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出版

タイトル 大規模地下空洞の建設及び維持管理(<特集>トンネル/地下構造物)
著者 森岡 宏之
出版 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
ページ 2〜5 発行 2018/02/01 文書ID jk201807210007
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  • タイトル
  • 大規模地下空洞の建設及び維持管理(<特集>トンネル/地下構造物)
  • 著者
  • 森岡 宏之
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.66 No.2 No.721
  • ページ
  • 2〜5
  • 発行
  • 2018/02/01
  • 文書ID
  • jk201807210007
  • 内容
  • 大規模地下空洞の建設及び維持管理Construction and Maintenance Technologies for Large Underground Cavern森岡宏株東京電力ホールディングス之(もりおかひろし)経営技術戦略研究所. は じ め にスペシャリストや変電設備を収納する空洞として建設されるようになった。その後,発電所の高落差化,高出力化による発電設近年,環境問題や土地の有効利用,安全性,経済性の備の大型化に伴い,空洞の断面積も徐々に大きくなり,確保などの観点から地下空洞の利用が積極的に進められ現在では 1,400 m2 を超える地下空洞が建設されるようてきている。当初の地下空洞利用は,道路トンネルなどになった。写真―に大断面での地下空洞掘削時の状況のインフラ網としての輸送空間や揚水式発電所などの収を示す。納空間といった用途に限られていたが,最近では,水封我が国の地下発電所の空洞形状は,図―に示すとお原理を利用した石油・ LPG の地下貯蔵施設や地上からの遮蔽・隔離性を利用した放射性廃棄物の地層処分施設,都市部河川の治水のための地下調節池,ニュートリノの研究に代表される最先端の素粒子物理学・宇宙物理学などの学術研究施設としての利用などの新たなニーズが発生してきている。このように,地下空洞に対する社会のニーズは多様化し,今後建設される地下空洞は大規模化すると共に,高地圧や低強度といった厳しい地山条件下での建設が行われることも多くなると予想される。その中で,安全性を確保した上で如何に合理的かつ効率的に地下空洞を建設していくかが大きな課題となっている。また,我が国で本格的に大規模地下空洞が建設される図―地下発電所空洞掘削断面積の変遷1)に加筆ようになった 1960 年代から既に 50 年近くが経過しているが,今後は,空洞に支保の劣化等の経年変化が発生することも予想される。その中で,どのように空洞の健全性や設備の余寿命を評価し,如何に的確に空洞を維持・管理していくかも新たな課題となってきている。本稿では,これまで培われてきた大規模地下空洞の建設技術及び将来に向けて整備が急務とされている維持管理技術の現状と今後の課題について紹介する。.大規模地下空洞の歴史我が国において大規模地下空洞が建設されたのは,1943 年に建設した雨 竜発電所(北海道電力,出力 51MW )が最初となる。その後, 1960 年代に本格化し,写真―大断面地下空洞の掘削(東京電力神流川発電所)地下発電所だけでも全国に 50 箇所以上,それ以外にも多くの用途,地山条件に対応した空洞の建設が行われている1)~3)。これまでに建設された地下発電所について,掘削断面積に着目した変遷を整理したものを図―に示す。建設初期段階において掘削断面積 400 m2 程度でスタートした地下発電所は, 1950 年代にはダム水路式の一般水力発 電 所 の 水 車 発 電 機 を 収 納 す るた め の 空 洞 とし て ,1970 年代以降は揚水式発電のための高出力ポンプ水車2図―地下発電所空洞掘削形状の種類1)地盤工学会誌,―() 論説り,主に「きのこ形」「卵形」「弾頭形」の 3 タイプが定,必要に応じて物理探査やジオトモグラフィーが行わ採用されてきた。「きのこ形」は空洞の天井部にアーチれる。コンクリートを打設するタイプで,地質不良部や自立性これらの事前調査によって地下空洞の詳細レイアウトの劣る地山に対して力学的安定性に優れており多くの地が決定されると掘削開始前に空洞周辺の挙動を監視する点で採用されている。「卵形」は地山の持つ支保機能ための計測器が設置されるが,これらを埋設するための(アーチアクション)を最大限に利用する NATM の考ボーリング孔から得られる情報も空洞周辺の地質情報とえ方を適用したもので,天井部も含めて空洞全周においして活用される。