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第11回環境地盤工学シンポジウム

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タイトル 東日本大震災における地盤環境課題への取り組み
著者 東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 1〜12 発行 2015/07/06 文書ID 69511
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タイトル 液状化した火山灰質砂質土や鉱さいの流動性評価の試み
著者 風間 基樹・株木 宏明・森田 年一・齋藤 修・神澤 雅典
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 13〜16 発行 2015/07/06 文書ID 69512
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タイトル 振動台を用いた地震動による不飽和地盤の破壊形態に関する実験的考察
著者 藤森 弘晃・荒木 功平・後藤 聡・北爪 貴史
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 17〜22 発行 2015/07/06 文書ID 69513
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タイトル 短繊維混合固化処理土の強度および靱性
著者 重松 宏明・山栗 祐樹・西田 大晃
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 23〜28 発行 2015/07/06 文書ID 69514
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タイトル 軟弱粘土地盤における丸太筏 - 列杭複合基礎による周辺地盤の変形抑制効果
著者 佐々木 仁・末次 大輔
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 29〜32 発行 2015/07/06 文書ID 69515
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タイトル 火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地における植生回復と表層土壌の発達について
著者 山本 健太郎・寺本 行芳 ・永川 勝久・平 瑞樹・伊藤 泰隆
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 33〜40 発行 2015/07/06 文書ID 69516
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タイトル 沖積粘性土地盤における建物解体・新築工事中の地盤振動計測
著者 中沢 楓太・沼上 清
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 41〜46 発行 2015/07/06 文書ID 69517
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タイトル 粘性土地盤の地震後沈下過程の推定に関する基礎的研究
著者 佐藤 秀政・末吉 祐樹・Tran Thanh NHAN・園山 修平・原 弘行・松田 博
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 47〜52 発行 2015/07/06 文書ID 69518
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タイトル 有明海の海水環境変化が浮遊細粒土の沈降堆積特性に及ぼす影響
著者 塚本 一裕・末次 大輔
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 53〜56 発行 2015/07/06 文書ID 69519
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タイトル 緑化土質材料内の水分環境及び化学的環境が薬用植物「カンゾウ」種子の発芽に与える効果
著者 古川 全太郎・安福 規之・大嶺 聖・丸居 篤・亀岡 廉
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 57〜60 発行 2015/07/06 文書ID 69520
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タイトル 屋敷囲い防災壁による集落の防災化と土石流対策
著者 福田 光治
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 61〜66 発行 2015/07/06 文書ID 69521
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タイトル メコンデルタ下流域における災害と環境の変化に及ぼす気候変動の影響:影響評価と適応策策定における地盤工学の役割
著者 安原 一哉・田村 誠・齋藤 修・村上 哲・安島 清武
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 67〜72 発行 2015/07/06 文書ID 69522
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タイトル 伊豆大島における大雨の頻度変動と平成25 年台風26 号に伴う土砂災害後の住民意識に関する一考察
著者 荒木 功平・石井 篤志
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 73〜78 発行 2015/07/06 文書ID 69523
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タイトル 地盤環境問題へのUAV 適用の可能性
著者 齋藤 修・安原 一哉
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 79〜82 発行 2015/07/06 文書ID 69524
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タイトル 平成26 年8 月豪雨による広島市土砂災害現地踏査・ヒアリング調査結果の速報
著者 荒木 功平・川越 清樹・山中 稔・ハザリカ・ヘマンタ・原 忠・中澤 博志・熊本 直樹・齋藤 修・酒井 直樹
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 83〜88 発行 2015/07/06 文書ID 69525
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タイトル カラム試験による災害廃棄物の処理過程で発生した分別土砂からの透水に伴う元素溶出挙動の変化
著者 山口 拓也・加藤 雅彦・佐藤 健
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 89〜92 発行 2015/07/06 文書ID 69526
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タイトル 東日本大震災で発生した岩手県における分別土砂の特性評価
著者 山根 華織・高井 敦史・勝見 武・乾 徹・三方 浩允・大河原 正文・川島 光博
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 93〜98 発行 2015/07/06 文書ID 69527
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タイトル 電磁探査による津波被災水田の土壌水電気伝導度分布の評価
著者 山本 清仁・小林 晃・原科 幸爾・倉島 栄一・武藤 由子・塚田 泰博
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 99〜104 発行 2015/07/06 文書ID 69528
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タイトル 災害廃棄物由来の分別土を用いた試験盛土の観測(1 年目)
著者 遠藤 和人・竹崎 聡・高井 敦史・勝見 武
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 105〜112 発行 2015/07/06 文書ID 69529
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タイトル 災害廃棄物から再生された復興資材を有効活用するための提言ならびにガイドライン制定の取り組み
著者 肴倉 宏史・勝見 武・野口 真一・中村 吉男
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 113〜120 発行 2015/07/06 文書ID 69530
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タイトル 災害廃棄物分別土の木片腐朽過程を考慮した力学試験の試み
著者 野々山 栄人・中野 正樹・新木 毅・浜島 圭佑・神野 琢真・吉村 剛
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 121〜126 発行 2015/07/06 文書ID 69531
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タイトル 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第1 報)-復興資材の物理・力学特性および施工性の評価と利用環境における環境安全性について-
著者 野口 真一・中村 吉男・肴倉 宏史・勝見 武
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 127〜134 発行 2015/07/06 文書ID 69532
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タイトル 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第2 報)-復興資材を用いた盛土の降雨浸透性と実環境における重金属類の溶出特性について-
著者 中村 吉男・小島 淳一・野口 真一・肴倉 宏史・勝見 武
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 135〜142 発行 2015/07/06 文書ID 69533
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タイトル 津波堆積物分別土に混入する木くずが一面せん断強さに及ぼす影響
著者 小竹 望・山中 稔・多田 有汰・山内 聡士
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 143〜148 発行 2015/07/06 文書ID 69534
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タイトル 災害廃棄物分別土と産業副産物の混合土の環境特性に関する検討
著者 大河原 正文・吉野 貴尋・齊藤 康明・山川 裕美恵
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 149〜152 発行 2015/07/06 文書ID 69535
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タイトル 廃棄物埋立地盤の物理組成が圧縮強度の発現に及ぼす影響
著者 川井 晴至・島岡 隆行・坂口 伸也
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 153〜160 発行 2015/07/06 文書ID 69536
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タイトル 覆土層に用いるジオシンセティッククレイライナーの不同沈下に対する挙動と遮水性能への影響
著者 小川 翔太郎・佐藤 一貴・乾 徹・勝見 武・高井 敦史
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 161〜166 発行 2015/07/06 文書ID 69537
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タイトル 表面保護層が傾斜キャピラリーバリアの性能に及ぼす影響
著者 小林 薫・松元 和伸・森井 俊広・中房 悟
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 167〜174 発行 2015/07/06 文書ID 69538
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タイトル UAV を用いた除染廃棄物等仮置場キャッピングシートの健全性モニタリング手法に関する研究
著者 宮原 哲也・中山 裕文・島岡 隆行・上田 滋夫
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 175〜180 発行 2015/07/06 文書ID 69539
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タイトル 温度条件が異なるベントナイトの水分保持曲線
著者 西村 友良・古関 潤一
出版 第11回環境地盤工学シンポジウム
ページ 181〜184 発行 2015/07/06 文書ID 69540
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  • タイトル
  • 東日本大震災における地盤環境課題への取り組み
  • 著者
  • 東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 1〜12
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69511
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)東日本大震災における地盤環境課題への取り組み地盤工学会東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会1. 委員会活動概要2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震と大津波は,地盤環境に関するいくつかの課題をもたらした。中でも重要なものは,災害廃棄物の問題と放射性物質による汚染土壌・廃棄物の問題であろう。災害廃棄物・津波堆積物の発生量は約 3000 万トンにものぼる莫大なもので,津波の破壊力により様々なものの混合物として我々の前に立ちはだかった。災害廃棄物には膨大な量の土砂が含まれることから,土砂を適切に分離して再生土砂あるいは分別土砂として有効利用を進めることは地盤環境工学上の重要な貢献となっており,現地でも関係者の多大な尽力により有効利用が進められてきた。この取り組みを技術・学術の観点からとりまとめることは,将来の大災害への対応に寄与するだけでなく,平時における地盤環境工学上の課題への取り組みにも重要な示唆を与えるものである。一方,原子力発電所事故に伴う放射性汚染物質の拡散の影響を受けた地域では,除染や建設工事・災害復旧工事により発生する土砂・廃棄物への対応や除染物の保管,さらには福島県以外の広い地域でも問題となっている放射性物質を含む一般廃棄物焼却灰の埋立処分の問題などに,やはり地盤環境工学からの貢献が求められている。地盤環境研究委員会は,東日本大震災における地盤環境課題とその対応に関する学術・技術上の知見を取りまとめるとともに,現地の復旧・復興のため進められている災害廃棄物処理や放射性物質汚染への対応等に関して様々な形で貢献すべく活動を行ってきた。委員会で取り上げるテーマとして設立当初には,(1) 災害廃棄物の処理と有効利用,(2) 放射性汚染土壌・廃棄物への対応,(3) 復興へのグランドデザイン,の 3 つを挙げ,活動期間中に委員会内で議論を行いながら軌道修正も加えつつ(1)と(2)に活動を集中させてきた。取り組み・成果の主なものを列記すると下記の通りである。1)津波堆積物の物性評価に関して,福島県内自治体の津波堆積物処理の方針立案に貢献すべく現地調査・一斉試験を委員のボランタリーベースで行った(2011 年 12 月~2012 年 3 月)。面積約 80 km2 にわたる 158 地点 1400 検体の試料による土質特性の成果で,学術成果は地盤工学ジャーナルに論文 1)として掲載された。2)災害廃棄物から再生された資材の有効利用に関して,「岩手県復興資材マニュアル」2)の策定(2012 年 7 月)と改訂(2013 年 2 月)にあたり委員会として監修に参画した。特に改定に際してはボランタリーベースで分別土砂の物理化学特性・工学特性に関する一斉試験を実施し(2012 年 10 月~2013 年 2 月),科学的なエビデンスを示した 3)。一斉試験の成果は環境地盤工学シンポジウムに論文 4)として掲載された。3)2) の取り組みをさらに科学的に探究すべく,学校・公的機関に所属する委員会メンバー18 名により環境研究総合推進費プロジェクト「災害廃棄物分別土砂・篩下残渣の物性評価と,戦略的有効利用に向けた基準化(研究代表者:勝見4)武)」が採択され,委員会活動と連携をはかりながら 2015 年度までの予定で研究活動を進めている。同じく 2)に関連し,復興における資材利用への提言を行うべく,国立環境研究所の受託により「災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業副産物の有効利⽤のあり方に関する提言検討委員会(略称:復興資材提言検討委員会)」が学会に 2013 年度設置された。この復興資材提言委員会は 2013 年度末に「災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言」5)を,2014 年 10 月に「災害廃棄物から再生された復興資5)材の有効活用ガイドライン」6)を公表した。宮城県では災害廃棄物の処理過程で発生する焼却灰の有効利用が不可避であったが,そのための制度・枠組みとして本委員会が「災害廃棄物焼却主灰を原料とする再生資材の地盤材料利用を対象とした物性評価スキーム 第一版(概要版)」7)を作成し,一つの方向性を示した。その内容は web 公開するとともに,環境地盤工学シンポジウムにて論文発表 8)を行った。6)除染作業により多量の放射性汚染土壌・廃棄物が発生する。また,道路整備事業等でも放射性汚染土壌・廃棄物が発生するが,この土壌・廃棄物については環境省所管の除染事業ではないため,現状では事業者が自ら対応を迫られている。そのため減容化の適用が必須となるが,減容化技術を評価するための基本的枠組みが必要であり,「放射性セシウム含有土壌の土壌洗浄法の適用性評価試験方法(案)」9)を提示した。その内容は web 公開するとともに,環境地盤工学シンポジウムにて論文発表 10)を行った。さらに 2015 年度には,環境省から委託を受けたエックス都市研究所からの委託研究として「土壌中の放射性セシウムの挙動に関するレビュー作成検討委員会」を,地盤工学会を中心として学会内外の関係する研究者と共同で進めるに至っている。7)放射性汚染廃棄物を貯蔵・埋立処分する際の遮水材の性能を検証すべく,国立環境研究所が実施しているジオシンセティッククレイライナー(GCL)の現地テストサイト試験に参画した。また,「除染仮置場基盤整備」に関する提案Geoenvironmental issues for the recovery from the 2011 East Japan earthquake and tsunamiJGS Research Committee on Geoenvironmental Issues for the Recovery from the 2011 East Japan EarthquakeKEYWORDS: The 2011 East Japan earthquake, Disaster waste, Tsunami deposit, Nuclide contamination-1- 表1地盤環境委員会の開催状況回 開催日時・場所講演・話題提供者(敬称略):タイトル2011 年 10 月 20 日1各委員のショートプレゼンテーション地盤工学会阪本廣行(フジタ):災害廃棄物・津波堆積物に関する環境法令佐藤靖彦(西松建設)・鈴木弘明(日本工営):災害廃棄物の物性の特徴について吉野博之(八千代エンジアリング):阪神淡路大震災と東日本大震災の災害廃棄物処理大嶺 聖(長崎大)・水野克己(大阪ベントナイト事業組合):災害廃棄物の有効利用について2012 年 1 月 20 日 小澤一喜(鹿島):有機物の含有が地盤工学特性に及ぼす影響加藤雅彦(岐阜大):分別土に望まれる化学性東北工業大学遠藤和人(国環研):災害廃棄物処理の現状と問題点,コスト21 世紀の新しい地 大野博之(日本環境衛生センター):仮置き場の有効利用2 盤環境問題の解決 八村智明(日本環境衛生センター):放射性物質汚染土壌・廃棄物に関する法令および埋立処分に係る研究と留意点などについて方策に関する研究 遠藤和人(国環研):除染関係・廃棄物関係ガイドラインについて委 員 会 ・ 地 盤 環 境 中島 誠(国際環境ソリューションズ):放射性汚染土壌の調査と現状企画委員会との合 伊藤健一(宮崎大):土壌分級洗浄による放射性セシウム含有土壌等の減容化の検討肴倉宏史(国環研):放射性セシウムの溶出と吸着同委員会三浦俊彦(大林組):汚染土壌の分級洗浄試験保高徹生(産総研):放射性物質に汚染された土壌の対策について成島誠一(西武建設):放射性物質を含有する廃棄物・土壌の埋立について小峯秀雄(茨城大):放射性物質を含有する廃棄物・土壌の埋立について青山正信(応用地質):岩手県における災害廃棄物処理の現状大塚義一(奥村組):山田町での災害廃棄物処理プロジェクトの現状について中野正樹(名古屋大):津波堆積物等の地盤材料への有効利活用のための基礎研究と分別技術の紹介/津波堆積汚泥の地盤材料への転化高井敦史(京都大):福島県津波堆積物調査 調査・分析結果報告遠藤和人(国環研):災害廃棄物,放射性物質対策の現状2012 年 5 月 11 日 勝見 武(京都大):災害廃棄物の有効利用や広域処分に関する指針等の動向について3小峯秀雄(茨城大):放射性廃棄物の中間貯蔵における地盤工学的課題岩手大学高尾 肇(日揮):低レベル放射性廃棄物処分場の検討例大山 将(鴻池組):放射性セシウム含有土壌の土壌洗浄処理に関する検討飯塚 敦(神戸大):低レベル放射能汚染の除染-期待とジレンマ-保高徹生(産総研):放射性物質汚染土壌への対応の課題と,震災対応委員会としての取組みの可能性川端淳一(鹿島建設):放射性物質による汚染への対応状況遠藤和人(国環研):災害廃棄物焼却灰埋立における個別評価について2012 年 7 月 13 日高井敦史(京都大):フランスにおける低レベル放射性廃棄物埋立4 八戸地域地場産業中川雅夫(新日鐵住金):津波ヘドロの有効利用技術振興センター吉野博之委員(八千代エンジニアリング):無線通信技術を利用した空間線量率モニタリングシステム2012 年 10 月 5 日5福島県土木部:福島県下での復旧工事に伴う放射性物質を含む土壌,建設廃棄物等への対応福島県教育会館山際勝治(岩手県):災害廃棄物の復興資材への活用状況と課題2012 年 12 月 7 日6大久保英也(大成建設):釜石市災害廃棄物処理の概要説明岩手大学松山祐介(太平洋セメント):大船渡工場における瓦礫の除塩分級によるセメント資源化と土工資材化について2013 年 3 月 15 日 武田節朗(国交省):仙台湾南部海岸堤防復旧プロジェクト7東北工業大学佐々木源(宮城県):宮城県の震災廃棄物と津波堆積物の有効利用の現状肴倉宏史(国環研):災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方について赤司有三(新日鐵住金):木くず混じり津波堆積土の特性(実験結果中間報告)遠藤和人(国環研):災害廃棄物中の有機物の示差熱分析結果(中間報告)千葉祐太朗(東北工大):津波堆積土などの粒度試験方法(続報)2013 年 5 月 17 日 野々山栄人(名古屋大):分別土 B 種の力学挙動に及ぼすコンクリートダスト添加の影響8水野克己(大幸工業)中性領域で分級効率を高める素材の研究開発コラッセふくしま遠藤哲郎(西武建設):小鶴沢処理場震災廃棄物(ばいじん)埋立処分業務委託概要金松雅俊(国環研):福島県の廃棄物の現状と課題について小峯秀雄(茨城大):放射性物質汚染土の中間貯蔵施設の遮水工設計における放射性廃棄物処分技術の観点からの研究展望勝見 武(京都大):岩手県における災害廃棄物の処理・利用の状況2013 年 7 月 25 日 第 48 回地盤工学研究発表会のディスカッションセッション内で発表及び討議(計 17 編),各タスクフォースの成果報告9富山国際会議場高畑 修(福島県):福島県内の道路事業における放射性物質汚染の影響と課題遠藤和人(国環研):中間貯蔵施設の全体概要/示差熱分析による分別土 B 種の木材混入率の評価阿部 誠(秋田県立大):津波堆積物の環境影響(リスク)評価三村 卓(西武建設):岩手県利用自粛牧草ペレット化業務の実施例佐藤研一(福岡大学):福島県沿岸部の災害廃棄物処理等の状況2013 年 10 月 4 日高畑 陽(大成建設):津波堆積物の改質材を用いる分別効率の改善10岩手大学赤司有三(新日鐵住金):鉄鋼スラグ改質した津波堆積物による盛土の経時変化西村伸一(岡山大):分別土 C 種の植栽への利用遠藤秀則氏(岩手県環境生活部):災害廃棄物に由来する復興資材の活用状況について櫻井秀明氏(岩手県県土整備部):県土整備行政の概要佐々木源(宮城県):震災がれきの復興資材有効利用の状況仙頭紀明(日本大):放射性物質汚染土壌減容化に関する事例紹介吉川謙造(日本技術士会):震災復興と技術士会の取り組み遠藤和人(国環研):山田町分別土試験盛土実施状況/仮置場標準工法について2013 年 12 月 6 日肴倉宏史(国環研):災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討 進捗状況報11東北工業大学告(実証盛土関係)保高徹生(産総研):福島県道路維持管理事業から発生する放射性物質汚染土の分級洗浄試験結果(速報)/除染の効果と費用について水野克己(大幸工業):乾式選別処理における歩留まり向上を目的とした添加材の検討小峯秀雄(茨城大):最近の地盤環境問題における基本的な土質力学的視点の欠如と土木技術者としての責任の再確認西村伸一(岡山大):分別土 C 種の植栽土壌としての利用今西 肇(東北工大):津波堆積土の密度試験と粒度試験中野正樹(名古屋大):分別土砂の締固め度,木片混合率に着目した力学挙動の把握藤川拓朗(福岡大):災害外廃棄物処理過程において発生する分別土の含水比測定方法の検討高井敦史(京都大):災害廃棄物から分別した土砂の土質特性に及ぼす木片比率の影響遠藤和人(国環研):山田町試験盛土について2014 年 3 月 14 日風間基樹(東北大):分別土砂の地盤工学特性に関する研究12日本大学勝見 武(京都大):環境研究総合推進費『災害廃棄物分別土砂・篩下残渣の物性評価と,戦略的有効利用に向けた基準化』実施状況と今後の展望/『災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会』の状況大嶺 聖(長崎大):放射性セシウムの土壌吸着特性について山本達生(前田建設工業):真空加圧脱水固化処理工法による除染廃棄物に含まれる放射性物質の固定化・減容化同時処理技術の実証遠藤和人(国環研):福島県内の指定廃棄物埋立について安藤淳也(福島県):福島県内の道路維持管理における放射性物質汚染の影響と課題についてティッククレイライナー(GCL)の現地テストサイト試験に参画した。また,「除染仮置場基盤整備」に関する提案-2- 表1回 開催日時・場所132014 年 5 月 16 日岩手大学142014 年 7 月 15 日北九州国際会議場152014 年 10 月 3 日一関文化センター162015 年 3 月 6 日日本大学地盤環境委員会の開催状況(つづき)講演・話題提供者(敬称略):タイトル川島光博(岩手県):災害廃棄物・津波堆積土の復興資材への活用加藤雅彦(岐阜大):津波堆積土や分別土の植害試験山崎智弘(東洋建設):処分場に使用する遮水シートの安定について三浦俊彦(大林組)「除去土壌等の受入・分別技術勝見 武(京都大):環境省巨大地震発生時における災害廃棄物対策検討委員会の検討状況第 49 回地盤工学研究発表会のディスカッションセッション内で発表及び討議(計 14 編)パネルディスカッション佐々木秀幸(岩手県):岩手県における災害廃棄物再生資材の活用について守屋政彦(太平洋セメント):土砂の再生と有効活用について勝見 武(京都大):災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業廃棄物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会報告勝見 武(京都大)・肴倉宏史(国環研):「災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン」について西村伸一(岡山大):分別土 C 種の様々な植物への供用阪本廣行・久保田洋(フジタ):散水・通気法による焼却飛灰中放射性セシウムの高効率洗い出し技術の開発佐々木清一(和歌山高専):Cs に対する GCL の線低減特性と仮置き場地盤における移流・分散解析齋藤春佳(エスイー):沿岸部復旧工事へのアンカー活用事例門間聖子(応用地質)・佐藤研一(福岡大):「石炭灰混合材料有効利用ガイドライン(震災復興資材編)」の概要について災害復興におけるジレンマ・地盤環境課題に関する各委員のショートプレゼンテーション中野正樹(名古屋大):災害廃棄物の木片腐朽過程を考慮した力学特性の把握小竹 望(香川高専)・山中 稔(香川大):東日本大震災・津波堆積物分別土の土質特性と有効利用法の検討水野克己(大幸工業):水系フルボ酸を使用した放射能除染と,水系フルボ酸ミネラルの可視化西村伸一(岡山大):分別土 C 種の様々な植物への供用(その 2)仙頭紀明(日本大)・大河原正文(岩手大):山元町の盛土試験結果について大嶺 聖(長崎大):汚染土壌における放射性セシウムの吸着・脱着特性遠藤和人・竹崎 聡(国環研):涵養量実証試験サイトの試験状況保高徹生(産総研):自然由来を考えるワールド・カフェ報告,新設委員会のご案内勝見 武(京都大):「平成 26 年度環境省巨大地震発生時における災害廃棄物対策検討委員会」での検討状況/災害廃棄物統合管理システムで得られた実績データによる災害廃棄物処理と分別物の特性の評価も行い,実務に反映されている。8)岩手県,宮城県,福島県,復興庁,国土交通省,農林水産省(林野庁),環境省の担当者とそれぞれ数次にわたって委員長を含む幹事団が協議を行い,協議の一部については前述の災害廃棄物復興資材の有効活用や仮置場返還などについての技術支援となった。9)地盤工学会誌 2013 年 2 月号「特集汚染土壌・廃棄物等の処理」に総説 1 編と報告 6 編を執筆した。2012 年 3 月には「災害廃棄物と放射性物質汚染土壌の処理・処分講演会」で 7 件の講演を行った。そのほか,岩手県主催セミナーや地盤工学会を含む学協会主催の講演会などにも貢献している。3 回の地盤工学研究発表会(2012 年 7 月八戸市,2013年 7 月富山市,2014 年 7 月北九州市)ではそれぞれディスカッションセッションを行い,岩手県や福島県の担当者からの特別報告を頂くとともに委員内外からの論文発表と議論を行った。10) 委員会開催は活動期間の 3 年半で 16 回にのぼった。委員会開催に併せて約 30 ヶ所の現地視察を行った。委員会の開催状況を表 1 に,現地視察先を図1 に示した。環境地盤工学,地盤防災工学,地質学,廃棄物工学,土壌学,環境リスク学など様々な専門のバックグランドを持つ委員が意見交換・情報交流を行うことで委員各自の自己研鑽にも寄与した。研究発表会やシンポジウムなどで委員による多くの論文発表がなされているが,それらには委員会での議論が一定の貢献を果たしていると考えられる。次章以下には上記の内容をより詳しく記す。それぞれのさらなる詳細な内容は,末尾のリストにある発表論文や資料等を参照いただきたい。2. 災害廃棄物等の処理と復興資材への利用東北地方太平洋沖地震で発生した膨大な量の災害廃棄物・津波堆積物の処理は,被災地の復興における最重要課題であった。国(環境省)は分別と処理のリサイクルを基本方針として掲げ 11), 12),多くの地域で国の補助による災害廃棄物等処理事業が実施された。また,災害廃棄物を処理して得られた資材の有効利用の受け皿として,復興における公共工事の役割が期待され,図中に示したもの以外:復興資材としての活用に関するガイドラインや通知も図1-3-高岡市環境クリーン工場,富岩運河(富山県)地盤環境委員会で実施した現場視察 示された 13)~16)。平成 7 年兵庫県南部地震での経験も踏まえて,東日本大震災の災害廃棄物処理にも 3 年間という時限が定められ,岩手・宮城の両県ならびに福島県の一部の地域では 2013 年度末までにほぼ事業が完了している。処理の方法は地区ごとに特徴あるものとなっているが,それは災害廃棄物の種類と発生量,仮置きや処理に利用できる土地面積とその環境上の制約,そして事業を実施している各 JV 企業の技術上の工夫の結果である。図 2 は,全地区の処理の流れをほぼ包括するようまとめたものである。このような我が国初の取り組みを通して得られた知見をま図2とめることは技術上・学術上有意義である。さらに,学術的災害廃棄物処理の基本的な流れ 17), 18)知見に基づいて現地の実務に貢献することも,地盤工学・地盤環境工学の専門家に求められていた。特に,津波によって多量にうちあげられた土砂すなわち「津波堆積物」を土砂として廃棄物から分離し,復興資材として有効活用を進められれば処分量の低減にも寄与することから,実務上の重要な課題となっていた。本委員会では,このような課題に対して,津波堆積物の現地調査・物性評価,災害廃棄物分別土砂の物性評価,災害廃棄物焼却灰処理物の評価スキームの提示,復興資材活用に向けた提言,といった活動を実施した。2.1 津波堆積物津波により発生した「津波堆積物」と呼ばれる土砂への対応は,我が国ではこれまで問題とされてこなかったものであった。津波堆積物には廃棄物が混じっていたり,混合状態の災害廃棄物の中に津波堆積物が相当量含まれていたりした。処理対象である災害廃棄物・津波堆積物の約 3 分の 1 が土砂であり,土砂を再生して有効利用することは処分量低減の点で有意義であるが,有効利用にあたっ表2津波堆積物の分析項目と数量 1)分析項目土の強熱減量試験方法土懸濁液の pH 試験方法土懸濁液の電気伝導率試験方法土の粒度試験方法土粒子の密度試験方法土の水溶性成分試験方法ては,津波堆積物がどのような土砂であるかをまず知る必要があった。そこで本委員会では 2011 年 12 月 20~22 日に福島県沿岸部の東西約 7 km×南北約 12 km,面積約 80 km2 の津波浸水範囲で計 158 地点を現地踏査し,当該地から 1400 検体の試料を採取して物理化学特性に関する室内試験を実施した1)。