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タイトル 中央線市ヶ谷駅付近における鉄道盛土のすべり変状対策と維持管理(<特集>地盤構造物のメンテナンスとリニューアル)
著者 中村 宏・油谷 彬博・相沢 文也・友利 方彦
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.6 No.713
ページ 18〜21 発行 2017/06/01 文書ID jk201707130013
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  • タイトル
  • 中央線市ヶ谷駅付近における鉄道盛土のすべり変状対策と維持管理(<特集>地盤構造物のメンテナンスとリニューアル)
  • 著者
  • 中村 宏・油谷 彬博・相沢 文也・友利 方彦
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.6 No.713
  • ページ
  • 18〜21
  • 発行
  • 2017/06/01
  • 文書ID
  • jk201707130013
  • 内容
  • 報告中央線市ヶ谷駅付近における鉄道盛土のすべり変状対策と維持管理Measures against Slip Deformation and Maintenance of Railway Embankment nearLine Ichigaya stationChuo中村宏(なかむらひろし)株東日本旅客鉄道構造技術センター相也(あいざわ沢文株東日本旅客鉄道課長ふみなり)本社設備部次長油谷彬博(ゆたにあきひろ)株東日本旅客鉄道構造技術センター友彦(ともり利方株東日本旅客鉄道課員まさひこ)構造技術センター次長. は じ め に中央緩行上り線飯田橋・市ヶ谷間 5 k 550 m 付近では,2003 年以降軌道沈下と路盤陥没が発生し,既設土留め擁壁,法面工等に変状が生じた。本稿では,変状挙動とグラウンドアンカーを用いた対策工事の設計・施工,及び対策後の維持管理について概要を紹介する。.変状発生箇所の地形及び地質当該区間は江戸城外濠に沿って建設され, 1894 年に単線開業(甲武鉄道)後,線増され,現在は 4 線が併走する区間である(写真―)。当該変状箇所は,外濠写真―より山側の台地が侵食されて形成された段丘崖の下部に当該箇所全景位置する。変状発生区間である 5 k 550 m 付近の地質断面を図―に示す。また,当該地盤の地質概要を表―に示す。Bc 層は鉄道盛土であり,起源は周辺の武蔵野台地のローム層である。 Bs 層は砂分を含む粘性土で,江戸城外濠を修復する際に造られた盛土と考えられる。Tos 層は細粒分を比較的多く含むシルト~細砂で,本層上端は山側ほど高く傾斜している。.軌道及び土構造物の変状2003 年以降に確認された変状は,軌道の沈下(大た図―5 k 550 m 付近の地質断面及び変状概要るみ),上部及び下部土留め擁壁における目地部の食い違い,法面張りコンクリート部の背面土の沈下,線路脇表―5 k 550 m 付近の地質(2007年 9 月調査)のトラフの傾斜が生じていた。5 k 500 m~5 k 550 m 間における,下部土留め擁壁の目地部の食い違いは,目地部の位置ごとに,起点方(東京方)から見て,濠側への食い違い量が増加する傾向を示していた(図―)。代表的な変状について以下に示す。 水準測量の結果,図―より軌道の沈下は 5 k 527 m◯~5 k 537 m にかけて,2006年 1 月から2007年 3 月までの 1 年 2 ヶ月間で最大 20 mm 生じた。大きな沈下きい位置は, TP. + 6 m 付近,すなわち Bs 層と Bcは緩行上り線で発生しており,緩行下り線では 5 mm層の境界付近であり,最大 13 mm 程度である( 2008未満で大きな沈下は計測されなかった。年 7 月)。