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タイトル 地質的断裂に起因する斜面崩壊のγ線測定による事例的考察
著者 吉村 辰朗・福田 直三
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 163〜168 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000027
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  • タイトル
  • 地質的断裂に起因する斜面崩壊のγ線測定による事例的考察
  • 著者
  • 吉村 辰朗・福田 直三
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 163〜168
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000027
  • 内容
  • 地質的断裂に起因する斜面崩壊のγ線測定による事例的考察Case study of slope failure induced by geological fracture zones by applyinggamma-ray measuring method吉村辰朗*,福田直三**Tatsuro YOSHIMURA and Naozo FUKUDA斜面崩壊において,滑落崖および側方崖付近に断裂が分布している。同一地形・地質条件で発生する移動土塊の形成は偶然ではなく,主断裂・共役断裂による分断が起因する場合が多い。すなわち,主断裂・共役断裂分布と地形・地質特性を重ね合わせることによって,崩壊発生機構が理解され,崩壊場所の予測がより具体的になると考える。筆者らは地質体から放出される微弱なγ線を測定し,その強度異常の位置から断裂を特定する方法を適用してきた。本論文では最近の崩壊事例についてこの方法の適用事例を紹介するとともに,凸状台地状地形の崩壊が断裂に伴う「地形の逆転」による影響について考察した。キーワード:斜面崩壊,共役断裂,γ線測定,地形の逆転slope failure, conjugate fracture, gamma-ray survey, inversion of relief変質帯)では,その作用によって物質(地盤,岩盤)の1.はじめに近年,豪雨や地震によって引き起こされた地すべりや磁性が変化し,γ線強度異常が生じると考えられる 2)。斜面崩壊などの災害が頻発している。災害が発生した時地表γ線測定は,地質体から放出されるγ線をシンチレには,場所(地形)と地盤状況(地質)を知ることが,ーションカウンターで検出し,その強度(放射線の数)その発生原因の解明や今後の「崩壊場所の予測」に繋げを計測する方法である。計測方法としては全計数法を用ることができる。しかしながら,これまでは崩壊が発生いている。測定機器は,アロカ社製γ線用シンチレーシした場所の原因を後付けで見出すことは行われてきたが,ョンサーベイメータ TCS-151 型である。測定はセンサー斜面崩壊場所の予測に関しては,必ずしも有効な手法と部を地盤に密着させ 10 秒おきに 5 回読取り,その平均値なっておらず,ハザードマップ(災害予測図)への特定を測定値とした。γ線測定の測点間隔は 1m∼2m で,γ箇所を記載できるまでには至っていない1)。線強度異常値が出現した地点では 10cm 間隔で測定し,斜面崩壊とは,斜面表層の土砂や岩石がある面を境にγ線強度異常値範囲を詳細に求めた。この測定法で異常して滑り落ちる現象である。同一地形・地質条件で豪雨値範囲境界点(α点)を求め,測線より 50cm∼1m 程シフ時に斜面崩壊が生じた場合,その位置は偶然ではなく原トさせて同様境界点(β点)を 10cm オーダーで求め,α点因としては,“ある面”すなわち地質的断裂の存在が重要とβ点を結んだ方向を断裂の走向とした。走向に直交すとなる。本論文は,崩壊した場所付近に分布する断裂をるγ線強度異常値範囲を断裂幅と定義した(図-1)3)。γ線γ線測定によって把握した崩壊事例を基に,斜面崩壊の測定結果図は縦軸にγ線強度,横軸に測定点の位置を示発生機構を考察した。し,断裂部の測定値は黒四角で示した。2.断裂を検出するγ線測定方法岩石や鉱物中にはわずかであるが天然放射性同位元素が含まれ,ウラン系列元素(239U),トリウム系列元素(232Th)が主要なものである。