対象地は従前は耕作地域で田圃が広がる一帯であったが,津波による冠水後は放置され,津波によって運ばれてきた津波堆積物がそのまま残っていた状態であった。ただし,表層部分が乾燥収縮していた地点,塩分が析出していた地点など状況は様々であった。採取試料の室内試験の項目は表 2 に示した通りで,得られた主な成果は以下地点数110122122929218験体数31831131220720741表 3 津波堆積物の層厚と地点数 1)津波堆積物の層厚 (cm)00−55−1010-1515-2020-3030耕作等により撹乱済計地点数 (地点)23113537182626158の通りである。1)津波堆積物の層厚は表 3 に示す通りであった。写真 1 に津波堆積物の堆積状況の例を示すように,全地点で原地盤の上に砂と粘土の二層に区別できる津波堆積物の層がみられており,これらの層厚を計測するとともに,それぞれ区別して試料採取を行い,室内試験に供した。2)砂分は比較的に早期に沈降が起こるため,粘土分に比べ堆積範囲は小さい傾向にあった。また,砂分の層厚が大きくなるほど全津波堆積物の層厚も大きくなる傾向にある。一方,粘土分については,地盤沈降箇所や盛土手前部など海水が長期間滞留したと推察される箇所で特に堆積しており,海岸線粘土層からの距離に関係なく局所的に層厚が大きい。3)電気伝導率(EC)は,砂層では 300 mS/m 以下の試料がほとんどであった。一方,表層の粘土層は,海水の滞留や乾燥に砂層よる塩濃縮などにより高い値のものが多く,最大で EC =2030 mS/m であった。塩化物含有量も EC と同様の傾向で,砂層で低く粘土層および原地盤で高かった(図 3)。また,原地盤表層の粘土層ではばらつきがみられるものの,EC と塩化物含有量に概ね正の相関が確認できた。4)粘土層では,海底質由来の有機物ならびに細粒分中の結晶水・吸着水が,原地盤では従前の農地利用時の耕地に含まれていた有機物が寄与し,砂層と比べて高い強熱減量であった。-4-写真 1 津波堆積物の堆積状況の例 1)(粘土層厚:10.0 cm,砂層厚:11.0 cm) 30ては強熱減量が低いと土粒子密度が高いが,粘土層と原地盤で25は必ずしもこの傾向にない。20図 5 に示すように,全ての津波堆積物ならびに原地盤が砂質土度数5)強熱減量と土粒子密度の関係は図 4 に示す通りで,砂層につい津波堆積物(粘土)津波堆積物(砂)原地盤15もしくは細粒土に分類された。トラフィカビリティや盛土とし10ての安定性,圧縮性の観点から,地盤材料として利用するため5には適切な粒度調整が必要と考えられる。00.02.04.06.02.2 災害廃棄物からの分別土砂10.012.014.0図 3 各層における塩化物含有量 1)災害廃棄物や津波堆積物は,様々な設備や系統を導入した処理が3実施され,適切な分別を行い,種目に応じて積極的な利活用が進め木くず等が混入するなど,純粋な土砂とは異なる性質を有していることから,有効利用を図る上で地盤工学特性を把握しておく必要があった。また,災害廃棄物そのものの地域性や,処理設備,処理システムの差異に起因して,各現場で発生している分別土砂の性状が19)。分別土砂の特性を広域的に評価し,体系2.8土粒子密度 (g/cm3)られた。しかし,分別土砂中には災害廃棄物等を起源とする微細な異なる可能性もあった8.0塩化物含有量 (mg/g)2.62.4津波堆積物(粘土)津波堆積物(砂)原地盤2.2的なとりまとめを行うことは,今後同様の巨大災害発生時に迅速な2復旧を実現する上でも重要な知見となりうることから,本委員会で0484)図 4 強熱減量と土粒子密度の関係 1)14 機関で物理特性,化学特性の評価を行った 。岩手県環境生活部では災害廃棄物からの分別土砂の有効利用を推進すべく,その取り0組みの一つとして「岩手県復興資材活用マニュアル」 を作成された(F(FG)(FG-S))07(0 .mm) (%)分75粒m未5m(2 ~細)分50)F-S)(G(G))) (%F)礫満( SF(SFG)-G(GFS)( SF別土 B 種」,「ふるい下くず」に分類している。分別土 A 種と B 種は85-FS(G(G-F))05(GS)(SG)15は今後の同様の材料への対応を考える上で重要である。「土砂混合く15(S-G)50855F)100 (G)(G-S)(SG-F)(GS-F)( S-95)FG(S-木くず等の混入が少なく,地盤材料としての適用が進められてきた。(S)95 1000砂分 (0.075~2 mm) (%)図 5 津波堆積物および原地盤の粒度と土質区分 1)過したもので,高度選別処理を行う前段階のものであるにも関わらず,ふるい下くずと比べて木くずの混入が少ない。したがって,土(FS(FSG)-G手県復興資材活用マニュアル」では分別土砂分を「分別土 A 種」,「分ず」は,ふるい下くずを得る前処理段階である振動ふるいのみを通50(F-SG)(FS試験で対象としたのは,「土砂混合くず」と「ふるい下混合くず」である。図 6 は岩手県での災害廃棄物等の処理フローの概略で,「岩85)環としても実施したものでもある 3)。95S(F-15が,本委員会のこの一斉試験はマニュアルの改定にあたり監修の一津波堆積物(粘土)津波堆積物(砂)原地盤100(F)G)52)ら実際にはセメント原料とされたが,地盤材料としての特性の評価16強熱減量 (%)は岩手県沿岸部の 5 現場から 2012 年 9 月に分別土砂を採取し,計一方,ふるい下くずには細かい木くずの混入が多いこと等の理由か12津波堆積物不燃系混合物一次仮置場可燃系混合物砂混合くずは,性状判定の結果次第では分別土 B 種と同様に地盤材一次ふるい料として活用するよう上記のマニュアルに記されている。表 4 は実験項目の一覧であり,得られた主な成果を以下に要約する。1)高度選別処理高度選別処理組成分析については定まった試験方法が確立されていないことから,文献 20)で提案されている方法によった。すなわち,2 mmふるい上で水洗いして付着した細粒分を洗い流した後,炉乾燥させた試料を対象に可燃性廃棄物・不燃性廃棄物・土粒子の各分別土A種分別土B種土砂混合くず二次仮置場ふるい下くず本研究での対象範囲図 6 岩手県の災害廃棄物処理フローの概略 4)画分に手作業により選別することにより行った。土砂混合くずはどの試料もよく似た組成を有しており,質量比で 2 mm 以上の可燃物が 5~7%,不燃物が 2~5%含有されている。一方,ふるい下くずの組成はばらつきが大きく,2 mm 以上の可燃物が最大 18.1%混入しているものも見られるなど,可燃物量が多い。2)図 7 に示すように強熱減量値は可燃物混入率と概ね相関がある。JIS 規格に準拠して測定した土砂混合くずの強熱減量は 7~17%の値を示した。試料全量を分析に用いた全量分析法では,分別土砂中の粗大な木くず等が影響するため,より大きい強熱減量を示した。有姿試料の水溶性有機炭素(TOC)は 0.07~0.18 mg/g-dry と極めて低く,バイアル培養試験でも顕著なガスの発生は確認されず(図 8),分別土砂からの可燃物の分解による硫化水素ガスの発生は僅かであると考えられる。なお,表 5 には各分野における強熱減量試験に関する考え方を整理した 21)。-5- 締固め曲線は図 9 に高い最大乾燥密度を示している。最適含水比は試料によらず約20%で,最大乾燥密度は 1.40~1.45 g/cm3 である。一方,ふるい下くずの締固め特性は現場によってばらつ試験基準・方法手選別による組成分析組成分析(試験基準なし)強熱減量JIS A 1226 : 2009粒度分布JIS A 1204 : 2009粒子密度JIS A 1202 : 2009液性限界・塑性限界JIS A 1205 : 2009pHJGS 0211-2009電気伝導率(EC)JGS 0212-2009塩化物含有量JGS 0241-2009水溶性有機炭素量(TOC)JGS 0241-2009バイアル培養試験硫化水素ガス発生ポテンシャル(試験基準なし)締固め特性JIS A 1210 : 2009コーン指数JIS A 1228 : 2009吸水膨張・修正 CBRJIS A 1211 : 2009きが大きく,山田のよ表5うに土砂混合くずと分野と規格同等の最大乾燥密度を有する試料が存在地盤工学(JIS A 1226)する一方で,宮古や大槌のように締固め曲セメント線が極めてなだらかで,締固めが困難な試料も存在した。可燃物含有率が大きいほど廃棄物(環整 95 号)最大乾燥密度が小さくなる傾向も明らか1520図7可燃物混入率と強熱減量の関係 4)6宮古山田大槌420051015202530培養期間(日)硫化水素濃度の経時変化 4)図8土砂混合くずふるい下くず宮古山田大槌宮古山田大槌1.6野田釜石1.4(Sr=1.2100)で示されている品質基準を超過するものも存在し10可燃物混入率 (%)線るガイドライン15)5曲水の影響を受けていることから,前述の国土交通省の復興資材に関す0隙や塩化物含有量は海0間VS(Volatile Solid)土砂混合くず(JIS法)土砂混合くず(全量分析)ふるい下くず(JIS法)ふるい下くず(全量分析)5気域であるものの,EC10空分別土砂の pH は中性分析方法と目的750±50℃で 1 時間強熱。主に土壌中の揮発成分(有機物と結晶水,結合水が対象)を測定することが目的。975±25℃で強熱。高炉セメントの場合は700±25℃。不純物含有量(クリンカーや水和物等からの脱水,石灰石の脱炭酸,石こう結晶水の脱水が主な要因で最大4.78%の減量値)を測定することが目的。600±25℃で 3 時間強熱。名称は「熱しゃく減量」。焼却残さの燃え残りを評価することが目的。埋立基準は熱しゃく減量15%。平成 10 年の環境庁告示第 34 号にて工作物の新築,解体由来の安定型産業廃棄物の埋立基準 5%の方法としても利用。600±25℃で 30 分間強熱。名称は「強熱残留物」。工業排水中の強熱による非揮発性残留物量(無機物)を測定することが目的。550℃で 15~30 分強熱。諸外国における一例。15ロ4)強熱減量の考え方21)20ゼ工業廃水(JIS K 0102)となっている。25分析項目強熱減量 (%)ずは締固め性が良く,分析項目および試験方法 4)硫化水素濃度(ppm)示す通り,土砂混合く表4乾燥密度 (g/m3)3)10.8た(図 10)。0.6災害廃棄物由来の分別土砂は,一般的な土質材料とは異なる性質を有し020ているため,現行の基準に準拠して試験を行うと,本来求めたい有機物混図9一斉試験の結果を受け,分別土砂固有の特性を踏まえた,材料品質評価手500法を確立する必要があり,本委員会のメンバーを中心に災害廃棄物分別土40025)~27)トに関する研究,処理システムの観点からみた分別土砂のマネジメン28), 29),などが実施されている。環境研究総合推進費プロジェクト「災害廃棄物分別土砂・篩下残渣の物性評価と,戦略的有効利用に向けた基準化(研究代表者:勝見2.380分別土砂の締固め曲線 4)23)EC (mS/m)に関する研究,物性評価に関する研究 24),有効利用法60含水比 (%)入量や強度特性,粒度分布,吸水膨張量等を評価していない。したがって,砂の試験方法に関する研究 22),40300200土砂混合くずふるい下くず100武)」とも連携をはかっている。0災害廃棄物焼却灰0東日本大震災では,災害廃棄物の処理によって発生した処理物の行き先が課題ともなった。その一例として,破砕・選別後の可燃性残渣や木くず1234塩化物含有量 (mg/g)図 10EC と塩化物含有量の関係 4)の焼却処理によって発生した焼却残渣(焼却主灰,焼却飛灰)が挙げられる。すなわち,宮城県では仮設焼却炉を設置して焼却処理を進めたが,焼却残渣の最終処分容量を全て賄うことが可能な最終処分場の確保が困難との見通しから,特別管理廃棄物である焼却飛灰を優先的に最終処分し,有害性は相対的に低いが発生割合の多い焼却主灰については,可能な範囲で地盤材料として利用することとし,再生資材化のための処理が進められた。宮城県が沿岸部市町より受託した二次仮置き場以降の処理は 4 ブロック・8 処理区に分かれて進められ,ストーカー式焼却炉とロータリーキルン式焼却炉を中心に,26 機の仮設焼却炉が稼働した。各処理区では 2 機以上の焼却炉が設置され,うち 5 処理区ではストーカー炉とロータリーキルン炉を併設し,廃棄物の種類ごとに投入する焼却炉を分けたケース-6- が多い。発生する焼却主灰のほとんどは再生資材化処理され,仮置き養生後,利用先へ搬出された。再生資材化処理の工程は次の通りである。まず,焼却炉底部から排出された焼却主灰は,必要に応じて,磁力選別によって鉄等を,浮力選別(水浸)によって未燃物を,それぞれ除去した後,トロンメル等の篩い選別によって大塊物を除去する。除去した大塊物は破砕し,ふたたび篩い選別機へ投入する。最終的には粒径数十 mm(例えば 30 mm)のふるいを通過したものについて,物性,力学特性および環境安全品質等の改善を目的として,薬剤と水を添加して混練機で混練する。混練後は,仮設テントまたは屋外ヤードにて養生する。添加される薬剤の種類では,主たる薬剤としてセメントまたは酸化マグネシウム系固化材のいずれかが用いられた。また,補助的な薬剤としてキレート剤が用いられた場合があった。以上のように,焼却廃棄物の種類,焼却炉形式,再生資材化のための前処理工程,添加薬剤の種類等が様々であり,さらに,それぞれの工程において変動要因が存在する。したがって焼却主灰再生資材のリサイクルにおいては,用途ごとの要求品質を満足し,安定した性状であることを確認することが重要である。このような背景から,本委員会では焼却主灰再生資材の物性評価スキームの提案を目指し,まず,基本的な考え方について検討を行った。焼却主灰自体は災害廃棄物を由来とするため,有効利用するには廃棄物という制度上の課題が解決されなければならない。平成 24 年 5 月 環境省より発出された「東日本大震災からの復旧復興のための公共工事における災害廃棄物由来の再生資材の活用について(通知)」(以下,環境省通知という)13)では,東日本大震災により発生した津波堆積物,ガラスくず,陶磁器くず,又は不燃混合物の細粒分に由来する再生資材のうち,一定の要件を満たすと市町村や県が確認したものについては廃棄物に該当しないとされ,その他の災害廃棄物由来の再生資材についてはその物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び占有者の意志等を総合的に勘案して判断することとしている。そこで,焼却主灰再生資材についても,この環境省通知を骨子とし,一定の要件を満たすこととした。しかしながら,その他の災害廃棄物由来の再生資材に対する条件としては,特に,取引価値の有無等,満足することは非常に困難なものであることが予想された。また,焼却主灰性状の予備的な調査検討結果から,鉛含有量が土壌汚染対策法の含有量基準を超過する場合のあることが確認された。以上のことから,焼却主灰再生資材の有効利用では,事業者(市町村や県)が責任を持っ表 6 「災害廃棄物焼却主灰を原料とする再生資材の地盤材料利用を対象とした物性評価スキーム(第一版 概要版)」7)の目次て管理することが必要と考えられた。また,長期間の利用の間の散逸を防止するために,ある程度以上の量を一括して活用するこ章節現状と課題目的(適用範囲)基本的な考え方用語の定義と解説(略)評価の流れ関係法令等有効活用の限定有効活用の記録・保管環境安全性放射性物質の影響検査の頻度についてその他留意すべき事項留意事項要求品質留意事項要求品質留意事項要求品質1.11.21.3第 1 章 総説1.41.51.62.12.22.3第 2 章 共通事項2.42.52.6第 3 章 土工材料としての利用(盛土 3.1材,嵩上げ材の内部)3.2第 4 章 道路材料としての利用(路盤 4.1材)4.2第 5 章 海面埋め立て材料としての利 5.1用5.2と,将来的に大規模な形質変更や掘削を受けない用途へ活用することとし,これにより焼却主灰を再生資材として利用することを提案することとした。また,関係者より寄せられた情報から,焼却主灰再生資材の有力な用途として,盛土材,嵩上げ材,路盤材,海面埋立材料等が挙げられていることが把握された。そこで,これらの用途に対する要求品質として,共通のものと個別のものに分けて記述することとした。特に鉛含有量の観点から,焼却主灰再生資材は表面露出の可能性がない部分に使用しなければならず,特に,再利用の可能性がある路盤利用では含有量基準を適用する必要がある。また,溶出リスクの観点からは周辺土壌や地下水,海水への影響に十分配慮した環境安全品質が必要である。以上の考え方に基づき,本委員会では「災害廃棄物焼却主灰を原料復興資材・循環資材の利⽤の推進とする再生資材の地盤材料利用を対象とした物性評価スキーム(第一版復興資材概要版)」7)を提案した。目次を表 6 に示す。本スキームの詳細ならびに環境安全品質試験と物理・力学特性試験の概要は,文献循環資材新材8)を参照されたい。法令・指針、予算確保、⼯事間調整、ストックヤード確保、コスト縮減、2.4 復興資材の活用への提言CO2削減、ガイドラインの整備総和としての災害廃棄物処理が本格的となった 2012 年度初頭から分別土砂の有最適化効利用が議論されるようになったが,その時点では建設サイドで必ずしも積極的に有効利用を進めようという雰囲気ではなかった。物性が明らかで環境安全性の点でも問題が少ない例えば購入土砂の方が使いA⼯事D⼯事やすく,さらに事業単体で考えれば災害廃棄物由来の材料を使うことのメリットは示しにくく,インセンティブが弱い。2.2 で述べたようB⼯事C⼯事に,分別土には除去しきれない不純物,特に木くずなどが混入しているものがある。そのような分別土で盛土を構築すると,木くずの混入により充分な締固めができない場合もある。経時的な有機物の分解に-7-強靱な社会基盤の整備図 11 復興事業における資材活用のイメージ 5) よるガス・浸出水の発生や地盤沈下の可能性も踏まえて分別土砂の特性が正しく理解され,評価試験方法と品質基準が確立される必要があり , 本 委 員 会 で も 取 り 組 み を 進 め て き た 。津波堆積土砂には,フッ素などの土壌環境基準を超過するものがみられるようである。これらの多くは自然由来と考えられるレベルであったり,津波で海水をかぶったことによるものと考えられる。このような土砂の中には,締固め特性に優れるなど土質材料として優れた性質を示すものも含まれている。地域固有の土砂であることを鑑み,適切なリスク評価に基づき,施工性,耐久性,利用環境における環境安全性,経済性などの観点を踏まえて「土の総合的マネジメント」を進めていく必要がある。このような分別土は公共工事で優先表 7 地盤工学会「災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言」に示す基本方針 5)(1) 強靭な社会基盤の整備東日本大震災からの復興に関して現在多くの社会基盤整備事業が実施されているが,これらの事業では,今後再び来るであろう災害への備えも考慮し,将来世代への負担を減らすためにも,安全で品質の良い強靭な社会基盤を残していく必要がある。(2) 復興資材等の利用の推進社会基盤整備事業そのものが環境負荷を生じうることに鑑み,可能な限り環境負荷を少なくする取り組みが求められる。そのために,「分別土砂」や「コンクリート再生砕石」などの災害廃棄物を処理した材料や,発生土や産業副産物などの循環資材を積極的に利用することが推奨される。また,資材の運搬等による環境負荷も考慮し,地産地消を進めることが推奨される。(3) 複数事業の総和としての最適化を目指す取り組み復興のための社会基盤整備事業は様々な事業主体により行われている。一方,復興資材の製造や発生土・副産物の発生も,異なる事業主体によって行われている。それぞれ個別の事業の最適化を目指すだけではなく,地域で行われている複数の事業の「総和としての最適化」を目指す取り組みが必要である。的に使われることがのぞましく,津波の被害を受けた沿岸域での道路かさ上げや海岸公園の再整備などに分別土砂を確実に利用する取り組みを行っている自治体もあり,運搬距離の観点か表 8 「災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン」6)の目次章らも,また被災地の社会基盤の再整備・強化という点からも合理第 1 章 総説的と考えられる。分別土が有効利用されることでもって初めて災害廃棄物処理の完了と言えるとの考えから,自治体の環境部局はじめ廃棄物処理に携わる技術者が分別土の受入先の確保に尽力されてきた。災害廃棄物処理は福島県の一部の地域を除いて 2013 年度末で終了したが,土砂の利用は 2014 年度以降の工事でも行われるため,自治体によってはストックヤードの確保が必要となっている。分別土の利用は復興工事で発生する掘削発生土との競合にもなることから,環境,建設,農林などの管轄を超え,関係機関の連携のもと,復興資材も含めた資材のマネジメントを総合的に行っていくことが重要であり(図 11 参照),関係者間で議論が進められてきた。被災地で復興事業として大量につくられていく社会基盤は強靭なものでなければならないという前提を踏まえつつ,できる限り環境負荷を少なくするよう資材の賢明な分配が実行される必要がある。本委員会の活動を受け,地盤工学会では(独)国立環境研究所の受託業務として(一社)泥土リサイクル協会の協力を得て「災害からの復興における災害廃棄物,建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会」を設置1.11.21.31.42.12.22.32.42.52.62.72.83.13.23.33.43.5第 3 章 用途と活用方法3.63.73.83.93.103.11第 4 章 循環資材による復興 4.1資材の改良4.25.1第 5 章 モニタリング5.25.3第 2 章 共通事項節目的基本的な考え方用語について関連する法令と指針有効活用の範囲有効活用の記録・保管<トレーサビリティー>品質評価ストックヤードの活用環境安全性放射性物質検査頻度その他留意すべき事項海岸堤防海岸堤防港湾施設水面埋立土地造成道路盛土鉄道盛土農用地海岸防災林工作物の埋戻し材料裏込め在循環資材の活用環境安全性モニタリングの基本的な考え方施工時のモニタリング施工後のモニタリングし,分別土砂や各種副産物の利用状況,土砂の必要性などの状況を踏まえ,東日本大震災からの復興における資材の利用に関する提言を行っている 5)。オブザーバーとして復興庁,国土交通省,環境省,農林水産省のほか岩手県・宮城県・福島県の環境部局・土木部局の参画も得て,表 7 に示すような骨子の提言を 2013 年度末に公表した。さらに 2014 年 10 月には「災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン」6)をとりまとめ,いずれもホームページから無料でダウンロードできるようにしている。目次を表 8 に示す。3. 放射性汚染土壌・廃棄物への対応原子力発電所事故による放射性物質汚染は,我が国の放射性物質管理の考え方について,従来は放射性物質を利用する施設内(放射性廃棄物埋設施設も含む)を対象としていたものを一般環境にまで拡大するとともに,その観点も作業者の被爆から環境中の物質挙動評価にまで広げることとなった 30),31)。対象も従来の「放射性廃棄物」とは別に「放射性汚染廃棄物」および「放射性汚染土壌」を扱うこととなり,これまでの制度・枠組み・考え方では対処しきれない問題に対して関係機関が引き続き対応に取り組まれているところである 32)。3.1放射性汚染土壌・廃棄物の保管除染とは,放射性物質を含む土壌や草木類などを我々の生活圏から排除することによって放射線量を減少させ,被ばく量を低減させることである。帰還困難区域,居住制限区域,ならびに昼間は立ち入ることのできる避難指示解除準備区域では国の事業として除染が実施されている。除染により放射性物質を含む廃棄物や土砂が多量に発生する。政府の方針で-8- は,除染により発生する土壌・廃棄物は仮置き場での保管(3 年程度)の後,中間貯蔵施設で保管(30 年以内)され,福島県外の処分場にて最終処分することとなっている。仮置き場はあくまでも仮置き場であることから,水処理施設を有しないなど封じ込めという観点からは一定の制約がある。一方で,フレキシブルコンテナや遮水シートなどで膨大な量の資材が用いられていることを鑑みると,適切な機能を発揮させるべく設計・施工がなされることが重要である。利用できる土地の制約から,軟弱地盤上に仮置き場を設けざるをえないことも考えられるが,仮置き場という条件のもとで,保管物の崩壊や汚染物質の漏出などのリスクを防ぐべく,適切な事前調査と施工管理を行うことが重要となってくる。本委員会では,このような放射性汚染土壌の保管について,「除染仮置場基盤整備」など指針への反映や実務への適用をはかるべく地盤工学・地盤環境工学の観点から議論・提案を行っている。中間貯蔵施設については,2013 年 12 月に環境省から「除去土壌等の中間貯蔵施設の案について」33)が出され,施設群の一つの形が案として示された。この施設に貯蔵するものとしては,(1) 仮置き場などに保管されている除染に伴い発生した土や廃棄物,(2) 100,000 Bg/kg を超える放射能濃度の焼却灰,などとされている。土壌の貯蔵施設の構造も,I 型とされる遮水工を有しない 8000 Bq/kg 以下の土壌を対象とする施設,8000 Bq/kg を超える土壌を受け入れるための遮水対策等を施した II 型とされる施設,100,000 Bq/kg を超える廃棄物を対象とする遮蔽効果を有する建屋での保管,といった案が示されている。2000 万 m2 を超えるとも言われる量の土壌等を受け入れるため,空間・時間スケールを考慮しロジスティックスの観点を踏まえた,除染と排出物管理に関する俯瞰的な議論が必要である。我々の生活圏における物質フローの最下流である廃棄物や下水汚泥の焼却灰には,環境中から放射性物質が集められ濃縮されて残存する。放射性セシウム濃度が 8000 Bq/kg を超えるものは「指定廃棄物」として国が処理処分を行うこととなっているが,8000 Bq/kg 以下であれば通常の一般廃棄物処分場での埋立処分が可能とされており,このような廃棄物は福島県以外にも存在している。一方,我が国の廃棄物処分の考え方は,降水を受け入れて洗い出しと準好気環境を促進し,廃棄物の安定化をはかるものであった。放射性物質を含む廃棄物を処分場に受け入れるにあたっては,既存の水処理施設では放射性セシウムが除去できないことから,放射性セシウムを処分場内で「移動させない」ために「水に触れさせない」,仮に溶出しても「土壌層で吸着して固定する」ことが重要である。廃棄物を焼却する際に発生する灰には焼却灰と焼却飛灰とがある。焼却灰からは放射性セシウムは溶出しにくいとされているが,焼却飛灰では 80%近い溶出率のデータが示されている34)。したがって,溶出率を低下させる方策をとるとともに,これらの廃棄物を遮水性や吸着性能を期待できる土壌層で封じ込めることが必要である。既存の処分場の中に封じ込め機能を有する埋立セクションを設けることから,不同沈下や水みちを考慮した,遮水層あるいは吸着層として機能する土壌層についての設計手法の確立が求められ,地盤工学・地盤環境工学からの取り組みが必須である。3.2放射性汚染土壌減容化技術の評価除染によって発生する土壌・廃棄物は莫大な量となることが推定されており,仮置き場容量や中間貯蔵施設容量への負荷軽減,仮置き場から中間貯蔵施設への移動負荷の軽減,廃棄物自体の安定化の観点から,大量に発生する放射性物質含有土壌や可燃物の保管量減少を目的とした減容化が必要となる。表 9 に表9現在の土砂に対する処理基準・考え方の整理 35)放射性セシウム濃度の範囲100,000 Bq/kg 超8,000 Bq/kg 超 100,000 Bq/kg 以下3,000 Bq/kg 超 8,000 Bq/kg 以下は現行の土砂に対する処理基準・考え方を,図 12 には減容化100 Bq/kg 超 3,000 Bq/kg 以下(400 Bq/kg 以下)技術の課題を示した。100 Bq/kg 以下現時点での処理基準・考え方特定廃棄物処分基準指定基準30cm 以上の覆土等により利用可(環境省 除染等工事共通仕様書客土の基準)クリアランスレベル可燃物の減容化は焼却により技術的には可能であるが,社会受容性の観点から施設設置が進まない。一方,汚染土壌等の不減容化技術酸抽出法れているが,いずれも実証試験レベルにとどまっており,適用高温焼成法可能土壌種,減容化率,コスト等が大きく異なる。以下に各技圧縮成形法術の特徴を示す。1)湿式分級法は,放射性 Cs 濃度が高い細粒分を除去し,放射性 Cs 濃度が低い粗粒分を回収する方法である。砂質土には高い減容化率を示すが,細粒分が多い土壌には適用で【課題2】浄化土壌の有効利用可能性評価性状・用途・法令土壌洗浄法燃物の減容化は,湿式分級法,熱処理法,酸洗浄法等が検討さ浄化土壌【課題1】 技術評価減容化率・再資源化率・コスト・適用可能な濃度レベル・対象土質濃縮物【課題3】濃縮物の性状評価溶出特性・濃縮率【課題4】 減容化の適用性・必要性の検討図 12減容化技術の課題きない。2)熱処理法は,土壌を 1300℃以上の温度にし,放射性 Cs を気化分離させ,バグフィルター等で回収する方法である。細粒分が多い土壌にも適用可能であり,放射性 Cs 除去率は高いが,コストが高い等の課題がある。3)酸洗浄法は,土壌にシュウ酸等の酸,溶離促進剤を添加し,加熱をすることで土壌から放射性 Cs を分離する方法である。土壌種類により浄化効率が異なること,酸を使用したプラントの安全性確保が必要である。これらの不燃物への減容化技術については,(1) より詳細な技術評価(減容化率・再資源化率・コスト等),(2) 浄化土壌の有効利用先の確保(性状,用途,法令,社会受容性),(3) 濃縮物の性状評価(溶出特性,濃縮率),(4) 減容化実施-9- 地点の検討(仮置き場/中間貯蔵施設),を多面的な視点から検討し,減容化自体の必要性も含めた議論が必要である。原土壌地盤工学研究委員会の減容化技術への貢献の一つとして,湿式分級試験(0.075mmふるい水洗い)使用水量:土壌重量の1‐5倍土壌洗浄法の事前評価法の構築と福島県土木部へのサポートがあげられる。除染により生じた廃棄物や土壌は国が処理浄化土壌性状評価濃度・回収率を担うが,災害復旧工事・建設工事等からの発生土の処理は地方公共団体等の事業者が負うこととなっていることから,福島県内では県・市町村など事業者が道路等現場内に放射性濃縮物性状評価濃度・発生率ふるい残留試料ふるい通過試料土の粒度試験2mm, 850μm, 250μm遠心分離上澄み固相分物質を含む土壌や廃棄物の仮置きのスペースをつくって保乾燥2mm, 850μm, 250μmそれぞれ放射性Cs濃度分析管している状況がみられ,維持管理や跡地利用上の課題が指0.45μmろ過残留物ろ液摘されるとともに,復旧工事そのものの実施にも支障が生じ混合うる状況である。保管する土砂の量をできる限り減らすためCs溶出試験に土壌洗浄などの減容化の方法が有効だが,減容化の効果を・放射性Cs濃度測定・含水比・粒度分布(篩のみ)前処理(粗大有機物等の除去)図 13評価するためには放射線量の低減だけでなく,母材となる土・質量測定・放射性Cs濃度測定放射性Cs分析放射性セシウム含有土壌の土壌洗浄法の適用性評価に資する試験方法のフロー9), 10), 36)砂の基本特性(特に粒度や有機物含有量)などを踏まえた技術的な考察,さらには浄化土壌の有効利用先の確保が必要である。すなわち,土壌洗浄法の放射性セシウムの除去率および減容化率は常に一定ではなく,粒度分布,粒度区分ごとの放射性セシウム濃度,再利用可能な放射性セシウム濃度基準によって変化する。したがって,減容化の効果を評価するための評価手法の確立が必要である。図 13 は土壌洗浄法の適用性評価のために本委員会で提案した試験方法のフローで,福島県の実務に一部取り入れられており,事前の適用性試験およびそれに基づく実証試験が行われている 9), 10), 36)。4. おわりに本委員会が対象としてきた課題のうち,災害廃棄物の処理と復興資材への活用については一定の方向性でもって事業が遂行され,次のステップとして将来の災害対応に活用できるよう学術上の体系化も進められている。放射性汚染土壌・廃棄物への対応については引き続き国をあげて課題に取り組まなければならない状況にある。本委員会は当初の活動期間(2011 年 10 月~2014 年 3 月)を特例として一年延長させて頂き,2015 年 3 月まで活動した。今後も,学術成果の蓄積と現地実務への支援が求められるものである。末尾ながら,本委員会の活動について多くの方々からご支援を頂いた。地盤工学会の日下部治元会長,末岡徹前会長,龍岡文夫元会長,京谷孝史調査研究部長には,委員会運営に多大なご指導とご配慮を頂いた。技術普及委員会と学会誌編集委員会の各位にはそれぞれ講習会と学会誌特集号の機会を与えて頂いた。事務局の方々のサポートも重要であった。岩手県,宮城県,福島県,復興庁,国土交通省,環境省,農林水産省,仙台市,さらには災害廃棄物処理や除染事業の担当の各社をはじめとする機関の関係各位には情報提供・意見交換・試料提供・現地視察など様々な局面で大変にお世話になった。記して謝意を表する。(本原稿は 2014 年 5 月に開催された「地盤工学会特別シンポジウム-東日本大震災を乗り越えて-」の委員会報告 37)を一部加筆したものである。)参考文献1) 高井敦史・保高徹生・遠藤和人・勝見 武・東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会(2013):東日本大震災における津波堆積物の分布特性と物理化学特性,地盤工学ジャーナル, Vol.8, No.3, pp.391-402.2) 岩手県(2013):岩手県復興資材活用マニュアル 改訂版.3) 公益社団法人地盤工学会東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会(2013):災害廃棄物処理過程で発生する分別物の物理化学特性評価 中間結果報告書.4) 大河原正文・大塚義一・阪本廣行・高井敦史・今西 肇・遠藤和人・大嶺 聖・風間基樹・加藤雅彦・小竹 望・珠玖隆行・鈴木弘明・中川雅夫・中野正樹・西村伸一・藤川拓朗・松山祐介・山中 稔・勝見 武(2013):災害廃棄物処理過程で発生する分別土砂の特性評価,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.355-360.5) 公益社団法人地盤工学会(2014):災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言,https://www.jiban.or.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=1540&Itemid=1486) 公益社団法人地盤工学会(2014):災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン.7) 公益社団法人地盤工学会東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会(2013):災害廃棄物焼却主灰を原料とする再生資材の地盤材料利用を対象とした物性評価スキーム 第一版(概要版),http://geotech.gee.kyoto-u.ac.jp/JGS/Scheme_abstract01.pdf.