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出版

タイトル 空中物理探査の最新動向(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
著者 結城 洋一
出版 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
ページ 12〜15 発行 2017/01/01 文書ID jk201707080011
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  • タイトル
  • 空中物理探査の最新動向(<特集>地下を見る・観る・診る−物理探査技術の最新動向)
  • 著者
  • 結城 洋一
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.65 No.1 No.708
  • ページ
  • 12〜15
  • 発行
  • 2017/01/01
  • 文書ID
  • jk201707080011
  • 内容
  • 報告空中物理探査の最新動向The Newest Trend of Airborne Geophysics結城洋一(ゆうき株 東京支社技術部応用地質. は じ め によういち)グループマネージャーに分けられる。周波数領域法は,大地の電磁応答を周波数の関数として測定を行うもので,周波数の変化で探査空中物理探査は,地下に存在する物質の物理的,科学深度が変化するため,多周波数を用いて探査を行う。時的性質について人為的又は自然的に生じた現象を空中か間領域探査法は,大地の電磁応答を時間の関数として測ら測定し,測定データを解析することにより地下の状態定する方法で,送信源から送信する電流遮断後の過渡現や状況を解明する技術である。測定する物理現象により,象を測定する。空中電磁探査,空中磁気探査,空中放射能探査,空中重空中電磁探査が日本で最初に行われたのは 1970 年代力探査などがある。適用分野は,鉱物資源探査(石油,後半で,金属鉱業事業団(当時)が海外の調査会社に委金属,非鉄金属,石炭,地熱,地下水,温泉),土木調託し,資源調査を目的に行われた1)。日本にシステムが査(道路・トンネルルート調査,ダム,大型構造物立地),導入されたのは1990年代で,DIGHEM 社製造の周波数防災調査(斜面防災,火山防災,地震防災),環境調査,領域空中電磁探査システムが 3 セット導入された(写地球科学分野などがある。真―)。これらのシステムには磁気センサーが搭載さ空中物理探査は古くから用いられてきた物理探査手法であり,広域を低コストで三次元的に調査できる探査法れており,空中磁気探査と空中電磁探査がセットで行われている。可探深度は100~150 m である。である。空中物理探査法は,導入当初は測線上のアノマ国内における時間領域空中電磁探査システムは,リー抽出が目的であったが,1990年代の GPS の出現以2004 年に産業用無人ヘリコプターを利用した地表ソー来マッピング技術として定着した。また,解析技術や測定技術の進歩により空間分解能も向上した。本稿では空中物理探査手法を概観し,技術動向と代表的探査事例を紹介する。.空中物理探査法空中物理探査には,空中や地上から電磁波を発信するアクティブな探査法と,大地に生じる物理現象を測定するパッシブな探査法に分類される。アクティブな探査法は空中電磁探査法であり,パッシブな探査法には,空中磁気探査,空中放射能探査,空中重力探査などがある。空中電磁探査は地質調査で最も多く使われる探査法で,日本国内でも数多く実施されている。空中磁気探査は資写真―DIGHEM V写真―GREATEM源探査で用いられてきたが,最近は地下構造調査に活用されており,空中電磁探査と併用されることが多い。空中放射能探査はウラン探鉱を目的に開発され,日本では温泉調査等に活用された。最近では原子力事故後の放射線モニタリングに活用されている。空中重力探査は地下の密度構造の違いから地質構造を知る手法として,主に広域地質構造調査に活用されている。. 