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タイトル 平成30年北海道胆振東部地震による地盤・土構造物の被害に関する一考察
著者 藤本 哲生・野谷 正明・栗林 健太郎・坂部 晃子・傅 斌・黒田 修一
出版 第61回地盤工学シンポジウム
ページ 21〜26 発行 2018/12/14 文書ID fs201812000004
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  • タイトル
  • 平成30年北海道胆振東部地震による地盤・土構造物の被害に関する一考察
  • 著者
  • 藤本 哲生・野谷 正明・栗林 健太郎・坂部 晃子・傅 斌・黒田 修一
  • 出版
  • 第61回地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 21〜26
  • 発行
  • 2018/12/14
  • 文書ID
  • fs201812000004
  • 内容
  • 平成 30 年北海道胆振東部地震による地盤・土構造物の被害に関する一考察A Study on the Damage to the Ground and Earth StructuresCaused by the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake藤本哲生*,野谷正明**,栗林健太郎**,坂部晃子**,傅斌**,黒田修一**Tetsuo FUJIMOTO, Masaaki NOTANI, Kentaro KURIBAYASHI, Akiko SAKABEBin FU and Syuichi KURODA本文では,2018 年(平成 30 年)9 月 6 日に発生した平成 30 年(2018 年)北海道胆振東部地震について,現地調査により確認した地盤・土構造物の被害状況について述べる。なお,対象とした構造物は,河川堤防,港湾・漁港施設,フィルダム・ため池,自然斜面・切土法面,宅地造成地である。キーワード:平成 30 年北海道胆振東部地震,災害調査,地盤,土構造物,液状化The 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake,disaster investigation, ground,earth structure,liquefactionに関わる被害が多く発生した。本文では,地震後に実施1.はじめに2018 年 9 月 6 日 3 時 7 分頃,北海道胆振地方中東部のした現地調査により確認した河川堤防,港湾・漁港施設,深さ 37km(暫定値)を震源とするマグニチュード 6.7(暫フィルダム・ため池,自然斜面・切土法面,宅地造成地定値)の地震が発生し,北海道厚真町で震度 7,北海道の被害状況について述べる。安平町及び北海道むかわ町で震度 6 強が観測された 1)。この地震は,気象庁により「平成 30 年(2018 年)北海2.調査概要2)されたが,北海道全域が停電図-1 に,著者らが調査を実施した土木構造物の位置図となったほか,北海道厚真町等における広範囲にわたるを示す。構造物毎に調査位置の詳細を述べると,河川堤3),地盤防として沙流川及び石狩放水路,港湾・漁港施設として道胆振東部地震」と命名斜面崩壊や札幌市清田区における液状化被害等石狩放水路明春辺貯水池右図に拡大クオ-ベツダム瑞穂ダム追分若草団地(安平町内)凡 例★:震央厚真町幌内地区国道 234 号切土法面(安平町内)●:河川堤防厚真町桜丘地区■:港湾・漁港施設沙流川左岸 20kp○:自然斜面・切土法面勇払マリーナ△:宅地造成地苫小牧漁港白老港20km苫小牧港(東港)周辺道路鵡川漁港富浜漁港 門別漁港図-1 調査位置図 (背景地図:国土地理院地図*沙流川右岸 5.6kp沙流川右岸 2.0kp登別漁港**沙流川右岸二風谷ダム上流 8.9kp震央▼:フィルダム・ため池4))大阪工業大学Osaka Institute of Technology株式会社エイト日本技術開発Eight-Japan Engineering Consultants Inc.21厚賀漁港 太平洋沿岸部の登別漁港から厚賀漁港までの 9 箇所,フィルダム・ため池として瑞穂ダム及びクオーベツダム,明春辺貯水池,自然斜面・切土法面として厚真町幌内地区・桜丘地区及び国道 234 号切土法面(安平町内),宅地造成地として追分若草団地(安平町内)を対象とした。現地調査では主として被害状況を把握するための現地踏査を実施し,一部において土試料を採取して室内土質試験(物理試験)を実施した。なお,調査日は,平成 30年 9 月 15 日から 17 日までの 3 日間である。3.各構造物の被害状況写真-1 沙流川堤防の縦断亀裂(左岸 20.0kp の例)3.1 河川堤防(1) 沙流川沙流川は,北海道日高振興局管内を流れる一級河川である。