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タイトル 7. 「想定外」豪雨による地盤災害への対応と教訓(平成23年度紀伊半島大水害の実態と教訓-「想定外」豪雨による地盤災害の軽減に向けた提言-)
著者 深川 良一・束原 純
出版 地盤工学会誌 Vol.64 No.9 No.704
ページ 40〜45 発行 2016/09/01 文書ID 72056
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  • タイトル
  • 7. 「想定外」豪雨による地盤災害への対応と教訓(平成23年度紀伊半島大水害の実態と教訓-「想定外」豪雨による地盤災害の軽減に向けた提言-)
  • 著者
  • 深川 良一・束原 純
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.64 No.9 No.704
  • ページ
  • 40〜45
  • 発行
  • 2016/09/01
  • 文書ID
  • 72056
  • 内容
  • 平成年紀伊半島大水害の実態と教訓―「想定外」豪雨による地盤災害の軽減に向けた提言―. 「想定外」豪雨による地盤災害への対応と教訓深川良一(ふかがわ立命館大学りょういち)束教授. は じ め に平成 23 年( 2011 年)台風第 12 号に伴う記録的な豪雨原純(つかはら株中央開発じゅん)関西支社長を施しておく必要がある。これが現実的な「想定外」に対する考え方と言える。研究者として,技術者として,防災と減災を考える場により紀伊半島を中心に甚大な土砂災害及び水害(通称,合には,「想定外」と言う意味を十分に念頭におき,平紀伊半島大水害)が多発した。「想定外」豪雨による地時から想定外の災害に対処する具体的な施策や予測手法盤災害に関する調査研究委員会では,紀伊半島におけるに関する研究や業務の遂行に努めることが求められてい災害地の被害状況及び災害発生メカニズムを調査研究する。るとともに,被災地の住民からの聞き取り調査結果,支援活動を通じて多くの知見を得た。本章では,一連の委. 災害形態に関する提言員会活動の成果に基づいて,行政・施設管理者及び一般.. 土砂災害住民を対象とした「提言」と言う形で,豪雨による地盤紀伊半島で発生した土砂災害は,地形や地質等により災害への対応と教訓をまとめた。. 「想定外」を考えるその形態が異なっており,深層崩壊は付加体で,大規模な土石流は火成岩体で多く見られた。さらに,累積雨量が多くなると深層崩壊が,また,累積雨量が多くなった紀伊半島大水害が発生する半年前,東北地方太平洋沖後,短時間雨量が多くなると表層崩壊と土石流が発生し地震による大災害を目の当たりにして,マスメディアでたことに加え,深層崩壊と土石流は過去から類似の条件「想定外」と言う言葉が乱れ飛んだ。その意味合いは多様であり,多くの人々により色々な解釈がなされた。「予想もできなかった」,「設計条件を超えている」,「被下で繰り返し発生していることが判明した1),2)。これらの知見から得られた行政・施設管理者への提言は以下の通りである。害のレベルが非常に大きい」,「防ぎえない規模の災害」 紀伊山地では,600 mm 以上の累積雨量となる場合は,等々の意味で用いられ,一部の報道関係者からは,施設特に付加体地質で深層崩壊が発生しやすくなる。これ管理者や,研究者,技術者の責任逃れとも解釈される場に 対 し, 火 成 岩体 地 質で は ,累 積 雨 量が 700 ~ 800合もあった。「想定外」と言う言葉に罪はないが,そのmm に達した後に 70 ~ 80 mm 以上の時間雨量により印象が悪くなり,使用を躊躇する雰囲気すら感じられた。表層崩壊,土石流が多発するようになる。このように,当委員会では,あえて「想定外」と言う用語を名称に土砂災害と降雨特性の関係は地質体にも大きく影響す用いている。それは,災害発生時には設計時等においてるため,地質体の理解をベースにしながら,気象庁方使用する外力のレベルを超えるような事態が発生する可式の土壌雨量指数やタンクモデルを用いた斜面内の水能性があることを念頭に置くとともに,研究者や技術者文状況指標の積極的な活用が望まれる。土壌雨量指数として災害に対して真摯に取組まなくてはならないと言での注意報レベルを超えた状況では,地域と連携したう自戒の念を込めたからである。