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南海トラフ巨大地震・津波発生の真実にせまる~強靭な社会の構築に向けて~.伊南海トラフのスロー地震と断層活動藤喜宏(いとうよしひろ)京都大学防災研究所・地震予知研究センター. は じ め に.. 南海トラフとスロー地震定された。また,微動の卓越周期が 0.5 秒付近の「低周波」側であったことから,「深部低周波微動」と名付けられた。南海トラフを含む日本近海の沈み込み帯は世界で初め2003 年にはカスカディア沈み込み帯で,スロースリてスロー地震が発見された地域の一つであり,スロー地ップと深部低周波微動が同時に発生していることが示さ震に関する最先端の研究が行われている地域でもある。れた4)。西南日本においても深部低周波微動とスローススロー地震とは,通常の地震と比べてすべり速度が小さリップが同時に発生していることが, Hi net に併設さい地震の総称であり,地震の規模や現象の継続時間に応れた傾斜計(高感度加速度計)で確認された5)。特に微じていくつかの種類に分類されている。本章ではスロー動とスロースリップの 2 つの現象を併せて ETS ( Epi-地震に関する研究成果を紹介しつつ,将来発生が危惧さsodic Tremor and Slip)と呼ばれることもある。このよれている南海トラフの巨大地震との関連や今後の課題にうに 2000 年代初頭にスロー地震に関する重要な研究が,ついて述べる。本節では,南海トラフを中心として相次西南日本とカスカディアを中心に相次いでなされた。いで発見されたスロー地震について,その歴史を振り返りながらこれらの現象について解説する。深部低周波微動では一般に通常の地震で観測される P波と S 波の到達を明瞭に読み取ることが困難である。地震学の発展は,観測機器及び観測網の発展と共に歩一方で微動には時折 P 波や S 波を読み取ることのできんできた。特に, 20 世紀末頃から地震・測地観測網のるマグニチュード 1 弱の波形が含まれる。このような高度化及び高密度化が進み,これまでよく知られていな地震は通常の同規模の地震と比べて低周波成分に富む波か っ た 現 象 が 観 測 さ れ る よ う にな っ た 。 日 本で は ,形であることから,「低周波地震」として2000年頃から1995年兵庫県南部地震(マグニチュード 7.3)の後,地その存在が知られていた。震災害軽減に向けた地震調査研究推進の一環として防災四国下で発生する低周波地震の震源は,沈み込むフィ科学技術研究所により高感度地震観測網「Hinet」が整リピン海プレートと陸側のプレートの境界に平行に沿っ備された。この後,「深部低周波微動」,「低周波地震」,て分布する6)。さらに発震機構解が低角逆断層型と推定「超低周波地震」,「スロースリップ」といった「スローされたこと7)から,低周波地震はスロースリップと同様地震群」に関する報告が,特に 2000 年以降相次いで報にプレート境界の「ずれ動き」による地震と解釈された。告された。さらに,数分から数日間継続する深部低周波微動の波形.. 西南日本とカスケーディアは,低周波地震の波形の重ね合わせで説明できることが1994 年三陸はるか沖地震の後,地震時に大きくずれ示され8),深部低周波微動も低周波地震やスロースリッ動いた領域の周辺で非地震性の地殻変動が東北地方のプと同様にプレート境界における逆断層型の断層活動でGPS 観測点で観測された1)。これは巨大地震発生の後,励起される地震動として認識された。地震発生域周辺のプレート境界部で発生する「余効すべ.. 深部と浅部のスロー地震群り」と呼ばれる非地震性のゆっくりとした断層運動とし2007 年には西南日本に設置された防災科学技術研究て解釈されている。一方,大地震の発生とは無関係に深所の広帯域地震計(Fnet)や傾斜計で,周期10秒からさ 30 ~ 40 km 付近でプレート境界部が 2 週間ほどかけ100 秒の振幅が卓越する地震動が確認された9) 。