書籍詳細ページ
出版

タイトル 地震波干渉法による弾性波探査(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
著者 相澤 隆生・黒田 清一郎
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
ページ 16〜19 発行 2017/01/01 文書ID jk201707080012
内容 表示
ログイン
  • タイトル
  • 地震波干渉法による弾性波探査(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
  • 著者
  • 相澤 隆生・黒田 清一郎
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
  • ページ
  • 16〜19
  • 発行
  • 2017/01/01
  • 文書ID
  • jk201707080012
  • 内容
  • 報告地震波干渉法による弾性波探査Seismic Survey by Seismic Interferometry相澤隆生(あいざわ株 技術本部サンコーコンサルタント黒たかお)室長田清一郎(くろだせいいちろう)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員人工振源を用いることができない場合としては,都市. は じ め に部や住宅密集地等の土地利用上の制約のため発破や大型弾性波探査は,地中を可視化する物理探査技術として起振装置を使用できない場合,半導体工場や地震被災直地盤調査に広く用いられている。弾性探査には,構造物後の民家周辺など地盤に対して振動そのものを与えるこ基礎地盤の速度分布を用いて可視化する方法としてトンとができない場合,都市部での交通振動や工場からの振ネル施工面,ダム基礎,法面掘削等の調査に用いられる動がノイズとなって弾性波探査が適用できない場合等が屈折法弾性波探査(図―),さらに詳細な地盤速度で考えられる。これらの課題を解決する方法として,地震可視化する方法としてトモグラフィ探査,地盤構造調査波干渉法を利用すれば人工振源を使わずに弾性波探査にや資源調査等のために地下構造を可視化する方法としておける受振器録を合成することが可能になった。反射法弾性波探査(図―)が用いられている。また,これらの手法を用いて時間の経過と共に変化する様子を捉え,地盤のモニタリング法として用いられることもあ.地震波干渉法地震波干渉法は,異なる 2 点に設置した受振器で同時に観測された受振記録の相互相関が,新たに 2 点間る。弾性波探査では,人工的に起振した振動を,複数の受のグリーン関数と関連付けられるという理論を利用した振器によって測定し,起振源と受振器の位置関係により,データ解析手法であり, Claerbout2) により一次元成層振動の伝搬経路を推定し,伝播経路周辺を可視化する。媒質において提唱された後,エネルギー損失のない三次そのため,発破,カケヤ打撃又は起振装置等の人工振源元弾性媒体においても理論の統一3),4) がなされた5) 。こが不可欠である。一方,地震波干渉法( Seismic Inter-れによると,ある起振源 X による波動場を異なる 2 点ferometry)と呼ばれる手法では,「異なる受振点で測定XA, XB で測定したとき,それぞれの振動記録を G ( XA,された振動波形の相互相関処理により,片方の受振点をX ), G(XB, X )とすると,これら 2 つの記録 G(XA, X ),仮想の起振源とした場合の測定記録を合成する方法」でG(XB, X)の相互相関により,点 XA を起振源として点あり,地震波干渉法によって人工振源を用いない弾性波XB で受振したときの振動波形 G(XA, XB)を人工的に合探査が可能になる。成することができる(図―参照)。全ての円周上の起振点の記録を用いることで XA を起振源として点 XB で受振したときの完全な振動波形を合成することができる。またこれらの積分には,2 つの受振点を伝播する波線の延長に存在する起振源,例えば X1, X2 が大きく寄与しており,円周上の起振源の中でこれら位相の変動のない振幅は足し合わされて,それ以外では互いに波動が打ち消し合う。この位相の停留する点は停留位相4) ( Sta-16図―屈折法弾性波探査模式図1)図―反射法弾性波探査模式図1)図―地震波干渉法の概念図3)地盤工学会誌,―() 報告tionary Phase3))と呼ばれている。