沙流川では,左岸 20.0 kp,右岸 2.0 kp,5.6 kp 及び二風谷ダム上流 8.9 kp において堤防天端に主として縦断方向の亀裂がみられた。その一例として,写真-1 に左岸 20.0 kp の状況写真を示す。当該箇所では延長 450 m5)にわたり堤防天端の中央部及び法肩付近に縦断方向の亀裂が生じており,調査日には応急対策としてブルーシートによる養生がなされていた。なお,沙流川の堤防被害箇所と旧地形との関係性を治水地形分類図6)により確認した結果,二風谷ダム上流 8.9 kp は扇状地,それ以外の3 箇所については旧河道及びその近傍となっており,河写真-2 石狩放水路の堤防護岸の被害(左岸 0.1kp の例)川堤防の地震被害が旧河道で生じやすいという既往の知見 7)と一致する傾向がみられた。(2) 石狩放水路石狩放水路は,石狩川水系茨戸川の洪水を日本海へ流すために昭和 57 年に建設された放水路である 8)。石狩放水路では,左右岸 0.1 kp~0.8 kp5)において堤防護岸に被害がみられた。その一例として,写真-2 及び 3 に左岸 0.1kp の状況写真を示す。当該箇所ではすべり破壊が生じ,堤防護岸の沈下や前面へのせり出しがみられた。また,法尻付近には漏水や噴砂がみられたことから,当該すべり破壊は液状化によるものではないかと推察される。ここで,写真-4 に示すように,被害箇所では広範囲にわたり法尻付近からの漏水がみられたが,近傍の石狩気象観測所における調査日から 10 日前までの降雨量を確認9)写真-3 左岸 0.1kp の法尻にみられる噴砂,漏水したところ,調査日の 4 日前に少量の降雨(日降雨量 6.5mm)があっただけであることから,被害箇所の地下水位は比較的高い位置に分布しているのではないかと考える。なお,これらの被害箇所と旧地形との関係性を治水地形分類図6)により確認した結果,いずれも砂州・砂丘であった。3.2 港湾・漁港施設本文では,震央付近の北海道太平洋沿岸部に位置する港湾・漁港の計 9 箇所を対象として被害状況を確認した結果について述べる。図-2 に,調査を実施した港湾・漁港施設において確認された被害状況を示す。著者らが調査を実施した 9 箇所のうち,被害が確認されたのは西側写真-4 石狩放水路の被害箇所にみられる漏水(右岸の例)から勇払マリーナ,苫小牧港(東港),鵡川漁港,富浜漁22 震央苫小牧漁港勇払マリーナ(路面の亀裂・段差)苫小牧港(東港)(周辺道路の噴砂・変形)鵡川漁港(路面の亀裂、噴砂)白老港登別漁港富浜漁港(路面の亀裂、噴砂)凡 例■:被害あり□:被害なし門別漁港(路面の亀裂、噴砂)10km厚賀漁港図-2 北海道太平洋沿岸部における港湾・漁港施設の被害調査結果 (背景地図:国土地理院地図 4))写真-5 勇払マリーナの歩道部の段差写真-6 門別漁港の護岸工の目地からの噴砂100港,門別漁港の計 5 箇所である。確認された被害は,い通過質量百分率 P(d) (%)ずれも比較的軽微なものであり,主として写真-5 に示す路面の段差・亀裂や写真-6 に示す噴砂がみられた。なお,噴砂のうち門別漁港については,現地で採取した土試料を対象として物理試験を実施したところ,土粒子の密度ρs=2.706 g/cm3,自然含水比 wn=10.0 %,最大粒径 Dmax=2.0mm,細粒分含有率 Fc=7.0 %,均等係数 Uc=2.1 であり,図-3 に示す粒径加積曲線は文献 10)に示される「液状化8060液状化の可能性あり(Uc≧3.5)402000.0011E-3の可能性あり」の範囲に収まる粒度分布であることを確液状化の可能性あり(Uc<3.5)噴砂(門別漁港)0.010.1110100粒径 d (mm)認した。3.3 フィルダム・ため池図-3 噴砂の粒径加積曲線(門別漁港)(1) 瑞穂ダム瑞穂ダムは,安平町に位置する堤高 25.9 m,堤頂長427.1 m の農業用ロックフィルダムであり,竣工年は平成 10 年(1998 年)であるお,遠景ではあるものの,貯水池の斜面崩壊が発生して11)。調査日の貯水位は満水位いることも確認した。(EL.83.5 m)よりも数メートル下方に位置していた。堤(2) クオーベツダム頂部への立ち入りはできなかったが,堤体には目立ったクオーベツダムは,由仁町に位置する堤高 21.3 m,堤被害はみられなかった。一方,右岸アバットの駐車場で頂長 124.0 m の農業用アースフィルダムであり,竣工年は路面に亀裂(幅 1 cm 未満)がみられたほか,アバットは大正 14 年(1925 年)の歴史あるダムである 11)。当該と堤体との境界部にも亀裂(幅 3 cm 程度)がみられた。ダムでは,写真-8 に示すように,堤頂部の大部分に縦断また,写真-7 に示すように,左岸上流に建設された盛土方向の亀裂がみられたほか,右岸アバットにも亀裂が多表面にすべりによると思われる亀裂が数条みられた。