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出版

タイトル 発生土の利用と自然由来物質 ―動向と課題―(<特集>自然由来物質への対応)
著者 勝見 武
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
ページ 1〜3 発行 2017/11/01 文書ID jk201707180005
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  • タイトル
  • 発生土の利用と自然由来物質 ―動向と課題―(<特集>自然由来物質への対応)
  • 著者
  • 勝見 武
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.11/12 No.718/719
  • ページ
  • 1〜3
  • 発行
  • 2017/11/01
  • 文書ID
  • jk201707180005
  • 内容
  • 発生土の利用と自然由来物質―動向と課題―Use of Excavated Soils with Natural Contamination勝見京都大学武(かつみたけし)大学院地球環境学堂. は じ め に教授意が必要である。重金属等は熱水には溶けた状態で存在しているが,この熱水の上昇過程で溶液が冷やされて金自然由来の重金属等を含む発生土・掘削ずりの問題が属鉱物を生成し,重金属等が地質に残存するというプロ近年よく取り上げられるようになっている。もともと土セスである。温泉水や鉱泉水からの重金属等の濃集も,木・建設の分野では,鉱山の近くや黄鉄鉱を含む地層で低温の熱水がもたらすものである。一方,海成の堆積層,建設工事を行うにあたり,重金属の溶出や酸性排水につ特に海成泥岩にも重金属等が含まれるものがある。粘土いて一定の配慮がなされてきた。一方,土壌汚染対策法粒子が沈降する際に海中の重金属等が取り込まれ,生成(以下,土対法)の2003年の施行と2010年の改正に伴い,した海成堆積層に重金属等が残存するというのが,その現場は土対法に則しあるいは準じて自然由来の問題に対プロセスである1)。このような地質の成因を知らずして応するようになり,一部では過剰に安全側ではないかと重金属等の調査分析を行えば,過剰な調査費用を要したの指摘もみられてきた。そのような中, 2015 年 6 月 30り,逆に大きな見落としをもたらす可能性がある。日閣議決定された規制改革実施計画では,自然由来の重金属等の問題に対して緩和の必要性が提起された。そして, 2016 年 12 月 12 日に出された中央環境審議会「今後.環境安全性の判定とその課題環境安全性の判定は汚染により健康被害が生じうるかの土壌汚染対策の在り方について(第一次答申)」(以下,どうかに基づいており,我が国では土壌環境基準あるい答申)と 2017 年 5 月 12 日成立の土対法の改正は,他のは土対法の指定基準(溶出量基準・含有量基準)によっいくつかの重要な改正事項を含んではいるが,自然由来ている。例えば土対法の溶出量基準は,土壌から対象物の重金属等の問題に関して言えばリスクに応じた合理化質が溶出した地下水を 70 年間毎日 2 L 飲み続けて,生の方向に初めて舵が切られたと言える。そしてこの改正涯発がんリスク 10-5 相当レベルとなる限界の値としてには,地盤工学を含む社会基盤・建設分野における取り定められている。また,含有量基準は,子供のときは一組みが反映されていると筆者は考えている。筆者はこの日200 mg,大人になってからは100 mg の土壌を70年間答申の策定など様々な議論に加わる機会を得たので,私摂取しても同様にリスクレベルが一定以下となる含有量見も含めて本稿でまとめてみたい。として設定されている。したがって,基準をわずかに超.自然由来の重金属等を含有する土えている土や溶出水を摂取したとしても,直ちに健康被害が生じるわけではない。土や岩石に重金属等が含有している状況は特別なこと土壌環境基準や溶出量基準のための試験(以下,土壌ではない。