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出版

タイトル 高温地熱系の地質学的特徴(<特集>地熱エネルギーと地盤工学)
著者 田口 幸洋
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.2 No.709
ページ 8〜9 発行 2017/02/01 文書ID jk201707090007
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  • タイトル
  • 高温地熱系の地質学的特徴(<特集>地熱エネルギーと地盤工学)
  • 著者
  • 田口 幸洋
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.2 No.709
  • ページ
  • 8〜9
  • 発行
  • 2017/02/01
  • 文書ID
  • jk201707090007
  • 内容
  • 高温地熱系の地質学的特徴Geological Characteristics of HighTemperature Geothermal Systems田口幸洋(たぐちさちひろ)福岡大学理学部. は じ め に蒸気を用いた従来型の地熱発電を行うには,地下の貯ランスが必要となるために,このタイプの地熱系が出現する割合は極めて小さい。日本では松川地熱帯がこれに相当し,それ以外は全て熱水卓越型の地熱系である。留層温度が少なくとも200°C は必要である。このような熱水卓越型地熱系の,貯留層の温度の上限は,水の沸高温地熱系はマグマの貫入によって達成されている。こ騰深度曲線によって規制され,貯留層圧は流体の静水こでは,このような高温地熱系の地質学的特徴について圧に近い場合が多い。また蒸気卓越型地熱系の貯留層の述べる。温度は,蒸気がもつ最大エンタルピー点(236°C)に規.高温地熱系の偏在制され,貯留層内はほぼ蒸気で占められているので,貯留層圧力もほぼ一定となる。例えば,アメリカのザ・ガ高温地熱系はマグマの貫入に伴い形成されるので,火イザーズやイタリアのラルデレロの蒸気卓越型地熱帯の山活動を伴う地域に分布する。日本では蒸気を直接ター貯留層温度,圧力は約 240 °C , 34 kg / cm2 とほぼ均一なビンに導入する従来型の地熱発電所は,一般的に中期更値を示す1)。新世以降の火山岩が分布する地域に建設されている。従来型の地熱発電を開発できる場はどこにでもあるわけでなく,ある限られた場に位置している。すなわち,.地表徴候と地形・地質地熱系のほとんどは熱水卓越型地熱系であるので,こ3 つのプレート境界(収束境界,発散境界,横ずれ境界)こでは熱水卓越型地熱系の地熱徴候について述べる。熱とプレート境界に無関係なホットスポットの計 4 つの水卓越型地熱系でも,火山活動の様式により出来上がる場である。収束境界にはサブダクション帯と衝突帯があ火山地形が異なるため,地熱系の地表徴候は大きく異なり,環太平洋のほとんどの高温地熱系はサブダクションったものになる2),3)。帯に伴うもので,日本,ニュージーランド,フィリピン,ニュージーランドのタウポ火山帯のような流紋岩質のインドネシアなどがその例である。衝突帯の例としては,火山活動が卓越する地域では,地形の起伏差が小さいフチベット,トルコ,イタリアなどの各地熱系があげられラットな地形が卓越する。そのため,地下水位面が浅くる。アイスランドや東アフリカ地溝帯の地熱系は発散境地表面に近いので,深部で加熱されて上昇してきた熱水界に属する。横ずれ境界に伴うものとしては,カリフォ(深部熱水)は容易に地表に到達することができる。そルニアのソルトンシー地熱帯やメキシコのセロプリエトのため,日本ではなかなか見ることができない,直径数などであり,このような場はトランスフォーム断層が乗百 m 以上の熱水の池や,そこから流れ出す熱水から沈り換える部分,プルアパート部に相当している。また,殿してできるシンター(珪華),及び間欠泉などをしばホットスポットの例としては,イエローストーン国立公しば見ることができる。園の地熱活動がよく知られているが,地熱発電所が建設一方,日本やインドネシアなどでは安山岩質火山活動された例としてはハワイ島のキラウエア火山から東にのが卓越し,成層火山を形成する地域では地形の起伏差がびるリフト帯内にあるプナがあげられる。大きな地形がつくられる。火山が若ければ山体中央部で日本の高温地熱帯は,沈み込み帯に伴う第四紀の火山高温の硫気活動や強酸性の水からなる火口湖を伴う(図活動の地域に分布しており,現在稼働中の地熱発電所の―)。なお,このような火山における開発可能な有望多くは九州と東北日本に分布している。な地熱系は火山体の中腹に発達する。すなわち火山活動.地熱系の型と地熱構造中心部から 3 ~ 5 km 離れているのが一般的である。火山体中腹にある地熱系では,地下水位面が深いので,深開発されている地熱系のほとんどは,貯留層内のクラ部熱水は地表まで到達することができない。深部熱水はックなどの隙間が水で満たされた熱水卓越型地熱系であ上昇し,浅所に到達すると沸騰を起こす。分離された蒸る。しかしながら,この隙間のほとんどが蒸気とわずか気やガス( CO2 や H2S )は地下水位面より上方に運ばな凝縮水からなる蒸気卓越型地熱系が形成されることがれ地表で噴気帯を形成する。このような噴気帯はしばしある。蒸気卓越型地熱系が成立するには,供給される熱ば“地獄”と呼ばれている。深部熱水が地表に届かない量,地層の透水係数,水の循環量などの極めて微妙なバ場合が多いので,ニュージーランドでよく認められるよ8地盤工学会誌,―() 論説ぞれ特徴的なものが形成される。SO4 型蒸気加熱水が卓越する部分では高度粘土化変質作用が卓越し,より中心部で明礬石が,その外側にカオリナイトが,さらに外側にスメクタイトが配列する。