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タイトル 平成30年7月豪雨による岡山県内のため池被害と破壊メカニズムについての一考察
著者 藤本 哲生・栗林 健太郎・坂部 晃子・黒田 修一
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 129〜132 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000021
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  • タイトル
  • 平成30年7月豪雨による岡山県内のため池被害と破壊メカニズムについての一考察
  • 著者
  • 藤本 哲生・栗林 健太郎・坂部 晃子・黒田 修一
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 129〜132
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000021
  • 内容
  • 平成 30 年 7 月豪雨による岡山県内のため池被害と破壊メカニズムについての一考察A Study on the Failure Mechanism of Reservoirs in Okayama PrefectureCaused by the Heavy Rain Event of July 2018藤本哲生*,栗林健太郎**,坂部晃子**,黒田修一**Tetsuo FUJIMOTO, Kentaro KURIBAYASHI, Akiko SAKABE and Syuichi KURODA平成 30 年(2018 年)7 月豪雨では,西日本を中心とした広い範囲において記録的な豪雨によって土木構造物に甚大な被害が生じた。中国地方においても多くの地点で観測史上 1 位となる 48 時間雨量や 72 時間雨量が観測され,多くのため池で被害が生じた。本報では,岡山県内で被災した 4箇所のため池に対する現地調査結果について述べたうえで,降雨浸透を考慮した斜面安定解析により豪雨によるため池の破壊メカニズムを推定した結果について報告する。キーワード:平成 30 年 7 月豪雨,ため池被害,浸透流解析,斜面安定解析The Heavy Rain Event of July 2018,damage to reservoir,seepage analysis,slope stability analysisを対象として降雨浸透を考慮した斜面安定解析を実施し,1.はじめに平成 30 年(2018 年)7 月豪雨では,梅雨前線の影響に豪雨によるため池の破壊メカニズムを推定した。より 7 月の月降雨量が平均の 2~4 倍となる記録的な大雨2.調査概要が観測され,岡山県では河川の氾濫や土砂崩れなど広い範囲で甚大な被害が生じた。また,81 箇所の農業用ため図-1 に,調査を実施した各ため池の位置図及び堤体の1),3 箇所のため池では堤体が決壊した。被害状況を示す。調査対象のため池は,堤体が決壊した著者らは,平成 30 年 7 月豪雨により岡山県内で被害が確山田池(久米郡美咲町錦織),南谷池(総社市下倉),大認された 4 箇所のため池を対象とし,被害状況を把握す田池(浅口市鴨方町本庄)の 3 箇所,決壊は免れたが堤るための現地調査を実施した。また,そのうちの 1 箇所体に大規模なすべり破壊が確認された冠光寺池(岡山市池で被害が生じ図-1 調査ため池位置図および堤体の被災状況 (背景地図:国土地理院地図 2))***Osaka Institute of Technology大阪工業大学株式会社エイト日本技術開発129Eight-Japan Engineering Consultants Inc. 北区菅野)の合計 4 箇所とした。なお,現地調査では被表-1 各堤体材料の室内土質試験結果害状況を把握するための現地踏査に加え,ポールによる項 目記号 単位ρs g/cm3%wn自然含水比%細粒分含有率 FcDmax mm最大粒径Uc均等係数D20 mm20%粒径%wL液性限界IP塑性指数簡易測量(堤高,天端幅,法面勾配)を実施した。また,土粒子の密度各ため池の堤体材料を採取し,室内土質試験(物理試験)を実施した。3.各ため池の被災状況3.1 山田池山田池は,堤高約 2.8m,貯水量約 100 ㎥ 3)の小規模な山田池2.646南谷池2.61623.649.69.50.0029-17.422.69.5271.20.036細粒分質礫質砂(SFG)●地盤材料の分類名礫混じり細粒分質砂分類記号図-2 凡例(SF-G)○ため池である。