書籍詳細ページ
出版

タイトル 山岳トンネルの最新建設技術及び維持管理(<特集>トンネル/地下構造物)
著者 野城 一栄・磯谷 篤実・海瀬 忍
出版 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
ページ 6〜9 発行 2018/02/01 文書ID jk201807210008
内容 表示
ログイン
  • タイトル
  • 山岳トンネルの最新建設技術及び維持管理(<特集>トンネル/地下構造物)
  • 著者
  • 野城 一栄・磯谷 篤実・海瀬 忍
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
  • ページ
  • 6〜9
  • 発行
  • 2018/02/01
  • 文書ID
  • jk201807210008
  • 内容
  • 山岳トンネルの最新建設技術及び維持管理Current Construction Technology and Maintenance of Mountain Tunnel野城一栄(やしろ(公財)鉄道総合技術研究所かずひで)主任研究員海瀬磯篤実(いそがい独 鉄道建設・運輸施設整備支援機構忍(かいせ株 高速道路総合技術研究所. は じ め に谷あつみ)総括課長補佐しのぶ)研究室長超長尺先進ボーリングの技術開発が行われている。トンネルの建設現場においては,従前からの短尺・穿孔探査山岳地帯が国土の多くを占める我が国においては,二ボーリング( 20 ~ 50 m ),中・長尺ボーリング( 50 ~点間を最短距離で貫くことができる山岳トンネルは必要1 000 m )と,新規開発された超長尺先進ボーリング不可欠な構造物である。日本では,明治時代以降,木製支保工,鋼製支保工,吹付けコンクリートとロックボルトからなる支保工へと段階的に技術革新を行いつつ,これまでに多くのトンネ(1 000 m 以上)(図―)が目的別に使い分けられている。. シ ー ル ド を 用 い た 場 所 打 ち 支 保 シ ス テ ム(SENS)ルが建設され,山岳トンネルの建設技術は円熟期を迎えSENS は,密閉型シールドマシンを用いて掘削と切羽つつあるといえるが,社会からの要請に応え,さらなる保持を行い,掘進と並行してシールド後方部で場所打ち安全性・品質の向上,コストの低減を目指し,様々な技の一次覆工を打設し,その後,二次覆工を施工してトン術開発が引き続き行われている。ネルを構築する工法であり,東北新幹線三本木原トンネ山岳トンネルは安定した固い地山に建設されることがルではじめて導入された(図―)。山岳工法(NATM)多いことから,比較的環境の変化が小さく,適切な維持とシールド工法の境界領域において,安全な掘削機構と管理や補修・補強を行えば長い期間にわたって使用する合理的な覆工機能を有した工法となっている。ことが可能な構造物であるといえるが,それでも,供用NATM と比較した利点として高速掘進が可能であるを重ねるにつれ,経年劣化や複雑な地形・地質に起因しことが挙げられ,北海道新幹線津軽蓬田トンネルでは一た外力の作用,地震による被害などを受ける場合がある。般的な NATM を大幅に上回る平均月進190 m を達成しまた,他の構造物と同様,人口減に伴う維持管理技術者た。一方,シールド工法と比較した利点として高価なセの減少や,維持管理に対しても投資の説明責任が求められるといった社会環境の変化も生じている。維持管理の分野においても,さらなる安全性の確保,長寿命化,効率化といった面において,様々な技術開発が行われている。本稿では,山岳トンネルの建設技術や維持管理技術について,最近実施されている技術開発の一端を紹介する。.最近の山岳トンネルの建設技術. 切羽前方探査技術トンネルの施工において,計画段階での地質調査では,図―超長尺先進ボーリング施工状況1)地山状態を完全に把握することが困難である。