さらに,空洞掘削が開始されると壁面て吹付けコンクリートと PS アンカー(プレストレストに PS アンカーが施工されるが,そのボーリング孔につアンカー)を主要支保部材としている。卵形形状では空いても打撃検層や孔壁画像観察等も併用して地質情報を洞周辺での応力集中を避け,緩みの進展を抑制できるこ取得する。地下空洞周辺の地質情報は横坑調査とこれらとから,土被りが大きく高い地圧が作用している地点でのボーリング調査及び切羽観察結果が順次加えられるこ採用されている。「弾頭形」は「卵形」に対して側壁部とで,空洞掘削の進展と共に更新していくことになる。を垂直にした形状であり,側壁部のデッドスペースを縮. 設計小することで,地山が良好であり側壁部に緩みの進展が空洞の力学的安定性は断面が大きくなるほど低下し,少ない地点において採用されている。地下発電所以外では,燃料貯蔵施設として地下空洞が支保構造も大規模となる。このため,一般的なトンネルと比べ設計・施工は難しくなり慎重な検討が必要となる。利用されている例1),2)も多い。石油の地下貯蔵について地下空洞の支保設計の概念フローを図―に示す。は, 1976 年に国を中心とした研究会が発足し,菊間地連続体としての設計点(今治市)での実証試験を経て 1980 年代から 3 地点地下に空洞を掘削する場合,空洞部分の初期応力(初の横穴式水封方式による石油地下備蓄基地(貯蔵量500期地圧)が解放されることにより空洞周辺部では応力集万 kl )が建設されている。空洞の断面積は 500 m2 程度中が発生し,力学特性の変化した掘削影響領域(緩み領となっている。さらに, 2000 年代以降には,液化石油域)が形成される。空洞掘削前に行われる空洞の力学的ガス( LPG 他)の地下貯蔵が検討され, 2 地点の水封安定性に着目した支保設計では,事前の調査・試験結果方式による地下備蓄基地(貯蔵量85万 t)が建設され,により定めた解析条件に基づき挙動予測解析を実施し,現在操業を行っている。空洞周辺に発生する緩み領域の予測が行われる。そして,.地下空洞の建設技術. 調査緩み領域内に形成される岩塊に対し,すべりや落下などの破壊モードを想定し,それらに対する力学的安定性を確保するように空洞の支保パターンが選定される。地下発電所や燃料地下貯蔵施設,放射性廃棄物埋設施空洞の力学的安定性を検討する手法としては,有限要設などの地下空洞は,安全性と経済性の観点から可能な素法( FEM )等による逐次掘削ステップを考慮した数限り堅硬かつ緻密な岩盤中に建設することが望ましい。値解析が用いられることが多い。近年,数値解析においしかし,計画地点において対象となる地山は地下空洞のて非線形な応力ひずみ関係が反映されるようになり予建設にとって必ずしも良好な岩盤であるとは限らない。測解析の精度は向上した。特に,岩盤のひずみ軟化特性特に,我が国では褶曲や断層が多く地質構造が複雑であを考慮した応力再配分の挙動を解析で再現したことによることを十分に認識しておく必要がある。り,緩み進展後の支保発生応力についても予測解析で取空洞の力学的安定性や周辺岩盤の水理特性は地山の条件に大きく依存しており,その状態を事前に把握するためには適切な調査が必要となる。地下空洞の場合,机上での資料調査から原位置試験まで様々な方法が用いられるが,地下深部の空洞の場合には特にボーリング調査と横坑調査が極めて重要になる。ボーリング調査には,地上から空洞の建設予定深度まで掘削するものと,横坑内から掘削するものがある。前者は横坑の掘削前に予め空洞の建設可否についての概略的な見通しを得るために行われるのに対し,後者は横坑内から空洞周辺の地質や地下水の状況をより詳細に把握するために行われる。横坑調査では,坑壁の岩種,風化・変質の状況,断層・破砕帯・節理の分布及び性状,湧水の状況などを観察し,空洞の建設予定位置周辺の地質断面図作成のための基礎情報が取得される。また,横坑内では地山の力学特性を把握するために,原位置岩盤試験や初期地圧の測February, 2018図―地下空洞の支保設計概念フロー3 論説図―図―地下空洞の支保パターン例(神流川発電所)5),6)地下空洞の計測器配置例(神流川発電所)7)卵形空洞の天井部では「大断面頂設導坑先進アーチ切拡工法」が採用されるようになった。神流川発電所での最り扱えるようになった4)。さらに, PS アンカーの導入力による緩み進展抑制効果を設計に反映して支保の合理化を図った例もある5)。不連続体を考慮した設計掘削により発生する空洞周辺の緩みは,岩盤内に存在する節理,シーム,破砕帯等の不連続面の状態によっては不安定となり,岩塊の崩落や滑落の原因となる。一般に岩盤中の不連続面の変形量は岩石と比べてかな終支保パターンと断面の加背割りの例を図―に示す。