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タイトル 平成25年台風18号による福井県嶺南地域の土石流災害
著者 平成25年台風18号による地盤災害調査団 (竜田 尚希)
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 143〜150 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000024
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  • タイトル
  • 平成25年台風18号による福井県嶺南地域の土石流災害
  • 著者
  • 平成25年台風18号による地盤災害調査団 (竜田 尚希)
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 143〜150
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000024
  • 内容
  • 平成 25 年台風 18 号による福井県嶺南地域の土石流災害Debris flow damage in Fukui prefecture south area due to Typhoon No. 18 in 2013平成 25 年台風 18 号による地盤災害調査団*Emergency survey team for ground damage due to Typhoon No. 18 in 2013平成 25 年台風 18 号の豪雨により福井県嶺南地域では斜面崩壊,土石流,河川護岸損壊,浸水など多数の地盤災害が発生した。地盤工学会関西支部,福井地質調査業協会,福井県建設技術公社,NPO 福井地域地盤防災研究所で合同調査団を結成して災害調査を行った。この調査結果は参考文献 1)で公開されている。本報告では,特徴的であった土石流災害について地形・地質的な視点からのまとめを示す。キーワード: 土石流,台風,豪雨,地形,地質Debris Flow, Typhoon, Torrential Rain, Geographical Features, Geological Features1. はじめに平成 25 年台風 18 号は 9 月 14 日9 時に強風域の半径が 600kmを超える大型の台風となり,台風の接近・通過に伴って,日本海から北日本にのびる前線の影響,台風周辺から流れ込む湿った空気の影響,台風に伴う雨雲の影響から雨域が居座り,長時間に渡る強い降雨をもたらした。9 月 15 日から 16 日までの総雨量は,近畿地方や東海地方を中心に 400 mm を超えた。また,中国地方から北海道にかけての広い範囲で最大風速 20m/s を超える暴風が吹いた。滋賀県,京都府,福井県に対し,運用開始後初めて大雨特別警報が発表された。総降水量の分布を図-1に,降雨量の時間的推移を図-2 に示す。福井県嶺南地区では斜面崩壊,土石流,河川護岸損壊,浸水など多数の地盤災害が発生した。本報告では,特徴的であった土石流災害について地形・図-2 降雨量の時間的推移地質的な視点からのまとめを示す。丹生縄間(1),(2)図-3 敦賀地区の地質分布と被災箇所3 個所で土石流が発生した。敦賀半島北半分の基盤岩はすべて図-1 総降水量の分布古第三紀初頭の江若花崗岩類敦賀岩体であり,数値年代として5700~6000 万年前の年代が得られている。縄間,丹生の土石流2.敦賀地区発生現場にもこの花崗岩が分布している。構成鉱物は石英,斜2.1 概要長石,アルカリ長石,黒雲母であるが,詳細に観察すれば,構図-3 に示すように,敦賀地区では縄間(1),縄間(2),丹生の* 地盤工学会関西支部成鉱物の粒度により,粗粒黒雲母花崗岩(主要鉱物の粒径が 0.5Kansai Branch of Japanese Geotechnical Society143 ~2cm),中粒黒雲母花崗岩(同じく 1~2mm),細粒黒雲母花集水地形崗岩(同じく 0.5~2mm)に区分できる。