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タイトル 鳥屋山トンネル路面隆起対策~全幅一括インバート設置工事~(<特集>トンネル/地下構造物)
著者 安田 賢哉・山家 信幸・宮沢 一雄・芳賀 伯文
出版 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
ページ 26〜29 発行 2018/02/01 文書ID jk201807210013
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  • タイトル
  • 鳥屋山トンネル路面隆起対策~全幅一括インバート設置工事~(<特集>トンネル/地下構造物)
  • 著者
  • 安田 賢哉・山家 信幸・宮沢 一雄・芳賀 伯文
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
  • ページ
  • 26〜29
  • 発行
  • 2018/02/01
  • 文書ID
  • jk201807210013
  • 内容
  • 報告鳥屋山トンネル路面隆起対策~全幅一括インバート設置工事~Countermeasure against Road Surface Upheaving at Toyasan Tunnel (on the BanEtsu Expressway)―OneWay Invert Construction in Full Cross Section―安田賢哉(やすだけんや)株 ネクスコ・エンジニアリング東北宮沢一雄(みやざわ株 山形工事事務所東日本高速道路課長山家信幸(やんべのぶゆき)株 ネクスコ・エンジニアリング東北かずお)芳賀伯文(はが副所長株 横手管理事務所東日本高速道路係長のりふみ)副所長性を向上することができた。. は じ め に本稿は,鳥屋山トンネルにおいて開通後から徐々に進近年,社会基盤を構成する道路構造物はその老朽化が大きな問題となっているが,トンネルにおいては路面隆起が生じると通行阻害の問題が発生する。今回報告する鳥屋山トンネルはその一事例で,路面隆起が発生した。本トンネルは磐越自動車道の会津坂下 IC~西会津 IC間に位置する期線(上り線)を対面二車線で施工された延長2 600 m のトンネルである(図―)。行していた路面隆起と,これに対する対策工事について取りまとめたものである。.路面隆起の状況. 路面縦断測量トンネルを供用してから 1 年半後の 1998 年 4 月に東坑口より約 600~800 m の区間において,コンクリート土被りは最大180 m あり,地質は新第三紀中新世の堆舗装面に 40 mm の隆起を発見した。それ以降,路面縦積岩類の互層から構成される。また,トンネル建設時よ断測量を繰返し実施してきたが,隆起が継続して進行しり膨張性を示す粘土鉱物であるスメクタイトの含有が確ている箇所はトンネル縦断方向に点在した 3 箇所であ認されていた。路面隆起が発生した箇所では,トンネルった(図―)。対策工施工前(2011年11月~2014年 6建設時の湧水は多かったが,変位は少なく切羽は概ね安月)の平均隆起速度は年 3.1 ~ 6.6 mm と観測され1) ,定していた。また,地山も堅硬かつ良好な岩盤として判2014年 6 月には累積変位量は最大で187 mm に達した。断されたため,インバートがない支保パターンの Cで施工され,1996年 5 月に完成した。. 路面トータルステーション測定2)対策工事までの日常管理を目的として,路面隆起が顕しかしながら, 1996 年 10 月に供用してから間もない著な 3 箇所において,多測点の路面高さを自動で測定時期に路面隆起が発見され,その後隆起は徐々に進行しできるトータルステーションを設置した。対策工施工直累積変位量は最大で190 mm ほどに達し,コンクリート前の 2014 年 6 月から 2015 年 5 月までの間に路面高さの舗装の内部鉄筋が露出する事態となった。この路面隆起変化を常時監視した。監視開始後から顕著な隆起変位をが進行するトンネルの対策として昼夜連続通行止め規制捕捉し, 2014 年 12 月には警戒基準値である 5 mm を超により新たにインバートを設置することとした。