書籍詳細ページ
出版

タイトル アレイアンテナ地中レーダによる不飽和地盤中水分動態の評価(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
著者 斎藤 広隆・黒田 清一郎・永井 延史・Jacopo Sala
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
ページ 28〜31 発行 2017/01/01 文書ID jk201707080015
内容 表示
ログイン
  • タイトル
  • アレイアンテナ地中レーダによる不飽和地盤中水分動態の評価(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
  • 著者
  • 斎藤 広隆・黒田 清一郎・永井 延史・Jacopo Sala
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
  • ページ
  • 28〜31
  • 発行
  • 2017/01/01
  • 文書ID
  • jk201707080015
  • 内容
  • 報告アレイアンテナ地中レーダによる不飽和地盤中水分動態の評価Evaluation of Soil Moisture Content Distribution and Dynamics by Array Ground Penetrating radar斎藤広隆(さいとう東京農工大学大学院永井延准教授史(ながい株 ジオファイブひろたか)黒田清一郎(くろだ農業・食品産業技術総合研究機構のぶひと)JacopoSala(やこぽせいいちろう)上級研究員さら)3DRadar AS エンジニア専務取締役ナを一列に配置した構造となっているため,アレイアン. は じ め にテナ GPR(以降略してアレイ GPR)とよばれている。不飽和地盤中の水分動態を知ることは,不飽和帯におアレイ GPR の多くは,地表型 GPR 同様に地表面又はける環境汚染物質の動態を予測するために必要なだけで地表数 cm の空中から測定し,車両等による牽引が可能なく,浸透に伴う河川堤防や自然斜面崩壊,あるいは道なように設計されており,短時間に広範囲の探査が可能路陥没など不飽和地盤や土構造物に関わる現象の解明やとなっている。アレイ GPR はこれまで,アスファルト問題の解決に不可欠である。なかでも,浸透現象のようやコンクリートの診断など社会インフラの点検・保守,な不飽和地盤中の水分移動現象を非破壊かつ非侵襲で直遺跡調査3) ,あるいは地雷や不発弾探査4)などに使われ接測定することは,地盤中の物質移動係数の推定に欠かてきたが,不飽和地盤中の水分動態の評価への応用は限すことができず,地盤工学のみならず地球科学あるいはられてきた。本稿では,アレイ GPR の一応用例として,農学分野において長年の研究課題の一つとなっている。筆者らが実施してきた浸潤過程の可視化及び定量化につ不飽和地盤中の水分量を原位置で測定する方法としていて5) ,その成果を報告し,アレイ GPR の優位性,可は,地盤の電気特性の一つである比誘電率が水分量の関能性さらには課題について考察する。また,最後にアレ数となることを利用した方法が一般的である。例えば地イ GPR による広域の土壌水分マップ作成への応用につ盤中の水分量を測定する際に, TDRいて考察する。なお本稿の実験に関する研究の一部は,(TimeDomainRe‰ectometry )に代表される誘電率水分センサーがよく 用 い ら れ る1) 。 TDR は 金 属 製 の ロ ッ ド を も つ セ ンサーで,任意の深さに挿入し,金属ロッドを伝播する電磁波の移動特性からロッド周辺地盤の比誘電率を求め,水分量を算出する。しかしこれらセンサーは非破壊・非鳥取大学乾燥地研究センター共同研究及び JSPS 科研費(課題16H02580)の助成を受けて実施した。.アレイアンテナ地中レーダ(アレイ GPR)アレイ GPR とは,送信アンテナ及び受信アンテナが侵襲な手法ではなく,センサーを設置した地点の局所的それぞれ複数個並んだ配列構造を持つ GPR の総称であな水分量の測定には適しているものの,広域の水分動態る。アレイ GPR では,特定の周波数帯のパルス波形をや浸潤時の浸潤前線の連続的な追跡などには不向きであ放射するパルス方式6)あるいは周波数を段階的に上げなる。がら放射するステップ方式7)が採用されている。本稿で近年,物理探査技術の地盤工学や地球科学分野への応は, 3D Radar 社の高精度ステップ方式のアレイ GPR用が進み, TDR と同様に電磁波を用いる地中レーダシ ス テ ム を 用 い た8) 。 3D Radar 社 の ア レ イ GPR( GPR 又 は Ground Penetrating Radar ) に よ る 不 飽 和(DXG1820アンテナの場合)は150 mm 間隔で送信アン地盤中の水分量やその動態の測定が行われてきた2) 。テナ(Tx)10個と受信アンテナ(Rx)11個がそれぞれGPR には,坑井間 GPR,地表型(地表面接触型,非接触型) GPR など様々な種類が存在するが,多くは送信アンテナより高周波の電磁波を放射し,反射・屈折などして地盤内を伝播してきた電磁波を受信アンテナによって捉え,地盤構造などを可視化する。