ガリ状凹地あり2.2 縄間 (1)土石流林道(廃道)が谷部横断(1) 概要:図-4 に周辺の平面図,図-5 に土石流発生源の模式断排水施設無し面を示す。民地の背後にある低い山地部にある沢筋の谷頭付近表土(マサ状)で表層崩壊が発生し,土石流となって沢を流下し民家に被害を今回の崩壊与えた。崩壊発生源には林道がある。地区の地質は花崗岩である。弱風化の花崗岩の上部にマサを起源とする崖錐性堆積物や崖錐または林道盛土林道の盛土が分布しており,崖錐や盛土部が崩壊した。基盤岩(花崗岩)(2) 問題のある地盤構造:弱風化の基盤岩とその上部の崖錐や盛土の境界が強度および透水性の不連続面を呈している。飽和帯形成(3) 集水条件:崩壊箇所の上部は集水地形を呈しているが,常図-5 縄間(1)土石流発生源の模式断面時流水があるような沢地形ではない。ガリ状の凹地形が認められるため(図-4),降雨時には地表水が集中して流れることが分かる。ガリ状地形の下部は林道と交差するが,林道には横断排(2) 問題のある地盤構造:縄間(1)と同じように,弱風化の基盤水管はなく,集水した地表水は林道部で盛土や表土内に流入し岩とその上部の崖錐や盛土の境界が強度および透水性の不連続やすい状況となっている。面を呈している。(4) 崩壊の素因:弱風化の基盤岩と崖錐または盛土の境界によ(3) 集水条件:崩壊箇所の上部は不明瞭な集水地形を呈している強度と透水性の不連続面。誘因:①ガリ状凹地による集水,るが,尾根までの距離が短く,ガリー状の凹地も認められず,②横断排水施設のない林道部から斜面内への地下水流入。崩壊箇所の上部斜面が積極的に集水していたとは考えにくい。(5) 教訓:常時流水のない集水地形を横断する林道では横断排崩壊箇所は廃道となった片切りの林道が直線的に下って急に曲水管が設けられないケースがあるが,豪雨時には地表水が集中がる所に位置する。林道の山側のり尻付近に土溝があり,降雨して斜面内に流入して斜面崩壊の誘因になることを考慮する。水は土溝を流下する。流下した地表水は林道の曲がる箇所(崩小規模な林道盛土でも谷部を横断する際には基盤と上部未固結壊箇所)で行き場をなくし,斜面に流入していたと考えられる。堆積物の間の,強度や透水性の不連続面を考慮して段切や水平(4) 崩壊の素因:弱風化の基盤岩と崖錐または盛土の境界によ排水層を設けるなどの処理が必要である。る強度と透水性の不連続面。誘因:林道を流下した地表水の斜2.3 縄間(2)土石流面内への流入。(1) 概要:縄間(1)に隣接する谷筋の谷頭付近でも表層崩壊が発(5) 教訓:林道では地表水の排水施設がない場合が多い。林道生した(図-4)。崩壊土砂は沢筋を流れ下ったが,谷の途中で留上を流れる地表水が,ある場所で集中的に斜面に流入して崩壊まり下部の民地までは到達していない。縄間(1)と同様に崩壊発を発生させる可能性がある。地表水が集中する場所には排水枡生源には林道がある。地質は花崗岩で,弱風化の花崗岩の上部などを設け,流末処理を適切に実施する必要がある。にマサを起源とする崖錐性堆積物や林道の盛土が分布しており,2.4 丹生土石流崖錐や盛土部が崩壊した。(1) 概要:民地背後の山地の沢筋の谷頭付近で崩壊が発生した(写真-1)。崩積土は沢筋を流下して民家に到達し 1 名が死亡した。平面図を図-6,発生源の模式断面を図-7 に示す。地質は花崗岩である。開口亀裂の多い基盤岩の上部にマサ化した表土が分布していた。崩壊箇所のり尻付近には沢筋を横断する破砕帯が認められ,破砕帯は破砕粘土で構成されている。沢の側壁をなす尾根には鞍部が認められ,不明瞭なリニアメントを形成している。(2) 問題のある地盤構造:基盤岩とマサの境界が強度の不連続面を形成している。表土と基盤岩(亀裂が多い)は比較的透水性が高いであろうが,崩壊部下端の破砕帯は不透水層であり,遮水層となっていたと考えられる。破砕帯による遮水の影響で崩壊部の地下水位が上昇しやすかったと考えられる。(3) 集水条件:崩壊箇所の上部は勾配が若干緩く,斜面内に降水を浸透させやすいであろうが,尾根までの距離は短く,顕著な集水地形ではない。上述の破砕帯による遮水構造の影響が大きいと考えられる。