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出版

タイトル 関西における地盤工学の歩み(<特集>第51回地盤工学研究発表会)
著者 足立 紀尚
出版 地盤工学会誌 Vol.64 No.11・12 No.706・707
ページ HP6〜HP7 発行 2016/11/01 文書ID jk201607070017
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  • タイトル
  • 関西における地盤工学の歩み(<特集>第51回地盤工学研究発表会)
  • 著者
  • 足立 紀尚
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.64 No.11・12 No.706・707
  • ページ
  • HP6〜HP7
  • 発行
  • 2016/11/01
  • 文書ID
  • jk201607070017
  • 内容
  • 関西における地盤工学の歩みHistory of Geotechnical Engineering in Kansai Region足立紀尚(あだち一般財団法人地域地盤環境研究所1.は じ め に:地盤沈下と創生・保生・再生関西の地盤工学は,昭和 10 年頃から始まった地盤沈下問題の解明に端をはっしている。地下水汲み上げによるとしひさ )代表理事,京都大学名誉教授実行委員長は足立が務めたが,実質的には嘉門雅史教授に仕切ってもらった。(3)大阪会議に継続して関空シンポジュウムが柴田徹先生を委員長に関西国際空港の主催で開催された。大阪での地盤沈下は,新淀川の下流に位置する酉島で(4)関西における地盤工学の学術・技術の進展は以下に2.3m にも達し,工場敷地が水没する事態も生じたようで見られる。①土質試験・地盤調査法,②遠心力模型実験,ある。一方,大阪の経済的地盤沈下は,江戸時代から始③地盤材料の力学特性の解明と構成式,④境界値問題とまり,厳しい現状にある。このような状況にあっても我々数値解析手法,⑤土・水・気連成問題,⑥液状化の解析技術者は,社会基盤の創生(生む)・保生(生かし続ける)・と対策,⑦地盤防災・地盤環境問題,⑧地盤改良と地盤再生(蘇らせる)に努めなければならない。補強,⑨地下構造物構築技術,等々である。2.地盤工学会と関西支部谷藤正三氏は,戦前には土質力学が全くなかったと言ってよい,と述べている。(5)全応力 vs 有効応力論争があった。これに関しては,柴田 徹先生による“関西の土質よもやま話「賢島の決闘」”を引用しよう。“昭和 30 年代に入り「全応力 vs 有効応力」議論の口火が切られた。三笠・赤井論争である。果土質工学会関西支部の発足は,他支部に比べ遅く昭和たして軍配はいずれにかと,見守る野次馬も少なくなか33 年であった。その理由を渋谷平八郎氏は,関西は本部ったが,両者の対決は学会の場を離れてゴルフ場まで持の主要メンバーとの意識が強く,関西支部の名のもとにち込まれた。宮本武蔵と佐々木小次郎が巌流島で決闘し本部の支配下に入るのを,いさぎよしとしない空気が強た故事にならい,場所は三重県の賢島が選ばれた。写真かったからであったと記している。-1 は,戦い済んで日が暮れる前の儀式のひとこまである。ここで,関西における地盤工学の先駆者,村山朔郎先右側に立つ赤井教授と中央に横たわる三笠教授のいずれ生を紹介する。先生は,昭和 10 年京都帝国大学土木工学に軍配が挙がったのか?三笠教授の様は「切られて死体科を卒業,直ちに鉄道省に入省した。その 1 年後には,引取り人達に抱かれている」とも見えるし,「勝利の胴上関門トンネル建設を開始した下関改良事務所に配属され,げ」にも見える。一枚のスナップから,まるで反対の解昭和 12 年初めにはシールド機の設計主任となり,シール釈ができるところが面白い。”ド工事を我が国で初めて成功させた。昭和 20 年京都大学柴田先生に戻り,昭和 50 年に定年退官したが,主な業績を以下に赤井先生示す。①トンネルの換気問題の解明,②機械化シールド工法の開発,③電気化学的固結法の適用,④サンドコンパクションパイル工法の発明,⑤凍結工法の普及,⑥山岳トンネルに鋼管支保工を適用,⑦山岳トンネルに凍結三笠先生ルーフ工法を適用,⑧粘性土のレオロジカルモデルの提案,⑨砂の粒状体モデルの提案,⑩ボロブドール遺跡の修復支援,等々である。3.関西での国際会議と学術の進展写真-1賢島の決闘(全応力 vs 有効応力場外対決)(1)第 8 回国際地盤工学アジア会議を,昭和 62 年 7 月京都で開催し,全てを 1 会場で行った。なお,実行委員もっともこの問題は,カッカと議論するようなものでは会委員長は赤井浩一教授が,事務局長は足立が務めた。ない。土の運動を記述する場の方程式は全応力で,土(固・(2)第 16 回国際地盤工学会議は,平成 17 年 9 月大阪で水・気三相混合体)の力学挙動を統一的に記述するのに“地球環境と調和した地盤工学”をテーマに開催された。有効である応力が有効応力とするからである。この会議では論文提出者全員に口頭発表の機会を与えた。HP6地盤工学会誌,64―11/12(706/707) 4.インフラの創生・保生・再生4.1 温故知新;古代のインフラと教訓(1)「日本書紀」仁徳天皇 11 年 10 月に,「天皇は洪水まんだのつつみや高潮を防ぐため,淀川に茨田堤を築いた」とある。爾来,淀川の治水事業,すなわち保生(生かし続ける)は千数百年に亘って続けられている。