今回,える累積変位が認められた。これに対応して,路面には全幅一括施工の「全断面連続片押しインバート施工方法」20 ~ 30 mm 開口した貫通ひび割れが認められた(写真を新たに開発したことにより,変位・変形が極めて小さ―)。また,監視員通路にも隆起変状に相当する盛りく,また従来法に比べ短期間の施工が可能となり,施工上がりとひび割れが確認されるようになった(写真―)。図―26鳥屋山トンネルの位置図―路面縦断測量結果(矢印は顕著な隆起進行箇所)地盤工学会誌,―() 報写真―図―粘土鉱物含有量と吸水膨張率との関係4)図―鉛直地中変位の経時変化(文献 4 に加筆)(孔底深度10 m からの累積変位)告施工前の路面状況た 138.221 kp の道路中心の地中変位計結果(図―)より,融雪・梅雨・秋雨時期における地中変位の伸びが顕著である4) ことが挙げられる。以上の挙動は Na 型の写真―監視員通路のひび割れ. 地質及び岩石の性状路面隆起が発生した箇所の地質は新第三紀中新世の荻劣化形態である,水浸後に膨潤する膨張型5)に合致していた。.対策工の計画検討6). 対策工の設計野層から構成され,緑色凝灰岩,凝灰質砂岩及び泥岩が累積変位量の経時変化より,路面隆起はトンネル縦断急傾斜で互層状に分布した。最大累積変位量を観測した方向に延長239 m にわたって確認された。しかし,変位地点での 10 m ボーリング調査の結果,凝灰質砂岩を主が継続して累積しているのは前述した隆起量が顕著な 3体に分布したが,路面から深度約 5 m までは岩盤劣化箇所のみであったことから,これらを包含した上で,累に伴う破砕が著しく,岩石中に含まれるスメクタイトが積変位量が 50 mm を超過する延長 126 m 区間を対策範地下水等に接触して吸水膨張したと推察される1)。一方,囲として設定することにした。5 m 以深では新鮮で堅硬な凝灰質砂岩が分布しており,膨張性を示す地質ではなかった1)。劣化部の岩石に含まれる粘土鉱物特性を把握するため,要求される対策工種については,トンネル建設時から湧水が多く,累積変位量が最大で187 mm と他の路面隆起トンネルと比較しても大きいことと,その隆起が継続内部標準法による粉末 X 線回折試験及び膨張率試験をして進行していることから,ロックボルト等の応急対策実施し,それぞれ粘土鉱物含有量と吸水膨張率を測定しではなく,インバート設置の恒久対策が必要とされた。た。なお,粘土鉱物の交換性陽イオンも併せて推定したまた,インバートが未設置な箇所で地山の隆起現象が認ないし 6~8°付近に位置する(001)が,回折角度 2u=6°められたこと,及び同質岩種でインバートが施工された面の反射ピークとその形状から判定した3)。箇所では路面隆起が認められないことから,インバートその結果,全 24 試料中 16 試料で Na 型を, 3 試料で半径は既設区間と同じ R= 16 000 mm とした(図―)。Ca 型を示したため,本トンネルに分布する地質の交換さらに,インバートの厚さは,地下水の供給や活荷重性陽イオンは Na 型に相当すると判定された4) 。一方,の繰返しなどにより地山が劣化していることが想定され粘土鉱物含有量と吸水膨張率の相関を見ると,粘土鉱物たことから,全体的に強い風化・変質を受けている岩質含有量は最大でも 30 程度と多くはないが,吸水膨張に相当する地山等級 D程度と考え,45 cm とした。た率は0~60と多様であった4)(図―)。本トンネルの路面隆起の特徴として,測量結果より年3 ~ 6 mm 程度で徐々に隆起し続けていること,隆起しFebruary, 2018だし,早期の埋戻しと再供用の開始,及び初期ひび割れ防止のために設計基準強度45 N/mm2 の早強コンクリートを使用し繊維を混入させて補強することにした。27 報告図―図―インバート施工の概念図インバート対策工図. 対策工施工時の影響解析NEXCO 設計要領7)によるインバートの施工方法は,既設覆工の沈下・変形を防止するため,覆工継ぎ目を含む 3.5 m 区間を先行施工し,その後中間部の 7.0 m 区間に戻って施工することを標準としている。