これらの放射性元素は崩壊過程で,ウラン系列ではラジウム(226Ra),ビスマス( 214Bi),鉛(214Pb)から,トリウム系列ではタリウム(208Tl)からγ線が放出される。カリウム(40K)は崩壊系列を作らず,電子捕獲によりアルゴン(40Ar)に壊変する過程でγ線を放出する。地殻変動や地すべり変動に図-1 地表γ線測定で検出した断裂幅(平面図)伴う破断・変形・変質を受けた地質体(断層,すべり面,*第一復建株式会社** 株式会社新日本技術コンサルタントDaiichi Fukken Co., Ltd.Shin-Nihon Consulting Engineers, Co., Ltd.163 3.断裂に起因する斜面崩壊事例3.1 断裂の分断による移動土塊形成調査地は玖珠盆地の南端より約 9km に位置し,標高700m∼800m の高原地帯である。調査地域に分布する地質は,約 50 万年前(第四紀更新世中期)の火山岩類で,万年山溶岩と称される。切土のり面崩壊地には,凝灰岩と火山灰質シルトが分布する。2017 年 10 月中旬の豪雨(最大日降雨量 86.5mm)によって,のり面勾配 1:1.2 の切土のり面の一部が崩壊した(写真-1,図-2)。図-2 調査位置および断裂分布図写真-1 2017 年 10 月 24 日に発生した切土のり面崩壊崩壊箇所付近ののり尻では断裂が認められた。断裂には節理・断層・裂か(開口亀裂)があるが,当地では裂かである(写真-2)。この裂かの分布を把握するために崩壊箇所周辺で地表γ線測定を実施した。γ線測定結果を図-3 に示す。γ線測定結果図は縦軸にγ線強度,横軸に測定点の位置を示し,断裂部の測定値は黒四角で示した。地表γ線測定の結果,3 本の断裂(断裂 A,B-1,B-2)が切土のり面を分断しており,その分断区域が移動土塊図-3 地表γ線測定結果(切土のり面)に相当することが判明した(図-2)。崩壊のり面の地質断面を図-4 に示す。火山灰質シルトの下位に難透水性の凝灰岩が分布する水理地質構造を呈し,崩壊時には地質境界で湧水が認められた。この水理地質構造より,透水性の高い火山灰質シルトの下に遮水ゾーンとなる凝灰岩層があり,火山灰質断裂シルトの水圧が高まった結果崩壊が発生したと考えられる 4)。図-4 2017 年豪雨時における崩壊のり面の地質断面図3.2 断裂に分断された区域での射出的崩壊2016 年 4 月 14 日,16 日の震度 7 の直下型の熊本地震が発生し,人的被害のみならず多くのインフラストラクチャーにおいて甚大な被害が発生した。被災の特徴は地震動の大きさよりもむしろ特に直下型地震断層上の地盤変動の影響を受けている。本節で対象とする補強土壁は写真-2 のり尻で認められた断裂 A(裂か)連続的な構造物であるが,写真-3 に示すように,崩壊箇所と残存箇所が隣り合っており,これに作用した地震動164 表-1 補強土壁崩壊箇所付近で検出された断裂崩壊した補強土壁の再構築のためにボーリングが実施され対策設計に基づいて崩壊土砂の撤去および地山の切土が施工された。その掘削最終段階の現地踏査によって安山岩と岩屑なだれ堆積物の境界に断裂 D,岩屑なだれ堆写真-3 崩壊部と非崩壊残存部が隣接した補強土壁積物と古期崖錐堆積物の境界に断裂 E が確認された(写真-4)。図-7 に示すように,断裂で分断された区間と崩壊区間がほぼ一致していることから,この特定区間のみが地震動によって射出的な崩壊をしたと考えられる 5)。図-5 γ線測定位置および断裂分布図写真-4 基礎掘削時に認められた断裂 D と断裂 E図-7 断裂分布と崩壊区間の対応3.3 断裂に伴う地形の逆転に起因する崩壊図-6 γ線測定結果(補強土壁)(1) 杵築市の事例調査地は,標高 150m∼350m の山間部で,北西-南東方による外力が局所的に大きく異なったものと推察された。向に伸びる山地の南斜面に位置する。崩壊地に分布する補強土壁が崩壊した付近には,NE 系と NW 系のリニ地質は,新第三紀後期中新世の火山岩類(安山岩・凝灰角アメント(線状構造)が推定されたため,このリニアメ礫岩)である。9 月に切土のり面頂部から上位 30m に滑ントを対象にγ線測定を実施した。図-5 に示すように 3落崖・陥没帯が東西方向に入り,幅 90m,長さ 75m の崩測線(C 測線,D 測線,E 測線)のγ線測定により 3 本壊が生じた(図-8)。