図-4 縄間 (1),縄間(2)土石流平面図(4) 崩壊の素因:基盤と表土の境界の強度の不連続面。誘因:144 表土や亀裂の多い基盤岩に浸透した地下水が斜面下方の透水性3.三方地区の低い破砕帯で行き場を失って滞留したことによる地下水位の3.1 概要上昇。図-8 に示すように,三方地区では海山土石流が発生した。三方地区の地質分布を図-8 に示す。海山図-6 丹生土石流平面図表土(マサ)図-8 三方地区の地質分布と被災箇所破砕帯でダムアップされ地下水位上昇3.2 海山土石流開口亀裂多い花崗岩(1) 概要:三方五湖の一つである水月湖に流れ込む流域で発生破砕帯不透水層した(写真-2)。土石流発生前後の平面図を図-9 に示す。発生源は幅約 100m,高さ約 100m,深さ約 15~20m の大規模崩壊か図-7 丹生土石流発生源の模式断面らなり,崩壊の冠頭は尾根に達している。土石流の流下区間は200m 程度であり,旧地形図より谷幅は 15m 程度以下であった発生源と推定されるが,災害発生後は幅 40~50m の範囲が広く侵食され,渓床堆積土砂だけでなく両岸の風化地山が削り取られている。土石流堆積物は谷出口前後の約 200m 間に堆積している。谷出口から民家までの間に延長の長い堆積域(5°以下)が広がっているため人的被害は生じていない。(2) 地形・地質上の問題点(素因):崩壊箇所は 0 次谷の集水地形に相当する。崩壊頭部の滑落崖の状況より,深層まで強風化の進んだ地山である。崩壊前の地形図・空中写真で地すべりの存在を暗示する単丘状地形が見られるので,周囲の沢に比べて崩壊の発生しやすい地形・地質条件であったと考えられる。写真-1 丹生土石流(3) 災害発生のメカニズム(誘因):滑落崖の右翼側で特徴的な赤褐色の強風化岩が卓越している。移動域の右翼側壁には赤褐(5)教訓:丹生の土石流を事前に予測することは難しい。花崗岩色の堆積物が残存しており,後続の土石流により侵食されてい地域の沢筋(0 次谷)では,どこでも土石流が発生しうるといる様子である。土石流の堆積域では,滑落崖の左翼側で見られう認識で対策を安全側で考えるしかない。沢筋の谷頭付近で沢る地層に似た暗褐色の堆積物が広く認められるため,土石流の筋をリニアメントが横断するような箇所では,破砕帯が遮水層発生は以下のような順序で発生したと推定される。①右翼側不となって,その上方斜面の地下水位を上昇させるケースがある安定地形部で崩壊が発生,②移動域に崩壊土砂(赤褐色の堆積ことを認識する必要がある。リニアメントの存在は他にも地層物)が堆積,③ ②による表流水のせき止め効果により,尾根付の脆弱さの問題や,今回とは逆に透水層となって土塊を押出す近の地下水位が上昇,④ ③により崩壊が尾根付近まで拡大し,ケースもある。一般論であるが,谷頭付近のリニアメントに注崩壊土砂が土石流化,⑤ 末端の緩斜面(5°以下)まで崩壊土意する必要がある。砂が流動した。145 雨士坂加茂忠野図-10 小浜地区の地質分布と被災箇所図-9 海山土石流平面図発生源図-11 海士坂の地質分布近傍に薄い砂岩(Ms)のレンズ状岩体が複数描かれており,均質な頁岩層で構成される斜面ではない。当箇所の頁岩層(Mm)は層理面に平行な剥離面の発達する場合も多く,全体的に著しい変形を受けている所が多い。小規模なブロック状の岩体として砂岩他の異種岩体を不規則に内包しており,亀裂質な基盤といえる。この種の岩盤では,今回のように短期間で多量の降雨があった場合,亀裂部分などから奥深くまで雨水などが浸透しや写真-2 海山土石流すいため,大規模な岩盤崩壊を生じさせる場合が多い。頂部の崩壊地周辺は流れ盤構造となっていた可能性が高く,このこと(4) 教訓:①土砂災害警戒区域(土石流)などの判断・評価時も広範囲に渡る斜面崩壊が生じる要因になったと推定できる。には,地すべり地形や不安定土塊などの存在も考慮する。②民図-12 に被災前の空中写真を示す。土石流が生じた渓流の左岸家までの間に延長の長い堆積域(5°以下)が広がっている場側斜面で何箇所かの過去の崩壊を示唆する痕跡や,表層崩壊を合は人命に影響する被災リスクは小さい。