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タイトル 地盤工学における設計・施工技術の発展に貢献した先人の方々(<特集>地盤工学における人物史)
著者 宮田 喜壽・小林 俊一・篠田 昌弘・張 鋒
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.5 No.712
ページ 12〜15 発行 2017/05/01 文書ID jk201707120010
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  • タイトル
  • 地盤工学における設計・施工技術の発展に貢献した先人の方々(<特集>地盤工学における人物史)
  • 著者
  • 宮田 喜壽・小林 俊一・篠田 昌弘・張 鋒
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.5 No.712
  • ページ
  • 12〜15
  • 発行
  • 2017/05/01
  • 文書ID
  • jk201707120010
  • 内容
  • 報告地盤工学における設計・施工技術の発展に貢献した先人の方々In‰uential People in History of Geotechnical Design and Construction Technology宮田喜壽(みやた防衛大学校篠田昌小教授弘(しのだ防衛大学校よしひさ)林俊一(こばやし金沢大学まさひろ)准教授張准教授鋒(ちょう名古屋工業大学しゅんいち)ほう)教授. は じ め に地盤に関する設計・施工問題を科学的に解決しようとする学問体系は,Terzaghi, K.(テルツァーギ,1883~1963 年)の時代に始まり,その後大きく発展して現在に至っている。今回,その発展に貢献した先人の方々を紹介する機会を頂いた。「アカデミックロードマップと発展史・人物史委員会―設計・施工小委員会」の活動成果をもとに,関連資料を整理してみて,彼らの偉業は知識(常識)として私たちの周りに存在することにあらた図―ペック先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―4.2.58)めて気付かされた。そのことを示すため,各人の業績紹介では,本学会の知識の集大成である地盤工学ハンドブックの図面を用いることにした。人物史には人柄や業績を表すエピソードが欠かせない。筆者の力量不足のため,本稿は先人の方々の略歴の紹介に留まることをお詫びしなければいけない。彼らはカリスマ的魅力にあふれ,業績を生み出すため想像を超える努力をされたことは想像に難くない。読者の皆様には,彼らの生没年や業績の先駆性などから,本稿が紹介しきれていない部分まで思いをはせて頂ければ幸いである。.設計・施工の基盤技術に貢献した人々土の性状は複雑で,地盤は不均一である。作用も様々図―コーネル先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―3.3.13)で,その設計・施工は困難を極める。それに立ち向かうための基盤技術の発展に貢献した先人として, Peck,論構築に貢献した。専門は地盤工学ではないが,彼の業R.B. (ペック, 1912 ~ 2008 年)1) , Cornell, C.A. (コー績はこの分野に大きな影響を及ぼしたと考えられるので,ネル, 1938 ~ 2007 年)2) ,ここで紹介したい。先生は米国・サウスダコタに生まれ,2012年)3),松尾Tang W.H. (タン, 1943 ~稔(1936~2015年)4)の各先生を紹介したい。スタンフォード大学で博士号を取得後,マサチューセッツ工科大学,スタンフォード大学に勤務した。地震動強ペック先生は観測データを活用した地盤技術の確立にさを確率論的に予測する地震ハザード解析法を確立し貢献した。先生はカナダ・ウィニペッグに生まれ,ランた6)。さらに作用と抵抗それぞれの平均と分散で定義さセレール工科大学で博士号を取得後,イリノイ大学に勤れる信頼性指標を用いて構造物の破壊確率を算定する理務した。観測データを用いて地盤の力学的性質を評価し,論を構築した7) (図―)。数多くの研究者を育てたこ随時,設計変更を検討しながら施工を進める observa-とでも有名である。tional method (地盤観測法)と呼ばれる手法をテルツタン先生は信頼性理論をベースにした地盤技術の実用ァーギと共に確立した。その考えをもとに土留め壁の設化に貢献した。先生は台湾に生まれ,マサチューセッツ計・施工を大きく進展させた(図―)。テルツァーギ工科大学で学び,スタンフォード大学で博士号を取得後,レクチャー(第 1 回)とランキンレクチャー(第 9 回)イリノイ大学,香港大学に勤務した。原位置試験結果のを行っている5)。統計分析をもとに地盤工学分野の設計をリスクベースでコーネル先生は地震リスク解析や信頼性解析の基礎理12行う手法を確立した。 