構造物の設計は,一定規模の外力に対して耐えられる警戒態勢を十分にとっておく必要がある。 被災地の周辺で地すべり地形(深層崩壊跡)がある場性能を確保できるようになされる。防災施設に関しては,合は,注意が必要である。また,被害が発生した地域過去最大級の災害に耐えられる外力を設定する場合が多の周辺でも,河川上流部で河道閉塞等が発生し,洪水い。この外力のレベルは「想定内」と言え,災害の未然災害が発生する可能性もある。一方,累積雨量が多く防止を主目的とするいわゆるハード対策における考え方なった後,短時間雨量が多くなると表層崩壊と土石流となる。ハード対策では防止できない規模の災害に対しが発生しやすくなる。表層崩壊と土石流の発生場所は,ては,被害の拡大防止を目的とする,さまざまなソフト「土地条件図」や府県が人家等の保全対象がある場所対策が求められる。設計外力を超える災害が発生した場において整備している「土砂災害警戒区域」を参考に合においても,その災害の規模や発生状況が「想定外」するとともに,地域住民の経験及び伝承に基づき危険にならないように,平時から被害規模の想定及び対応策箇所を把握し,住民が被害をイメージできる「土砂災40地盤工学会誌,―() 講  座害のハザードマップ」の整備が望まれる。また,行にこだわり,被害発生のメカニズムや強度に関する検政・施設管理者はこれらのハザードマップを有効活用討を行わず被災前と同じ構造に復旧することは,特別して,地域住民への啓発及び連携を進めることが望まの理由がない限り回避するべきである。れる。 計画降雨量以上の降雨による洪水では,河川周辺の橋 斜面表層崩壊,土石流,深層崩壊等が発生した際は,梁,道路,盛土等が洪水被害を受ける可能性がある。早期復旧ができるように関係各署が土砂災害を想定ししたがって,河川周辺で道路や橋梁等を整備する際にた十分な連携体制を整えるための検討が必要である。は河川整備計画を把握した上で,現在の整備状況を踏また,災害時の緊急対応力を高めるために,行政・施まえた河川制御の限界を知り,設計外力を超える洪水設管理者と建設関連業等の民間企業との協力体制の構が発生した場合を想定した構造物の検討や事前の復旧築が望まれる。方法の検討をしておくことが望ましい。 地形・地質及び災害履歴等に基づき大規模土砂崩壊が 基本高水を超えるような洪水の影響を受ける橋梁,盛発生する可能性がある地域を抽出し,最新のモニタリ土等のうち,避難や復旧を行う際に重要となる施設にング,センシング技術等を用いて,大規模土砂災害のついては,施設の構造強化等,抜本的な対策に関する監視をし,地域住民の避難行動に移れるような体制の検討が必要である。整備を進めておくことが重要である。.. 洪水災害河川整備は,一定規模の外力に対して計画・整備され. 災害を引き起こした外力に関する提言.. 降雨ている。今回の豪雨では,計画外力以上の外力が発生し巨大台風による超過確率を超える降雨が予想される場た地域において,堤防の越流被害や堤内地に入った洪水合は,土砂災害や洪水が発生する可能性が高い。また,が堤外に戻る際の堤内側からの外力作用による被害が発累積雨量,時間雨量,地質等によって土砂災害形態が異生した。熊野川下流域の特殊輪中堤では,堤外水位減少なる可能性がある。一方,平成 26 年( 2014 年) 8 月に時において,堤内から堤外へ大量の水が流れる圧力によ京都府福知山市,兵庫県丹波市や広島市で発生した土砂り堤外側へ転倒破壊する現象が発生した3)。河川計画の災害は,局所的に短時間雨量の強い降雨によるものであ確率年を超える降雨を受けた場合には,計画高水を設計った。このような降雨に対しては,降雨予測が極めて困条件として整備された河川周辺の橋梁,盛土等が洪水被難で,局所的な降雨を捉える観測体制も十分ではないと害を受けた地域もあった。また,浸水範囲は,河川周辺言える。以上のことから行政・施設管理者への提言は以の地形や洪水履歴から判断できる浸水範囲とおおむね一下の通りである。致していた。以上の知見から得られた行政・施設管理者への提言は台風,前線等による降雨については,広域の降雨観測や降雨予測,台風の進路予想等を参考にして,あらかじ以下の通りである。めどのような災害が発生するのか,いつ避難を行うか等 河川整備によって制御できる洪水規模には限界があるタイムライン(防災行動計画)を立案しておき,災害のため,過去の洪水痕跡や洪水履歴等から住民に対し発生に備えることが重要である。