この長て約 2 cm ゆっくりとずれ動く逆断層運動(マグニチ周期の地震動は主としてスロースリップと深部低周波微ュード 7 相当)がアメリカとカナダ国境付近の太平洋動の活動時期に観測された。観測波形から波源とメカニ岸にあるカスカディア沈み込み帯で観測され「スロースズム解を推定したところ,微動やスロースリップと同様,リップ」と名付けられた2)。波源は深さ 30 ~ 40 km 付近のプレート境界で,マグニ2002年には,西南日本の複数の Hinet の地震計で,チュード 3~4 相当の低角逆断層型の地震により励起さ数分から数日間継続する火山活動とは無関係の微動が観れた地震動であることが分かった。この地震は「超低周測された3)。微動の震源は沈み込むフィリピン海プレー波地震」と名付けられた。特に,沈み込み帯の深部で発トと陸側のプレートの境界付近の深さ 35 ~ 45 km と推生するものは「深部低周波地震」と呼ばれ,南海トラフ54地盤工学会誌,―()講 座図―. 西南日本で発生するスロー地震の模式図。プレート間の強く固着する巨大地震発生域の深部及び浅部の延長部に低周波微動,低周波地震,超低周波地震(星印)やスロースリップ(矢印)が分布するの熊野灘,室戸沖及び日向灘の深さ15 km 以浅で発生す果から,スロー地震の発生に関わる要因の一つとして,る「浅部超低周波地震」と区別されることもある。また,震源断層周辺の間隙流体圧の関係が指摘されている18)。熊野灘や日向灘では海底地震計を用いた観測から「浅部.. スロー地震断層近傍の流体低周波微動」や「浅部低周波地震」など,深さ15 km 以断層に流体が存在する場合,間隙圧の増加により有効浅で発生する微動や低周波地震も確認されている10),11)。「低周波微動」,「低周波地震」,「超低周波地震」,「ス法線応力が低下するため断層の見かけの強度が低下し,その結果,スロー地震が発生しやすくなる可能性がある。ロースリップ」は,それぞれの地震の規模や断層運動の実際,南海トラフ東端で駿河トラフに直交する探査側線継続時間・卓越周波数はそれぞれ異なるものの,発生しで実施された屈折法地震波探査で,深さ 20 ~ 30 km 付ている場所や断層運動はほぼ共通している(図―.)。近のスロースリップ域周辺に高ポアソン比の領域がイまた,通常の地震による断層活動では,発生する地震のメージングされている18) 。また,四国下の深さ 35 ~ 45規模が断層運動の継続時間の 3 乗に比例するのに対しkm の低周波地震の周辺部でも,地震波速度トモグラフて,これらのスローな現象は,地震の規模が継続時間にィー解析から高ポアソン比の領域6)が報告されており,比例する12) 。これらのことから,これらのスローな断共にスロー地震の震源域が高間隙水圧下にあることを示層活動はこれまで知られていた通常の地震とは異なる物す。理法則に支配される「スロー地震群」と呼ばれている。. 誘発されるスロー地震熊野灘の浅部超低周波地震の震源域で実施された反射法地震探査では,超低周波地震の震源域周辺のプレート境界近傍の極低角な断層(デコルマ)や巨大分岐断層か.. スロー地震の発生を支配するものらの強い反射波が観測されている19) 。また,分岐断層2000 年代初め頃,巨大地震発生域の深部延長部のスが海底に到達する地点では深部からの流体の供給を示唆ロー地震は深さ 30 ~ 35 km 程度, 350 ~ 450 °C の温度で,する冷湧水域が分布する19) 。これらの観測事例も浅部すべりモードが不安定すべりから安定すべりに遷移する超低周波地震の発生域周辺における流体の存在を示唆す領域で発生する現象と考えられていた。ところが,深さる。15 km 以 浅 , 100 ~ 150 °Cの低温の領域で発生するス断層間の流体の供給源は,プレートの沈み込みによるロー地震群が,南海トラフ以外でも,房総沖13) ,日本海洋性の未固結堆積物の圧密による間隙水の脱水,及び海溝14),15) ,ニュージーランド16) などで検出された。