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タイトル 杭を用いた壁背面土の液状化抑制効果に関する数値実験
著者 藤原 覚太
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 93〜98 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000015
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  • タイトル
  • 杭を用いた壁背面土の液状化抑制効果に関する数値実験
  • 著者
  • 藤原 覚太
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 93〜98
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000015
  • 内容
  • 杭を用いた壁背面土の液状化抑制効果に関する数値実験Numerical study on pile countermeasure against liquefaction on the groundbehind rerating wall藤原覚太*Kakuta FUJIWARA壁構造の背面に杭を離散的に配置することで、背面地盤の液状化を抑制し壁構造の変形を抑えることが知られている。これまで杭の配置位置や杭が受け持つ荷重等について研究されており、本研究では杭の「剛性」に着目した数値検討を行った。一般的な自立式矢板の壁構造モデルを作成し、杭をモデル内で設置し、その後、杭の剛性を小さくするパラメトリックスタディを実施した。その結果、杭の変形が地盤の変形に追随するため、平面的にみた場合の地盤のせん断変形が抑えられ、杭の剛性が小さいにも関わらず、液状化および壁構造の変形抑制効果を発揮することを確認した。キーワード:壁構造、杭、液状化、数値解析Retaining wall, pile, liquefaction, numerical analysis1.はじめに2.解析条件港湾岸壁や道路擁壁といった壁構造では、地震が発生解析対象とする構造は、図 1 に示すような、一般的なすると慣性力が加わるため、壁構造には大きな土圧が作自立式の矢板式擁壁とした。座標系は壁延長と垂直方向用する。さらに背面地盤が緩い地盤である場合、液状化を x、壁延長方向を y、高さ方向を z とした。モデル寸法を伴うことがあり、大きな外力が作用するため壁構造はは横幅(x 方向)20m、壁延長(y 方向)5m、高さ(z 方向)12.5m大きく変形する。近い将来、南海トラフ巨大地震や首都とした。矢板等を除くほとんどのメッシュは 0.5m の立直下型地震等の巨大地震の発生が予測されており、既存方体である。境界条件は水平方向の側面(x=0, 20m)を xの壁構造を補強することは、我が国における喫緊の課題方向固定(y, z 方向は自由) とし、底面(z=0m)を全方向固となっている。定、また対称性を考慮し奥行方向の側面(y=0, 5m)を y 方壁構造だけでは、地震に対する安全性を担保しきれな向固定(x, z 方向自由)とした。い場合、液状化抑制工法を併用することが多い。例えば、地盤固化改良工法は、地盤内に薬液を注入し地盤を古結させるため、液状化の発生を抑えることができる全体図②非液状化層壁構造(矢板)た背面地盤に杭を離散的に配置する工法も考案されている①液状化層1)。ま背面土2)~4)。杭と既存の壁構造を結合する必要がないことか5.0①ら既設補強として適用でき、工法自由度が高い。これらの研究では、杭を設置することで地盤の過剰間隙水圧の上昇が抑えられ、結果として壁構造の変形が抑えられる矢板根入れ 6m7.5ことがメカニズムとともに示されている。また杭をどの②ような場所に、どれだけ寄せて(離して)で設置するかという、設置位置に関する検討も詳細になされている。一原点zy方で、杭自体の剛性に着目した研究は少ない。そこで、筆者は上記の杭を用いた工法に着目し、液状5.020.0x化解析ソフト LIQCA3D175)を用いて数値検討を行った。平面図まずは一般的な壁構造のモデルを作成し、プログラム内2.4 2.01.0で地震動を与え、既往の研究 4)で述べられているような、杭を設置することで周辺地盤の過剰間隙水圧の発生が抑壁構造(矢板)→5.0えられる現象を確認する。その後、杭の剛性に関するパ1.0yラメトリックスタディを実施し、杭の剛性が壁構造の変x形に与える影響について検討する。あくまで数値実験であり現実的はない物性も包含して検討する。3.020.0白塗りが杭要素図-1 解析モデル(上:全体図、下:上部の平面図)[単位は m]* 東海大学工学部助教Assistant Prof., Faculty of Engineering, Tokai University93 地盤および矢板に関する諸元を表 1 に示す。地盤は液表-1 解析入力値状化層(完全飽和状態)と非液状化層(完全飽和状態)から(a) 矢板の物性成り、それぞれ相対密度 Dr=45%、Dr=90%を想定した。