これまで,高周波のパルス電磁波を用い送信・受信アンテナそれぞれ一つから構成され,地下構造を乱さない地表型 GPR がその使いやすさなどから普及してきた。近年,複数の送受信アンテナから構成され一つの計測器で送受信アンテナの組合わせを電気的に任意で切り替え , 効 率 よ く か つ 高 速 に 三 次 元デ ー タ を 取 得で き るGPR が注目を浴びている。このような GPR はアンテ28図―3D Radar 社の DXG1820 アンテナにおける送受信アンテナの配置地盤工学会誌,―() 報告等間隔で並び, Tx と Rx が交互に配置されているアンテナアレイよりなる(図―)。交互に隣り合う Tx とRx の先端間の距離は約 113 mm である。アンテナアレイは複数の高周波同軸ケーブルからなるアンテナケーブルにより制御装置と接続される。さらにイーサネットケーブルを介して観測用 PC により制御される。また本システムは高精度 GPS 移動計測装置を搭載しており,測定結果を地図上に落とし込むことが可能となっている。本システムは,周波数 100 MHz から 3 000 MHz の間で動作するステップ方式による GPR である。測定は,事前に入力した送受信アンテナの組合わせ順に逐次送受信アンテナの組合わせを切り替えながら進める。ステップ方式 GPR では周波数領域のデータが得られるが,フーリエ逆変換により時間領域の波形データが生成され,パルス方式 GPR より得られる反射波形に相当する波形データが得られる。パルス方式の場合,高周波の電磁波であれば高解像度であるものの探査深度は得られず,低周波であれば探査深度は得られるものの低解像度となる。ステップ方式では,高周波領域と低周波領域いずれのデータも有し,一度の測定で複数のパルス方式の GPRを用いた場合と同様のデータを得ることができる。本システムでは 0.3 秒以内にアンテナ間距離を 113 mm で一図―(a)COG, (b)CMP, (c)MOG を取得するための送受信アンテナの組合わせ定とするコモンオフセットギャザー( COG )を計 20 波形得ることができ(図―(a)),複数の測線上を車両なせでは,すべての組合わせにおいてアンテナ中心点が同どで牽引することで,三次元データを短時間に作成する一となり, CMP ギャザーが得られる。また,図―ことができる。なお,図―(a)の白丸で示している送(c)は, Tx を固定し Rx を R0 から R10まで切り替える受信アンテナの中心点は75 mm 間隔となり,COG を図WARR ギャザーの一例を示す。さらに Tx を T0 から示する際にはこの中心点の位置で波形を並べる。. アレイ GPR による MOG と速度解析T9 へと変化させることで, 10 種類の異なる WARR ギャザーを得ることができる。本システムでは110通りのアレイ GPR では, Tx と Rx を自由に組み合わせる組合わせをすべて測定するのに約 1.5 秒を要する。しかことができるが,これまでの多くの適用事例は COG のし,それはすなわち CMP や WARR を1.5秒ごとに取得取得による地下構造の可視化であった。しかし,時間領できること意味し,これまで時間を要するため不向きと域に変換された COG から,深度情報を推定するには,さ れ て き た 動 的 現 象 に 対 す る MOG 計 測 が , ア レ イ地下の電磁波速度構造が必要となる。 GPR 探査においGPR によって可能になってきたことを示唆している。て,電磁波速度構造を求めるためには,一般にマルチオCMP や WARR ギャザーは,その後速度解析に用いフセット計測によるマルチオフセットギャザー(MOG)られる。速度解析には,NMO 補正後に波形を重合するが必要となる。例えば,送受信アンテナの中心位置を固センブランス法が一般的であるが,より正確な速度推定定しアンテナ間隔を変えながら測定を行う,コモンミッには,多くの波形,つまり多くの測定が必要である。アドポイント( CMP )計測により,地下の電磁波速度構ンテナ間隔を自由に変えることのできないアレイ GPR造を推定することができる。パルス方式の地表型 GPRの場合,得られる波形の数はアンテナ数によって決まり,を用いて CMP 計測により電磁波伝播速度を正確に推定今回用いたアレイ GPR ではその数は10と,必ずしも十するためには,アンテナ間隔の変化量を小さくし測定回分ではない。そこで本稿では以下の方法で平均電磁波伝数を増やす必要があるが,それに伴い測定時間も増加す播速度を推定した。今,アンテナ距離 0 のときの往復る。そのため,浸潤過程のように動的現象に対してパル走時を T0 とすると,あるアンテナ距離 x における深さス方式の地表型 GPR で CMP 測定を実施することは難D からの往復走時 T は,平均電磁波伝播速度 v より次しい。また, Tx を固定し, Rx の位置を変えながら測式で与えられる。