さ含水鉱物からの脱水反応が考えられる。沈み込むプレーらに最近,南海トラフの浅部(深さ 4~ 10 km )でも,ト上の未固結堆積物やプレート内の含水鉱物の分布が空8~15ヶ月間隔で発生するスロースリップが報告されて間的に大きく変化しないと仮定すれば,プレートの等深いる17)。すなわち,スロー地震の発生条件は,温度圧度線に沿った一様なスロー地震活動が期待されるはずで力条件のみでは決まらないことを示している。では何がある。しかしながら実際は非一様なパターンを示す。こスロースリップの発生を支配しているのだろうかのスロー地震活動域の非一様な空間パターンと上盤側のこの問いに回答するためには,スロー地震の発生域周プレートの透水性に高い相関が見られる20) 。特に上盤辺の地震波速度・減衰構造に関する情報の不足に加えて,側の透水性が低い地域で,活発なスロー地震活動,特に摩擦特性やレオロジーに関する理解が不足しているため,深部低周波地震の活動度が高く,透水性の高い地域で微スロー地震の発生メカニズムについて未だ結論付けるこ動活動は低調となる。つまり,上盤側の透水性が低い地とができない。しかしながら,いくつかの優れた研究成域では供給される流体が非排水条件下にあり,結果としJanuary, 201855講 座てスロー地震発生域が高間隙水圧となっているのであろ域の周辺で発生することから,発生メカニズムの理解のう。また,速度・状態依存の摩擦構成則を用いたスローみならず,巨大地震との関連についても注目されている。スリップの数値シミュレーションにおいても,特に低いカスカディア沈み込み帯のスロースリップについて,ス有効圧(具体的には,間隙水圧が静岩圧の 99 程度)ロースリップが及ぼす巨大地震の発生確率への影響を評でスロースリップが発生することが示されている21)。価したところ,スロースリップが発生している 2 週間スロー地震の震源域の断層強度が,高間隙水圧によりについては,スロースリップが発生していない他の期間見かけの強度が低下している証拠の 1 つとして,スと比べて巨大地震の発生確率が30~100倍程度高くなっロー地震の応力降下量が通常の地震(0.1~10 MPa)とている可能性が示された26) 。実際,日本やメキシコな比して小さい点が挙げられる。実際,南海トラフで観測どでは,大地震の発生前にその震源域周辺でスロースリされた浅部超低周波地震22) の応力降下量は, 0.1 ~ 10ップが確認されている13),27) 。また,大地震に限らずスkPa 程度と通常の地震に比べて 10 ~ 1 000分の 1 程度小ロースリップにより,周囲の地震活動が活発化した事例さい。が,房総半島,ニュージーランド,さらにはサンアンド.. 弱い断層レアス断層やハワイ島の下で発生するスロースリップなスロー地震の別な特徴の一つとして,遠地の大地ど,沈み込み帯に限らず多数報告されている。震23) ,地球潮汐24) 等により生じる地殻内の応力擾乱により容易に誘発される点が重要である。房総沖では房総半島の下に沈み込むフィリピン海プレートと陸側のプレートの境界部で繰り返しスロースリ2004 年のスマトラ・アンダマン地震後,東海地方かップが発生している。 1994 年以降に整備が進められたら四国下の深部低周波微動の活動が活発化した。スマトGPS 観測により,1996年,2002年,2007年にスロースラ・アンダマン地震で励起されたレイリー波(周期 15リップに伴う地殻変動が確認されている。このときス~ 30 秒)が四国下の微動域を通過する際に,特に多くロースリップの発生に伴いスロースリップ域の周囲で微の微動が観測された23) 。レイリー波の通過時プレート小地震活動が活発化した28) 。通常のプレート間地震の境界では数十 kPa 程度のクーロン破壊応力の増加が生震源域となるプレート境界部の固着域が次の地震発生にじており,この動的な応力変化により微動活動が誘発さ向けて準備がほぼ整った状態,すなわち固着域の応力のれた23) 。