Ang, A. H.S. (アン)との共著地盤工学会誌,―() 報図―告地盤工学分野に信頼性設計の概念を普及させた不朽の名著(左タン先生,右松尾先生の著作の表紙)図―ヴェシッチ先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―4.3.96,縦横比変化)図―マイヤーホフ先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―2.3.202)による土木・建築の学生を対象にした確率・統計に関する教科書8)(英語)は,日本語,韓国語,中国語にも翻訳され,世界中の学生・研究者・技術者に大きな影響を与えた(図―)。松尾先生は観測データを活用した地盤技術の理論化・体系化に貢献した。先生は京都に生まれ,京都大学で博図―ニューマーク先生の方法で解かれる地盤動力学の基礎方程式(地盤工学ハンドブック図―2.4.98)士号を取得後,京都大学,名古屋大学に勤務し,名古屋大学では総長まで務めた。先生は軟弱地盤の安定・変形スコシア工科大学に勤務した。基礎の形状・深さ,地表問題を施工中の観測値を用いる動学的逆問題として定式面の傾斜が地盤の支持力に及ぼす影響を明らかにして,化し,その予測精度を大きく向上させた。地盤に関するそれらを考慮するための補正係数を支持力算定式に導入様々な工学的問題を信頼性設計の手法を用いて解決するするとともに,鉛直偏心荷重に対する有効基礎幅の概念方法を一冊の本にまとめた9) (図―)。環境負荷を考を確立した(図―)。テルツァーギレクチャー(第11慮した設計理論の構築にも多大な貢献をした。回)を行っている12)。.基礎の設計・施工技術に貢献した人々ヴェシッチ先生は浅い基礎の問題と深い基礎の問題の統一的に扱う理論体系の構築に貢献した。先生は旧ユー地盤が支持できる荷重には限界がある。限界荷重の推ゴスラビアに生まれ,ベオグラード大学で博士号を取得定は土質力学の基本問題のひとつとして古くから重要視した。ベルギー地盤研究所のあと,アメリカに移住し,された。ここでは,この分野に貢献した先人としてデューク大学に勤務した。基礎構造物に関する幅広い研Meyerhof, G.G. (マイヤーホフ, 1916 ~ 2003 年)10) と究に従事し,深い基礎に対しては空洞拡張理論を弾塑性A.(ヴェシッチ,1924~1982年)11)の各先生を紹摩擦材料に適用することで杭の先端支持力算定式を誘導Vesic,介したい。マイヤーホフ先生はテルツァーギによる支持力理論の一般化に貢献した。先生はノーベル生理学・医学賞受賞者オットー・マイヤーホフの息子として 1916 年ドイツし(図―)14),浅い基礎に対してはマイヤーホフ先生の支持力算定式を拡張した13)。.土構造物の設計・施工技術に貢献した人々に生まれ,ロンドン大学で土木工学を学び,博士号を取土構造物の設計・施工分野において,地震時安定性の得した。第 2 次世界大戦後にカナダに移住し,ノヴァ評価や,土以外の材料を補助的に用いて構造物の安定性May, 201713 報告を高める方法の確立は,今も昔もこの分野の最大の関心事のひとつである。ここでは,この分野に貢献した先人として Newmark, N.M. (ニューマーク, 1910 ~ 1981年)15) , Seed, B.H. (シード, 1922 ~ 1989 年)16) ,山内豊聡(1922~2011年)17)の各先生を紹介したい。ニューマーク先生は一般構造物の動的解析や土構造物の地震時挙動の基礎理論構築に貢献した。先生は米国・ニュージャージーに生まれ,イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校においてコンクリート橋の解析法に関する研究で博士号を取得後, 1976 年まで同校に勤務した。加速度項,速度項,変位項からなる物体の運動方程式を数値的に解く方法として有名なニューマーク b 法を構築した18)(図―)。さらに,土構造物の地震時挙動解析のために,すべり面上の土塊を剛体ブロックでモデル化し,作用力が抵抗力を超えた時間においてすべり変位が生じるという概念に基づく変形解析法を確立した19)。図―シード先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―2.4.12,縦横比変化)ランキンレクチャー(第 5 回)とテルツァーギレクチャー(第14回)を行っている。シード先生は地震地盤工学の学問体系の確立に貢献した。先生は英国・ボストンに生まれ,ロンドン大学で博士号を取得した。その後,テルツァーギや Casagrande(キャサグランデ)のいるハーバード大学で土質力学を学ん だあ と , 1971 年 まで カ リフ ォル ニア 大 学バ ークレー校に勤務した。地盤―杭の相互作用の解析にはじまり,土構造物をはじめとする様々な構造物の地震応答解析法の基礎理論を確立した(図―)。1964年のアラスカ地震, 1971 年のサンフェルナンド地震, 1985 年のメキシコ地震などの調査においても多大な貢献をした。テルツァーギレクチャー(第 4 回)22) とランキンレクチャー(第19回)21)を行っている。図―山内先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―4.7.42)山内先生は地盤改良・補強技術の確立に貢献した。先生は福岡に生まれ,九州大学で博士号取得後,九州大学,ン工科大学やカールスルーエ工科大学に勤務した。