を惹いており,. は じ め にX 線 CT を用いた多くの研究成果が残されてきている。X 線 CT を初めて土質力学に適用したのは,フラン本章では,三軸圧縮試験におけるひずみの局所化現象教授らである1) 。の可視化を中心に,圧密,一面せん断,一軸圧縮におけ気乾砂の三軸圧縮試験を行い,供試体中に発生するせんる変形挙動の可視化事例を示し,従来の力学試験で得ら断帯を三次元的に可視化した。さらに,せん断帯内部のれる巨視的な応答と X 線 CT が明らかにした新しい事間隙比を定量化することにより,同じ拘束圧条件下では実との関係を紹介する。ス・グルノーブルの Jacques Desrues限界状態における間隙比が初期の密度によらず一定となることを示し,現在でも多くの論文に引用される極めて. 圧密新規的な結論を導くことで,X 線 CT の威力を世界中にバーチカルドレーン工法を対象としてドレーン材の変広く知らしめた。この研究では,ダイレイタンシーによ形が粘性土の圧密挙動に与える影響を評価するために模る密度変化の観察に X 線 CT の特徴である密度分布の型実験を実施した6)。可視化が上手くフィットした。このように,土の破壊と地盤材料として初期含水比150のカオリン粘土,ドいう重要な問題と,物体内部の密度変化を三次元的に可レーン材として OHP シートで補強したろ紙を使用した。視化するという X 線 CT の特徴によって, X 線 CT は図―.に実験断面を示す。カオリン粘土層の上下端に元来,ひずみの局所化の可視化ツールとして用いられて排水槽となる豊浦砂の層を設けている。 CASE1 は無対きた2),3)。さらに現在では,マイクロX 線 CT の発達に策,CASE2, 3 はドレーン材を設置したケースである。より,土粒子スケールの変形挙動の可視化が可能となっCASE2 は粘土層の圧密沈下に伴うドレーン材の変形をたことで,土の微視構造の変化と巨視的な土の応答との許容するケース, CASE3 はドレーン材の上下端を固定関係を明らかにすることに,X 線 CT は重要な貢献をもし変形を許容しないケースである。試料容器は高さ355たらしている4),5)。mm ,内径 110 mm のアクリル容器であり,粘土層の初実務や学問としての土質力学においては,破壊にいた期高さは 200 mm である。 CT 画像の撮影は,熊本大学るまでの現象,つまり剛性やモール・クーロンの破壊規所 有 の 産 業 用 X 線 CT ス キ ャ ナ を 用 い て 行 わ れ た 。準に代表される強度が重要であるが,破壊前の変形量の1voxel のサイズは 0.073×0.073× 2 mm3,撮影間隔を 2小さい領域では,土の幾何学的変化が少ないため, Xmm ピッチとし連続的な画像を得た。線 CT においても状態変化の可視化は容易ではない。一口絵写真―( http: // u0u1.net / EDoR )は各ケース方で,大変形領域における,破壊面の可視化やひずみののドレーン材の中心位置における鉛直断面の圧密度分布図―. 実験装置及び実験ケースの概略図6)February, 201843 講  座である。圧密度は CT 画像の輝度値から換算した地盤密度より算出した。 CASE 2 及び CASE 3 の画像中央における黒色の領域がドレーン材である。CASE 1 において,圧密の進展に伴い供試体上部から圧密が進展している様子が確認できる。 e = 25.0 の時点で上下端において圧密度100の領域が形成されているが,供試体中央は圧密度が100に達していない。これは上下の排水層の影響が強く出ているためと考えられ,本実験の圧密圧力が小さく,応力の伝達が上部の方が高いためだと考えられる。CASE 2 ではドレーン材の変形が下側部分と中央部分において確認できる。さらに圧密度の分布をみると,ドレーン材の屈曲部分に圧密度の高い領域が形成さ図―. 一面せん断試験結果7)れていることが分かる。またドレーン材の変形が少ない領域では圧密度の低い領域が確認できる。CASE 3 では圧密度がドレーン材の周辺から均一に進行していく様子を確認できる。以上のことからドレーン材の局所変形が不均一な圧密の進行の原因となることが分かる。現在,CT 画像から粘土のミクロな土骨格構造を観察することは難しい。しかし,土のマスとしての密度変化を評価する場合は,対象が細粒分で構成される地盤であっても効果を発揮する。. 