一方,局所的に短時間「ここまで浸水する可能性がある」という情報や,住雨量が強い降雨(予測の難しい降雨)については,雨量民が居住している土地形成の履歴等の情報を住民に積観測及び広報する体制を強化するとともに観測の現状を極的に発信し,その土地や地域の洪水に対するリスク示し,住民が自主的に防災行動に移れるような教育を行を周知することが肝要である。う等して,災害に備えるための検討が望まれる。また, 過去に多くの氾濫経験を有する地域の住民は,その地雨量と崩壊が発生する可能性の関係及び過去の被害発生域特有の洪水特性に対しリスク軽減の知恵を有してい状況に関する知見に加え,モニタリング体制等の構築等る。行政がこれらの情報を活用することは言うまでもより,大規模崩壊が発生する時間等に関する予測手法のなく,住民自身がこれを伝承することにより,地域全開発が望まれる。体の防災力強化に生かす必要がある。.. 河川水位 河川整備は一定規模の外力に対して計画,整備されて紀伊半島南部の河川は,地形の影響を受け,急峻な斜おり,設計外力以上の外力が発生した際には洪水を完面に挟まれた谷や谷底平野を蛇行して流下している。ま全に制御することができなくなる場合がある。このこた,流域面積に対し河川幅が狭いため,降雨時には河川とを,地域住民に理解してもらうことで「想定外」の流量が急激に増加して急激な水位上昇,流速の増大が生現象が起きた際に,行政や施設管理者の対応がよりスじるという特性を有している。台風 12 号による河川災ムーズとなる。害は,参考値ながら72時間雨量で再現期間が200年から 計画規模を超える洪水時の外力作用によって生じる被5000年という豪雨1)により,設計で想定する外力をはる害軽減を可能とする治水施設の構造について,被災時かに超える外力が構造物に作用したことや,堤防の越流の復旧の容易さ,初期投資と復旧費用,被災時の社会といった現象によりもたらされたものである4)。これま的経済的影響の大きさ,維持管理費用等,総合的に判で営々と続けられてきた治水事業は,台風 12 号のよう断して検討を進めることが望まれる。特に,現状復旧な「想定外」の降雨に対し被害の低減に大きな効果を発September, 201641 講  座揮したと考えられるが,近年の降雨パターンの変化をみ島全域における洪水や土砂災害は,決して例外的なものると,近い将来に同様の降雨が発生する可能性は高く,ではない。紀伊半島が形成された時から,断続的に定期今後このような降雨に対する備えをしておくことが重要的に発生し続けて来たものであり,今後も当然発生するである。と予想される。当委員会の調査・研究成果等に基づいて,現在,検討が進められている気象観測,予報データ,豪雨による人的・物的被害を防止又は,減少させるため現地モニタリングデータ等をもとにした広域的な洪水予の活動に対する提言をまとめた。測モデルの構築と整備が望まれる。さらにこのシステム 平成 23 年台風 12 号で発生した洪水や土砂災害の発生を用いた情報の発信や避難の仕組みの構築が望まれる。個所は,過去に同様の被害が発生した場所か,近接し. 災害時緊急対応・復旧活動に関する提言た場所であることが多い。被害が発生した場所と範囲を記録することが望ましい。これは,豪雨時の危険地紀伊半島大水害では,発災直後から国及び地方自治体域の特定に有効であると考えられる。また,被災記録が災害地の状況把握,被災者の救助及び救援を開始した。を集積することは,災害発生のシナリオが想定され,当委員会の前身と言える「平成 23 年度台風 12 号による住民のより安全な避難行動計画の策定に寄与すると考地盤災害合同調査団」も,災害が発生した直後から奈良えられる。県・和歌山県・三重県の被災地を網羅的に調査し,被害 防災と減災を目的とする構造物は,設計性能に応じて状況及び被害発生メカニズムの解明を行った。ここでは,その効果に限界が存在することを改めて認識し,想定紀伊半島大水害の発生直後における緊急対応及び復旧活される外力の見直しが行われた場合は,構造物の性能動から得た教訓をまとめる。と防災効果について再評価する必要がある。また,構 災害が発生した直後は,被災状況の確認が重要である。造物が被災したのちに復旧する場合は,原形復旧を原国や地方自治体は,直ちに被害状況の把握や被災者の則とせず,被災原因を調べた上で,外力の見直しを行救助・救援等の対応を開始することは当然であるが,い,必要な性能を確保する設計,又は外力による破壊これに呼応して,民間の建設関連業界(特に,地質調の程度をあらかじめ調べておき,その影響が全体に及査・設計・測量に携わる業界)が,自主的に被害状況ぼす影響を小さくできるよう全体計画を行うことが望調査等を実施できる体制の構築が必要である。