盤下げ部の施工は,掘削に伴う緩みの進展を抑制するために,側壁部の掘削を縦断方向に 14~ 18 m 両側ブロックに分割し,千鳥状に掘削していく工法(ブロック分割工法)6),7)などが新たに採用されるようになった。. 情報化施工地下空洞掘削時の挙動予測は,数値解析技術の向上によりある程度実務に供するレベルに達してきた。しかし,り大きく,強度も著しく小さいため,岩盤全体の挙動はこのような高度な解析手法をもってしても実際の挙動を不連続面の力学特性と幾何学条件に大きく依存する。正確に予測することはかなり困難である。線状構造物で地下空洞の安定解析・設計にあたっては,岩盤全体をある一般的なトンネルと比較すれば空洞周辺では密度の不連続面も含めた等価な連続体としてモデル化するか,高い調査が行われるものの,それでも事前に取得できる連続体の中で不連続面を個別にモデル化することにより情報には限界があるため,当初設計での地質評価・力学数値解析による予測解析が行われる。特性・初期地圧などの設計条件には不確実性が伴うこと並行して切羽での掘削に先立ち,個々の不連続面の性になる。状と幾何学的分布からキーブロック解析を実施して不安さらに,大規模地下空洞の場合,盤下げ掘削中に上部定な岩塊を抽出し,必要に応じて補強対策が行われる。の変状対策工を実施するには特別な足場が必要となり,. 施工工期,工事費に対して大きな影響を与えることになる。地下空洞の掘削方法については,トンネル掘削の標準したがって,切羽で得られる情報を設計・施工にフ工法が矢板工法から NATM(吹付コンクリート,ロッィードバックする情報化施工は,安全と品質を確保してクボルト工法)に移行する中で,設計の考え方が明確に設計合理化を図る手段として極めて重要な役割を担ってなり施工実績を積み重ねることで改良が加えられてきた。いる。1960 年代までの地下空洞は小規模なものが中心で,情報化施工による設計合理化を図るには,現状の空洞支保についても鋼製支保工と矢板によるものであった。の安全性を適切に評価する必要があるため,現場では挙1970年代に入ると施工機械の大型化と NATM を指向動を監視するための各種計測が行われる(図―)。計した技術開発が進み,さらに 1980 年代に入ると,より測値に対しては,予め管理基準を設定しておき,実際のコスト,工期,スケールメリットを追求する発電所の開挙動と比較することによって力学的安定性が評価される。発が進み,積極的に急速施工や大断面施工が採用された。空洞の大断面化に伴って天井アーチのアバット部に大実際の計測管理は,「日常管理」と「ステップ管理」の異なる役割を持つ 2 つの方法を併用して行われる。きな応力集中が発生するようになったため,アーチアバ日常管理は,日常の掘削作業の進行に伴って行われるット部を先行して掘削し鉄筋コンクリートや PS アン観察・計測管理であり,日々測定される変状の程度や管カーで事前に補強する「頂設・側壁導坑先進アーチ切拡理基準レベルに応じて予め用意された対策メニューを適工法」が採用されるようになった。この頃から油圧削岩用したり,監視体制の強化や支保の追加等,現状の設備機が導入されるようになり,掘削作業効率が向上した。の範囲内で対応可能な対策が行われる。1980年代後半に入ると,NATM の考え方が導入され,4一方,ステップ管理は予め決められたイベント時期若地盤工学会誌,―() 論説しくは日常管理の中で計測値と予測値の乖離が顕著にな年挙動から空洞の長期的な安全性を評価する方法の検討った場合に行われる。ステップ管理では,それまでに得を行っている。その結果,空洞掘削後の長期挙動に対しられた観察・計測結果に基づいて地山評価を見直し,そても適切に力学特性を設定することで当該時点での空洞の時点での将来の挙動を予測しなおし,必要に応じて設の安全性を的確に評価でき,随時管理基準の見直し等に計・施工方法の変更や管理基準の更新が行われる。反映していく継続的な維持管理手法を提案している。管理基準値については,連続体を仮定した数値解析による予測解析結果が用いられることが多く, PS アン.おわりにカー荷重計やコンクリート応力計のような部材の発生応今後,社会からの多様なニーズに対して,地下空洞の力を測定する計測器については,それぞれの部材の耐力建設計画も増えることが予想される。それに伴い,これも考慮して設定される。計測値が管理基準値を超える見まで以上に厳しい条件下での設計・施工が求められる。通しとなった場合には当初設計の見直しが行われ, PS地下空洞の建設技術については,厳しい条件での施工アンカーの本数や吹付コンクリート厚さなどの支保量や,事例が蓄積されていく中でそれらを克服する新技術や新掘削方法についても変更されることがある。工法が生み出されることになろう。