今回,126 m の対策範囲を最短時間の昼夜連続通行止め規制下で施工するためには,全幅一括施工となる全断面連続片押しインバート施工かつ 1 サイクル当たり最図―インバート掘削後の代表的な地質平面図(文献 8 に加筆)低 5 m の抜き掘り区間長が必要であった。このため,既設の覆工コンクリートに影響を与えず一種が急傾斜の互層構造で分布していた8)。その中で隆起度に施工できるインバートのスパン長及びインバート掘が小さい部分では亀裂が少なく, 1.3 t 級の油圧ブレー削による一時的な片持ち状態における既設覆工の安定性カーでの掘削が困難なほど堅硬であった。一方,隆起がについて,それぞれ三次元粘弾塑性モデル及び三次元シ著しい部分では手でほぐれるほどに風化して軟質な部分ェルばねモデルにて数値解析を行った6)。があり,そのほとんどが岩盤等級 CL~D 級であった。インバートスパン長については,許容引張応力度に対図―に示す 138.265 kp ~ 138.300 kp 間では凝灰質応する施工スパンは約 6 m であった。しかしながら,砂岩を主体としており,泥岩及び凝灰岩の薄層が何層も施工スパン 6 m の予想引張応力は許容応力に相当する存在していた。 138.281 kp と 138.287 kp では地質的にことから,安全側に配慮して施工スパンをそれよりも短連続した凝灰質砂岩が分布したが,室内試験結果から前い 5.25 m とした。なお,施工スパン長 6 m のときの覆者は膨張性が低く,後者は膨張性が高かった。同様に,工の水平変位は 6.6 mm と算定されたことから,これを138.277 kp 付近の泥岩でも膨張性に違いが認められた。管理基準値として設定することとした。片持ち状態における解析では,片持ち幅 5 m では増分引張応力が許容値を上回ったが,片持ち幅 2.75 m で以上より,各地質の膨張性は地質の違いによって差異があるわけではなく,同じ地質でも膨張する部分とそうでない部分とがあることが判明した。は許容値を満足する結果であった。このことから,5.25湧水は,側壁コンクリート下部より最大毎分 10 L のm の施工スパンに対し目地を中央に配置すること(図湧水が認められた以外に,全体としては浸み出し程度の―)で片持ち幅が 2.75 m 以下になるため,既設覆工ごく少量であった。の安全性が確保できると判断した。なお,以上の施工を行うには, 40 日間の昼夜連続通行止め規制が必要であった。.対策工の施工とその結果. 覆工変位・覆工ひずみ6),9)インバート施工時におけるトンネル挙動を把握するために,覆工変位をトンネル断面 3 点で計測した。計測結果として,覆工の鉛直変位は,沈下あるいは隆起の一定の連続した変位傾向は見られず, 2.2 mm 沈下~ 2.6. 地山及び湧水の状況mm 隆起の小さな範囲内の不連続な変位であった。トン126 m の対策範囲に出現した地質は,風化の程度に違ネル天端と両側壁の 3 辺の内空変位も同様に縮小や拡いはあるものの,凝灰質砂岩,泥岩及び凝灰岩の 3 岩大の連続傾向は見られず, 1.8 mm 縮小~ 2.8 mm 拡大28地盤工学会誌,―() 報告ことが挙げられる。さらに,インバート施工中及び施工後の計測を綿密に行うことにより,変位・変形が極めて小さい施工方法の妥当性及び対策効果を合わせて検証することができた。.おわりに1997 年以降に建設された NEXCO のトンネルでは,地山等級に関わらず特定の地質においては,原則インバート設置を規定している。しかし,それ以前に建設されたトンネルではインバー図―内空変位経時変化(インバート施工時)トが施工されていないために,供用後に路面隆起が発生した事例がいくつもあり,鳥屋山トンネルもその一つである。の範囲内の変位であった(図―)。さらに,ひずみ値も同様に大きな変化はなく,通常の供用中の高速道路トンネルの路面隆起に対し,対面二車線の制約の中,十数年来にわたり路面計測,路面切削,覆工温度変化に伴う変動であり,顕著な累積性がある変段差修正等の対応に大変苦慮してきた。今回の昼夜連続化は認められなかった。