HCO3 型蒸気加熱水が発達する部分では,粘土化変質帯が発達し,浅所ではスメクタイトが,より深部では混合層粘土鉱物が形成される。これらの下位にはプロピライト化変質が発達するが,上昇する深部熱水の通路付近には石英などからなる細脈がしばしば認められる6)。また,熱水が沸騰を起こした場合には,これらの脈に氷長石や方解石が特徴的に伴うことがあるが,このような方解石や石英は葉片状を示すのが特徴である7),8)。図―安山岩質火山地域地域の地熱系モデルと特徴的な.おわりに熱水及び変質帯の分布2)~4)を元に作成地熱系の地質学的な基本的特徴を理解することは,効うな地表徴候はなかなか見ることができない。率的な地熱開発につながる。ここで述べた典型的な事象地形の起伏差が小さい火山地域の地熱系ではしばしばは,基本的な地熱系の構造を理解する上で重要である。湖成層が発達するので,地下温度の等温線は地下浅所でしかしながら,各地熱帯で火山地形,構成する岩石,断水平に広がるマッシュルーム型をしばしば呈する。一方,裂を規制する地質構造,熱水の化学組成,及び水理学的起伏差の大きい火山地形地域では,一般的に断裂に沿っな状況などが少しずつ異なることを考慮し,取得したて深部熱水は上昇するので,その温度分布は断裂規制型データを元により良い地熱系モデルを作成する必要があとなる。ただし,起伏差の小さい地域でもより深部ではる。断裂が一般的に熱水の動きを規制している。.地熱系における特徴的な熱水の分布と熱水変質岩参1)安山岩質火山活動が卓越する日本の火山に伴う地熱帯には特徴的な組成を持つ熱水が分布している(図―)。2)火山帯中心部の火口湖や谷では,高温の火山ガスに含まれる成分を反映して( SO2, HCl, HF など), pH < 2 の3)強酸性の ClSO4 型の熱水が生成される。このような場では溶脱珪化作用が進行する。このような例として,かつて山頂付近では変質により形成した珪石が採取されていた薩摩硫黄島があげられる5)。4)一方,山体中腹に発達する地熱帯の深部熱水は,ほぼ中性を示す Cl- に富む熱水である。この中性の深部熱水が上昇し,浅所に近づくと沸騰が起きる。沸騰で分離5)された水蒸気, CO2 及び H2S はそのまま地表に向かって移動し,地表近くの酸素に富んだ地下水を加熱して熱6)水ができる。この加熱された地下水は SO4 型の蒸気加熱水と呼ばれている。pH は 2~4 程度で,Cl-をほとんど含まず, H2S が酸化されてできた SO42- に富む組成を示す。この SO4 型蒸気加熱水の下位には, HCO3 型7)の蒸気加熱水が上昇する深部熱水を覆って傘状に分布する。このような深部加熱水を元に pH,化学組成が著しく異なる熱水ができ,これらがまた混合・希釈を行い多様な化学的組成の温泉ができあがる。8)考文献White, D. E., MuŒer, L. J. P., and Truesdell, A. H.:Vapordominated hydrothermal systems composed withhotwater systems, Economic Geology, Vol. 66, pp. 7597, 1971.Henley, R. W. and Ellis, A. J.: Geothermal Systems Ancient and Modern, a geochemical review, Earth ScienceReviews, Vol. 19, 150, 1983.Henley, R. W.: Chemical structure of geothermal systems., in R. W. Henley, A. H. Truesdell, and P. B.Barton, Jr. (eds.), Fluid Mineral Equilibria: Society ofEconomic Geology, Vol. 1, pp. 928, 1984.Hedenquist, J. W., Izawa, E., Arribas, A., and White, N.C.: Epithermal gold deposits: Styles, characteristics, andexploration, Resource Geology Special Pub. No. 1, Soc.Res. Geology, 1996.小野晃司・曽屋龍典・細野武男薩摩硫黄島地域の地質,地域地質研究報告」(5 万分の 1 地質図幅),地質調査所,80p, 1982.Simmons, S. F. and Browne, P. R. L.: Hydrothermalminerals and precious metals in the BroadlandsOhaakigeothermal system: implications for understanding lowsulˆdation epithermal environments, Economic Geology,Vol. 95, pp. 971999, 2000.Simmons, S. F. and Christenson, B. W.: Origins of calcitein a boiling geothermal system, American Journal ofScience, Vol. 294, pp. 361400, 1994.White, N. C. and Hedenquist, J. W.: Epithermal golddeposits: styles, characteristics and exploration, SEGNewsletter, No. 23, pp. 1, 913, 1999.(原稿受理2016.10.13)このような熱水の分布に対応し,熱水変質鉱物もそれFebruary, 20179
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