諸元初期応力解析動的解析E (kN/m2)2.05E+082.05E+08ポアソン比ν0.30.3密度r (t/m3 )7.87.8地盤モデルについて、初期応力解析では両地盤ともに弾ヤング係数完全塑性モデル、動的解析では液状化層には砂の繰返し弾塑性モデル 、非液状化層には R-O モデルを適用した。6)これらパラメータは文献7)と同じ値であり、パラメータの設定方法については文献(b) ジョイント要素の物性7)を参考にされたい。参考ま諸元でに、図 2 に液状化層に用いた地盤物性パラメータによる液状化強度曲線を付記する。矢板は線形弾性体(ヤング率E=2.05×108ks (kN/m2)せん断方向kN/m2)のソリッド要素とし、型式 50H 相当の曲げ剛性となるようメッ21.00E+01kn (kN/m )1.00E+081.00E+08粘着力c (kN/m )00摩擦係数tanφ0.270.272(c) 地盤の物性(初期応力解析)い。また壁高さは 5.0m、非液状化層に 6.0m 根入れさせ諸元液状化層非液状化層E0 (kN/m2 )6274071490ポアソン比ν0.330.33内部摩擦角φ(degree)36.736.7c(kN/m )00n0.50.5ている。矢板と地盤の間にはジョイント要素を設定し、ヤング係数の滑りや剥離が評価できるようにした。ただし受働側の地比例定数盤との間にはジョイント要素は設定していない。解析対象は無対策および杭ケースであり、解析ケース2粘着力一覧を表 3 に示す。杭ケースは図 1(平面図)に示すように、背面地盤に杭が設置された構造である。杭は矢板からヤング係数の2.4m 離隔して設置し、長さは 5.0m とし非液状化層に根指数定数入れしていない。杭は鋼を想定し、線形弾性体(ヤング率kN/m2)を適用し、径は動的解析1.00E+01垂直方向シュ厚さを 180mm とした。波型の形状は模擬していなE=2.05×108初期応力解析(d) 地盤の物性(動的解析)2m(1D)、杭中心間距諸元液状化層非液状化層適用モデル砂の繰返し弾塑性モデルR-Oモデル離は 5m(2.5D)とした。ただし図 2 に示すように、杭自体は粗いメッシュによりモデル化しており、断面は円形ではなく、また実際の鋼管杭に比べ断面 2 次モーメント(I)が過大となっている。そこで本研究では、曲げ剛性(EI)の 調 整 も 兼 ね て 、 ヤ ン グ 率 を 1/10~1/10000(E=2.05 ×104~2.05×107 kN/m2)と低減するパラメトリックスタデ間隙比e00.8130.683圧縮指数λ0.015-膨張指数κ0.002-G0 /σm01000-無次元化初期ィを実施した。せん断弾性係数解析は全ケースを通じて、初期応力解析、動的解析の手順で行い、初期応力解析で得られた応力状態を用いて変相応力比Mm0.909-動的解析を実施した。動的解析において、計算時間増分破壊応力比Mf1.122-B07000-B150-は 0.002sec.とし、時間積分のための Newmark の法の係硬化関数中のパラメーター数は=0.3025,=0.6 とした。Rayleigh 減衰として初期剛性比例型を用い、その係数は=0.003 とした。地震動には図 3 に示すように、継続時間 10 秒、周波数 5Hz、最大加速度 3m/s2 のテーパ状の正弦波を用いた。0.3応力振幅比 σd/2σ0 '0.250.20.15Cf0-異方性消失のパラメーターCd2000-ダイレイタンシーD03-係数n3-塑性基準ひずみγp0.01-弾性基準ひずみγE0.02-ポアソン比ν-0.33粘着力(kN/m )c-0内部摩擦角(rad)φ-0.68せん断弾性係数のパラメーターa-33665b-0.5R-Oモデルのα-0.3パラメーターr-2.320.10.050110100繰り返し回数1000図-2 液状化強度曲線(液状化層)94 表-2 杭のモデルと実構造の比較解析モデル-0.6実構造水平変位(m)2m2mCase-AD1-0.5-0.4Case-B1-0.3Case-B2-0.2Case-B3-0.1板厚 40mm と仮定I=0.667 m40I=0.118 m4無対策杭なし2B1杭ケース 杭のヤング率 E=2.05×10 kN/mB2杭ケース 杭のヤング率 E=2.05×107 kN/m2杭ケース810Case-B1-0.3Case-B2-0.2Case-B32-0.1420.0杭のヤング率 E=2.05×10 kN/mCase-A-0.46杭ケース 杭のヤング率 E=2.05×10 kN/mB46D2-0.5備考8B34-0.6水平変位(m)A構造名2Time(sec.)表-3 解析ケースケースNo.Case-B40.0Case-B4024(数値実験として極端に低い値とした)6Time(sec.)810-0.6D3水平変位(m)Case-A-0.4Case-B1-0.3Case-B2-0.2Case-B3-0.1Case-B40.00246810Time(sec.)0246time(sec.)8-0.610Case-A-0.5水平変位(m)加速度(m/s2 )-0.543210-1-2-3-4図-3 入力地震動D4Case-B1-0.4-0.3Case-B2-0.2Case-B3-0.1D1~D4 変位、■P1~P2 水圧Case-B40.0x=13.50246810Time(sec.)D1(z=12.5)y=2.5図-5 水平変位の時刻歴D3(z=12.5)P1(z=10)D2(z=12.5)P2(z=10)変形抑制効果が発揮されるという結果となった。