一面せん断試験X 線 CT 装置は,装置中央に被検体を設置する回転テーブル,その両側に X 線源と X 線の減衰を計測する検出器で構成される。この回転テーブル上に設置可能な載荷装置を作製することで,載荷と CT 撮影を同時に行う in situ 条件での実験が可能となる。これより,撮影ごとの移動による供試体の乱れや,画像上の位置のずれ図―. 供試体鉛直断面における密度分布7)などを回避することができ,より複雑な境界条件での実験が可能となる。ここでは,X 線 CT 装置内で行った一に発生する局所的な体積変化を可視化する際 X 線 CT面せん断試験結果について紹介する。CT 撮影は熊本大は非常に有効なツールとなる。学の産業用 X 線 CT スキャナを用いた。豊浦砂を対象に鉛直応力100 kPa で一面せん断試験を行った7)。. 一軸圧縮試験図―.に一面せん断試験における応力―変位関係,自然堆積粘土の一軸圧縮試験を実施した。用いた粘土鉛直変位―せん断変位関係をそれぞれ示す。せん断応力は円山川粘土で,湿潤密度は 1 545 kg /m3,自然含水比は,せん断変位 2 mm 付近でピークを示し,せん断によは 65.0 ,初期間隙比は 1.83 ,供試体寸法は,直径 35り供試体は正のダイレイタンシー挙動を示しており,典 は応力―ひずみ関mm ,高さ 70 mm である。図―.型的な,密な砂のせん断挙動を示していることが分かる。係であり,初期状態を含む( a )から( d )の 4 つの軸ひず図―.に示す破線の変位段階(Initial, Step 1, Step 2,みで圧縮過程の供試体の X 線 CT 画像を取得した。撮Step 3 及び Step 4 )においてせん断を停止し CT 撮影影時には載荷を中断しひずみ速度をゼロの状態とするたを行った。図―.に,供試体中心での鉛直断面画像をめ,応力緩和が見られる。撮影後の再載荷では,応力―示す。応力―変位関係でせん断応力がピークに達する前ひずみ関係は弾性的でなく,応力緩和の影響により何らの Step 1 において既にせん断箱の境界付近において低かの土骨格構造の塑性的変化が起こっていることが示唆密度領域,つまり変形が局所化した領域が発生しているされるが,ほぼ撮影前の軸応力まで回復していることがことが確認できる。さらに局所化領域は,供試体の外側分かる。から内側,また上下方向へと進展し,ひずみ軟化が収束 を見ると,初期状態において,供試体上部図―.する Step 3 において供試体断面全体に進展している。よりも供試体下部の方がやや暗く,密度が低いことが分最終的には,せん断箱の境界より上下±5 mm の範囲にかる。変形過程では,初期状態において密度が高い上部わたりせん断帯が形成されている。これより一面せん断に存在するクラックのような低密度領域を発端として,試験によるせん断面の発生は,せん断箱端部より供試体密度の低い供試体下部の領域に破壊面が発達しているこ中心に向かい生じることが分かる。このようにせん断時とは興味深い。44地盤工学会誌,―() 講  座図―. 山砂三軸圧縮試験結果9)図―. 円山川粘土の一軸圧縮試験結果と X 線 CT 画像8)一軸圧縮試験は拘束圧が大気圧であることから,後述の三軸圧縮試験と比べて,破壊面が開口するため空隙が に示すようにせ生じて可視化しやすくなる。図―.ん断面あるいは引張りによるクラックが明瞭に観察できる。一方で,粘土のせん断帯の厚さは小さいため,拘束圧条件下の三軸圧縮試験では画像の目視によるせん断帯の観察は困難である。このような場合は,後述の画像解析によるひずみ場の全視野計測がせん断帯の可視化に有効である。. 三軸圧縮試験.. 砂質土における変形の局所化X 線 CT を用いた砂の三軸圧縮試験前に示した一面せん断試験と同様,三軸圧縮試験もX 線の透過性を考慮した装置を使用することで,載荷と撮影を同時に行う insitu 条件下での試験が可能とな図―. 山砂供試体の CT 画像9)ことが確認できる。載荷に伴い供試体が樽型に変形し,供試体中心部分が膨張し密度が低下していることが分かる。CT 画像の直接的な観察からは,密度に関する情報に基づいた議論が主となり,供試体内部の変位場を評価することは難しい。変位場の全視野計測る。粒度の良い地盤材料の三軸圧縮過程における破壊現CT 画像から変位場を評価するためには,全視野計測象の評価を試みた9) 。