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出版

タイトル 統合物理探査を利用した河川堤防調査(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
著者 林 宏一
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
ページ 24〜27 発行 2017/01/01 文書ID jk201707080014
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  • タイトル
  • 統合物理探査を利用した河川堤防調査(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
  • 著者
  • 林 宏一
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
  • ページ
  • 24〜27
  • 発行
  • 2017/01/01
  • 文書ID
  • jk201707080014
  • 内容
  • 報告統合物理探査を利用した河川堤防調査Levee Investigation Using Integrated Geophysical Method林宏一(はやし株応用地質こういち)上席研究員. は じ め に地球温暖化に伴い頻発・激甚化する水害に対し,堤防の漏水等の重点監視個所を抽出すること等を目的として,物理探査技術の活用が期待されている。河川堤防調査に対する物理探査技術の適用は 1980 年代の後半から継続的に試みられてきたが,これまで必ずしも期待に応えて来たとは言えない。この理由として,単独の物理探査技術では堤防調査に求められている精度や分解能を満足で図―きないこと,及びその限界について堤防を監理する技術一般的な統合物理探査の適用方針者も物理探査を実施する技術者も認識していなかったこと等が挙げられる。このような問題点を踏まえて,近年,統合物理探査1)あるいは複合物理探査と呼ばれる,複数の物理探査技術を併用する調査手法が注目を集めている。表―物理探査から求まる物性値と堤防の設計・施工で一般的に用いられる工学的なパラメータの関係(〇良い関係がある。△ある程度関係がある。×あまり関係がない)本稿では,この統合物理探査について,特に河川堤防調査に対する適用の視点から,手法の概要,適用事例,今後の展望などについてまとめる。.統合物理探査とは統合物理探査は,特定の手法ではなく物理探査を地盤調査に用いる際の適用方針である。この適用方針は調査対象や調査目的,あるいは技術者や研究者によっても異なるが,一般に図―のようにまとめられる。以下,この適用方針について,特に河川堤防調査への適用の視点からまとめる。. ボーリングや室内試験など他の調査手法も併せて解析・解釈する統合物理探査では,物理探査だけではなくボーリングや室内試験など他の調査手法,あるいは治水地形分類や. 複数の物理探査を併用する堤防の概略点検結果など他の情報も積極的に使用して解表―に物理探査から求まる物性値と堤防の設計・施析・解釈を行う。工で一般的に用いられる工学的なパラメータの関係を示例えば,他の情報の使用例として,初期モデルへの利す。例えば堤防の設計・施工において土質は極めて重要用が挙げられる。地表から行う物理探査の解析は,観測なパラメータであるが,比抵抗や S 波速度など物理探で得られたデータから地盤モデルを推定(初期モデル)査から求まる物性値とは直接関係しない。したがって単し,これに対して理論的なデータを計算して観測された独の物理探査手法若しくは単独の物性値から土質を推定データと比較し,一致していれば終了,一致していなけすることは簡単ではない。そこで,統合物理探査では複ればモデルを修正して一致するモデルを求める(逆解析)。数の物性値から工学的なパラメータを推定することを試ここで多くの場合,観測データと一致する理論的なデーみる。タを与える地盤モデルは複数存在する(図―)。した堤防調査では一般的に表面波探査や屈折法地震探査ながって,観測されたデータだけから正しい地盤モデルをどの地震探査手法と電気探査が併用されているが,これ推定することは困難な場合が多い。これを逆解析の非一は地震探査から求まる P 波速度若しくは S 波速度が主意性と言う。