凝灰角礫岩は,のり面内のボーリンの断裂(断裂 C・D・E)が検出された(図-6,表-1)。グ調査では GL-11m∼16m まで強風化し,部分的に変質165 し土砂化している。写真-5 排土工掘削底面に認められた岩屑図-8 γ線測定位置および断裂分布図滑落崖・陥没帯および側方崖付近に線状構造が見られたため,地表γ線測定を実施した。地表γ線測定結果を図-9 に示す。3.1 の断裂分布と同様に,滑落崖付近に主断裂(断裂 F,断裂幅:1.5m),側方崖付近に共役断裂(断裂 G-2・H断裂幅:2.7m∼3.3m)を検出した他に,凸写真-6 アンカー工施工時に認められた岩屑状の 移動土 塊中央部にやや規模の大きい断裂(断裂G-1・I,断裂幅:3.2m∼3.6m)が確認された。ボーリング調査結果に基づいて安定解析がなされ,排土工・アンカー工の地すべり対策が実施された。施工時には写真-5,6 に示すように,岩屑が凸状斜面を形成していたことが明らかになった。(2) 耶馬渓の事例平成 30 年 4 月 11 日未明に大分県中津市耶馬渓町金吉で大規模な斜面崩壊が発生した。斜面崩壊が発生した場所は,平成 29 年 3 月に大分県により「土砂災害警戒区域」に指定された所であるが,崩壊前にほとんど降雨がない状況であることから「発生誘因が不明確な斜面変動」として認識されたため,崩壊原因の究明が強く望まれた。崩壊は耶馬渓溶結凝灰岩層が形成する急崖下の斜面で発生し,崩壊地の基盤岩は宇佐層群中の変質した安山岩である。移動土塊の中央部では表層部は凹地形を呈し,古期崖錐が堆積している。その下方の移動土塊は,崩積土中に溶結凝灰岩の大転石を多量に含んでおり,また安山岩(不動層)との境界付近では湧水が見られた(写真-7)。写真-7 移動土塊と安山岩の境界で見られる湧水図-8 γ線測定結果(杵築市)166 4.1断裂の分断による移動土塊形成モデル切土のり面の崩壊事例で確認した断裂分布から,図-11に示す断裂による分断が起因となる斜面崩壊機構が考えられる。地震時には断裂で分断された区間が 3.2 で記載した「射出的崩壊」が起きる可能性がある。図-9 γ線測定位置および断裂分布図(耶馬渓)滑落崖および側方崖付近に線状構造が見られたため,地表γ線測定を実施した(図-9)。地表γ線測定結果を図−10 に示す。杵築市の断裂分布と同様に,滑落崖付近に図-11断裂に分断される移動土塊主断裂(断裂J-1,断裂幅:2.2m),側方崖付近に共役断裂(断裂 J-2・L,断裂幅:1.6m∼1.8m)を検出した他に,この主断裂・共役断裂部は,地すべり地では地下水流移動土塊中央部付近にやや規模の大きい断裂(断裂 K,路を形成している場合が多く,“地下水包蔵体”6)と称さ断裂幅:3.1m)が確認された。れている(図-12)。図-124.2地すべり地の地下水流路 7)断裂に伴う地形の逆転に起因する崩壊モデル2018 年 4 月 11 日に発生した耶馬渓崩壊は,杵築市の凸状地形を呈する斜面崩壊事例と同様に,主断裂・共役断裂の他に移動土塊中央部に規模が大きい断裂が認められた。中央部の断裂の表層部は凹地形を呈し,古期崖錐が堆積している。その下方の移動土塊は,崩積土中に溶結凝灰岩の大転石を多量に含んでおり,また安山岩(不動層)との境界付近では湧水が見られ埋没谷の存在が示唆される。火砕岩まじりの崩積土で構成される埋没谷に関係する地すべりは,長野県北部のグリーンタフ地域で発生していることが報告されている 7)。この様な埋没谷の成因としては,前述の事例から断裂による谷の下刻作用が主因と考えられる。3.3 の崩壊事例では移動土塊中央部に規模が大きい断裂が分布することから,この断裂図-10 γ線測定結果(耶馬渓)付近の侵食によって中央部分に深い谷が形成され崩積土や岩屑が堆積する。次に側方崖付近の共役断裂付近の侵4.斜面崩壊発生機構の考察本章では,3.1 切土のり面の崩壊事例から“断裂の分食によって“地形の逆転”8)が生じ,谷底が尾根になる断による移動土塊形成モデル”,3.3 の崩壊事例から“断(図-13)。この場合,移動土塊は旧谷地形に分布した地裂に伴う地形の逆転に起因する崩壊モデル”を考案した。質体で,接触不整合面がすべり面となる可能性が高い。167 長野県や耶馬渓の崩壊事例では,埋没谷中央部の最大層塊を形成する主断裂・共役断裂と地形・地質特性を厚は 30m 程度であり,その層相は大転石を含む風化火山重ね合わせることによって,崩壊発生機構および崩砕屑物が主体である。