うかがわせる不安定地形(不明瞭な馬蹄形地形など)が確認される。今回の土石流発生源でも微少な不安定地形が確認された4.小浜地区が,その発達はひじょうに不明瞭であり,今回のような広範に4.1 概要渡る斜面崩壊を事前に予測することは困難と思われる。しかし,図-10 に示すように小浜地区では海士坂,加茂,忠野の 3 個今回崩壊が生じた斜面北側の沢縁辺などでも同様の不安定な所で土石流が発生した。小浜地区の地質分布を図-10 に示す。微地形を抽出することができ,当該渓流では今後の類似の土石4.2 海士坂土石流流に注意する必要がある。(1) 概要:図-11 に土石流発生個所の地質を示す。土石流は泥(2) 土石流の流下域内の状況:①発生源となった山頂付近では,岩主体の岩層(Mm)で発生し,泥質分に富む付加体メランジェすり鉢状に幅約 60m にわたって崩壊していた。林道も同様に幅(Me)の内部を流下したとみられる。発生源となった崩壊域は緻約 60m 程度崩壊しており,被災前の林道線形なども推測しにく密な頁岩を基盤とした斜面とみられるが,地質図では発生源のい状況であった。②山頂より沢部にかけては大量の土砂が堆積146 図-12 海士坂の空中写真(被災前)しており,含水比も高くひじょうに緩んだ状態であった。沢地図-13 加茂の地質分布形であり,両側の崩壊した斜面の状況からも同程度の土砂が流出したと推定される。左翼側と右翼側の崩壊した斜面の高低差は約 10m であり,土砂が蛇行しながら流下したと推測される。③崩壊した林道の崩壊前の道路高と沢部までの高低差は約 25mである。4.3 加茂土石流(1) 概要:図-13 に土石流発生個所の地質を示す。当地区の基盤は海士坂地区と同じように,主としてチャート質な岩層(Mc)と,不均質で雑多な泥質岩を基質としたメランジェ(MI)である。土石流発生源である斜面頂部の崩壊箇所は,主としてチャートの分布する区域かメランジェ分布域,または両者の境界付近である。チャート層は層厚数 cm 程度で比較的良く成層する場合や,小規模なブロック状の岩体として分布する場合が多いが,当地区のように三遠三角地の内部やその近傍に分布する区域で図-14 加茂の空中写真(被災前)は,全体的に風化や緩みが進んで浅部は脆弱化している所が多い。メランジェ域(MI)は海士坂地区同様に亀裂などの不連続面に富む雑多な岩相を呈し,基質の泥質部は総じて脆い。図-14に被災前の空中写真を示す。当地では 2005 年に今回の崩壊発生源を横切る林道が構築されており,この林道下方には成因不明な荒廃状況が確認された。(2) 土石流の流下域内の状況:①崩壊発生源の幅は約 15m である。崩壊土砂の中には大きな土塊や岩はなく,ほとんどが砂礫や砂であった。崩壊後の斜面には岩盤が露出していた。②林道の曲線部分は幅約 10m で崩壊した。崩壊林道の一部は盛土で排水機能もなかったため崩壊しやすかったと考えられる。③崩壊林道の上部は幅 4m 程度で,山側には風化岩が露出していた。法面から樹木が生えており,雨による風化を促進させていたようである。舗装や排水溝がなく,林道のわだちや肩部の亀裂などから斜面内に雨水が浸透し,地盤の緩みが進んで崩壊に至っ図-15 加茂土石流平面図たと推測できる。4.4 忠野土石流(1) 概要:図-16 に土石流発生個所の地質を示す。基盤は火山合が多い。当地区では近接して多方向に断層が分布しており,性の緑色岩類(Mg)が卓越する。源頭部の崩壊斜面はチャート他多くの劣化帯が存在していた可能性もある。土石流の発生には,の珪質分が多い岩相部(Mc)からなるが,メランジェ内部は不規緑色岩類とチャートの風化耐性の違いや風化帯の不陸などが関則で変化に富むため,緑色岩類の分布域の可能性がある。緑色係している可能性がある。図-17 に忠野の被災前の空中写真を岩類は新鮮な状態では硬質であるが,長期的には水による化学示す。土石流が生じた斜面の周辺域では同系統とみられる多数変化の生じやすい鉱物を多く含み,風化で脆弱な岩盤となる場の崩壊跡が確認される。