ため池台帳や改修歴等の情報は不明であ大田池2.653冠光寺池2.61725.24.571.124.54.759.5178.40.00190.05441.015.3礫混じりシルト(低塑性限界) 細粒分質砂(ML)(SF-G)□■るが,決壊箇所の目視観察から均一型のため池であると推察される。当該ため池では堤体が決壊し,崩壊土砂と100質量通過百分率 P(d) (%)ともに貯水が下流の水田へ流入した痕跡が確認できた。なお,決壊箇所は堤体の天端幅が 1.5m から 1.3m と狭く% 80なっている箇所であり,堤体下流面にはすべり破壊が生じた痕跡が確認できた。3.2 南谷池南谷池は,堤高約 3.2m,貯水量約 100 ㎥ 3)の小規模なため池であり,上流面には石積が設置されている。ため60南谷池大田池2000.001池台帳や改修歴等の情報は不明であるが,決壊箇所の目山田池40冠光寺池0.010.1粒径 d (mm)視観察から均一型のため池であると推察される。当該た110100[対数表示]図-2 各堤体材料の粒径加積曲線め池では堤体が決壊し,崩壊土砂とともに貯水が下流の水田へ流入した痕跡が確認できた。なお,決壊箇所にはため池堤体の室内土質試験結果の一覧を示す。また,図土嚢による補強箇所が確認できたことから,これまでに-2 に,各堤体材料の粒径加積曲線を示す。4 箇所のためも被災した履歴があると推察される。池のうち大田池の堤体材料は低塑性限界のシルトに分類される細粒土であり,それ以外は粗粒土であることがわ3.3 大田池かった。大田池は,堤高約 9.0m,貯水量 1.7 万㎥ 3)のため池であり,上流面には石積が設置されている。また,下流に5.豪雨によるため池の破壊メカニズムの推定は 2 つのため池を有する親子池 4)である。ため池台帳や前述したように,著者らが調査を実施したため池では改修歴等の情報は不明であるが,決壊箇所の目視観察か豪雨によって堤体の決壊や大規模なすべり破壊が確認さら均一型のため池であると推察される。当該ため池ではれた。本章では,豪雨によるため池の破壊メカニズムを堤体下流面に大規模なすべり破壊が確認でき,決壊箇所推定するために実施した降雨浸透を考慮した斜面安定解では基礎岩盤が露頭していた。析の結果について述べる。なお,解析の対象としたため池は,堤体下流面で確認したすべり面の形状が明瞭であ3.4 冠光寺池った冠光寺池である。冠光寺池は,堤高 12.9m,貯水量約 34 万㎥ 3)の比較的大きな規模のため池であり,上流面には石積が設置され5.1 冠光寺池周辺の降雨状況ている。当該ため池は堤体の決壊には至らなかったもの冠光寺池の降雨状況を把握するために,ため池の北西の,堤体下流面に大規模なすべり破壊が確認できた。な約 3.8km に位置する気象庁地域観測所「日応寺」の降雨お,すべり面の形状は円弧状であり,堤体天端の上流側観測データを整理した 5)。図-3~図-5 に,2018 年 7 月 5法肩から約 1.0m の位置と下流面の法尻付近を通る形状日~7 日の 3 日間(日最大降雨量 132mm)に観測されたであった。累積降雨量,時間降雨量及び 10 分間降雨量と時間の関係を示す。なお,同図中には比較として日応寺観測所にお4.被災したため池堤体の物理特性ける降雨量のうち日最大降雨量が既往第 1 位となる 2011調査を実施した 4 箇所のため池について,現地で採取年 9 月 3 日(日最大降雨量 164mm),既往第 2 位となるした土試料を用いて室内土質試験を実施した。試験項目2015 年 7 月 17 日(日最大降雨量 141.5mm)のデータもは,土粒子の密度試験(JIS A 1202),含水比試験(JIS A併せて示している。図-3 より,2018 年 7 月の日最大降雨1203),粒度試験(JIS A 1204)とし,大田池のみ液性限量では 2011 年及び 2015 年よりも小さいが,3 日間(72界・塑性限界試験(JIS A 1205)を実施した。表-1 に,各時間)の累積降雨量は最も大きいことがわかる。また,130 図-4 及び図-5 より,2018 年 7 月の時間及び 10 分間降雨7 月 6 日 23 時 35 分頃(約 47.5 時間):量は 2011 年及び 2015 年よりも大きく,かつ複数回のピすべり破壊が確認された 6)ークがみられる。文献 6)によると,冠光寺池の堤体のすべり破壊は 2018 年 7 月 6 日 23 時 35 分頃(図-3~図-5における約 47.5 時間の時点)には確認されていたことから,当該ため池はすべり破壊を生じる前にも短時間の激しい降雨を複数回にわたって受けていたといえる。