電気探査や表面波探査など地表から行う物に剛性率や密度など強度に関係するのに対して,電気探理探査の解析は一般的に非一意であり,物理探査のデー査から求まる比抵抗は主に飽和度や土質など強度以外にタだけから精度よく地盤構造を求めることは難しい。こ関係し,両者の相関が少ないことから併用する効果が大こで,ボーリングなどその他の情報を,逆解析においてきいからである。初期モデルの作成や拘束条件に使用すれば,非一意性を24地盤工学会誌,―() 報図―表面波探査における非一意性の例。速度構造(左)図―告速度検層と物理探査(微動アレイ)の比較例と理論的な分散曲線(右)小さくしより高い精度で地盤構造を求めることが可能になる。. 異なる次元や分解能のデータを併せて解析・解釈する物理探査は地表から測定しているために,得られる地盤情報の精度や分解能はボーリングやサウンディング,検層などと比べて低い(図―)。一方で,室内試験は地盤中のある地点の情報( 0 次元),ボーリングやサウンディングは地盤中の深度方向の連続情報(一次元)であるのに対して,物理探査では地盤の水平方向への広がりも含めて二次元,三次元の情報を容易に得ることができる。堤防は連続的な構造物であり,その安全性の評価は連続的に行うことが非常に重要である。これまで,堤防の連続的な評価は一般に数100 m 間隔のボーリングを補間して行っていたが,物理探査の水平方向の分解能は一般的に数 m であり,水平方向に関してはボーリングよりもはるかに高い分解能の情報を持っている。このように物理探査とボーリングや室内試験は,精度や分解能を比べるものではなく,お互いの長所を活かすよう組み合わせて用いることが重要である。. 物理探査により求まる物性値から設計・施工に用いるパラメータを推定する上記のように物理探査から得られるのは,弾性波速度や比抵抗であり,堤防の設計・施工に用いられる工学的パラメータを求めることは難しかった。統合物理探査では,物理探査結果をボーリングや室内試験結果と併せて図―上 S 波速度と N 値の関係。下比抵抗と 20 粒径の関係1)を修正組織的にデータベース( DB)化すること等により,物理探査から得られる物性値から工学的なパラメータを推まで物理探査結果の解釈は一般に比抵抗が高い低いとい定することを目指している。図―に,土木研究所と物った定性的で主観的な解釈にとどまっていた。統合物理理探査学会がまとめた DB に基づく, S 波速度と N 値探査では,ここまで述べてきたような異なる調査手法のの関係,及び比抵抗と20粒径の関係1)を示す。併用や DB を活用することにより,定量的で客観的な解. 定性的な解析・解釈を定量化する釈を目指している。図―に S 波速度と比抵抗から統設計・施工に用いる工学的パラメータが求まらなかっ計的に推定した土質断面例を示す。たことや,分解能や精度が限られていたことから,これJanuary, 201725 報告図―.S 波速度断面(上)と比抵抗断面(中)から統計的に推定した土質断面(下)東日本大震災で被災した堤防に対する適用例.今後の展望統合物理探査において,工学的なパラメータを客観東日本大震災により,国土交通省関東地方整備局管内的・定量的に求める技術は未だ確立されていない。したの堤防等河川管理施設では 4 水系 10 河川に被災が及んがって,現時点では河川堤防の安全性等を評価する手法だ。特に利根川(下流部),霞ヶ浦,那珂川,久慈川,として統合物理探査をルーチン的に適用することは簡単小貝川等の河川では,沈下やすべり,クラック等の甚大ではない。今後の課題として下記のような項目が挙げらな被害が発生し,それらの総延長は 740 km にも及んだ。れる。このような河川では,被災後の河川堤防の健全性の評. 解釈技術の研究価を目的として,堤防内部の状況を把握するために多く現在の河川堤防における統合物理探査の解釈方法としの堤防で統合物理探査が実施された。図―に小貝川左ては,図―に示したように,表面波探査から得られる岸堤防35 km 付近で実施した調査例2)を示す。表面波探S 波速度と電気探査から得られる比抵抗の 2 つの物性値査により得られた S 波速度と牽引式電気探査により得をクロスプロットし,クロスプロット上でデータを分類られた比抵抗のクロスプロットを作成した結果,被災区する,という方法が主体となっている。より定量的で客間(距離程 900 m 付近)は基礎地盤・堤体部とも低 S観的な解釈方法として,岩石物理学に基づく解釈方波速度かつ低比抵抗で特徴づけられ, S 波速度 180 m /s法4),5)の適用等が試みられている。以下,比抵抗 90 Q・m 以下(図中黒の範囲)で区分した. データベースの構築場合,明瞭に他区間と識別することができた。