-10- 8) 肴倉宏史・小澤一喜・三浦俊彦・乾 徹・阪本廣行・佐藤 毅・中野正樹・吉野博之(2013):災害廃棄物焼却主灰を原料とする再生資材の地盤材料利用を対象とした物性評価スキームの提案,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.419-426.9) 公益社団法人地盤工学会東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会(2013):放射性セシウム含有土壌の土壌洗浄法の適用性評価試験方法(案),http://geotech.gee.kyoto-u.ac.jp /JGS/Soilwashig_draft.pdf.10) 保高徹生・大山 将・佐藤 透・地盤環境研究委員会 TF-N1(2013):放射性セシウム含有土壌の土壌洗浄法の適用性評価試験,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.301-306.11) 環境省 (2011): 東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン).12) 環境省 (2011): 東日本大震災津波堆積物処理指針.13) 環境省 (2012): 東日本大震災からの復旧復興のための公共工事における災害廃棄物由来の再生資材の活用について(通知).14) 国土交通省 (2012): 東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針.15) 国土交通省 (2012): 迅速な復旧・復興に資する再生資材の宅地造成盛土への活用に向けた基本的考え方.16) 林野庁(2012):海岸防災林造成に当たっての災害廃棄物由来の再生資材の取り扱いについて(事務連絡).17) 勝見 武(2014):災害廃棄物の処理と土砂の再生に挑む,土木学会誌,Vol.99, No.3, pp.26-29.18) 勝見 武(2013):災害廃棄物の処理と土木資材への有効利用,地盤工学会誌,Vol.61, Nos.11-12, pp.53-54.19) 山際勝治・宮城英徳・八村幸一・佐藤靖彦・小嶋平三・大塚義一(2013):災害廃棄物の対応の状況,地盤工学会誌,Vol.61,No. 2,pp.8-11.20) 勝見 武・森田康平・高井敦史・乾 徹(2012):地震・津波に伴い発生した廃棄物混じり土砂の地盤工学的特性,第 10回地盤改良シンポジウム論文集,日本材料学会,pp.91-96.21) 遠藤和人・鈴木弘明・勝見 武(2014):災害廃棄物処理残さにおける木くず含有量の判定に関する一考察,第 35 回全国都市清掃研究・事例発表会.22) 今西 肇・千葉祐太朗(2013):津波堆積土の密度試験および粒度試験方法の提案,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.361-366.23) 藤川拓朗・佐藤研一(2013):災害廃棄物処理過程において発生する分別土の含水比測定方法の検討,第48回地盤工学研究発表会発表講演集,pp.87-88.24) 高橋正孝・森 友宏・風間基樹・河井 正(2013):宮城県石巻市における震災廃棄物分別土砂の物理・化学特性,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.367-370.25) 野々山栄人・中野正樹・酒井崇之・岡野雄馬・荒木 毅・岡崎 稔・大塚義一・濱谷洋平・中島典昭(2013):災害廃棄物の地盤材料としての有効活用法に向けた検討,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.385-390.26) 大嶺 聖・杉本知史・中川雄介・幸 諭志(2013):災害廃棄物や津波堆積物の地盤材料としての活用技術,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.409-414.27) 山根華織・勝見 武・高井敦史・乾 徹・森田康平(2013):地震・津波で発生した災害廃棄物処理物の物性に及ぼす再ふるいの影響,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.371-376.28) 田中靖訓・三嶋大介・北垣 剛・勝見 武(2013):地震・津波により発生した災害廃棄物処理システム構築に関するマネジメント論的考察,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.397-404.29) 大塚義一・岡崎 稔・濱谷洋平・勝見 武(2013):地震・津波による災害廃棄物の処理実務とその考察,第10回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,地盤工学会,pp.391-396.30) 勝見 武(2013):放射性汚染廃棄物・土壌への対応と展望,土木学会誌,Vol.98, No.9, pp.40-43.31) 勝見 武(2014):東日本大震災による地盤環境課題への対応―災害廃棄物分別土砂と放射性汚染土壌・廃棄物―,基礎工,Vol.42, No.3, pp.22-25.32) 例えば 河西 基・藤塚哲朗・吉原恒一・勝見 武・朽山 修(2013):福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染対策と放射性廃棄物処理・処分への取組み,日本原子力学会誌,Vol.55, No.8, pp.435-444.33) 環境省(2013):除去土壌等の中間貯蔵施設の案について,http://josen.env.go.jp/soil/pdf/draft_131214.pdf34) 国立環境研究所(2014):放射性物質の挙動からみた適正な廃棄物処理処分(技術資料 第四版)修正版.35) 宮口新治・上堂薗四男・門間聖子・大野敦史・奥山博樹・竹本麻理子・安藤淳也・高畑 修・保高徹生・小峯秀雄(2014):放射性セシウム含有土砂への土壌洗浄技術の事前適用性評価試験 -道路維持管理に伴い発生した土砂の減容化に向けて-,第49回地盤工学研究発表会.36) 高畑 修・安藤淳也・磯松教彦・松﨑信彦・保高徹生・小峯秀雄(2013):福島県内の道路維持管理における放射性物質汚染の影響と課題,そして地盤工学的解決の方向性,第48回地盤工学研究発表会,pp.135-136.37) 地盤工学会地盤環境研究委員会(2014):東日本大震災における地盤環境課題への取り組み,地盤工学会特別シンポジウム -東日本大震災を乗り越えて- 発表論文集(CD).-11-
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  • タイトル
  • 液状化した火山灰質砂質土や鉱さいの流動性評価の試み
  • 著者
  • 風間 基樹・株木 宏明・森田 年一・齋藤 修・神澤 雅典
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 13〜16
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69512
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)1-1液状化した火山灰質砂質土や鉱さいの流動性評価の試み○風間基樹 1・株木宏明 1・森田年一 2・齋藤修 3・神澤雅典 41 東北大学大学院工学研究科・2 群馬工業高等専門学校環境都市工学科・3 茨城大学防災セキュリティ教育研究センター4 株式会社ユードム1.はじめに液状化した火山灰質砂質土や鉱さいは、これまで地震時に流動性の崩壊を起こし、人的物的被害・環境汚染を発生させている。1984 年長野県西部地震の御嶽崩れをはじめとして、2011 年東日本大震災での鉱さいの流動性崩壊など多くの事例がある。しかし、液状化した土がすべて流動性の崩壊を引き起こすわけではなく、きれいな砂などは液状化しても長距離を流下するような流動性を示すわけではない。ここでは。近年の事例を含む被害事例を概観するとともに、土材料の流動性を評価する試みとして開発したドラム式の流動性試験装置を用いた実験結果を報告する。また、流動する土砂の運動をとらえるために、新たに 6 軸のジャイロと 3 方向の差圧計を組み込んだワイヤレスセンサを試作したので、その仕様も紹介する。2.液状化した火山灰質砂質土や鉱さいが流動した事例 1)流動性崩壊の多くの事例で共通する土質材料としての特徴は砂よりも細粒ものが多く含まれており、一旦液状化すると水と分離しないため、流動状態が長く継続することである。特に火山灰の場合、多孔質で降雨の有無に関わらず平時から高含水比状態にある。また、地震外力の特徴としては、マグニチュードの大きな地震において、継続時間が長く長周期の地震動が卓越したであろう地震動を受けた事例が多い。1978 年伊豆大島近海地震地震発生と同時に、持越鉱山のたい積鉱さい量約 48 万 m3 の第一かん止堤(高さ約 30 m)の上部約 14 m が堤長 100 mに渡って崩壊し、鉱さい及び土砂約 8 万 m3(うち鉱さいは 6 万 m3)が流出し、下方の持越川を経て狩野川に流入した。その影響は、狩野川の河口までの約 44 km を鉛色に染め、鉱さいに含まれていた製錬に使用したシアンによって汚染された。その結果、狩野川中流域までの 25 km の区間で大量の魚類の死滅や流域の上水道取水の停止をもたらした。このえん堤は、内盛り式であり、鉱さいが液状化したことによって内盛り部分が崩壊したものである。加えて、静岡県河津町見高入谷地区において自然斜面の崩壊が多数発生し、その内 7 箇所において比較的大規模な崩壊が発生した。このすべりによって、7 名の死者が出ている。最大のものは、幅 180 m、斜面長 165 m の範囲が崩壊しており、崩壊土塊は 7.4 万 m3 と推定されている。傾斜角度は約 20-30 度である。斜面崩壊の形態は流動型であり、聞き取り調査によれば、流失した土砂は斜面下にある田尻川を乗り越え対岸の清水山山腹に乗り上げて止まったとされる。崩壊土砂は軽石層を含むロームや砂質スコリアである。1978 年宮城県沖地震 2)宮城県白石市の寿山第四団地内において建設中の宅地用造成盛土斜面が崩壊し、土砂が長距離に渡って流失した。崩壊部は幅 250 m、長さ 450 m の楕円状で、面積にして 16,000 m2 が崩壊し、約 8 万 m3 の土量が流失した。この崩壊によって死者 1 名が出ている。盛土は地山斜面を切り崩し、2 本の沢および溜池を埋めて造成された。1984 年長野県西部地震 3)御岳山八合目付近の伝上川源頭部で巨大な斜面崩壊が発生した。伝上川源頭部の崩壊(通称:御岳くずれ)は、尾根が標高 2550 m の所から幅 300 m、厚さ 150 m、長さ 1200 m にわたって崩壊したものであり、推定崩壊土量は 3360 万 m3 である。崩壊した土砂は、伝上川から濁川を経て王滝川へ流下し、王滝川を閉塞して天然ダムを形成した。崩壊源である尾根は、その後の調査により埋積谷に軽石の混じった降下火山灰が緩く堆積し、尾根を形成していたことが分かっている。地震五日前からの降雨もあいまって崩壊土砂の軽石は含水比 100%以上の高い含水状態であったことが報告されている。1994 年三陸はるか沖地震 4)青森県三戸郡新郷村西越地区浮口において、盛土が崩壊し泥流状の土砂が斜面に沿って約 1 km 流出した。崩壊部から末端までの斜面の平均傾斜角度は約 3.5 度である。地区一帯は丘陵地帯であり、深い沢地形が多くみられる。周辺地域全域は、厚さに多少違いがあるものの、山地、丘陵地、段丘地を問わず新期の十和田・八甲田火山群の噴出物で覆われている。地域住民の証言によると、崩壊源の谷盛土は、周辺地区の中学校を建設する際に行った切土工から発生した土を沢上流部の 2 箇所に埋立て盛土したものである。An attempt to evaluate the fluidization property of liquefied volcanic sandy soils and tailings material.Motoki Kazama1, Hiroaki Kabuki1, Toshikazu Morita2, Osamu Saito3, Masanori Kanzawa4 (1Tohoku University, 2Gunma Institute ofTechnology, 3Ibaraki University, 4U-DIOM Co. Ltd)KEY WORDS: Volcanic soils, Fluidization property, Wireless multi-sensor, Drum type fluidization testing apparatus-13- また、同地震において被害を受けた八戸市松ヶ丘団地の宅地盛土は八戸シラスによって造成されたと報告されている。2001 年エルサルバドル地震 5)2001 年エルサルバドル地震において新興都市ヌエバサンサルバドルのラスコリナス地区背後のエルバルサモ尾根が泥流状に崩壊し、崩壊土砂が住宅地を飲み込んだ。この崩壊によって 700 名以上の犠牲者があったとされている。崩壊源頭部は尾根頂部であり、崩壊後に直径 100 m、深さ 20-30 m の窪みを残している。崩壊土量は約 7.5 万 m3 であり、土砂は標高差 150 m を、水平に 700 m に渡って滑り落ちた。崩壊土砂は、地震時現場地域が乾季で水分の供給がほとんどない条件あったが高い含水状態であった。調査から、崩壊時に水平方向速度は約 5 m/s と速い速度で流下したと推定されている。2003 年三陸南地震 6)宮城県築館町館下地区において、軽石を多く含む火砕流堆積物で沢部を埋め立て造成した農地造成盛土斜面が幅約 40 m 長さ約 80 mで崩壊し、流れ出した。その結果、幅約 50 m、長さ約 120 m に渡って土砂が堆積した(写真-1 参照)。崩壊した斜面の平均角度は約 7度であった。崩壊部より採取した土試料の含水比は 28%、飽和度は59%であった。地震前数日間以上降雨は無く、泥流状に崩壊した土砂全体は地震時には飽和状態ではなかったものと推定される。この事例もラスコリナスの事例と同様に約 6~7 m/s と速い速度で土砂が流下したと推定された。2003 年十勝沖地震 7)写真-1 宮城県築館町斜面流動破壊現場の空撮北見市(震度Ⅴ弱)の近郊の端野町協和は、震源域のほぼ真北に位 (2003/5/27:PPG 空撮(有)ミヤギエンジニアリング)置し(震央距離 230 km 以上)、屈斜路火砕流堆積物が広がる小起伏の丘陵地域である。農地が幅(北西-南東方向)35~62 m、奥行き約 190 m にわたって最大 3.4 m 陥没した。液状化した火山灰は、陥没域の南東縁および南西端に生じた 4 つの噴出口から畑土層と乾燥状態の火山灰層からなる層厚 1.5 m の表層を突き破るように低角度(噴出口での痕跡から約 10°と推定される)で噴き出し、幅約 100 m、奥行き約 150 m に及ぶ農地、道路および道路沿いの明渠を埋め、さらに小河川にも流れ込んで下流側約 900 m、上流側約 100m にわたって河道を埋めた。農地・明渠・道路および河道を埋めた火山灰量は、それぞれ約 6,500 m3 および 3,500 m3 と見積もられ、約 1 万m3 の液状化した火山灰が噴出したことになる。液状化した農地は、いずれもかつては火山灰丘陵を刻む浅い谷であり、1960 年代から水田として開発・利用され始め、そして 1983 年頃からは火山灰による埋立てが行われた箇所であり、このような地形・地盤条件の下で、長周期地震動によってスロッシングのような現象が発生したと考えられている。2010 年チリ地震 8)チリは鉱物資源の豊富な国であり、国内に鉱さいダムが多数存在する。過去にも鉱さい堆積場が破壊し、鉱さいが流出し、多くの人的被害を発生させている。2010 年の地震でも、3 箇所の鉱さい堆積場が被災した。流出した鉱さいが家屋を襲い、4 名が死亡したとされる。2011 年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)9)気仙沼市の南に位置する大谷鉱山萱刈堆積場の堤が壊れて、液状化した鉱さいが下流の沢部に流出した(図-1 参照:4/7 の衛星画像から明瞭に流れた様子が確認できる)。また、本震災の際に発生した津波の引き波により。鉱さいの一部は赤牛川河口付近まで流出した。幸い、人的被害は発生していない。なお、これ以外に高玉鉱山、足尾鉱山の堆積場でも流失事故が発生している。2014 年 Canada British Columbia 州の鉱さいダム決壊2014 年 8 月 4 日、カナダの鉱さいダムが決壊し、大量の鉱さいが流失する事故が発生した。この事故では、崩壊の原因の調査と報告、行政のとるべき対策に関する勧告等の目的のため独立の調査委員会が作られた。その報告書 10) によれば、崩壊の原因はダムの基礎地盤である氷河期の弱層のせん断破壊にあり、設計においてこのような弱層に対する配慮が無かったことが大きいとしている。崩壊の引き金になった原因は地震ではないが、堤体の崩壊によって堆積物が大量に流出し、下流の川を汚染している。地震による液状化でなくても、緩く堆積した鉱さいの残留強度は非常に小さく、動き出すと止まらない流動性を持つことがわかる事例である。図-1鉱さい堆積場の液状化による流動化(Google Earth 画像 2011/4/7)-14- 3.回転式ドラム試験装置による土砂の流動性評価ドラム式の土砂流動試験装置を用いて、土の流動性の評価を試みた。この試験装置は、写真-2 に示すように、半径 50 cm 奥行き 50cm 円筒形のシリンダーが鉛直面内に回転するものである11)。 円筒の周面の底に土圧計・間隙水圧計が埋め込まれており、回転流動中の土砂の土圧・間隙水圧が計測できる。データは回転しているため周期的な値となる。実験では、土質材料の含水比を徐々に増やしながら変化させて流動性の違いを調べた。写真は、ドラムが時計回写真-2りに回転している状態を示ドラム式の流動試験の様子す。土砂のせん断抵抗が小さくなり,液体的な性質を示すほど,土砂の傾斜角は小さくなり,流動性が高くなることと対応する。実験は、土砂の回転時の傾斜角がほぼ水平になるまで(ほぼ流体と化したと判断される状態)含水比を増写真-3 泉が岳しらすの SEM 画像写真-4 築館土の SEM 画像やしていった。対象とする材料として仙台市泉区泉ヶ岳の麓に堆積している火山灰質砂質土(泉ヶ岳しらす:現場採取後:粗砂約 22%、中砂約 42%、 細砂約 30%、 細粒分約 6%突き固め後:粗砂約12%、 中砂約 27%、 細砂約 25%、 シルト分 29%、粘土分約7%)、2003 年三陸南地震において流動性崩壊を起こした築館土(礫分約 17%、砂分約 53%、シルト分約 22%、粘土分約8%の火砕流堆積物)について実験した。両者の電子顕微鏡を写真-3、4 に示すが、火山灰質土特有の多孔質な粒子であることがわかる。なお、これら土において、いわゆる室内の土質試験(JIS)で規定されている液性限界試験は適用困難である。図-2仙台泉ヶ岳しらすの試験結果図-2~4 は、含水比を変化させていった時の間隙水圧と土圧(全土圧)の変化を示したものである。土の厚さ(深さ)最深部でも 15~20 cm であるから,静的な状態では圧力としては,数 kPa の値を示すだけとなるが、底面に設置されている間隙水圧の値は、ある含水比から静的な値に比較して急激に大きくなり始める。これは土がそれ以上の含水比の水を保水できず、自由水となった水が増え,その水に土砂流動時の動的な衝撃力が伝わるためと考えられる。その値は、泉ヶ岳しらすで 60%程度、築館で 20%程度から上昇傾向となる。また、底面に設置された土圧計の値も、間隙水圧と同様にある一定の含水比レベルから上昇傾向となり,泉が岳しらすで 65%程度、築館土で 25~30%程度で最大値となる。その後図-3宮城県築館土の試験結果は低減し、飽和状態の静的泥水圧の値に収斂する。土圧は、流動した土砂の破壊力に関係するが、その値が完全に流体的振る舞いをするよりやや少ない含水比でピークを示した。また、図-4 は築館土のドラムの回転数を変えた時の実験結果であるが、回転数(流動速度)が上がると、土圧が最大となる含水比レベルが小さくなることがわかる。これは,回転数が上昇すると遠心力がより大きく作用するため,少ない含水比から底部に水分が集まり,間隙水圧計に作用する圧力を感知しやすくなるためと考えられる。図-4-15-宮城県築館土の試験結果(回転数の影響) 4.ワイヤレスマルチセンサの試作流動化した土砂の動きを調べるため、ワイヤレスのマルチセンサを試作した。図-5 は、センサのブロック図であり、写真-5~7 は、その概観を示したものである。ケース外寸:W101.5×D101.5×H100 で、重さ:540g(電池含む:単 3 アルカリ乾電池6 本)である。センサ部は、水位センサ(絶対水圧)、差圧センサ(箱の両端面の水圧差)、3 軸加速度+3 軸ジャイロ+3 軸コンパス)となっている。マイコンが内蔵してあり、PC から計測部メモリーの設定条件をコントロールできるようになっている。図-5ワイヤレスマルチセンサのブロック構成図実際の計測は、これを流動する土砂中に投入し、実験後に回収してデータを取り出す方式と無線でデータを飛ばす方式が考えられるが、ここでは前者の方式のものとなっている。今回、ドラム式流動試験装置に投入して試験を行ったが、途中で乾電池が脱落するトラブルとなった。しかし、それまでのデータは取得された。今後、実際の動きをどこまで捉えて再現できるかを検証する予定である。写真-5 左5.センサ内の概観中:センサ内部の説明図 1右:センサ内部の説明図 2おわりにここでは、液状化した火山灰質砂質土や鉱さいの流動性の被害を近年の事例を含め概観するとともに、土材料の流動性を評価する試みとして開発したドラム式の流動性試験装置、ワイヤレスセンサを紹介した。今後、これらのツールを使って、様々な土質材料の流動特性を体系的に評価する予定である。謝辞:本研究のワイヤレスセンサの開発は、科学研究費の補助を受けて実施したものである。研究分担者の茨城大学、安原一哉教授、鎌田賢教授、兼子恭平氏にお礼を申し上げます。参考文献1)風間基樹・三浦清一・八木一善・海野寿康・鈴木輝之・伊藤陽司: 火山灰質土-その性質と設計施工-6.火山灰質地盤の被害事例, 土と基礎,Vol.54, No.2, pp.45-54, 2005.2)1978 年宮城県沖地震調査報告書:土木学会, pp.445~449, 1980.3)信州大学自然災害研究会:昭和 59 年長野県西部地震による災害,1985.34)海野寿康・清原雄康・渦岡良介・高村浩之:1994 年三陸はるか沖地震の青森県新郷村における軽石混じり火山灰質5)Konagai, K. et al.: Las Colinas Landslide Caused by the January 13, 2001 off the Coast of El Salvador Earthquake, Journal of6)2003 年年三陸南地震および宮城県北部地震災害調査委員会:2003 年三陸南地震・宮城県北部地震災害調査報告書,砂質土の泥流状崩壊について,三陸はるか沖地震 10 周年記念シンポジウム, pp.158~164, 2004.Japan Association for Earthquake Engineering, Vol.2, No.1, pp.1~12,2002.pp.18~39,2003.7)2003 年十勝沖地震災害調査委員会:2003 年十勝沖地震災害調査報告書,地盤工学会,pp.36~44,2004.8)地盤工学会:2010 年チリ Maule 地震による被害に対する災害緊急調査団報告書, 2010.9)経済産業省:集積場管理対策研究会報告書について,平成 24 年 6 月 22 日,http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2012/06/240622-1.html10) Independent Expert Engineering Investigation and Review Panel, Report on Mount Polley Tailings Storage Facility Breach,January 30, 2015.11) 森田年一・髙木聖人:液状化した土の流動性を対象とした試験装置の作製と検証実験,第 14 回日本地震工学シンポジウム論文集,pp.3286-3292,2014 年 12 月.-16-
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  • タイトル
  • 振動台を用いた地震動による不飽和地盤の破壊形態に関する実験的考察
  • 著者
  • 藤森 弘晃・荒木 功平・後藤 聡・北爪 貴史
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 17〜22
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69513
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)1-2振動台を用いた地震動による不飽和地盤の破壊形態に関する実験的考察○藤森弘晃 1・荒木功平 1・後藤聡 1・北爪貴史 11 山梨大学大学院1. はじめに近年,地下水位が深い位置にある不飽和埋め戻し地盤において,飽和地盤の挙動とは異なる沈下が生じ,度々報告されている.新潟県中越沖地震(2007 年 7 月 16 日)が発生した際,繰返しせん断により柏崎刈羽原子力発電所敷地内で埋め戻し不飽和土が 40~80 cm 沈下していることが確認された 1).原子炉建屋は支持岩盤に直接設置されているため沈下を起こさなかったが,周辺地盤の沈下により,各種埋設配管が寸断された 2).また,東北地方太平洋沖地震(2011 年 3 月 11日)では,宮城県内の谷地形に盛られた厚い埋め戻し土により造成された盛土(不飽和谷埋め盛土)上の住宅地において最大 35 cm の揺すり込み沈下が発生し,大きく注目された3).このように,地震動に伴う不飽和地盤の沈下現象は近年度々観測されている.しかしながら,不飽和地盤は飽和地盤に比べ強度が大きく安全であると考えられてきたため,地震動に伴う不飽和地盤の沈下現象や破壊形態のメカニズムに関する研究報告は非常に少ない.近年の大規模な地震災害を受け,不飽和地盤の破壊形態が飽和地盤の破壊形態と全く異なる挙動を示すことがわかり,無視できなくなったため,飽和地盤の評価法によらない不飽和地盤を対象とした評価法の確立が急務となっている.本研究では地震動による不飽和地盤の沈下挙動・破壊形態のメカニズム解明を目指し,振動台を用いて実験的に研究している.具体的には,初期飽和度と初期乾燥密度をそれぞれ設定した不飽和模型地盤を作製し,振動台を用いて加振し,加振後の沈下量,飽和度,乾燥密度の関係を把握している.また,不飽和地盤の破壊形態が分かれる条件について加振後の飽和度に着目し考察している.2. 実験方法実験には,アクリル製の奥行 21.1 cm,幅 35.1 cm,高さ 26.0 cm,総体積 10000 cm3 の土槽(以下,小型土槽)と,アクリル製の奥行 20.0 cm,幅 95.0 cm,高さ 55.0 cm,総体積 76000 cm3 の土槽(以下,大型土槽)の 2 種類を用いた.ここで,模型地盤は密度にばらつきが生じないように 5 層に分け,1 層ずつ転圧により作製した.最初に,作製する試料の乾燥密度と飽和度を設定し,そこから乾燥砂の質量,水の質量をそれぞれ計算した.乾燥砂と水をよく混合し,混合した試料を 5 等分して模型土槽に入れながら転圧し締固めを行った.振動条件は正弦波で振動数を 5 Hz に設定した.図-1,図2,に小型土槽と大型土槽それぞれの沈下量の計測値点を示す.図-1,2 に示す A 面,a 面と平行に(B 面や b 面に直交方向)1 分間振動させた後,沈下量を鋼製定規により各点計測し,測定点全点の平均沈下量とした.振動数を 5 Hz に固定し振幅を大きくすることで 100 Gal ずつ加速度を増やし同様の作業を行い,200 Gal から 700 Gal まで飽和度~加速度関係を求める.図-1 模型小型土槽上面図図-2 模型大型土槽上面図An experimental study by using ashaking table due to seismic on failure pattern for the unsaturated groundHiroaki Fujimori, Kohei Araki, Satoshi Goto, Takashi Kitazume (University of Yamanashi)KEY WORDS: shaking table, unsaturated ground, degree of saturation-17- 3. 鹿島海浜砂の物理的特性本実験では茨城県鹿島港付近で採取した鹿島海浜砂を用いた.鹿島海浜砂の物理特性を把握するために,土粒子の密度試験(JIS A 1202),土の粒度試験(JIS A 1204),砂の最小密度・最大密度試験(JIS A 1224),突固めによる土の締固め試験(JIS A 1210,A-a 法)を行った.図-3 に鹿島海浜砂の粒径加積曲線,図-4 に鹿島海浜砂の乾燥密度-含水比曲線,表1 に各土質試験から得られた鹿島海浜砂の物理的特性をそれぞれ示す.1.6480乾燥密度ρd (Mg/m3)通過質量百分率(%)100604020ゼロ空隙曲線試験結果11.62試験結果21.601.58鹿島海浜砂01.560.010.111005101520含水比w %粒径(mm)図-3 粒径加積曲線2530図-4 乾燥密度-含水比曲線図-3 の鹿島海浜砂で粒度試験を行い得られた粒径加積曲線より,均等係数 Uc = 1.864,曲率係数 Uc ‘= 0.867 を得た.この結果から鹿島海浜砂は分級された粒径幅の広くない砂であるといえる.図-4 の鹿島海浜砂で突固めによる土の締固め試験を行い得られた乾燥密度-含水比曲線より,最大乾燥密度 ρdmax =1.634 Mg/m3,最適含水比 w = 15.8 %を得た.また,この時飽和度 Sr = 66.3 %である.ここで,突固めによる土の締固め試験は誤差が生じやすいため 2 回試験を行っている.表-1 に各土質試験により得られた鹿島海浜砂の基本的物理特性についてまとめている.土粒子の密度 ρs = 2.676 Mg/m3は一般的な無機質の鉱物の密度 2.5~2.8 Mg/m3 の範囲内である 4).最大間隙比 emax,最小間隙比 emin,平均粒径 D50 は概ね豊浦標準砂と同じ値を示した.表-1 鹿島海浜砂の物理特性土粒子の密度均等係数曲率係数平均粒径最大間隙比最小間隙比最大乾燥密度最適含水比ρsUcU c'D50emaxeminρdmaxwopt(Mg/m3)--(mm)--(Mg/m3)(%)2.6761.8640.8670.2001.0820.6521.63415.84. 実験結果及び考察4.1 地震動に伴う沈下挙動図-5 に,初期乾燥密度 ρd0 = 1.30 Mg/m3 において,初期飽和度 Sr0 を変化させた場合の平均沈下量~加速度関係を示す.図-5 より,初期飽和度が大きいほど沈下量は増大傾向にあることがわかる.また,初期飽和度が大きいほど加速度の小さい段階で沈下を開始することがわかる.平均沈下量は,加速度が大きくなるほど大きくなり,100 Gal 増加に伴う沈下量の増え方も初期飽和度が大きいほど大きくなることがわかる.しかし,Sr0 = 60 %では加速度 600~700 Gal にかけての平均沈下量の増え方は小さくなっている.図-6 に,初期飽和度 Sr0 = 40 % において,初期乾燥密度 ρd0 を変化させた場合の平均沈下量~加速度関係を示す.図-6より,初期乾燥密度が小さいほど沈下量は大きいことがわかる.また,初期乾燥密度が小さいほど加速度が小さい段階で沈下を開始し,加速度の増加に伴う沈下量の増え方は初期乾燥密度によらず概ね同様に増加することがわかる.本実験では土全体の容積と質量から全体の飽和度を求めている.不飽和地盤において,部分的な不均質性や飽和度のばらつきはしばしば議論されるが本研究では考えていない.なお,図-6 のように,初期乾燥密度 ρd0 = 1.15~1.30 Mg/m3 の小さい乾燥密度であっても,乾燥密度や飽和度の変化(乾燥密度変化 0.05 Mg/m3 ごと,飽和度変化 5 %ごと)に応じて平均沈下量等の傾向が得られることから再現性を十分有していることがわかる.-18- Sr0=60%16Sr0=55%128Sr0=40%20平均沈下量(mm)平均沈下量(mm)20ρd0=1.15Mg/m316ρd0=1.20Mg/m312ρd0=1.25Mg/m38ρd0=1.30Mg/m344Sr0=35%00200 300 400 500 600 700加速度(Gal)200 300 400 500 600 700加速度(Gal)図-5 初期乾燥密度 ρd0=1.30 Mg/m3 の沈下挙動図-6 初期飽和度 Sr0=40 %の沈下挙動4.2 地震動に伴う破壊形態の違い実験終了後,地表面に流出水を確認したケース(以下,不飽和液状化と称す)と地表面にクラックやすべりを確認したケース(以下,不飽和すべりと称す)を確認した.なお,地下水位は現れていない(目視では水分境界等はなかった).写真-1 (a) , (b) に小型土槽における不飽和すべり,不飽和液状化,写真-2 (a) , (b) に大型土槽における不飽和すべり,不飽和液状化をそれぞれ示す.写真-1 (b) より,不飽和液状化が発生した地盤の表面には泡が発生した.これは,間隙内の空気が地表面に浮きあがったためだと考えられる.また,写真-1 (a) と (b) のケースでは初期飽和度に 5 %の違いしかないが,不飽和地盤の加振後の破壊形態は大きく異なることがわかる.初期飽和度のわずかな違いが不飽和地盤に全く異なる破壊形態をもたらすことを示している.なお,写真-1 (a) および (b) の加振後の飽和度 Srf はそれぞれ 71.7 %,82.5 %であった.写真-2 より,(a) と (b) は Sr0 = 60 %, ρd0 = 1.35 Mg/m3 で行った実験での 500 Gal 終了時と 600 Gal 終了時をそれぞれ示している.写真-2 (a)は不飽和すべりが発生している.中央部ではクラックが確認でき,振動方向に直交する面付近で大きく沈下が発生している.写真-2 (b)では不飽和液状化が発生している.写真-2 (a)の 500 Gal 終了時の飽和度 Srf は 79.8 %,写真-2 (b)の 600 Gal 終了時の飽和度は 81.7 %であった.写真-1(b),写真-2(b)のように地表面より上に水面が現れた状態であっても水面以深の全体の飽和度は約 80 %であり,100 %を大きく下回った.ここで,地表面から水面までの流出水の飽和度が 80 %~100 %と考えると,地表面以深の飽和度は 80 %以下でなければ平均が 80 %にならない.ただし,泡が確認でき,空気は上部に移動していた.また,写真-1(a)や写真-2(a)のように不飽和すべりでも飽和度は 70,80 %を示した.したがって,地表面以深であっても飽和度は上昇していると考えられる.(a) 不飽和すべり(Sr0 = 55 %, af = 700 Gal, Srf = 71. 7 %)写真-1(a) 不飽和すべり(af = 500 Gal, Srf = 79. 8 %)写真-2(b) 不飽和液状化(Sr0 = 60 %, af = 700 Gal, Srf = 82. 5 %)小型土槽 (ρd0 = 1. 30 Mg/m3)(b) 不飽和液状化(af = 600 Gal, Srf = 81. 7 %)大型土槽 (Sr0 = 60 %, ρd0 = 1. 35 Mg/m3)-19- 図-7 は,小型土槽を用いて行った実験のうち初期乾燥密度 1. 20 Mg/m3 ~ 1. 35 Mg/m3,初期飽和度 45 %~65 %の範囲にある 8 ケースをプロットしたグラフである.図-7 のグラフの×印のプロットは 700 Gal 加振後に地盤にクラックやすべりが発生したケース(不飽和すべり)であり,○印でプロットしたケースは 700 Gal 加振後に地表面に流出水を確認したケース(不飽和液状化)である.図-7 より,不飽和すべりと不飽和液状化それぞれの破壊形態を示した初期条件は概ね線形上にあることも確認できる.ここで,×印のプロットを結んだ線を不飽和すべりライン,○印のプロットを結んだ線を不飽和液状化ラインと称する.不飽和地盤の破壊形態が不飽和すべりと不飽和液状化に分かれる不飽和すべりラインと不飽和液状化ラインの初期飽和度の差は 5 %しかない.つまり,不飽和地盤の初期飽和度が 5 %異なるだけでそれぞれ二つの全く異なる破壊形態をもたらすことがわかる.一方,地震前に不飽和地盤の乾燥密度と飽和度および地震外力が既知であれば,地震後の破壊形態が不飽和すべりか不飽和液状化かを予知できる可能性を示している.しかしながら,本実験では 1 つの基本振動しか与えていない.