なお,降雨量とため池被害との関係性について,堀 7)はため池図-3 3 日間(72 時間)の累積降雨量(日応寺)にある程度の累積雨量が発生した段階で強い降雨強度が発生すると,ため池の被災率が急増することを指摘している。また,奥田 8)は 5mm 以上の 10 分間降雨量が長時間にわたって集中するほど土砂崩壊の発生率が増加することを指摘している。冠光寺池は,これらの既往の研究で指摘されている被災率が増加する条件下に置かれていたと推察される。5.2 降雨浸透を考慮したため池堤体の斜面安定解析図-4 時間降雨量の経時変化(日応寺)冠光寺池の堤体下流面で確認された大規模なすべり破壊を対象とし,降雨や貯水位の変化がすべり破壊に対する安全率に及ぼす影響について検討した。具体的には,非定常飽和・不飽和浸透流解析により降雨及び貯水位の経時変化に伴う堤内浸潤面を求め,円形すべり面(現地での破壊形状から推定した一つに固定)のすべり破壊に対する安全率を算出した。なお,解析に用いる降雨波形は図-5 に示した日応寺観測所の 10 分間降雨量とした。また,ため池の貯水位波形は常時満水位を初期水位とし解析対象期間て降雨よる水位上昇を考慮した。その際,洪水ピーク流図-5 10 分間降雨量の経時変化(日応寺)量 Qp は,日応寺観測所の時間降雨量から土地改良事業計画基準・設計「ダム」に示される合理式により算出し,洪水到達時間 tp は角屋・福島の式(定数 C=290),平均有効降雨強度 re は物部の手法(流出係数 fp=0.85),波形の形状は単峰型とした 9)。上記により算出した Qp から水路流入型の洪水吐における越流水深 Hd を求め10),ため池の貯水位波形とした。解析の対象期間は,文献 6)において当該ため池堤体のすべり破壊が確認された前後で降雨が始まる 7 月 5 日9 時から降雨が収束する 7 月 7 日 12 時までの 51 時間とし,7 月 6 日 23 時の浸潤面において設定したすべり面の安全率が 1.0 になると仮定して逆計算により堤体の強度定数を求めた。その際,堤体の湿潤単位体積重量γt は粒度試験結果を参考として砂質土相当の 19kN/m3 とし図-6 解析による貯水位と安全率の経時変化11),粘着力 c は 5.0kN/m2 とした。また,堤体の透水係数 k は想定すべり円弧粒度試験結果のうち 20%粒径 D20 を用い,Creager によるD20 と k の関係 12)から 2.8×10-4cm/sec とした。図-6 に,設定した条件により求めたため池の貯水位及び堤体のすべり破壊に対する安全率と経過時間の関係を6⽇23:00示す。また,図-7 に,堤内浸潤面の経時変化図を示す。6⽇14:205⽇21:10ため池の貯水位は,7 月 5 日の 18 時以降に上昇及び下降初期浸潤線を繰り返しながらすべり破壊が生じたと仮定した 7 月 6日 23 時頃に解析期間内の最高水位となっている。一方,堤内浸潤面については,時間の経過とともに下流面の浸図-7 設定したすべり面と堤内浸潤面の経時変化131 出点が上昇し,降雨に伴う堤体表層からの浸潤面の発達となることが挙げられる。このような現象は,現行のたが確認できる。また,貯水位の上昇と堤体表面からの降め池の設計指針 10)では考慮されていないが,近年多発す雨の浸透が重なったことにより,すべり破壊が生じたとる集中豪雨を踏まえると,豪雨による貯水位の上昇と堤仮定した 7 月 6 日 23 時には堤体天端付近の一部を除いて体表面からの降雨の浸透を同時に考慮したため池堤体の堤体全体が飽和状態となっていることがわかる。したが安定性についても,今後は検討をする必要があるのではって,2018 年 7 月の豪雨により冠光寺池の下流面に発生ないかと考える。したすべり破壊は,貯水位の上昇と堤体表面からの降雨の浸透が重なり,堤体全体がほぼ飽和状態となったこと謝辞: 本報で述べた堤体材料の室内土質試験の実施にによって発生したと推定される。あたり,大阪工業大学 工学部 都市デザイン工学科 地盤最後に,逆計算により求めた堤体の内部摩擦角φは環境工学研究室の中野卓也氏,田中甫氏,香川亮太氏に33.2°であり,砂質土を用いたため池堤体の内部摩擦角ご協力を頂いた。ここに記して謝意を表す次第である。としては概ね妥当な値ではないかと考える。参考文献1)6.