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タイトル 風化履歴や曝露環境等を考慮した新第三紀海成堆積岩の酸性化可能性及び砒素の溶出傾向の評価(<特集>自然由来物質への対応)
著者 巽 隆有・山本 隆広・龍原 毅
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
ページ 24〜27 発行 2017/11/01 文書ID jk201707180011
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  • タイトル
  • 風化履歴や曝露環境等を考慮した新第三紀海成堆積岩の酸性化可能性及び砒素の溶出傾向の評価(<特集>自然由来物質への対応)
  • 著者
  • 巽 隆有・山本 隆広・龍原 毅
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
  • ページ
  • 24〜27
  • 発行
  • 2017/11/01
  • 文書ID
  • jk201707180011
  • 内容
  • 報告風化履歴や曝露環境等を考慮した新第三紀海成堆積岩の酸性化可能性及び砒素の溶出傾向の評価Evaluation of Acidiˆcation and Leaching of Arsenic in the Neogene Sedimentary RocksConsidering Weathering History and Exposure Condition巽隆有(たつみ株パシフィックコンサルタンツ龍山たかくに)主任技師原本隆広(やまもと株パシフィックコンサルタンツ毅(たつはら株パシフィックコンサルタンツたかひろ)技術課長たけし)チーフ・プロジェクトマネージャー. は じ め に海成堆積岩や変質岩を基盤岩とする地域において大規模切土工事やトンネル工事を行う場合,酸性化や自然由来の重金属等の溶出が懸念され,対策を必要とされる事例が近年増加傾向にある1)~3)。写真―新規コアの保管状況海成堆積岩は,その形成過程において海水中の金属イオンや硫酸イオンなどを取り込むことで生成された黄鉄紀鮮新世の泥岩及び砂岩からなる海成堆積岩を基盤岩と鉱などを含むことがある。黄鉄鉱を含む岩石は,地中深し,この基盤岩では酸性化や自然由来の砒素の溶出が懸くでは還元環境下で黄鉄鉱が安定しているが,掘削によ念される。り大気曝露されると酸素や水と反応することで黄鉄鉱が試験に用いたボーリングコア試料は,試料の状態によ酸化・溶解するため,掘削当初は中性から弱アルカリ性り既存コア試料と新規コア試料に大別した。既存コア試を呈するものが酸性となる。一般的にこのような土は酸料は掘削後コア箱に入れられ倉庫に保管されたものであ性硫酸塩土壌と称され,判定には過酸化水素水を用いたり,掘削後 8~10年程度経過したものである。新規コア試験4) を適用する場合が多い。また掘削土中の緩衝試料は掘削当初のボーリングコア試料で,試験を行うま能力を考慮する方法として,総硫黄含有量や S/Ca モルでの酸化防止を目的に掘削後速やかにボーリングコアを比,短期溶出量試験の pH を考慮した新たな判定方法がラップなどで養生し,脱酸素剤を封入したガスバリア袋提案されているが5),大気曝露によるで真空パック保存を行った(写真―参照)。pHpH の変化などを把握した事例は少ないのが現状である。黄鉄鉱の溶解に本稿ではボーリング 20 孔(既存ボーリング 15 孔,新伴い共存物質である硫砒鉄鉱から砒素の溶出が促進され規ボーリング 5 孔)より採取した合計212試料を用いてる可能性も指摘されているが6),強制的な溶出を促す試試験・評価を行った。また採取したコア試料は岩片状で験に基づいたものであり,大気曝露による pH の変化とあることから,破砕・風乾し 2 mm 以下に調整した試料砒素溶出量の関係について把握された事例は少ない。さを供試体とした。らに,海成泥岩では風化の影響により深度方向に鉱物組. 試験方法成や pH ,物理特性が変化することが把握されている7)。そこで本稿では,実際の施工により近い曝露環境下における酸性化の有無やその程度,それに伴う砒素溶出量基礎的性状把握のための試験採取した試料の基礎的性状を把握するために,pH 試験,pH(H2O2)試験,溶出量試験を実施した。