なお,水平変位が顕著に計測されたのは 5 図―は, 5 k 545 m 付近の孔内傾斜計の計測結果で◯k 545 m 付 近 で あ り , 他 の 2 箇 所 , 5 k 520 m と 5 kある。線路直角方向で見ると, TP. + 3 ~+ 8 m 付近569 m では 2 mm 程度であった。また,線路平行方向の Bs 層と Bc 層が濠側に変位している。変位量が大では,3 箇所とも水平変位は 2 mm 程度であった。18地盤工学会誌,―() 報図―図―軟弱層の分布(線路直角方向)変状箇所及び調査位置図―図―告レール水準測量の結果軟弱層の分布(線路方向)能性が高い。明治時代の単線開業( 1894 年)後,複々線開業( 1929 年)まで順次線増されるが,この盛土材料は周囲の台地を切土した火山灰質粘性土( Bc層)である。江戸時代の Bs 層も,その上層の Bc 層も,締固めや段切りが行われないで盛土されていると推定される。 ~◯ より当箇所の変状は,降雨時に地下水位が上昇◯し,地盤内の間隙水圧が増加することによって,当該箇所の深さ約 6 m までの軟弱層( Bs 層と Bc 層)が不安定化し,すべりのような挙動が発生し,これに伴って中央緩行線(上り)の沈下が発生したものと考えられる。.対策工の設計対策工は,鋼矢板+グラウンドアンカーとした。設計用の検討モデルを図―に示す。設計上の留意点を以下にまとめる。図―5 k 545 m 孔内傾斜測定の結果 すべりの変状対策の検討に加えて,地震対策の検討も◯行うこととした。 サウンディングの結果(図―,)から,線路直角◯方向で見ると,土留擁壁に近い位置ほど軟弱層が厚い。 鋼矢板圧入時に,オーガー掘削により周面地盤を一時◯的に緩めること等を考慮して,鋼矢板に対して土圧また,線路方向で見ると,5 k 500 m~5 k 550 m 箇所(地震時は Kh=0.20の土圧係数)を与えて検討する。では,軟弱層の深さは地表面下 5~6 m 程度の深さままた,土圧に加えて,下部土留め擁壁背面ですべり挙で存在しており,その前後の箇所よりも軟弱な層が厚動が生じていることを考慮し,斜面安定計算により,い。対策実施後,所用の安全率とするための必要抑止力を Tos 層と Tog 層(東京層)は洪積層である。その上◯層部の Bs 層は,変状箇所付近にだけ分布している。江戸時代には既にお濠の修復が何度か繰り返されており, Bs 層はこの修復に使用された盛土材料である可June, 2017与えて検討する。 地震時の変位抑制を考慮し,鋼矢板(型)は,支持◯層の Tog 層(東京層砂礫層)まで根入れする。 グラウンドアンカー定着部の引抜きに対する安全率は,◯19 報告図―斜面安定計算(5 k 550 m)土圧で濠側に変位したことから,単位体積重量を無筋図―対策工の設計モデル(概要)コンクリートとし, Bs 層の土質定数として解析した。.表―対策工の施工土質定数一覧(三軸圧縮試験CUB 条件)対策工の工事工程を図―に,一般図を図―に示す。中央緩行上り線に近接して濠内に仮設桟橋を架設し,オーガー併用サイレントパイラー,またコンクリートガラ等の支障物がある場合はクラッシュパイラーを用いて,鋼矢板の圧入を2008年 9~11月に実施した。グラウンドアンカーの施工(削孔・定着・緊張)は,2008 年の 11 ~ 12月に施工した。鋼矢板の地表面に出る表―土質定数一覧(解析用)部分はコンクリートで覆うこととしたが,グラウンドアンカーの定着部は,将来の再緊張の可能性を考慮し,コンクリートに埋め込まないこととした。また,上部土留め擁壁の前面,すなわち鋼矢板の背面に埋土して,上部土留めの安定化を図った。すべりによる変位が生じていることから,アンカー緊張力は,設計アンカー力 600 ~ 700 kN を二次緊張時に100 導入することとした。今回は,再緊張が可能なEHD アンカーを採用し,アンカー頭部はグリスを十分表―斜面安定計算結果(5 k 550 m)に塗布し,アルミメッキしたキャップを被せて防錆処理を施している。