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出版

タイトル 途上国におけるJICA の地熱開発協力(<特集>地熱エネルギーと地盤工学)
著者 久下 勝也・上石 博人・小林 広幸
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.2 No.709
ページ 4〜7 発行 2017/02/01 文書ID jk201707090006
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  • タイトル
  • 途上国におけるJICA の地熱開発協力(<特集>地熱エネルギーと地盤工学)
  • 著者
  • 久下 勝也・上石 博人・小林 広幸
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.2 No.709
  • ページ
  • 4〜7
  • 発行
  • 2017/02/01
  • 文書ID
  • jk201707090006
  • 内容
  • 途上国における JICA の地熱開発協力JICA's Cooperation for Geothermal Development in Developing Countries久下独 国際協力機構勝也(くげ産業開発・公共政策部小林企画役広独 国際協力機構. 背上かつや)石博独 国際協力機構幸(こばやしひろと)産業開発・公共政策部課長ひろゆき)産業開発・公共政策部景人(かみいし表―次長各国・地域の地熱開発の状況(2012年)1). 低炭素かつ安定的な電力供給電力供給は,貧困削減(人間の安全保障)はもとより,経済成長のためのインフラ整備の観点からも重要課題と考えられている。中でも,地熱発電は,二酸化炭素排出量が13 g/kWh と水力,原子力と同程度であり,気候変動の緩和に寄与する再生可能エネルギーである。加えて,稼働率が 70 と太陽光 12 ,風力 20 に比べると格段に高く,ベースロード電源として電力の安定供給にも資円( 3 本),掘削径 6 インチのスリムホールでも約 7 億する。更に,発電コストが約10円/kWh であり水力,石円(3 本)と多額の費用を要する一方,成功率は世銀に炭, LNG と同程度である。例えば, 2015年のケニアのよると 50 程度と事業リスクが高い。このため,試掘地熱発電容量は約 540 MW であり,年間の発電量は 3.3段階でのリスクが,豊富な潜在資源の有効活用を図るうTWh と全体需要量 10.6 TWh の 31 を供給し,同出力えでのボトルネックといえる。の発電を石油火力発電で行った場合に比べ二酸化炭素削. 地熱開発における国の関与と課題減量は 2.4 百万 t - CO2 となっている。このような特徴地熱開発は試掘段階のリスクを含むうえ,幅広い分野から,地熱資源を有する途上国の多くが国家優先課題との専門家(地質,地化学,物理探査,貯留層工学,掘削,して開発に取り組んでいる。プラント,経済分析等)と 50 MW クラスで 200 億円以. 我が国の技術優位性上の資金を確保する必要がある。これは途上国にとって我が国の探査コンサルタントの技術レベルはトップク困難であり,結果,多くの途上国が地表調査段階から民ラスにあり,アイスランド,米,仏,伊,ニュージーラ間に開発を委ねているが,カントリーリスクを考慮せざンドのコンサルタントと競争している。プラント製造技るを得ない途上国で,地下のリスクを負おうとする企業術は圧倒的優位にあり,我が国メーカーが設備容量ベーは少ない。スで世界シェア約 7 割である。一方,掘削コントラク事実,表―のとおり,開発の進む国では,政府が開ターについては,技術面ではトップクラスにあるが,コ発の全部あるいは一部を実施している,あるいは過去にスト面では不利な状況にあった。しかしながら,ここ数実施していた。年でインドネシアやフィリピン等の海外コントラクターこのような中,近年,ケニア,エチオピア,ジブチののコストが上昇しており,競争できる条件が整いつつあように,政府が地熱開発の一部を担い,リスクを軽減しる。たうえで,その後の開発を民間に任せる国が増えつつあ以上のように,我が国は地熱開発の上流から下流の各る。地熱開発における政府の関与について,各国の基本分野でトップクラスの競争力を有しており,途上国への方針を表―に整理した(同表はあくまで基本方針であ日本の支援・技術に対する期待は大きい。り,同じ国の中でも鉱区によっては関与の状況は異なる. 試掘がボトルネックとなって進まない地熱開発場合がある)。政府の関与が大きくなる程,国が人材と環太平洋とアフリカ大地溝帯に豊富な地熱資源が存在資金を確保する必要が生じ,ここに協力のニーズが存在する。 2010 年の推定資源量と開発状況は表―のとおしている。なお,JICA が分析した結果,途上国で最もりであり,アフリカ,中南米,インドネシアの開発が遅 の一貫政府開発によるもので開発実績の多いモデルは◯れている。地熱開発のプロセスは地表調査,試掘・資源 から◯ のモデルの開発実績は途上国ではほぼなある。