通行止め規制下での全断面連続片押しインバート施工は,対策工事中の変位は±3 mm の範囲内に収まっており,高速道路において初めての試みであったが,施工後に特施工前の解析を基に定めた管理基準値( 6.6 mm )に達段の問題もなく対策効果を検証できた。今回採用した調することはなかった。この値は変位量としては軽微であ査,計測,解析及び施工が今後同様な課題に直面した際ることから,施工スパン 5.25 m とした全断面連続片押の選択肢の一つとなれば幸いである。しインバート施工は,従来法と比較して施工速度が格段に早く,既設覆工の沈下や変位を抑制する点で有効であると判定され,覆工の安全性や安定性に大きく貢献する参1)ものであった。. 路面変位対策工完了後において,路面トータルステーション測2)定を再び実施した結果,施工後約 1 か月間の最大隆起は 1.5 mm 程度,測定を終了した 2016 年 6 月までの約 9か月間の最大隆起は 2 mm 程度で顕著な隆起変位は発生3)しておらず,このことはインバートによる補強対策効果と考えられる8)。なお,対策後に若干の沈下や隆起が見られ地山とのなじみによると考えられるが,対策後初期4)に見られた微小な変位であり,その後は安定していることから問題ないと判断している。.調査工並びに対策工の評価5)長期間に及ぶ変状調査や詳細な常時計測を行うことで,路面隆起状況とトンネル変状状況を詳細に把握すること6)ができた。これらの手法は,路面隆起のリスク把握や対策計画に大きく寄与したと考えられる。また,対面二車線の高速道路トンネルにおいて初めて,長期間の昼夜連続通行止め規制を実施し,その下で路面7)8)隆起対策であるインバート施工を可能にした。標準的なインバート施工方法である覆工継ぎ目を考慮した3.5 m 区間を先行施工する方法に対して,今回新たな試みとして全幅一括施工の全断面連続片押しインバート施工を開発した。この工法は既設覆工の安定性を確保すると共に,施工速度を向上させ延べ 39 日間での施工を実現した。それには変状状況をモデル化した事前の数9)考文献宮沢一雄・安田賢哉・菊池慎司・鶴原敬久路面隆起が徐々に進行するトンネルの変状調査と再現解析 ―磐越自動車道 鳥屋山トンネル―,トンネルと地下, Vol.47, No. 3, pp. 33~43, 2016.安田賢哉・菊池慎司・宮沢一雄・鶴原敬久・松井端亘路面隆起トンネルに適用した新しい路面測定手法,地下空間シンポジウム論文・報告集,Vol. 20, pp. 171~176,2015.八島隆志粉末 X 線回折法によるスメクタイトの交換性陽イオンの推定,全地連「技術 e フォーラム 2011 」京都,論文 No. 40, 2011.安田賢哉・山家信幸・宮沢一雄・林崎信男・鶴原敬久盤ぶくれが発生した東北地方の高速道路トンネルにおける地山物性値の傾向 ―粘土鉱物特性に着目して―,土木学会第72回年次学術講演会講演概要集(DVDROM),344, 2017.石田良二・神藤健一スメクタイトを含む軟岩の劣化防止に関する研究,応用地質,Vol. 35, No. 5, pp. 179~192, 1994.宮沢一雄・安田賢哉・須山恭三・渡辺 淳昼夜連続通行止めによる全断面連続片押し工法でインバートを新設―磐越自動車道 鳥屋山トンネル―,トンネルと地下,Vol. 47, No. 8, pp. 7~18, 2016.株 設計要領第三集トンネル トンネル東日本高速道路本体工保全編(変状対策),pp. 133~134, 2014.安田賢哉・芳賀伯文・齋藤 望・山家信幸・斎藤 建・鶴原敬久・白川優衣路面隆起が徐々に進行する供用中の高速道路トンネルの地山挙動,第14回岩の力学国内シンポジウム 講演集 講演番号 irms_0070, 2017.安田賢哉・鶴原敬久・宮沢一雄・芳賀伯文・佐藤直輝・林崎信男供用道路トンネルにおける全断面連続片押しインバート施工の解析と実測値の挙動検証,第51回地盤工学研究発表会(岡山大会)講演要旨集(DVDROM),742,地盤工学会,2016.(原稿受理2017.10.12)値解析によって影響を予測し,効率的な施工につなげたFebruary, 201829
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