定するワイドアングルリフレクション・リフラクション( WARR )測定も MOG 計測の一つであるが, CMP 同x2T 2=T02+ 2……………………………………………(1)v様パルス方式の地表型 GPR では測定には時間がかかり,T は双曲線を描く x の関数となり, CMP ギャザーで得動的現象の測定には不向きである。られた反射局面に当てはめることで,最適な v を決めるアレイ GPR による MOG については,これまでほとことができる。本稿では,アレイ GPR より得られたんど報告事例はない。例えば,図―(b)に示す組合わCMP ギャザーより,上式を用いて反射面までの平均電January, 201729 報告図―アレイ GPR より得られた三次元時空レーダグラム(Iwasaki ら5),Fig. 2 を修正)。白三角は送信アンテナの位置を示す磁波伝播速度を推定した。.浸潤試験への適用事例ここでは,著者らが鳥取大学乾燥地研究センター内で実施した浸潤実験の結果について報告する.実験や結果の詳細は Iwasaki ら5)に詳しい。本実験では,地表面に長さ 2.5 m の多孔質チューブを 6 本,15 cm 間隔で平行に設置し,一定流量( 7 000 cm3/ min )で給水し,アレイ GPR を用いて浸潤前線を測定した。このとき,アレ図―イ GPR は測線上を牽引することなく,多孔質チューブ浸潤開始後 0, 30,及び60分後の COG 及び CMPのレーダグラム。黒矢印は浸潤前線からの反射を示す(Iwasaki ら5),Fig. 3 を修正)上に静置し測定した(三次元時空 GPR 探査)。本実験では,送受信アンテナの110通りの組合わせを繰り返し連続的に測定し,測定終了後に波形を並び替え, COG,うにアレイ GPR により MOG を含む三次元時空データWARR, CMP を再構成した。を得ることで,任意の経過時間 t において,推定した v図―は,アレイ GPR によって得られた浸潤開始後と COG の往復走時から,浸潤前線の深さを求めること60 分までの三次元時空レーダグラムである。三次元時ができる。これは,これまでのパルス方式の地表型空レーダグラムは,アンテナ中心点の位置と往復走時かGPR ではほぼ不可能なことで,アレイ GPR の特徴をらなる二次元のレーダグラムを 1.5秒ごとに並べてでき生かした事例の一つといえる。たもので,長軸は経過時間 t(分)である。図―は,110 通りの組合わせを Tx ごとに区切って示したものある。初期断面(t=0)には直達波や反射波形が明瞭に現.三次元土壌水分マップへの応用と今後の展開れている。一方で時間の経過とともに,明瞭な反射面が本稿ではアレイ GPR による浸潤過程の可視化及び浸現れ往復走時が経過時間とともに増加し,反射面の位置潤前線の追跡について,最新の研究成果を報告した。こが深くなっていく様子を確認することができる。この連れまでアレイ GPR は, COG による地下の可視化によ続的な反射面は浸潤前線からの反射面であり,アレイる社会インフラの保守・点検,あるいは地雷や遺跡探査GPR により浸潤前線の位置を明確に捉えられているこで使われるのみであった。一方,本稿で示したように,とが確認できる。今後アレイ GPR による MOG 計測の活用が広がること図―に,三次元時空レーダグラムより切り出し再構が期待できる。その一例が,広域土壌水分マップへの応成した,初期, 30分後及び 60分後の CMP 及び COG の用である。これまでの GPR による土壌水分マップの作二次元レーダグラムを示す。 30 分後, 60 分後のレーダ成はパルス方式の地表型 GPR を用いて,反射波の往復グラムには浸潤前線からの明瞭な反射面を確認できる。走時9)又は地表面直達波(以降直達波)の走時より,平このときの,浸潤前線の位置を同定するためには,電磁均電磁波伝播速度を推定し,比誘電率を求める方法がほ波伝播速度が必要となる。図―に, 60 分後の CMPとんどであった。前者の場合は既知の反射面からの往復レーダグラムとともに上述の速度解析方法による往復走走時,又は CMP による速度解析が不可欠であるが,各時 T を白線で示す。レーダグラムの反射波形と式(1)に測定地点において速度構造を推定することはできない。よる曲線はよく一致しており,このとき反射面までの平一方直達波を用いる場合は,アンテナ間の距離を一定に均速度 v を正確に推定できていることが分かる。このよ保つことで,各測定地点において電磁波走時から平均電30地盤工学会誌,―() 報告が,近年のアレイ GPR のアンテナの切り替え速度は十分早く,そのような計測とそれに基づく地盤の電磁波速度構造の評価は実用的な観点からも可能である。電磁波速度構造は道路舗装下の湿潤な地盤においては水分分布状態の定量的な指標となり,バラストのような乾燥した地盤材料においては充填状況の指標にもなることから,今後はこのような実用的な分野においても有益な定量的情報として活用されることが期待される。参1)図―60 分後の CMP レーダグラム及び式( 1 )による往復走時 T の予測結果( Iwasaki ら5) , Fig. 3 を修2)正)3)磁波伝播速度を推定することができる。