今後,地震前に,材料や加振条件などを変えて実験を行い,普遍性を明らかにする必要がある.初期乾燥密度(Mg/m3)1.35不飽和液状化不飽和すべり1.301.251.2045505560初期飽和度(%)65図-7 加振後の飽和度~加速度関係(ρd0 = 1. 30 Mg/m3)4.3 地震動に伴う飽和度の変化図-8 は,初期乾燥密度 ρd0 = 1. 25 Mg/m3 において,初期飽和度 Sr0 を変化させた場合の,加振後の飽和度 Srf~加速度関係を示している.土全体の加振後の飽和度は測定点全点平均沈下量から求められる.飽和度の不均質な分布は考えていない.図-8 では Sr0 = 55 %のケースで 700 Gal 加振後に Sr = 80 %を超えた.図-9 は,初期乾燥密度 ρd0 = 1. 30 Mg/m3 において,初期飽和度を変化させた場合の,加振後の飽和度 Srf~加速度関係を示している.図-9 では Sr0 = 60 %のケースで 700Gal 加振後に Sr = 80 %を超えた.図-8 の Sr0 = 55%のケース,図-9 の Sr0 = 60 %のケースでは,共に加速度 600 Gal ~700 Galにかけ,飽和度 80 %を超える辺りから加振による飽和度の増加幅が小さくなっていることがわかる.これは,不飽和液状化の発生と関係があると考えている.907060Sr0=55%Sr0=50%504030Sr0=40%Sr0=35%Sr0=30%2090加振後の飽和度 Srf (%)加振後の飽和度Srf (%)80Sr0=60%8070Sr0=55%605040Sr0=40%Sr0=35%30200 300 400 500 600 700加速度(Gal)200 300 400 500 600 700加速度(Gal)図-8 加振後の飽和度~加速度関係(ρd0 = 1. 25 Mg/m3)-20-図-9 加振後の飽和度~加速度関係(ρd0 = 1. 30 Mg/m3) 図-10 は,初期乾燥密度 ρd0 = 1. 30 Mg/m3 において,初期飽和度を変化させた場合における,加振後の飽和度 Srf から初期飽和度 Sr0 を減じた飽和度増分(ΔSr = Srf - Sr0)~加速度関係を示している.図-10 から初期飽和度が大きいほど,加振後の飽和度増分が上昇しやすく(小さな加速度でも飽和度増分が発生しやすい),加速度が大きくなった際の加振による飽和度の上がり方が大きいことがわかる.ここで,図-10 における飽和度増分~加速度関係の傾き(100gal ごとの飽和度増分 Δ(ΔSr))について検討する.図-11 に,100 gal ごとの飽和度増分 Δ(ΔSr)~加振後の飽和度 Srf 関係を示したグラフを示す.白抜きのプロットが小型土槽,塗りつぶしのプロットが大型土槽での実験結果を示している.グラフの 5 ケースはいずれも 700 Gal 加振後に飽和度80 %を超えていたケースであり,不飽和液状化が発生したケースである.図-11 から,飽和度 80 %以下において,100 galごとの飽和度増分 Δ(ΔSr)は,初期乾燥密度・土槽のサイズに関わらず,線形的に増加し傾きは概ね同じ傾向にあることがわかる.また,飽和度 80 %を超えると,100 gal ごとの飽和度増分 Δ(ΔSr)が急激に減少することがわかる.この結果より,飽和度の増分(%)25Sr0=60%20Sr0=55%15105Sr0=40%0Sr0=35%200 300 400 500 600 700一回の加振に伴う飽和度の増分(%)不飽和地盤の飽和度が 80 %を超えると飽和度が急激に増えにくくなると考えられる.35'ρdo=1.20ρd0=1.20Mg/m330ρd0=1.25ρd0=1.25Mg/m325ρd0=1.30ρd0=1.30Mg/m32015ρd0=1.35ρd0=1.35Mg/m31050405060708090 100大型1.30oogataρd0=1.30Mg/m3大型1.35oogataρd0=1.35Mg/m3加振後の飽和度(%)加速度(Gal)図-10 飽和度増分~加速度関係(ρd0 = 1. 30 Mg/m3)図-11 加振に伴う飽和度の増分~加振後の飽和度関係5. 飽和度に着目した不飽和地盤の破壊形態の評価法の提案不飽和地盤の破壊形態を,土槽の形状・サイズによらず相対的に評価する手法を考える.図-12 に,700 gal 加振後の飽和度~初期飽和度関係を表したグラフを示す.白抜きのプロットが小型土槽,塗りつぶしのプロットが大型土槽での実験結果をそれぞれ示す.図-12 の対角線は加振後の飽和度が初期飽和度と等しい状態,つまり,体積変化を起こさないラインを示し,このラインより上側は圧縮,ラインより下側は膨張をそれぞれ示す.今回の実験のケースではすべて圧縮(沈下)を示した.100破壊形態の境界線ρd0=1.15Mg/m³不飽和液状化不飽和すべり80ρd0=1.20Mg/m³振動後の飽和度(%)ρd0=1.25Mg/m³ρd0=1.30Mg/m³60ρd0=1.35Mg/m³大型ρd0=1.15Mg/m³40大型ρd0=1.20Mg/m³大型ρd0=1.25Mg/m³20大型ρd0=1.30Mg/m³大型ρd0=1.35Mg/m³0020406080100初期飽和度(%)図-12 振動後の飽和度~初期飽和度関係-21- 図-12 から,小型土槽,大型土槽ともに初期飽和度 40 %程度までは初期飽和度と加振後の飽和度の差があまりみられないが,初期飽和度 40 %以上のケースでは,加振後の飽和度の上昇が顕著になる.そして,その上昇率は初期乾燥密度が小さいほど大きく,土槽の形状・サイズによらず,初期乾燥密度の違いで概ね線形的に関連づけられることが確認できる.図-12 において,初期乾燥密度 1. 30 Mg/m3,初期飽和度 35 %のケースを除き,すべてのケースで地盤にクラックが発生(不飽和すべり)した.一方,加振後の飽和度が 80 %以上の 6 つのケースでは小型土槽,大型土槽に関わらずいずれも地表面に流出水が発生(不飽和液状化)した.逆に,加振後の飽和度が 80 %以下では不飽和液状化を示さなかった.このことは,飽和度 80 %付近を境界として地盤に相転移が起こることを示していると考えられる.これらの結果は,地盤内において飽和度の不均質な分布は存在していると考えられるが,それらを考慮せず,模型土槽程度の大きさを対象にして求めた全体的な乾燥密度,飽和度を用いた簡単な手法で,地震外力に伴う不飽和地盤の飽和度変化と破壊形態を概ね評価できる可能性があることを示している.6. おわりに振動台を用いて鹿島海浜砂から成る不飽和模型地盤の地震時の沈下挙動・破壊形態を実験的に考察した.その結果,初期飽和度が大きいほど地震時の飽和度は増加しやすいことがわかった.しかし,飽和度 80 %を境にして飽和度増分が著しく減少する傾向がみられた.加えて,飽和度が 80 %近くなるとクラックやすべり,飽和度が 80%を超えると液状化といった破壊形態がみられた.このことから,不飽和地盤の破壊形態について,ある飽和度を境界にして相転移が起こり,不飽和液状化は地盤内に空気をトラップしたまま液状化が発生すると推定される.また,初期飽和度が小さい場合,700gal まで加振しても破壊しなかった.逆に言えば不飽和地盤が破壊するか否かは,地震前の飽和度を把握すれば判断できると考えられる.今後は,材料や加振条件を変えた際の沈下特性,破壊形態等を考察・検討してメカニズムを明らかにしていきたい.謝辞:本研究は国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課,平成 26 年度 河川砂防技術研究開発公募 地域課題分野(砂防)「早川流域における降雨と地盤の保水・透水特性に着目した土砂流出特性に関する研究」(研究代表者:荒木功平),JSPS 科研費 24760381(若手 B)(研究代表者:荒木功平)の援助を受けました.ここに深甚の謝意を表します.参考文献1) 竹村弥生・建山和由:振動場における粒状体の挙動に関する実験的研究,土木学会論文集 C,Vol.68,No.1,pp127137,20122) Sakai, T., Suehiro, T., Tani, T., and Sato, H.: Geotechnical performance of the Kashiwazaki-Kariwa Nuclear PowerStation caused by the 2007 Niigataken Chuetsu-oki earthquake, Case History Volume for Performance-Based Design inEarthquake Geotechnical Engineering, Technical Committee No.4, ISSMGE, pp.1-29, 20093) 若松・吉田・清田:土木学会東日本大震災被害調査団(地震工学委員会)緊急地震被害調査報告書,第 6 章造成地の被害,p.7,20114) 社団法人 地盤工学会:土質試験-基本と手引-(第二回改訂版),pp.17-25,2011-22-
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  • タイトル
  • 短繊維混合固化処理土の強度および靱性
  • 著者
  • 重松 宏明・山栗 祐樹・西田 大晃
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 23〜28
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69514
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)1-3短繊維混合固化処理土の強度および靱性〇重松宏明 1・山栗祐樹 2・西田大晃 31石川工業高等専門学校・2 金沢大学理工学域・3 大鉄工業株式会社1. 緒言近年,廃棄物処理法の改正(1992)に伴い,建設事業における各種廃棄物(スラグ 1),フライアッシュ 2),PS 灰 3),タイヤチップ4),木質チップ5)など)の有効活用が強く求められている.このことから,これら廃棄物を未利用資源として位置づけ,土と廃棄物を組み合わせた混合地盤材料,いわゆる“次世代型地盤材料”の開発が積極的に行われるようになってきた.こうした中,筆者らは建設発生土のリサイクルを目的に,廃石膏ボードから再生させた半水石膏を石灰系固化材の添加材として利用した場合,どの程度の強度発現効果が見込めるのかを実験的に検証してきた.その結果,本固化材が土質改良材として十分に適用できることが明らかになった6).しかしながら,東北地方太平洋沖地震(2011.3.11)において道路や河川堤防,造成地といった多くの土構造物が軒並み崩壊したように,土の強度発現のみの追求では,大きな外力に対しての安定性・耐久性は担保できない.そこで本研究では,筆者らがこれまで開発してきた廃棄物由来の石灰系固化材に,同じく廃棄物である短繊維(ポリエステル)を組み合わせた“短繊維混合固化処理工法”を検討することにした.この工法の特徴は,土や安定処理土に長さ数十~数百 mm 程度の短繊維(写真-1 参照)を混ぜ合わせることによって,短繊維と土粒子もしくは短繊維同士を複雑に絡み合わせて土そのものに“引張力”を持たせるところにある.強度(strength)に加え,靱性(toughness)という“粘り強さ”を土の素材として新たに組み込むことによって,地盤材料としての力学的な向上が期待できる.本論文は,筆者らがこれまで開発してきた石灰系固化材に,短繊維を組み合わせて土質改良を施した固化処理土(以後,短繊維混合固化処理土と呼ぶ)の力学特性を明かにすることを目的としている.そのために,シルト質の粘性土を処理対処土として用意し,これに石灰系固化材と短繊維を異なる配合で混ぜ合わせて作製した供試体に対して,圧密非排水三軸圧縮( CU )試験を実施した.これらの実験結果から,短繊維混合が土のせん断強度・ダイレイタンシー特性にどのような影響を及ぼすのかを詳細に検証した.また CU試験の結果をベースに,圧縮タフネスを求め,短繊維混合固化処理土の靱性(粘り強さ)についても工学的評価を試みた.写真-1 短繊維(ポリエステル)2. 室内実験の概要2.1 使用材料実験で使用する短繊維は,石川県内の繊維会社から毎年大量に排出される長さ 10~20 mm 程度のポリエステルである(写真-1 参照).石灰系固化材は,工業用消石灰(Ca(OH)2)を母材とし,これに石膏と珪質土の 2 種類を添加材として組み合わせたものである.石膏は,石川県内の建築現場から排出した廃石膏ボードを紙類除去・破砕分離して得られた二水石膏(CaSO4・2H2O)を,110℃で 24 時間炉乾燥させた半水石膏(CaSO4・1/2H2O)である.珪質土は,シリカ(SiO2)を主成分とする多孔質材料で,表-1 藤森土の物理特性古くからスラグを取り除くための除滓材や濾過材などに多用されてきた.Fuji10 Fuji14しかしながら,これらの用途には一定以上の粒径確保が求められており,土粒子の密度 ρs (g/cm )製品が完成するまでの工程において,細かい土粒子の多くが廃材(脱水ケ最大乾燥密度 ρdmax (g/cm3) 1.601 1.524ーキ)として排出されてしまう.そこで本研究では,廃材分を乾燥させて最適含水比 wopt (%)22.9粉砕し,本固化材の添加材として利用することにした.また,珪質土はシ砂分 (%)12.75.7リカに富み,かつアルミナ(Al2O3)も十分に含有されていることから,中シルト分 (%)76.975.7粘土分 (%)10.418.6長期的にわたって土が硬化するポゾラン反応にも大きく寄与するものと考えられる(ただし,本論文では,ポゾラン反応については一切言及しない).各原料の比率は乾燥質量比で消石灰 2 に対して,半水石膏 1,珪質土 1 である.この配合は,廃石膏ボードの破砕分離後に得られる石膏(二水石膏),廃材として排出される珪質土の安定的な供給および固化材の大幅なコストダウンを見込んで決定した.32.689 2.70524.4液性限界 wL (%)43.842.1塑性限界 wP (%)21.022.7塑性指数 IP22.819.4活性度 A3.931.52Strength and Toughness of Lime stabilized soil by Short-Fiber MixingHiroaki Shigematsu1, Yuki Yamakuri2, Hiroaki Nishida3 (1National Institute of Technology, Ishikawa College, 2KanazawaUniversity, 3Daitetsu Kogyo Co. Ltd.) KEY WORDS: Short-Fiber, Triaxial Compression Test, Strength, Toughness-23- 処理対象土には,京都市深草地区で採取された固化材蒸留水短繊維20℃市販のパウダー状の粘性土試料(0.425 mm ふるい通過分)を用いた.以後,この土試料を藤森土と呼ぶことにする.表-1 に藤森土の物理特性を示す.表中の Fuji10 と Fuji14 は,それぞれ 2010 年,2014①加水後に固化材混合②湿潤養生(3日間)③短繊維混入年に購入した藤森土の呼び名を表わす.表に示すように,同じ藤森土でも購入時期によって,粒度やコンシステンシー限界が若干異なっている.これらの違いは,そのまま活性度にも表れ,かつ最大乾燥密度や最適含水比にも大きく影響している.uの測定両者の藤森土は,多くが細粒分で構成されており,側圧その大半がシルトである.塑性図で分類すると,④供試体の作製「低液性限界粘土(CL)」に,活性度で分類すると「活性粘土(1.25 < A)」に相当する.2.2 試料調整,供試体の作製および試験方法試料調整から供試体の作製,試験方法までを説表-2 基本配合(乾燥質量100g当たり)供試体の呼び名明する.図-1 に一連の実験手順を示す.先ず加水処理対象土の種別調整した藤森土に所定の混合率(8%,12%)で固短繊維混合率化材を混ぜ合わせた後(図-1①),乾燥しないよう固化材混合率に施し,インキュベーター内にて一定温度(20℃)のもと,3 日間湿潤養生させる(図-1②).この間にエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)反応が起こる.養生終了後,よく解きほぐした短繊維を所定の混合率(0.5%,1.0%)で土試料に混ぜ合わせ(図-1③),円筒形の割型モールドに詰めて静的に締め固める(図-1④).なお,表-2 の基本配合にしたがって調整した土試料の初期含水比を⑤圧密非排水三軸圧縮試験図-1 実験手順A 短繊維(g)B 土質材料(g)短繊維混合土短繊維混合固化処理土Fuji10Fuji140% 0.5% 1.0% 0% 0.5% 1.0% 0% 0.5% 1.0%0%00.58%1.000.512%1.000.5100 99.5 99.0 92.0 91.5 91.0 88.0 87.5 87.0固 C 消石灰(g)04.06.0化 D 半水石膏(g)02.03.0材 E 珪質土(g)02.03.0加水量*(g)22.924.4乾燥密度**(g/cm3)1.6011.524処理対象土である藤森土の最適含水比(=22.9% or1.0*:加水量  A  B  C  D  E  w opt100  * * : 脱型前24.4%)と同じ値になるようにするため,加水量を表-2 下の計算式から求めた.また,組み立てた後のモールドの容積 V(内径 5 cm,高さ 10 cm)が一定であることから,短繊維,土質材料(Fuji10 or Fuji14),各固化材原料の合計(=A+B+C+D+E)を V で除した値が脱型前の供試体(図-1④)の乾燥密度に相当し,藤森土の最大乾燥密度(=1.601 g/cm3 or 1.524 g/cm3)と同じ値になるように調整してある.ただし,脱型後のリバウンドによる体積膨張がどうしても避けられないため,実際の試験開始時における供試体の乾燥密度は,脱型前のものと比べて幾分低くなる.また,本研究は土の力学特性に及ぼす短繊維のみの影響についても調べるため,加水調整後の藤森土に短繊維のみを混ぜ合わせた供試体(以後,短繊維混合土と呼ぶ)も同様の手順で作製した.脱型後,供試体を三軸試験装置にセットし, CU 試験を開始する.圧密応力については,固化材未混入の短繊維混合土に対しては σc’=100 と 200 kN/m2,短繊維混合固化処理土に対しては σc’=20,50,100 kN/m2 に設定した.所定の圧密応力で等方圧密した後,B 値(=Δu/Δσ)を確認した上で,非排水状態で側圧一定のもと,軸方向に荷重を載荷させてせん断を開始する.ひずみ速度は,せん断応力に対して遅れて出てくる過剰間隙水圧を考慮し,0.01%/min を採用する.3. 結果および考察3.1 短繊維混合土のせん断強度・ダイレイタンシー特性短繊維混合固化処理土の力学特性を考察する前に,先ず土の力学特性に及ぼす短繊維のみの影響を把握する必要がある.そこで,表-2 に示す短繊維混合土の配合で作製した供試体に対して, CU 試験を実施した.図-2~4 は試験結果で,(a)に σc’=100 kN/m2 を,(b)に σc’=200 kN/m2 を示す.先ず,図-2 の軸差応力-軸ひずみ関係から挙動全体を見てみると,σc’=100,200 kN/m2 ともに短繊維を混ぜ合わせることによって若干の軸差応力の増加は認められるものの,石灰安定処理を施した場合のような著しい強度発現効果は見られない.しかしながら,軸ひずみ 15%を過ぎても破壊には至らず(ピーク強度には達せず),顕著なひずみ硬化挙動を示している.次に,短繊維混合土の力学特性を図-3 の過剰間隙水圧-軸ひずみ関係から見てみると,土に短繊維を混ぜ合わせることで過剰間隙水圧の減少を抑制している感がある.表-2 の配合で作製したすべての供試体は,処理対象土である藤森土の最適含水比で調整し,かつ藤森土の最大乾燥密度と同じ値になるように調整して作製しているため,本実験の圧密応-24- 22Excess pore water pressure u (kN/m )100080060040020012140-100-200210008006004002006810Axial strain εa (%)1214図-2 軸差応力-軸ひずみ関係(短繊維混合土)0%0.5%1.0%46810Axial strain εa (%)121400200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )16160030014002001200(b) Sta:0%, σc'=200kN/m22Excess pore water pressure u (kN/m )2Deviator stress q (kN/m )1200440020%0.5%1.0%2600(b) Sta:0%, σc'=200kN/m1400002400(b) Sta:0%, σc'=200kN/m800200-300-40001610001001610010000-100-2000%0.5%1.0%-300-4000246810Axial strain εa (%)121480060040020016図-3 過剰間隙水圧-軸ひずみ関係(短繊維混合土)M=1.717=1M.2=74 1.5006810Axial strain εa (%)1200M4200216002(a) Sta:0%, σc'=100kN/m2140021200Deviator stress q (kN/m )20%0.5%1.0%300Deviator stress q (kN/m )14000%0.5%1.0%M=1.717=1M.2=74 1.500(a) Sta:0%, σc'=100kN/mM2001600400(a) Sta:0%, σc'=100kN/mDeviator stress q (kN/m )16000%0.5%1.0%00200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )図-4 有効応力径路(短繊維混合土)力下においては,過圧密比(OCR)の大小の違いはあるにせよ,間違いなく過圧密領域に位置している.一般に OCRの大きい過圧密土(重過圧密土)を非排水せん断すると,図-3(a)に見られるように,せん断初期において僅かに正の過剰間隙水圧が発生し,その後せん断の進行とともに過剰間隙水圧は減少し,やがて負へと移行していく.せん断時に負の過剰間隙水圧が有効拘束圧として加わると,軸差応力は増大する.つまり,過剰間隙水圧の減少が抑制されると,有効拘束圧として加わる分が減るため,軸差応力の増加は幾分抑えられる.この短繊維による過剰間隙水圧減少の抑制が,強度発現を妨げている要因の 1 つではないかと考えられる.図-4 に短繊維混合土の有効応力径路を示す.図より,σc’=100 kN/m2 では,短繊維混入量の多少にほとんど関係なく,せん断初期から正のダイレイタンシーを示し,限界状態に達した後も限界状態線(Critical State Line,CSL)上をせり上がり体積膨張しようとしている.これに対して σc’=200 kN/m2 では,せん断初期においてのみ,僅かに負のダイレイタンシーを示し,限界状態に達した後は正のダイレイタンシーに転じ,同じく CSL 上をせり上がり体積膨張しようとする.また,CSL 上における応力比 M(=q/p’)に注目すると,M=1.274,1.500,1.717 と,M は短繊維混合率の増加とともに大きくなっている.これは土に短繊維を混ぜ合わせることによって,限界状態における土粒子間の摩擦抵抗が大きくなることを意味し,これが顕著なひずみ硬化挙動を示す要因であると考えられる.以上のことから,土への短繊維のみの混合では,大きな強度発現効果は得られないまでも,顕著なひずみ硬化挙動を示す.次節では,これに石灰系固化材を組み合わせた場合を考察する.3.2 短繊維混合固化処理土のせん断強度・ダイレイタンシー特性土質改良材として短繊維と石灰系固化材を組み合わせて用いた場合,短繊維は石灰安定処理土の力学特性(せん断強度・ダイレイタンシー)にどのような影響を及ぼすのであろうか?この点を明確にするために,表-2 に示す短繊維混合固化処理土の配合で作製した供試体に対して, CU 試験を実施した.図-5~7 に固化材混合率 8%,図-8~10 に固化材混合率 12%の試験結果を示す.(a)(b)(c)はそれぞれ σc’=20,50,100 kN/m2 の場合を表わす.先ず,図-5 および 8 の軸差応力-軸ひずみ関係から挙動全体を見てみると,短繊維混合固化処理土は固化材混合率および σc’の高低に関係なく,短繊維混合率の増加に伴って著しい強度発現効果が見られる.この点は,短繊維のみを混ぜ合わせた場合(短繊維混合土)とは大きく異なる.しかも,せん断の進行とともに軸差応力は増大し続け,軸ひずみ 15%を過ぎてもピーク強度には至らず,明瞭なひずみ硬化挙動を示している.したがって,藤森土のようなシルト質土を処-25- 6810Axial strain εa (%)1214-20028006004000%0.5%1.0%200246810Axial strain εa (%)12141410008006004000%0.5%1.0%200246810Axial strain εa (%)1214図-5 軸差応力-軸ひずみ関係(固化材混合率 8%)16.77233 M=1 .5164M=1M12000%0.5%1.0%10000-100-200-3008006004000%0.5%1.0%200246810Axial strain εa (%)121400200 400 600 800 1000Mean effective stress p'(kN/m 2)161600(c) Sta:8%, σc'=100kN/m300140020012000%0.5%1.0%100(c) Sta:8%, σc'=100kN/m2M=1.772 →10000-100-200-300-4000(b) Sta:8%, σc'=50kN/m21400212000%0.5%1.0%00200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )161600100400(c) Sta:8%, σc'=100kN/m2Excess pore water pressure u (kN/m2)212200-4000161400Deviator stress q (kN/m )6810Axial strain εa (%)Deviator stress q (kN/m 2)Excess pore water pressure u (kN/m2)Deviator stress q (kN/m 2)1000004300120016002(b) Sta:8%, σc'=50kN/m2140000400200400(b) Sta:8%, σc'=50kN/m600-300-4000168008006004000%0.5%1.0%200246810Axial strain εa (%)1214図-6 過剰間隙水圧-軸ひずみ関係(固化材混合率 8%)16M=33 1.56414-1002160020=1.2001000M4000%0.5%1.0%1001.772=1.3 M=311.5646001200M=800200(a) Sta:8%, σc'=20kN/m2M10001400Deviator stress q (kN/m )Deviator stress q (kN/m )1200300=1.2214002(a) Sta:8%, σc'=20kN/m0%0.5%1.0%Deviator stress q (kN/m )2001600400(a) Sta:8%, σc'=20kN/mExcess pore water pressure u (kN/m2)160000200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )図-7 有効応力径路(固化材混合率 8%)理対象土とし,かつ表-2 に示す配合条件の範囲内(固化材混合率 8~12%,短繊維混合率 1%以下)であれば,短繊維と本固化材との組み合わせは非常に良好で,強度と靱性の両者を併せ持つ材料の性質へと改良が期待できる.次に,短繊維混合固化処理土の力学特性を図-6 および 9 の過剰間隙水圧-軸ひずみ関係から見てみると,軸ひずみ 1%未満のせん断初期において正の過剰間隙水圧が発生し,その後せん断の進行とともに過剰間隙水圧は減少し,やがて負へと移行していく.つまり,短繊維・固化材混合率の高低にそれほど影響されず,すべてにおいて重過圧密土の挙動を示している.また,前節で述べた短繊維混合土とは異なり,短繊維が過剰間隙水圧の減少を抑制している様子がほとんど見られないことから,せん断強度が妨げられることはない.図-7 および 10 の有効応力径路から短繊維混合固化処理土のダイレイタンシー特性を見てみると,短繊維・固化材混合率の高低に関係なく,すべての条件でせん断初期から正のダイレイタンシーを示し限界状態に至っていることが分かる.CSL 上における応力比 M に目を向けると,短繊維混合率の増加に伴って M は大きくなっている.また,固化材混合率 8%の場合で短繊維混合土(図-4)と短繊維混合固化処理土(図-7)の両者の M を比べてみると,僅かではあるが,-26- 8006004000%0.5%1.0%2001600246810Axial strain εa (%)121420012000-200800600400-300400(b) Sta:12%, σc'=50kN/m1000-100-4000160%0.5%1.0%1002246810Axial strain εa (%)121400200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )161600(b) Sta:12%, σc'=50kN/m30014002001200(b) Sta:12%, σc'=50kN/m26004000%0.5%1.0%20000246810Axial strain εa (%)12141610000-100-200-300-4000図-8 軸差応力-軸ひずみ関係(固化材混合率 12%)=1.3568000%0.5%1.0%100800M100022Deviator stress q (kN/m )1200Deviator stress q (kN/m )2Excess pore water pressure u (kN/m )0%0.5%1.0%20021400(a) Sta:12%, σc'=20kN/m2=1.356100014002Excess pore water pressure u (kN/m2)2Deviator stress q (kN/m )1200300M=1.M= 7911.67821400001600(a) Sta:12%, σc'=20kN/mM2M=1.M= 7911.678400(a) Sta:12%, σc'=20kN/mDeviator stress q (kN/m )16006004000%0.5%1.0%200246810Axial strain εa (%)1214図-9 過剰間隙水圧-軸ひずみ関係(固化材混合率 12%)1600200 400 600 800 10002Mean effective stress p'(kN/m )図-10 有効応力径路(固化材混合率 12%)すべての短繊維混合率において短繊維混合固化処理土の方が M は高い値を示している.このことから限界状態においても,短繊維と石灰系固化材の両者を組み合わせることによって,土粒子間の摩擦抵抗はより一層大きくなることが理解できる.写真-2 は,CU 試験に用いた供試体を試験後(軸ひずみ:15~16%)に撮影したものである.写真に示すように,短繊維を混ぜ合わせていない供試体(写真-2(a))は,脆性破壊したような明瞭な V字型のせん断面が見られる(軸差応力-軸ひずみ関係を見ても分かるように,実際は脆性的な挙動を示しているわけではない).これに対して,短繊(a)短繊維混合率0% (b)短繊維混合率0.5% (c)短繊維混合率1.0%維を混ぜ合わせると,せん断面は認められるもの写真-2 供試体の破壊状況(固化材混合率12%,σc’=20kN/m2)の,鮮明さは徐々に失っていく様子が見られる(写真-2(b)(c)).視覚的ではあるが,写真から短繊維混合固化処理土の粘り強さを確認することができる.3.3 短繊維混合土および短繊維混合固化処理土の圧縮タフネス図-11 は,日本コンクリート工学会(JCI)規準 7)で定められている繊維補強コンクリートの圧縮タフネスを定義したものである.筆者らは,この JCI 規準に準拠して求めた圧縮タフネスを用いて,短繊維混合土および短繊維混合固化処理土の靱性を評価した.図に示すように,一連の CU 試験の結果から,供試体の変形量 δtc がひずみに換算して 15%となるまでの荷重-変形曲線下の面積を求め,これを圧縮タフネス Tc とした.図-12 に各圧密応力 σc’における圧縮タフネス Tc と短繊維混合率の関係を示し,(a)(b)(c)はそれぞれ固化材混合率 0%,8%,12%の場合を表わす.図より,固化材未混入の短繊維混合土には,短繊維の多少による Tc の変化はほとんど見られない. 軸差応力-軸ひずみ関係では,短繊維混合による顕著なひずみ硬化挙動が見られるものの,圧縮タフネスで評価-27- 40Compressive toughness T c (J)すると,靱性を向上させるまでには至らない.これに対して,短繊維混合固化処理土の方は,灰系固化材の組み合わせによって圧縮タフネスは増大し,靱性に富んだ材料の性質へとTc変化していく.Deformation4. 結言石灰系固化材に,短繊維を組み合わせて土質材と短繊維を異なる配合で混ぜ合わせて作製した供試体に対して,圧密非排水三軸圧縮( CU )試験を実施した.これらの実験結果から,以下のような知見を得た.(1) 短繊維のみの混合は,顕著なひずみ硬化挙動を示すものの,大きな強度発現効果は得られない.この要因の 1 つとして,(b) Stabilizer 8%302010220kN/m 250kN/m 2100kN/m020102100kN/m200kN/m 200.51.0Mixture rate of Sort-Fiber (%)4040Compressive toughness T c (J)特性を明かにすることを目的に,石灰系固化300図-11 圧縮タフネスの定義本論文は,筆者らがこれまで開発してきた改良を施した短繊維混合固化処理土の力学δtcCompressive toughness T c (J)比例的に増大している.つまり,短繊維と石Load短繊維の混入量を増やすことによって Tc が(a) Stabilizer 0%00.51.0Mixture rate of Sort-Fiber (%)短繊維による過剰間隙水圧減少の抑制が(c) Stabilizer 12%302010020kN/m 250kN/m 200.51.0Mixture rate of Sort-Fiber (%)図-12 圧縮タフネスと短繊維混合率の関係挙げられる.(2) 藤森土のようなシルト質土を処理対象土とし,かつ本研究の配合条件の範囲内(固化材混合率 8~12%,短繊維混合率 1%以下)であれば,短繊維と本固化材との組み合わせは非常に良好で,強度と靱性の両者を併せ持つ材料の性質へと改良が期待できる.また,限界状態においても,短繊維と石灰系固化材を組み合わせることにより,土粒子間の摩擦抵抗はより一層大きくなる.(3) 短繊維と石灰系固化材の組み合わせによって圧縮タフネス(JCI 規準)は増大し,靱性に富んだ材料の性質へと変化していく.謝辞:本論文をまとめるに当たって,石川工業高等専門学校竹本邦夫教授から,材料の靱性評価に関して貴重なアドバイスを頂きました.末筆ながら,記して感謝の意を表します.参考文献1) 本間裕介・玉井智子・冨永晃司・永井及:杭周辺地盤改良材として適用するための鉄鋼スラグの力学的特性に関する基礎的実験,地盤工学ジャーナル,Vol. 1,No. 4,pp.123-130,2006.2) 岩原廣彦・佐々木勝教・山中稔・長谷川修一・増田拓朗・森邦夫:フライアッシュを主原料とした粒状材料の開発とその特性,地盤工学ジャーナル,Vol. 3,pp. 25-35,No. 1,2008.3) 重松宏明・出村禧典・藤原慶美:製紙スラッジ混合による軟弱地盤の安定化に及ぼす活性度の影響評価,土木学会論文集 C,Vol.66,No.4,pp.695-705,2010.4) 御手洗義夫・安原一哉・菊池喜昭・Ashoke K. Karmokar:古タイヤゴムチップを固化処理土に混合した新しい地盤材料の開発と力学的特性,土木学会論文集 C,Vol. 63,No. 3,pp.881-900,2007.5) 重松宏明・崎浦雄大・谷多好美・田崎宏:竹チップ混合土の歩行者系舗装材としての適用性,第 10 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,pp.63-68,2013.6) 重松宏明・西澤誠・藪下諒二・吉村康平・田中均・辻要:廃石膏ボード由来の半水石膏を混合した石灰安定処理土の強度発現特性,土木学会論文集 C(地圏工学)Vol. 69,No. 2,pp.272-284,2013.7) 公益社団法人日本コンクリート工学会:繊維補強コンクリートの圧縮強度及び圧縮タフネスの試験方法,JCI 規準集,pp.73-76,2004.-28-