なくみられた。このような状況から,調査日には応急対策23 写真-7 瑞穂ダム左岸上流の盛土表面にみられる亀裂写真-9 クオーベツダムの貯水位の状況写真-8 クオーベツダムの堤頂部の縦断亀裂写真-10 明春辺貯水池の導流壁の亀裂としてブルーシートによる養生がなされていたほか,斜崩壊が数多く発生した 14)。著者らは,厚真町を中心とし樋からの緊急放流によって貯水位がほとんど無い状況でて自然斜面の被害状況を確認したが,その一例として,あった(写真-9 参照)。なお,被害の程度については,写真-11 及び 12 に幌内地区(厚幌ダム右岸下流)及び桜文献 12)に示される被災度で評価した場合,被災度 2(天丘地区の斜面崩壊の状況写真を示す。これらの崩壊部の端にクラックが入っているが,段差は生じていない。そ厚さは数メートル程度であり,比較的薄層であることがの他,堤体に変状はない。)であるが,竣工年が古いこと特徴として挙げられる。崩壊部の地質は,表層に黒色土から本格的な復旧に向けては十分な検討が必要であると(腐植土),その下位に茶褐色~白色の軽石が分布してい考える。た。なお,桜丘地区の斜面崩壊については,崩壊箇所か(3) 明春辺貯水池ら崩壊土砂までの移動距離が比較的長く,かつ,上部に明春辺貯水池 13)は,安平町内に位置するため池(アー樹木が残存した状態であることから,すべり面は流動性スフィルダム)である。ため池台帳等の情報が無いために富む地質であったと推察される。詳細な諸元は不明であるが,堤高は 5 m 程度,堤頂長は(2) 国道 234 号線切土法面50 m 程度の小規模なため池であり,直上流に位置するコ安平町内の国道 234 号線に面する切土法面において,ンクリート製の堰堤と合わせて重ね池(親子池)となっ写真-13 に示すような表層崩壊がみられた。当該切土法ている。当該ため池では,写真-10 に示すように,洪水面の勾配は 1:1 程度であり,崩壊部の厚さは 1~2m 程度吐に設置された導流壁に幅 1 cm 程度の亀裂や土圧によである。写真-14 に示すように,滑落崖にみられる地質ると思われる前面側への傾倒がみられた。その他に,堤は,表層が黒色土(腐植土)(ρs=2.577 g/cm3,wn=132.2 %),体下流面からの漏水もみられたが,堤頂部に水位観測孔その下位が茶褐色の粘性土(ρs=2.730 g/cm3,wn= 65.3%)が設置されていたことから,地震前から堤体の透水性等と軽石(ρs=2.766 g/cm3,wn=33.5 %)であり,軽石は水について注視されていたため池であると推察される。を多く含んでいた。3.4 自然斜面・切土法面3.5 宅地造成地本文では,宅地造成地として安平町内の追分若草団地(1) 厚真町幌内地区,桜丘地区平成 30 年北海道胆振東部地震では,安平町北東部~厚の被害状況を調査した結果について述べる。当該地では,写真-15 及び 16 に示すように,水道管埋設部が延長 200m真町北部~むかわ町西部にわたる広範囲において,斜面24 写真-11 厚真町幌内地区(厚幌ダム右岸下流)の斜面崩壊写真-13 国道 234 号線沿いの切土法面の表層崩壊写真-12 厚真町桜丘地区の斜面崩壊写真-14 写真-13 の表層崩壊の滑落崖(近景)程度にわたり沈下(最大 30cm 程度)していたほか,マンホールの浮き上がり(最大 40cm 程度)がみられた。これらは,水道管埋設部の埋戻し土が地震によって液状化したことが原因となって生じたのではないかと推察される。なお,水道管埋設部の一部では,水溜まりがみられたことから,地下水位が比較的高い位置に分布しているのではないかと考える。4.まとめ本文では,平成 30 年(2018 年)北海道胆振東部地震による地盤・土構造物の被害について,現地調査により写真-15 水道管埋設部の沈下(追分若草団地)確認した被害状況及び一部の土試料の物理特性について述べた。それらをまとめると以下の通りである。1)沙流川の堤防被害箇所の多くは旧河道であり,既往の知見と一致する傾向がみられた。2)石狩放水路の堤防護岸のすべり破壊は液状化によるものではないかと推察されるが,被害箇所の地下水位が比較的高い位置に分布していることが素因であると考える。3)震央付近の北海道太平洋沿岸部に位置する港湾・漁港施設のうち被害が確認されたのは 5 箇所であり,主として路面の段差・亀裂や噴砂がみられた。なお,噴砂については,物理試験の結果から「液状化の可写真-16 マンホールの浮き上がり(追分若草団地)25 震による被害状況等について(第 20 報),pp.13-14.能性あり」と判定される粒度分布であった。