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タイトル スリランカ・コロンボ外郭環状道路プロジェクトにおける軟弱地盤上の道路盛土工事(<特集>海外工事における地盤工学の現状と課題)
著者 大岡 晃・木之下 聡・石井 裕泰
出版 地盤工学会誌 Vol.64 No.9 No.704
ページ 28〜31 発行 2016/09/01 文書ID 72051
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  • タイトル
  • スリランカ・コロンボ外郭環状道路プロジェクトにおける軟弱地盤上の道路盛土工事(<特集>海外工事における地盤工学の現状と課題)
  • 著者
  • 大岡 晃・木之下 聡・石井 裕泰
  • 出版
  • 地盤工学会誌 Vol.64 No.9 No.704
  • ページ
  • 28〜31
  • 発行
  • 2016/09/01
  • 文書ID
  • 72051
  • 内容
  • 報告スリランカ・コロンボ外郭環状道路プロジェクトにおける軟弱地盤上の道路盛土工事Highway Embankment Construction on Soft Clay Depositin the Colombo Outer Circular Highway Project (Sri Lanka)大岡株大成建設晃(おおおか国際支店土木部石木之下あきら)課長井聡(きのした株大成建設裕株大成建設泰(いしい技術センター土木本部土木設計部さとし)課長ひろやす)主任研究員. は じ め に本稿では,スリランカでの湿地帯部の道路盛土工事を取り上げ,地盤リスク対応の現状に関わる技術的・契約的取り組みを紹介する。スリランカでは長期に及んだ内戦が 2009 年 5 月に終結し,その後は,地域間格差の是正や輸出型産業の誘致・育成のため,運輸交通インフラ整備が重点的・集中的に行われている。 2011 年 11 月には日本政府とアジア開発銀行からの資金援助で,首都コロンボ郊外から南部の世界遺産都市ゴールを結ぶスリランカ初の高速道路(南部高速道路,延長 95.3 km )が開通し, 2014 年 3 月には南部商業都市マタラにまで延伸(延長30.8 km)している。また, 2013 年 10 月には中国資金によりコロンボから北部に位置するバンダラナイケ国際空港を結ぶ,コロンボ・カトナヤケ高速道路(延長25.8 km)が開通し,首都周辺の利便性向上,経済活性化に寄与している。本稿が扱うコロンボ外郭環状道路は,南北にそれぞれ位置していた上記高速道路を,コロンボ郊外で環状に接続図―スリランカの高速道路位置図する延長18.9 km のプロジェクトである(以上,文献 1)参照)。このうち8.9 km が当社施工により2015年 7 月に完成し(以下,当工事),供用されるに至っている。当工事では湿地帯,岩山,河川を含む区間に片側 2車線,計 4 車線の高速道路を, 2012 年 1 月から約 3 年の短い工期で建設するものであった。とりわけ湿地帯においては, N 値 0 の軟弱層上に高さ 10 m を超える高盛土を含み,完成後 3 年間の残留沈下を15 cm 以内に抑制することが求められた。施工箇所の地盤・盛土条件に応じて工期厳守とコストの最適化を両立するために,先行した高速道路建設での経験を踏まえた特徴的な契約形態が採用された。写真―完成したコロンボ外郭環状道路以下では,プロジェクト概要,盛土工事の計画・実施内容の順に取り組み内容を詳述する。.プロジェクトの概要工事区間は,スリランカ道路公社(RDA: The Road DevelopmentAuthority)が発注し,国際協力機構(JICA)が資金提供にあたる政府開発援助( ODA )の円借款プ図―にコロンボ外郭環状道路と当工事の建設区間,ロジェクトに含まれる。コロンボ外郭環状道路の開通及び南北に連なる高速道路の位置図を示す。本稿が扱う(写真―参照)により,首都コロンボを挟む約180 km28地盤工学会誌,―() 報表―告当工事での主な数量の高速道路ネットワークが形成され,北部の空の玄関から南部の観光地・商業地への移動・輸送効率が格段に向写真―表層部の軟弱層の様子上するに至っている。