以上の崩壊形態・地質状況は深層壊場所の予測がより具体的になることをγ線測定か崩壊と類似していることから,凸状台地状地形を呈するら明らかにした。移動土塊において,地下深部の不安定化(火山砕屑物の3) 凸状台地状地形を呈する崩壊では,移動土塊中央部風化,深い位置のすべり面形成)が進行した場合には深に規模が大きい断裂が分布する。この断裂付近の侵層崩壊に転化すると考えられる。食によって中央部分に深い谷が形成され,崩積土や岩屑が堆積する。次に側崖付近の共役断裂付近の侵食によって“地形の逆転”が生じ,谷底が尾根になる。この場合,移動土塊は旧谷地形に分布した地質体で,接触不整合面がすべり面となる可能性が高い。移動土塊の規模が大きく地下深部の不安定化(火山砕屑物の風化,深い位置のすべり面形成)が進行した場合には深層崩壊に転化することを考察した。参考文献1)中筋章人(2005):なぜ「土砂災害ハザードマップ」はできないのか,応用地質,第 46 巻,第 5 号,pp.250-255.2)吉村辰朗・大野正夫(2012):断層破砕帯における帯磁率異常に伴うγ線量の変化,物理探査,第 65巻,3 号,pp.150-160.3)吉村辰朗(2006):破砕幅の成長過程から推定される活断層の発生数と発生時期−破砕幅の累積性とべき乗則−,活断層研究,No.26,pp.7-14.4)吉村辰朗・吉松史徳・辛島光彦・澁谷快晴(2018):断裂による分断が起因となる斜面崩壊に図-13ついて,第 9 回土砂災害に関するシンポジウム論断裂に伴う地形の逆転に起因する崩壊モデル文集,pp.1-5.5.まとめ5)本論文では,崩壊地付近の断裂(節理,断層,裂か)に吉村辰朗・福田直三・末次大輔・佐原邦朋・佐藤秀文・平江文武(2018):2016 熊本地震で崩壊した着目した調査(地表γ線測定)を実施し断裂分布を把握補強土壁の詳細調査(その 1)-γ線探査-,第 53した。その結果,以下の知見が得られた。回地盤工学研究発表会.1) 同一地形・地質条件で豪雨時に斜面崩壊が生じた場6)渡7)の予知と対策,山海堂,pp.52-54.中村三郎・望月功一(1973):埋没谷の地すべりに合,その位置は偶然ではなく原因としては,“ある面”すなわち地質的断裂の存在が重要となる。斜面崩壊正亮・小橋澄治(1987):地すべり・斜面崩壊及ぼす影響,日本地すべり学会誌,第 10 巻,第 2の事例にγ線測定法を適用して移動土塊の形成の原号, pp.24-34.因となる断裂の存在を明らかにした。8)2) 崩壊発生場所は,これまでの崩壊要因に新たな要因鈴木隆介(2000):建設技術者のための地形図読図入門(主断裂,共役断裂)を加える必要がある。移動土第3巻段丘・丘陵・山地,古今書店,pp.927.In the slope failure, fractures are distributed near the sliding cliff and side cliffs. Formation of slipclasts occurring on the same topographical and geological conditions is not coincidental, but is oftencaused by disconnection due to main fractures and conjugate fractures. In this paper, authors showedsome case studies where the position of fracture can be identified by the method of measuring raysradiated from the geological body at the position of the fracture and specifying the fracture from thelocation of the strength anomaly. From this result, authors proposed the mechanism of slope failirecaused by disruption of geology.168
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