そのため,施工段階で地質上の問題が想定される場合は,必要に応じて,坑内からの前方探査として,ボーリングを用いた先進ボーリング,削岩機を活用した削孔検層,弾性波等を利用した物理探査等が行われる。これら各種前方探査のうち,先進ボーリングは直接的に地質を確認できること,湧水状況も確認でき,湧水が多い場合は水抜き孔も兼ねることができることから,湧水の問題が懸念される地山では適用される事例が多く,近年では,従来の先進ボーリング以上の調査長さを持つ6図―SENS のシールド地盤工学会誌,―() 論説グメントを用いないで済むことが挙げられ,コスト低減部が改良されているため,地盤沈下を抑制できる他,切効果も期待できる。最近では都市トンネルへの適用も行羽が安定し,安全にトンネルの掘削を行うことができる。われており,都市トンネルでは比較的硬質な地盤中とな本工法は,地表の制約条件が少ない小土被り部で多く適る相鉄・ JR 直通線西谷トンネル,相鉄・東急直通線羽用されている。沢トンネルでも適用されている。西谷トンネルは土被り. 覆工コンクリートの品質改善が 1D ( D トンネル直径)以下の小土被り区間での施工となったが地表面に大きな影響を与えずに施工を完了山岳トンネルの覆工コンクリートは, NATM 導入以中流動コンクリートの採用することができた。現在施工中の羽沢トンネルは西谷ト来,トンネルに全断面型枠をセットしコンクリートをポンネルのシールドマシンを転用しており,覆工構造にセンプにより圧送して打込む方式が一般的となっている。グメントと場所打ちライニングを使い分けていることがしかし,型枠内は狭小空間で窮屈な姿勢での作業を余儀特徴である。なくされており,締固めやポンプ筒先の移動等が十分に. 盤ぶくれに対応したインバート構造行えていないのが現状であった。特に,アーチ部におい山岳トンネルにおいて,建設時あるいは建設後に路盤ては人力締固めが困難なことから締固め不足によるコン隆起による変形が問題になることがある。最近は掘削時クリートの密実性の低下,横流しによる材料分離,充填の切羽の性状や既施工区間の観察・計測結果を重視して不足による背面空洞の発生等の課題があった。底盤部のトンネル構造を選定する試みがなされている。これらの課題の解決のために,従来の覆工コンクリー路盤隆起に対しては,インバートの掘削半径を小さくし一トと高流動コンクリートとの中間的な性状を求め,◯てトンネルを丸くすることや,早期閉合が有効とされて従般のコンクリートプラント設備で製造可能である,◯いる。図―に,路盤隆起による変状が懸念された新幹前の施工機械・設備で施工でき,大規模な型枠補強を必線複線断面トンネルで最近採用された断面を示す。 材料分離抵抗性と適度な流動性を有する,要としない,◯. 事前地山改良工法 締固めが型枠バイブレータのみで可能である,のコン◯土被りの小さい箇所でトンネルを掘削する場合は,トセプトのもと,コストを考慮して,スランプが 21± 2.5ンネル上部の地山やトンネル自身が沈下するという問題cm ,スランプフローが 35 ~ 50 cm となるように配合しがある。また,地山によっては切羽が崩壊する危険もあた中流動覆工コンクリートが開発され,導入されている。る。土被りが小さい箇所でトンネルを掘削する技術とし養生環境の改善て事前地山改良工法が開発され採用されている。この工これまで山岳トンネルの覆工は打設数日後には脱型さ法はトンネル上部の地山を掘削し,トンネル側部の地山れ通常の坑内環境で養生がされるのが通例であったが,を改良する。その後埋戻しを行ったのち,トンネルを掘最近では覆工の長期耐久性向上を目的に,打設後型枠を削するというものである(図―)。トンネル側部,上取り外すまでの時間をこれまでより延長する,あるいは,型枠取り外し後から給水,水分逸散防止,封緘及び膜養生等で覆工コンクリート表面を湿潤状態に保つ日数をこれまでより増加させる(図―)などにより,特にコンクリートの表面を緻密にさせる取り組みも一般的に行われている。