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出版

タイトル 西日本豪雨における堤防決壊に伴う浸水時の冠水井戸の簡易水質調査
著者 藤田 真理子・小林 薫・安原 一哉・黒田 修一・臼倉 和也
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 139〜142 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000023
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  • タイトル
  • 西日本豪雨における堤防決壊に伴う浸水時の冠水井戸の簡易水質調査
  • 著者
  • 藤田 真理子・小林 薫・安原 一哉・黒田 修一・臼倉 和也
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 139〜142
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000023
  • 内容
  • 西日本豪雨における堤防決壊に伴う浸水時の冠水井戸の簡易水質調査Simplified water quality investigation of submerged wellduring flood accompanying breakdown of dike in western Japan’s heavy rain藤田真理子 *,小林薫 **,安原一哉 ***,黒田修一 ****,臼倉和也 ****Mariko FUJITA, Kaoru KOBAYASHI, Kazuya YASUHARA,Syuichi KURODA and Kazuya USUKURA近年,気候変動に伴う短時間強雨が増加している。西日本豪雨では,西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水被害,土砂災害が発生し,甚大な被害となった。過去の災害事例より,災害時における井戸水の利用が注目される一方で,井戸の冠水による河川水や汚水の混入から井戸水の水質悪化も懸念される。本稿では,西日本豪雨において甚大な被害をうけた岡山県倉敷市真備町地区について,堤防決壊に伴い冠水した井戸の井戸水(地下水)の,浸水被害から 3 ヵ月後までの水質(一般細菌および大腸菌)について実施した簡易水質調査の結果について報告する。キーワード:災害,豪雨,地下水,井戸水,水質Disaster, Heavy rain, Ground water, Well water, Water quality1.はじめに2.2 倉敷市真備町地区の断水状況2018 年 6 月 28 日から 7 月 8 日にかけて,西日本を中豪雨により真備浄水場が冠水のため機能停止し,さら心に広い範囲で記録された台風 7 号および梅雨前線等のに送排水管の破損等が発生し,7 日に真備町地区の全域影響による集中豪雨により,多くの地域で河川の氾濫やで断水となった。9 日以降,試験通水を順次実施し,破浸水被害,土砂災害が発生し,甚大な災害となった。岡損箇所の補修を進め,小田川から南の区域では 16 日に水山県内では,河川の氾濫や堤防の決壊による浸水被害や道が復旧した。その後,24 日に小田川の北の区域におい土砂災害が相次いで発生した。その中で,倉敷市真備町ても断水が解消され,真備町地区全域において水道が復地区では 7 月 7 日朝までに小田川と支流の高馬川の堤防旧した 2)。が決壊し,広範囲が冠水した。浸水域は,真備町地区の2.3 断水時の井戸水利用3 割にあたる約 12km2 となった 1)。17 日間におよぶ断水が発生した真備町地区において,本報告では,岡山県倉敷市真備町地区を対象とし,西住民による自主的な井戸水提供が行われた 3)。11 日に真日本豪雨における堤防決壊に伴い冠水した井戸の井戸水備町市場にある呉服店が井戸水の開放を開始した。さら(地下水)の,浸水被害から 3 ヵ月後までの水質(一般に 13 日には,真備町箭田にある歯科医院が井戸にポンプ細菌および大腸菌)について実施した簡易水質検査の調を取り付けて井戸水を開放した。果について報告する。巨大地震や大規模浸水などによる災害発生直後,焦点の1つとなるのが水問題である。断水時において,避難2.西日本豪雨による倉敷市真備町地区における被害生活時の飲料水の確保は困難であり,浸水した家屋の清2.1 被害の概要掃やトイレや風呂用などに利用する大量の水も必要とな西日本豪雨により,広範囲で河川の氾濫や洪水,土砂る。さらに被災者支援による給水された水を雑用水とし災害などが多数発生した。岡山県倉敷市真備町地区におて使用することが容易にはできないことが現状である。いては,7 月 7 日朝に小田川と高馬川で堤防が決壊し,これに対し,井戸水については井戸周辺の水が引いた直真備町地区の 3 割(約 12 km2)が冠水した。堤防の決壊後から,比較的早く利用できると共に気軽に使えると言箇所は小田川で 2 箇所,高馬川で 2 箇所,末政川で 3 箇う利点がある。しかし,過去,浸水により井戸水の水質所,真谷川で 1 箇所確認されている。が悪化したという報告があり,安全面を考慮し安心して利用するためには,井戸水の水質を確認する必要があると考える。**** 茨城大学大学院**** 茨城大学大学院**** 茨城大学Ibaraki University Graduate School教授Professsor. Ibaraki University Graduate School名誉教授Professor Emeritus. Ibaraki University**** エイト日本技術開発Eight-Japan Engineering Consultants Inc139 3.