の変化などを把握することを目的に,大気曝露や酸化促pH 試験は,調整した試料を用いて地盤工学会基準進した試料を用いて各種試験を実施し,それらの評価を「土懸濁液の pH 試験方法」( JGS 0211 2009 )4) に基づ行った。さらに複数のボーリング孔について各種試験・き実施した。pH 試験を実施した溶液については,電気評価を行うことで,酸性化可能性と砒素溶出傾向に及ぼ伝導率も併せて測定した。なお,一般的に pH 4 を下回す地質区分や風化履歴の影響を評価した。ると植生の育成阻害が問題となるため,pH 試験につい. 試 験 方 法ては pH 4 を目安としてとりまとめた。pH ( H2O2 )試験は,地盤工学会基準「過酸化水素水. 試料による土及び岩石の酸性化可能性試験方法(案)」(JGS北海道地方の道路建設計画箇所において採取したボー0271 2015 ) に 示 さ れ る 方 法 に 基 づ き 実 施 し た 。 pHリングコアを用いて試験を実施した。当該地は,新第三(H2O2)試験では,pH(H2O2)≦3.5の場合に酸性硫酸塩24地盤工学会誌,―/(/) 報図―既存コア試料の pH と電気伝導率(EC)の関係図―告大気曝露・酸化促進試験の pH と pH ( H2O2 )の関係図―新規コア試料の酸化促進試験結果図―pH と砒素溶出量の関係土壌と評価され,長期的に酸性化する懸念があると判定される。溶出量試験は,建設工事における自然由来重金属等含泥岩の最高 pH が砂岩に比べ 2 程度高く,最低 pH は同等程度であった。有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)8) に示され新規コア試料の酸化促進試験による pH の経時変化のる短期溶出試験に基づき実施した。分析項目は既往調査詳細を図―に示す。図―では同一孔(図―で後述において土壌溶出基準超過が確認された砒素とした。溶する地点 A )で深度が異なる 2 種類の試験結果を示し出液の pH も測定し pH 試験と大きく相違がないことをており,深度が浅い試料では酸化促進期間とともに pH確認した。が低下しているが,深度が深い試料では pH の変化が見酸化促進試験新規コア試料については,基礎的性状の把握のための試験に加えて酸化促進試験を実施した。試験方法は,土られなかった。なお,両試料とも pH(H2O2)は3.5以下となり酸性硫酸塩土壌と評価された砂岩で,長期的に酸性化する可能性がある試料と判定されていた。壌環境分析法の保温静置(インキュベーション)法試図―,図―より,同一地質であっても pH が低下験9)を参考とした。調整した試料を樹脂製フィルム袋にするものとしないものが存在することを確認した。この入れて適宜水分を加え,恒温器( 20 °C )で保管し,定ため,既存コア試料では pH 試験と pH ( H2O2 )試験,期的(9 期日1 日,7 日,14日,21日,28日,35日,新規コアでは酸化促進試験と pH ( H2O2)試験を実施し,42 日, 49 日, 56 日)に pH 試験及び溶出量試験を実施各 pH 値 の 関 係 を 図 ―  に よ り 求 め た 。 そ の 結 果 ,した。pH(H2O2)≦3.5であってもそれ以外の手法では pH は 4.試験結果とその評価以上であるものが大半であった。このことより,当該地の堆積岩では,既往文献5)でも指摘されているように,. 酸性化の可能性過酸化水素水を用いた pH 試験(pH(H2O2)試験)では大気曝露された既存コア試料の pH 試験結果を図―酸性化の可能性を過度に評価する場合があることが確認に示す。pH は酸性からアルカリ性までの広い範囲を示し,酸性域では電気伝導率が高くなる傾向を示した。電された。. pH の変化と砒素溶出量の関係気伝導率が概ね100 mS/m 以上では pH は 4 以下を示す泥岩と砂岩を対象に掘削当初,酸化促進後,大気曝露試料が多く, pH 4 より酸性側では電気伝導率が上昇し後の pH と砒素溶出量の関係を調べた(図―参照)。た。試験に用いた既存コア試料は全142検体(泥岩63検なお,溶出量試験時には一般的に溶出液の pH を測定す体,砂岩 79 検体)であった。泥岩では最低 pH 3.6 ,最るが,図―で示す pH は,溶出量試験に用いた試料と高 pH 9.9,砂岩では最低 pH 3.2,最高 pH 7.9であり,同一試料を用いて別途実施した pH 試験の結果である。