また,こうした経験設計の考え方とリンクした理想的な情報化施工を実現の蓄積や計測技術,解析ツールの改良を反映した情報化するためには,緩み領域の形成を支配する岩盤内の応力施工技術によって,今後もより合理的かつ効率的に空洞状態を早期に精度良く把握することが必要となる。を建設する技術が開発されていくことが期待される。これまでは岩盤内の応力測定の困難さから内空変位や一方,維持管理に目を向ければ,大規模地下空洞が盛岩盤変位計を中心としたひずみ量に着目した計測管理がんに建設され始めた 1960 年代から既に 50 年近い年月が行われてきたが,ひずみ量により緩み領域の進展を評価経過している。この間に空洞の支保部材は緩慢ではあるする場合,岩盤内の応力状態との対応関係が明確でないがその機能を低下させており,いずれは空洞の力学的安ため,その評価の精度には課題があった。定性に影響を与えていく可能性もある。このため,今後岩盤の応力状態を把握する手段として,巨視的な破壊は既設の空洞の安全性を的確に評価し,適切な対策工を(緩み)に先立つ微視的な破壊の兆候を捉えることのでタイムリーに行っていく継続的な維持管理技術を体系的きる AE ( Acoustic Emission )に着目し,その計測結に整理していくことが重要と考えられる。果を設計・施工にフィードバックする試みも行われている8),9)。.地下空洞の維持管理技術我が国の大規模地下空洞の建設は,前述のとおり1960 年代以降に盛んに行われるようになり,地下発電所の数は現時点で 50 基を超え,その多くは数十年以上の長期に亘って供用されている。地下発電所の場合,掘削中に施工される支保工により空洞の力学的安定性は確保され,さらに空洞内部に構築されるコンクリート構造により安全性が増す。このため,既設地下発電所空洞では,長期間の供用中においても目視観察による確認や建設時に設定された管理基準に沿った計測管理が行われているのが現状である。しかし,長期間供用している地下空洞においては,空洞周辺岩盤の物性変化,地下水位の変動,支保の劣化等が生じている可能性があり,これらのリスクが顕在化した場合,支保が負担する荷重の増大や初期に設定した支保耐力の減少により,空洞の力学的安定性が損なわれることになる。このような場合,建設時の条件に基づいて設定した管理基準によって空洞の安全性を評価することは必ずしも適切ではない場合があると考えられる。地下空洞の安全性評価の事例については,これまで建設時の挙動の分析・評価や解析モデルの検証は多数報告されているが,地下空洞が完成して供用を開始した以降の安全性評価についてはあまり報告されていない。柏柳ら10),11) は,空洞建設時から供用開始後まで計測が継続されている地下発電所空洞を対象に,得られた経February, 2018参考文献1 ) 土木学会大規模地下空洞の情報化施工,丸善, 1996.2 ) 土木学会大規模地下空洞の建設・維持管理事例集(H25年度集約版),第42回土木学会岩盤力学に関するシンポジウム講演集 CD,土木学会,2014.3) 日本電力建設業協会施工からみた地下発電所の変遷と事例集,文星閣,2004.4) 工藤奎吾・小山俊博・鈴木康正大規模地下空洞支保設計への数値解析の適用について,土木学会論文集,No.588/38, pp. 37~49, 1998.5) 前島俊雄・森岡宏之大規模岩盤空洞へのゆるみ領域に着目した情報化設計システムの適用,土木学会論文集,No. 742/60, pp. 133~148, 2003.6) 前島俊雄・森岡宏之・伊東敏彦ゆるみ領域に着目した大規模地下空洞の情報化施工,トンネルと地下, Vol.32, No. 5, pp. 29~38, 2001.7) 森岡宏之高地圧下での大断面空洞掘削―神流川水力建設所地下発電所建設工事,土木施工,Vol. 42, No. 13,山海堂,pp. 8~15,2001.8) 森岡宏之・南 将行・前島俊雄・田坂嘉章・Ming CAI・青木謙治AE 計測による大規模地下空洞掘削時の岩盤挙動評価手法に関する基礎的研究,土木学会論文集,No. 791/67, pp. 81~96, 2005.9) 森岡宏之・南 将行・前島俊雄・田坂嘉章・黒瀬浩公・Ming CAI  AE 計測データに基づく岩盤強度定数の逆解析手法の提案,土木学会論文集 C,Vol. 63, No. 2, pp.389~402, 2007.10) 柏柳正之・福原 明・清水則一地下発電所空洞の経年挙動と維持管理における長期安定性評価,電力土木,No. 343,pp. 9~18,2009.11) 柏柳正之・松林 茂・清水則一地下発電所の維持管理のためのモニタリングとその評価事例,電力土木,No.361,pp. 23~27,2012.(原稿受理2017.10.25)5
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