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出版

タイトル シード教授の液状化研究(寄稿(投稿))
著者 吉見 吉昭
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.5 No.712
ページ 32〜33 発行 2017/05/01 文書ID jk201707120016
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  • タイトル
  • シード教授の液状化研究(寄稿(投稿))
  • 著者
  • 吉見 吉昭
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.5 No.712
  • ページ
  • 32〜33
  • 発行
  • 2017/05/01
  • 文書ID
  • jk201707120016
  • 内容
  • シード教授の液状化研究Professor Seed's Research on Soil Liquefaction吉見吉昭(よしみ東京工業大学よしあき)名誉教授癌 の た め 1989 年 に 66 歳 と い う 若 さ で 他 界 し た ハ着目した研究者がいたが,側圧と軸方向荷重を同時に逆リ ー ・ ボ ル ト ン ・ シ ー ド ( Harry Bolton Seed ) 教 授方向に増減する「正攻法」と呼ぶべき,技術的に複雑な(1922~1989年)は,英国のボルトンで生まれ,ロンド方法を選んだために,時間がかかった。シード教授の指ン大学キングス・カレッジのシビルエンジニアリング導のもとで一連の実験を行ったのはカナダ人の博士課程(土木・建築工学)専攻で構造工学の博士号を取得した学生だったケネス・リーであった。彼は砂の密度・側圧後,米国に渡ってハーバード大学でテルツァーギとキャ(地表面からの深さに対応)・軸方向荷重振幅(地震水平サグランデ両教授のもとで土質力学を学んだ。 1950 年加速度に対応)などを広範囲に変えた多くの実験を精力以来,彼はカリフォルニア大学バークレー校で道路工的に行い,その成果を長文の論文として 1967 年初めに学・地盤工学・地震工学の分野で顕著な業績を挙げたが,ASCE の論文集に発表した1)。特に飽和砂の液状化研究の第一人者であったことに異議少し時間はさかのぼるを唱える人はいないであろう。ニューヨーク・タイムズが,新潟地震翌年の紙は彼の死亡記事のなかで,レーガン大統領から 19871965 年 に , シ ー ド 教 授年科学栄誉賞を受けたことや,米国科学アカデミーの会を含む 4 人の米国の研員であったことを紹介したが,米国シビルエンジニア学究者から,来日してわが会(以下 ASCE )から最も多くの賞を受けたことでも国の専門家との意見交換知られている。と新潟市の視察をしたい1964 年 3 月のアラスカ地震と同年 6 月の新潟地震でとの申し入れがあった。顕著な液状化が起こったことは,多くの研究者に液状化日本側はこれを快諾し,研究を始める動機を与えたが,シード教授のスタートダ「土の動力学に関する日ッシュには目覚ましいものがあった。それ以前でも,主米科学協力会合」として,として砂槽振動実験によって,液状化発生条件とその後東大土木工学科の最上武の間隙水圧の変化を観察することはできたが,数 m か雄教授( 1911~ 1987年)ら数十 m という深さにある砂地盤における液状化発生を中心に相当数の日本人条件を定量的に評価することはできなかった。シード教技術者が対応し,筆者もその末席を汚した。先ず東京で写真―54歳当時のシード教授授は,液状化が発生するまでのプロセスを振動としてでの第 1 回会議で相互に資料を提供して説明した後,新はなく繰返しせん断としてとらえ,「非排水条件のもと潟市の液状化跡地を視察し,東京で第 2 回会議を行っでの完全両振り三軸試験」を行うことによって定量化がた。まとめの討議のなかで,最上教授から,米国におけ可能であることを示した。それが早く実現した理由は幸る液状化発生条件に関する定量的研究の有無を尋ねたと運と独創的なアイディアの両方だったと思われる。ころ,シード教授は全くのポーカーフェイスで「まだでまず幸運だったことは,当時シード教授はカリフォルす。」と答えた。実はそれは真っ赤な嘘で,まさにそのニア大学バークレー校で自動車や航空機による動的荷重時,上記のケネス・リーが繰返し三軸試験を大車輪で行を受ける路床土の研究をしていたが,そのために円柱形っていたはずであった。しかし,研究のオリジナリテの土の供試体に繰返し荷重をかける三軸動的圧縮試験装ィーを守るのは常識であって,本音が聞けると思うほう置を使っていた。これは軸方向の圧縮荷重を増減させるが甘かったわけである。新潟視察の途中でも,筆者は方式であったが,引張り荷重も加えられるように装置をシード教授と会話を交わす機会がかなりあったが,彼は改造することはさほど難しいことではなかったと思われ現在進行中の研究には全く触れなかった。特許出願の準る。シード教授の独創性は,「土が完全に飽和してさえ備をしている最中に商売敵に内容を漏らさないことと同いれば,側圧を一定に保ったままで,非排水条件のもと様である。見方を変えれば,シード教授はわが国の研究で,軸方向に等しい振幅の圧縮荷重と引張り荷重を交互者を対等のライバルと認めていたのかもしれない。