国や地ましい。また,災害査定の時間が限られていることか方自治体と各種業界の間では,「防災協定」を多く締ら,事前に被害を受けた場合の復旧方法についても整結されている。しかし,民間企業の活動は,ほとんどが官から民に対して緊急対応の要請がなされた時点か理しておく必要があろう。 災害が発生することが想定される場合は,避難勧告をら開始されていた。民間の企業や業界同志が連携して,早期に十分な時間的余裕をもって発することが望まし独自に緊急対応を開始する体制の構築が重要である。い。今回の災害では,過去の豪雨によって災害に至ら近畿地方では,地質調査業協会,建設コンサルタンツなかった経験から住民避難が適切に行われなかった事協会,測量設計協会が災害時の連携協定を結び,緊急例もあり,かりに,避難勧告が結果として不必要であ時における対応だけでなく,平時の防災訓練等においった場合(空振り)でも,「防災のための行動である」ても協力して活動する試みがなされている(CIVIL3)。と言うことを住民に認識してもらう活動が必要である。 緊急被害調査で得られた結果や緊急対応に必要な情報また,災害の種類によって異なる適切な避難場所を確を,官民問わず関係機関が諸情報を WEB 上で共有で保することも重要である。特に山間地域では,避難場きるシステム(災害関連情報データベース)の構築が所の確保が困難であるが,緊急の避難場所を道路トン望まれる。各機関で得た情報はもとより,被災地にいネルに求めることも考えられる。この場合は,車両とる関係者からの情報を逐次収集して,多様な目的で活避難住民との事故を防止する対策等を講じる必要もあ用することが可能になれば,緊急対応時における情報の混乱を防止できるとともに,情報の有効活用につながると考えられる。 緊急対応に従事した多くの人々は,防災活動に生かせる経験や情報を持っている。苦労した経験や課題を記録し,類似の災害が発生した場合に活用できるようにする必要がある。 深層崩壊,土石流が発生した現場における地質調査でる。 地域住民が親しみやすい防災訓練や楽しみながら行える防災訓練要素を取り入れたゲーム等のイベントを多く開催し,老若男女を対象とする防災教育の推進や継続的に行うことが望まれる。. 文化遺産の保全に関する提案紀伊半島には,世界遺産である「紀伊山地の霊場と参は,通常の調査とは異なる工夫や努力がなされている。詣道」がある。このような文化遺産も,平成 23 年台風この経験に基づいた,地質調査マニュアルの作成が望12 号による災害をやはり受けた。また,世界遺産を限まれる。定して保護する法律はなく,複数の法律や機関により管. 緊急対応技術に関する提案災害発生の緊急対策のためには,今回発生した紀伊半42理されている。寺社は「文化財建造物」登録を,参詣道のうち世界遺産直接指定対象区域であるコアゾーンは「史跡」登録することにより,「文化財保護法」を適用し地盤工学会誌,―() 講  座て保護されている。コアゾーンの周囲に設けられた利用去に何度も繰り返されてきており,災害に対応するため制限区域である「バッファゾーン」は,「自然公園法」・の知恵はかなり伝承されている。しかし,「まさか自分「河川法」・「関係市町村の条例」等を適用して保護されの家が被害にあうとは思わなかった」と言う声も聞かれている。また,熊野三山への参詣道で有名な「熊野古道」た。また,災害発生時における住民の防災意識は必ずしは,土砂災害が発生しやすい地域を通過している場合がも高いとは言えず,平時における防災活動も万全とは言多いうえ,史跡としてだけではなく,一般の「道」としい難かった。当委員会は,住民に防災意識を高めてももての役目も果たしており,災害復旧も迅速さが求められらい,少しでも被害を減らすために,被災地及びその周る。以上の知見より,自然災害から文化財を保全するた辺地域の住民の方々への提言を行った5)。なお,今回のめの提言をまとめた。被災地は,全人口に対する高齢者の割合が多い地域であ 紀伊半島は古くから信仰の地として存在している。特ることから,提言はできるだけ平易な文書で記述するよに熊野古道を中心とする文化遺産は「世界遺産」となう心掛けた。地域住民への提言の骨子を以下に示す。っている。世界遺産の保全(防災,危機管理を含む).. 