先生九州産業大学に勤務した。改良・補強の併用型地盤技術は岩の分類からその力学特性まで幅広く研究を行い,の嚆矢として,排水材と固化材をサンドイッチ状にしたRabcewicz (ラブセビッツ)や Pacher (パッヒャー)ものを層状に配置しながら粘性土盛土を構築する技術をとともに新オーストリアトンネル( NATM )工法を開考案した22) 。さらにジオシンセティックスが出現する発した(図―)。 ISRM (国際岩の力学会)の初代会前から高分子材料の地盤工学分野での活用を検討し,高長であり,我が国の黒部ダム建設工事においては,原位密度ポリエチレン製ネットを補強材として用いる軟弱地置の岩盤評価に指導的な役割を果たした。盤の表層補強技術を考案した23)(図―)。.村山先生はトンネル工学や地盤改良工法の発展に貢献した。先生は和歌山県に生まれ,京都大学卒業後 10 年地中構造物の設計・施工技術に貢献した人々間鉄道省に勤務し,我が国初のシールド工法を成功に導地下の活用には,固結の程度や年代にかかわらず様々物を安全に構築するために必要となる電気化学的固結法な地盤材料の力学特性を把握することと,安全に所定の(1954年)や凍結工法(1962年)を考案し,トンネル土いた。その後,京都大学,摂南大学に勤務し,地中構造形状の地下空間を構築する設計・施工技術が重要になる。圧についての基礎研究を発展させた。軟弱地盤対策で有こ こ で は , こ の 分 野 に 貢 献 し た 先 人 と し て , M äuller名なサンドコンパクションパイル工法( 1958 年)も先Leopold ( ミ ュ ラ ー , 1908 ~ 1988 年 )24) と 村 山 朔 郎生によって考案された27)(図―)。同時に,分子物理(1911~1994年)25)の各先生を紹介したい。ミュラー先生は岩の力学の先駆者でトンネル技術の高度化に貢献した。先生はオーストリアに生まれ,ウィー学の速度論に基づく粘土のレオロジーモデルや粒状体の統計力学モデルなど土の変形に関する基礎理論に関する研究を大いに進展させたことでも有名である28)。ン工科大学で土木工学を学び,博士号を取得した。技術者としてオーストリアやドイツで活躍した後,ミュンヘ14地盤工学会誌,―() 報告Cornell, C.A.: Engineering seismic risk analysis, Bulletinof the Seismological Society of America, Vol 58, No. 5,pp. 15831606, 1968.7) Cornell, C. A.: A probabilitybased structural code, J.American Concrete Institute, Vol 66, No. 12, pp. 974985, 1969.8) Ang, A. H.S. and Tang, W. H.: Probability Concepts inEngineering ―Emphasis on Applications to Civil and Environmental Engineering―, Vol. 1: Basic Principles,Wiley, 1975.9) 松尾 稔地盤工学―信頼性設計の理念と実際,技報堂出版,1984.10) Penman, A., and Brown, J.: Obituary, George GeoŠreyMeyerhof, Geotechnique, Vol 54, No. 2, pp. 156, 2004.11) Wroth, C. P.: Obituary, Aleksandar Sedmak Vesic 19241982, Geotechnique, Vol 33, No. 4, pp. 645646, 2004.12) Meyerhof, G. G.: Bearing capacity and settlement of pilefoundations, J. Geotech. Eng., ASCE, Vol 102, No. 3, pp.195228, 1976.13) Vesic, A. S.: Expansions of cavities in inˆnite soil mass,J. Soil Mech. Found. Eng.: ASCE, Vol 98, No. SM3, pp.265290, 1972.14) Vesic, A. S.: Analysis of ultimate loads of shallow foundations, J. Soil Mech. and Found. Div., ASCE, Vol 99,No. SM1, pp. 4573, 1973.15) Hall, W. J.: Biographical Memoir, Nathan M. Newmark19101981, National Academy of Science, USA, 1991.16) Mitchell, J. K.: Biographical Memoir, Harry Bolton Seed19221989, National Academy of