つまり,地震動により生じる数十蓄積がほぼ十分な状態で,その周辺でスロースリップがkPa 程度の動的な応力変化でスロー地震が容易に誘発されることを発生した場合,固着域に応力が集中し地震が誘発される。示す。GPS 観測網が整備される以前の1977年,1983年,1990地球潮汐による 12 時間又は 24 時間周期の応力変化と年末頃にも,房総半島下で同様の地震活動の活発化が確深部低周波微動の活動には高い相関が見られる24) 。四認されており,同様にスロースリップの発生が示唆され国下の深部低周波微動では, 12 時間又は 24 時間周期でている28)。活動度の増減が見られる。この活動度と地球潮汐には高スロースリップが誘発する地震活動を利用することで,い相関が見られる25) 。地球潮汐がプレート境界で生じ地殻変動の観測が不十分な場合であっても,スロースリるクーロン破壊応力変化は 1~ 2 kPa 程度であるが,こップの発生状況を知ることができる。巨大地震の発生前の地球潮汐による応力擾乱が微動活動の増減を支配する。に,その周囲で前震活動を伴うことがあるが,これらは日向灘の浅部低周波微動の活動度も,海洋潮汐による海スロースリップが誘発している地震活動であろう。特に洋荷重の変化と高い相関を示す25) 。特に日向灘の微動前震活動には小繰り返し地震が含まれることがあり,ス活動では,従来知られている微動活動初期の潮汐との高ロースリップの発生状況を知る上で重要な手がかりとない相関に加えて,活動の後半の微弱な微動でも高い相関る。が見られることが示された。これは,微動活動がほぼ終.. 年東北地方太平洋沖地震了した直後の断層強度が回復する前の状態で,特に外部2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震では,本震からの応力擾乱によりスロー地震が誘発されやすい状況の震源域周辺の地震活動が本震前に活発化していたこと下にあることを示す。が知られている29) 。小繰り返し地震を用いた解析から,これまで述べてきたように,周囲の応力擾乱によりススロースリップは 1998 年, 2003 年, 2008 年頃に発生し,ロー地震は容易に誘発される。これは,スロー地震の断2008年以降,特に活発化していた30)。また本震発生の 1層の強度が,通常の地震を引き起こす断層と比べて弱いヶ月前から数日前には,前震活動が震源域周辺で確認さことを示しているのかもしれない。今後,スロー地震発れており,特に 3 月 9 日の最大前震の後,本震の破壊生域を対象とした大深度掘削で取得されるコアや孔内検の開始点に向けて前震の活動域が移動した。これは,本層による直接計測により,特に浅部のスロー地震の詳細震発生前にスロースリップが本震の破壊の開始点に向かが明らかにされるであろう。って拡大し,結果として本震を誘発した可能性を示. スロー地震で誘発される地震活動.. スロー地震と巨大地震スロー地震に関する研究では,それらが巨大地震発生56す29)。震源域直上に設置された海底圧力計や海底地震計の記録から,本震発生前のスロー地震活動が確認されている(図―.)14),15)。2011年 1 月下旬から本震時すべり域内地盤工学会誌,―()講 座ト境界部にひずみを蓄積し「高速」の地震性すべりとしてひずみを解放することで津波地震の震源域にもなり得ることを示す。すなわち,津波地震の発生領域は,完全に固着しているわけではなく,数ヶ月から数年間隔で繰り返し発生するスロースリップによって,蓄積されたひずみの一部を「スロー」に解放し,ある時「高速」の地震性すべりを伴う津波地震の震源域へとプレート境界のすべりモードが変化する可能性を示唆している。.. 「スロー」と「高速」すべりの共存「スロー」から「高速」にすべりのモードが切り替わる条件の一つとして,スロースリップの発生そのものが寄与している可能性が考えられる。東北地方太平洋沖地震の震源域直上で実施された海底掘削により,地震時に50 m 以上ずれ動いた地点の断層物質が取得されている。