土石流が生じた渓流頂部の源頭部にお147 図-16 忠野の地質分布図-18 忠野土石流平面図発生源写真-3 忠野土石流なっており,東側に分布する珪質岩盤と風化に対する耐性や,この結果生じた風化帯層厚の大きな相違が今回の崩壊を引き起図-17 忠野の空中写真(被災前)こす主因になったと推定される。②土石流の総延長は上端の斜面崩壊域~下方の谷止め工までの間で約 250m,流末集落域といても表層崩壊の痕跡とみられる地形がいくつか確認される。の高低差は約 150m,平均的な渓流勾配は約 30°である。当渓土石流発生源付近に伸びる弱いリニアメントもあり,類似の斜流では頂部の源頭部~末端の居住域付近まで渓床勾配に大きな面崩壊が何度か生じていた可能性が高い。今回の崩壊地付近に変化がなく,かなり急峻な渓流を多量の土砂や流木が短時間で伸びるリニアメントは,現地調査時に確認された珪質な硬質岩流れ下った可能性が高い。③当該渓流の出口付近に谷止め工が相と,風化の進んだ緑色岩類主体の岩相を分ける境界部分の可設置されていたが,今回の土石流で全壊状態となった。谷止め能性があり,周辺の崩壊跡もこれに沿って分布している。今回工の左・右両岸の袖部は,基準に従って比較的硬質な基盤岩にの土石流は,土石流カルテに記載される 3 本の渓流のうち,北定着されていたが,今回の土石流で谷止め工中央の水通し付近西-南東方向に伸びる沢中腹(標高 170~210m 付近)の斜面をが最も大きな被害を受けている。谷止め工の主要な対象とされ源としたものであり,末端の土砂到達域は同カルテで想定された東側より流下する渓流側では,目立った土砂流下が確認された遠敷川で止まったが,土石などは想定より 1.5~2 倍の範囲になかった。今回の土砂供給源は流域全体ではなく,北東側の渓広がった。流上部にほぼ限定されており,北東側からほぼ直線的に流入し(2) 土石流の流下域内の状況(写真-3):①土石流発生源は深層た多量の土石により谷止め工が破壊したと推定される。まで風化による劣化の進んだ強風化岩盤からなる斜面であり,崩壊範囲は東西・南北両方向で約 50m 四方,層厚 10~15m 程5.おわりに表-1に示す各地区での土石流災害の比較に基づいて,今回度である。北西-南東方向に伸びる沢の右岸斜面に生じた崩壊地形が明瞭に確認できるが,この崩壊域東端ではチャート他のの土石流災害の特徴と教訓を整理すると以下のようになる。珪質な岩盤からなる硬質岩盤が露出しており,劣化の目立つ崩(1) 発生源地形:一部の地区を除いて 0 次谷または凹地形であ壊域西側とは,地山状態の明瞭な相違が確認された。劣化の目り,従来から知られている傾向と一致する。0 次谷は雨水の集立つ西側斜面部は,主として亀裂の発達した緑色岩類が主体と水・排出システムであり,0 次谷流域内では土壌の集中・堆積148 表-1 土石流災害の比較発生源は0 次 谷か?地質縄間(1)発生源上部がガリ状 凹 地形,下部は1 次谷。花崗岩縄間(2)不明瞭な集 水 地形,尾根までの距離が短い丹生海山発生源の谷の特性(形状,堆積状況,植生,他)マサを起源とする崖錐性堆積物や林道の盛土が分布谷・沢の勾配発生メカニズム(頭部崩壊,中段部崩壊,他)土石流の型扇状地の有無発生区間40°,流下区間 20°,堆積区間5°ガリ状凹地による集水,横断排水施設のない林道部盛土から地下水流入砂礫型土石流あり。土石流カルテに記載あり花崗岩マサを起源とする崖錐性堆積物や林道の盛土が分布発生区間40°,流下区間 20°,堆積区間 5~10°林道が直線的に下って急に曲がる位置で崩壊砂礫型土石流0 字谷顕著な集水地形ではない花崗岩開口亀裂の多い基盤岩上部にマサ化した表土が分布崩壊部の尻にある破砕帯が遮水層となり地下水位が上昇砂礫型土石流0 次谷湧水あり砂岩頁岩互層,強風化を受け赤褐色の粘土状不安定地形部で崩壊発生,移動域に崩壊土砂堆積,崩壊が尾根付近まで拡大砂礫型土石流軽微なものあり海士坂0 次谷泥質岩(頁岩・粘板岩 ) 主体 ,緑色岩類他を混じえる,混在岩(流路方向に流れ盤)崩壊前地形図・空中写真:不安定土塊の存在を暗示(単丘状地形),広葉樹主体崩壊域は尾根先端部で不明瞭な馬蹄形,過去の表層崩壊多発,植生は頂部が広葉樹林,下方・側部で針葉樹林の混在発生区間 35~40°,流下区間25°,堆積区間 5°以下発生区間 25~35°,流下区 間 15 ~20°,堆積区間 5~10°あり。