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  • タイトル
  • 軟弱粘土地盤における丸太筏 - 列杭複合基礎による周辺地盤の変形抑制効果
  • 著者
  • 佐々木 仁・末次 大輔
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 29〜32
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69515
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)1-4軟弱粘土地盤における丸太筏-列杭複合基礎による周辺地盤の変形抑制効果○1 佐々木仁,2 末次大輔1 佐賀大学大学院工学系研究科・2 佐賀大学低平地沿岸海域研究センター1.はじめに山間部の人工林は,植える,育てる,伐採するという林業サイクルが必要となる。しかし,安い外国産木材の流通や林業従事者の減少によって,管理の手が行き届かない人工林が多く存在している。間伐等が行われたとしても,現状ではそれらの利用先が少ないため,切り倒されてその場に放置される場合が多い。林業サイクルの低下とそれに伴う山間部の荒廃が深刻な問題となっており,国産木材の積極的な利用が求められている。一方で,佐賀平野には軟弱な有明粘土が厚く堆積しており,盛土等の構造物を建設する際には,軟弱地盤対策が不可欠となる。軟弱地盤対策に間伐材を使用すれば,人工林の管理を促進させることとなるので,山間部の環境再生,ひいては林業の再興に貢献できる。さらには,CO2 吸収の可能な経営森林に再生され,地球温暖化の緩和策として,環境に配慮した盛土等の建設が可能になる。著者らは,間伐材を有効利用した軟弱地盤対策工法として,筏基礎と列杭を併用する丸太筏‐列杭複合基礎(Raft & Pile 基礎)の開発を進めている。筏-列杭複合基礎の現場盛土載荷実験を行い,基礎の不同沈下緩和効果や周辺地盤の隆起抑制効果を確認した1)。しかし,筏基礎の構造が不同沈下や周辺地盤の変形に及ぼす影響が不明であることや,筏基礎の組み立てが手作業となるので建設コストがかさむという課題も明らかとなった。より幅広い地盤条件への適応を可能とするためには,丸太筏-列杭複合基礎の変形抑制効果を明らかにするとともに,より合理的な構造にする必要がある。バーチカルドレーンを併用して筏基礎直下の圧密を促進し,地盤そのものの剛性を高めることで変形を抑制できると考えられる。そこで,本研究では,筏基礎の構造の変更,ならびにバーチカルドレーンを併用した筏-列杭複合基礎の模型載荷実験を行った。本論文では,筏基礎の変形および周辺地盤の挙動を比較して,筏基礎の構造の変更とドレーンを併用による軟弱地盤の変形抑制効果について考察した。2.Raft & Pile 基礎について現場実験における筏基礎を図-1 に示す。Raft & Pile 工法の概略図を図-2 に示す。Raft & Pile 基礎は,筏基礎と列杭から成っている。筏基礎にはたわみ変形による荷重分散や不等沈下の緩和効果を期待する。列杭には地盤の側方流動抑制効果を期待する。木材は地下水位以下において高い耐久性が確認されている2)3)。Raft& Pile 基礎を地下水面下に沈めれば長期にわたって使用することができ,さらには,木材に吸収された CO2 を半永久的に地下に貯蔵することが出来る。また,実施工では,丸太が軽量であることや軟弱地盤であることなどから,特殊な大型機械が不必要であることが確認されている。図-2図-1 組み立てた筏基礎の状況 1)Raft & Pile 工法3.実験概要模型実験で使用した模型筏基礎の概略図を図-3 に示す。盛土荷重載荷時に粘土地盤中で丸太がばらばらにならないように,筏基礎の上下面を鋼材とボルト(以後,これらを締付け材と呼ぶ)で締め付けて個々の丸太の動きを拘束する。模型ドレーンの設置状況の概略図を図-4 に示す。ドレーンは筏基礎直下に打設している。このため,盛土荷重載荷時には筏直下の粘土地盤の圧密が促進され,地盤の強さを高めながら盛り立てを行うことが出来る。本実験では,模型ドレーン材に市販のジオテキスタイルを使用した。筏基礎直下に幅 1cm×長さ 10cm×厚さ 0.5cm に裁断した模型ドレーン材を縦 5列・横 7 列・3cm 間隔で 35 本打設し,その上部に厚さ 0.5cm の排水層(豊浦砂)を敷設する。ドレーンは,アルミ製薄板で挟み込み,垂直に打設したのちに薄板を抜くという方法を用いた。模型地盤に用いた試料は,佐賀県小城市の六角川河口____________________________________________________Deformation control by timber raft & pile composite foundation with embankment loading on soft groundJin Sasaki1, Daisuke Suetsugu2 (1Graduat School of Engineering Saga University, 2 ILMR, Saga University)KEY WORDS: Soft ground, Timber Raft, Timber Pile, Vertical drain-29- 図-3 締付け材を有する模型筏基礎図-4 ドレーンの設置について図-6 実験ケース図-5 模型載荷実験装置で採取した有明粘土である。模型実験には縦 30cm・横 90cm・奥行き 20cmの土槽を用いた。図-5 に載荷実験に用いた模型土槽を示す。模型地盤の作製手順は次の通りである。初めに,土槽内壁面にシリコーングリースを塗り,その上にラテックスラバーメンブレンを貼る。土槽前面は内部が観察できるようにガラスとなっており,この面には,1cm 四方のメッシュを描いたラバーメンブレンを貼り付けて荷重載荷時の模型地盤内部の挙動を観察できるようにした。次に,液性限界の(a) Case T(締付けの有無)(b) Case D(ドレーンの有無)図-7 筏基礎中心部の経時変化1.25 倍に含水比を調整した試料土を土槽に入れ,ベロフラムシリンダーで2.5kPa,4.5kPa,5kPa の荷重を段階的に載荷して模型地盤を作製する。高含水比の粘土地盤中で丸太を使用すると周辺部粘土の水分を吸収され,それによって地盤の挙動が影響を受けると考えられたので,今回模型実験では,間伐材(丸太)の模型としてヒノキ材(φ=3mm,L=6cm)を用い,これを敷き並べて,縦 18cm,横 24cm の模型筏基礎を作製した。CaseT-1の条件の模型筏基礎では鋼板とボルトによって締付けを行う。本研究で行った一連の模型実験の条件を図-6 に示す。本実験ケースは,筏の締付けを行った Case T とドレーンを併用した Case D である。なお,CaseT-0 と CaseD-0 は,条件は同等であるが,使用した有明粘土の物理・化学的性質が若干異なったため,今回はそれぞれ CaseT(rs=2.60g/cm3,wn=299.8%, wL =158.2%, Ip =98.9)では CaseT-1 の比較対象として CaseT-0,CaseT(rs=2.61g/cm3,wn =198.2%, wL=145.2%, Ip =82.1)では CaseD-1 の比較対象として CaseD-0 とした。筏の構造は 3 層とし,2 層目の筏基礎は 1 層目,3層目に対して 90°回転させた方向に配置する(図-3 参照)。基礎の作製方法はまず,長さ 9cm の列杭を,根入れ深さ8.5cm となるように打設する。荷重載荷時にこれらの列杭の杭頭が外側に開かないように,列杭頭部拘束杭およびワイヤーで杭頭を固定する。その後に筏基礎を設置する。CaseD-1 の場合のみ,粘土地盤と筏基礎の間に排水層として豊浦砂を0.5cm 敷設する。筏基礎の変形を土槽計測するために,筏基礎底部の中心および中心から左右 9cm の位置に,アルミパイプを通したワイヤーを貼り付け,土槽外部の変位計に接続する。最後に,筏基礎の上に厚さ 3cm のサンドマット(含水比10%の豊浦砂)を敷設し,先ほど筏基礎底部に貼り付けておいたワイヤーを緩みの無いようにダイヤルゲージに取り付け-30- た。載荷方法は筏基礎の変形に追従する荷重とするため,鉄製錘で載荷する方法とし,5kPa,10kPa を等分布荷重,15kPa,20kPa を台形分布荷重で段階的に載荷した。載荷時間は 15kPa載荷まではそれぞれ 1 日,20kPa載荷は 4 日とした。載荷中には筏基礎の変形および地表面に設置したダイヤルゲージで地表面変位量を計測した。また,地(a) Case T(締付けの有無)盤内部の動きを観察するために,(b) Case D(ドレーンの有無)図-8 筏基礎及び周辺地盤の変位量各段階の載荷実験前と載荷実験後のメンブレンの様子をデジタルカメラで撮影し,画像解析を行った。4.実験結果と考察Case T と Case D の筏基礎中心部沈下量の経時変化をそれぞれ図7(a)(b)に示す。筏基礎を締付けた場合(CaseT-1),載荷圧 10kPa までは沈下量に違いがみられないが,15kPa,20kPa 載荷時の筏基礎中心部の沈下量は小さいことが分かる。筏基礎直下にドレーンを打設した場合(CaseD-1),載荷圧 15kPa から圧密が促進され沈下が大きくなる。Case T-020kPa 載荷以降も沈下が進行する(a) Case T(締付けの有無)Case T-1が,CaseD-0 のような急激な沈下はCase D-0Case D-1(b) Case D(ドレーンの有無)図-9 列杭周辺地盤の変位量起こらない。また,最終的な沈下量も抑制されていることが分かる。Case T と Case D の筏基礎及び周辺地盤の変位量(締付けの有無およびドレーン)をそれぞれ図-8(a)(b)に示す。筏基礎を締付けた場合,筏基礎の沈下が抑制されている。これによって,周辺地盤の隆起量が小さくなっている。また筏基礎に一番近い観測点で引き込み沈下が確認された。これは,筏基礎の締付けにより基礎の曲げ剛性が高まったことが要因であると考えられる。ドレーンを併用した場合,CaseD-0 にみられる 20kPa 載荷時の大きな周辺地盤の隆起が抑制されている。また,ドレーンを併用した場合でも,載荷圧 15kPa までは,筏基礎に最も近い測点で引き込み沈下が確認されたが,20kPa載荷時には隆起に転じている。列杭周辺の変位量を図-9 に示す。Case T, Case D ともに深さ 10 ㎝付近の杭先で水平変位量が最大値を示す。筏の締め(a) CaseD-0(b) CaseT-1図-10 地盤内部の挙動(変位ベクトル図)-31-(c) CaseD-1 付け及びドレーンの打設によってそれらは小さくなっている。これは,列杭の長さが 9 ㎝であるため 10 ㎝付近で最大値を示したと考えられ,側方変位及び周辺地盤の隆起量と列杭の長さには相関性があると考えられる。筏基礎直下の地盤内部の挙動を示した変位ベクトル図を図-10にそれぞれ示す。基本的な筏基礎のみ(CaseD-0)の場合,筏基礎直下において全体的に変形量が大きく,杭周辺の側方流動も大きい。筏を締付けた場合(CaseT-1),各観測点の変位方向は筏基礎のみのものと変化はみられないが,変形量が大きく抑制されている。筏基礎直下のドレーンを打設した場合(CaseD-1),地盤の圧密が促進され鉛直変位が卓越し,杭周辺地盤の側方流動が抑制されている。基礎中央部の沈下量と基礎端部の沈下量の差をたわみ量と定義して,たわみ量と杭周辺地盤の水平変位量の最大値の関係を図-11に示す。筏基礎のたわみ量が増加するにつれて最大水平変位量が増(a) Case T(締付けの有無)加していることが分かる。筏の締付けを行うと筏のたわみが小さくなり,最大水平変位量も小さくなる。ドレーンを打設すると 15kPa載荷時までは水平変位量に違いは見られず,たわみ量は大きくなっている。しかし,20kPa 載荷時の急激なたわみ量及び水平変位量の増加は小さくなっている。これは,圧密促進によって,地盤の剛性が高まったことが要因であると考えられる。載荷試験終了後の筏基礎(CaseD-0)の様子を図-12 に示す。筏基礎は,締付け材を使用せずともばらばらになっておらず,丸太を敷き並べただけでも効果を得られていると考えられる。5.まとめ本研究では,筏基礎の締付けおよびバーチカルドレーンを併用した筏-列杭複合基礎(Raft & Pile 基礎)の変形抑制効果について模型載荷実験を行い,それぞれの Raft & Pile 基礎および周辺地盤の挙動を観(b) Case D(ドレーンの有無)図-11 筏基礎たわみ量と水平変位量の関係察した。筏基礎の締め付けを行うと,基礎による地盤の沈下抑制効果が向上し,地盤の側方流動及び周辺地盤の隆起を抑制する。これは,筏の剛性が高まったことが要因であると考えられる。筏基礎は,締め付けを使用せずともばらばらにならず軟弱地盤対策として一定の効果を得られる。また,筏基礎直下にドレーンを併用した場合,地盤の圧密が促進されて剛性が高まる。急激な筏基礎のたわみが緩和され,筏基礎直下の軟弱地盤の側方流動,周辺地盤の隆起を抑制することが可能になる。筏の締め付け及びドレーンの併用は,筏-列杭複合基礎の変形抑制効果に一定の効果が得られることが分かった。図-12 載荷試験終了後の筏基礎(CaseD-0)《参考文献》1)林重徳・原裕・松尾保成・牛原裕司・末次大輔・内布竜矢:軟弱地盤における間伐材を利用した筏基礎と列杭による盛土基礎工法の現場試験,第 9 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,pp.283-286,20112)久保光・吉田雅穂・沼田淳紀・上杉章雄・源済英樹・野村崇・五十嵐謙一:足羽川における木杭基礎の掘出し調査,福井県雪対策・建設技術研究所年報第 20 号,pp.72-75,20073)中村裕昭・濱田政則・本山寛・沼田淳紀:地中に使用した木材の長期耐久性に関する事例調査,第 9 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,pp.277-282,20114)木下拓也・末次大輔・原弘行:筏基礎を設置した軟弱地盤の挙動に及ぼす筏締付けの効果,平成 23 年度土木学会西部支部研究発表会,III -30 PP.407~408,20115)佐々木仁・末次大輔・Suman Manandhar:軟弱地盤における筏‐列杭複合基礎とバーチカルドレーンの併用効果に関する模型実験,平成 25 年度土木学会西部支部研究発表会,III-11 PP.329~330,2014-32-
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  • タイトル
  • 火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地における植生回復と表層土壌の発達について
  • 著者
  • 山本 健太郎・寺本 行芳 ・永川 勝久・平 瑞樹・伊藤 泰隆
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 33〜40
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69516
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)2-1火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地における植生回復と表層土壌の発達について○山本健太郎 1・寺本1行芳 2・永川勝久 3・平瑞樹 2・伊藤泰隆 4鹿児島大学工学部・2 鹿児島大学農学部・3 基礎地盤コンサルタンツ㈱・4 不動テトラ㈱1. はじめに日本は森林が国土の約 70%を占め、斜面崩壊の大半は表層崩壊で、誘因である降雨の影響がかなり大きい。しかし、崩壊現場においては表層崩壊が生じた斜面と生じなかった斜面もあり、斜面そのものの素因(植生(森林)生育状況や地盤特性)を調べることが重要であると考えている。また、一般的な斜面安定解析においては植生の遷移に伴う根系効果、表層土層や浸透能特性が反映されていない。そこで、我が国において、真っ先に亜熱帯化が懸念される九州地方の最南端に位置する鹿児島県において、森林生態学的と地盤工学的観点から、火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地において現地調査並びに原位置試験を行い、自然斜面の安定性を調査してきている1), 2), 3)。本論文では表層崩壊跡地を対象として、森林(植生)の回復に伴う表層土壌の発達に関して、土壌の粒度構成、強度、土壌浸透能や化学特性などを調査することによって、今後の斜面防災や地盤環境分野に寄与することを目的とした。2. 現地調査テストフィールドを鹿児島県垂水市に位置する鹿児島大学農学部附属高隅演習林に設定した(図-1 参照)。テストフィールドは業務資料、空中写真や現地調査を基に表層崩壊の発生年が同定されたものを選定し、2013 年度時点で表層崩壊発生後の経過年数は 8~58 年の範囲となった。現在、同じ領域内でかつ、北向き、ほぼ同じ標高(約 520 m)の 6 地点のしらす自然斜面を表-1 に示すように設定した。表層崩壊跡地は 35~40 度程度の急傾斜を成し、表層崩壊面積は 29~114m2 の範囲である。写真-1 にはテストフィールドでの現地写真の一例を示す。No.6 では経過年数が最も小さく、No.4 では表層崩壊後の桜島調査地鹿児島県表-1 テストフィールドでの表層崩壊特性No.3No.1No.2No.5No.4No. 1テストフィールド表層崩壊発生後の経過 12年数(年)No. 2No. 3No. 4No. 5No. 6224058288斜面平均傾斜(°)3841403937422崩壊地の面積(m )3629611143442No.6N500 m● 調査地点No.図-1 テストフィールド地点(国土地理院地形図より作成)(a) No.6(b)No.4写真-1 テストフィールドの現地写真Revegetation and development of top soil on shallow landslide scars of slopes covered by volcanic ash and pumice fallKentaro Yamamoto1, Yukiyoshi Teramoto1, Katsuhisa Nagakawa2, Mizuki Hira1, Yasutaka Itou3(1Kagoshima University, 2Kiso-Jiban Consultants Co., Ltd., 3 Fudo Tetra Corporation)KEY WORDS: Shirasu natural slope, Site investigation, In situ test, Revegetation, Soil development-33- 経過年数が最も大きい。これを見ると、No.6 では小さな雑木や雑草が多いことがわかる。樹高 1m 以上ではアカメガシワが優占し、これ以外にもヌルデ、センダン、ヒサカキ、クロマツなども多く見られた。樹高 4m 以上を構成する樹種は常緑針葉樹のクロマツであった。樹高 1m 未満ではイヌビワ、イズセンリョウなどが優占し、これ以外にもマルバウツギ、ヤブムラサキも多く出現していた。最大樹高を示した樹種はクロマツで、その樹高は 4.5m であった。一方、No.4 では大きな樹木である常緑広葉樹が多く見られた。樹高 1m 以上では、アラカシ、スダジイ、タブノキなどの常緑性高木や、常緑性小高木のヒサカキ、ネズミモチが優占していた。樹高 5m 以上を構成する樹種は常緑性高木のアラカシ、スダジイ、ヤブニッケイ、タブノキ、ヤブツバキ、クロキであり、樹高 10m 以上を構成する樹種はアラカシ、スダジイ、タブノキ、クロキであった。樹高 1m未満では、イズセンリョウ、イヌビワなどが多く出現していた。なお、最大樹高を示した樹種はアラカシで、その樹高は 13.6m であっ図-2(a), (b)には有効表層土層深と表層土の深さ方向による乾燥密度を、表層崩壊発生後の経過年数に対してプロットしたものである。なお、有効表層土層深とは、検土杖を斜面に垂直方向に挿入して得られた値である。表層土に比較してその下層は硬く検土杖の挿入は困難であ有効表層土層深(cm)た。5040302010である4)。有効表層土層深は検土杖を用い、各地点全域での縦横断方向に 1m 間隔で行った測定結果の平均値である。また、乾燥密度を測定するために 1 つの表層崩壊跡地につき、斜面の上部と下部の 2 箇所に土壌断面を設けた。そして、乾燥密度は、各土壌断面において地表か表層土の乾燥密度(g/cm3)る。このため、地表から検土杖が挿入可能な範囲の深さら 10cm,30cm および 50cm の深さの地点で、それぞれ(a)01.210通過質量百分率(%)通過質量百分率(%)No.6 上部 10cmNo.6 上部 30cmNo.6 上部 50cm0.010.11104050601.00.8深さ:30cm0.60.4深さ:10cm(b)01020304050表層崩壊発生後の経過年数60図-2 表層崩壊発生後の経過年数に対する有効表層土層深及び表層土の乾燥密度深の発達は崩壊発生後 30 年頃までは穏やかであるが、そ10090807060504030201000.00130深さ:50cm100ml のステンレス試料円筒を用いて不攪乱試料を採取することにより求めた。図-2(a)を見ると、有効表層土層2010010090807060504030201000.001No.6 下部 10cmNo.6 下部 30cmN0.6 下部 50cm0.010.1110100粒径(mm)粒径(mm)(a) 斜面上部(b) 斜面下部10090807060504030201000.001通過質量百分率(%)通過質量百分率(%)図-3 粒径加積曲線 (No.6)No.4 上部 10cmNo.4 上部 30cmNo.4 上部 50cm0.010.111010010090807060504030201000.001No.4 下部 10cmNo.4 下部 30cmNo.4 下部 50cm0.01粒径(mm)0.11粒径(mm)(a) 斜面上部(b) 斜面下部図-4 粒径加積曲線 (No.4)-34-10100 の後次第に速度を増し、40 年程度を過ぎると少し鈍化している。さらに、図-2(b)は No.1~No.6 の各地点における深さごとの乾燥密度を、表層崩壊発生後の経過年数に対してプロットしたものである。図中の実線および破線は、それぞれの深さでの経年変化曲線を示す。なお、斜面上部と下部で乾燥密度を測定したため、それぞれプロットがペアの 2 つとなっている。これを見ると、表層土(森林土壌)の発達は深さ 10cm の乾燥密度の値が示すように、比較的地表に近い部分からはじまり次第に深さ方向に進行している。崩壊跡地への森林の侵入は、森林の回復に伴う根系の発達や森林による有機物の供給を通じて土壌化を促し、これらの作用は比較的土壌の表層から進行していくことがわかる。図-3, 4 には No.6, 4 での斜面上部と下部における粒径加積曲線を示す。斜面上部と下部の各土壌断面を設定し、地表から 10cm,30cm および 50cm の深さの地点でサンプリングを実施した。図-3(a)からはどの深さでもシルトと砂の割合がおおまかに 30%と 60%以上あることがわかる。図-3(b)からは 10cm,50cm の深さでは砂の割合が 50%以上、30cm の深さではれきの割合が 40%以上となった。また、No.6 では表層崩壊発生後の経過年数も小さく、しらすが崩壊面上にも出てきていることも観察された。次に、図-4(a)からは 10cm,30cm の深さでは砂とシルトの割合がそれぞれ 45%と 30%以上で、50cm の深さでは砂が約 40%以上で、シルトとれきがそれぞれ約約 30%であった。一方、図-4(b)を見ると、10cm,30cm の深さでは砂とシルトの割合がそれぞれ約 50%と約 40%であった。50cm の深さになると、砂の割合が減少し、シルトとれきの割合が増加していることが観察された。全般的には、表層崩壊発生後の経過年数が異なる No.6 と No.4 を比較すると、経過年数が大きくなるほど、さらに地表面に近いほど細粒化が進行している傾向があることがわかった。3. 原位置試験簡易的な原位置試験として、簡易動的コーン貫入試験(通称:簡易貫入)5)と土層強度検査棒(通称:土検棒)6)を実施した。簡易動的コーン貫入試験による Nd 値の算定式は以下に示す。N d  10N / hここに、 N : 打撃回数(回)、 h : 貫入量(cm)である。図-5, 6 には一例として、表層崩壊後の経過年数が最小と最大である No.6 と No.4 の斜面上部と下部でのコーン貫入試験結果を示す。No.6 の結果である図-5(a)を見ると、打撃回数が 0 回で貫入量は 1 cm であるが、打撃回数が 1, 2 回の時にそれぞれ貫入量は 19, 20 cm となり、その後、貫入量が減少し、貫入深さが約 80 cm までは Nd 値が増加していった。貫入深さが約1.2m 程度辺りからは固い層も見られ、貫入深さが 4.2 m 程度において 10 回の打撃による貫入量が 20 mm 未満となったため、貫入を中止した。一方、図-5(b)では貫入深さが 15 cm までは Nd 値が増加し、その後、減少していった。貫入深さが 50 cm を超えると、貫入量が減少し始め、Nd 値が増加していった。そして、貫入深さが約 90cm において、10 回の打撃による貫入量が 20 mm 未満となったため、貫入を中止した。次に、No.4 の結果である図-6(a)を見ると、打撃回数が 0 回でも貫入量が 37cm もあり、打撃回数が 1 回で 16 cm 貫入した。貫入深さが 1.5m 程度までは Nd 値が増加していることがわかる。また、貫入深さが 4.0m 程度辺りから Nd 値が急に増加していることも観察される。一方、図-6(b)では打撃回数が 1 回で貫入量が 10cm となり、貫入深さが 65cm 程度までは Nd 値が増加し、その後、減少傾向にあった。また、貫入深さが 1.6m 程度辺りでは Nd 値が急に大きな値となり、この辺りには強固な層があることがわかる。よって、No.6 の地点においてのみ、貫入を途中で中止することとなったが、他の地点においては貫入深さが 5.0m まで貫入試験を続けることができた。図-7, 8 には一例として、表層崩壊後の経過年数が最小と最大である No.6 と No.4 の斜面上部と下部でのベーンコーンによるせん断試験結果を示す。図-7, 8 にはベーンコーンにかかる鉛直荷重 Wvc を 4-5 回変え、せん断試験を実施した時のベーンコーンにかかるトルク Tvc との相関関係を示す。また、図-7 の試験深度が 30 cm 程度、図-8 の試験深度が 50 cm程度であった。両図ともに良い相関が得られ、以下の換算式 6)により粘着力 c と内部摩擦角φを算出した。No.6 の図-7(a)に対しては、cdk=8.49 (kN/m2),φdk=8.09(deg.)、図-7(b)に対しては、cdk=9.89 (kN/m2),φdk=13.08(deg.)となった。一方、No.4の図-8(a)に対しては、cdk=5.02 (kN/m2),φdk=8.83(deg.)、図-8(b)に対しては、cdk=5.91 (kN/m2),φdk=9.63(deg.)となった。下添字 dk は土検棒を表す。c=10.16・Y0tanφ=12.04・Xここに、c:粘着力、φ:内部摩擦角、Y0:近似式の Y 切片、X:近似式の傾きである。なお、この換算式は参考文献での参考式であるため、今後、現場一面せん断試験の実施を予定しており、そこから得られた地盤強度パラメータとの比較検討を行いたい。図-9 にはすべてのテストフィールドでの結果をまとめた、表層崩壊後の経過年数に対する地盤強度パラメータ(粘着力 c と内部摩擦角φ)の変化を示す。全般的には、No.1(表層崩壊発生後の経過年数が 12 年)を除いて、斜面下部(実線)の c,φが斜面上部(破線)のものよりも大きくなる傾向を得た。また、粘着力 c は、斜面上部と下部ともに大まかに表層崩壊後の経過年数の増加とともに減少する傾向を得た。しかし、内部摩擦角φの値は粘着力 c と異なり、表層崩-35- 壊後の経過年数の増加にあまり依存しない結果となった。ただ、原位置にて実際に試験を実施すると、軽石や様々な根系の影響が特に、せん断試験結果に与える影響はかなり大きいと感じているところである。(a) 斜面上部(b) 斜面下部図-5 簡易動的コーン貫入試験結果 (No.6)(a) 斜面上部(b) 斜面下部図-6 簡易動的コーン貫入試験結果 (No.4)-36- Tvc (N・m)Tvc (N・m)2.501.801.602.001.401.201.501.000.801.000.60y = 0.0118x + 0.8357R² = 0.98040.400.20y = 0.0193x + 0.9736R² = 0.98870.500.000.00010203040506007010203040506070Wvc (N)Wvc (N)(a) 斜面上部(b) 斜面下部図-7 ベーンコーンせん断試験結果 (No.6)Tvc (N・m)Tvc (N・m)1.401.601.201.401.201.001.000.800.800.600.60y = 0.0129x + 0.4939R² = 0.94130.400.20y = 0.0141x + 0.5815R² = 0.89130.400.200.000.0001020304050607001020304050Wvc (N)6070Wvc (N)(a) 斜面上部(b) 斜面下部図-8 ベーンコーンせん断試験結果 (No.4)10.014.0斜面上部斜面下部斜面上部斜面下部13.09.012.0φdk (deg.)cdk8.07.06.011.010.09.08.05.07.04.001020304050表層崩壊後の経過年数(年)(a)6.06001020304050表層崩壊後の経過年数(年)60(b) φdkcdk図-9 表層崩壊発生後の経過年数に対す地盤強度パラメータの変化4. 土壌浸透能試験7)図-10 には,No.6~No.4(表層崩壊発生後からの経過年数が小さい方から並べた、表-1 参照)における有効表層土層深の頻度分布を示す。なお、N は総数を示す。崩壊発生後の経過年数の増加に伴って、相対的に大きな有効表層土層深の頻度が増加している。各表層崩壊跡地における有効表層土層深の最大値は、それぞれ 9cm(No.6)、8cm(No.1)、21cm(No.2)、22cm(No.5)、45cm(No.3)、57cm(No.4)であった。次に、表層崩壊跡地における森林の回復に伴う表層土壌の発達が浸透能に及ぼす影響を明らかにするため、表層崩壊跡地において有効表層土層深の異なる 12 箇所の区画を設定し(各テストフィールドに対して 2 箇所)、散水式の浸透能試験を行った。今回、土壌浸透能は次のような方法 8)で測定した。①仕切られた区画(斜面方向の水平長 1m×幅 0.5m)の全面に如雨露で真上から散水し、その水が地中に浸透しないで地上を流出した量をその下端で計測する。-37- 140No.5N=89相対度数(%)100120No.2N=398060No.3N=12240No.4N=4920010 0 10 0 10 20 30 0 10 20 30 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 60土壌浸透能(mm/hr)No.6 No.1N=56 N=521008060有効表層土層深(cm)010203040有効表層土層深(cm)50図-10 有効表層土層深の頻度分布図-11 有効表層土層深と土壌浸透能の関係②散水量(2,000cc,雨量に換算して 4mm)から流出量を差し引いて浸透水量を求める。③浸透水量を浸透に要した(散水開始から流出終了までの)時間で割って土壌浸透能を求める。なお、散水は流出量がほぼ一定値になるまで繰り返して行い、最後の測定値を土壌浸透能とした。図-11 は、有効表層土層深と土壌浸透能の関係である。図中の実線は土壌浸透能(Ir)と有効表層土層深(ED)の回帰直線であり、次式で表わされた。Ir=1.21ED+69.5(r=0.90)ここで、r は重相関係数を示す。両者には正の強い相関があり、有効表層土層深の発達とともに土壌浸透能は大きくなっている。これには図-2(b)で示したように、有効表層土層深の発達に伴う乾燥密度の低下による土壌空隙の増加が関係している。No.6~No.4 における有効表層土層深の平均値(図-2(a))から、図-11 における土壌浸透能と有効表層土層深の回帰直線を用いて土壌浸透能を推定すると、それぞれ 76mm/hr(No.6)、76mm/hr(No.1)、85mm/hr(No.2)、90mm/hr(No.5)、113mm/hr(No.3)、124mm/hr(No.4)となる。森林の初期の回復段階である No.6 および No.1(崩壊発生後 8 年および12 年経過)の土壌浸透能は、土壌の発達がみられない桜島の裸地における浸透能の 70mm/hr 9)と同程度の小さな値を示すが、森林の遷移の進行に伴う土壌の発達(図-10,図-2(a)および図-2(b))によって大きくなり、極相に達した森林である No.4(表層崩壊発生後 58 年経過)では No.6 および No.1 の約 1.6 倍の土壌浸透能までに回復している。5. 土壌分析テストフィールドの各地点での表層土壌を採取し、土壌の溶出液に対して pH、電気伝導率(EC)の測定を実施した。土壌の溶出液は自然乾燥させた土壌 20g に蒸留水 50 g を加え、マグネチックスターラーで約 3 分間かくはんした後,上澄み液が透明になった約 10 分間程度放置したものを使用した。図-12 には、斜面上部と下部における表層崩壊後の経過年数に伴う pH の変化を示す。これを見ると、表層崩壊後の経過年数の増加とともに pH が減少する傾向を有することがわかる。また、斜面下部の pH が斜面上部のものよりも小さくなった。これは、斜面下部が上部よりも土壌の酸性化が進み、腐植酸の効果によるものと考えられる。また、侵食の影響などにより、斜面上部で流れ出したものが斜面下部に蓄積することも一因であろう。次に、図-13 には、斜面上部と下部における表層崩壊後の経過年数に伴う EC の変化を示す。これを見ると、表層崩壊後の経過年数が 10 年未満の跡地を除いて、概ね似たような傾向を示すものと考えられる。また、表層ほど腐植が進み、酸性化が最も進むであろう地表から 10cm の深さの地点でのサンプリングにおいて一番酸性化が進んでいない場合も見受けられるが、これは火山灰や軽石などの火山噴出物の影響や侵食の影響によるものと推測される。6. おわりに火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地の斜面上部と下部において、表層土の乾燥密度や粒度特性などの地盤調査、原位置試験並びに土壌分析を実施してきた。