この断層物質を用いた摩擦実験として,プレート収束速度又はスロースリップの変位速度から高速の変位速度に図―. 2011年東北地方太平洋沖地震の震源域周辺で観測されているスロー地震(低周波微動及びスロースリップ)変化させた場合の摩擦の変化を調べた31) 。結果として,プレート収束速度からの変化では,変化後にすべりに伴い摩擦が増加したのに対して,スロースリップの変位速度からの変化では,摩擦が低下する傾向にあることが示で,スロースリップ及び低周波微動が観測された。スされた。つまり,スロースリップが発生している周囲でロースリップに伴う地殻変動は, 2011 年 1 月下旬から地震が誘発され,特にその破壊がスロースリップ域に伝震源域直上に設置された海底圧力計で観測された14) 。播してスロースリップ域の変位速度を増加させる場合,また,スロースリップの発生に伴う微動活動が,海溝軸その後すべりに伴い摩擦が低下することでスロースリッ近傍に設置された海底地震計で確認されている15) 。特プ域が「スロー」から「高速」にすべりのモードが変化に,海底圧力観測から 2 月上旬以降にスロースリップするのかもしれない。が陸側から海溝軸側に拡大したこと,3 月 6 日以降に海上記の結果はスロー地震と巨大地震の関係として,溝軸周辺の地震計で観測された微動の振幅が増大してい.節で述べた「誘発」作用に加えて,特に浅部のスローたことから,本震発生前のスロー地震活動は,最大前震地震発生域ではスロー地震の発生そのものによる強度低の破壊の開始点周辺(深部)のみならず,海溝軸近傍下に伴う地震時すべりの「促進」作用を考える必要性を(浅部)でも活発化していたと考えるべきである。. 南海トラフの巨大地震とスロー地震の関係.. 巨大地震発生域はスロー地震示している。ただし,深部のスロー地震の促進作用については発生域の断層物質を用いた実験による検証が必要である。.. 南海トラフの巨大地震のシナリオ例.節では,2011年東北地方太平洋沖地震の本震発生南海トラフの巨大地震に対しても,スロー地震による前のスロー地震活動と,スロー地震による巨大地震の「誘発」及び「促進」作用を考慮する必要がある。南海「誘発」の可能性を述べた。また,本震発生前のスロートラフのスロー地震は固着域の浅部及び深部延長部に分地震の活動域は,最大前震や本震の破壊の開始点の近傍布する(図―.)。さらに.節で述べた遠地地震,潮に限らず,海溝軸付近にまで拡大していた可能性も述べ汐等による微小な応力擾乱で誘発されることを考慮するた 。 2011 年 東 北地 方太 平 洋沖 地震 前に 観 測さ れ たスと,巨大地震発生域の応力蓄積が地震発生に向けてあるロー地震の特徴として,スロー地震域が本震時に 30 m程度準備が整った状況下で,スロー地震発生から巨大地以上ずれ動いた領域に含まれ(図―.),また沿岸部を震発生に至る以下のようなシナリオが考えられる(図―襲った巨大津波の波源域とほぼ一致する点が挙げられる。.)。これらの特徴は南海トラフの巨大地震・津波とスロー地震の関係を考える上で重要となる。津波の波源域とスロー地震の発生域との関係を調べた研究は,ニュージーランドでも行われている。ニューもし,深部のスロー地震についても促進作用が有効である場合,マグニチュード 9 を超えるような巨大地震となる可能性がある。また破壊が海底まで到達する場合,結果として巨大な津波が沿岸部に到達する。ジーランド北島の東方沖のヒクランギ沈み込み帯で実施巨大地震発生域の応力蓄積が相当十分な場合,スローされた海底地震・地殻変動観測から,スロースリップ域スリップによる誘発に限らず,潮汐などの別な応力擾乱の一部が 1947 年に発生した津波地震の震源域と一致すでも誘発されるかもしれない32) 。また,自発的に発生る可能性が示された16) 。これはスロースリップ域が,することも十分あり得る。ただし,浅部でスロースリッ通常の地震と同様に,プレートの沈み込みによりプレープが発生していない場合「促進作用」が働かないため,January, 201857講 座図―. スロー地震の影響により発生する南海トラフ巨大地震のシナリオ例地震時すべりは海底に到達できずに終了する。