土や岩石のもととなる地球の地殻の元素組成環境基準の試験方法が平成 3 年環境庁告示 46 号としては, 1920 年代にクラーク博士らが数千に及ぶ火成岩の定められているため,「46号試験」とする)は,土を10元素を分析して算出した平均値を基本として示されてお倍量の水と混合して,水に溶け出てくる重金属等の濃度り,この値はクラーク数と呼ばれている。元素組成は地を測るものである。この試験方法は表層の人為的な汚染域によって若干の違いがあり,日本ではヒ素の濃度が世を対象として定められたため,建設現場等で発生する自界平均より高いなどの特徴がある。これは,日本列島が然由来の重金属等含有土に直接適用するにはいくつか問大陸プレートと海洋プレートが押し合う境界にあって,題点があることが指摘されている。例えば46号試験は 2特定の金属が融点等の関係で集まりやすいためと説明さmm 以下の土壌が対象だが,岩石を掘削した掘削ずりはれている。重金属等が高濃度で含まれていれば鉱床とな大きな塊のものがほとんどである。掘削ずりが発生するり,事業として成立するほどの濃度と規模の鉱床であれ多くの現場では,岩石を 2 mm 以下に破砕して溶出試験ば鉱山として活用できる。一方,採掘するほどの高濃度を行っている例が多いが,適度に破砕して細かくなったではないが,環境基準や土対法の指定基準を超過するよものだけを溶出試験の対象にするのか,岩石の全てを一うな含有量・溶出量を呈する岩石や土も存在する。定粒度以下に破砕するのか等,破砕の方法は統一されて重金属等を含む土や岩石を知る第一段階は,地質の成いない。例えば前者の方法では岩石の砕かれやすい一部り立ちを考えることである。熱水変質作用を受けた地質のみを試験したことになり,全体を評価したことにならには重金属等が存在する可能性が高く,掘削工事には注ないという指摘がある。一方,後者であれば一定粒度とNovember/December, 20171 総説はいくらが適切かを決めなければならないし,そもそも硬い岩石を 2 mm 以下まで破砕するのかという指摘もある。最近では,粗砕試料として最大粒径 40 mm を採用し,2 mm 粉砕試料の結果と併せて評価を行っている事例もある。岩石の種類と特性に応じた試験方法の確立が求められており,多くの基礎実験や現場試験が行われている。掘削により,土のおかれる環境が変わることの影響にも注意が必要で,中でも酸性化の評価は重要である。土や岩石に黄鉄鉱が含まれていると,これが空気に触れる図―トンネル掘削のプロセスと留意すべき事項ことで酸化されて硫酸が生成され,酸性水を発生する可能性がある。酸性化の反応は比較的緩慢で,1 年以上のとなる。安全性判定の時間短縮には,簡易法による溶出時間が経ってから酸性化が生じる場合もある。一般に重試験やプレボーリングによる試料採取などが行われるが,金属は酸性で溶けやすくなるため,酸性化が生じるかどこれらは公定法との照合から安全側の判定基準が設けらうかは重金属等の溶出リスクを考える上でも重要である。れ,結果として管理が必要な土が増える可能性もある。しかし, 46 号試験ではこのような酸性化の影響を考慮ストックヤードが十分に確保できるのであれば,公定法できていない。土木研究所等がとりまとめたマニュアルに準じた試験によってより丁寧に分別ができ,要対策土やハンドブック2),3)では,このような酸性化の可能性との削減につながる場合もある。土壌・地質と重金属等存その影響を評価する試験法も示されている。自然由来の在の可能性,基準超過土の受け入れ先(管理型盛土など)重金属等を含む地質の特性を考慮した,サイエンスに基の容量,コスト,仮置場やストックヤードの用地の確保づいたスタンスが貫かれている。の是非,工期の制約,土の運搬のロジスティックスとい.自然由来の重金属等を含む発生土の利用掘削で発生する全ての土が土対法の対象となるわけではない。土対法では,面積 3 000 m2 以上の土地の形質った諸条件を踏まえ,各現場でそれぞれに掘削土のマネジメントが行われているのが現状である(図―参照)。.