しかし,直達波は影響深度が含水量のみならず電磁波の周波数にも依存4)することが知られており10) ,三次元的な水分分布を得ることはできない。表面的な分布だけでなく,深さ方向の分布,つまり地5)盤内での三次元的な水分分布を知ることは,例えば土壌構造物や斜面の安定性評価だけでなく,灌漑効率の最適化などにおいて非常に意義がある。アレイ GPR は,COG, MOG をほぼ同時にかつ連続的に取得でき,車両6)等で牽引できるため,比較的広いフィールドであっても効率よく探査することができる。各測定地点において,アンテナアレイの中心で CMP ギャザーを得ることがで7)き,一次元の電磁波速度構造を推定できる。そして,その速度を用いて COG から地盤内の深さ方向の水分分布8)を定量化することが可能となる。各測定地点で同様の解析を繰り返すことで,これまで精密な作成が難しかった三次元土壌水分マップの作成が期待できる。9)現在アレイ GPR は道路の舗装状況やその地盤の診断への活用に加え,欧米諸国では鉄道線路のバラストの状況の診断等にも活用され始めている。しかしながら一般的には COG 計測による単純なプロファイル反射画像のみ に よ る 診 断 が 一 般 的 で あ り , MOG 計 測 あ る い はCMP 計測は行われない。 MOG のために測定パターンを増やすことによって作業効率が若干低下する面もあるJanuary, 201710)考文献Robinson, D. A., Jones, S. B., Wraith, J. M., Or, D., andFriedman, S. P.: A Review of Advances in Dielectric andElectrical Conductivity Measurement in Soils UsingTime Domain Re‰ectometry, Vadose Zone Journal, Vol.2, No. 4, pp. 444475, 2003.Huisman, J. A., Hubbard, S. S., Redman, J. D. and Annan, a. P.: Measuring Soil Water Content with GroundPenetrating Radar A Review, Vadose Zone Journal, Vol.2, pp. 476491, 2003.高橋一徳・劉 海・佐藤源之震災復興を推進するアレイ型地中レーダによる遺跡計測,電気情報通信学会技術研究報告,pp. 81~86, 2013.Sato, M., Hamada, Y., Feng, X., Kong, F.N., Zeng, Z.and Fang, G.: GPR using an array antenna for landminedetection, Near Surface Geophysics, Vol. 2, pp. 713,2004.Iwasaki, T., Kuroda, S., Saito, H., Tobe, Y., Suzuki, K.,Fujimaki, H. and Inoue, M.: Monitoring InˆltrationProcess Seamlessly Using Array Ground Penetrating Radar, Agricultural and Environmental Letters, 1, 160002.,2016.荒井郁男・富澤良行・後藤真二アレイアンテナを用いたインパルス地雷探査レーダ,計測と制御, Vol. 45,No. 498~503, 2006.佐藤源之・馮 瞳・小林敬生・高橋一徳地中レーダ・波動情報処理の地雷検知への応用,計測と制御, Vol.45, No. 6, pp. 491497, 2006.Eide, E. S. and Hjelmstad, J. F.: 3D utility mapping using electronically scanned antenna array, In Proc. SPIE4758, Ninth International Conference on GroundPenetrating Radar, pp. 192196, 2002.Lunt, I., Hubbard, S. S. and Rubin, Y.: Soil moisture content estimation using groundpenetrating radar re‰ection data, Journal of Hydrology, Vol. 307, pp. 254269,2005.Galagedara, L. W., Parkin, G. W., Redman, J. D., VonBertoldi, P. and Endres, A. L.: Field studies of the GPRground wave method for estimating soil water contentduring irrigation and drainage. Journal of Hydrology,Vol. 301, pp. 182197, 2005.(原稿受理2016.10.5)31
  • ログイン