山砂は 0.001 mm から 4.75 mm まに代表される画像解析方法を適用する必要がある。全視で広い範囲にわたる粒径が存在し,平均粒径は0.54 mm野計測とは,計測器による点での計測と対象に,領域全である。供試体は高さ100 mm,直径50 mm の円筒形と体の物理量を測定する方法である。ここでは,山砂のし,乾燥密度1 579 kg/m3 となるよう突き棒を用いて締CT 画像に画像相関法(Digital Image Correlation: DIC)め固めて作製した。三軸圧縮試験は気燥状態の供試体をを適用した事例を紹介する9)。DIC は 2 つのデジタル画排気条件のもと拘束圧を 50 kPa とし所定の軸ひずみレ像間における空間的な変位やひずみを評価する数学的手ベルにおいて CT 撮影を行った。図―.は試験より得法である。 DIC は 20 年ほど前から固体力学,流体力学,られた軸差応力―軸ひずみ曲線である。CT 撮影は図中医学など幅広い分野で積極的に用いられており(流体力に示す Initial, Level A, Level B, Level C 及び Level D学では Particle Image Velocimetry: PIV として知られの時点において行われた。図―.は CT 撮影結果よりる),地盤工学の分野においても室内試験において土材得られた供試体の三次元画像と鉛直断面画像を示す。本料の変形過程のモニタリングに適用されている。実際の撮影条件での voxel サイズは, 0.07 × 0.07 × 0.5 mm3 で解析では,デジタル画像を小さな領域に分割し各領域をあった。画像からも幅広い粒径の土粒子が含まれている自動的に追跡し画像全領域の変位をサブピクセルの精度February, 201845 講  座図―. 各載荷ステップ間における変位場の可視化9)で算出する。この処理は,画像中に現れる材料自体の構造や細かいテクスチャを追跡するため,マーカーなど異物を供試体に挿入する必要がなく,マニュアルでの変位補正等も必要としない。CT 画像では土粒子密度のばらつきにより得られる濃淡が追跡対象となる。 DIC は対象物の変位や変形をデジタル画像の微小領域の相関から求める手法であり,多くはデジタルカメラによって撮影された二次元画像に対して適用される。しかし,解析対象となる画像が CT 画像のように三次元であれば,三次図―. 各載荷ステップ間におけるひずみ場の可視化9)元的な変形挙動を解析することが可能となる。図―.は解析により得られた変位分布である。断面の位置は,図―.に示した断面とほぼ同じであり,それぞれ断面に対して鉛直方向と水平方向の変位成分を示している。これより,供試体内部全体での変位分布が確認できる。載荷初期段階(InitialA)では変位は供試体全体に均質に分布していることが分かる。さらに,軸ひずみの増加とともに,供試体上端にくさび状の領域が形成され( AB),次第に供試体右上端から左下端を境界に, 2 つの領域に分割される( B C 及び C D )ことが確認できる。このように 3D DIC の適用結果では,な図―. 供試体の鉛直断面画像10)めらかで,連続的な分布が得られている。この変位分布に基づき,各ひずみ量を連続体力学的なアプローチ手法(具体的には, FEM の変位とひずみを関係付ける B マトリクスを用いることで得られる)から算出することが可能である。図―.に得られた最大せん断ひずみ,体積ひずみ分布をそれぞれ示す。最大せん断ひずみの分布より,供試体の変形が次第に局所化していき,複数あったせん断帯が次第に一つの領域に集中していくことが分かる。また,せん断帯内部では主に体積膨張が卓越しているが,部分的には体積収縮を示しており,複雑な破壊面を形成している。これは,粒状体材料特有の破壊モードであり,いわゆるせん断帯内部において粒子同士の乗図―. 相馬珪砂 3 号の三軸圧縮試験結果10)り上げや,落ち込みにより生じていると推察できる。土粒子スケールの変形の観測ひずみ 1毎に行った。粒子の追跡に先立ち,図―.CT 画像が個々の土粒子抽出・識別可能な解像度を有に示すグレースケールの CT 画像より土粒子を抽出・ラしている場合,それぞれの土粒子に着目した離散的なアベリングする必要がある。画像から粒子を抽出する方法プローチが可能となる。