◯量評価,生産井掘削・プラント建設・プラント/貯留層 のモデルはケニアとタンザニアで試行的に行われく,◯の運営維持管理の流れである。この中で,試掘・資源量ているが,未だ開発に至っていない。評価は,一地点あたり,標準掘削径 8 インチで約 20 億4地盤工学会誌,―() 論表―表―説地熱先進国の開発実施体制各国・地域の地熱開発の状況(2012年)施主体にとって妥当な範囲になければ開発は進まない。JICA はこの収益率を改善するため,主に以下の協力を行っている。公的部門の人材育成試掘支援探査技術の研究開発政策支援譲許的条件(金利等の安い)による資金協力. 公的部門の人材育成国が地熱開発の全部あるいは一部を実施するモデル から◯ )では,援助機関等の支援を得つつ,(表―の◯. 援助機関の動向地熱開発公社等を設置して直営で開発する場合と,民間1970年代から JICA や世界銀行(世銀)等の援助機関に委託する場合に分けられる。前者を採用する国は特には,地表調査や地熱プラント建設を支援しているが,試アフリカで増えつつあるが,先行するケニアにおいても,掘を支援する機関は少なかった。これが昨今,温暖化対地表調査で貯留層を予測し,試掘でターゲットを掘り抜策への要請,油価の上昇等,外部環境が大きく変化したく能力が不足しており,日本等に比べ,資源開発の成功ことを受け,世銀やドイツ復興金融公庫等は試掘への融率が低い,あるいは開発時間が長くかかっている。この資や一部無償による資金協力に着手している。他方,開ような中,JICA はケニアやインドネシアに専門家を派発実施能力が十分でない途上国では,自己負担分の資金遣し,地熱開発公社等の資源開発能力の強化を行ってい調達,掘削コントラクターへの発注・モニタリング能力る(写真―)。の不足等の課題により期待とおりには開発が進んでいな加えて,表―のとおり,今年度より本邦研修を 4い。このため,開発途上国における地熱開発促進のためコースに拡充した。これら研修コースは産官学 35 機関には,事業リスク軽減のための資金協力とともに,途上以上の協力により,オールジャパンの体制で受け入れを国側の地熱開発能力の強化が一層重要になっている。行っている。今後 10 年間でアフリカ,アジア,中南米. JICA のこれまでの協力JICA は1970年から,地表調査,試掘・資源量評価,から470人以上の研修員を受け入れる予定である。地熱エグゼクティブ生産井掘削・プラント建設への協力を実施してきた。こ地熱開発計画の決定を担う行政官,公社計画部門の実れまで有償資金協力(主に生産井掘削・プラント建設に務者養成を目指す。地熱開発における国と民間の役割や充当)で運転開始した発電所は設備容量で約1 200 MWプロジェクト経済性評価等について学ぶ。本邦地熱関係(ケニアの電力需要に相当),同出力の発電を石油火力発電で行った場合に比べ二酸化炭素削減量は年間で 5.4百万 t - CO2 と,電力の安定供給を通じた民生の向上と気候変動対策に貢献している。. JICA の協力の方向性地熱開発はリスクを伴う事業であり,内部収益率が実February, 2017者との交流の場を設ける。10年間で160名の受入を想定。中核人材(行政官,研究者)将来を嘱望される地熱開発機関の若手エンジニアや同機関に加え,新卒を輩出する大学の教員を対象とし,中長期的な人材育成を目指す。九州大学,東北大学,秋田大学等の協力を得て,修士課程及び博士課程での研究を行う。10年間で50名の受入を想定。5 論説写真―表―ケニアでの専門家指導の様子地熱人材育成に向けた本邦研修. 探査技術の研究開発探査・掘削技術の精度が向上すれば,資源開発の成功率が向上すると共に,コストの軽減が期待できるため,収益率の改善につながる。このため, JICA は技術開発の促進に注力しており,具体的には,地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)注1)により,本邦による地熱資源エンジニア新規技術の研究開発と社会実装を支援している。途上国からの強い要望を受け, 1970 年から 2001 年に事例としては「インドネシアにおける地熱発電の大幅九州大学で実施したコースを復活。地質,地球化学,地促進を目指した蒸気スポット検出と持続的資源利用の技球物理,貯留層工学の中堅エンジニアを対象とし,九州術開発」( 2014 2019 )があげられる。京都大学の小池大学を中心に,東北大学,産業技術総合研究所,民間の克明教授が中心となり,バンドン工科大学等と共同で以協力を得て,講義・実習を行う。10年間で150名の受入下の技術を開発・実証している。実証されれば, JICAを想定。の調査にも積極的に活用していく。掘削マネージャー発注者側の立場で掘削計画・管理を担う将来の掘削マネージャーの養成を目指す(掘削作業者の養成ではない)。・リモートセンシング・地球化学・鉱物学での最先端手法を統合して発電に最適な蒸気スポットを高精度で検出できる技術掘削技術概論,掘削機器,掘削パラメータ,掘削事例,・地熱発電所周辺の広域環境モニタリング技術掘削計画について学ぶ。