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出版

タイトル 平成30年北海道胆振東部地震における斜面崩壊の特徴
著者 細矢 卓志・西江 俊作・山口 弘志・池田 光良・荒井 靖仁・東畑 郁生
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 27〜30 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000005
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  • タイトル
  • 平成30年北海道胆振東部地震における斜面崩壊の特徴
  • 著者
  • 細矢 卓志・西江 俊作・山口 弘志・池田 光良・荒井 靖仁・東畑 郁生
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 27〜30
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000005
  • 内容
  • 平成 30 年北海道胆振東部地震における斜面崩壊の特徴The characteristics of the slope failures induced by the 2018 Hokkaido EasternIburi earthquake細矢卓志*,西江俊作*,山口弘志*,池田光良*,荒井靖仁* ,東畑郁生**Takashi HOSOYA, Shunsaku NISHIE, Hiroshi YAMAGUCHI, Mitsuyoshi IKEDA,Yasuhito ARAI,Ikuo TOWHATA北海道胆振東部地震では,厚真町付近を中心に多数の斜面崩壊が発生した。筆者らは斜面崩壊の特徴や斜面崩壊の原因を明らかにするため,現地調査やドローンでの撮影を実施した。その結果,今回の斜面崩壊は流出長が崩壊長と比べ長いこと,崩壊の多くは樽前降下軽石層内で生じていること,崩壊は地下水が影響していることなどを明らかにした。キーワード:胆振東部地震,斜面崩壊,ドローン,崩壊長,流失長,地下水2018 Hokkaido Eastern Iburi earthquake, slope failure, drone, length of slope failure,washed away length, groundwaterの間にクロボク層を挟んでいる。厚さは場所によるが 3m1.はじめに北海道胆振東部地震は,2018 年(平成 30)年 9 月 6 日 3程度である。これら火山噴出物(テフラ)は,すべて降時 7 分に,北海道胆振地方中東部を震源として発生した。下テフラであり,厚真町から比較的近くの場所(支笏湖地震の規模は気象庁マグニチュード Mj 6.7,震源の深さ周辺の火山)から供給されているため,非常に粒径が大は 37 km(いずれも暫定値),最大震度は 7 で,北海道できく粒子と粒子の間隙が多い特徴がある。は初めて観測された。この地震では,大規模停電(ブラ今回の地震による斜面崩壊はすべて,これらテフラ層ックアウト)が発生した他,各地で大きな被害を及ぼし内において崩壊が生じている。すべり面の層序は樽前テた。筆者らは,地震直後に調査団を結成し,主に厚真町フラ層内で生じている場所とその下位である支笏テフラの斜面崩壊を調査した。本論では,厚真町の斜面崩壊を調査した結果を報告する。2.調査場所及び調査方法調査を行った厚真町は,苫小牧市の北東 20 ㎞ほどの場札幌市所に位置する丘陵に囲まれた町である(図-1)。今回,厚真町の中でも,斜面崩壊が顕著に認められた桜丘地区,厚真町吉野地区(南北 2 地区),東和地区,富里地区(給水塔地区,カボチャ畑)の 4 地区計 6 か所の斜面の変状を調査苫小牧市した(図-2)。調査内容は,崩壊箇所の形態確認,地質層序の確認,図-1 厚真町の位置図強度測定等である。なお,調査に当たって,余震継続中であり,調査員の安全を考慮して崩壊規模の大きい吉野地区や富里地区では崩壊ブロック内に入ることは避け,富里カボチャ畑外観調査とドローンによる空中からの調査を行った。桜富里給水塔坂地区及び東和地区では,規模の大きいブロックは避け,吉野北小規模なブロック を選択して調査した。ド ローンは「Phantom4pro」を使用し,撮影した連続写真より 3D モ吉野南デルを作成し,3D モデルより断面図の作成を行った。