今回は扇状地到達前に停止。土石流カルテに記載ありあり。土石流カルテに記載あり発生源下方35°,流下・堆積区間 10°~15°源頭部で深さ5m 程度の表層崩壊発生,側部や下の既往崩積土を巻き込み流下。基盤強風化部が削がれて土砂加算砂礫型土石流細長い形状の沖積錐(土石流カルテでは谷底平野)土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域に指定土石流危険渓流Ⅰに分類過去平面(土石流カルテ)で今回発生源下に既往崩壊の痕跡あり。潜在的な不安定斜面であった可能性加茂0 次谷強風化珪質岩(チャート他)主体。流出土砂内に岩塊少なく,砂礫主体。頂部は林道(幅 4m 程の腹付け盛土)の曲線部。付近に過去の崩壊痕。植生は広葉樹林発生源下方35° 前後, 流下・堆積区間 10°前後林道に舗装や排水溝なく,表流水が林道谷部の腹付け盛土内に浸透の可能性砂礫型土石流細長い形状の沖積錐(土石流カルテでは谷底平野)土石流危険渓流Ⅰに分類隣接渓流で砂防対策中(流出なし)。林道建設時の腹付け盛土と排水不備の可能性忠野0 次谷緑色岩類主体,珪質岩(チャート他)を混じえる混在岩深層風化した強風化岩盤,周辺は杉主体の針葉樹林(植林地)渓床勾配平均 30°前後。発生源,流下・堆積区間ともほぼ同等風化した基盤土砂部(深さ 5-1m)が深く崩壊,左岸側部(風化土砂層)を削ぎ落として流下土量が増大。渓床勾配が急で末端部まで減速なく流出。砂礫型土石流あり。土石流カルテに記載あり土砂災害警戒区域に指定。土石流危険渓流Ⅱに分類周辺の同系斜面に複数の同種崩壊跡あり( 災害履歴不明)。既往治山ダムの能力不足。危険渓流主流部評価に問題発生場所土砂災害警戒区域,土石流危険渓流の指定土砂災害警戒区域,土砂災害特別警戒区域に指定。土石流危険渓流Ⅰに分類土砂災害警戒区域,土砂災害特別警戒区域に指定。土石流危険渓流Ⅰに分類土砂災害警戒区域,土砂災害特別警戒区域に指定。土石流危険渓流Ⅰに分類なし。沢出口に人家なしその他の特徴・教訓谷部を横断する林道盛土には排水施設が必要林道の表流水が集中的に斜面に流入して崩壊を発生させる可能性沢の側壁をなす尾根に鞍部,不明瞭なリニアメント。谷頭付近のリニアメントに注意土砂災害警戒区域等の判断時に不安定地形の存在も考慮する現象が活発に起こり,崩落発生点・土石流形成場でもある。一勾配が約 10°以下になると流動性が低下して減速し,約 2~3°部地区では,0 次谷形状の林道盛土が崩壊して発生源となった。のところで停止するとされている。今回被災したどの地区でも,(2) 地質:敦賀半島の花崗岩以外では,砂岩頁岩互層,緑色岩発生区間は上記の 15°をはるかに超えた急勾配である。の区域で土石流が発生しており,地質的な偏りは見られない。(5) 土石流発生のメカニズム:①0 次谷地形の頭部が崩壊した(3) 発生源の谷・沢の特性:沢部に崖錐性堆積物,林道盛土(特ケースが多い。②ほとんどの地区で,沢頭部の崩壊土砂が沢をに曲線部分),不安定土塊を暗示する単丘状地形が存在するな流下している。流水量が少ないため,流下区間での崩壊は少など,水に弱い地層をもつ地区が多い。い。③沢部の林道盛土で,道路横断方向の排水施設がないため(4) 谷・沢の勾配:土石流発生域は谷の勾配が約 15°以上で,盛土部から地下水が流入して崩壊した可能性がある。林道の曲149 線部で,林道の表流水が林道斜面表面を流れて崩壊した可能性これらの要因も考慮に入れる必要がある。過去の崩壊の痕跡にがある。曲線部の外側斜面に流れる可能性と,内側に滞水するも注意が必要である。可能性がある。林道に舗装や排水溝がなく,道路のわだち・亀③ 忠野地区は土砂災害警戒区域に指定されており,早期の避難裂から表流水が浸透した可能性がある。④沢頭部の崩壊部分ので人的被害を発生させなかった事例に見られるように,警戒区尻にある破砕帯が,表層から浸透した地下水の遮水層となって域の指定は重要である。警戒区域の指定を住民に周知させる工地下水位が上昇し,崩壊したと推定されるケースがある。⑤沢夫も重要である。