対策後の全景を写真―に示す。また,グラウンドアンカー軸力を確認できるように,ディスクセンサー(写真―)を 5 箇所設置し,アンカー施工後,定期的に軸力確認を実施することとした。.常時(供用時)2.5,地震時2.0とする。 三軸圧縮試験から得られた土質定数を表―に示す。◯対策前後の挙動の確認孔内傾斜計(線路直角方向 5 k 545 m 付近)のデータより,施工の影響を含めて挙動を考察する。Bc 層と Bs 層の土質定数が解析上重要になることか2008 年 7 月 17 日から, 2008 年 9 月 25 日にかけて,濠ら,常時(供用時)については,すべり挙動があるこ側への変位が 20 mm 程度急増した。これは, 9 月 10 日とを考慮し,Fs=0.98と仮定して,逆算法により再度に開始された,鋼矢板圧入施工箇所が,孔内傾斜計設置検討を行い, Bc 層と Bs 層の土質定数を,表―の位置に近く,オーガー掘削及びパイラーでの圧入によりように整理した。周辺地盤が緩められた影響と,鋼矢板背面への埋土の影 斜面安定計算手法は,修正フェレニウス法による有効◯響で地盤が濠側に変位し,傾斜計のアルミ製ケーシング応力解析とし,上載荷重と列車荷重を考慮することとが地盤とともに変形したためと考えられる。グラウンドし た 。 地 震 時 の Bc 層 と Bs 層 の 土 質 定 数 は , 常 時(供用時)の数値を用い,設計水平震度は Kh=0.20として検討した。 斜面安定解析結果を表―,図―に示す。下部土留◯め擁壁のモデル化については,土留めがすべり挙動の20アンカーの施工を開始する 11 月 10 日の直前の, 11 月 3日の水平変位量が最大となっている。日々の施工前後に軌道計測を行い,管理値 5 mm を超える軌道変位が生じた場合,軌道整備を実施し対応した。グラウンドアンカー緊張完了後の 2008 年 12 月 9 日の地盤工学会誌,―() 報図―告対策工事工程写真―ディスクセンサー写真―(軸力計測2016.12)図― 対策工一般図(5 k 550 m)現状2016.12(変状なし)ンカー軸力は,設計アンカー力の 85 以上を保っている。今後も計測管理を継続し,万一軸力が落ちて変位が発生する場合は,アンカーの再緊張を図る等適切にメンテナンスをしていきたい。 対策後は,軌道変位(軌道構造は省力化軌道)は収束◯しており,進行していない。また,新設の RC 構造部等に変状は発生していない(写真―)。 2011 年 3 月 11 日東北地方太平洋沖地震で,変状は全◯く生じていなかった(参考NS 192 gal, EW 166 gal,KIKNET 新宿区上落合)。.写真―おわりに施工直後全景市ヶ谷付近の盛土変状対策と維持管理について述べて数値は,アンカー軸力により, 11 月 3 日のデータからきた。本件は,地すべりに似た変状に対する対策と維持数 mm 程度山側に変位した。その後, 2008年 12 月から管理の報告である。本稿が,今後の同種事象の参考にな2010 年 9 月まで水平変位は生じていなかった。現在は,れば幸いである。すべり挙動,及び軌道の沈下も収束している。.対策後の維持管理対策後は, 1 回/ 2 年以内の目視による全般検査により維持管理を実施するとともに,グラウンドアンカーの軸力管理を実施している。所見は以下の通りである。 アンカー軸力計測を 1 回/年実施しており,現在のア◯June, 2017参考文献1)中村 宏ほか中央線市ヶ谷付近における鉄道盛土のすべり対策,基礎工,Vol. 41, No. 11, 2013.2) 関田竜典ほか中央線飯田橋・市ヶ谷間における盛土のす べ り 変 状 と 対 策 に つ い て , SED ( STRUCTURALENGINEERING DATA)35号,JR 東日本,2010.(原稿受理2017.2.24)21
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