これらにより、表層崩壊発生からの経過年数が大きなほど、さらに地表面に近いほど細粒化が進行している傾向があることがわかった。また、表層崩壊後の経過年数が大きいほど風化が進行し、地盤強度パラメータ c,φや乾燥密度が小さくなる傾向を得た。そして、斜面上部では斜面傾斜によるゆるみの影響を受け、斜面下部が強くなる傾向も得た。次に、φは c と異なり、経過年数の増加にあまり依存しない結果となった。なお、-38- 8.08.0斜面上部 10 cm斜面上部 30 cm斜面上部 50 cm7.57.57.0pHpH7.06.56.56.06.05.55.55.0斜面下部 10 cm斜面下部 30 cm斜面下部 50 cm01020304050表層崩壊後の経過年数(年)5.0600(a) 斜面上部図-12表層崩壊発生後の経過年数に対する pH の変化0.08斜面上部 10 cm斜面上部 30 cm斜面上部 50 cm0.070.060.060.050.050.040.030.040.030.020.020.010.0101020304050表層崩壊後の経過年数(年)60(a) 斜面上部図-13斜面下部 10 cm斜面下部 30 cm斜面下部 50 cm0.07EC (mS/m)EC (mS/m)60(b) 斜面下部0.080.001020304050表層崩壊後の経過年数(年)0.0001020304050表層崩壊後の経過年数(年)60(b) 斜面下部表層崩壊発生後の経過年数に対する EC の変化表層崩壊後の経過年数が大きいほど、斜面下部が上部よりも土壌の酸性化が進行し、pH が小さくなる傾向を示した。これまでのことは森林の遷移に支配されて、表層土の粒径などの物理的性質と pH などの化学的性質が変化していくことを証明していくものであるとも考えられる。さらに、テストフィールドでは火山灰や軽石などの火山噴出物の影響や侵食の影響もある程度、受けていることが確認できた。今後は、テストフィールドにて現場一面せん断試験や樹木根系の引張り試験の実施や原位置で得られた情報を用いた斜面安定解析の実施を予定している。そして、樹木根系が斜面安定効果に与える影響や効果を定量的に評価していきたいと考えているところである。最後に、これまでの調査や試験結果をまとめると、表層崩壊跡地の急斜面では、森林の遷移に伴って表層土壌は発達する。表層土壌の発達に伴って表層崩壊物質である表層土壌は増加し、素因の面からみると表層崩壊発生の条件が整っていくことになる。このような森林の遷移と表層土壌の発達の関係を指標として、表層崩壊発生の条件を備えた危険斜面を抽出することができると考えられる。また、森林の遷移に伴う表層土壌の発達は、表層土の乾燥密度の低下をもたらすが、同時に樹木の侵入を通じた浸透能上昇による侵食の防止と樹木を含めたトータルとしての粘着力の増加を通じて、表層崩壊防止機能を増大させる。以上のことから、森林の遷移とそれに伴う表層土壌の発達は、斜面安定を通じて防災に寄与する方向に作用すると考えられる。そして、土砂災害軽減への提案としては、広葉樹林などをもっと増やすことが考えらえる。樹木根系による斜面安定効果のみならず、森林土壌の発達は森林の水源涵養機能(保水機能、洪水発生の抑制)を高めることができる。これらにより、土砂災害軽減にも役立つものと考えられる。また、近年、海藻の生育に必要とされる、光合成の促進や葉緑素の合成に必要な栄養素である鉄分が海中において不足していることが指摘されてきている 10)。広葉樹林からの落ち葉は腐葉土となり、鉄分を河川や海に供給することが可能となり、さらなる付加価値も多いだろう。さらに、樹木の成長(樹齢)など指標とし、土壌の発達や蓄積状況を推定し、表層崩壊可能性に対するリスク評価(崩壊のサイクルやゾーニン-39- グ)などが可能になるとも考えられる。参考文献1) K. Yamamoto, Y. Teramoto, M. Hira and K. Nagakawa: Site investigation and in situ test on shallow landslide scars of naturalslopes covered by volcanic ash and pumice fall, Proc. of the Sixth Japan-Taiwan Workshop on Geotechnical Hazards from LargeEarthquakes and Heavy Rainfall, Kitakyushu, pp.141-142, 2014.7.2) 山本健太郎、寺本行芳、永川勝久、平瑞樹: 火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地での森林生態学と地盤工学的観点からの調査, 第 7 回土砂災害に関するシンポジウム論文集, pp.31-36, 2014.9.3) 山本健太郎、寺本行芳、永川勝久、平瑞樹、伊藤泰隆、田中龍児: 火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地での地盤調査について, 自然災害研究協議会西部地区部会報・論文集-39 号, pp.49-52, 2015.2.4) 下川悦郎、地頭薗隆、高野 茂: しらす台地周辺斜面における崩壊の周期性と発生場の予測, 地形, 10(4), pp.267-284,1989.5) 地盤工学会: 地盤調査―基本と手引き―, pp.113-118, 2005.6) 独立行政法人土木研究所: 土層強度検査棒による斜面の土層調査マニュアル(案), 2010.7.7) 寺本行芳、山本健太郎、岡勝、下川悦郎: 火山灰・降下軽石被覆斜面の表層崩壊跡地における森林の回復が土壌の発達と浸透能に及ぼす影響, Journal of Rainwater Catchment Systems Vol. 20, No. 1, pp.63-69, 2014.8) 下川悦郎、地頭薗隆: 桜島における表面侵食による土砂生産, 砂防学会誌, 39(6), pp.11-17, 1987.9) 寺本行芳、下川悦郎、田中 信、地頭薗隆、稲元崇裕: 桜島の荒廃斜面における表面侵食による土砂流出と植生の影響,砂防学会誌, 57(1),pp.3-12, 2004.10) 松永勝彦: 森が消えれば海も死ぬ陸と海を結ぶ生態学, 講談社, 1993.-40-
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  • タイトル
  • 沖積粘性土地盤における建物解体・新築工事中の地盤振動計測
  • 著者
  • 中沢 楓太・沼上 清
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 41〜46
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69517
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)2-2沖積粘性土地盤における建物解体・新築工事中の地盤振動計測○中沢楓太・沼上清東急建設株式会社1. はじめに近年,都市部において既存建物の解体を伴う新築工事が増えている.住宅や精密機械を扱う施設などに近隣する場合,それらに重機作業による地盤振動が伝搬して悪影響を及ぼすことがあるため,一般には,敷地境界部の地表面で工事中の地盤振動を計測管理する.特に,軟弱地盤の場合には,地盤振動が大きくなり,広範囲に伝搬することが懸念される.しかしながら,建設地によって地盤種別は様々であり,かつ,近隣建物は基礎形式や地下室の有無など多種多様であることから,重機作業による地盤の振動特性を事前に評価することは容易ではない.近年の研究では,個々の重機作業を対象にした実験1),2)や数値解析 3)によって近接建物への影響が検証されているが,実際の建設工事現場において重機作業による地盤振動を連続的に計測した事例はあまりない.本報では,軟弱な沖積粘性土地盤に位置する既存建物の解体(地下・地上)および新築工事において,工事中の環境管理を目的として敷地境界部の地盤振動を連続的に計測し,その結果から各工事に伴う地盤振動の発生レベルを分析・評価した.また,施工位置が明確な山留め壁および基礎杭の施工を対象として,地盤振動の距離減衰についても検証した.2.地盤および工事の概要図-1に工事平面を示し,図-2に断面(a 断面)および Bor.1 の地層構成を示す.建設地は多摩川の沖積低地に位置し,地層は埋土以深に沖積粘性土層,礫層,上総層群土丹層の順に堆積している.表-1には,Bor.1 近傍で試掘調査した際のブロックサンプリング試料に対する室内試験結果を示す.GL-4.0 m 付近の粘性土層の一軸圧縮強さ qu は約 40~70 kN/m2 であり,ヤング率 E50 は約 3.7~7.7 MN/m2 である.工事は既存建物の解体を伴う学校施設の建替工事であり,周囲は住宅地である.既存建物は地上 7 階地下 1 階(RC造)でφ350 の PC 杭(以下,既存杭)で砂礫層に支持され,新築建物は地上 4 階地下 1 階(RC 造)・φ1600 の場所打b約 54ma住宅地Ⅱソイルセメント壁(H-500×200@900)測点 B親杭横矢板(H-400×200@1200)西面新築杭 1タイロッド約 39m北面住宅地新築杭 2測点 AbⅠソイルセメント壁(H-300×150@900)既存杭(地盤掘削時撤去)東面既存建物新築杭Bor.1既存杭(新築杭打設前引抜き)ソイルセメント壁(H-500×200@900)図-1 工事平面図Measurement of ground vibration during the demolition work and new construction work of the building on alluvial clay groundFuta Nakazawa, Kiyoshi Numakami (Tokyu Construction Co., Ltd.)KEY WORDS: Ground vibration , Soft ground , Field measurement, Neighboring work-41- ちコンクリート杭(アースドリル拡底工法:以下,新築杭)既存躯体新築躯体▽GL±0 mで土丹層を先端支持層として設計されている.まず,地上躯体を解体して山留め壁(ソイルセメント壁)を施工し,N値050埋土地下躯体を解体して既存杭を引抜く.その後,切梁を架設-2 m▽しながら地盤を掘削し,基礎躯体(耐圧版)から順次躯体-4 mを構築する.既存建物の解体は階上解体工法とし,地上および地下解体共に 0.7 m3 のクラッシャー重機を 2 台利用し土質-6 m▽GL-6.7 mた.解体ガラは 1 階に配置した 0.45 m3 のクラッシャー重-8 m機(1 台)で小割にして搬出した.既存杭は,ケーシング-10 mオーガー工法によって新築杭に干渉するもののみを新築杭-12 mの施工前に引抜き,その他は地盤掘削時に撤去した.なお,重機作業の時間帯は,概ね 8:30~10:00,10:30~12:00,13:00-14 m~15:00 および 15:30~17:00 である.-16 m3.計測概要図-2う.表-2には,振動レベルと人の感じ方の目安を示す.振動レベルは振動加速度レベルに人体感覚補正を行なったものである.本工事おける地盤振動は,図-1中の測点 A および測点 B で,施工中の環境管理を目的として住宅地に隣接する敷地境界部の地表面に振動加速度ピックアップを設置して連続的に計測した.計測結果は,図3に示すように WEB 上の専用ページから閲覧できるようにし,現場室内試験実施深度粘土シルト質粘土砂礫土丹断面図(a 断面)および地層構成建築工事に伴う振動量の評価は,振動規制法にも示されている通り,一般的には敷地境界部(地表面)における鉛直方向の振動レベルで行シルト質粘土表-1試掘調査結果深度GL-2.00mGL-3.80mGL-4.00m土質有機質シルト有機質粘土粘土湿潤密度ρt( g/cm3)1.441.381.24一軸圧縮強さqu( kN/m2)-ヤング率E 50( MN/m2)-48.240.769.8平均44.446.6平均58.2事務所以外からもリアルタイムに管理できるシステムを構築した.なお,地盤振動は 3 成分(鉛直 1,水平 2)を計測したが,本報では鉛直方向の 10 分毎に記録した L10(時間率振動レベル)を示す.4.計測結果3.683.93盤振動の経時変化を示す.0 時および 12 時 30 分は,それぞれの時間帯の生活振動(暗振動)を示す.また,14 時は,重機作業を行ってい平均6.30振動レベル80 dB深い睡眠にも影響がある65 ~ 70 dB浅い睡眠に影響がではじめる人の感じ方振動を感じはじめる60 dBる時間帯である.4.95振動レベルと人の感じ方 4),5)表-2図-4に,工事工程と共に 0 時,12 時 30 分および 14 時における地7.66平均3.80ほとんど睡眠に影響はない昼休憩中で重機作業を行っていない 12 時 30 分の地盤振動は,両測50 ~ 55 dB振動苦情がではじめる点ともに 30 dB 程度で一定に推移しており,0 時よりも 10 dB 程度大きい.これより,工事中の昼間の生活振動は年間を通して 30 dB 程度外部モニタと判断できる.一方,重機作業中の 14 時の地盤振動は,概ね 30 dB よりも大きい.このことから,重機作業によって地盤振動が増大していることが確認できる.また,新築躯体構築中に一時的に既存建物解体時と同程度(40振動ピックアップ専用計測器~50 dB)の地盤振動が発生している.これは,コンクリートの打設日その他の環境測定器と一致しており,その影響と判断できる.図-5には,各工事工程の代表的な日変動を示す.全体的に測点 Aの地盤振動の方が小さい傾向であるが,B 点との差異は小さい.躯体インターネット回線解体時(同図(1)~(4))には,重機作業によって連続的に地盤振動が大きくなっている.既存杭の引抜き時(同図(5))や地盤掘削時(同図(6))には,躯体解体時と比較すると連続的に地盤振動が大きルータルータくなる傾向はないが,重機作業によって地盤振動が大きくなっている.また,耐圧版のコンクリート打設時(同図(7))にも地盤振動が大きくなっている.これらに対して,重機作業が少ない配筋・型枠組時(同図(8))には,昼間の生活振動と同程度の地盤振動しか発生していない.WEB 上の(セキュリティ付き)専用 HP外部の専用 PC図-3-42-公開計測管理システムの概要 RFソイルセメント壁1F親杭B1F杭引抜き杭頭砕り新築杭打設基礎切梁架設地上躯体構築切梁解体1次地盤掘削2次地下躯体構築(1)工事工程地盤振動(dB)60測点B(12:30)測点A(12:30)5040302010測点B(0:00)0測点A(0:00)(2)0時および12時30分50403020測点B10012/6/1測点A12/8/112/10/112/12/113/1/3113/4/2606050504030200測点A測点B107:009:0011:0013:0015:0017:0020019:007:009:00地盤振動(dB)地盤振動(dB)5040307:009:0011:0013:00測点A15:0017:0020019:00地盤振動(dB)地盤振動(dB)504030209:00測点A11:0013:0015:007:009:0017:0010019:007:00地盤振動(dB)50302011:00測点A13:0015:0019:009:0011:0013:0015:0017:0019:00(6)2次掘削409:0017:00測点A測点B607:0015:002050013:003060測点B11:0040(5)既存杭引抜き1019:00(4)基礎耐圧版解体607:0017:00測点A測点B1050015:003060測点B13:0040(3)B1F躯体解体1011:00(2)2F躯体解体600測点A測点B1050測点B13/10/230601013/8/240(1)7F躯体解体2013/6/2(3)14時地盤振動の経時変化(特定時刻の値を抽出)地盤振動(dB)地盤振動(dB)図-4地盤振動(dB)地盤振動(dB)6017:0019:00測点B403020100測点A7:009:00(7)耐圧版CON打設11:0013:0015:00(8)B1F配筋・型枠組図-5 地盤振動の日変動-43-17:0019:00 25測点A測点B測点Aと測点Bの平均増分地盤振動(dB)20151050RF解体7F解体6F解体5F解体4F解体3F解体2F解体1F解体B1F解体基礎耐圧版解体杭引抜きソイルセメント壁構築杭施工1次掘削配筋等杭頭砕りCON打設配筋等地上既存建物解体工事図-62次掘削地盤掘削CON打設地下新築躯体構築工事工程毎の平均増分地盤振動5.工事に伴う地盤振動の分析5.1工事工程毎の分析図-6は,工程毎に地盤振動の増分値(日々の休憩中の 12:30 を基準(=0)とした値:約 30 dB)を平均化(13:40~14:50を対象)したものである.なお,複数の作業を行っている時期は同平均値算出の対象としていない.上層部の解体工事に着目すると,RF から 5F 解体時の増分地盤振動は解体フロアが低くなるほど小さい.階上解体工法の場合,解体工事によって発生したコンクリートガラを建物内の縦穴を利用して解体フロアから 1F まで落下させるため,落下高さの変化が影響して,このような傾向を示した可能性も考えられる.地表面付近の既存躯体解体時に着目すると,地表面で重機が動く 1F 解体時における地盤振動の増分は,階上解体となる 2F 解体時よりも大きい.また,基礎耐圧版解体時における地盤振動の増分は,1F や B1F 解体時よりも大きく,全工程において最も大きい.すなわち,コンクリートガラの落下高さが高い場合に加えて,重機が地表面もしくはそれよりも下方レベルで作業する場合には,特に地盤振動が大きくなる傾向を示している.なお,B1F 解体時における地盤振動の増分は 1F 解体時よりもやや小さいが,これはこの両工程の間に構築した山留め壁が地盤振動の伝搬を抑制した可能性があると考えられる.また,地表面よりも下方での作業となる既存杭の引抜き時における地盤振動の増分は,基礎耐圧版解体時よりも 10 dB 程度小さい.これはケーシングオーガーによって既存杭と地盤の縁を切った後に既存杭を引抜いたためと考えられる.地盤を削孔するソイルセメント壁構築時および杭施工時における地盤振動の増分は,既存杭の引抜き時と同程度である.削孔長や削孔径,削孔方法が異なるにもかかわらず地盤振動の増分に大きな差異がないことから,地盤振動の主な発生源は重機の設置位置(場所)そのものと考えられる.35新築躯体構築時に着目すると,コンクリート打設時にお東面ける地盤振動の増分は,重機作業が少ない配筋等の作業時工事の違いで明確な差異は見られない.これは,両工事ともにポンプ圧送車を地表面に配置し,コンクリートミキサー車からコンクリートを打設したためと考えられる.5.2ソイルセメント壁施工時の分析北面増分地盤振動(dB)よりも大きく,1F 解体時と同程度であり,地上工事と地下西面30図-7は,ソイルセメント壁施工時における図-6と同様25測点A測点B2015105に整理した平均増分地盤振動の推移である.東面から北面の東側施工時には地盤振動の増分は測点 A01の方が 7~10 dB 程度大きい.また,西面の南側施工時には地盤振動の増分は測点 B の方が 14~22 dB 程度大きい.こ-44-図-723456789101112 13(日目)ソイルセメント壁施工時の平均増分地盤振動 れらより,概ね重機が計測点に近いほど地盤振動が大きいことが確認できる.r0(m)振動源ここで,地盤振動の距離減衰量に関する理論式と各測点で実測された地盤振動の差分を比較し,敷地内の地盤振動図-8の距離減衰量を簡易にモデル化できるかを検証する.表-3以下に,表面波と実体波の複合波と考えた場合の地盤振動の減衰量(幾何減衰)[式(1)]と土質による地盤振動の減衰量(内部減衰)[式(2)]を算出する理論式を示す.一般的には,理論的な地盤振動の減衰量はこれら 2 式の合算6),7)本事例に適用した場合について以下に示す.・表面波と実体波の複合波の場合の減衰量 A(dB)A=15×Log10(r/r0)4日 目13 日 目施 工 位 置 ( ※ 図 -1 に 対 応 )Ⅰ(北 面 東 側 )Ⅱ(西 面 南 側 )施工位置から測 点 A ま で の 距 離 ( m)17r0=1770r=70施工位置から測 点 Bま で の 距 離 ( m)48r=4825r0=25表面波と実体波の複合波の場合77土質による減衰58上記の合算値1215式(1)計算値式(2)減衰量( dB)ここに,r および r0:図-8参照α:土質の減衰定数(粘性土:α=0.02)実測値工した 4 日目および 13 日目(図-7に対応,図-1中のⅠおよびⅡ)において,理論式に基づく地盤振動の距離減衰量下,実測値)を比較した結果を示す.理論値と実測値の差は-2 dB および+4 dB と小さく,両者は概ね一致している.これより,本工事のおいては,理論式から地盤振動の距0-3-6-9-12-15-186:00深度 GL(m)(以下,理論値)と各測点で実測した地盤振動の差分(以離減衰量を概ね推定できると考えられる.すなわち,あるっている.複数個所で同時に重機作業が行われる場合における地盤振動の評価方法を確立するためには,有限要素法などによる詳細な検証や振動源(重機位置)の振動レベルを定量化する必要がある.図-9に,図-1に示す新築杭 1 および新築杭 2 施工時に削の間およびコンクリートの打設時に地盤振動が増大している.図-10に,新築杭 1 および新築杭 2 の軸部削孔時,拡底部掘削時および杭コンクリート打設時における平均増分地盤振動を示す.また,図-11は,新築杭施工時における図-1中の b 断面を概念的に描いたものである.軸部削孔時および拡底部掘削における地盤振動の増分は,いずれも杭コンクリート打設時よりも 10 dB 程度大きく,また,測点 A の方が測点 B よりも大きい.この要因としては,施工機械が測点 A に近いことや親杭横矢板より南側の4新築杭 1軸部削孔CON 打設新築杭 2拡底部掘削完了12:0018:000:006:0012:0018:0012:0018:00測点 A20測点 B06:0012:00図-9(2)地盤振動基礎杭施工時における地盤振動の経時変化18:000:0025増分地盤振動(dB)杭の施工サイクルを示す.いずれも軸部削孔から拡底部掘-240アースドリル拡底杭施工時の分析おける地盤振動の経時変化を示す.同図(1)には各新築19( B>A )60地盤振動(dB)1 箇所に限定されるソイルセメント壁の施工時を対象に行10( A>B)(1)施工サイクル測点の実測値からそれ以外の地点の地盤振動を概ね推定することができるといえる.ただし,この検証は施工場所が測 点 Aと 測 点 Bの 差 異 [減 衰 量 ]計算値と実測値の差異(+:実測値の方が大)表-3に,住宅地に隣接した北面東側および西面南側を施5.3距離減衰量に関する理論解との比較施 工 日 ( ※ 図 -7 に 対 応 )・土質による減衰量 A(dB)A=8.68×α×(r/r0)理論式のモデル図6:0025測点A測点B20151050増分地盤振動(dB)値となる.r(m)減衰量A(dB)測点A測点B20151050削軸孔部拡掘底削部C打O設N削軸孔部拡掘底削部C打O設N(1)新築杭 1 施工時(2)新築杭 2 施工時図-10 基礎杭施工時の平均増分地盤振動測点 A測点 B▽約 GL-3m地盤面が約 3 m 下がっているため,この部分が防振溝の役施工機械の設置場所割を果たして地盤振動の伝搬を抑制したことなどが考えられる.また,測点 A について,軸部削孔時と拡底部掘削時を比較すると,拡底部掘削時は深部地盤(約 GL-14 m)での拡底にもかかわらず,軸部削孔時よりも 1~6 dB 程度小さいだけで,比較的大きな地盤振動が発生している.-45-新築杭 2図-11新築杭打設時の施工状況の概念図(図-1中の b 断面) 図-12に,GL-3 m の施工盤から施工した各新築杭の軸約54m部削孔時における平均増分地盤振動をそれぞれの杭位置にプロットしたコンター図を示す.測点 A および測点 B で計測された地盤振動は,それぞれの測点に近いほど大きい傾6981168101110139126118147113104111013888138向がある.また,図-13は,測点 A および測点 B に近いで整理したものである.多少のばらつきはあるが,測点 Aと測点 B に伝達される地盤振動は距離によって減衰してい約39m通り(図-12中の囲い部分)の計測値を各測点からの距離ることが確認できる.測点A86.まとめ(dB)(dB)(1)測点 A の計測値本報では,軟弱地盤に位置する既存建物の解体から新築建物の構築に至るまで,敷地境界部で連続的に計測した地約54m盤振動について工事工程毎に分析し,重機作業によって生測点Bじる地盤振動の評価に資する以下の知見を得た.171715171717141815161313171913141216812916122012137158①基礎耐圧版解体時の地盤振動が最も大きい.場合には,特に地盤振動が大きくなる.③ケーシングオーガー工法によって既存杭を引抜くと,地約39m②重機が地表面もしくはそれよりも下方レベルで作業する盤振動の増分は小さい.④地盤を削孔するソイルセメント壁や基礎杭の施工時には13地盤振動が大きくなる.(dB)(dB)⑤新築躯体構築時の地盤振動は,コンクリート打設時を除くと比較的小さい.図-12(2)測点 B の計測値各新築杭の軸部削孔時における増分地盤振動⑥アースドリル拡底杭の拡底部掘削時の地盤振動は,軸部20⑦アースドリル拡底杭の軸部削孔時の地盤振動は,距離に応じて減衰する.⑧既存地下躯体が残置する状況において,理論式を用いて増分地盤振動(dB)削孔時と同程度発生する.測点A測点B151050地盤振動の距離減衰量を概ね推定できる.010都市部における建物の解体・新築工事では,施工中の環境管理を目的として敷地境界部の地盤振動を計測すること図-13が増えている.重機作業による近隣建物への振動影響を適20304050測点からの距離(m)6070各新築杭の軸部削孔時における増分地盤振動と測点からの距離の関係切に予測し,現実的かつ効果的な対策を講じるためには,まず現状の工事で得られている地盤振動の計測結果を分析・蓄積することが必要と考える.そして,これらの蓄積された実測結果に基づき,振動対策方法の効果を事前に評価したり,工種毎の効果的な振動抑制方法を採用できるようにすることが望ましい.参考文献1) 山田洋輔・佐々木文夫・飯山かほり・高野真一郎:環境振動が周辺地盤や建物へ及ぼす影響に関する研究-重機の作業項目における 3 方向加振力の算出-,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.405-406,2010 年2) 矢田雅一・田口典生:建設重機による建物解体工事時の発生加振力特性,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.407-408,2010 年3) 高野真一郎・佐々木文夫:建物の解体工事振動が隣接建物に及ぼす影響(その2)建物間の距離の影響,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.385-386,2011 年4) 建設作業振動対策マニュアル,日本建設機械化協会,1994 年5) よくわかる建設作業振動防止の手引き,環境省環境管理局大気生活環境室6) 塩田正純:公害振動の予測手法,井上書院,pp.143-146,1986 年7) 建築基礎設計のための地盤調査計画指針,日本建築学会,p.264,2009 年8) 中沢楓太・沼上清・豊嶋学・瀬戸山春輝:軟弱地盤における建物の解体・新築工事に伴う地盤振動,第 49 回地盤工学研究発表会,pp.2167-2168,2014 年-46-
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  • タイトル
  • 粘性土地盤の地震後沈下過程の推定に関する基礎的研究
  • 著者
  • 佐藤 秀政・末吉 祐樹・Tran Thanh NHAN・園山 修平・原 弘行・松田 博
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 47〜52
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69518
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)2-3粘性土地盤の地震後沈下過程の推定に関する基礎的研究佐藤秀政 1・末吉1祐樹 2・Tran Thanh NHAN3・園山修平 2・原弘行 2・松田博2復建調査設計株式会社・2 山口大学大学院・3Hue University of Sciences1. はじめに緩く堆積した砂地盤では,地震によって液状化が発生することがよく知られているが,粘性土地盤でも地震時に過剰間隙水圧が蓄積し,その消散に伴って沈下が生じることが分かっている。粘性土地盤の地震後沈下は,例えばメキシコ地震 1),宮城県沖地震 1),兵庫県南部地震 2)等において確認されており,最近では 2011 年東北地方太平洋沖地震においても沖積粘性土が厚く堆積した地盤において地震後の地表面沈下速度が地震前の 2 倍以上に達したとの報告がある 3)。これらの事例から,内湾の環境改善や航路浚渫等により発生する浚渫土砂を受け入れている海面処分場では,堆積年代の比較的新しい浚渫粘土が厚く堆積しており,地震後に大きな沈下が生じることが予想される。浚渫粘土地盤が沈下すると,処分場内や外周護岸において不同沈下や杭等への負の摩擦力を引き起こし,場合によっては外周護岸が損傷することによって浚渫土砂が流出して,周辺の海域環境に影響を及ぼす可能性も考えられる。しかしながら,浚渫粘土の地震時あるいは地震後の挙動については明確にされていない点が多い。そこで,本研究では,物性が異なる幾つかの浚渫粘土に対して多軸単純せん断試験を実施し,試料のコンシステンシーと有効応力変化および沈下の関係について調べた。その結果,塑性指数が大きいほど繰返しせん断中の過剰間隙水圧の蓄積と繰返しせん断後の沈下ひずみは小さくなることが分かった。また,浚渫粘土に対しても著者らの既往研究におけるカオリン粘土を対象とした有効応力変化や沈下の推定手法が適応可能であることを示した。さらに,一連の試験結果より,試料の塑性指数を用いた簡易な沈下ひずみおよび沈下-時間関係の予測手法を提案した。表-12. 試料および実験方法2.1 試料本研究で用いた試料は東京湾粘土,北九州粘土および比較として用いたカオリン粘土の 3 種類である。試料の物性値を表-1 に示す。東京湾粘土および北九州粘土は,港湾浚渫工事の際に採取されたものであり,カオリン粘土に比べ塑性指数 Ip が大きく,粘土分を多くρs(g/cm3)wL(%)wP(%)IpCc試料の物性値カオリン粘土 東京湾粘土 北九州粘土2.712.772.6347.866.698.022.325.034.225.541.663.80.310.460.60含む試料である。2.2 実験方法本実験で用いた多軸単純せん断試験装置を図-1 に示す。本装置は,供試体(直径 75 mm,高さ 20 mm)の底面に 2 方向から独立してせん断変位を与えることが可能である。図-2 に入力波の位相差を θ=0°と 90°とした場合の供試体の変形モードを示す。なお,本研究において,せん断ひずみ振幅 γdyn は初期の供試体高さ h と最大水平変位 δ の比で定義する。実験は以下の手順で実施した。まず,試料の含水比を液性限界の 1.3~1.6倍に調整し,真空容器にて 40 分間脱気を行なった。その後,試料をせん断箱に充填して圧密圧力 σv0’=49 kPa に達するまで段階的に載荷した。次に,非排水条件下で一方向ならびに多方向繰返しせん断を行った。せん断ひずみ振幅は 0.1~2.0%で変化させた。多方向せん断では直角 2 方向からの入力波に位図-1多軸単純せん断試験装置の概要相差(θ=20°~90°)を与え繰返し載荷を行った。繰返しせん断波形は周期 2.0秒の sin 波とした。繰返し回数 n は 200 回とし,繰返しせん断中はせん断変表-2せん断ひずみ振幅n繰返し回数θ位相差圧密圧力γdyn実験条件0.1~2.0%200 回一方向(0°),多方向(20°,45°,70°,90°)σ’v0h(mm)49 kPa(θ=0°)図-2(θ=90°)供試体変形図Fundamental Study on Prediction of Post-Earthquake Settlement-Time Relations of Soft ClayHidemasa Sato1, Yuki Sueyoshi2, Tran Thanh Nhan3, Shuhei Sonoyama2, Hiroyuki Hara2, Hiroshi Matsuda2 (1Fukken Corporation,2Yamaguchi University, 3Hue University of Sciences )KEY WORDS: Dredged clay, Earthquake, Simple shear test, Settlement, Excess pore water pressure-47- 位および供試体上面での間隙水圧を計測した。繰返しせん1.0断終了後は供試体上部から排水を許し,間隙水圧が消散す0.83. 実験結果と考察0.63.1 繰返しせん断によって生じる過剰間隙水圧の蓄積図-3 に各粘土の繰返しせん断中の過剰間隙水圧比の変化udyn/σ'v0るまで沈下量を測定した。表-2 に実験条件を示す。を示す。図中横軸の累積せん断ひずみ G*は供試体底面中央0.40.2の始点からのせん断ひずみ増分の総和を表し,次式で定義される 4)。0.0G* =∑Δγ x2 + Δγ y2θ=0°カオリンθ=90°(Ip=25.5)θ=0°東京湾粘土θ=90° (Ip=41.6)θ=0°北九州粘土θ=90° (Ip=63.8)(1)0図-3ここに,Δγx と Δγy は X 方向および Y 方向のせん断ひずみ100表-3隙水圧比は小さくなる傾向が確認できる。これは,明確ではないが,塑性指数が大きい試料ほど小さい径の粒子が多A圧比の発生が抑制されたものと考えられる。また,一方向B剰間隙水圧比は大きくなっており,繰返しせん断中の乱れCの影響が大きいことが分かる。既に,カオリン粘土についての実験によって繰返しせん断中に生じる粘性土の過剰間隙水圧 Udyn は次式によって表mされることが示されている 5)。σ v' 0=(2)α + β ⋅ G*α = A ⋅ γ dyn mβ=一方向多方向一方向多方向一方向多方向一方向多方向B + C ⋅ γ dyn式(2)~式(5)における実験定数カオリン粘土 東京湾粘土 北九州粘土(Ip=25.5)(Ip=41.6)(Ip=63.8)3114-0.076-0.0601.0161.022-1.43-1.4010201079-0.089-0.0870.8470.834-0.47-0.3519141561-0.150-0.1090.4970.471-0.35-0.210.60.40.2BC(5)0び m は実験定数である。実験定数 A,m はパラメータαに10図-4(a)100G* (%)1000過剰間隙水圧比と累積せん断ひずみの関係(カオリン粘土)関係し,αは過剰間隙水圧比と G*の関係において初期接線11θ=90°θ=70°θ=45°θ=20°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)0.6θ=90°θ=45°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)0.8udyn/σ'v00.8udyn/σ'v0800(4)ここに,γdyn は繰返しせん断ひずみ振幅,A,B,C およ0.40.20700θ=90°θ=70°θ=45°θ=20°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)0.8(3)γ dynγ dyn > −6001G*udyn/σ'v0udyn400 500G* (%)(γdyn=0.4%)ずみの増加とともに上昇し,塑性指数が大きいほど過剰間せん断時(θ=0°)よりも多方向せん断時(θ=90°)の方が過300繰返しせん断中の過剰間隙水圧比の推移増分である。