主な工事数量を表―に示す。当工事では,二つのインターチェンジ建設を含み,盛土,切土,橋梁区間に大別される。工事区域が位置するスリランカ南部は多雨地帯2) であるとともに,熱帯性気候により 1 年を通じて平均気温が 30 °C 近い。洪水多発対応として河川横断区間に位置する橋梁下部工建設では半川(はんせん)締切方式を,橋梁上部工構築では自走式の桁架設工法を採用し,マスコンクリート打設に対してはプレクーリングの実施,フライアッシュコンクリートの活用にあたった。本稿が主として扱う盛土工事以外の概要は別報3)を参照されたい。.盛土工事の計画. 地層条件道路線形計画に沿っては,丘部では硬質な岩山が露出する一方で,盛土を設置する谷部には湿地帯が拡がり軟弱層が堆積する。地層構成の概要は,地表側から以下の図―ようになっている。地層構成の例・表層埋土・粘土・有機質土層(N 値 0~,写真―参照)・砂質風化岩層・硬岩層価方法と改良パターンの暫定適用結果を開示する。・施工者の責任施工に際して地盤改良パターン選定に関わる地盤調査地層構成の一例として図―を示す。BH290から293を実施する。その結果に基づき契約時に提示された暫(区間距離70 m)で硬岩層上面高さが約 7 m 異なり,粘定地盤改良パターンを再評価し,最終決定のための判土・有機質土層,堆積土層厚もそれぞれ大きく変動して断資料を作成する。いる。このような責任区分のもと,発注段階では各施工区域. 軟弱地盤対策工に対応した盛土高さ,軟弱層厚,地盤特性をパラメータ上記条件に対して,道路の線形計画に基づく盛土高さに全 36 断面に対する検討結果が発注者側から示された。は最大 12.5 m に達する。安定性を確保しながら適切に検討手順は以下による。盛土構築にあたり,完成後 3 年間の残留沈下を15 cm 以1)内とする規定を満足するためには,各施工条件に応じた地盤改良工法の選定が必要となる。また,発注者から施無処理地盤を対象とし,圧密による強度増加を見込んだ円弧すべり計算,一次・二次圧密沈下予測。2)安定評価に関しては,7 つの改良パターン(無処理,工者への工事発注に向けては工費の増大を避けるべく,Gravel mat, Geotextile, Gravel Compaction Pile綿密な調査と検討に基づく改良仕様の最適化が不可欠と(GCP), GCP and Geotextile, Soil Replacement, Pileなるが,計画段階での取り組みには限度がある。そうしand Slab,以上改良仕様として簡易な順番)に対するた実情を踏まえて,本工事では,発注者と施工者の責任が発注段階で以下のように規定された。・発注者の責任施工に先立ち,当工事で採用する地盤改良パターンを立案する。各パターンに対する安定性,沈下予測の評September, 2016限界盛土高さを特定。3)短期安全率1.20,長期安全率1.25を満足する,最も簡易な改良仕様を各施工区域で採用。4)採用仕様に対する沈下予測として,6 つの方策(無処理,Surcharge method, Band drains method, GCP29 報告表―発注者から提示された地盤改良パターン(概要図は抜粋して記載)method, Replacement method, Pile and Slab,以上沈にあたる。下制御の方策としては簡易な順)について一次,二次以上に概説した改良パターンや検証方法は先行するス圧密沈下量を算定。完成後の残留沈下量が15 cm 以内リランカ高速道路建設での知見を最大限に活用したものを満足する最も簡易な改良仕様を採用。となっている。施工に際しての承認手続きの迅速化,契上記検討に基づき発注段階での計画に採用された改良約条件の認識共有を図る特徴的・効果的な発注形態であ仕様は表―に示す A~H(8 パターン)であった。施工者は,応札段階においては上記内容を基本計画として施工計画を具体化し,施工段階においては自ら実施する地盤調査に基づき発注者側検討に沿った再評価を行ると考えられる。.盛土工事の実施. リスク要因と対応い,改良仕様の割当てを提案する。