東和3.斜面崩壊の層序とすべり面桜丘厚真町の斜面には,上位より,樽前火山噴出物,恵庭図-2 厚真町調査地区火山噴出物,支笏火山噴出物が成層して厚く分布し,そ* 中央開発株式会社** 東京大学 名誉教授Chuo Kaihatsu CorporationEmirates Prof., The University of Tokyo27 層内で生じている場所がある。桜丘地区では,樽前テフ測した。その結果,富里地区の1測線と,吉野地区の 3ラ中ですべり面が認められ,東和地区では,支笏テフラ測線では,崩壊長より流出長の方が長い測線が認めら中ですべり面が認められる(図-3,図-4)。れた(表-1,表-2)。図-6 富里地区断面表-1 富里地区における流失長と崩壊長図-3 桜丘地区崩壊斜面断面測線流出長(m)崩壊長(m)流出長/崩壊長①123.7436148.60060.83②89.25618171.45620.52③113.9991104.48091.09富里地区崩壊地における 3D モデルと断面①~③の位置を図-5 に示す。①~③の断面を図-6 に示す。①崩積土の流出延長が 124mと長い。元々植林が成されていなかったまたは伐採されていたので,流木が少ないこと,流出先が稲刈直前の水田であったため,崩壊土砂がスムーズに移動したものと考えられる。②崩積土の流出延長が 90mとやや短い。植林が成されて図-4 東和地区崩壊斜面断面おり,流木が発生して,流出土塊自体の摩擦が大きいこと,流出先が水田の手前にカボチャ畑があったことから,4.斜面崩壊の特徴流れがスムーズにならなかったことが推測される。流出厚真町で見られた斜面崩壊の特徴の一つは,崩壊斜面先の高まりは,流木が集積している箇所である。の長さ(崩壊長)と比較して,崩積土の流出長が長い③ 崩積土の流出延長が 113mとやや長い。植林が成されことである。ており,流木が発生して,流出土塊自体の摩擦が大きかそこで,富里地区カボチャ畑,吉野地区南北の 3 地区ったが,流出先が稲刈前の水田であったため,崩壊土砂では,ドローンで撮影した写真より 3D 画像を作成し,がスムーズに移動したものと考えられる。流出先の高まその画像より,主な測線における崩壊長と流出長を計りは,流木が集積している箇所である。図-5 富里地区崩壊地における 3D モデル28 図-7 吉野地区崩壊地における 3D モデル樽前 b 降下軽石クロボク1.2kg樽前 c 降下軽石図-8 吉野地区断面(④)342 kN/m2表-2 吉野地区における流失長と崩壊長測線流出長(m)崩壊長(m)流出長/崩壊長④81.5551673.051991.12⑤128.283692.340611.39⑥78.806999.652210.79⑦82.5599873.625461.12クロボク樽前 d 降下軽石SKR01-196.1~115kN/m227.5~38.3kN/m27.8~16.7kN/m2富里地区崩壊地における 3D モデルと測線④~⑦の位置を図-7 に,断面を図-8 示す。④~⑦の流失長と崩壊長の関係を表-2 に示す。④断面の特徴は以下の通りである。図-9 土壌硬度計測定結果(桜丘地区:上位)④植林が成されており,流木が発生して,流出土塊自体の摩擦が大きかったが,流出先が稲刈前の水田であったため,崩壊土砂がスムーズに移動したものと考えられクロボクる。流出先の高まりは,流木が集積している箇所である。5.斜面崩壊の原因樽前 d1 降下軽石5.1 テフラ層の強度今回,テフラの強度を調べるため,桜丘地区において,土壌硬度計を使用した強度測定を行った。測定結果は,樽前d2 降下軽石黒ボク層が 342kN/m2,軽石層では樽前 d1 降下軽石が96.1 ~ 115kN/m2 , 樽 前 d2 降 下 軽 石 上 部 が 27.5 ~38.3kN/m2,下部が 27.5kN/m2 程度であった。層序が下部に従うにつれ,すなわち,すべり面に近い層では土壌硬度による貫入抵抗値が小さくなる傾向にあった。特にすべり面直上の樽前 d2 降下軽石は他の軽石層と比べて樽前d下部ロームも小さい(図-9,図-10)。この試料は,土粒子密度 2.509~2.527g/cm3,含水比 159~279%を示し,車両運搬時の振動によりサンプル袋に入れた試料から採取時は試料が図-10 土壌硬度計測定結果(桜丘地区:下位)保有していた水が流れ出ていることが判明した。このような状況から今回のすべりに関係している可能性が高い(図-11)。