平成年の答申と土対法の改正変更(地形と性質を変更すること)を行うとき等に調査2003 年に施行された土対法は当初は人為の汚染のみを義務付けており,その結果,基準超過の土壌があればを対象としていたが, 2010 年の改正により自然由来の指定区域に指定される。また,基準超過が自然由来の重重金属等も対象となった。法対象の下で自然由来特例区金属等であれば,指定区域のうち「自然由来特例区域」域に指定された例も含めて,多くの自然由来の重金属等に指定される。指定区域で土を掘削してその外に持ち出は,基準を超えている場合でもその濃度レベルは低く,す場合は,持ち出し先は指定された汚染土壌処理施設に基準の数倍程度までのものがほとんどである。しかし,限定されるが,これは自然由来特例区域も例外ではない。基準超過ということで対象土は浄化あるいは処分に供さm2未満であったり,掘削物が土壌れることが多く,法規制が厳しすぎるのではとの指摘がではなく岩石であれば,土対法の届出や調査の対象とな各方面からあった。冒頭に記した 2015 年の規制改革実一方,面積が 3 000らない。したがって,土対法対象外の掘削土や岩石は,施計画では,自然由来物質に係る規制の見直しとして一定レベル以上の重金属等が含まれていても盛土等に活「自然由来物質に係る規制の在り方につき,事業者等の用されることがあるが,重金属等が一定濃度以上溶け出意見を踏まえつつ,人の健康へのリスクに応じた必要最す可能性のあるものは「管理型盛土」として利用され小限の規制とする観点から検討し,結論を得る。」としる2),3)。管理型盛土とは,例えば盛土の中に遮水材を設置してて, 2015 年度に検討開始,翌年度には結論を得るよう示された。内部を水理学的に隔離するなどの対応がとられた盛土の土対法の下では,基準超過土を含む土地は指定区域とことである。通常の盛土と異なり遮水材を敷設するためなり,指定区域から出される土は,行政から許可を受けコストもかかり,盛土安定性の観点から遮水材と土の境た汚染土壌処理施設にその処理を委託しなければならな界面のすべりも考慮しなければならない。遮水シート以い。土がどこでどのように使われても環境リスクの問題外にも,粘土層敷設などの方法が提示されているが3),は生じさせないようにするとの前提で法制度設計がなさいずれも通常の盛土よりは高価となる。したがって現場れており,法対象の土地では汚染土壌処理施設以外にはの対応としては,掘削土を,管理型盛土で受け入れるべ基準超過土の行き場はない。一方,原理原則論から自然き土と一般の盛土材としてもよい土とに分別し,前者を地由来の重金属等を含む発生土の利用を考えた場合,できるだけ減らすことが様々な観点から効率的である。 トレーサビリティ,適下水汚染などの環境リスク,そのため,多くの建設現場では掘削土の環境安全性の判切な管理体制の構築が重要であろう。建設工事では用い定をロットごとに行っているが,そのためには判定のたた土を構造物として一定の管理下におくことになり,条め数日の間,掘削土を仮置きするストックヤードが必要件が整えば土はその場にとどまることが一定程度保証さ2地盤工学会誌,―/(/) 総説れる。このような土の散逸防止のほかに重要な点は,地下水汚染の防止である。多くの自然由来の重金属等が基準超過としても比較的低濃度であること,自然地盤の土にも吸着等の緩衝作用が期待できることを考慮すると,条件次第ではあるが地下水汚染をもたらす可能性は低いと考えられる。さらに,対象物質の局在性にも考慮が必要であろう。人為の汚染では,汚染濃度の分布に偏りがあり,一定の空間頻度によった分析が適切な代表値を与えるとは言い切れない。これに対し,自然由来の重金属図―これまでは基準超過の自然由来土は汚染土壌処理),施設への委託が義務付けられていたが(図中の等は地質に起因したもので,採取試料による分析にはあ法改正により地質的に同質であれば自然由来特例る程度の代表性が考えられよう。このことは,自然由来 や)。区域間での移動が可能となる(図中のの重金属等を含む土を使うことへの追い風と考えられる。さて,前章で記したように,土対法の対象外となる掘学・地盤工学・地盤環境工学の知見を要するものである。削土砂や岩石については,管理型盛土などによって適切科学的な知見に基づき,地盤環境の保全と適切な土の活な管理のもとでの有効利用が進められてきた。