に加えることによって,地震時の水平地盤中の要素に作その後シード教授は,数値解析の得意な研究者と協力用するせん断応力をほぼ再現することができる。」といし,新潟市の砂地盤の深さ方向の地震動によるせん断応う考え方にあった。一方,わが国でも繰返し三軸試験に力と液状化抵抗を比較して,被害の大小と地盤・地下水32地盤工学会誌,―() 寄稿位の挙動をうまく説明したが,わずか 8 ページの前刷にバークレーで面談するまで, 30 年以上にわたって直りと 10 分間の発表時間しか与えられないことを承知の接,間接に接触を保った。上記の 1965 年以来の何回かうえで,わざわざ来日し,国際会議ではない日本地震工の日米科学協力会合のほか,東京で 1977 年に開催され学シンポジウムで発表した2)(インターネットの無かった第 9 回国際土質力学基礎工学会議の「土の動力学とた時代にシンポジウムに関する情報を入手するために相基礎工学への応用」と題するメーンセッションで,筆者当の努力をしたと想像する)。これには,オリジナリテがゼネラルリポーター,彼がチェアマンを務めたことがィーの早期確立に労を惜しまない姿勢が表れているが,あった(前ページの写真は当時のシード教授である)。それを見て大いにショックを受けたのが,当時建設省建その後間もなく,砂の凍結サンプリングに関して,築研究所におられた大崎順彦(よりひこ)博士( 1921シード教授と筆者が一字一句同じ表題の論文を発表した~1999年)であった。「殴り込み」とまで言われたかどことを思い出す3),4)。シード教授の研究は,すべて室内うかは定かではないが,まるで黒船の来航のように受け実験に基づくもので,筆者の論文より 4 年ほど後で発止めたようであった。新潟地震の調査にあれだけのエネ表されたが,凍結サンプリングから力学試験に至る間のルギーを傾注した日本人が初めにやるべきだったのに,間隙水の凍結・融解履歴が砂の液状化抵抗に影響を及ぼましてや自分が解析を得意としていただけに,トンビにさないことを立証するうえで,乱れに敏感な試料を用い油揚げをさらわれるように先を越されたことが残念だっることによって説得力を高めたものであった。たようである。シード教授との間接的接触というのは,筆者の後継者当時建設省建築研究所におられた小泉安則博士である時松孝次氏(東工大教授)が 2 年間にわたって(1924~1983年)は,新潟地震前後の標準貫入試験の N客員研究員としてシード教授に師事したことである。値を比較することによって,液状化するかしないかの境シード教授はかねがね論文を通して時松氏に注目してい目に相当する「限界 N 値」なる概念を提唱した。これたらしく,バークレーでは「お出入り御免」の特別待遇は新潟市の地盤と 1964 年新潟地震にだけ適用できるもを受けたようで,2 年間に 3 編の論文と 1 編の討論を共のであったが,シード教授はこれを一般化して,地震動によるせん断応力と初期有効応力の比と N 値の関係と著することになった。年齢差を超えて互いに認め合う「つうかあの仲」だったと想像する。して提示した。これはその後「液状化簡易判定法」として広く実務で使われるようになっている。さらにシード教授は,アラスカ地震の際の大規模な斜面崩壊が粘土層内に存在するレンズ状砂の液状化に起因するという仮説を立て,そのメカニズムを現場調査・室内実験・数値解析の結果から総合的に解明した。名探偵が犯人を追いつめるような鮮やかな語り口で,シード教授以外の著者だったら「大胆過ぎる」として保守的な論文査読者から採用を拒否されたかもしれない。筆者はシード教授より 5 歳ほど若かったが, 1957 年にシカゴで開催された ASCE 年次大会の地盤工学のセッションで,吉見・シード・ビエラム・スケンプトンの順に口頭発表した時から,シード教授が亡くなる前の年May, 2017参考文献1)Lee, K. L. and H. B. Seed: Cyclic stress conditions causing liquefaction of sand, Journal of Soil Mechanics andFoundations Division, ASCE, Vol. 93, No. SM1, pp. 4770, 1967.2) Seed, H. B. : Soil liquefaction in the Niigata earthquake,日本地震工学シンポジウム講演集,pp. 97104, 1966.3) Yoshimi, Y., M. Hatanaka and H. Oh-oka: Undisturbedsampling of saturated sands by freezing, Soils and Foundations, Vol. 18, No. 3, pp. 5973, 1978.4) Singh, S., H. B. Seed and C. K. Chan: Undisturbed sampling of saturated sands by freezing, Jour. GeotechnicalEngineering Division, ASCE, Vol. 108, No. GT2, pp.247264, 1982.(原稿受理2016.11.2)33
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