冠水後 3 ヶ月までの井戸水の簡易水質調査3.1 水質調査を実施した井戸水の採水地点図-1 に倉敷市真備町における想定浸水域及び採水地点 4)を示す。約 12 km2 の広範囲の浸水域において,東西を網羅でき,水質調査に協力頂ける 10 地点について採水を実施した。また,現地のヒアリングをもとに,浸水(冠水)した井戸 8 箇所,浸水していない井戸 2 箇所において採水を行い,浸水の影響の有無を考慮した。3.2 試料の採水1 ,○2 および○6 の 3 地点については,ポンプが図-1 の○設置されていないことから,ロープと結ばれたバケツを用いて汲み上げた井戸水を 100 mL の密閉容器(2 本:簡易水質検査用と pH 検査用)に入れ,計 200 mL を採水した。なお,井戸水の水面にはゴミなどが浮遊していたこ図-1 倉敷市真備町における想定浸水域及び採水地点 4)とから,バケツを井戸水面から 50 cm~1 m 沈めた上で採3 ,□4 ,□5 ,□7 ,□8 ,□9 および□10水した。一方,図-1 の□の 7 地点については,ポンプで汲み上げた井戸水を蛇口から 100 mL の密閉容器(2 本)に入れ,計 200 mL を採水した。なお,蛇口やホースなどの汚れによる水質への影響も考えられることから,採水前には 1 分間以上にわたり井戸水を蛇口から出した後で採水した。採水後の密閉容器は,保冷材を入れたクーラーBOX に入れ冷蔵保管した。その上で,対象とした井戸からの採水を全て完了した後に,採水した順番に水質検査を当日実施した。写真-13.3 簡易水質検査の検査方法1 mL のマイクロピペットとピペットチップ採水した試料から 1 mL のマイクロピペットとピペットチップ(写真-1)を用いて検水を採り,培養シート(写真-2)に加えた。検査シートは一般細菌用,大腸菌用の2 種類を使用した。その後,検査シートを,35 °C に設定したインキュベーター(写真-3)で 24 時間培養し,水質基準に対する適合・不適合を判定した。一般細菌は 100個/mL 以下,大腸菌は不検出であることが基準であり,水質基準に対して適合しているものを◎,適合している(a)一般細菌用が数十個/mL 検出したもの(一般細菌)を○,不適合のものを×で表記し,それぞれの結果を示した。(b)大腸菌用写真-2 一般細菌用,大腸菌用の培養シート3.4 検査結果表-1 に浸水被害から 1~3 ヵ月後の 8 月 10 日,9 月 7日,10 月 19 日に採水した井戸水の水質調査結果の一覧(一般細菌),写真-4 に培養後の一般細菌用の培養シートを示す。また,表および写真中の各番号は採水地点を示す。まず,大腸菌に関する調査結果は,これまで計 3回調査を実施したなか,全 3 回全地点の井戸水において検出されなかった。平成 27 年 9 月関東・東北豪雨の際の堤防決壊に伴う冠水井戸の水質調査結果5)においては,浸水被害後から数ヶ月に渡って井戸水から大腸菌が検出された結果となったが,これとは大きく異なった。これは,下水道の整備6)において,処理人口普及率が倉敷市は 78.1 %に対して,常総市は 26.8 %と整備状況が大きく写真-3違うことが要因の 1 つと考えられる。一方,一般細菌については,各回の不適合である井戸の軒数は徐々に減少しており,3 ヶ月後(10 月 19 日)に14035 ℃に設定したインキュベーター 5 のみ不適合であった。しかし,各地点の細菌は,地点□表-1 井戸水の水質調査結果の一覧(一般細菌)数の変動については,時間の経過につれて細菌数が減少採水地点する地点,細菌数の増加・減少の変動が大きい地点,細菌数が概ね一定である地点の 3 つに分けられる。1時間の経過につれて細菌数が減少する地点(調査地点1 ,○2 ,□4 ,○6 および□7 )1 と○2 と□4○,特に,調査地点の○2については,一般細菌の水質基準が「不適合」から「適合」に大きく変化し,時間経過と共に井戸水の水質改善3一般細菌48 )8 については,2 ヶ月後の調査で前月の□,特に,地点□5細菌数に比べ約 3~4 倍の数が検出されている。細菌が増加した点については,採水前の蛇口からの放水時間を一6定時間確保したが,井戸水をほとんど使用していなかったことから,井戸から蛇口までの配管,ホースの中に残7存した井戸水を採水した可能性がある。浸水後の井戸水の利用状況(頻度,使用量)によって水質改善のスピー89ると,冠水後においては井戸水の使用頻度,使用量は少なかったものと考えられる。次回の採水時に採水前の蛇8月10日10―2726――――11101773723448――⑦⑧⑨写真-4 培養後の一般細菌用の培養シート41620◎10月19日110056157 159 132×325045○63365◎151310○4010◎◎―13◎×◎―2○×62◎×3570○○○⑥1411200 160 160 680 660 760④⑩10××③―6260 180 200 150 160 140②―5◎―9月7日―8×―66○320 260 320 200 200 220①⑤34◎0◎ドは異なると思われるが,井戸保有者へのヒアリングによれば,概ね冠水井戸の使用は控えたという話を考慮す7×025○300 340 360が進んでいる可能性がある。5 ,細菌数の増加・減少の変動が大きい地点は(調査地点□37×02018/10/192018/9/72018/8/10360 260 380102◎0 口からの放水時間を変化させた上で採水し,その時の井発生する水害(破堤)・土砂災害(自然斜面,人工斜面)戸水の水質検査により,今回の細菌数増加の要因を検討への対応は緊急かつ必要性が更に高まっている。水害発する。