ここでは,確率的弛緩法を用いについては様々な手法が提案されているが,今回は,二た三軸供試体内の粒子追跡方法について紹介する10) 。値化処理した画像に Watershed 処理を施し画像上の接相馬珪砂 3 号を対象とした三軸試験で図―.に示す供触点を切り離し,個々の粒子を抽出した。これを解析す試体の三次元画像を得た。供試体サイズは,q35 mm×ることで,粒子の形状に関する情報を得ることが可能とH80 mm である。CT 撮影は,図―.の軸差応力・体なる。積ひずみ―軸ひずみ関係中の A ~ U で示すように,軸46抽出された全粒子の情報から変位ステップ間の粒子の地盤工学会誌,―() 講  座図―. 個別砂粒子の移動量分布10)変位ベクトルを計算する。変位ベクトルの算定には,異図―. 気乾,飽和,不飽和豊浦砂の三軸圧縮試験結果12)なる変位ステップにおける画像で同じ粒子を同定する必要がある。変位ベクトルの同定には確率的弛緩法を用いた。まず,各粒子が移動しうる領域内のすべての粒子重条件とした。心座標を検索し候補ベクトルとする。そのため一つの粒図―.に応力―ひずみ関係と体積ひずみ―軸ひずみ子には複数の候補ベクトルが存在することになる。この関係を示す。供試体の体積は CT 画像の供試体が占める候補ベクトルには,各粒子重心座標が持つ体積,表面積,voxel の体積を積分することで正確かつ容易に求めるこ平均半径などの数値情報と比較をしてその候補ベクトルとができる11) 。応力緩和の見られる箇所で載荷を中断の確からしさの指標として確率が付与される。次に,一し,CT 画像を取得している。応力緩和後,ほぼ同じ経定領域内の近傍の他粒子が持つ候補ベクトルを検索して路をたどって載荷中断前の状態に回復しており,この比較し,方向,大きさが類似する候補ベクトルが存在すケースでは応力緩和の影響はほとんどないことが分かる。る場合はその候補ベクトルに付与する確率が上がり,そ応力緩和の影響は,粘土や細粒分を含む砂など時間依存うでない場合には確率が下がるという計算を複数回行う性を持つ材料に顕著に見られ(図―.,図―.),相ことで,ある候補ベクトルの確率が上昇して収束する。馬珪砂(図―.)や豊浦砂では小さいことが分かる。つまり,移動粒子の周囲には似た動きをする粒子が存在ピーク応力は不飽和砂が最も大きく,サクションの影するという仮定を元にして,集合体として整合が取れた響で土粒子間力が増加した結果と考えられる。また,体(つじつまが合った)移動ベクトルを見つけることがで積ひずみは圧縮が正であり,いずれも正のダイレイタンきるというものである。同定された粒子はナンバリングシーにより膨張していることが分かる。飽和土が気乾土され,ステップ間粒子の空間移動量,回転量などの空間よりもピーク応力が大きいのは,供試体作成法の違いの変位情報を計算し画像中の粒子 voxel に書込みを行うこためと考えられるが(気乾砂は気中落下,飽和砂は水中とで個別粒子の空間的な移動量を把握できる画像となる。落下),この点は微視的構造からの原因解明が今後の課図―.は抽出した粒子に粒子の空間移動量を付与し題である。た例である。粒子の色は移動量を表す。今回の実験にお図―.に軸ひずみ 20 時の CT 画像を示す。正のいて識別された砂粒子の総数は約 9 360個であった。そダイレイタンシーにより膨張した箇所は密度が低下するのうち各ステップ間で追跡できた粒子は 9 000 個程度とため,その他の箇所よりも暗く表示されている。この低なり,粒子追跡の精度は 96 以上と高いことが確認さ密度領域は, DIC 解析を行うとせん断ひずみの集中領れた。画像から載荷初期段階においては均質であった変域と一致するため,せん断帯である。図―.から供試位場が徐々に中央部に集中し局所化に至る過程が観察で体全体の体積膨張量はほぼ同等であるのに対して, CTきる。画像では不飽和砂でせん断帯が最も明瞭に表れており,.. 不飽和土の微視構造変化とその巨視的応答とせん断による膨張がより局所的に起こっていることを知ることができる。このことは不飽和土のひずみ軟化が最の関係不飽和土のひずみの局所化と応力―ひずみ関係も顕著であることと対応している。また,水平断面 A前項は気乾砂の三軸圧縮試験であったが,本項では不1 に見られる円弧状のせん断帯と,A2 に見られる放射飽和土の三軸圧縮試験におけるひずみの局所化挙動と応状のせん断帯は,三次元的にはコーン形状とその周囲の力―ひずみ関係について述べる。