29 ったため,地震発生直前に樽前 d 層中に宙水が発生したか,または飽和度が上昇し,このことが斜面崩落の要因の1つとなった可能性は高いと考えられる。表-3 厚真町における地震前の降水量1 日前降水量(9/5)12.0直前連続降水量(9/4-9/5)13.0半旬前降水量(9/1-9/5)13.01箇月前降水量(8 月)217.56.まとめ厚真町で発生した斜面崩壊を調査した結果,以下のことが判明した。図-11 樽前 d 降下軽石の車両運搬後の状況5.2 地下水の影響①今回発生した斜面崩壊は厚いテフラ層内で発生した。(1)宙水の役割②崩壊が生じたテフラは,樽前,恵庭,支笏と言った厚既存の調査研究では,宙水に関する下記①~③のよう真町から比較的近い場所からの降下軽石を主体としていな知見が得られている。また,多くの箇所で,表土~樽る。このため,粒子が荒く,基質を含まないため,強度前 d 層までが崩落していることから,地震発生時に樽前が非常に低い特徴がある。d 層中に宙水が発生したか,または飽和度が高かったと③発生した崩壊斜面の特徴は,傾斜が緩い斜面でも発生ことが斜面崩壊の要因の1つと推測される。していること,崩壊長に対して流失長が長いという特徴①樽前-d,恵庭-a 降下軽石層は宙水の帯水層を形成し,がある。その下部には,難透水層であるローム~粘土層が分布す④流失長が長い原因として,テフラ層内に含まれていたることが多く,これらが宙水の帯水層の基盤となってい大量の水と,斜面前面の崩壊土砂流出先が稲刈り前の水る。田であったため,抵抗が少なく滑らかに移動したことが②千歳に近い美々川流域の場合,降水の大部分は地下に考えられる。浸透する。その比率は,表面流出:5%,中間流出:5%,⑤崩壊の誘因については,直接は地震動であるが,直前基底流出:90%である1)。中間流出は宙水の流出によっの降雨により,宙水が発生したか,または飽和度が上昇ている。し,崩壊に際して泥流化した可能性がある。③宙水は豊水期(融雪期と秋の豊水期:降水量 30mm/d 以上)で発生する2)。参考文献1)(2)事前の降水量池田光良(2003): 流域蒸発散量の推定式について,地下水技術, 45(7), pp.3-16.厚真観測点における地震発生(9 月 6 日)前の降水量と2)地下水との関係を考察してみると次のようになる(表-3)。池田光良ほか(1997):恵庭 a 火山灰中の地下水に1箇月前の8月の降水量が多く,帯水層中の地下水位の関する二,三の知見,北海道応用地学合同研究会上昇に加え,火山灰中の飽和度が高まっていた可能性が論文集,pp.71-80.大きい。そこへ地震直前にある程度まとまった降水があThe slope failures induced by the Hokkaido Eastern Iburi earthquake were investigated, and thefollowing results were obtained.1) The slope failures occurred in the thick tephra beds.2) The tephra are mainly composed of pumice fall deposits originated from Tarumae, Eniwa andShikotsu volcanoes located nearby Atsuma town, the most serious disaster area. Therefore, thetephra show very low strengths, related to the coarse particles and very few matrixes.3) The features of the slope failures were that the failures occurred in the gentle slopes, and thelonger washed away lengths were found compared to the inclined lengths of the failures.4) It was presumed that the washed away lengths were extended due to smooth sliding caused by theinfluence of rice paddy before reaping.30
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