まとめ本報では,平成 30 年(2018 年)7 月豪雨により被災し岡山県(2018):平成 30 年 7 月豪雨による被害状況について(7 月 27 日 15 時 00 分現在)た岡山県内の 4 箇所のため池を対象とし,現地調査によ2)国土地理院:地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/),2018.8 閲覧り確認した被災状況及び堤体材料の物理特性について述3)べたうえで,降雨浸透を考慮した斜面安定解析により豪山陽新聞:山陽新聞 digital(http://www.sanyonews.jp/article/752797 )2018.7 閲覧雨によるため池の破壊メカニズムを推定した結果につい4)て述べた。それらをまとめると以下の通りである。堀俊和・泉明良(2018):平成 30 年 7 月豪雨災害ため池被災調査報告書(速報)(岡山県大田池,二(1)子池,山地下池),農研機構農村工学研究部門.調査を実施したため池では豪雨によって堤体の決5)壊や下流面のすべり破壊が確認できた。また,決壊(2)jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=66&block出した痕跡が確認できた。_no=1531&year=&month=&day=&view= ) 2018.10調査を実施したため池の堤体材料は,大田池以外は閲覧6)粗粒土に分類される材料であった。(3)堀俊和・泉明良(2018):平成 30 年 7 月豪雨災害冠光寺池近傍の日応寺観測所の降雨量について,ため池被災調査報告書(速報)(岡山県冠光寺池,2018 年 7 月豪雨の日最大降雨量は既往第 1 位及び江田池),農研機構農村工学研究部門.7)第 2 位と比較すると小さな値であるものの,3 日間:農業用ため池の豪雨災害に関する堀俊和(2005)研究,農工報,44,pp.139-247.(72 時間)累積降雨量では最も大きく,かつ,堤8)体がすべり破壊を生じる前には短時間の激しい降奥田穣(1976):地すべり崩壊と降水量の関係,施工技術,9,No.4,pp.13-18.雨が複数回にわたって発生していた。(4)気象庁:過去の気象データ検索(https://www.data.したため池では崩壊土砂とともに貯水が下流へ流9)冠光寺池の降雨浸透を考慮した斜面安定解析の結農林水産省農村振興局(2003):土地改良事業計画果から,2018 年 7 月の豪雨により下流面に発生し設計基準設計「ダム」技術書共通編,pp.346-357.たすべり破壊は,貯水位の上昇と堤体表面からの降10) 農林水産省農村振興局(2015):土地改良事業設計指針「ため池整備」,pp.66-72.雨の浸透が重なり,堤体全体がほぼ飽和状態となっ11) 農林水産省農村振興局(2015):土地改良事業設計たことによって発生したと推定される。指針「耐震設計」,p.95.12) 社団法人地盤工学会(2010):地盤材料試験の方法以上より,豪雨によるため池堤体のすべり破壊のメカと解説-二分冊の 1-,p.129.ニズムの一つとして,貯水位の上昇と堤体表面からの降雨の浸透が重なることにより,堤体全体がほぼ飽和状態In the Heavy Rain Event of July 2018, a serious damage occurred to the civil engineering structurebecause of record-breaking heavy rain in large extent around West Japan. The 48 or 72 hourly rainfalldepth which is the largest in history was observed at many points in the Chugoku district. Moreover, alot of reservoirs was damaged. In this paper, the result of the field survey for 4 reservoirs in Okayamasuffered from by the Heavy Rain Event of July 2018 is reported at first. Furthermore, the failuremechanism of reservoirs by the heavy rain is presumed with slope stability analysis in consideration ofsaturation by penetration of rainwater.132
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