4)6)フィルダム・ため池の被害について,竣工年の古い( http://maps.gsi.go.jp/#6/38.419166/137.548828/&bが多く確認されたことから,本格的な復旧に向けてase=std&ls=std%7Clcmfc2&blend=0&disp=11&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1),2018.11 閲覧は十分な検討が必要であると考える。5)7)自然斜面及び切土法面の崩壊について,崩壊部の厚例 え ば , 関 東 地 方 河 川 堤 防 復 旧 技 術 等 検討 会さは比較的薄い傾向にあるが,崩壊土砂の移動距離(2011):河川堤防における地震対策の検討とりまが長いものもみられることから,すべり面は流動性とめ,pp.3.8)に富んだ地質であると推察される。6)国土地理院:治水地形分類図平成 19 年度更新版クオーベツダムでは堤頂部や右岸アバットに亀裂国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部:札幌宅地造成地の水道管埋設部の沈下及びマンホール河 川 事 務 所 施 設 の 紹 介 - 石 狩 放 水 路の浮き上がりについては,埋戻し土が地震によって( https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/sapporo_kasen/kluhh液状化したことが原因ではないかと推察される。40000008ks3.html),2018.11 閲覧9)気象庁:過去の気象データ検索(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=66&block最後に,今回の地震で被災された方々に心よりお見舞_no=1531&year=&month=&day=&view=),2018.11い申し上げます。閲覧10) 日本港湾協会(2007):港湾の施設の技術上の基謝辞: 本文の作成にあたり,エイト日本技術開発 谷元典子氏,大阪工業大学 工学部 都市デザイン工学科 地盤準・同解説(上巻),pp.383-384.環境工学研究室の中野卓也氏,田中甫氏,香川亮太氏に11) 一 般 財 団 法 人 日 本 ダ ム 協 会 : ダ ム 便 覧 2018ご協力を頂いた。ここに記して謝意を表す次第である。( http://damnet.or.jp/Dambinran/binran/TopIndex.html),2018.11 閲覧12) 福 島 県 農 業 用 ダ ム ・ た め 池 耐 震 性 検 証 委 員 会参考文献1)2)3)気象庁(2018):平成 30 年北海道胆振東部地震に(2012):農業用ダム・ため池の耐震性簡易検証手ついて(第 9 報)法の確立報告書(要旨),pp.2-4.13) 安平町役場農林課(2017): ため池ハザードマッ気象庁(2018):平成 30 年 9 月 6 日 03 時 08 分頃の胆振地方中東部の地震について(第4報)プ , 明 春 辺 ハ ザ ー ド マ ッ プ ( https://www.土木学会(2018):2018 年 9 月 6 日に発生した北town.abira.lg.jp/webopen/parts/516/akeshunbe_hazard海道胆振東部地震の被害調査速報会資料_map.pdf),2018.11 閲覧14) 国土地理院:平成 30 年(2018 年)北海道胆振東(http://committees.jsce.or.jp/eec2/node/136)2018.94)5)閲覧部地震に関する情報,6.斜面崩壊・堆積分布図国土地理院:地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/),( http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30-hokkaidoiburi-e2018.11 閲覧ast-earthquake-index.html#10)2018.11 閲覧国土交通省(2018):平成 30 年北海道胆振東部地This paper describes the results of the field survey on the damage to the ground and earth structurescaused by the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake. The target structures are the river banksharbors and fishing ports, filldams and reservoirs, natural slopes and cut slopes, housing sites.26
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