災害はどこでも発生しうることを認識する及び活用(観光客の利用)において,一元化された管紀伊半島で発生したような大規模な斜面崩壊・土石流理システムの構築や直接世界遺産を保護するための法や洪水等の災害は,急峻な山岳地が多い日本では,いた律の制定が望まれる。るところで発生する可能性があることを,住民の方々に 文化遺産に関わる所管が複数に渡る場合は,平常時か認識してもらう。土砂災害は,地震災害とは異なり突然ら「文化遺産」であるという認識を共有するとともに,襲って来るものではないため,天気予報で大雨があるこ各ステークホルダーが文化遺産保全に関する知識を有とが分かったら,避難する必要があるか,時間的な余裕する必要がある。をもって避難できるかを考えてもらう。地域により災害 文化遺産保全には日常的な管理が必要で,定期的なモの発生する雨量は大きく異なるため,自治体等からの情ニタリングが望まれる。また,多大な労力を要する場報に注意を払い,早めに自らの判断で対応(避難)する合は,それを低減する何らかの仕組みを考える必要がことも考えてもらう。自治体は,全ての人々の状況を把ある。握しているわけではなく,さまざまな情報に基づき災害 熊野参詣道(横垣峠)や那智大滝等は,自然の景観をに対応している。したがって,災害規模が大きくなれば伴う文化遺産や自然そのものであり,事前にハザードなるほど,情報の集約が難しくなり,きめ細かな対応がを把握することができても防災対策を講じることは困できなくなることも認識してもらう。難である。そこで,災害発生前に被害状況を予測して災害シナリオを想定し,その場合の関係所管を把握し,.. 日ごろから災害に備える近所の方々とともに避難場所や避難経路を確認してお被災後の対処方法を検討しておくクライシスマネジメくことが重要である。昼間に避難する場合と,夜中に避ントが重要である。復旧に対しては,文化遺産が100難する場合では,危険の度合いが違うため,特に夜中の年, 1 000 年後に受け継がれる資産であることを念頭避難は危険であることを十分に理解して,慎重な避難行に長期的な視点に立ち,レジリエントな文化遺産保全動をとるよう心掛けるよう広報する。また,避難場所及ができるよう,検討しておく必要がある。び避難経路を確認しておいてもらう。 文化遺産防災では, A 文化遺産そのものの保全,.. 地域の防災力を高めるB 被災後の復旧の在り方, C 文化遺産を取り巻く国の「地区防災計画ガイドライン」では,防災力を向人々の安全(観光客,観光産業従事者,地域住民等)上させるためには自治体が推進する地域防災ではなく,について熟考し,それぞれ計画する必要がある。地区の住民や事業者が推進する地区防災の重要性を指摘 災害の再発生が予測される文化遺産サイトについては,している。災害発生直後は,地区住民の「自助」と「共必要なモニタリングを行うことで,防災レベルを向上助」がとても重要であり,地区の人々が協力して行動すさせることが望ましい。ることにより,減災に努めてもらう。また,災害に強い 斜面は風化等経年によって劣化し,やがて崩壊し,平地域をつくるためには,地域の方々皆で力を合わせて坦化されるものであり,そこを通る「道」を長期間保「防災まちづくり」をすることが大切である。実状にあ全することは困難である。このような特殊な形態の文わせた避難計画を地域住民自らでつくることが,地域の化遺産に対しては,古来よりそのまま残るオリジナル防災力になると考えられる。防災訓練等のイベントに参な道の物質的な価値だけでなく,その精神的な価値も加すること等により,地域の連携強化を図る。重視し,同様の石畳を用いて,同様の景観を有する新.. 被災経験を伝える設路を設定した場合にも,その価値を認めるという社災害に見舞われた地域では,防災訓練等の機会におい会的なコンセンサスが形成されることが望まれる。. 地域住民への提言平成 23 年台風 12 号による大規模な災害は,紀伊半島の広い範囲に被害をもたらした。このような被害は,過September, 2016て,被災時の経験を伝承するとともに,行政や施設の管理者にその経験を多くの人々に伝えることを積極的に行うべきである。.. 災害を逆手にとる災害は甚大な損害を人々に与えるが,災害を逆手にと43 講  座って活用することも考えるべきである。紀伊半島は,たびたび災害に見舞われている地域であるが,その結果として観光資源に恵まれている地域でもある。地域の観光産業を発展させるためにも,地域に住む方々だけでなく,観光客とも協力した避難計画が重要であり,観光促進のためにも必要なことである。