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報告集水ボーリング工における簡易削孔システムの開発Development of a Simple Boring System to Water Catchment Boring小松順一(こまつ株 監査室奥山ボーリング太田じゅんいち)技師長徹(おおた株 郡山管理事務所東日本高速道路とおる)所長水嶋清光(みずしま株 ネクスコ・メンテナンス東北澤野幸きよみつ)品質安全管理室長輝(さわの株 ネクスコ・エンジニアリング東北こうき)課長代理. は じ め に近年では地球環境の変化に伴う局地的豪雨や降雨強度の増加,台風の大型化によって,自然斜面のほか,切土・盛土の崩壊が多発している。 1968 年十勝沖地震,2004 年新潟県中越地震では地震前の降雨が土構造物の被害を増幅させたと言われており,一般に地下水が十分に排水されていれば大きな間隙水圧は発生せず,切土・盛土は豪雨時にも地震時にも安定を保つことができると写真―簡易削孔システムの概要言われている1)。さらに,インフラ整備は維持管理の時代に突入しており,土構造物の機能を長く維持するうえでも地下水排除工の重要性は益々高くなってきている。地下水排除工の代表的工法である集水ボーリング工は,ロータリーパーカッション式ボーリングによる施工が一般的である。しかし,削孔機が大型で資機材が多く,運搬・仮設作業に時間・経費を要し,さらには広い施工スペースが必要になるため,道路や宅地の切土・盛土においては計画しにくい場合が多い。特に高速道路の法面での施工においては,円滑な車両の通行を確保するためにも高速道路からの資材搬入・仮設においては占有スペー写真―高速道路トンネル内での施工状況スや作業時間を最小限にすることが重要となる。そこで筆者らは小型・軽量で施工性に優れ,経済的な集水ボーリング工削孔システムを開発(実用新案登録第3186011号)し,これまで高速道路の盛土を主として施工を重ねてきた。開発においては小型・軽量であることを最優先したために,現時点では孔壁保護パイプを挿入する機能を有していないシステムとなっている。(写真―)。システムを構成するそれぞれのパーツは小型で軽量である。削孔機の動力にはコンプレッサー(吐出空気量 5 m3/min )を使用する。削孔時の削孔水はエンジンポンプ(送水量20 L/min,圧力 5 MPa)で送水する。. 削孔システムの特徴その結果,砂層に代表される崩壊性の地層,硬質な大簡易削孔システムの大きな特徴は,一般的なロータ径礫を含有する地層等には適用できない場合があるが,リーパーカッション式ボーリングと比較して小型・軽量粘性土や軟岩を主とする盛土,軟岩地山を対象とした場であることである。これに伴って,削孔装置のすべての合は施工性,施工期間,経済性において,既存の一般工資機材は人力による運搬が可能となり,仮設も簡易で狭法と比較して極めて大きな優位性を有していることが明いスペースでの施工が可能となった。一方で小型・軽量らかになったので,この削孔システムについて紹介する。であることを優先したため,削孔エネルギーが小さく,.開発した簡易削孔システムの概要と特徴. 削孔システムの概要すべての地層には適用できないという短所を有している。システムの特徴を列記する。◯資機材のなかでの最大寸法はレールの0.5 m×1.5簡易削孔システムは,据付台に固定されたレールと台m である。最大質量は削孔機で,台車を一体化し車及び削孔機から構成される(写真―)。削孔はコンた状態で 25 kg である。レールが載る据付台は 0.8プレッサーで送られる圧縮空気により,ビットとスパイm×2 m 程度の大きさで,足場パイプで組み立てる。ラルロッド(以下,ロッドという)を回転させて行う据付台組立て~削孔機設置までの時間は 20 分程度24地盤工学会誌,―()報合は,施工現場外から水タンクで運搬するため, 2と短時間で済み,多くの場合,トラックからの資機材運搬を含めて,1 時間程度で削孔開始が可能であ台となる。る。さらには,据付台の削孔地点への移動はその都◯◯度解体する必要はなく,組み立てたままでの人力にが確保できていれば,車線規制することなく施工可よる移動が可能である。能である。車線規制が必要な場合でも,事前に法肩簡易削孔システムの機械高はレールを含めて 0.4付近の法面にコンプレッサーを設置するための足場m 程度であり,集水ボーリング孔口は基盤面からを仮設しておくことにより,通行規制はコンプレッ0.5 m 程度の高さからの施工が可能である。既存のサーを足場に荷卸しする間の数分で済む。他の資機一般工法では 1 m 以上の孔口高さとなる。材の荷卸しは資機材が少なく,すべて人力で可能で施工は削孔オペレーターを含めて 2 人体制で行あるため,数十分間の規制で済む。kg)と外径38 mm(質量2.4 kg)の 2 種類のロッドを準備している。軽量であるため,ロッド継ぎ足しや切断は容易である。