D4(z=12.5)次に Case-A, B1, B4 における変形状態を過剰間隙水圧比のコンターとともに図 6 に示す。変形倍率は 1 倍であ図-4 検討対象点(平面図)る。対象断面は y=0, 2.5m(杭間中央)とし、Case-A はどのy 座標であっても同じ結果であることから、y=0m のみと3.解析結果した。図中にはその断面における矢板天端の水平変位も解析結果として、D1~D4(図 4 に記載、D1, D2 は矢板付記した。天端、D3, D4 は地盤表面)における水平変位の時刻歴を図 6 より、Case-B1~B4(杭ケース)では矢板の変形は図 5 に示す。変位の正負は座標系と一致しており、変形Case-A(無対策)に比べ小さくなっており、Case-B4 では杭方向は負の値となる。い ず れ の 点 に お い て も Case-A( 無 対 策 ) に 比 べ 、自体も矢板側に向かい変形している様子が確認できる。Case-B1~B4(杭ケース)の変位は 6 割以下まで小さくなっCase-A(y=0m)と Case-B1(y=0m)を比較すると矢板近傍ており、杭を設置することで矢板や地盤の変位が抑えらの過剰間隙水圧比のコンターが小さくなっていることがれることを確認した。Case-B1~B4 の間で比較すると、わかる。一般的に、背面地盤の過剰間隙水圧が上昇するD4 は杭自体の剛性が直接影響するため剛性に応じて変と、主働(もしくは静止)状態であった地盤が液状に振る位が抑えられている。一方で、D1~D3 では Case-B1~B4舞うため、矢板に作用する外力は増加する。Case-B1 での間で剛性に応じた関係は見られず、Case-B4 のようなは過剰間隙水圧の上昇が抑えられたことで、矢板に作用極端に小さな剛性であっても、一定の矢板および地盤のする外力が小さくなり、結果として水平変位も小さくな95 Case-A (y=0m)ったと考えられる。Case-B4 においては、図 6 では過剰0.56m間隙水圧の低減効果を確認しづらいため、図 9 の平面図を用いて後述する。Case-A, B1~B4 において、矢板近傍の P1, P2(図 4 に記載)の過剰間隙水圧の時刻歴を図 7 に示す。Case-A(無対策)に比べ、Case-B1~B4(杭ケース)の過剰間隙水圧は小さくなっており、特に Case-B1~B3 では P1(y=2.5m)において顕著である。ここで同位置における体積ひずみの時刻歴を図 8 に示す。圧縮が正、膨脹が負である。P2 でのt=0~6sec. を 除 い て は 、 Case-A( 無 対 策 ) に 比 べ 、Case-B1 (y=0m)Case-B1~B4(杭ケース)の体積ひずみは小さくなっており、0.35m多くのケースで膨脹する傾向にある。文献4)では、杭と矢板の間の地盤は、矢板の変形に伴い引張方向に変形するため、ダイレイタンシーが生じ過剰間隙水圧が減少することが実験的に検証されている。本解析においても同様の傾向が観察され、既存の文献に整合する結果を得た。過剰間隙水圧(kN/m2 )20Case-B1 (y=2.5m) 0.36mP110Case-A0Case-B1-10-20Case-B2-30Case-B3-40-50Case-B4-600246810Time(sec.)過剰間隙水圧(kN/m2 )20Case-B4 (y=0m)0.23m10Case-AP20Case-B1-10-20Case-B2-30Case-B3-40-50Case-B4-600246810Time(sec.)図-7 過剰間隙水圧の時刻歴0.0010Case-A体積ひずみP10.0005Case-B10.0000Case-B2Case-B3-0.0005Case-B4-0.00100246810Time(sec.)Case-B4 (y=2.5m) 0.25m0.0010Case-A体積ひずみP20.0005Case-B10.0000Case-B2Case-B3-0.0005Case-B4-0.001002468Time(sec.)図-6 変形状態と過剰間隙水圧比コンター(断面図)図-8 体積ひずみの時刻歴9610 Case-A過剰間隙水圧が小さいことがわかる。また杭周辺のメッ矢板シュの変形状態をみると、Case-B1 の方が Case-B4 よりもメッシュの変形が大きい。平面的に見た場合、Case-B1では杭の剛性が高いため杭自体が変形せず、その分周辺の地盤にせん断変形(xy)が集中したものと考えられる。言い換えると、杭の剛性が小さな Case-B4 では杭が地盤の変形に追随するため、杭周辺の地盤では平面的なせんCase-B1杭の位置断変形(xy)は生じにくくなり、このことが過剰間隙水圧の発生を抑えたものと考えられる。結果的に Case-B4 では壁背面の土水圧が抑えられ、矢板の変形が抑制されたと考えられる。4.結論Case-B4杭の位置壁背面に杭を離散的に配置し、液状化を抑制する工法に着目し、3 次元液状化解析ソフト LIQCA2D17 を用いて、数値解析を実施した。