空中電磁探査空中電磁探査は,人工的に発生させた電磁波の磁場変動によって大地に誘導された磁場を空中で測定し,地下の比抵抗構造を求める探査法である。測定法によって周波数領域法と時間領域法に大別される。また,信号源の違いによって地上発信空中受信型と空中発信空中受信型12地盤工学会誌,―() 報写真―写真―告航空機放射線モニタリング用ヘリコプターと検出器スティンガータイプ6)写真―PTHEMス型時間領域空中電磁探査法が開発された2)。その後,2006 年に有人ヘリを使用した総合空中探査システム3)(電磁,磁気,放射能,熱赤外線)が開発された。その空中電磁探査システムは GREATEM(写真―)と称し,国内で開発された純国産の空中電磁探査技術で,可写真―空中重力偏差法探査装置8)探深度は数百 m~2 000 m である。空中発信空中受信型探査は, 2014 年から地熱調査をて行われた。 1980 年代に民間でヘリコプターを用いた目的に,海外の調査会社によって国内で初めて調査が行選択ガンマ線探査システムにより放射能探査が事業化さわれた4)。可探深度は500m である。続いて,2014年にれた。主な調査目的は温泉・地下水調査で, 1981 年かカナダ PicoEnvirotec 社の PTHEM システム(写真―ら2000年まで約300件実施された。1990年代にはガンマ)が国内に初めて導入され, 2015 年から運用されて線スペクトロメトリの放射能探査システム(写真―)いる5) 。可探深度は 300 ~ 500 m である。 P THEM はが導入され,自然放射線のスペクトル解析が行われた。ループ径が8.6 m とコンパクトで重量も300 kg と軽量で2011 年に発生した福島第一原子力発電所事故により,あり,国内の急峻な地形でも探査可能である。空中電磁東日本地域に大量の放射性物質が放出されたため,放射探査の用途は,国内では地熱資源調査,道路・トンネル線強度のバックグランドが高くなった。これを契機に,ルート調査などの土木調査,地すべりや深層崩壊,火山国内では地質調査を目的とした空中放射能探査は行われ災害を対象とした防災調査などが多く行われている。ていないが,放出された人工放射線の空間線量を測定す. 空中磁気探査るために,ヘリコプターを用いた航空機放射線モニタリ空中磁気探査は,岩石の種類や温度によって磁性が変ング(写真―)が継続的に行われている7)。また,原わることから,地球磁場を測定して磁気異常や地下の磁子力施設周辺から 5 km 圏内では有人航空機が低空で飛性体の分布を求め,地下構造や地熱資源などを推定する行できないため,自律型無人ヘリコプターを用いた放射探査法で,国内では地質調査所(現在は産総研地質調査線モニタリングが行われている。総合センター)や NEDO ,国土地理院,海上保安庁,. 空中重力探査大学など多くの組織で古くから実施されている。利用す空中重力探査は,地表の重力値が地下の密度分布を反る航空機は,飛行機やヘリコプターであり,磁力計セン映していることを用いた探査法で,測定した重力値からサーの搭載方法は,バード曳航方式と機体固定のスティ地下の密度構造による重力異常を抽出し地下構造を推定ンガー方式6)(写真―)がある。民間では空中電磁探する。 1959 年に米国やドイツで空中重力計が開発され,査システムに装備した磁気探査装置を曳航し,空中電磁1970 ~ 1990 年代に米国でヘリコプターや固定翼による探査と同時に測定されている。センサーはセシウム磁力重力測定が行われてきた。その後 1990 年代から今日に計を用いる。いたるまで,米国,カナダ,ドイツ,デンマーク等で空空中磁気探査の用途は,地震・火山活動が活発な我が中重力測定の開発がなされた。日本では,瀬川爾朗らが国では火山の内部構造調査や伏在断層調査等に用いられヘリコプターによる空中重力探査装置を開発し,主に原るほか,空中電磁探査と同時測定によって,地下の比抵子力サイトで 6 か所の調査が実施された。一方,空中抗構造調査の補助データとして活用されている。重力偏差法探査も 1999 年から開発され,国内では 2013. 