これまでの施工実績の一例試験施工を含めた施工実績の一例から,地層毎の削孔長,削孔時間,削孔速度について整理した(表―)。ないが,固結度の大きい軟岩においてはやや削孔能率が低下する傾向が伺える。砂層は孔壁崩壊が発生しやすいため,孔壁が自立できうになる。小型・軽量であることを優先したため,削孔エネない場合は削孔不可となる。さらに削孔できても削孔ロルギーが小さく,孔壁保護パイプ挿入による孔壁保ッド回収時に孔壁が崩壊する場合があり,孔壁の自立に護機能は有していない。したがって,砂層に代表さ影響する細粒分の混入割合を事前に把握しておくことがれる崩壊性の地層には適用できない。固結度の高い重要である。表中の削孔を断念した孔は最終削孔長の手軟岩の削孔は可能であるが,削孔能率が著しく低下前 2~3 m あたりから孔壁崩壊が発生しており,この間する場合がある。硬質な大径礫を含む地層は適用外は複数回削孔している。細粒分含有率は 20 未満であとしている。る。礫層の場合は礫量,礫の硬軟,礫径の影響をうける。. その他◯.粘土層や軟岩は孔壁が自立するため,削孔は何ら問題削孔は極めて容易であり,特別な技術は必要としない。わずかの経験を積むことにより削孔できるよ◯運搬が可能である。削孔は長さ 1 m のロッドを継ぎ足しながら行う。ロッドはスパイラルを含んで外径 50 mm (質量 4.5現場内での資機材の運搬は削孔機を含めて,人力◯削孔水の運搬が必要となるため 3 人体制となる。◯高速道路の盛土の施工においては2.5 m の路肩幅◯う。削孔水を施工現場近くで確保できない場合は,◯告現地までの資機材の運搬は,削孔水が現場調達でビットで砕くことができない,あるいは砕くのに長時間きる場合は 2 t トラック 1 台,現場調達できない場を要する硬質な礫が存在する場合の削孔は不可となる場表―May, 2017施工実績の一例25報告表―簡易削孔システムと一般削孔工法の施工日数と施工経費の比較なわち,礫層の場合も事前に礫量,礫の硬さ,礫径合が多い。の把握が重要である。以下,地層毎に列記する。◯◯粘土層は最長削孔長が 20 m 程である。ただし,◯孔壁の自立は確保できるため,礫混じり土で最長は 11~ 30 m/h とばらつきが認められるが,固結度45 m の削孔実績があることから40~50 m 程度の削を反映した結果と考えられる。 N 値 50 以上の固結孔は可能と考えている。削孔速度は 60 m /h 程度と度の高い場合の削孔速度は低下する傾向を示す。な高い削孔能率である。お,削孔可能な削孔長は固結度が高くない軟岩であ砂層は孔壁の自立がむずかしいこともあり,削孔れば,削孔能率の大きな低下はなく, 40~ 50 m 程実績の最長は 18 m である。この孔は設計深度の削孔ができているが,削孔時の排出土砂量が多く,小規模な孔壁崩壊は発生していたものの,削孔の繰り返しによって土砂を排出できた結果と推察している。度は可能と考えている。.一般工法との施工期間,施工費用の比較これまでの施工実績から,一般的な削孔工法である削孔の繰返しによって削孔能率は低下している。細ロータリーパーカッション式ボーリングによる施工と,粒分の混入割合は 20 未満での実績であるが,こ簡易削孔システムによる施工の場合における施工期間,の程度の混入割合では孔壁の自立は確保できないこ施工経費について比較した(表―)。なお,一般削孔とを示している。孔壁が自立する細粒分の混入割合工法の施工日数,施工経費は「国土交通省土木工事積算は今後解明していく必要がある。したがって,砂層基準―(一財)建設物価調査会発行―」によって算出した。においては計画時における孔壁自立可否の判断,す比較条件なわち,細粒分の混入割合を把握しておくことが重◯施工段数1 段と 2 段要である。◯削孔長・本数20 m×10本/段地下水との関連では,地下水が存在しない区間の◯地質礫質粘土注1)孔壁が自立しやすい傾向が伺えた。さらに砂層の場◯削孔機足場注2)有無と段数合は,削孔を進める過程では孔壁が自立していても,◯削孔機台数両工法とも 1 台比較結果ロッドの抜管時に孔壁が崩壊するケースが見られた。削孔速度は 24~ 35 m /h 程度であり,削孔速度自体は適用可能な速度である。◯軟岩は最長で 30 m の削孔実績である。削孔速度礫混じり~礫質粘土層は盛土での実績である。礫は軟質礫が多く,孔壁からの排出が可能な小礫(40 mm 程度以下)であったことから,最長で45 m削孔している。削孔速度は 6 ~ 29 m / h とばらつきの程度が大きい。調査ボーリングデータがないこともあり,削孔時のオペレータの手に伝わる感触,削孔音からの推比較した結果は,既存の一般工法(ロータリーパーカッション式ボーリング)による場合を「1」として比率で示した。簡易削孔システムによる施工日数は,施工段数 1 段で削孔機足場が必要ない場合は一般工法と比較して 20程度の短縮が可能である。施工段数 1 段で削孔機足場が必要な場合,及び施工段数 2 段で削孔機足場が必要な場合は50程度の短縮が可能となる。