気乾状態,飽和状態,放射状のせん断帯発生モードであり, Desrues ら1)によ不飽和状態の高さ 70 mm ,直径 35 mm の密な豊浦砂供って報告されたモードと同様の,密な砂の排水三軸圧縮試体を準備し,それぞれ,排気条件,排水条件,排気―試験に見られる典型的なモードである。で三軸試験を行っここでさらに注目したいのは,応力―ひずみ関係の残た11) 。不飽和土は,空気圧を大気圧に保ち,供試体の留応力状態であり,いずれの軸差応力もほぼ同等となっ含水比は試験中に一定とし,変形中にサクション可変のている点である。残留応力状態では,供試体内の変形は非排水条件において拘束圧50February, 2018kN/m247 講  座図―. 不飽和珪砂 5 号の三軸圧縮試験結果13)図―. 気乾,飽和,不飽和豊浦砂の CT 画像(軸ひずみ20)ほとんどせん断帯内部で発生していると考えれば,せん断帯内部の応答は,飽和度によらずユニークであると解釈することができるのである。つまり,せん断帯内部においてはほとんどサクションの影響が発揮されず,飽和砂や気乾砂と同様に振舞うということになる。実際に,間隙水はせん断帯内部でどのように存在し,マクロな応図―. 不飽和珪砂 5 号の CT 画像(軸ひずみ18)13)答にどのような影響を与えているのか,次項でせん断帯内部の微視的観察から考察する。せん断帯内部の間隙水の微視的特性次に,この局所スキャン画像をセグメンテーションにより,土粒子相,水相,空気相に三値化14) した。さら密な珪砂 5 号供試体を用いた,不飽和砂の三軸圧縮に,三値化した画像からせん断帯内部とせん断帯外部に試験を実施した。なお,この実験は排気―排水条件で実位置する 1 辺 4.2 mm の立方体領域を取り出した。口絵 で示した排気―非排水条件とは異なり,施している。写真―は軸ひずみ 18 の例であるが,同じ領域を初変形中のサクションは一定で,供試体の水分量が変化す期状態から局所スキャンで追跡している。三値化画像をる条件である。排気―非排水条件での同様の検討は現在得ると,土粒子実質部分,間隙水,間隙空気の体積を実施しているところであり,条件は異なるものの,せんvoxel 数をカウントすることにより容易に求めることが断帯内部での間隙水の微視的挙動を観察する目的で実施できる。これらの三値化画像を用いて,この立方体領域した。用いた珪砂 5 号の D50 は 324 mm であり,豊浦砂と局所スキャン領域の飽和度と間隙比を求め,せん断過よりも大きい。粒径が大きいほど砂は保水性が低く,間程における,それぞれの推移を検討した。隙からは水が抜けやすく,間隙水は主に土粒子接触点周りにメニスカスとして存在することとなる。図―.に間隙比,図―.に飽和度について,局所スキャン領域全体及びせん断帯の内外部のせん断過程に図―.に実験結果を示す13) 。図中のコンター図はおける変化を示す。せん断帯の内外部については,全体DIC によって得たせん断ひずみ場の供試体中央部鉛直スキャン画像においてせん断帯が確認された軸ひずみ 9断面である。豊浦砂の試験と同様,ひずみ軟化,体積膨からの間隙比と飽和度の推移を示している。まず,局張,せん断帯の発生が見られる。所スキャン領域の間隙比と飽和度の初期状態からの変化図―.は軸ひずみ 18 時の全体スキャンとせん断を見ると,間隙比はせん断に伴う正のダイレイタンシー帯にフォーカスした局所スキャンの鉛直断面である。全により単調に増加しており,一方,飽和度は単調に減少体スキャン画像を見ると,局所スキャン領域の右上角かしていることが分かる。一般に,密度が小さいほど土のら左斜め下方向にせん断帯が発達しており,局所スキャ保水性は低下するため,せん断帯内部でも体積膨張に伴ン画像ではせん断帯内部においてダイレイタンシーによって保水性が低下したものと考えられる。せん断帯内部り膨張したことで,明るい灰色で表される土粒子が少なの間隙比は,せん断帯外部よりも明らかに大きく,せんくなっているように見て取れる。断帯の内部でダイレイタンシーが顕著であることを示し48地盤工学会誌,―() 講  座図―. 局所スキャン領域及びせん断帯内外部の間隙比変化13)図―. 局所スキャン領域及びせん断帯内外部の飽和度変化13)図―. 水相のクラスター数の変化13)ている。