現在,大河川の堤防を強化するスーパー堤防構想がある。当初,荒川・淀川など 6 河川 873km を対象とし,400 年の工期を見込んだ。ところが民主党政権の事業仕分けで膨大な費用と長い工期で無駄とされ,廃止となった。その後,国土交通省は首都圏・近畿圏の 5 河川,120km に絞って実施している。防災事業は歴史に学び 1 000 年の計で行えばよい。400年,微々たる時間だ。スーパー堤防を築くべきである。(2)「日本書紀」第 10 代崇人天皇 62 年の条に,「農は天下の大本なり」狭山池を造るとある。その後の調査で616 年(推古天皇)頃建設されたことが判明した。以降,天平,鎌倉,慶長,江戸,明治,大正,昭和の改修を経て平成の大改修が行われた。1 400 年に亘る,保生・再生によって機能が改良されていることを認識すべきである。(3)古代道路は,7 世紀初頭から中央政府が整備・建設した全長 6 500km の道路網で,地方では 6~12m,都の周辺では 24~42m の広い幅員をもち,数十 km に亘って直線的に造られた驚異の道路である。しかし,8 世紀末~9世紀初頭,地方分権(荘園の増加)により衰退を始め,10 世紀末~11 世紀初頭に廃絶した。学ぶべき教訓である。4.2 大阪湾の臨海開発と関西国際空港大阪湾の臨海開発は,江戸時代から始まった。(1)お化け丁場と神主との話がある。投石による防波堤が海面に顔を出し,明日検査を受けることになった。ところが明朝,防波堤は影も形もなかった。神主をよびお外にない」と酷評している。名神は昭和 33 年に着工し,昭和 38 年に部分開通した。(2)名神天王山トンネル区間の 8 車線化に関与した際,トンネル断面を当時の基準断面より拡幅するよう提言した。その結果かどうか不明だが,拡幅改築され平成 6 年に完成した。優れた再生の例である。(3)明石海峡大橋は、全長 3 911m,中央支間 1 990m の世界最長の吊橋で,本州方アンカレッジ 1A と主塔基礎2P の基礎岩盤は第三紀堆積の明石層,淡路方の主塔基礎3P の基礎岩盤は第三紀堆積の神戸層であり,軟岩研究の端緒となった。なお,兵庫県南部地震の際の断層変位で中央支間は 1m 伸び,1 991m となった。4.4 都市トンネルと技術関西発の都市トンネル技術は多い。①我が国最初の複線断面シールド,②同時裏込め注入の開発,③3 連マルチフェイスシールドによる地下駅の構築,④京都東西線渡り線部の矩形シールドによる建設,⑤上町断層変位を考慮した中之島新線シールドトンネルの建設,等である。5.地盤と災害5.1 阪神淡路大震災平成 7 年 1 月 17 日の震災に対し,吉見会長の指示により,阪神淡路大震災調査委員会を発足させ,翌平成 8 年3 月 19 日調査報告書を刊行した。5.2 道路と斜面崩壊奈良県を南北に縦断する国道 168 号線においては,斜面崩壊による通行止めが毎年のように発生する。この解決策としてトンネルと橋梁からなる幹線の建設を提示し,関係機関はその実現に努めている。6.関西地盤情報データ・ベースの構築と活用祓いの後,神のお告げを聞いた。「あきらめず続けること」。お告げどおり続けたら完成した。この事象をお化け丁場と言い,続けた工法を「強制置換工法」と呼ぶ。(2)大正 10 年(1921 年)大阪港 2 号係船岸の建設に際し,スエーデンのイエテボリ港で 1916 年に発生した円弧すべり破壊の安定解析を参考に安定解析を実施している。(3)六甲山地の土砂を埋め立てて建設した人工島であるポートアイランドは,昭和 41 年に着工し,昭和 56 年に竣工した。洪積層の沈下が話題となった例である。(4)関西国際空港は、第 I 期島は昭和 62 年に着工,平成6 年に開港した。沈下量は沖積層が 6m,洪積層が 6m で関西地盤情報データ・ベース(KG-NET)は,臨海埋立事業,地下鉄,共同溝,道路,鉄道などの社会資本整備に際し実施された 60 000 本以上のボーリング調査資料を収集して構築され,その活用とそれに基づく研究を進めている。なお,KG-NET は,昭和 59 年に発足した「大阪湾海底の地盤研究委員会(赤井委員長)」により海域から始まり,陸域は平成元年に設置された「関西の大深度地盤の地質構造とその特性の研究委員会(足立紀尚委員長)」により開始され,その後統合され現在に至っている。7.おわりに:夢合計 12m であった。米国土木学会(ASCE)は Monumentof the Millennium を 10 部門選定したが,「空港部門」に関西のインフラの夢を記してまとめとする。「土地造成,アクセスシステム,自然環境保全への幾多(1)大阪湾海底トンネルによる空港群(伊丹・関空・神の挑戦」を理由に「関西国際空港」を選定した。第 II 期戸)によるハブ空港への統合(原案は,貝原兵庫県知事)島は,平成 19 年に開港したが,総沈下量は 18m を予測している。(2)淡路島東北部における新大阪湾港(水深 30m,延長10km の桟橋形式の港)4.3 道路:名神高速道路と明石海峡大橋(3)リニア中央新幹線の大阪への延伸(1)名神の建設に際し提出されたワトキンス調査報告(昭(4)夢のまた夢:オリエンタル・リニア・エクスプレス和 31 年)は,「日本の道路は信じ難いほど悪い。工業国にしてこれほど完全に道路網を無視してきた国は日本以November/December, 2016(東京発ロンドン行き)(原稿受理2016.9.29)HP7
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