背面平滑型トンネルライニング工法現状の覆工背面が覆工コンクリートの品質に及ぼす問題点として,吹付けコンクリート面の凹凸が覆工コンクリートの収縮を拘束することによるコンクリートひび割れの発生,防水シートの展張り余裕不足又は余裕過多に図―路盤部構造の変更による路盤変位対策の例2)図―February, 2018事前地山改良工法の例2)図―湿潤養生の例7 論説よる覆工背面の空洞発生及び防水シートの破損,覆工厚. 最新の維持管理技術の不均一に起因する応力集中の発生などが挙げられる。その改善策の一つとして,覆工背面の空隙の解消を図り,レーザー, CCD カメラ,ラインセンサーカメラ等に覆工画像撮影技術適切な厚さの覆工コンクリートを施工するため,背面平よる各種覆工画像撮影技術が開発され,実務で一般的に滑型トンネルライニング工法が開発され,適用されてい用いられている。現地での詳細点検に活用できるように,る。点検前に覆工表面画像を撮影(ひび割れ幅の認識精度本工法は,トンネル形状の専用型枠を用いて,型枠の0.5 mm 程度)し,これを基に変状展開図を作成してお外周面に防水シートを展張りし,吹付けコンクリートのくことがよく行われている。作業時間の短縮をはかり,凹凸部と防水シートとの隙間に充填材(モルタル)を注利用者のサービスレベルを極力低下させないように,計入するものである(図―)。吹付けコンクリートに防測車両の走行速度も比較的高速( 50 km / h 以上等)で水シートが密着しかつ覆工背面は平滑な構造となり,覆ある。覆工画像の例を図―に示す。工コンクリートの下地として理想的な環境を作り出すこ覆工の変形測定技術トンネルの外力変状に対する評価の客観性向上を目的とができる。.最近の山岳トンネルの維持管理技術. トンネルの維持管理の流れ で示した画像取得装置( Mobile Imaging )として,に加えて,レーザーによるトンネル壁面の変形計測装置( Mobile Mapping )を搭載した車両( MIMM )も開発他の構造物同様,山岳トンネルも建設の時代から維持されている。MIMM は,外力変状の疑いのあるトンネ管理の時代へと移行しており,トンネルを今後も安全かルについて,高速走行しながら,精度の良い客観的な変つ快適,便利に供用していくための技術開発が行われて状把握を行うことができる。変形モード解析図を図―いる。に示す。図―に,トンネルの維持管理の流れを示す。定期的維持管理システムな点検(事業者によっては検査と称す)により,トンネトンネルは長期にわたり供用されるものであり,適切ルの状態を確認し,健全度を判定し,必要により措置をで効率的な維持管理のためには,維持管理情報をデジタ行い,記録を行うことの繰り返しにより,トンネルの維ル化した上で一元管理することが有効である。特に,持管理がなされている。なお,点検間隔は事業者毎に定 で紹介した新しい維持管理技術においては点検結果がめられている。トンネルの点検は,目視や打音が主体であるため,検査員にかかる負担が大きい。また,担当者の経験や判断力に依存する部分もある。そのため,目視や打音を補完するための技術開発が盛んに行われている。図―図―8背面平滑型トンネルライニング工法トンネルの維持管理の流れ(鉄道の例)図―図―覆工撮影技術による覆工画像3)MIMM による変形モード解析図4)地盤工学会誌,―() 論説図― TMS 機能概要3)デジタル情報の形で出力されることになる。これに在来の目視点検情報を加え,また補修の情報も取り込み,維持管理情報を一元管理するシステムが各事業者により開図― TCI の概念図5)発されてきている。また,システムによっては,維管理情報の集約・一元管理だけにとどまらず,これらの情報nひび割れの本数(本)を元にトンネルの健全度の判定を補助する機能がついて(k)ひび割れいるものもある。t(k)ひび割れ k の幅(m)k の長さ(m)維持管理システムの例として,トンネル・マネジメンu(i k)ひび割れ k の法線ベクトルが xi 軸となす角度(度)ト・システム(TMS)を紹介する。