これら,起振源を全て取り囲む受振点,一部に地表面のような自由表面を含むモデルに対しても振動波形を形成することができるため,群発地震等の地中で発生する多くの振動を地表で受振することによって疑似起振記録を合成することができる。また,起振記録の合成に大きく寄与する停留位相に着目し,遠地での人工振源を用いて疑似起振記録を合成することもでき,仮想振源法(Virtual Source Method)6),7)と呼ばれている。.トンネル内を移動する起振源の利用事例地震波干渉法の原理に沿った測定環境を再現すべく,トンネルのある山岳地帯において,トンネル上の地表に図―調査地周辺のトンネル及び地質構造8)受振器を設置し,トンネル内に起振源を移動しながら地表の受振器で測定を行い,トンネルを含む山体の可視化を実施した事例8)を示す。調査地は,中新世~更新世の砂岩泥岩互層が緩い傾斜で堆積している地すべり地帯である。最大土被り厚100m 程度のトンネル直上に, 5 m 間隔で 96 点の受振器を設置し,比較のための人工振源による反射法弾性波探査,及び,地震波干渉法の試行のために歩道トンネル内で小規模起振装置による2.5 m 間隔での起振及びトンネル内で 2 トントラックにより 26 分間で 9 往復の走行振動をそれぞれ測定した(図―)。各移動起振源の測定記録に対して受振点毎に疑似起振記録を合成し,それらに対して反射法地震探査のデータ処理を適用し,重合断面を作成した。地表からの反射法地震探査による重合断面,トンネル内での小規模起震装置による重合断面及びトンネル内を走行する 2 トントラックの走行振動による重合断面を図―に示す。図中の A, B, C で示される点線は,反射法地震探査による重合断面で認められた反射面の位置を示しており,それぞれの移動振源の記録から得られた重合断面には,これらと対応する反射面が確認できる。これによって,地中を移動するパルス起振源,又は地中を移動する交通振動のような連続的振動源に対して,地震波干渉法を適用することで,疑似起振記録を合成することが可能であり,これらを用いた弾性波探査が可能であることが示された。図―.交通振動によって得られる反射断面の事例重合断面図 a )反射法地震探査, b )小規模起振装置を起振源,c)トラックの走行振動を起振源8)土木工学,地震工学の分野では地震基盤の構造を把握することは特に重要である。これらの分野では人工震源線,終点側(東側)には JR 東北本線が測線を取り囲む波浅層反射法などの探査が実施9)されているように存在している。3 時間に及ぶ測定記録には,両方が,車両走行ノイズなどの存在により,特に都市部の探の路線を通過中の列車の振動によるものと思われる波群を用いた S査では十分な S/ N 比を持つ記録を測定することはコスが確認されている。測定には,10 Hz 水平動ジオフォントや手間のかかる困難な作業となる。ここでは,交通ノを120チャンネル使用した。イズを利用した S 波探査の可能性を検討するために,測定記録に対し,受振点毎に疑似起振記録を合成し,東京都北区の荒川堤防において水平動成分のジオフォンそれらに対して反射法地震探査のデータ処理を適用し,を用いた交通ノイズの連続測定を実施し,地盤の S 波重合断面を作成した。作成した重合断面を図―に示す。速度構造を求めた事例10) を示す。図―に測線の位置重合断面では,時間深度 0.5 s 付近に編著な反射面があを示す。本調査の測線は,始点側(西側)には JR 埼京り,付近のボーリング調査結果10) より調査地の S 波速January, 201717 報告図―ダムにおける受振点と測定・解析記録例15) に加筆図―JR 線(振動源)に囲まれた測線位置図10)答を評価できることからデコンボリューション干渉法12),13)を適用した。最大加速度が192 cm/s2 の地震を含む 13 回の地震動を対象として,干渉法によって評価された地震波伝播速度を評価したところ,最大加速度と伝播速度に負の相関があることを明らかにした。次にフィルダムの監査路及び法面に受振器を設置し,測定された地震記録を用いて,地震波干渉法により伝播波形を再現し,ダム堤体の状態を評価に用いた事例を示す14)。地震波干渉法の適用によって得られた結果の物理的な意味を確認するため,監査廊及び堤体表面上にアレイ状に配置した振動計の観測記録に適用した事例を図―に図―鉄道ノイズによって求められた重合断面図10) に示す。対象としては堤高約 50 m となるロックフィルダ加筆ムである。