掘削事例は,今後,本邦開発事・長期にわたる地熱エネルギーの持続的利用・産出を可業者の協力を得て,失敗事例を収集・分析のうえ,採ら能にするための最適化システム設計技術れた対応と結果を事象(逸泥,暴噴等)毎に紹介する。. 政策支援10年間で80名の受入を想定。有望地点の開発優先付け等,技術的,経済的に最適な. 試掘支援開発計画(マスタープラン)の策定支援を継続する。加途上国や経団連からの要望を受け, JICA は今年度かえて,.で述べた地熱開発における政府と民間の望まら試掘支援を実施することにした。他の援助機関は試掘資金の提供を行っているが,掘削の経験のない国は,資注1)地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)環境・エネルギー,生物資源,防災及び感染症等の地球規模課金があっても実施できない現状を踏まえ,JICA は発注題の解決を視野に,これら諸課題の解決に繋がる新たな知見の者となって試掘支援を行うと共に,人材育成を行うのが獲得及びその成果の将来的な社会実装(具体的な研究成果の社特徴。現在,エクアドル,ニカラグア,エチオピア,ジ会還元)を目指し,開発途上国の社会的ニーズをもとに我が国の研究機関と開発途上国の研究機関とが協力して技術協力プロブチでの支援に向けた地表調査や掘削計画の策定を進めジェクトの枠組みにより国際共同研究を推進するもので,そのている。なお,適切な試掘の実施を行うため,有識者に目的は次のとおり。よる試掘アドバイザリーグループ(第三者委員会)を設置している。1)開発途上国の人材育成及び自立的研究開発能力の向上2)課題解決に資する持続的活動体制の構築3)科学技術水準の向上につながる新たな知見の獲得と全地球的な課題解決への寄与6地盤工学会誌,―() 論写真―説円借款で整備されたケニア・オルカリア地熱発電所しい役割分担,リスク適正化についても分析を進め,政での地熱資源開発が進む中,今後,発電所の運営維持管策提言を行う。更に,投資環境が整備されておらず,国理能力の強化のニーズが増えると予測される。まずは,が地下情報を蓄積しても,民間投資を呼び込めない国もケニアのオルカリア地熱発電所において簡易な設備診断多い。このため,政策官庁・規制機関・監督機関等の能を行い,課題の整理と協力の方向性の検討を行う。また,力強化,蒸気売買及び電力売買に関する諸制度の整備等エチオピアにおいても,どのような協力ができるかの検について PPP アドバイザーの派遣等の協力を行う。討を行う予定である(写真―)。他方,熟練エンジニ. 譲許的条件による資金協力アの養成には時間を要することから,遠隔監視システム資源が確認されても,生産/還元井の掘削やプラントを導入し,日本の熟練エンジニアからの遠隔指導の可能建設に 50 MW クラスでは 200 億円以上の資金が必要に性についても追及する。なる。融資条件が譲許的である程,収益率は向上するた. 途上国の大学地熱コース機能の強化め,引き続き,円借款による支援を行う。従来のプロジエネルギー省や地熱開発公社の中堅エンジニアや行政ェクト借款やセクターローンに加え,官民連携による官は,.で述べた研修コースで育成しているが,中長PPP ( Public Private Partnership )インフラ整備を促期的には若手エンジニアの養成との連携が重要であり,進するため, Equity Back Finance借款注2) やPPP インそのためには,大学地熱コースの強化が必要である。地フラ信用補完スタンド・バイ借款注3)等 の活用を進める。熱コースを有する途上国の大学は中南米のエルサルバド更に民間からの要望があれば海外投融資の適用も検討すルやアジアのインドネシア等と限られており,アフリカる。には核となる大学がない。このような中,現在,日本の.新たな協力への取り組み大学とも連携しつつ,ケニア等における大学の機能の強化を検討しているところである。エチオピアやジブチ等. 地熱発電所の運営維持管理能力の強化の隣国からもコースを受講できるようになれば,アフリエチオピアのように,発電設備は設置したが,地熱発カ地域における地熱入門コースとなり得る。電所の運営の経験がなく,適切な維持管理を行えない結果,機器を故障させている国もある。また,ケニアのように, 30 年以上の発電所運営の経験はあるが,今後,地熱発電量を増加させる中で,更なる稼働率向上を図るため,我が国に技術協力を要請する国もある。各途上国注 2)参1)考文献(一社)火力原子力発電技術協会地熱発電の現状と動向,2012.(原稿受理2016.10.18)Equity Back Finance 借款本邦企業が途上国との合弁会社を立ち上げて事業を行う場合,同合弁会社に対する途上国政府・国営企業等による資金手当て(出資)分を,円借款を通じてバックファイナンス(EBF)するもの。注 3)PPP インフラ信用補完スタンド・バイ借款民間事業者と,その生産物(水,電力等)の購入者(地方自治体,電力公社等)との間の支払契約が,政策変更等の不可抗力で履行されない場合に備え,途上国政府による契約履行の保証や,購入者への短期の資金供給を行うための資金を支援するもの。February, 20177
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