November/December, 201725 報告日)に測定し,砒素溶出量は掘削当初と酸化促進後に測定した。まず,斜面部(地点 A )について確認すると,掘削当初の pH は深度 80 m 程度まで微増し,それ以深ではpH 8 程 度 で ほ ぼ 一 定 で あ っ た 。 深 度 90 m 以 浅 で はpH(H2O2)はほとんどの深度で 3.5以下であったものの,深度90 m 以深では3.5以下となるものが少なかった。また,酸化促進後の pH は深度 80 m 程度まで低下しており,それ以深では当初とほとんど変化が見られなかったことが確認された。一方,砒素溶出量は深度 60 m 程度までほとんどで定量下限値( 0.001 mg / L )以下であったが,それ以深では砒素の溶出が確認された。次に,沢近傍(地点 B)について確認すると,掘削当初の pH は斜面部よりも若干高く,深度が深くなるにつれて上昇傾向にあり,孔底(深度 75 m 付近)では pH10程度であった。pH(H2O2)はほとんどの深度で3.5以図―pH 及び砒素溶出量の深度分布(地点 A)下であった。また,酸化促進後の pH は当初と同程度の値を示す深度が多く,強酸性となる箇所は存在しなかった。一方,砒素溶出量は地表付近(深度 20 m 付近)で土壌溶出量基準を超過し,深度 40 m 以深では土壌溶出基準をほとんどの試料で超過した。. 酸性化可能性と砒素溶出傾向に及ぼす地質区分と風化履歴の影響酸性化や砒素溶出量が深度方向で異なる要因としては,風化履歴の影響が考えられる。千木良7)は,新第三紀の海成堆積岩(泥岩)で深度方向の物理・化学的性状やpH などの調査を行い,泥岩の化学的風化のメカニズムについて以下のようにとりまとめている。泥岩地山は茶褐色を呈する強風化部の下位に暗灰色を呈する弱~未風化部で構成されるが,新鮮岩の物理・化図―pH 及び砒素溶出量の深度分布(地点 B)学特性との比較より上位から酸化帯(表層酸化帯含む),溶解帯,溶解漸移帯,新鮮岩に区分できる(図―参照)。酸化帯は緑泥石と黄鉄鉱が消失し茶褐色を呈する箇所で図―より,当該地の砒素の溶出量は,砂岩に比べ泥あり,強風化部に相当する。溶解帯は多くの鉱物が消失岩で高い傾向にあることが確認された。砒素溶出量はアしているが黄鉄鉱量は新鮮岩と変わらない箇所である。ルカリ性域で高く,pH の低下に伴い低下した。既往研鉱物の消失は,酸化帯において黄鉄鉱の酸化・溶解によ究6)ではpH を強制的に低下させることを目的に硫酸なり生成された水素イオンが下方に拡散したためと考えらどの溶媒を用いて溶出量試験を実施しており, pH 4 以れている。溶解帯では溶解の程度に深度方向の変化が確下となる場合に砒素の溶出量が増加することが報告され認されていないことから,溶解帯の下底に反応のフロンている。本稿の大気曝露や酸化促進試験のような実際のトがあると考えられ,これを溶解フロントと呼んでいる。施工により近い曝露環境下で得られた結果では,酸性領溶解漸移帯は,減少した鉱物の量は少なく新鮮岩と溶解域での砒素の溶出量の増大は起こらなかった。帯の間に分布する。. pH と砒素溶出量の深度分布このような現象は,黄鉄鉱を含む泥岩の風化現象に共岩盤の風化程度と酸性化及び重金属等の溶出状況との通する特徴であると考えられている。同じ堆積環境下で関係を把握するため,風化履歴が異なると想定される地は,砂岩も量は少ないものの黄鉄鉱などが生成されるた点 A 及び B の 2 つのボーリング地点(図―で後述)め,後述する風化履歴の影響については砂岩も泥岩と同において,地表から深度120 m 程度までを対象に検討を様に評価することとした。行った。斜面部(地点 A )は砂岩主体であり,沢近傍(地点 B )は泥岩主体であった。 2 地点の pH 及び砒素試験結果と千木良7)から推定される当該地の各帯(層)の酸性化と砒素溶出の可能性を以下に示す。溶出量の深度分布を図―,図―に示す。グラフの縦砂岩が分布する斜面部では,酸化促進試験により pH軸は地表からの深度である。pH は掘削当初の未酸化のが低下した領域が溶解帯に相当し,その領域の下限とな状態, pH ( H2O2 )による強制酸化後,酸化促進後( 56る深度 80 m が溶解フロントであると考えられる。