施工経費についても大幅な削減が可能となっている。察になるが,軟質礫でも礫量が多い場合や大径礫が混在する場合は削孔能率が低下する傾向がある。もちろん,硬質の大径礫が主である場合は削孔不可,あるいは削孔能率が著しく低下することになる。す26注1)削孔能率は表―に示した範囲の平均的値とする。注2)簡易削孔システムによる場合は組み立てたままで,数十秒程度での人力移動が可能であるため考慮しない(一般削孔工法は基準より施工範囲全長)。地盤工学会誌,―()報現時点では施工実績が十分とは言えないため,実績が増表―告地層毎の簡易削孔システムの適用性えることによって多少変わる可能性を残しているが,50程度の削減が可能である。以上より,簡易削孔システムは施工期間の短縮,施工費用の削減において大きく貢献できることが分かる。.簡易削孔システムの地層毎の適用可否現時点での簡易削孔システムによる地層毎の適用可否に関して,孔壁の自立性,礫の硬軟・礫量・礫径,及び岩盤の硬軟等から整理し,検討する。◯孔壁の自立性からの削孔可否孔壁が自立する粘性土及び軟岩は削孔可能である。砂層の場合は細粒分の混入割合が 20 未満程度では孔壁崩壊が発生している。孔壁が自立できる細粒分の混入割合を今後明らかにする必要があるが,粘性土の性状を示す混入割合が必要になると考えると,現時点では30 ~ 40 程度あたりが削孔可否の境界になると推察される。礫優勢層においても孔壁が自立する粘性土分の混入割合は,現時点では砂層と同様と設定する。◯礫の硬軟・礫量・礫径からの削孔可否礫が軟岩程度の硬さの場合はビットでの破砕が可能でている。さらに高速道路の盛土において緊急性が要求されるよあるため削孔可能である。礫量は削孔能率に影響するが,うな場合は,現場に乗り込んで 1 時間程度での削孔開軟岩程度の硬さであれば削孔能率の大きな低下には至ら始が可能であるほか,削孔機が小型・軽量であるため,ないと推察される。硬質な礫を含む場合は削孔能率が低容易に機械台数を増やすことが可能であり,災害等の緊下するほか,削孔不可となる場合も想定される。礫径は急性を要する場合の利用価値は極めて高い。q40 mm 程度までの大きさのものは排出されている実績今後の課題に関してであるが,孔壁崩壊や継ぎ足しねがある。したがって,硬質な礫でも q40 mm 程度までじ部の緩みを原因とするロッド損失に対しては,太めのの大きさの礫であれば削孔可能と評価している。ロッドを使用することによって損失するケースはなくな◯岩盤の硬軟からの削孔可否り,リスクは概ね回避できたと考えている。ただし,礫軟岩の削孔は何ら問題ない。ただし, N 値が 50 以上の削孔・スライム排出等の観点からもロッド仕様に関すの硬さの場合は削孔速度が低下する傾向が伺える。中硬る検討が必要であり,今後検討していくつもりである。岩~硬岩については開発段階から対象外と捉えている。また,この削孔システムの適用性に関して,特に砂層以上の施工実績を基に,現時点での地層毎の適用可否の自立性,混入する礫の硬軟・礫量・礫径等の観点からの目安を表―に示した。.まとめと今後の課題集水ボーリング工における簡易削孔システムを開発し,施工実績を重ねてきた。砂層に代表される崩壊性の地層評価精度を上げていく必要がある。さらに孔曲がりに関しては,地下水排除工の機能という観点からは問題になることは少ないと考えているが,排水勾配が確保できないような孔曲がりが生じていないことについては今後明らかにする必要がある。や硬質な大径礫を含む地層等には適用できないが,粘性土を主とする地層や軟岩においては十分適用できるだけでなく,施工期間の短縮,施工経費の削減において大きく貢献できる削孔システムであることが明らかになった。本システムによる削孔計画においては,削孔速度に影響する地層や地質性状,運搬・仮設条件,及び施工スペースと土地利用等を含めて総合的に判断する必要がある。特に,崩壊性の地層や礫を混入する地層においては計画前の事前調査が重要である。運搬・仮設に要する時間は一般的工法であるロータリーパッカッション式ボーリングに較べて大きな優位性参考文献1)地盤工学会・ 2007 年度会長特別委員会地震と豪雨・洪水による地盤災害を防ぐために―地盤工学会からの提言―,2009.2) 米澤尚武・藤原聖一・佐藤和穂・近江 久集水ボーリング工における簡易削孔工法の考案,「斜面防災対策技術フォーラム'13」in 長野 講演集,pp. 57~60, 2013.3) 藤原直哉・米澤尚武・藤原聖一・小松順一集水ボーリングにおける簡易削孔システムの適用範囲に関する検討,第50回地盤工学会研究発表会(札幌)講演集,pp. 2087~2088, 2015.(原稿受理2016.10.3)を有しており,削孔能率が著しく低下しない限りは簡易削孔システムによる施工が有利となる場合が多いと考えMay, 201727
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