同図より,過剰間隙水圧比は,累積せん断ひく,作用する粒子間結合力が大きくなるため,過剰間隙水2000.60.40.210図-4(b)100G* (%)01000過剰間隙水圧比と累積せん断ひずみの関係10図-4(c)(東京湾粘土)100G* (%)過剰間隙水圧比と累積せん断ひずみの関係(北九州粘土)-48-1000 勾配を表し,B,C はパラメータβに関係する定数である。な0お,1/βは過剰間隙水圧比の漸近値を表す。実験定数は各粘土について繰返しせん断振幅を変化させた実験を行い算出した。一方向せん断および多方向せん断について各粘土の実験定数図-4(a)(b)(c)に繰返しせん断終了時の過剰間隙水圧比と累積せん断ひずみの関係を示す。図中のプロットは実験値であり,曲線は式(2)による結果である。いずれの粘土においても1εv (%)を表-3 に示す。θ=0°カオリン(I =25.5)θ=90° pθ=0°東京湾粘土θ=90° (Ip=41.6)θ=0°北九州粘土θ=90° (Ip=63.80)2式(2)の結果は実験値とよく一致している。また,多方向せん断においては,過剰間隙水圧比は,累積せん断ひずみG*で整理しているために繰返しせん断の位相差の影響は小さく,両30.1110100Time (min)者には一義的な関係がみられる。図-51000繰返しせん断後の沈下ひずみと時間の関係(γdyn=0.4%)3.2 繰返しせん断後の沈下図-5に各粘土についてγdyn=0.4%における繰返しせん断後の0.20θ=90°θ=70°θ=45°θ=20°θ=0°推定値沈下ひずみと時間の関係を示す。カオリン粘土は排水開始直後に大きく沈下するのに対して,塑性指数が大きい東京湾粘0.15字型を呈している。また,各粘土とも一方向せん断時に比べΔe土,北九州粘土は圧密の進行が遅く,沈下曲線の形状が逆S0.10多方向せん断時の方が沈下ひずみは大きくなっている。繰返しせん断後の沈下は,式(6)~(8)によって表される6)。1 + e0log(1−Δe = Cdyn log(1−SRR =1−1)u dyn0.05(6)0.00σ v' 01)u dynSRR10081udynθ=90°θ=70°θ=45°θ=20°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)(8)6σ v' 0の減少量,SRRは応力減少比(=Stress Reduction Ratio)である。図-6はカオリン粘土についてΔeとSRRの関係を示したものる。この直線の勾配がCdynであって,e-logp曲線の勾配に相当0する。カオリン粘土ではCdyn=0.067,東京湾粘土,北九州粘土ではぞれぞれ0.101,0.181が得られており,いずれの粘土においてもCdyn<Ccとなっている。また,塑性指数が大きいほど42であって,ばらつきはみられるが,両者はほぼ線形関係にあ10図-7(a)100G* (%)1000沈下ひずみと累積せん断ひずみの関係(カオリン)88θ=90°θ=70°θ=45°θ=20°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)4θ=90°θ=45°θ=0°推定値(一方向)推定値(多方向)6εv (%)6εv (%)10(カオリン粘土)σ v' 0ここに,Cdynは動的圧縮指数,e0は初期間隙比,Δeは間隙比42201間隙比減少量 Δe と応力減少比 SRR の関係図-6(7)εv (%)εv =Cdyn10図-7(b)100G* (%)0100010図-7(c)沈下ひずみと累積せん断ひずみの関係100G* (%)沈下ひずみと累積せん断ひずみの関係(北九州粘土)(東京湾粘土)-49-1000 Cdynは大きくなる傾向がある7)。100図-7(a)(b)(c)は圧密試験終了時の沈下ひずみεvと累積せん断ひずみG*の関係を示したものである。プロットが実験値であが大きくなっており,また各粘土とも実験値と推定値はよく一致している。cvd/cvり,点線および直線は推定値である。G*の増加に伴って沈下繰返しせん断後の沈下-時間関係は動的圧密係数cvdを用いて推定することができる。動的圧密係数cvdは,既に応力減少多方向比SRRとの関係として次式で与えられることが示されている108)。cvd= a ⋅ SRR bcv(9)1図-8(a)ここに,cvは標準圧密試験より得られる圧密係数,a,bはv100cvd/cv と応力減少比の関係(カオリン粘土)100一方向係より√t法によって求められる。多方向図-8(a)(b)(c)に各粘土のcvd/cv と応力減少比SRRの関係を示-0.278c /c =1.95×SRRvd v-1.193c /c =6.06×SRRvdv10cvd/cv似したものである。いずれの粘土も繰返しせん断による攪乱vd10SRR実験定数である。cvdは各粘土の繰返しせん断後の沈下-時間関す。図中のプロットが実験値であり,直線は最少二乗法で近-0.078c /c =38.17×SRRvd v-0.037c /c =36.03×SRR一方向1の程度が小さい場合に cvd/cv は大きく, SRR の増加に伴ってcvd/cvは減少する傾向が見られる。各粘土の実験定数a,bの値を表-4に示す。0.1表-4 式(9)における実験定数カオリン粘土 東京湾粘土 北九州粘土ab110SRR(Ip=25.5)(Ip=41.6)(Ip=63.8)一方向38.171.951.39多方向36.036.063.78一方向-0.078-0.278-0.827一方向-1.783多方向多方向-0.037-1.193図-8(b)100cvd/cv と応力減少比の関係(東京湾粘土)100-0.827c /c =1.39×SRRvd v-1.783c /c =3.78×SRRvdv4. 塑性指数を用いた過剰間隙水圧と沈下の推定方法式(2)~(9)によって,粘土層の地震後に生じる沈下と時間関係の推定が可能であるが,式の適用にあたっては,各試料にcvd/cv101ついて実験による実験定数の決定が必要である。そこで,実用的な観点から各粘土の実験定数と塑性指数Ipの関係を整理し,Ipから実験定数を求めることを試みた。0.1110SRR図-9(a)~(d)は式(2)~(5)で用いる実験定数A,B,C,mと塑性指数Ipの関係を示したものである。実験定数Aに関しては図-8(c)100cvd/cv と応力減少比の関係(北九州粘土)A>0であることから累乗近似とし,他の定数に関しては試行的に直線近似とした。図9(a)に示したように実験定数Aについてはばらつきがみられるが,図9(b)(c)においてB,CとIpとの関係のばらつきは比較的小さいことが分かる。各実験定数と推定値の関係としては,せん断終了時の過剰間隙水圧比の漸近値に関係するBおよびCの影響が大きいことから,累積せん断ひずみG*が大きい場合の繰返しせん断後の沈下に関しては比較的精度良く推定できると考えられる。ただし,G*が小さい場合など,ばらつきの影響等についてさらに多くの粘土での検証が必要である。図-10は動的圧縮指数Cdynと塑性指数Ipの関係を示したものである。CdynはIpが大きくなると線形的に増加している。図-11(a)(b)は式(9)で用いる実験定数a,bと塑性指数Ipの関係を示したものである。a,bともにIpが大きくなると減少する傾向がみられ,一方向および多方向繰返しせん断のいずれにおいても傾向は類似している。以上に示した手法によって,塑性指数Ipから簡易に実験定数を求めることができ,式(2)~(9)によって過剰間隙水圧比および沈下ひずみ,さらに沈下-時間関係の推定が可能である。図-12(a)(b)(c)は過剰間隙水圧比,沈下ひずみ,動的圧密係数について実測値と塑性指数Ipを用いた推定値の比較を示したものである。沈下ひずみは,カオリン粘土の場合,精度よく評価できている。東京湾粘土,北九州粘土については計算で得られた値は30%程度の誤差を含む結果となっているが,概ね傾向は一致している。また,動的圧密係数cvdについてもばらつきは見られるが,概ね傾向は一致している。-50- 40000一方向多方向3000-0.1-5A = 2×10 I200024.559R = 0.8875.230R = 0.838P2BA-6A = 1×10 IP-0.2-0.31000一方向2B = -0.002I - 0.019 R = 0.931P2B = -0.001I - 0.030 R = 0.978多方向002060-0.4800実験定数 A と Ip の関係図-9(a)1.200.9-0.50.620図-9(b)一方向mC40IPP40IP6080実験定数 B と Ip の関係-1一方向多方向0.3多方向-1.52C = -0.014I + 1.384 R = 0.989P2C = -0.015I + 1.408 R = 0.9922m = 0.027I - 1.914 R = 0.752P2m = 0.030I - 1.944 R = 0.765P002040IP60-280P0図-9(d)実験定数 C と Ip の関係図-9(c)200.340IP6080実験定数 m と Ip の関係40一方向Cdyn = 0.003IP - 0.0152R = 0.981多方向306A = 4×10 I0.24aCdynA = 9×10 I20P2-3.674R = 0.855-2.486R = 0.921P20.1100020図-1040IP600800実験定数 Cdyn と Ip の関係20図-11(a)80実験定数 a と Ip の関係カオリン東京湾粘土北九州粘土1udyn/σ'v0 (cal)-0.5b601.20-1一方向多方向-1.5b = -0.020I - 0.473 R = 0.971P2b = -0.044I - 0.934 R = 0.925P020図-11(b)40IP+300.8-300.60.40.22-240IP60080図-12(a)実験定数 b と Ip の関係-51-00.20.4 0.6 0.8udyn/σ'v0 (obs)11.2実験値と推定値の比較(過剰間隙水圧比) 100008カオリン東京湾粘土東京湾粘土北九州粘土北九州粘土cvd (cal) (cm2/d)εv (cal) (%)6カオリン+301000-304200図-12(b)246εv (obs) (%)図-12(c)実験値と推定値の比較(沈下ひずみ)-3010010108+301001000cvd (obs) (cm2/d)10000実験値と推定値の比較(圧密係数)塑性指数を用いた粘性土地盤の簡易な地震後沈下推定法を示した。繰返しせん断によって粘土層内に生じる過剰間隙水圧や沈下は,粘土の応力履歴や年代効果,堆積構造等にも強く影響されるため,塑性指数のみから推定する本手法はある程度の誤差を含むものと考えられる。しかしながら,処分場に堆積した浚渫粘土地盤に対しては塑性指数Ipが分かれば本手法が適用可能であり,処分場の被害推定や対策の立案において有用な方法であると考えられる。今後,さらに多くの粘土について実験を行うとともに,被害事例等で本手法の適用性を検証することが必要である。5. 結論塑性指数が異なる粘性土について簡易に地震後沈下過程の推定を行うことを目的として,塑性指数の異なる粘土について多軸単純せん断試験を行い,繰返しせん断中に発生する過剰間隙水圧,繰返しせん断後の沈下特性を調べた。その結果,以下のことが明らかになった。1)繰返しせん断中に生じる過剰間隙水圧比,繰返しせん断後の沈下および圧密係数は,塑性指数が大きい粘土ほど小さくなる。2)繰返しせん断中に生じる過剰間隙水圧比および繰返しせん断後の沈下は,東京湾粘土,北九州粘土においても既往推定式によって推定可能である。また,既往研究と同様に累積せん断ひずみを用いることによって,繰返しせん断方向の影響を低減できる。3)塑性指数を用いた簡易な粘性土の地震後沈下推定法を提案した。簡易推定法による推定値は 30%程度の誤差範囲で推定可能である。参考文献1)安原一哉・常田賢一・松尾修・那須誠:粘性土の動的性質, 3.粘性土の動的問題に関するケースヒストリーと現象のメカニズム,46-7, pp.57-62, 1998.2)神戸市開発局:兵庫県南部地震による埋立地地盤変状調査(ポートアイランド,六甲アイランド)報告書, pp.88-105,1995.3)濁川直寛・浅香美治:千葉県浦安市における地震に伴う沖積粘土地盤の長期沈下の実測, 第 48 回地盤工学研究発表会発表講演集, pp.1679-1680, 2013.4)福武毅芳・松岡元:任意方向単純せん断におけるダイレイタンシーの統一的解釈, 土木学会論文集, 第 412 号/Ⅲ-12,pp.143-151, 1989.5)Matsuda, H.・Nhan, T.T.・Ishikura, R.:Prediction of excess pore water pressure and post-cyclic settlement on soft clay inducedby uni-directional and multi-directional cyclic shears as a function of strain path parameters, Soil Dynamics and EarthquakeEngineering, 49, pp.75-88, 2013.・Matsuda, H.:Study on the settlement of saturated clay layer induced by cyclic shear, Soils and Foudations, 28(3),6)Ohara, S.pp.103-113, 1988.7)松田博・柳楽英希:繰返しせん断によって生じる飽和粘土の有効応力減少と再圧密沈下特性, 土木学会論文集,No.659/Ⅲ-52, pp.63-75, 2000.8)Matsuda, H.:Rate of earthquake-induced settlement of level ground, Soil Dynamics and Earthquake Engineering, Ⅶ,pp.321-328, 1995.-52-
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  • タイトル
  • 有明海の海水環境変化が浮遊細粒土の沈降堆積特性に及ぼす影響
  • 著者
  • 塚本 一裕・末次 大輔
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 53〜56
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69519
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)2-4有明海の海水環境変化が浮遊細粒土の沈降堆積特性に及ぼす影響○塚本一裕 1・末次大輔 21佐賀大学大学院工学系研究科・2 佐賀大学低平地沿岸海域研究センター1. はじめに広大な干潟を有する有明海は日本でも有数の海苔養殖海域であり,かつては多様な魚介類が生息する豊かな海であった。近年では一年を通じて赤潮が発生しており,二枚貝の不漁や海苔の色落ちなどの漁業被害が発生し,非常に深刻な問題となっている。さらに近年は有明海海水の透明化の進行が指摘されている。これは赤潮発生の主たる要因の一つと考えられているが,透明化の原因の特定には未だ至っていない。著者らは,有明海の濁りは非常に微小な細粒分が綿毛化することによって形成されており,透明化はこの綿毛化の解消によって生じていると考えている。そこで,本研究では有明海の浮遊細粒土の沈降堆積特性に及ぼす要因として,冬季に海苔養殖時に使用される海苔活性剤(殺菌剤)として用いられる酸処理剤と季節的に変動する塩分に着目し,これらの影響を明らかにする。本論文では,有明海湾奥の干潟域に堆積する海成粘土(底泥)を用いた沈降堆積実験の結果を示し,浮遊細粒土の沈降堆積特性に及ぼす酸処理剤と塩分の影響について考察する。2. 実験方法2.1 実験概要本研究では,有明海の湾奥干潟域(佐賀市東与賀地先)に堆積している高含水状態の粘性土(以降,底泥と呼ぶ)を用いて,海水中における底泥の沈降ならびに堆積に及ぼす酸処理剤と塩分の影響について調べた。実験に使用した底泥の物性は表-1 に示すとおりである。干潟域より採取した底泥を,海水や酸処理剤と十分に混合してしばらく静置すると図-1 のような状態を示す。すなわち,沈降堆積した固定層,沈降しない細粒土が懸濁状態にある浮泥層,および上澄みの水層の 3 つの層を形成する。今回の実験では,底泥と,底泥から分離抽出した浮泥層を形成する微小で沈降が極めて遅い細粒分(以降,浮泥と呼ぶ)を用いた。ま表-1 試料の物理的性質土粒子の密度 (g/cm3)自然含水比 (%)2.68197.75液性限界 (%)149.5塑性限界 (%)53.7粒度組成 (%)砂シルト粘土塩分濃度2.215.582.31.7ず,底泥ならびに浮泥試料を用いて,沈降ならびに堆積特性に及ぼす酸処理剤と塩分の影響を比較検討した。これら実験条件をそれぞれ表-2,3 に示す。なお,表-2 の実験では,平行して希硫酸を用いて同じ pH 条件で同様の実験を行い,底泥ならびに浮泥の沈降特性に及ぼす酸処理剤と無機酸の違いについて比較検討した。用いた海水は佐賀県唐津市の唐津湾で採取した天然海水(塩分濃度 3.0%)を用いた。これは,有明海の海水は懸濁しているので,懸濁物質の影響をできる限り取り除くために,外洋に接続する海域の海水を使用している。また,酸処理剤は,近年主流の栄養塩を含む有機酸を用いた。2.2 試料の作成採取直後の底泥は塩分を含んでいるため,次のような手順で塩分を除去する操作を行った(図-2)。採取してきた底泥にイオン交換水を注いで十分に撹拌し,底泥の懸濁水を作製した。それをしばらく静置した後,懸濁水中の塩分の影響で底泥が沈降するので,懸濁水は上澄み水と底泥の 2 層に分離される。分離した上澄み水を濁らないように慎重に抜き取った。再度イオン交換水を注ぎ,同様の懸図-1 各層の定義濁水を作製した。この操作を繰り返して塩分濃度を下げていき,上澄みが表れなくなるまで続ける。また,浮泥試料は次のように作製した。先の方法で塩分を除去した乾燥質量 65g の底泥とイオン交換水を 1000ml になるように混ぜ合わせて懸濁水を作製する。しばらく静置すると,上澄みは現れずに浮泥層と固定層の 2 層に分離するので,この浮泥層をサイフォンで慎重に抜き取った。2.3 実験手順底泥の沈降実験の手順は次の通りである。メスシリンダー(φ=6.5cm,h=40cm)に,塩分を除去した乾燥質量 65g のEffects of seawater environment changes in Ariake Sea on characteristic of sedimentation and depositionKazuhiro Tsukamoto1, Daisuke Suetsugu2 (1 Graduate School of Engineering, Saga University, 2 ILMR, Saga University)KEY WORDS: Floculent structure, Transparency, Accumulation, Ariake Sea-53- 表-2 酸処理剤および無機酸を用いた実験の条件試料1-11-2酸処理剤濃度 (%)pH0.16.090.25.500.54.890.13.400.22.800.52.30底泥 (md=65g)浮泥 (850ml)図-2 底泥試料の作成方法表-3 海水を用いた実験の条件底泥と,所定条件の濃度となるようにイオン交換水,天試料然海水,酸処理剤を全量 1000ml となるように投入した。十分に撹拌した後,所定の時間にデジタルカメラを用いて撮影し,各層の境界面高さを測定した。酸処理剤濃度 (%)塩分濃度 (%)2-1底泥 (md=65g)00, 0.05, 0.1, 0.3,0.5, 1.0, 1.5, 2.02-2浮泥 (850ml)00.05, 0.1, 0.15, 0.2, 0.3浮泥を使った沈降実験では,懸濁状態の浮泥 850ml に,表-4 間隙径を計測する実験の条件条件の濃度になるようにイオン交換水,天然海水,酸処理剤をメスシリンダーに全量 1000ml になるように投入した。その後,底泥と同様に所定の時間に写真撮影を行った。浮泥の実験では濁度の変化を測定した。濁度の測定は次の方法で行った。段階的に希釈した浮泥試料のデ試料3-13-2底泥 (md=65g)酸処理剤濃度 (%)塩分濃度 (%)0.5001.5ジタル画像をグレースケールに変換して階調を求める。次に,分光光度計を用いて浮泥試料の吸光度を計測し,階調-吸光度の相関関係を求める。次に,濁度が既知の試料としてホルマジン標準液(濁度:400 度)を段階的に希釈して,同様に吸光度を求める。これより,濁度-吸光度の相関関係を求める。これらの二つの相関関係から階調-濁度の関係を予め求めておき,デジタル画像から濁度を求めた。なお,画像の色調は水面下から 5cm の点で観測した。底泥の堆積実験ではアクリル製リングカット式円筒容器を用いて乾燥質量 130g の底泥と,条件の濃度となるようにイオン交換水,天然海水,酸処理剤を全量 2000mlとなるように入れて十分撹拌する。一週間の静置期間を設け,水層と固定層の 2 層に分離したのを確認した後,図-3 酸処理剤を用いた底泥の沈降試験水層の上澄み水をサイフォンによって取り除き,液体窒素を静かに注ぎ瞬間凍結させた。凍った堆積土を取り出し,熱衝撃を与えないように冷凍庫に一昼夜保存する。その後,フリーズドライした試料を用い,水銀圧入式ポロシメーターを使用して堆積土の総間隙量および間隙径分布を測定した。試料土は固定層の表面下の 2cm の深さで採取した。3. 実験結果と考察3.1 底泥の沈降特性に与える酸処理剤および塩分の影響酸処理剤を用いた底泥ならびに浮泥の沈降試験の結果をそれぞれ図-3,図-4 に示す。図中の黒塗りおよび白抜きのプロットはそれぞれ酸処理剤および無機酸を投入した条件の結果である。酸処理剤ならびに無機酸を投入図-4 酸処理剤を用いた浮泥の沈降試験した場合,双方とも pH=6.09 ではほとんど沈降しない。pH=5.50 の条件では,双方とも静置してから約 20 時間後-54- に沈降が始まる。pH=5.50 ならびに pH=4.89(酸処理剤濃度:0.2%, 0.5%)の時,静置直後から浮泥層は形成されず,水層と固定層の 2 層に分かれて底泥の沈降が進行する。無機酸を投入した場合も同様である。また,pH=4.89 の場合は,静置直後の沈降は酸処理剤の場合より無機酸の場合が速いが,2 分以降では酸処理剤の場合とほぼ同じ速度で沈降している。酸処理剤と無機酸を投入すると,pH が低く,沈降の初期段階で若干の沈降速度に違いが表れるが,いずれにしても懸濁水の pH が低下することによって底泥の沈降が速くなる。したがって,酸処理剤が投入されると pH が低くなって底泥の沈降が促進されることが分かる。pH の低下に伴う沈降速度の増加の要因については次のように考えられる。すなわち,水中の pH が低下することでH+濃度が上昇し,負に帯電している粘土表面の粒子間反発力を図-5 海水を用いた底泥の沈降試験低下するので,粘土同士を引きつけあい底泥を沈降させている2)。浮泥の沈降試験で得られる透明度の経時変化を図-4 に示す。底泥の沈降と同様に,浮泥に酸処理剤ならびに無機酸を投入して懸濁水の pH が低くなると,浮泥の沈降が速くなることを確認できる。沈降の速さを比較すると,酸処理剤を投入した場合の方が底泥の場合と同様に沈降が遅い。これらの結果より,酸処理剤の投入により懸濁水の pH が低下すると底泥および浮泥の沈降が促進されるといえる。底泥ならびに浮泥を用いて塩分濃度を変化させた沈降試験の結果をそれぞれ図-5,6 に示す。底泥の場合(図-5),塩分濃図-6 海水を用いた浮泥の沈降試験度が高くなると早く沈降し,塩分濃度 0.3%で最も早く沈降する。ところが,塩分濃度 0.5%を超えると沈降が遅くなる。これらの結果は次のように考察される。すなわち,Na+は負に帯電している粘土粒子間の反発力を低下させるため,海水中では粘土粒子同士が凝集することによって沈降が促進されることとなる。塩分濃度が低い条件では,海水中の懸濁状態の底泥が部分的に凝集しながら沈降する。塩分濃度が高くなると,粒子間反発力がさらに低下して底泥が全体的に凝集して綿毛化構造を形成してしまったために沈降が遅くなったと考えられる。浮泥を用いた沈降試験の結果を図-6 に示す。浮泥の場合も底泥の場合と同様に,塩分濃度が高いときほど沈降が促進されていることがわかる。ただし,今回の浮泥の実験条件の設定上,塩分濃度 0.5%以上の条件で沈降実験を行っていないため,底泥を用いた実験で観察されたように,塩分濃度が 0.5%より高くなると沈降が遅くなる現象が浮泥でも観察されるかどうかについては別途検討する必要がある。これらの結果より,底泥ならびに浮泥の懸濁水中に塩分が存在すると沈降が促進されることがわかる。pH の低下と塩分によって沈降が促進されるのは,いずれも凝集によって土粒子が団粒化に起因していると考えられる。沈降の初期段階で沈降速度を比較すると,pH の低下による影響が大きいことがわかる。これは,海水と pH 変動の沈降の違いは凝集させる影響因子が H+と Na+であるかであり,陽イオン交換能力が H+の方が高いため 3)沈降速度が大きくなったと考えられる。3.2 底泥の堆積特性に与える酸処理剤および塩分の影響酸処理剤および塩分濃度を変化させた底泥の沈降試験終了時の固定層の堆積高さをそれぞれ図-7,図-8 に示す。pHが低くなると堆積高さは高くなる。酸処理剤および無機酸を投入した場合を比較すると,いずれの pH においても酸処図-7 堆積高さに及ぼす pH の影響図-8 堆積高さに及ぼす塩分濃度の影響-55- 理剤を投入した方が無機酸に比べ堆積高さが低いことが分かる。一方,塩分濃度を変化させた条件では,塩分濃度が高いときほど堆積高さが高くなっており嵩張って堆積していることがわかる。これは,塩分濃度が高いときほど大きく団粒化するためと考えられる。塩分濃度 1.5%と酸処理剤濃度 0.5%の最終堆積高さを比較したものを図-9 に,水銀圧入式ポロシメーターで測定した総間隙量を図-10 に示す。これらの堆積高さを比較すると,酸処理剤を投入した場合の方が低く,密に堆積している。双方の総間隙量を比較すると,酸処理剤を投入し沈降堆積した場合の方る沈降堆積にかかわらず,10m~200m の範囲に分布しているが,分布形状に酸処理剤と塩分による違いがみられる。すなわち,海水の場合は10µm 付近に最も高いピークが表れており,その他いくつかピークが表れている。一方,酸処理剤の場合は 90µm 付近に一つだけピークが表れている。海水の場合では塩分の凝集効果によって,様々な間隙径をもつ団粒化した粒子が堆積したためと考えられる。酸処理剤の場合では,pHの低下による凝集効果に加え,土粒子間の引力を低減させる分散効果も併せ持っているために,ある間隙径が突出する結果となったと推察される。酸処理剤に分散効果があるとすると,沈降堆積の際にこの分散効果が底泥の綿毛化構造を解消していることが推察される。図-3 に示した底泥の沈降試験の際,酸処理剤濃度が 0.5%のときと,無機酸で同じ pHに調整したときの境界面高さ(この場合は水層と固定層)に差が表れたのは,この分散効果が関与したと考えられる。実際の海域では,河川付近や汽水域を除くと塩分濃度が 1.0%より下回ることはほとんどなく,また,これまでに長期的な塩分の大きな変動はほとんどないので,塩分が透明度の上昇に与える影響は極めて小さいと考えられる。一方で,酸処理剤の投入による pH の変動の方が,塩分の変動より底泥ならびに浮泥の沈降堆積に及ぼす影響は遥かに大きい。特に酸処理剤を使用する冬季の透明度の上昇に与える影響は非常に大きいと考えられる。以上の一連の結果より,酸処理剤は,底泥および浮泥の沈降を促進し,Cumulative Pore Volume ΣV (ml/g)図-11 に示す。沈降堆積した底泥の間隙径は,酸処理剤および塩分によ図-9 最終堆積高さの比較32Salinity (Case 3-2)1Acid treatment agent (Case 3-1)00.001 0.01 0.1110 100 1000Pore size diameter (μm)図-10 堆積土の総間隙量Log Differential intrusion V (ml/g)が小さくなっており,図-9 の結果と定性的に一致する。間隙径分布を5Acid treatment agent (Case 3-1)43Salinity(Case23-2)100.001 0.01 0.1110 100 1000Pore size diameter (μm)図-11 堆積土の間隙径分布密実に堆積させることが明らかになった。ただし,酸処理剤は冬季の約3 か月間に集中的に使用されるもので一時的である。有明海の透明度が徐々に上昇していることを考えると,酸処理剤を使用した後には,底泥が密実に堆積し,それに伴ってせん断強さが増加し,流れによる底泥の巻き上げ抵抗力が増して透明化を促進させていることも考えられる。さらには,巻き上げが困難になると底泥が撹拌されず,底質環境をより悪化させることも考えられる。今後はこの観点からも検討を行う必要があると考える。4. まとめ本研究で実施した一連の室内実験では,有明海の底泥ならびに浮泥の沈降堆積特性に及ぼす酸処理剤と塩分の影響について,沈降堆積実験結果を示して考察した。得られた知見は以下のとおりである。1)酸処理剤および塩分は底泥ならびに浮泥の沈降を促進する。2)酸処理剤および塩分の沈降促進の機構は異なる。3)酸処理剤は底泥の沈降堆積時の密度を増加させる。謝辞:本研究では,佐賀大学理工学部江口遼太氏の協力を得た。ここに記して感謝の意を示す。参考文献1)楠田 哲也著,蘇る有明海―再生への道程,恒星社厚生閣,pp55,20122)笹西 孝行・鈴木 素行・山本 哲朗,pH が異なる土懸濁液の沈降・堆積特性,山口大学工学部研究報告,Vol.53,No.2,pp25-pp34,20033)嘉門 雅史・浅川 美利共著,土木学会編 新体系土木工学技報堂出版-56-16 土の力学(Ⅰ)-土の分類・物理化学的性質-,pp89,
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  • タイトル
  • 緑化土質材料内の水分環境及び化学的環境が薬用植物「カンゾウ」種子の発芽に与える効果
  • 著者
  • 古川 全太郎・安福 規之・大嶺 聖・丸居 篤・亀岡 廉
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 57〜60
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69520
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)2-5緑化土質材料内の水分環境及び化学的環境が薬用植物「カンゾウ」種子の発芽に与える効果○古川全太郎 1・安福規之 1・大嶺聖 2・丸居篤 3・亀岡廉 41 九州大学大学院工学研究院・2 長崎大学大学院 工学研究科・3 弘前大学 農学生命科学科・4 九州大学大学院 工学府1. はじめに気候変動や乱獲・過放牧による砂漠化の進行は,重大な地盤環境問題の一つである。特にアジア地域は「今後より一層の砂漠化の進行が懸念される土地 1)」とされており,これらの地域に対する処置は急務である。筆者らはこれまでに稀少で有用な薬用植物「カンゾウ (Glycyrrhiza uralensis Fisch.,写真-1)」を乾燥地地盤に定植させるための「付加価値の高い持続可能な砂漠化対策技術」の開発を目指し,モンゴル南部乾燥地においてカンゾウ植生実験に取り組んできた。その中で,乾燥地・カンゾウ非自生地地盤の数倍から数十倍の保水・保肥力を持ち,現地の地盤材料及び肥料分で作成する筒状構造の「緑化土質材料 (Greening Soil Material,GSM,写真-2)」を開発し,カンゾウ生育・生存に適切な地盤環境の定量化を試みてきた 2) 3)。筆者らがこれまでに取り組んできた生育実験は,不定芽を含むカンゾウ根を部分的に採取し移植すると生育を続ける特性を利用し,採取した根を GSM に移植後,地盤内に設置する方式で行ってきた。しかし,自生根の採取は残された自生根の弱体化を招く恐れがある。そこで,本論文では自生地で採取したカンゾウ種子を用いて,数種の発芽処理方法及びGSM の材料混合条件において発芽試験を行い,特に GSM 内の水分,水溶性塩類,炭酸カルシウム含有量と発芽・生存率の関係についての調査を行った。2. 実験条件2.1 実験の目的と概要筆者らが行ったモンゴル南部乾燥地地盤環境調査において,カンゾウは炭酸カルシウムを主とした無機塩類が多量に存在するアルカリ性地盤に自生していることが確認されている。一方で,カンゾウが自生していない地域に関しては,地下水位が自生地と比較して低く,無機塩類も豊富ではないことも明らかとなっている 4)。従って,カンゾウ生育には地盤内の浅い領域の水分と無機塩類の含有状態が重要であり,非自生地の地盤にこれを補うことによってカンゾウの健全に生育する可能性がある。そこで,筆者らは筒状の袋に,陽イオン及び炭酸塩を含む写真-1 薬用植物カンゾウの自生種(モンゴル国ボグド村)カンゾウ自生地の砂質土と,現地で容易に調達できる培養土及び動物性肥料分を混合し,筒状の袋に充填する「緑化土質材料」を考案した。これをカンゾウ根と共に地盤内に設置することにより,カンゾウ生育に必要な水分や陽イオン等の塩類を補うことを狙いとした実験を行い,非自生地においてカンゾウ根を生存させることに成功している 2) 3)。しかし,現地で調達できる種子をそのまま GSM に定植し,生育させることには成功していない。種子からの発芽・生育がうまくいかない理由として,生育初期段階で必要な水分・無機塩類の含有量を把握でいきていないことと、カンゾウ種子の種皮は硬実性があることが写真-2 緑化土質材料 (Greening Soil Material, GSM)挙げられる。特に、発芽率を上げるには種皮の硬実性を打破する「発芽処理」が必要である。日本国内のカンゾウ研究事例では,紙やすり,精米機,凍結-急速解凍,濃硫酸浸漬等様々な発芽処理による発芽率向上方法の検討がなされている 5)。モンゴル南部の現地で発芽処理を行う場合,薬品の使用や熱湯,凍結処理等を行うことは材料の調達や設備上困難であるため,簡単に種皮の硬実性を打破する方法として,市販の紙やすりまたはカッターでの種皮の傷付けを採用した。また,酸の代用品として,料理用 70 %酢酸による処理も検討した。2.2 より,実験対象地,GSM の大きさ及び混合条件,種子の発芽処理の条件に関して述べる。Effects of water and chemical environment on germination of medicinal plant licorice (Glycyrrhiza uralensis Fisch.) by usingGreening Soil Material (GSM)Zentaro Furukawa1, Noriyuki Yasufuku1, Kiyoshi Omine2 , Atsushi Marui3 and Ren Kameoka4 (1Faculty of engineering, KyushuUniversity, 2Faculty of engineering, Nagasaki University, 3Faculty of agriculture and life science, Hirosaki Universithy, 4Departmentof civil engineering, Kyushu University)KEY WORDS: Anti-Desertification, Greening Soil Material, Calcium Carbonate, Licorice-57- f 20 cm2.2 実験対象地実験対象地は,北緯約 44 度,東経約 100 度,標高約 1200 m に位置するモンゴル国バヤンホンゴル県 (Bayanhongor aimag) ボグド村 (Bogd soum) である。