一方,土用が進むことが期待される。対法の対象となる自然由来重金属等の基準超過土壌は汚染土壌処理施設に委託することが義務付けられているが,. “手離れの良い”事業をこえてこれを法対象外と同様に有効活用できるよう法制度改正2011 年の東日本大震災で発生した災害廃棄物からのの検討が進められた。この改正は,他の事項と併せて土分別土砂にも自然由来と考えられるフッ素等がみられた対法の改正として 2017 年 5 月 12 日通常国会で認められが,この問題に関して地盤工学会では国土交通省や環境た。すなわち,答申では「特定有害物質の濃度が低く,省などの参画のもとガイドライン4)を提案し,基準超過特定の地層に分布していると考えられることを踏まえ,の土であっても適切な管理のもとで復興資材として活用適正な管理の下での資源の有効利用としての観点から,する方向性を示した。今回の土対法の改正には,このよ次に掲げる移動や活用を可能とすべき」とされ,うなガイドライン提案時の議論もプラスに寄与している自然由来特例区域の間で,土の搬出を可能とする。と考えている。基準超過など一定量以上の重金属等を含ただし,地質的に同質である範囲での移動に制限む土を活用する場合,程度の差はあれモニタリングなどし,必要な届出を行う(図―参照)。事後の確認と監視・管理が求められる。一方,建設事業一つの事業や現場の中で,盛土構造物として用いでは「手離れの良い」ことが好まれる場合が多い。建設る。ただし,盛土構造物は,地下水汚染を生じな時のコストを引き換えにしても,モニタリングをできるいなど自然由来の基準不適合土壌を受け入れうるだけ避けたいという力学が働くこともあると聞く。建設構造要件等をもつものとする。と管理運営の主体が変わる場合はなおさらであろう。し一定の条件を満たした工事で利用する。」かし,日本の地質・土質の特性と社会基盤整備の重要性と記されている(上記のカッコ内の文言は答申から筆者を考えると,土の様々な特性を踏まえつつモニタリングが一部書き換えている)。これらは「土は有用な資源なをしながら土を積極的に使っていく,そして少々長く手ので適切に活用すべきである」という考え方に基づいてがかかるとしても社会基盤整備や環境保全など様々な観 ~◯ の技術的事項について, 2017 年 5いる。なお,◯点から総合的にみてよりよいものをつくっていくという月から 2 年以内とされる法施行に向けて環境省で検討方向性がもっと議論されてもいいのではないかと考えて ~◯ の活用が自然由来物質に限定が進められている。◯いる。「◯◯◯されることから,自然由来か否かの判定はより重要とな では「地質的に同質」を定義する必要がある。また,◯本稿をまとめるにあたり,多くの方々にご教示頂いたことが参考になった。記して謝意を表する。り,そのための考え方がキーとなろう。土を適切に管理するとともに,新たな地下水汚染を生じないことが求められ,法対象外の掘削土に適用されていた管理型盛土の考え方が,必要に応じて導入される。したがって,地下水汚染が生じないことの評価も必要となろう。答申ではさらに,「粘性土や高含水率土壌は粒度調整等のため改質しての活用が一般的に行われることに留意」するとも記されていて,改質材によって土の溶出特性が変化する可能性などについて留意が必要である。上記いずれの事項も地質・土質,土工,物質移行,化学分析等の地質November/December, 2017参考文献1)日本地質学会環境地質研究委員会砒素をめぐる環境問題,東海大学出版会,1998.2) 国土交通省建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版),2010.3) 土木研究所・土木研究センター地盤汚染対応技術検討委員会建設工事で発生する自然由来重金属等含有土対応ハンドブック,大成出版社,2015.4) 地盤工学会災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン,2014.(原稿受理2017.8.10)3
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