一方,浅や数値シミュレーションに基づきプレート境界のずれ動部のスロースリップのみが発生している状況で,もしスき状況の実況・予測図(気圧配置の実況・予測図に相当)ロースリップが南海トラフ巨大地震の固着域すべてを誘を作成・公開し,地震発生前に注意報や警報を Pre 発できずにマグニチュード 6 ~ 7 程度の中大地震の誘EEW(図―.)として発信できるような予測技術基盤発に留まれるのであれば,浅部スロー地震域の「促進作の構築にむけた基礎研究及び技術開発が重要であろう。用」により破壊が海底にまで到達し,結果 1605 年慶長地震で指摘されているような津波地震となり,沿岸部で. ま南海トラフのプレート境界断層から派生する巨大分岐め本章では,西南日本や 2011 年東北地方太平洋地震に観測される「ゆれ」に比べて大きな津波が沿岸部に到達するかもしれない。とおけるスロー地震の研究事例を中心に概観し,スロー地震と巨大地震との関連について述べた。これらの成果は,断層及び沈み込み帯先端部では,過去にも海底まで地震主として 1990 年後半以降整備された地震・地殻変動観時すべりが到達していたことが地質学的な調査から知ら測網に依るところが大きい。日本海溝や南海トラフにおれている33) 。本震時の地震時すべりが,巨大分岐断層いて,今後海底ケーブル式の地震・地殻変動観測網の整を選ぶか,プレート境界断層を選ぶか,そのいずれも選備が進むなか,巨大地震の発生予測及び被害軽減に向けばずに海底まで到着せずに破壊が終了するかは,本震発て,特に沈み込み帯におけるスロー地震及び巨大地震と生前のスロー地震の発生状況,特に浅部のスロー地震活関係に関する研究のさらなる推進が必要である。これら動が決めているのかもしれない。の研究は,地震学や測地学などの地球物理学手法に限ら.. スロー地震のモニタリングず,岩石学的・地質学的な視点からの調査・研究も含め,将来発生する南海トラフの巨大地震の発生時期や規模学際的な取り組みが今後,特に重要となる。を予測する上で,スロー地震のリアルタイムモニタリングが有効であろう。特に海洋研究開発機構が進めた地謝辞震・津波観測監視システム(DONET)の海底地震計や本章を記すにあたって,本講座にて執筆の機会を与え圧力計などのデータに基づくスロー地震の発生状況の監ていただき,また丁寧に原稿を見ていただいた海洋研究視が重要となる。開発機構・倉本真一氏に厚く御礼申し上げる。本章は,現在,気象予報では,観測記録と数値シミュレーショ2011 年東北地方太平洋沖地震やスロー地震の研究に参ンによる降水ナウキャスト・短時間予報,そして実況・画された多くの研究者の皆様の研究成果に基づいている。予測天気図として,降水域・雨量や気圧配置・天気の実記して御礼申し上げる。本研究を推進するにあたり況及び中長期の予測情報が公開されている。これらのうJSPS 科 研 費 ( 基 盤 研 究 A 海 外 JP26257206 ) 及 びち,降水ナウキャスト・短時間予測に相当する情報としJST 「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラムて,緊急地震速報( Earthquake Early Warning: EEW )(SATREPS)」(#15543611)を使用させていただいた。が運用されている。今後は,スロー地震のモニタリング58地盤工学会誌,―()講 座図―. 海底観測網を用いたスロー地震のモニタリングと事前地震注意報・警報の発信参1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)11)考文献Heki, K., Miyazaki, S. i. and Tsuji, H.: Silent 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