計測には MEMS 加速度計センサをダムの監査廊から堤頂及び法面までアレイ状に配置して1 000 Hz度を 130 m / s 程度と推定すると,時間深度 0.5 s 付近ののサンプリング速度で全てを十分な精度で時刻同期させ反射面は,深さ30 m 付近の N 値>50が分布する箇所にた連続計測を行った。図―(a)には中央上下流断面に対比することができる。また,さらに深部の時間深度おける監査廊及び法面のセンサ配置状況を示す。図―1.0 s 付近まで反射波が認められることから,半日程度(b)に計測された地震波形の一例として東北地方太平洋の測定によって,さらに深部の地盤構造を明らかにする沖地震の余震の一つである 2011 年 9 月 29 日の波形を示ことが期待できる。す。この観測記録に地震波干渉法を適用した結果を図―.構造物の地震波伝搬特性の監視事例(c)に示す。地震波干渉法により得られた疑似起振記録の初動ピークの下部から上部への推移からは,ビル構これまでは弾性波探査の人工起振源に代わるものとし造物による結果12) と同様に,地震波の上方進行波が推て地震波干渉法により求められた疑似起振記録を用いる移する様子がみてとれる。計測した加速度は水平成分で方法について事例を用いて解説した。本章では,人工起あることからこれをせん断波の伝播を示すものとみなし,振源を用いることが困難な対象として,ダム等の大型土図―(c)には指数関数に基づく近似曲線も示したが,木構造物の地震波伝搬特性変化の監視事例について示す。その曲線は初動ピークの推移を表現している。以上の結地震波干渉法を構造物の弾性波応答に適用した先駆的果に基づき,対象としたフィルダムについて地震波干渉事例として, Sneiderほか12) は, 9階建てビルの各フロ法により得られた結果についてその初動ピークの時間は,アに地震計を設置した地震波観測記録について,自然地ビル構造物の鉛直アレイ観測と同様に,基盤(監査廊)震による地震波干渉法を適用することでビルの各フロアを基準とした地震波伝播時間を示すものと考えられた。間の地震波の伝播特性を求めることができることを示しこのような地震波干渉法の適用による地震波伝播状況ほか13)は,東北地方太平洋沖地震後のの評価は,ダムの既設の地震計観測記録についても適用2011 年 5 ~ 6 月に福島県の 8 階建てビルに MEMS 加速できることが明らかになっている14) 。また通常の有感度センサを鉛直アレイ上に設置して,繰り返す余震動の地震観測記録だけではなく,より発生頻度の高い無感地観測記録を対象として地震波干渉法を適用した。理論的震や非地震時の雑振動観測記録からも評価できる可能性検討により相互相関関数に基づく干渉法では構造物と地が示された15) 。土構造物であり貯水構造物であるフィ盤とのカップリングの効果を除去できないのに対し,デルダムの堤体については,長期的な供用時において圧密コンボリューションによる干渉法では純粋に構造物の応や貯水位変動,及び大規模な地震等によって堤体内部のた。また Nakata18地盤工学会誌,―() 報力学特性が変動する可能性がある。地震波干渉法による評価はそのような力学特性の変化を地震波伝播特性の変3)化として検出することが可能である14)~16)。今後はこのような地震波干渉法の適用事例の蓄積と,その結果をダ4)ムの堤体内の力学特性の変化として解釈する方法とによって,ダムの経年変化等の監視技術として活用されるこ5)とが期待される。. お わ り に人工起振源を必要としない弾性波探査技術として,地6)震波干渉法の適用事例を紹介した。従来からの人工震源を用いる物理探査に取って代わり得るものではないが,その利用価値は少なくない。例えば,土地利用の関係で7)ダイナマイト起振源が使用できない場合,起振できない場所に受振点を設けることにより,他の起振点からの振8)動記録を用いて擬似ショット記録を作成し,これを含めた全ての起振点データを用いたデータ処理・解析を行うことができる。また,老朽化などのモニタリングを行う9)場合,電車や自動車などの交通振動を使用することができれば,受振器を設置して長時間測定するのみで,経時10)速度変化によって評価することも可能である。地震波に限らず,電磁波を用いた衛星データや地中レーダー,音響波を対象とした海底地形測量等の分野で11 )も「インターフェロメトリ」の利用が進んでいる。地震波干渉法を取得された地震動観測記録や地盤の振動計測データの解析手法の選択肢の一つとして捉え,多くの適用事例が蓄積されれば,同手法の地盤工学分野における12)活用の可能性がより明らかとなり,広範に利用されるようになると期待される。