その結果、以下に示す知見が得られた。1)杭を配置することで、地震動を受けて壁構造が変形しても、壁近傍の地盤が体積膨脹し過剰間隙水圧の上昇(a) 上面から見た図を抑えるため、壁に作用する外力が小さくなった。これCase-Aは従来の他研究の示すことと整合する結果であり、本研究では壁の変形は無対策に比べ 6 割以下に抑えられる結果となった。2)杭の剛性に関するパラメトリックスタディを実施することで、極端に小さな剛性であっても壁の変形が抑えられることを確認した。杭が地盤の変形に追随するため、Case-B1杭周辺地盤の平面的なせん断変形が抑えられ、過剰間隙水圧の発生を抑制するためと考えられる。3)本研究では、杭のモデルが粗形状であること、杭と地盤の間にジョイントを設定していないこと、塑性化を考慮していないなど、実構造を精緻にモデル化できていCase-B4ない。今後、実験的な研究も行い、本論文の妥当性について分析を進める次第である。参考文献1)(b) z=10m での平面図林健太郎・藤原敏光(1994):薬液注入による液状化防止工法に関する研究,第 29 回土質工学会研究発図-9 変形状態と過剰間隙水圧比コンター(平面図)表講演集,pp. 2169-2170.2)ここで杭の剛性が小さな Case-B4 に着目すると、P1,P2濱田政則・樋口俊一(2010):液状化地盤の流動抑制工法に関する実験的研究:土木工学論文集 A1(構では Case-B1 らと比べて過剰間隙水圧の低減効果が小さ造・地震工学),Vol.66, No.1, pp84-94.い傾向にある。加速度の小さい領域(t=0~4sec.)に限って3)森川嘉之・高橋英紀・津田和夏希・高橋直樹・戸村は、Case-A よりも大きな過剰間隙水圧が発生している。豪治・東畑郁生(2016):杭式改良体による液状化地以下に、Case-B1 に比べ Case-B4 の方が、矢板近傍の過盤の側方流動抑制工法の開発,港湾空港技術研究所剰間隙水圧が大きいにもかかわらず、水平変位が資料,No.1326Case-B1 と同等以下であった点について考察する。4)鈴木比呂子・中辻友希・時松孝次・阿部秋男(2004):図 9 は Case-A, B1, B4(t=10sec.)における変形状態と過液状化・側方流動実験における杭周辺の間隙水圧変剰間隙水圧比コンターを、平面的に見たものである。(a)動と杭に作用する土圧の関係,第 39 回地盤工学研は上面から、(b)z=10m での切断面であり、左半分は地表究発表会,pp.1787-1788面(z=7.5m)である。(a), (b)いずれにおいても、Case-B1 と5)Case-B4 を比べると、杭周辺においては Case-B4 の方が、液 状 化 解 析 手 法 LIQCA 開 発 グ ル ー プ (2017) :LIQCA2D17・LIQCA3D17 マニュアル97 6) Oka, F.・Yashima, A.・Tateishi, A.・Taguchi, Y.・Yamashita,7)藤原覚太(2016):二重鋼矢板壁を設置した海岸堤防A.(1999) : A cyclic elasto-plastic constitutive model forの巨大地震下における変形挙動と評価技術に関すsand considering a plastic-strain dependence of the shearる研究,岐阜大学博士論文,pp.57-64modulus, Geotechnique, Vol. 49, No. 5, pp.661-680It is proposed that damages of wall due to liquefaction of the ground behind the rerating wallcan be reduced by the installation of piles into the background distributively. The optimized formationof piles and the mechanical model of this countermeasure were proposed in previous studies. In thisstudy, an author focused on the effect of piles “rigidity” on the effectiveness of this countermeasure.Through the 3D numerical analyses, it is confirmed that even piles with very weak rigidity couldreduce the damages of the wall according to inhibition of liquefaction. This is because that the groundshear deformation on the plain section was not concentrated instead of large deformation of piles.98
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