内部の不安定土塊が崩壊→移動域に崩壊土砂が堆積→崩壊が尾④ 近年の降雨状況の変化に伴う土砂災害の増加を考慮して,土根付近まで拡大→土石流が発生したと推定されるケースがある。石流の恐れのある沢出口や,斜面崩壊の恐れがある斜面下には(6) 土石流の種類:ほとんどの地区で,沢頭部の崩壊土砂が沢人家などを置かない対処が必要である。を流下していることから,今回の災害は「砂礫型土石流」に分⑤ 災害のデータベース化が必要である。類される。細粒物質の含有率が高い泥流型土石流や,土石流と⑥ 降雨状況の記録が災害発生の水準を満たしていない地区で洪水流の中間に位置する「土砂流」とは異なる。も災害の発生が見られることから,局所的に危険な降雨が発生(7) 扇状地:扇状地(沖積錐)は,軽微な形状を含めてほとんした可能性があり,空間的にきめ細かい降雨予測と警報発令がどの被災地区で見られるが,全体的に不明瞭であり,過去に土必要である。石流が頻発していた地区ではないと推定される。本報告で述べた土石流災害の詳細や調査団メンバー氏名・所属(8) 土砂災害警戒区域,土石流危険渓流:ほとんど全ての被災などは参考文献 1)に示す。当調査団の活動は福井県建設技術地区が土砂災害警戒区域や土石流危険渓流に指定されており,公社の産学官共同研究支援制度の助成を受けて実施した。調査行政の手続きが進んでいる。指定のない箇所(海山)は沢出口団の活動に当たっては福井県土木部砂防防災課・道路保全課,付近に人家がなかったためと推定される。福井県道路公社から測量・地盤調査結果・河川水位観測記録な(9) 教訓と提言ど,福井地方気象台から降雨データなどの資料提供をいただい① 林道の表流水が集中的に斜面内に流入したり,法面を流れてた。これらの機関の方々の御配慮に深く感謝の意を表します。崩壊と土石流を発生させたケースが複数見られる。林道の排水施設・排水計画に十分な注意が必要である。維持補修・管理に参考文献も注意が必要である。1)地盤工学会関西支部・福井地質調査業協会・福井県建設技術② 谷頭付近のリニアメント,沢部の破砕帯,沢部の不安定土塊公社・NPO 福井地域地盤防災研究所(2013):平成 25 年台風などが,土石流発生の素因となったケースが見られる。困難な18 号地盤災害調査報告書(福井県嶺南地域),福井県建設技課題ではあるが,土砂災害特別警戒区域などの判断の際に,術公社(http://www.fk-kosha.or.jp:産学官共同研究 )Typhoon No. 18 in 2013 brought a lot of ground damage as slope failure, debris flow, river wall failure, flood, etc. toFukui prefecture south area. Site investigation was performed by the emergency survey team consisting of KansaiBranch of Japanese Geotechnical Society, Association of Fukui Geological Survey Business, Fukui Prefecture PublicCorporation of Construction Technology and NPO Fukui Regional Geotechnical Disaster Prevention Institute. Thisresult is open to the public in the home page of Fukui Prefecture Public Corporation of Construction Technology. Thisreport shows the characteristic result of debris flow damage from geographical and geological viewpoints.150
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