空中放射能探査年にヘリコプター搭載型の重力偏差法探査装置(写真―空中放射能探査は,放射性同位元素(ウラン,トリウ独 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下)を使ってム,カリウム等)が放出するガンマ線強度を測定し,そJOGMEC)が地熱調査を実施している8)。空中重力偏差の強度の違いから地質を調べる探査法で,日本における法探査は重力偏差の分布から地下の密度構造を推定する空中放射能探査は, 1950 年代から資源探査を目的とし方法である。従来の空中重力探査よりも密度変化に対すJanuary, 201713 報告る感度が高い。.空中物理探査の地盤調査への適用空中物理探査を地盤調査に適用した代表的な調査事例を紹介する。. 空中電磁探査大規模自然災害調査では,砂防分野における火山体調査において,地下構造の把握にヘリコプターを用いた空中物理探査技術が活用されており,日本の主要な活火山において探査が実施された。本稿では,樽前山(北海道)において,山頂を含む 5 km 四方の領域を対象とした空中電磁探査と空中磁気探査を実施し,取得したデータから樽前山の山体構造を検討した事例を紹介する9)。探査手法は,周波数ドメイン空中電磁探査法で,可探深度は約100 m である。地質は,山頂の溶岩ドームを除き,地表付近は噴火によって噴出した火砕物によって構成されている。調査地南側には,新第三紀層が分布している。探査結果(図―)の比抵抗分布は,地表付近が高く深図―樽前山深度別比抵抗分布図9)部が低い傾向を示し,不飽和帯と飽和帯からなる地下水分布を反映した典型的な比抵抗構造をなしている。自然災害は近年,これまで想定し得なかった豪雨や地震,火山噴火等による被害が増えている。災害規模も大きくなっており,被害地域も広域にわたる。今後も自然災害分野への適用により,被害軽減等の対策の基礎資料としての活用が期待される。. 空中磁気探査地盤調査では,空中磁気探査は空中電磁探査と同時測定で行われ,空中電磁探査データの解析補助データとして活用される。空中磁気探査で測定されるデータは全磁力で,地下の累積情報である。解析では地球標準磁場を差し引き,解析結果は磁気異常図として供される。この磁気異常から逆解析によって地下の磁化構造を求めることができる。前節で示した樽前山で空中電磁探査と同時測定した磁気異常を逆解析し磁化構造を求めた(図―)。高磁化強度帯は,樽前山の溶岩ドームと北山ドームを含む北西南東方向に延びる領域に分布する。低磁化強度帯は,風不死岳の南東側の山腹のほか,南西側の新第三図―樽前山深度別磁化強度分布図9)紀層の分布域に分布する。. 空中放射能探査図―は日本全国の地表面から 1 m 高さの空間線量空中放射能探査は,海外では低開発国の地質調査の初率分布を表わす。図―の丸印の地域以外は,地質分布期段階として,空中磁気探査と併用して調査が行われる。を反映しており,付加コンプレックスと深成岩分布域で空中放射能探査で得られるデータは,地表から30 cm 程放射線強度が強い。度の表層地質情報である。地質の違いによって自然放射. 空中重力探査性物質の含有量が変化するため,得られるデータは表層空中重力探査は,広域の地質構造を知るために探査が地質をトレースしたものである。地質図を作成するため行われる。日本では,陸域では地上から重力探査が行わの基礎資料として活用される。福島第一原子力発電所事れており,海上では船による測定が行われ,全国の重力故後の全国を対象に行われた航空機放射線モニタリン異常図が公表されている。しかし,陸域と海域の境界でグ7)は,日本で初めて行われた全国規模の放射能探査である海岸線は重力測定の空白域であり,山岳地帯や海洋ある。東日本のデータは人工放射線によって地質情報を島周辺では複雑な自然環境のために重力測定の精度が悪正しく反映していないが,西日本の測定データは人工放い。近年は国内でもヘリコプターの空中重力探査が行わ射線の影響がないため,表層地質データを反映したものれ,主に沿岸域で空中重力探査が行われた。石油天然ガとなっている。ス・金属鉱物資源機構( JOGMEC )は,全国の地熱有14地盤工学会誌,―() 報告地上に送信源を設置する GREATAEM 方式であれば,実用化の目途はたっている。日本でも近い将来調査に適用されると思われる。.