生直後,焦点の1つとなるのが常に水問題であることか3 ,□9 および細菌数が概ね一定である地点(調査地点□ら,水害発生時およびその後における井戸水の水質改善3 については,元々浸水被害を受けてい10 )□,特に,地点□メカニズム等を明らかにし,国家レジリエンス(防災・ない地点であることから,平常時における一般細菌数の減災)の強化(内閣府,H30.7.19)に貢献する。変動幅と推察される。これまでの結果より,現状における 3 回の水質調査結謝辞:本研究は,住友財団(助成番号:163005)の助成を果のみでは,一般細菌の大幅な増加の要因を特定するこ受けて行った。ここに記して感謝の意を表します。とは難しい。今後は,浸水後の時間経過と共に冠水した井戸水の水質が改善されたかを把握するために,継続し参考文献て井戸水の水質調査を実施すると共に,周辺の地下水流1)動調査も行い,その要因を特定していく予定である。山陽新聞(2018):高馬川の決壊日時は未確認情報国交省連絡員が情報誤り報告か,2018 年 11 月 5 日閲覧,http://www.sanyonews.jp/article/767509/1/.4.まとめ2)これまで,災害時の井戸水(地下水)の利用について山陽新聞(2018):倉敷・真備全域の断水が解消 17日ぶり,飲用可能に,2018 年 11 月 5 日閲覧,http:/は,平成 7 年の阪神・淡路大地震,平成 19 年の新潟県中/www.sanyonews.jp/article/756350/1/.越沖地震においても利用が報告されている。これらの事3)朝日新聞デジタル(2018):断水続き,「井戸水ご自例から,国土交通省は「震災時地下水利用指針(案)」7)由に」岡山・倉敷で開放広がる,2018 年 11 月 6 日を取りまとめ,自治体での災害時の井戸水利用の参考資閲覧,https://www.asahi.com/articles/ASL7C76R5L7CP料として公開している。実際に,一部の自治体は個人のTIL063.html.井戸保有者に「災害時協力井戸」としての登録を呼びか4)国土地理院(2018):平成 30 年 7 月豪雨に関する情けている。さらに,東京都世田谷区や三鷹市では,停電報,2018 年 11 月 6 日閲覧,http://www.gsi.go.jp/BOU時の水を確保できるように手動ポンプを設置するなどがSAI/H30.taihuu7gou.html#8.挙げられている8)。神奈川県では,団地内の公園に手動5)式ポンプを用いた汲み上げ井戸が設置され,防災用水洗トイレに使用されている小林 薫・進藤 里歩・金田 祐輔・村上 哲・安原 一哉・小荒井 衛(2016):平成 27 年 9 月関東・東北9)。豪雨における浸水に伴う井戸水の水質変化,2016 年しかし,豪雨災害により甚大な被害をうけた茨城県常春季講演会予稿,日本地下水学会,pp.4-7.総市(平成 27 年 9 月)や岡山県倉敷市真備町地区(平成6)30 年 7 月)においては,避難所などの公共施設への一定倉敷市(2018):平成 29 年倉敷市下水道事業概要,p.5.揚水量を確保できるような(公共)災害井戸の設置や手7)動ポンプ等の設置はみられなかった。 以上より,大規模8)国土交通省(2009):震災時地下水利用指針(案).国土交通省:地震災害時における地下水利用の取り震災時や水害時に対する過去の教訓を生かした対策や適組み事例,2018 年 11 月 7 日閲覧,http://www.mlit.g応策は様々に発信されているが,個人が実施できる方法o.jp/crd/city/sewerage/info/seisaku_kenkyu/mizujunkan/には限りがあり,行政側からの対策が必須である。事前03_4.pdf.に対策・適応策を周知し実施することにより災害時にお9)産経新聞(2018):災害時も水洗トイレをける効果を高くする為,自治体と住人の相互協力のもと用し清潔さ維持進めていく必要があると考える。ヶ崎市など導入今後,気候変動により激甚化する災害への対応の中,井戸活水道料金コスト削減効果も茅神奈川,2018 年 11 月 7 日閲覧,https://www.sankei.com/life/news/180414/lif1804140030-顕在化すると甚大な被害をもたらす線状降水帯によりn1.html.In recent years, the number of short-term heavy rains associated with climate change has beenincreasing. Floods, flood damage and landslide disaster occurred in many areas, mainly in westernJapan, causing serious damage. In the past disaster examples, while the use of well water in the eventof a disaster is attracting attetion, there are concerns that the mixing of river water and sewage mayworsen the quality of well water. In this paper, the water quality of well water that was floodedfollowing the collapse of bank was reported up to three months after being severely damaged by theheavy rains in western Japan (simple bacteria and Escherichia coli).142
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