千木26地盤工学会誌,―/(/) 報図―告調査地点と酸性化・砒素溶出可能性の模式図図―掘削箇所と発生土の懸念事項の関係良7)より,酸化フロント以深では黄鉄鉱量に変化はないが,酸化帯で生成された水素イオンにより溶解帯中の緩れる新第三紀の海成堆積岩の掘削工事を行う際は,強制衝鉱物(長石類や方解石など)が消失していたため,酸的な酸化試験では酸性化の可能性を過大評価する可能性化促進すると黄鉄鉱が酸化・溶解し pH が低下したと考があるため,酸化促進試験などの実際の施工により近いえられる。また,深度 80 m まではほとんどの試料で砒曝露環境を考慮した現実的な評価を行うことが望ましい。素溶出量が定量下限値以下であり,砒素などの重金属等また,酸性化可能性及び砒素溶出傾向は地質区分や風化は既に消失したと考えられることから溶解帯と判定した。履歴の影響も受けるため,それらを考慮した上で,判定泥岩が分布する沢近傍では,酸化促進により pH が低下し,かつ砒素溶出量が極めて低い深度がなかった。沢を行うことが望ましい。ただし,以上の評価手法を対策上の検討に実用化する近傍では比較的風化の影響を受け難いため,溶解帯が存ためには, 2~ 4 週間で行う酸化促進試験の酸性化の程在しなかったか,極めて薄かったものと考えられる。図度と,実際の環境下で生じる酸性化の程度との相関を明―などに示した既存コア(大気曝露)の分析結果によらかにすること,地質区分や風化履歴の影響を定量的にると泥岩でも酸性化が確認されており,砂岩同様に溶解評価することが必要である。そのためには,異なる地域,帯は存在したと考えられるが,間隙の大きさが小さく透地質帯で同様の分析を実施し,データを蓄積することが水性の低い泥岩では風化の進行が遅いため,溶解帯の深必要であると考えられる。度を確認できなかった可能性が考えられる。本稿では地表付近の茶褐色を呈する強風化部(酸化帯)については詳述していないが,酸化帯(当該地では約参1)10 m 以浅)では黄鉄鉱がほとんど存在せず砒素の溶出も確認されなかったため,千木良7)と同様に黄鉄鉱など2)の酸化・溶解が進んでいたものと考えられる。以上の関係より,調査地点と酸性化・砒素溶出の可能性の模式図を図―に示す。風化部が厚く存在する斜面3)部では,酸化帯を除く深度 80 m 程度までは酸性化が懸念される。それ以深では,砒素を溶出する可能性が高い。一方,泥岩を主体とする沢部などの比較的風化履歴の影響が少ない箇所では,酸性化しないものの砒素を溶出す4)5)る可能性が高い。当該調査地の掘削工事などを行う場合,図―に示すような大規模切土では,最下段の暗灰色の6)岩については酸性化の懸念がある。また,図―のようなトンネルの坑口付近では酸性化,深度の深いトンネル7)中央部では重金属等溶出の懸念があると考えられる。これらの状況を想定することで,効率的に調査し現実的に8)判定することが可能になると考える。. まとめ本稿で示したように,酸性化や重金属等溶出が懸念さNovember/December, 20179)考文献河東頼男・立松和憲・橋爪 智新東名高速道路豊田東JCT ~浜松いなさ JCT 間のトンネル群,トンネルと地下,Vol. 47, No. 7, pp. 7~16, 2016.谷畑一行・菊谷正己・橋 靖自然由来の重金属を含む建設発生土の処理と対策―仙台地下鉄東西線―,トンネルと地下,Vol. 41, No. 1, pp. 29~39, 2010.服部修一・太田岳洋・菊地良弘八甲田トンネルにおける掘削残土の酸性水溶出に関する判定手法の評価,応用地質,Vol. 47, No. 6, pp. 323~336, 2007.地盤工学会地盤材料試験の方法と解説―二分冊の 1―,株 ,pp. 310~315, 2009.丸善伊東佳彦・田本修一・宍戸政仁自生植物を利用した積雪寒冷地の酸性法面対策工に関する研究,平成24年度土木研究所成果報告書,2012.鈴木哲也・竹花大介・榊原正幸・板谷利久重金属を含有する掘削土砂の処理判定と対策,土と基礎,Vol. 52,No. 9, pp. 13~15, 2004.千木良雅弘泥岩の化学的風化―新潟県更新統灰爪層の例―,地質学雑誌,Vol. 94, No. 6, pp. 419~431, 1988.建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版),2010.日本土壌肥料学会監修 土壌環境分析法編集委員会編土壌環境分析法,博友社,pp. 297~301, 1997.(原稿受理2017.7.24)27
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