Science, USA, 1995.17) 落合英俊山内豊聰先生のご逝去を悼む,地盤工学会誌,Vol 59, No. 9, pp. 54, 2011.18) Newmark, N. M.: A method of computation for structuraldynamics, J. Eng. Mech., ASCE, Vol 85, No. EM3, pp.6794, 1959.19) Newmark, N. M.: EŠects of earthquakes on dams andembankments, Geotechnique, Vol 15, No. 2, pp. 139160, 1965.20) Seed, H. B.: Landslides during earthquakes due to liquefaction, J. Soil Mech. Found. Div., ASCE, Vol 94 ,No. SM5, pp. 10551122, 1968.21) Seed, H. B.: Considerations in the earthquakeresistantdesign of earth and rockˆll dams, Geotechnique, Vol 29,No. 3, pp. 215263, 1979.22) Yamanouchi, T and Miura, N.: Multiplesandwichmethod of softclay banking using cardboard wicks andquicklime, Proc. 3rd Asian Reg. Conf. Soil Mech. &Found. Eng., Haifa, Vo1. 1, pp. 256260, 1967.23) Yamanouchi, T.: Structural eŠect of restraint layer onsubgrade of low bearing capacity in ‰exible pavement,Proc. 2nd Int. Conf. on Structural Design of AsphaltPavement, Ann Arbor, pp. 381389, 1968.24) Grossmann, N.: Leopold M äuller centenary, News Journal, ISRM, Vol 11, No. 12, pp. 45, 2008.25 ) 赤井浩一名誉会員 村山朔郎先生の御逝去を悼む,土と基礎,Vol 44, No. 3, pp. i, 1996.26) M äuller, L.: Fundamentals of Rock Mechanics, Int. Centre for Mech. Sciences 8, Springer, 1969.27) 村山朔郎粘性土に対するヴァイブロ・コンポーザー工法の考察,建設の機械化,150, pp. 10~15, 1962.28) 村山朔郎土の力学挙動の理論,技報堂出版,1990.29) 宮田喜壽「土質力学の発展に貢献した人々」に学ぶ,土と基礎,Vol 45, No. 6, pp. 44, 1997.6)図―ミュラー先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―4.4.32)図― 村山先生の業績の恩恵(地盤工学ハンドブック図―4.8.34). お わ り に今回と同様な企画が地盤工学会誌 1983 年 11 月号にある。筆者のひとりは学生時代にそのバックナンバーに大きく感銘を受け,約20年前 Zoom Up YoungStars という学会誌の原稿を依頼された際も,触発された想いを記載したことがある29) 。今回同様な原稿を執筆してみて,先人の方々の崇高さはもちろん,最上先生をはじめとする当時の執筆者の方々の見識の高さに改めて感服した次第である。参1)2)3)4)5)考文献Mesri, G.: Obituary, Ralph B. Peck 19122008, Geotechnical Engineering, Vol.162, No. 5, pp. 295297,2009.Earthquake Engineering Research Institute: Obituary,C. Allin Cornell (19382007), EERI Newsletter, Vol. 42,No 1, 2008.Zhang, L.: Obituary, Wilson H. Tang, Georisk, Vol. 6,No 2, pp. 141, 2012.浅岡 顯松尾稔先生のご逝去を悼む,地盤工学会誌,Vol. 63, No. 7, pp. ii, 2015.Peck, R. B.: Advantages and limitations of the observational method in applied soil mechanics, Geotechnique,19(2), pp. 171187, 1969.(原稿受理May, 20172017.2.1)15
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