TMS は,点検や補u(j k)ひび割れ k の法線ベクトルが xj 軸となす角度(度)修においてひび割れ展開図の作成や各種帳票の作成を行aひび割れ幅の重み付けに関する係数う「ひび割れ点検支援システム」と,「ひび割れ点検支bひび割れ長さの重み付けに関する係数援システム」で作成されたデータを取り込んで,変状原F0TCI の大きさ因推定や対策工選定等を行う「マネジメントシステム」F11TCI の縦断方向成分の 2 つのシステムで構成される。TMS の機能概要図をF22TCI の横断方向成分図―に示す。担当者の技能によるところをできるだけF12=F21TCI のせん断方向成分排除し,定量的な評価を行うための支援と統一的なフォーマットによる確実な点検も目的としている。TCI を使った維持管理.おわりに本稿では,山岳トンネルの建設技術や維持管理技術にトンネル覆工点検の主要要素として,覆工の健全度をついて,最近実施されている技術開発の一端を紹介した。数値的に評価する指標として,ひび割れ指数(Tunnel我が国は地形的,社会的な条件から,トンネルは社会lining Crack Index: TCI)を導入している事例が見られ資本整備において今後も非常に重要な構造物であり続ける。るといえるが,一方で,社会資本整備のための財源の減TCI は,岩石のひび割れの密度や方向,幅を総括的少や,労働力の不足,環境意識の高まりなど,トンネルに定量化する指標であるクラックテンソルを援用し,覆を取り巻く環境も変化している。これらのニーズに合致工の定量的健全性評価法として提案された指標である。した技術開発が今後も求められるものと考えられる。TCI の基礎式を式(1)に示すとともに,その概念図を図―に示す。式で示す F11, F22 は,それぞれ TCI の縦断成分,横断成分を示すものである。覆工コンクリート参1)の劣化の指標 F0 は,テンソルの一次不変量として縦断・横断成分の和(F0=F11+F22)として表され,このF0 を「 TCI 」と呼び数量的「覆工の劣化度」としている。それに対し,F12は TCI の対角項成分であり,ひび割れの斜め方向成分の多さを表すものである。2)3)TCI を用いると覆工に発生するひび割れを定量的に ~ の技術と組み合わせ評価することが可能となり,4)ることにより,検査業務の高度化,効率化をはかることが可能となる。Fi j=1 n∑ (t(k))a(l(k))b cos ui (k) cos uj (k) …………(1)A k= 1A覆工コンクリートの面積(A=Ls×La)(m2)Ls覆工コンクリートの縦断延長(m)5)考文献岡 浩一・山下 学・三隅宏明・加藤宏征道路トンネルで初めて超長尺先進コントロールボーリングを採用―新名神高速道路 箕面トンネル―,トンネルと地下,Vol. 45, No. 11, pp. 15~24, 2014.焼田真司・丸山 修最近の鉄道トンネル建設技術,Railway Research Review, Vol. 72, No. 9, 2015.「トンネル新技術への挑戦」連載講座小委員会トンネ―道路トンネルの点検システム―,ル新技術への挑戦トンネルと地下,Vol. 48, No. 2, pp. 61~68, 2017.重田佳幸・岡本直樹・前田洸樹・八木 弘・水野希典・前田佳克・海瀬 忍横断方向ひびわれと走行型計測の変形モード解析による外力変状の評価について,土木学会第72回年次学術講演会,362, pp. 723~724, 2017.重田佳幸・飛田敏行・亀村勝美・進士正人・吉武 勇・中川浩二ひびわれ方向性を考慮した覆工コンクリートの健全度評価,土木学会論文集 F, Vol. 62, No. 4, pp.628~632, 2006.(原稿受理2017.10.24)(通常はスパン長)La覆工コンクリートの横断延長(m)February, 20189
  • ログイン