物理探査から求まる物性値から工学的なパラメータを同様な調査は 160 km 以上の堤防で実施され,各測線推定したり,客観的で定量的な解釈をルーチン的に行っにおいて表面波探査と牽引式電気探査の 2 手法が実施たりするためには,物理探査結果とボーリングや室内試された。図―に示したようなクロスプロットを用いた験結果の対比や,調査結果の検証などを行うことが重要評価は計160 km の堤防に対して行われ,約 15 km,9.5である。このように,調査結果を蓄積して分析するための区間が安全性が低い区間として抽出された3)。このには,調査結果をデータベース( DB)化することが不ように,統合物理探査を用いることにより,非破壊で効可欠である。率良く堤防内部の緩み等を把握することができた。. 結果の電子納品化上記のような DB を構築するためには,調査結果をデジタルデータとして収集することが欠かせない。ボーリ26地盤工学会誌,―() 報図―告小貝川左岸堤防35 km 付近で実施した統合物理探査の調査例2)を修正。S 波速度(上)と比抵抗(中)からクロスプロット断面(下)を作成した結果,低 S 波速度・低比抵抗の区間として,被災区間を抽出することができたングや室内試験結果については書式が定められて,電子使いやすい手法となるよう,今後も開発や改良を行って納品化が進んでいるのに対して,物理探査結果についていきたい。は未だに電子納品が行われていない。そこで,物理探査学会では統合物理探査に関する委員会6)を設立して,同探査の調査研究を行うとともに,電子納品書式についても策定を進めている。物理探査結果の電子納品書式はXML を基本7)とし運用に向けて現在検討中である。参1)2). 手法のマニュアル化ボーリングや室内試験は,地盤工学会等により基準化3)が進んでいるが,物理探査ではこのような基準化やマニュアル化があまり進んでおらず,同探査の利用が増えな4)い一因となっている。物理探査学会では上記のように統合物理探査に関する委員会や河川堤防の統合物理探査適用検討委員会8)を設立して,調査研究を行うとともに手5)法の基準化やマニュアル化を進めている。6). まとめ地表から行う物理探査には,その精度や分解能に理論7)的な限界がありボーリングや室内試験に代わる手法として物理探査を用いることは難しい。一方で,物理探査には,広い範囲を迅速に調査できる,地盤の広い範囲の平均的な物性を求めることができる,等ボーリングや室内試験にはない多くの特長がある。複数の物理探査手法を組み合わせる,あるいは物理探査とそれ以外の調査手法を組み合わせることにより,より良い調査が可能になる8)考文献土木研究所・物理探査学会河川堤防の統合物理探査―安全性評価への適用の手引き―,愛智出版,2013.稲崎富士物理探査による東日本大震災被災堤防区間の物性的特徴,物理探査学会第 125回学術講演会講演論文集,pp. 17~20, 2011.瀬能真一統合物理探査による河川堤防の健全性評価について,第10回地盤工学会関東支部発表会,KOZO27,2013.Konishi, C.: Crossplot analysis by using rock physicsbased thresholds for an evaluation of unsaturated soil,SAGEEP, 149, 2014.高橋 亨・稲崎富士物理探査データを用いた河川堤防の浸透性の推定について,物理探査学会第 128 回学術講演会講演論文集,pp. 166~169, 2013.三木 茂・統合物理探査調査研究委員会統合物理探査調査研究委員会の発足について,物理探査学会第130回学術講演会講演論文集,pp. 95~98, 2014.林 宏一・山下善弘・物理探査書式検討研究委員会物理探査データの標準書式における XML ファイルの利用,物理探査学会第 131 回学術講演会講演論文集, pp. 86 ~89, 2014.渡辺文雄・河川堤防の統合物理探査適用検討委員会河川堤防の統合物理探査手法の適用性検討(その 1)―河川堤防健全度評価への統合物理探査の役割とコンソーシアムの取組み―,物理探査学会第 116回学術講演会講演論文集,pp. 277~280, 2007.(原稿受理2016.9.30)と考えられる。土木地質調査において,物理探査がよりJanuary, 201727
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