発注者の承認を経て施工に際しては地盤特性,地層構成のばらつきと不確当初計画からの変更が生じた場合には,契約段階で設定定性に直面するとともに,一般に,海外工事での地盤調した各改良パターンに対する施工単価に応じて費用調整査・試験の品質は日本国内での工事に比べて信頼性が低30地盤工学会誌,―() 報告い。盛土工事に際しては,こうした地盤物性の精度や評価手法の妥当性に起因する以下のような工程遅延要因が存在し,リスクとして保有・対応することとなった。・施工時の盛土沈下・変形・一次・二次圧密沈下収束の予測値からの遅れ・改良パターン境界や構造物交差部での不同沈下施工者が地盤調査と最終判断資料の準備にあたり,それを受けて発注者が承認手続きにあたる流れの中で,滞りない的確な意思決定が行えるよう,以下の取り組みにあたった。1)地盤調査結果については現地大学教授によるレビューを依頼。調査結果の客観性・信頼性を向上。2)図―試験盛土に基づく設計パラメータの見直しを経て行った解析検討本格施工に先立ち日本の調査会社に,盛土載荷放置前後の原位置調査を依頼。基礎地盤の性状変化を通して GCP 実施による圧密促進効果を判定。3)を当初見込みに対して 1 か月延長する区間があったも発注者,施工者双方の技術者が一堂に会したのの,雨季を放置期間に活用する工程調整にあたり,全Monthly Geotechnical Meeting を 開 催 , 地 盤 情 報 を 一体工程への影響を抑制した。結果として,完成後に見込元的に共有。懸念事項については早期に問題提起し,参まれる残留沈下量を全区間で規定値以内に納め,全体工加者で打開策を含めて協議。事を完遂することができた。. 施工本格的な施工に先立ち,盛土高さ 10 m ,軟弱層厚約.おわりに14 m となる GCP(パターン G)区間において,詳細モ本プロジェクトにおける盛土工事に関しては,設計再ニタリングを実施し,施工と再評価・分析にあたった。評価と承認手続きを伴う特徴的な契約形態が採用され,その結果,以下の知見を得た。当初は契約条件の確認,リスク保有の整理・分析に労を・安定した盛土構築を行うために,盛土安定管理法(松かけた。一方で,あらかじめ施工に際しての検討スキー尾法,富永・橋本法など)が有効である。・当該区間では載荷所要日数約170日,放置期間56日で,95以上の圧密度を達成できる。ムが示されていたこと,発注者との情報・認識共有を積極的に図ったことにより大きな手戻り,滞りが避けられた。・試験盛土に基づく設計パラメータの見直しを経て行っ本稿に示した工事に先行し,当社は南部高速道路におた解析検討によれば, GCP の導入により,沈下量はいても 31.6 km の工事を担当した。両工事で得た契約約50低減され,95圧密度の達成日数を約800日短的・技術的知見をもって,今後もスリランカでのインフ縮する効果が得られる(図―参照)。ラ整備に貢献していきたい所存である。・ただし,評価・分析に基づき得られた圧密係数は,設計値に対して小さくなり,圧密期間が当初見込みを上回る可能性がある。引き続きの本格施工を通して,地盤調査,再評価,改良仕様を確定する承認手続きを繰り返し,改良パターンの変更は改良区間延長の 1 割にとどまる一方,残留沈下の低減,あるいは改良仕様の合理化のために GCP,Band drain の根入れ長については延長・短縮の調整にあたった。部分的にはサーチャージ盛土の圧密放置期間参考文献1)The Road Development Authority, Sri Lanka,入手先(参照2016.4.15)〈http://www.rda.gov.lk/index.htm〉2) 日下部治・低引洋隆・北川隆司・H. N. Seneviratne・S.Abeyakoon・J. Edirisingheアジアの風化残積土地域における土砂災害―スリランカ―,土と基礎, Vol. 44,No. 7, pp. 31~33, 1996.3) 青木俊彦・堀川祐毅スリランカにおける高速道路への取組み ―コロンボ外郭環状道路の建設―,土木施工,Vol.54, No.12, pp.34~37, 2013.(原稿受理September, 20162016.5.23)31
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