なお本稿で紹介したトンネルやフィルダム等の調査時13)には,管理者の皆様など関係各位には多大なる理解と協力を賜った。また調査解析の一部は,科学技術振興機構革新技術開発,農食事業(課題番号 28002A )及び科研14)費(16H02850)によって行った。記して謝意を表す。15 )参1)考文献地 盤 工 学 会  地 盤 調 査 の 方 法 と 解 説 , p. 116, 143,2013.2) Claerbout J. F.: Synthesis of a layered medium from itsacoustic transmission response, Geophysics, 33, pp. 264January, 201716 )告269, 1968.Wapenaar, K. and Fokkeme, J.: Green's functionrepresentations for seismic interferometry, Geophysics,71, SI3346, 2006.松岡俊文・白石和也地震波干渉法によるグリーン関数と地下イメージング,物理探査,Vol. 61, No.2, pp. 133~144, 2008.相澤隆生・山中義彰・伊東俊一郎・木村俊則・尾西恭亮・松岡俊文フィールドでの観測実データを用いた地震波干渉法の適用条件に関する検討,物理探査, Vo.61, No. 2, pp. 121~132, 2008.Bakulin, A., and Calvert, R.: Virtual source, New methodfor imaging and 4D below complex overburden, 74th Ann.Internat. Mtg. Soc. Of Expl. Gepghys, Expanded Abstract, pp. 24772480, 2004.白石和也・松岡俊文・松岡稔幸・田上正義・山口伸治逆 VSP データに対する地震波干渉法の適用,物理探査,Vol. 61, No. 2, pp. 111~119, 2008.白石和也・尾西恭亮・伊東俊一郎・山中義彰・相澤隆生・松岡俊文地震波干渉法による地下構造イメージング技術の実用化に向けた実験的研究,物理探査, Vol.61, No. 2, pp. 101~110, 2008.稲崎富士・相澤隆生S 波ランドストリーマーを利用した首都圏における高分解能沖積層調査,物理探査学会第113回学術講演会論文集,pp. 171~174, 2005.木村俊則・相澤隆生・伊東俊一郎交通ノイズを利用した地震波干渉法による S 波探査,物理探査学会第 118回学術講演会論文集,pp. 79~80, 2008.国土地盤情報検索サイト Kunijiban ,入手先〈 http: //www.kunijiban.pwri.go.jp/column/?xml=/KT/DATA/BEDKT200483566620330004.XML&soil =/ KT / TEST/STLISTKT200483566620330004.XML 〉(参照2016.9.15)Snieder, R. and E. ?afak: Extracting the BuildingResponse Using Seismic Interferometry: Theory and Application to the Millikan Library in Pasadena, California,Bull. Seismol. Soc. Am., 96, pp. 586598, 2006.Nakata. N., Snieder, R., Kuroda, S., Ito, S., Aizawa, T.,and Kunimi, T.,: Monitoring a Building Using Deconvolution Interferometry. I, Bull. Seismol. Soc. Am. 103, No.3, pp. 16621678, 2013.黒田清一郎・田頭秀和・増川 晋微小震動観測記録に基づく農業用ダムの地震波伝播特性の評価,ダム工学平成27年度研究発表会要旨,pp. 15~20, 2015.黒田清一・増川 晋・田頭秀和農業農村工学会誌,81(8), pp. 627~630, 2013.黒田清一郎・田頭秀和・増川 晋・金子武将・北谷康典・関谷浩二・一阪郁久・伊藤光弘農業農村工学会誌,Vol. 82, No. 12, pp. 19~22, 2014.(原稿受理2016.10.13)19
  • ログイン