また,軸ひずみ 15 以降のせん断帯外部では,ん断帯外部に比べて少なく,かつ減少する傾向を示した。初期値よりも間隙比が低くなっており,せん断帯のすぐ同じサクションが作用していたとしても,メニスカス水外側では圧縮が起こっていることを示唆している。飽和が多いほど土粒子間力をより強め,土骨格の強度・剛性度はせん断帯の外部では,ほぼ初期値と同等の値であるへのサクションの寄与が大きくなる。つまり,軸ひずみのに対して,せん断帯内部の飽和度はより低くなっていの増加につれてメニスカス水の数が減少することは,サる。クションの強度・剛性への寄与度が低下していることをさらに,間隙水の存在形態を調べるため,Morpholo-意味し,応力―ひずみ関係に見られるひずみ軟化の一因gy 解析を行った13) 。口絵写真―に示すように,三値となっていると考えられる。したがって,不飽和土の軸化画像(a)から水相のみを取り出し,水とそれ以外の二差応力はサクションの大きさだけでなくメニスカス水の値化画像とした後に( b ), Erosion, Dilation の順に画像数にも依存していると考えられる。処理14),15) を行い,部分容積効果や吸着水などの土粒子接触点のメニスカス水に寄与しないと考えられる水相を除去した(c)。つまり,(c)の過程によって,土粒子接触. お わ り に本章では,X 線 CT による土の圧密試験(ドレーン材),点周りのメニスカス水のみが抽出されるのである。最後一面せん断試験,一軸圧縮試験の結果について簡潔に紹に,クラスターラベリングを行った。つまり,空間に独介し,三軸圧縮試験については重点的に解説を行った。立して存在する連続した水の塊を 1 つのクラスターと主に,破壊などの大変形問題の可視化に対して X 線 CT見なし,これらに番号を付与した。が有効であることが分かる。これに対して,微小変形領三軸圧縮過程における水相のクラスター数の推移を図域についても,マイクロ X 線 CT 技術を用いて,土粒―.に示す。軸ひずみが増加するにつれて,水相のク子同士の接触状態を詳細に解析し,ファブリックテンソラスター数が減少していることが分かる。また,せん断ルや共軸性を定量化したり, X 線蛍光分析( XRD )と帯内部と外部を比較すると,せん断帯内部の方が水相のの組み合わせにより,土粒子そのもののごく微小な変形クラスター数が少ない。つまり,体積膨張に伴って土粒から,土粒子を弾性体と仮定して応力状態を三次元的に子間の接触点数が低下したために,接触点周りに存在す再現しようとする試みがなされている16),17)。るメニスカス水の数も低下したと考えられる。X 線 CT により今後さらに,本章で紹介したような,軸ひずみ 6以降ではメニスカス水の数が徐々に減少ひずみの局所化領域における種々の局所量とマクロな挙する傾向にあり,せん断帯内部のメニスカス水の数はせ動との関係について明らかにしていくことが可能となるFebruary, 201849 講  座であろう。さらに,破壊前の XRD や画像解析技術との融合により,破壊前の微小変形領域についても,従来の計測技術では明らかにできなかった事実を知ることができるようになる可能性を秘めている。このような X 線9)CT による貢献は,土質力学の分野の古くからの課題であった「微視的構造変化と巨視的応答の関係( FromMicro to Macro)」に迫る糸口としての,現在のところの最有力候補と言えるであろう。参1)2)3)4)5)6)7)8)50考文10)献Desrues, J., Chambon, R., Mokni, M. and Mazerolle, F.:Void ratio evolution inside shear bands in triaxial sandspecimens studied by computed tomography, G áeotechnique, Vol. 46, No. 3, pp. 539546, 1996.Otani, J., Mukunoki, T. and Obara, Y.: Characterizationof failure in sand under triaxial compression using an industrial Xray CT scanner. 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