まとめ空中物理探査は広域調査で広く使われている。土木調査においては,トンネルルート調査,大型構造物立地調査などで活用が図られている。空中電磁探査は,探査技術の開発によって,可探深度が深くなり,これまで対象とされなかった深部の探査も可能となっている。空中電磁探査は三次元の比抵抗構造を知ることができ,重力探査や磁気探査データも逆解析によって三次元の密度構造や磁化構造を推定することが可能である。航空レーザなどを使った詳細な地形データも利用可能になっており,図―空間線量率分布図(基準日 2012 年 5 月 1 日)7)これらの情報を統合することにより,解釈精度を大幅に向上させることができる。また,大規模自然災害調査にも適用されており,災害が発生する前の予防調査においては,地質構造の緩み領域や弱線部の抽出が可能である。これらのデータを活用して災害発生が予想される領域を抽出する基礎資料としての活用も期待できる。このように,空中物理探査はさまざまな分野で適用できる可能性があり,今後も性能向上,小型・低価格化をはかり,より身近なツールとして開発をすすめたい。参図―地上測定重力異常(左)と空中重力偏差(右)の比較図望地点で 2013 年から空中重力偏差法探査を実施してい1)2)3)る。八幡平で実施した地上重力測定データ10) と空中重力偏差法のデータ11) から強度分布図を作成し比較した4)ところ,空中重力偏差法探査は水平方向において分解能が高かった(図―)。なお,空中重力偏差法の深度情報は概ね 1 km 程度である。.空中物理探査の最新動向空中物理探査は,飛行機やヘリコプターを用いて探査を行うが,近年,小型の無人航空機(以下ドローン)の5)6)7)進歩が目覚ましい。安価なマルチコプターが市販されており,誰でも簡単に空中からの計測ができるようになっ8)てきた。災害現場でも,マルチコプターを使った空中写真が手軽に撮られるようになっており,空中物理探査で9)も,ドローンを使用した探査法が開発されている。中国では,小型無人ヘリコプターやマルチコプターを使った地表ソース型時間領域空中電磁探査が実用化されており,手軽に空中から探査ができるようになりつつある。マルチコプターは,飛行時間が短くペイロードが小さいため,探査法に制約はあるが,空中放射能探査,空中10)11 )考文献菱田 元ほか地質ニュース601号,pp. 56~63, 2004.畠山晃陽ほか無人ヘリコプターを利用した空中電磁法探査の適用例,物理探査学会第 111 回学術講演会論文集,pp. 185~186, 2004.伊藤久敏ほかヘリコプターを用いた総合的な空中仏衣探査システムの開発(その 1 ),電力中央研究所報告,2007.石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成26年度地熱資源ポテンシャル調査のための空中物理探査報告書, pp. 1~209, 2014.平田諒次ほか周波数領域と時間領域の空中送受信型電磁探査の地すべり地への適用,物理探査学会第 134回学術講演会論文集,2016.大熊茂雄ほか駿河湾沿岸域の高分解能空中磁気探査,地質調査総合センター速報,pp. 35~39, 2014.鳥居建男ほか広域環境モニタリングのための航空機を用 いた 放 射 性物 質 拡散 状 況調 査 , JAEA Technology2012036.石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成24年度地熱資源ポテンシャル調査のための空中物理探査報告書, pp. 1~179, 2012.本間宏樹ほか空中物理探査結果による樽前山山体構造に関する考察,砂防学会,砂防学会研究発表会予稿集,2015.地質調査総合センター日本重力データベース DVD 版,数値地質図 P2, 2013.石油天然ガス・金属鉱物資源機構平成 24 年度地熱資源ポテンシャル調査のための空中物理探査報告書付帯資料,2012.(原稿受理2016.10.7)磁気探査は実用段階にあり,空中電磁探査についても,January, 201715
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