災害に強い観光地は強いアピールになるとともに,防災資源の観光利用も考える価値があると考えらえる。当委員会の地域住民への提言のまとめとして,防災 5か条(土砂災害・洪水編)を設定した。防災か条(土砂災害・洪水編)◯写真―. 市民に防災に関する講習をする後委員大雨の時は,土砂崩れや洪水が起こるものと考えよう。◯災害が起きそうなときは,自治体や近所の人と協力して早めに避難しよう。◯地域に昔から伝わる防災の知恵を大切にしよう。◯災害の経験を子・孫をはじめ次の世代に確実に伝えよう。◯災害はいつどこで起こるかわからない。日ごろから用心しよう。. 地盤工学会に求められる活動「想定外」の大災害に備えて,地盤工学会に求められる活動を,当委員会の活動を通じて得た知見や経験から写真―. 地質体の特性を示すポーズをとる市民(後委まとめる。員提供).. 防災施設の合理的な設計方法と外力設定法に関する研究災害に見舞われた時に,最初に住民の生命と財産を守らせるような,市民に寄り添った活動も学会が担うべきであると考えられる。るのが防災施設である。合理的な防災施設の設計の開発当委員会でも,市民に対する被害状況の説明や,防災と,設計外力の設定方法の開発に繋がる研究が求められ活動に関する講習を奈良県・和歌山県・三重県で実施しる。また,防災施設の経年劣化等に対処するための,維た。当委員会では,奈良県十津川村と連携して,村民に持管理手法に関する研究も必要である。被害状況・地質的な背景・防災に関する研究成果等に関.. 被害予測手法に関する研究する講習を行った。防災施設のみで災害を防ぐことはほぼ不可能である。また,当委員会の後誠介委員は,被災地に密着して,災害が発生した場合を想定して,平時から準備を進める災害の素因となる地質に関する基礎的な知識を,市民にソフト対策を講じておく必要がある。ソフト対策に必要分かりやすく説明する講習を行っている(写真―.,な,被害想定技術,災害発生予測技術,被害発生時のシ写真―.)。日置和昭委員は,研究活動の一環として,ナリオ作成技術に関する研究が求められる。地方自治体と連携して研究成果の一部を,実際の防災活また,多様な被害情報等を集約し,防災活動において動で活用する試みを行っている。このような,市民に密高度に利用するシステムの開発に関する研究も望まれる。着した活動は,研究活動の成果を実際に活用する場を得.. 市民を対象とした防災活動るとともに,新たな研究目的を見出す好機ともなりうる。利害にとらわれない公平な立場で,平時から一般市民専門知識を探求し,高度かつ先進的な研究活動を行うこに防災意識の向上と,防災に必要な知恵を持ってもらうとは,学会として非常に重要であることは言うまでもなための活動が必要である。また,防災に関する研究成果い。これとともに,市民の素朴な疑問や要求に応え,様や,災害情報を科学的に分析した結果をもとに,地方自々な学識を分かりやすく説明することにより,人々の生治体と協力して,市民に防災に関する基本的な知識を平活において具体的な成果を見出す活動も重要であると考易な表現方法で伝える活動を行うことも重要である。える。また,市民が持っている被災時の経験や知識を,専門的な観点で解釈することにより,市民へその知識を有効活用できることや,場合によっては誤解であることを知44参1)考文献奈良県紀伊半島大水害の被害状況及び救援・支援活動地盤工学会誌,―() 講  座状況(全体概要),入手先< http: // www.pref.nara.jp /secure/72668/240224 gaiyou. pdf,>(参照2016.7.19)2) 深層崩壊研究会平成23年紀伊半島大水害深層崩壊のメカニズム解明に関する現状報告,奈良県,40p., 2013.3 ) 中西典明・林 和幸平成 23 年台風 12 号豪雨災害による和歌山県内の河川被害(構造物と復旧),第49回地盤工学研究発表会,pp. 1803~1804, 2014.September, 20164)平井孝治・大石 哲・飯田智之・高尾秀之・伊藤修二・三田村宗樹平成 23 年台風 12 号豪雨災害による紀伊半島豪雨による特徴,第 48 回地盤工学研究発表会, pp.2063~2064, 2013.5 ) 「想定外」豪雨による地盤災害への対応を考える調査研究委員会報告書,2016.45
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