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出版

タイトル 公共工事における自然由来重金属等を含む建設発生土への対応方針(<特集>自然由来物質への対応)
著者 鈴木 弘明
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
ページ 4〜7 発行 2017/11/01 文書ID jk201707180006
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  • タイトル
  • 公共工事における自然由来重金属等を含む建設発生土への対応方針(<特集>自然由来物質への対応)
  • 著者
  • 鈴木 弘明
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
  • ページ
  • 4〜7
  • 発行
  • 2017/11/01
  • 文書ID
  • jk201707180006
  • 内容
  • 公共工事における自然由来重金属等を含む建設発生土への対応方針The Policy of Deal with Excavated Soils Containing Natural Source Heavy Metals in Public Works品川俊介(しながわ国立研究開発法人土木研究所しゅんすけ)主任研究員. は じ め に土壌汚染対策法の制定を契機に自然由来重金属等を含む建設発生土が広く存在することが明らかとなった。そ阿南修司(あなん国立研究開発法人土木研究所しゅうじ)上席研究員環境対応に関する基本的な考え方(後述)を常に念頭に置きつつ,現場の諸条件を勘案して検討する必要がある。その際,公共事業が国民の税金を費やして対応することに鑑みると,過不足のない対応をすることが肝要である。してこれらの環境安全性評価方法についての明確な規定自然由来の重金属等を含む土や,掘削後に酸性化するがない中で,建設現場ではその対応方法に関して様々な土の存在が予想される地域における公共建設工事では,混乱が生じた。筆者らは,約 15 年に渡って公共工事に対応が必要な建設発生土の量が膨大になること,土は建おける自然由来重金属等を含む建設発生土に関して研究設材料として有用な資源であることを踏まえ,事業の計を実施するとともに,公共事業者,コンサルタント及び画時から次の視点での検討が必要である2 を改変)。研究者の方々と共に議論しながら現場対応を行ってきた。 自然由来の重金属等を含む,あるいは酸性化する土◯筆者らは本誌 2017 年 8 月号に自然由来重金属等を含の掘削の回避む建設発生土についての解説1)を執筆させていただく機 発生土の減量◯会を得た。本稿では,その中の議論の前段となる,公共 発生土の適切な現場内利用と管理◯工事における環境対応に関する基本的考え方を論じたい。 発生土の適切な搬出,現場外管理◯そして,事業段階に応じた建設発生土への対応の選択肢一方,自然由来の重金属等を含む,あるいは酸性化すについて整理したい。実際の発生土の試験・評価方法,る建設発生土の評価方法が確立しているとは言えない現対策工の選定方法などについては拙稿1)を参照いただき状であることから,順応的管理手法も含めて検討するこたい。とが望ましい。いずれにせよ最終的には,モニタリングなお本稿でいう「自然由来重金属等」とは,土壌汚染対策法の対象物質のうち,天然に存在する可能性がある等の結果を踏まえて必要に応じて対応を行う,すなわち事業者が責任を持つことが必要であると考える。8 物質(カドミウム,鉛,水銀,六価クロム,砒素,セ. どのような場合に検討を行うかレン,ふっ素,ほう素)を指す。「土壌」とは土壌汚染「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌対策法でいうところの土壌をいう。また「岩石」とは,への対応マニュアル(暫定版)」(以下,「国交省マニュ土壌汚染対策法でいう「岩盤」と同義で,固結した地質アル」という)2)では,「自然由来の重金属等を含有するをいい,土壌汚染対策法の対象外である。さらに「土」岩石,土壌,あるいはそれらの混合物(以下,「岩石・は,「土壌」や「岩石」の総称で,「建設発生土」あるい土壌」という)に起因する人への健康への影響のおそれは「発生土」という場合には,建設工事で発生する「土」が新たに発生する場合」としている。一方,自然由来のの掘削物を指す。重金属等を含む土の分布が,その形成年代を問わず多様.公共工事に求められる環境対応な岩石種において確認されていること,さらに国民の環境に対する関心度が高い現状がある。その点を踏まえる公共工事の実施に当たっては,当然のことながら関係と,建設発生土の堆積を行う事業を実施するに当たり,法令の遵守が求められる。建設発生土の取り扱いに関し原則として必ず何らかの検討を行う必要があると考えらては,まず一定規模以上の土地の形質変更にあたり,れる。「土壌汚染対策法」の届出が必要で,場合によっては同法に基づく調査を命ぜられる。また建設発生土の掘削場. 環境対応の基本的な考え方とは何か土壌汚染対策法は「国民の健康を保護することを目的」所に関して「土壌汚染対策法」(指定区域内の場合),(第 1 条)としており,これを挙げることができよう。「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(陸域をまた,公共工事においてはその他の環境への影響,特に含む公共用水域の場合),「廃棄物の処理及び清掃に関す農作物を含む生物への影響を可能な限り小さくすることる法律」(廃棄物処分場の場合),「鉱山保安法」(鉱山区などを挙げることができよう。これらのほか,発生土の域の場合)などに従う必要がある。このほか,各自治体搬出先によっては社会的な要因を考慮する必要もある。が定める条例についても配慮が必要である。以下にそれぞれの考慮すべき内容について議論する。各法令の対象外の建設発生土の取り扱いについては,4地盤工学会誌,―/(/) 論人の健康への影響の考慮説岩盤を侵食する谷の中に埋土をする場合など地中に浸透土壌汚染対策法は,汚染土壌を固体のまま経口摂取すした地下水が下流近傍ですぐに表流水と混合してしまうる場合と,汚染土壌から水に溶け出した有害物質が地下と考えられる場所で,かつ現に地下水利用がなく,隣接水に付加され,これを飲用する場合の 2 つの曝露経路地の土地所有者の了解が得られる場合,臨海埋立地など,を評価している3)。さらに建設発生土の利用の場面では既に地下水質が飲用に適さない場合等が考えられる。盛土等の構造物から表流水として公共用水域に排水するc)場合が考えられる。以下に 3 つの曝露経路について,実際の建設工事では盛土浸透水については表流水とし評価の考え方を議論する。a)土の経口摂取土壌の経口摂取の基準としては土壌含有量基準が設定表流水経由の摂取て排水する場合がある。その場合には一般に,同法に定める特定事業場から公共用水域に排水する場合の基準である一律排水基準を準用することが考えられる。ただし,されている。自然由来の重金属等を含む建設発生土につ排水地点下流の水利用の状況を踏まえ,必要に応じて環いては,直接摂取のリスクを把握するための試験2)(必境基準を適用することも検討するべきであると考える。要に応じて試料を粉砕し,目開き 2 mm のふるいを全通例えば,流量が少ない河川へ多量の排水を排水する場合させ,これを縮分した試料を用いた土壌含有量試験)ので,直下流にて表流水を取水し利用している場合などで結果を土壌含有量基準値と比較して評価することが提案ある。されている。b)地下水経由の摂取地下水経由の曝露経路については,原則として敷地境環境への影響建設発生土の堆積による環境影響として,重金属等の溶出以外に,土の異常 pH の問題を挙げることができる。界における地下水について地下水環境基準(水道水質基土の pH が低すぎる,あるいは高すぎることで,植物の準と同値)を適用することが考えられる。ここで敢えて生育への影響が発現し,場合によって枯死することもあ土壌溶出量基準を挙げないのには理由がある。それは,る。また土からの浸出水が表流水に流入することで,魚土壌溶出量基準は地下水環境基準と同値であるが,比較類への影響が出た事例5)がある。対象の土壌溶出量試験の結果が地下水濃度を近似できうるものとは考え難いからである。水域への影響を未然に防止するための pH 基準としては一律排水基準がある。土からの浸出水に関する pH の自然由来の重金属等を含む岩石の曝露試験結果4)によ基準について,品川・佐々木6)は曝露試験による評価にると,浸出水の有害物質濃度は,その初期では一般に短おいて一律排水基準の基準値を準用し,国交省マニュア期溶出量試験(岩石試料を目開き 2 mm のふるいを全通ル2)ではその考え方を踏襲している。させ,これを縮分した試料を用いた土壌溶出量試験)よその他,排水先の状況によって配慮が必要な項目があり高い濃度を示すが,その後時間と共に濃度が低下する。る。例えば排水先の直下流で水道用の取水を行っているそしてその低下の程度は,岩種や岩に含まれる鉱物種な場合には,水道水質基準の各項目などへの配慮が必要などに依存する。特に黄鉄鉱などの硫化鉱物を含む場合に場合があると考えられる。は浸出水の液性が酸性になり,含まれる有害物質の種類や量が溶出試験のそれと異なることもある。土壌汚染対社会的要因の考慮事業者以外の者が所有・管理する土地に土を搬出する策法で土壌とされる,海成粘土層も一般に黄鉄鉱を含み,場合,人の健康や環境への影響がないと考えられる場合これを掘削して空気に曝すと酸性化し,時に重金属等のにおいても,次のような点に配慮が必要である。溶出が起こると考えられる。先に述べたとおり,土壌汚染対策法の評価方法は,土このようなことから,法対象外の自主的な対応におけ壌性状の経時的変化を考慮していないため,ある時点でる地下水経由の曝露評価の基準としては,地下水環境基同法の基準,特に土壌溶出量基準を満足したものが将来準を一応の基準とすることが妥当であると考える。ただにわたってその基準を満足し続けるとは限らない。またし,基準値の設定の考え方3) (人が毎日 2 L ・ 70年間そ土壌汚染対策法は,岩石についてその対象外としているの水を飲み続けた場合に疾病が発生する確率が 10 万分が,スレーキングなどによって岩石が経時的に細粒化すの 1 上昇するとされる濃度)をふまえると,溶出濃度ることで,その土が将来,土壌として扱われる可能性がが時間変化する場合においては,一時的にその基準を超ある。そのため,事業者以外が所有・管理する土地に土過しても必ずしも健康に影響があるとは言えないことにを搬出し,その後に土壌汚染対策法の方法を適用して評留意が必要である。価し基準を満足しないという場合が起こりえる。その場地下水水質の評価地点について,現状における水利用合は搬出者が何らかの責任を問われる危険性がある。し地点ではなく,ここでは原則として敷地境界とすることたがって,建設発生土を事業者以外が所有・管理する土を提案する。その理由は,隣接地に現在地下水利用がな地に搬出する場合には,土壌汚染対策法の基準を将来にくとも,将来飲用井戸を掘削する可能性があり,曝露地わたって満足できるよう,曝露試験など,長期的な土の点が工事終了後に移動することもありうるからである。性状の変化を把握し評価するか,搬出土が将来,基準をしかしながら例外もあると考えられ,評価地点について満足しない可能性があることを土地所有者に理解してもは事業毎に検討する必要がある。例外の一例としては,らう必要があると考えられる。November/December, 20175 論説表―図―.発生土の環境安全性への対応の特長と留意点7)建設発生土の環境安全性評価の開始のタイミングと実施可能な対応例7)を改変事業段階に応じた対応の選択肢じて選択可能な対応方法が異なると考えられる。例えば,事業を計画する際に,その早い段階から自然前述のような考え方に基づき,発生土への対応の選択由来の重金属等を含む,あるいは,掘削に伴い酸性化の肢を整理し,その特長や留意点を整理したものが表―可能性がある地質の分布を把握できれば,事業地の変7) である。また,図―7) に示すように事業段階に応更8),問題となる地質の掘削量の縮減,あるいは適切な6地盤工学会誌,―/(/) 論搬出先を選定する9)などに要する時間的余裕が生まれる。また,発生土の適切な環境安全性評価により,事業コス3)トを縮減できる場合がある7)。対応方法の選択肢が少ないと,事業コストが大幅に増大する危険性があることから,事業計画の初期の段階からの検討が強く望まれる。. まと4)め公共工事における環境対応は,法令外のことであって5)も配慮すべき事項がある。その際,関連法令の手法を参考にする前に,その根本的な目的と思想を汲み取って,必要十分な対応を行うよう心がけ,工夫を凝らしていく6)必要があると考える。本稿がその考えの整理に役立てれば幸いである。7)参考文献8)1)品川俊介・阿南修司自然由来重金属等を含む建設発生土,地盤工学会誌,Vol. 65, No. 8, pp. 57~64, 2017.2) 建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版), 90p.+資料 60p. ,国土交通省のリサイクルホームページ,2010 , 入 手 先 〈 http: // www.mlit.go.jp / sogoseisaku /region / recycle / recyclehou / manual / index.htm 〉(参照November/December, 20179)説2017.9.1)環境省指定基準値の設定の考え方,土壌環境施策に関するあり方懇談会(第 6 回),資料 2 , 7p., 2008 ,入手先〈 https://www.env.go.jp /water/dojo/sesaku _kondan/06/mat02.pdf〉(参照 2017.9.19)安元和己・品川俊介・阿南修司・佐々木靖人曝露試験による岩石からの重金属等の溶出濃度変化―気候条件の検討,第47回地盤工学研究発表会講演論文集,pp. 1861~1862, 2012.国土交通省多治見砂防国道事務所新滝ヶ洞溜池の水質異常に係る情報,国土交通省多治見砂防国道事務所ホームページ, 2003 2017 ,入手先〈 http: // www.cbr.mlit.go.jp/tajimi/suishitsu/index.html〉(参照 2017.9.1)品川俊介・佐々木靖人岩石に含まれる自然由来重金属等の溶出特性評価方法,土木技術資料,Vol. 52, No. 6,pp. 10~13, 2010.品川俊介自然由来の重金属などを含む発生土の有効利用,土木学会誌,Vol. 101, No. 7, pp. 30~31, 2016.門間聖子・細野哲久高規格道路のルート選定における地球化学的リスク評価,応用地質,Vol. 57, No. 2, pp.58~67, 2016.国土交通省高崎河川国道事務所新三国トンネル環境検討委員会 第 1 回検討資料,18p., 2014,入手先〈http:// www.ktr.mlit.go.jp / ktr _ content / content / 000108496.pdf〉(参照 2017.9.1)(原稿受理2017.9.1)7
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