実験対象地周辺は,平均気温と降雨量により区分される気候区分では,「乾燥地」または「沙漠」に分類される地域であり,例えば 2013 年の平均気温は 6.6 ℃,最高気温は 34.4 ℃,最低気温は- 38.0 ℃,降雨量は年間 179.3 mm である。2.3 GSM の設計,混合割合及び初期の化学的環境(S3Sand) と,モンゴル国の首都ウランバートルで販売されている培養土 (腐葉土、木チップ等が混合された材料,以下 UB) もしくはボグド村で調達した動物性肥料 (家畜の糞を乾燥させたもの、以下 LC) を混合して作成する。設計図を図-1 に示す。本実験で使用した GSM は,h 25 cm前述したように,GSM は現地で容易に調達できる自生地の保水性が高いシルト質層の砂直径 10 cm,高さ 25 cm の筒状の袋に,S3Sand と UB,または S3Sand と LC を,以下に記す混合割合で混合したものを充填した。カンゾウの生育に重要な地盤環境の因子として,乾燥密度,含水比などの物理的環境,強Seeds of licorice10 per 1 GSM(buried 1 cm)Mixing soil coveredwith Biodegradableplastic図-1 GSM の設計図熱減量,pH,EC,無機塩類等の化学的環境が挙げられる。そこで,表-1 に GSM の材料及び各混合条件における土壌の初期乾燥密度,含水比,pH, 電気伝導度 (Electric Conductivity, EC),強熱減量,炭酸カルシウム (CaCO3) 含有量,水溶性陽イオン 4 種 (Ca2+, Mg2+, Na+, K+) を示す。使用した土質の混合条件は,1) S3Sand のみ,2)S3Sand の推定乾燥重量に対して 20 %の UB を混合したもの (UB 20 %),3) 2) と同様に 40 %の UB を混合したもの (UB40 %),4) S3Sand の推定乾燥重量に対して 10 %の LC を混合したもの (LC 10 %) の 4 種である。この条件は,先に取り組んでいた,GSM を用いて根を非自生地において生存させる実験で設定した条件のうち,生存率が高かったものを選択した 2)。土壌の pH, EC は JGS-021 及び JGS-022 に準拠した方法で測定し 6),炭酸カルシウム含有量は強熱減量試験により求めた 7)。水溶性陽イオンは (乾土):(水) = 1:5 の割合で混合し,撹拌・振とうした後,0.2m のセルロースフィルターにより濾過したろ液を原子吸光法により測定した 8)。表-1 より,使用する土壌及び肥料はアルカリ性であり,どの材料もおおむね水溶性陽イオンよりも炭酸カルシウムが卓越しているといえる。また,土壌が有する水溶性陽イオンの総和と相関がある EC に関しては日本国内で一般的な植物を栽培するためには,0.1– 1.5mS / cm の範囲が適正だとされているが 9),どの生育条件もこれを満たしていることがわかる。表-1 GSM の初期実験条件Usedmaterial/ UnitS3SandUBLCUB 20 %UB 40 %LC 10 %Drydensityg / cm30.6840.6760.700Water IgnitionCaCO3-Cacontentloss%20.7127.429.9122.1423.5319.40%1.3620.7042.305.489.476.35mg / kgdry1711.102603.204024.201901.132085.071992.90pHEC-mS / cm8.547.717.208.368.198.400.1360.66011.1000.2480.3561.472種子の採取は,2014 年 6 月に Bogd 村周辺において行っ芽処理による発根及びその後の成長を判断した。紙やすりによる条件に関しては,目の粗さの異なる三種 (①40 番(300 - 710 m),②60 番 (212 - 500 m),③120 番 (90 - 250m))を用いて,100 粒の種子を 30 分間研磨した。なお,紙133.69212.99514.11150.58166.93180.04Mg2+Na+mg / kgdry32.4975.071188.9941.5650.34173.38175.10360.036103.49214.50252.63897.36K+3.33641.941960.94139.36271.04241.82表-2 発芽処理の条件2.4 種子の採取及び処理方法た。採取した種子を,5 種類の方法で発芽処理を施し,発Water soluble cationCa2+GSM Conditions No.1S3Sand2UB 20 %3UB 40 %4LC 10 %5Treatment conditionSandpaper No. 40 (Rough, 300 - 710 m)Sandpaper No. 60 (Medium, 212 - 500 m)Sandpaper No. 120 (Fine, 90 - 250 m)Cutter (30 - 35 scratches)70 % acetic acid for cookingやすりの番号が大きい程,やすりの目は細かい。この 3 つの処理条件に加え,④工作用のカッターで種皮一粒に対し 30~ 35 箇所の傷をつける条件と,⑤調理用の酢酸 (濃度 70 %) に一昼夜浸漬させ,種皮の一部を溶解させる条件も行った。これら① - ④の処理を施した種子内部を浸潤させるために一晩浸水させ,2.3 に示した条件で準備した各々の GSM に一つ当たり 10 粒の種子を播種した。2.5 潅水条件と実験期間の気象条件試験期間内の気温を図-2 に,潅水と降雨量を図-3 に示す。実験を開始した 2014 年 6 月 6 日から 6 月 30 日まで,一つの GSM に対して,播種直前に 2000 ml,その後 3 日おきに 450 – 500 ml 潅水した。実験対象地では,図-3 に示すように,7 月上旬から一か月間程度雨期があるため,7 月以降は降雨により水分を与えた。実験を開始してから 3 か月後の 9 月 17-58- 日に,各条件における GSM 内のカンゾウ苗の生存率を確認し,GSM の土壌サンプリングを行った。403.1 GSM 内の含水比と生存率の関係35す。図中に記すように,各混合条件で生存率の最大値・平均値・最小値を示している。図-4 より,培養土 (UB) の混合率が20 %以上であると生存率が低下することがわかった。また,LC を混合し30252015105た条件でも,生存率が低く,UB を 20 %混合する0条件が発芽及びその後の初期生育には適している-5ことが示唆された。この理由は 3.3 からの内容と共に考察する。図-2 発芽試験期間中のモンゴル南部 Bayanhongor 県 Bogd 村の気温,湿度 (2014 年 6 月 6 日-9 月 17 日)3.2 発芽処理の方法と発根率,生存率の関係次に,図-5 に種子の発芽処理方法と生存率を示20平均値を見るとどれも 30 %前後である。また,カッターで種皮に傷をつける方法は,労力と時間をかけたにも関わらず,やすりで処理したものと比較すると生存率が低く,紙やすりを使うことの有Rain amount (mm)す。図-5 を見ると,生存率の最大値は粗い紙やすり (Rough) と細かい紙やすり (Fine) が高いが,Maximum Temperature: 34.9 ℃Average Air Temperature : 19. 1 ℃Minumum Air Temperature : - 2.2 ℃2014/6/62014/6/92014/6/132014/6/162014/6/192014/6/222014/6/252014/6/282014/7/22014/7/52014/7/82014/7/112014/7/142014/7/172014/7/212014/7/242014/7/272014/7/302014/8/22014/8/52014/8/92014/8/122014/8/152014/8/182014/8/212014/8/242014/8/282014/8/312014/9/32014/9/62014/9/92014/9/122014/9/16図-4 に,GSM の混合条件と発芽率の関係を示Air Temperature (℃)3. 実験結果効性が示唆された。また,調理用の酢酸で処理しIrrigation2014/ 6/ 6 - 6/ 30450 - 500 ml / 3daysRain amount : 122.9 mm / 100 days15105た種子は生存率が低かった。これにより,弱酸でが示唆された。3.3 GSM 内の含水比と生存率の関係図-6 に GSM が有する初期含水比と生存率の関02014/6/62014/6/92014/6/122014/6/152014/6/182014/6/212014/6/252014/6/282014/7/12014/7/42014/7/72014/7/102014/7/142014/7/172014/7/202014/7/232014/7/262014/7/292014/8/22014/8/52014/8/82014/8/112014/8/142014/8/172014/8/212014/8/242014/8/272014/8/302014/9/22014/9/52014/9/92014/9/122014/9/15は種皮の硬実性を打破するには十分ではないこと図-3 発芽試験期間中のモンゴル南部 Bayanhongor 県 Bogd 村の降雨量 (2014 年 6 月 6 日-9 月 17 日)係,図-7 は実験開始から 3 か月後に1.01.0している。なお,図-7 の含水比は主0.90.90.80.80.70.7た GSM の上層 (表層から 0 - 5 cm)と中層 (表層から 10 - 15 cm) をサンプリング,測定し,上層と中層の平均値を示している。図-6,図-7 を見Survival rateに生存率が高かった GSM と低かっSurvival rate測定した含水比と生存率の関係を示0.60.50.40.60.50.40.30.3比べてみると,19 - 24 %の範囲にあ0.20.2った含水比は,約 1 か月の潅水と降0.10.1雨による水分供給がありながらも,0.03 か月後には 0.5 - 4 %となっていることがわかる。また,図-7 より残存含水比が高くなる程,生存率が上がS3SandUBUB40 %20 %Mixing conditionsLC図-4 混合条件と生存率の関係(n = 50)0.0120Cutter 70 %(Rough) (Medium) (Fine)aceticacid4060Treatment conditions図-5 発芽処理方法と生存率の関係(n = 40)る傾向にあることも明らかである。持続可能な砂漠化防止対策を提案するためには,低管理,つまり潅水頻度をできる限り少なくする技術を考案しなければならない。したがって,潅水や降雨によって与えられる水をできるだけ蒸発させないようにする方法を検討する必要がある。3.4 GSM 内の EC と生存率の関係GSM の初期 EC と生存率の関係を図-8 に,実験後の EC と生存率の関係を図-9 に示す。サンプリングと測定方法は3.3 と同様である。図-8 より,EC は一般的な植物生育にとって適正範囲には入っているが,高くなると生存率が低くなる傾向にあることがわかった。残留 EC も同様であり,図-9 に示すように,残留塩類が高い程生存率が低くなることが明らかとなった。根を用いたカンゾウ生育の場合は,EC が 0.0 - 2.0 mS/cm の範囲では水溶性の塩類濃度が高いと根に栄養として供給され,生存率が高まる傾向にあったが 2),発芽や初期生長においては逆の傾向にあることが推察される。-59- 3.5 GSM 内の炭酸カルシウムと生存率の関係最後に,土中水に溶出していない炭酸塩,特に調査地地盤に多量に含まれる炭酸カルシウムについて述べる。図-10は GSM 内の初期の炭酸カルシウム含有量をカルシウム分の値に換算した値 (CaCO3-Ca) と生存率,図-11 は実験後の炭酸カルシウムと生存率の関係を表している。2 図を比較すると,実験前と実験後で,どの条件もカルシウムの炭酸化が進み,1000 – 2000 mg / kgdry 程度増加していることがわかる。また,初期と 3 か月後の双方とも,炭酸カルシウム含有量が高い程生存率が低くなる,すなわち根からの生育と逆の傾向を示した。これにより,発芽直後や生長初期段階において,カンゾウに可溶性塩類や炭酸塩を与えることは適切ではなく,生育段階に応じた GSM 内の塩類の調節,あるいは実生の場合初期生育は管理された環境で生育させる,などの工夫が必要であることが示唆された。4. おわりに1.0術の確立を目的とした薬用植物「カン0.8土質材料 (GSM)」を用いて,カンゾウの発芽及び初期生育に適切な地盤内0.6た。その結果,1) GSM 内の初期・残留含水比が高い程,カンゾウの生存率0.00.4Average0.30.2Minimum0.10.020Initial Water Content (%)250.0図-6 初期含水比と生存率の関係GSM 内の水溶性塩類濃度や炭酸塩含S3SandUB 20 %UB 40 %LC 10 %0.8となり,生育段階に応じた地盤環境の0.7Survival rate4.01.00.9場合とは逆に,生存率が低くなる傾向1.02.03.0Residual Water Content (%)図-7 残留含水比と生存率の関係1.0有量が高い条件では,根を生育させたかとなった。今後は,現地の人々の支0.515が高まることが明らかとなった。2)皮の研磨が効果的であることが明ら0.6Max0.30.1処理の方法として,紙やすりによる種0.70.40.2調節の必要性が示唆された。3) 発芽0.80.5の水分環境・化学的環境を明らかにしS3SandUB 20 %UB 40 %LC 10 %0.90.90.80.7Survival rate生育に効果的である筒状構造の「緑化0.7Survival rateゾウ」の発芽試験を行った。カンゾウ1.0S3SandUB 20 %UB 40 %LC 10 %Survival rate本論文は,持続可能な砂漠化防止技0.90.60.50.40.3S3SandUB 20 %UB 40 %LC 10 %0.60.50.40.3援の下,幼苗期に潅水管理下で生育さ0.20.2せた苗を対象地に設置していくシス0.10.1テムを考案する.0.00.00.51.0Initial EC (mS / cm)0.00.51.01.5謝辞:本研究の一部は九州大学・玄海町薬Residual EC (mS / cm)草 PJ の支援を得て行われたものである.図-8 初期 EC と生存率の関係図-9 残留 EC と生存率の関係加えて実験・調査に協力していただいたモ1.01.0ンゴル科学アカデミー植物研究所のスタS3Sand0.90.9UB 20 %ッフの方々,カンゾウ生存率チェックや潅0.80.8UB 40 %水,写真撮影を行っていただいた Bogd 村LC 10 %0.70.7の方々に感謝の意を表します.参考文献:1) UNEP: World Atlas of0.60.6Desertification, 1992. 2) Zentaro Furukawa,0.50.5Noriyuki Yasufuku, Kiyoshi Omine, Atsushi0.40.4Marui, Ren Kameoka, IndreeTUVSHINTOGTOKH, Bayart MANDAKH,0.30.3S3SandBanzragch Bat-Enerel, and Yolk Yeruult,UB 20 %0.20.2Settings and Geo-environmental Conditions ofUB 40 %Developed Greening Soil Materials (GSM) for0.10.1LC 10 %Cultivating Licorice (Glycyrrhiza uralensis0.00.0Fisch.) in Mongolian Arid Region, Journal of1500170019002100230001000 2000 3000 4000 5000Arid Land Studies (採録決定済) 3) 亀岡Initial CaCO3-Ca (mg / kgdry)Residual CaCO3-Ca (mg / kgdry)廉・安福規之・大嶺聖・丸居篤・古川全図-10 初期炭酸カルシウムと生存率の 図-11 残留炭酸カルシウムと生存率の太郎,乾燥地における地盤内物理特性が関係関係希少薬用植物「甘草」生存率に与える影響,平成 26 年度土木学会西部支部研究発表会 講演概要集, pp. 767 – 768,2015 4) 古川全太郎・安福規之・大嶺聖・丸居篤,砂漠化対策に向けたモンゴル乾燥地における薬用植物「カンゾウ」自生地の地盤環境特性,土木学会論文集 C 分冊 Vol. 69,(社)土木学会,pp. 417 - 431, 2013 5) 柴田敏郎,カンゾウの国内栽培を目指して,第 3 回甘草に関するシンポジウム 講演概要集,pp. 3 – 7,2005 6) 地盤工学会編:土質試験基本と手引き 第二回改訂版,pp. 66-69, 丸善,2010 7) 新城俊也:強熱減量試験による石灰質土のカルシウム含有量の測定,土と基礎,Vol. 51,No. 4, pp. 32-34, 2003 8) 土壌標準分析・測定法委員会編:土壌標準分析・測定法,pp. 155-160, 博友社,2003 9) 藤村俊六郎・安西徹郎・加藤哲郎,土壌診断の方法と活用,農文協,p. 105, 226-227, 19961.5Survival rateSurvival rate0.0-60-
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  • タイトル
  • 屋敷囲い防災壁による集落の防災化と土石流対策
  • 著者
  • 福田 光治
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 61〜66
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69521
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)3-1屋敷囲い防災壁による集落の防災化と土石流対策福田光治大成ジオテック1.はじめに各地で多発する土石流に対する防災対策は重要な課題であり、集落の防災化という観点から地盤工学の貢献が求められる.例えば 2012 年九州北部豪雨災害における阿蘇地域の被害形態1)に示されたように、砂防ダムに特化した対策では土石流から貴重な財産や生命を完全に守ることには限界がある.一方、屋敷囲い防災壁の活用と設計手法の開発により、災害に対して自ら身を守る工夫を先人の知恵として高め、減災を図ることは自主防災を浸透させることにつながりうる.屋敷囲い防災壁は、高さ 1.2~1.5m 程度の石造りの壁で家屋を囲うものであり、災害に対する解決手法の一つとして位置付けられる2).火山性地形では土石流の発生割合が高く、屋敷囲い防災壁の有効性が期待されうるものである.斜面安定対策工あるいは調査内容は現象の支配方程式から誘導されてくることを考慮すると、地盤工学体系における土石流の位置づけが重要である.そこで本論文では、地盤工学における土石流の支配方程式の位置づけを行うとともに、土石流による警戒区のゾーンを決める国交省告示 332 号の基礎式 3)、4)が土石流の支配方程式から誘導できることを示し、地盤工学上の位置づけを明らかにする.続いて、屋敷囲い防災壁の一つである屋敷囲い石垣を事例を含めて取り上げ、国交省告示 332 号を基礎とした土石流に対する設計法を議論する.2. 斜面安定解析支配式による土石流支配式の解釈(1)斜面安定解析支配式斜面安定解析の支配式はスライスの自重によるせん断抵抗力とスライスの滑動力を比較することによって展開される.図-1 が簡易スライス法におけるスライスに作用する力である.スライス端面に作用するせん断力や地下水の影響は無視している.図より滑動力はスライス自重とスライス上端から作用する主働土圧である.一方抵抗力は自重により発揮される底面摩擦力と下端面に作用する受働土圧である.釣り合い式は式(1)で表現される.スライス体積は奥行き幅 B、スライス長さ L、土塊厚さ H と図-1 簡易スライス法のモデルして計算した.また主働土圧を pa、受働土圧を pp とする.スライス底面抵抗力を粘着力 c、内部摩擦角をφとして Coulomb 則で表現する.Coulomb 則は極限強度であるから、安全率 Fs で処理すると式(1)が得られる.0   t BLH sin   pa cBL   t BLH cos  tan  ppFs(1)斜面安定解析の簡便法はスライス上面から作用する外力を無視すると式(2)5)で示される.ΔTi はスライス底面に作用する滑動力で、式(3)から計算される.スライス斜面長さΔℓi、底面に作用する間隙水圧Δui、斜面勾配αi、有効応力表示の粘着力 c’、内部摩擦核φ’とした時の要素の釣り合い式が式(3)である.ただし両端に作用する水平力は無視している.Ti 1 'c i  i  Wi cos  i  ui  i tan  'iFs(2)Ti  Wi  Q sin  i(3)ここで間隙水圧を無視し、スライス要素番号を消去する.また、スライス斜面長さを L とすると式(4)になる.0   t BLH sin  c ' BL   t BLH cos  tan  'Fs(4)式(1)で pa=pp=0 とすれば、式(1)と式(4)は類似した構造になる.赤井は地盤工学の分野を表-1 に示すように偏微分方程式の形態で分類し 6).斜面安定解析は双曲線型としている.左辺は加速度項、右辺はひずみ増分の空間項である.地盤工学で対象とする斜面安定解析は式(1)、(4)のようになるので左辺の加速度項はゼロにPositioning of mud flow phenomena on the governing equations of geotechnical engineering systemMitsuharu Fukuda(Taisei Geotec. Co. Ltd)Keywords: Geotechnical engineering, Mud flow, Governing equation, Enclosure stone wall-61- なる.右辺のひずみ増分の空間特性は式(1)、(4)に示すようにスライスあるいは土塊の質量を考慮した作用力で表現している.表-1 偏微分方程式による地盤工学の分類 2)Ar+Bs+Ct=0型1.双曲線2.放物型3.楕円形判別式B2-4AC>0B2-4AC=0B2-4AC<0現象伝播擬似定常平衡代表例utt=c2uxxut=K2uxxuxx+uyy=0説明u の値は不連続性を保有したまま, u の値は x 方向には速度∞で伝播す有限速度 c で空間内を伝播する.外乱の影響は一瞬の後には速度∞でるが,t方向には緩やかに変化する. 内域全体に伝わり,積分曲面 u を唯一に決定する.土質力学問題せん断斜面安定・土圧・支持力・動浸透(非定常)・圧密・侵食浸透(定常)・地盤内応力分布的性質(2) 土石流の支配方程式図-2 をモデルとした高橋 7)~9)の土石流支配方程式を示す.「最下部では、斜面表層と土塊の間に作用する大きいせん断力のために、土塊の骨格構造が一部破壊され、ある程度液状化した部分が介在しているとします」として斜面土塊流に対する運動量保存則が示される.dt LHU e   t gLH sin   Lt gH cos   pv k  U e  u h udt11222   fu L'   a ua U e  ha   a cos gha22(5)ここに Ue は土塊の速度、hℓ、uℓは、それぞれ液状化層の厚さ及び平均速度、pv は間隙水圧、H、L は、それぞれ、土塊の全高及び長さ、hs は水で飽和している部分の厚さ、ha、uaは、それぞれ土塊に後続する流れの厚さ及び平均流速、ρt、ρℓ、ρa は、土塊、液状化層及び後続流の見かけの密度、μk は土塊と斜面との間の動摩擦係数、f は液状化部分の流体抵抗係数、L’は L のうちで液状化している部分の長さである.後続流の存在を無視し、図-2 土石流モデル 4)かつ土塊の速度と液状化部分の速度がほぼ等しいとすると、第 3 項、5 項、6 項は無視される.dt LHU e   t gLH sin   Lt gH cos   pv k  1  fU e 2 L'dt2(6)Ue は速度であるから、左辺は加速度項である.右辺第 1 項は単位幅における自重による滑動力である.右辺第 2 項は自重による底面の摩擦項である.式(5)の第 6 項は上面から作用する主働土圧である.したがって式(5)の右辺第 1、2、6 項は斜面安定解析の概念を示す式(1)と同じに構造になる.右辺第 3 項は流動土塊モデルで出現する作用力である.したがって式(1)に対し、流動作用力を線形的に追加すると土石流の支配方程式になる.つまり土石流の支配式とされる式(5)、(6)の右辺は地盤工学の体系となる斜面安定解析の式(1)、(4)の右辺の構造と類似しており、土塊の質量の作用力に、流動土塊の作用力を線形的に追加しているような構造になる.一方土石流支配式の左辺は加速度項になり、斜面安定解析では消失している加速度項を土石流の支配式では含むが、これは加速度項が右辺にある赤井の偏微分方程式による斜面安定解析の形態として位置付けることができる.本論文で防災壁の設計作用力にする国交省告示 332 号の式は式(6)などを展開することにより誘導される.したがって土石流の流動状態を考慮した土石流の支配式が静的な力学条件で発展させた地盤工学の体系に位置付けられることを確認することができ、また赤井の地盤工学体系の中で斜面安定解析に分類されるので、本論文では防災壁の設計作用力を求める根拠にした.しかし流動土塊の力学は多様であり、今後この多様性のなかで国交省告示 332 号の意味を検討し、地盤工学の体系を拡張しながら防災壁設計手法を発展させていかねばならない.3. 国交省告示 332 号国交省告示 332 号は式(7)として与えられている 4).Fsm:急傾斜地の崩壊に伴う土石等の移動により建築物の地上部分に作用すると想定される力の大きさ(kN/m2)、ρm:急傾斜地の崩壊に伴う土石等の移動時の当該土石等の密度(t/m3)、g:重力加速度(m/s2)、-62- hsm:急傾斜地の崩壊に伴う土石等の移動時の当該土石等の移動の高さ(m)である. bu  2aX2aH   2 cos  u   d exp  1  exp  hsm sin  u   hsmaFsm   m ghsm  bd 1  exp  2aX   h  asm     1c bu  cos u tan  u   tan     1c  1 (8)2f  1c  1 b(9)a   1c  tan  bd  cos  d tan  d  1c1(7)(10)式(7)は式(6)から誘導される.後続流の存在を無視し、かつ土塊の速度と液図-3 二つの斜面からなる斜面形態状化部分の速度がほぼ等しいとすると、第 3 項、5 項、6 項が無視され、式(11)になる.無次元化して整理すると式(12)が誘導される.類似した式が文献 9)にも観られる.2pvd1 L' U e  k U e   g sin   g cos  1 fdt2LH  t Hg cos  U'  2dU '  a U '  bdx '  (11)U ' x '  F exp  Ex '  G 1  exp  Ex '(12)1/ 2(13)式(13)として式(12)に代入して解くと最終的に式(14)が得られる. 1/ 2b '2U ' x '  U 0 exp  2ax '  1  exp  2ax ' a(14)式(14)を図-3 のような勾配が異なる斜面に適用すると国交省告示式(7)になる.従って国交省告示 332 号の式は地盤工学の斜面安定問題の体系に位置付けることができることが分かった.4. 民家屋敷囲い防災壁としての石垣1972 年天草大水害の際の降雨の状況は、最大時間雨量 130mm/hr、1 日の総雨量 500 mm 以上で、旧町名でいう姫戸町、竜ヶ岳町、松島町、倉岳町を土石流が襲った 10).その被害実態は、家屋の全壊・半壊 750 棟、死者 115 名、重軽症 249 名写真-1 天草水害時倉岳町西の原 10)であった.地域的には竜ヶ岳町が全壊 218表-2 天草水害における倉岳町と竜ヶ岳町の被害 10)棟、半壊 84 棟、死者 36 名、重軽傷 80 名、倉岳町では全壊 74 棟、177 棟、死者 28 名、町名重軽傷 88 名であった.写真-1 は倉岳町西の倉岳町原の被災状況であり、大きな玉石がごろごろ竜ヶ岳町地区浦棚底宮田集中地区中浦、赤仁田、名桐西の原、境目高戸、大道死者475行方不明14925流出家屋110全壊24-半壊57-流下しており、その土石流が民家を直撃している.表-2 は熊本日日新聞で掲載された被害程度 10)を整理したものである.空白部分は記事に示されておらず、しかし明確にゼロという確認をしていないので空白として残した.その倉岳町の中で被害が集中した地区は中浦、赤仁田、名桐である.これらの地域に挟まれた棚底での被害は少ない.上記の地域はいずれも天草で最高峰の倉岳の山麓に分布し写真-2 斜面上方からみた民家屋敷囲い石垣-63-写真-3 家屋裏石垣 ている.そして棚底は倉岳山麓に広がった扇状地上に広がっている.この扇状地は天草で一番広い面積であり、後背地の倉岳そして矢筈岳の崩壊による土石流が堆積したもので、地域的な差はみられない.この 3 地域の集落形成は異なる.棚底の民家は写真-2~4 に示すように屋敷写真-4 石垣山側風景囲い石垣で囲まれており、山側は土石流に対する一種の防災壁機能を担っている.家屋は山側石垣に接するように建てられており、その分布を図-4 に示す.ヒアリングの結果、この石垣が土石流を押しとどめ、減災の役割を果たしている.写真-5 が石垣の通路口から流入し、写真-2 に示す家屋を襲った洪水の後である.一方浦と宮田の集落には民家囲い石垣写真-5 流下水の跡は見られない.竜ヶ岳町の高戸地区も集落形成形態は浦や宮田に似ている.すな表-3 防災構造物災害名わち棚底の屋敷囲い石垣は防災石垣の役割を果たしたことは明確である.集落防災輪中堤防民家小規模防災例三重県長島町三重県長島町熊本県緑川熊本県緑川水屋洪水遊水池霞堤災害に対する民家形成形態として防高床式石垣土留め壁上にかさ上げ風石垣が有名である 11).屋敷囲い石垣は個人が構築するが、個人の域にとどまら図-4 棚底屋敷囲い石垣の分布土石流強風ず図-4 に示すように集落全体に屋敷囲い石垣が広がっている.ここで注視してい地震るのは家屋裏側で山側に敷設された写真大火船上生活屋敷囲い石垣屋敷囲い防風林屋敷囲い石垣カンボジアトンレサップ湖天草棚底沖縄筋交いによる家具固定ツッパリによる家具固定耐震壁スプリンクラー都市計画岐阜県白川合掌つくり函館-2~4 のような石垣である.文献 11)や現地で確認した防災化の形態を集落と個別的な部位あるいは民家に区分して作成した表-3 を示す.防災化した民家が集落の一般形態に発達すると先人の知恵とされるようである.災害に対する民家の防護柵として屋敷囲い防風林がもっとも一般的に普及し、数は多くはないが防風石垣や間垣なども日本の各地に点在している.こうした防災集落は先人の知恵として、自らの力、あるいは共同して作り上げてきたもので、それが防災集落として現在に残されている.つまり災害文化として集落の形態を特徴づけるほどに定着している.機械施工に頼る現在工法では、個人レベルの対応は一斉に生活防災民家に拡張することは困難であるが、現在的な災害文化を立ち上げる必要性から考えると、防災集落にする方法は防災政策の一環として検討されなければならない.ただ被災への鎮魂歌にとどめず、具体的に一歩進めることが真に現代的災害文化を構築し、歴史に残すことになる.それが先人の知恵であり、また人間の知恵である.本論文では屋敷囲い民家防災壁を先人の知恵として確立する方向性を防災の一環として提案する.そして石垣に囲まれた棚底の民家が土石流対策として機能を有したことを例として示した.5. 九州北部豪雨災害阿蘇地地域の流動圧例写真-6、7 は九州北部豪雨災害における阿蘇外輪山山麓の土石流と被災例である.この阿蘇地域の土石流を対象にした検討例を示す.国土技術政策総合研究所の手法 5)に依拠して,平均堆積深の 1/2 を移動高さとして仮定する.砂防便覧 12)では最大堆積深と平均堆積写真-6 阿蘇坂梨周辺土石流-64-写真-7 大型土嚢による防護 深が示されているが、本論文では土石流全体の層厚を一定とするモデルであること15平均堆積深(m)を考慮して平均堆積深を参考にした.図-5 に砂防便覧に示されたデータの分布を示した.平均堆積深の平均深さは 1.39m である.九州北部豪雨災害地域阿蘇カルデラ壁で、上流側の勾配と民家がのる平地の勾配を地形図から求めたのが図-6 である.分布の平均値を▲で示した. 図-6 は土石流危険渓流の間隙にある山腹の勾配と,その下部の集落の勾配の関係を示したもの10500である.必ずしも土石流発生個所の勾配ではないが,類似した傾向を示していると期待した.平均勾配は、山腹 36.0°、集落 10.4°である.阿蘇カルデラ壁は火山いるが,平均値の山腹勾配は陥40山腹勾配(°)没壁という形成を考えるとやや緩勾配と考えられる.つまり,阿蘇1~3 の溶結凝灰岩が風化し,剥離して山腹に堆積し,被50建築物に作用する力(kN/m2)503020100覆していると考えられる.40図-5 土石流堆積深爆発に伴い内部が陥没して形成された.数回の陥没が発生して20流域面積(km2)25一方集落は平地にあるが,阿155集落勾配(°)-5403020100050急傾斜地の下端からの水平距離(m)図-7 移動土塊による建築物に作用する力図-6 山腹と集落の勾配蘇カルデラ内平地は湖成層で満たされている.このため平地の勾配は小さいと考えられるが,集落表-4 移動土塊作用力の計算例の平均勾配は 10.4°であり,基本的な堆積環境は湖成層であること移動による力の算出t/m3m/s2mm度度1.89.81100を示す.図-7 が計算結果である.図より急傾斜地下端から約 10m 離国土交通省告示332号急傾斜地崩壊土石の移動による建築物Fsmの地上部分に作用すると想定される力の大きさρ m土石などの密度g重力加速度hsm土石移動の高さH急傾斜地の高さθ傾斜度θ u傾斜地の傾斜度れると移動深さ1m程度の移動土塊の建築物に作用する力は約θ d傾斜地の下端からの平坦部傾斜度度10.4σ急傾斜地崩壊に伴う土石などの比重2.6c急傾斜地崩壊土石などの容積濃度0.4bu,ba,パラメータfb急傾斜地崩壊土石などの流体係数落石防護工の仕様条件 13)、14)を考慮して,屋敷囲い防護壁の設計φ急傾斜地崩壊土石などの内部摩擦角度を行ってみる.図-8 のモデルを考え,支柱耐力,その間に張られたx急傾斜地下端からの水平距離mを考えると,やや急こう配である.周辺カルデラ壁からの土石流が表面を被覆し,いわゆる扇状地のような堆積環境で形成されたと考えられる.表-4 に阿蘇地域土石流を念頭に入れて試算に使用したパラメータkN/m23615kN/m2 が想定される.この作用力はパラメータに依存するので、今後データを蓄積して、設計手法ばかりでなく、パラメータ自身の信頼性を確保し、安全性を評価できるように進化させなければならない.0.26.防災壁の設計方法の検討ワイオヤーの引っ張り力を調べる.等分布荷重に関する必要なパラ35abubdメータを示す.鉛直変位をy,支点からの距離をxとすると支点撓0.2439020.366557-0.08816み角θは式(15)で示される.Fsm L24 EI(15)I4nA2(16)等分布作用力Fsm落石防護ワーヤー落石防護工のロープの直径を R,断面積 A、ワイヤーロープの 1m あたりの敷設数を n とすると断面 2 次モーメントは式(16)である. 引張力 T と支点反力 R、支点間隔 L の関係が式(17)~支点反力RAスパン L支点反力RA(19)で示される.落石防護工の設計例 13)、14)から R=120kN と仮定して出発する.Fsm=15kN/m2 とす図-8 土砂災害防災壁の設計ると式(20)になる.TFsw L2 sin (17)RFsw L2(18)L2RFsw(19)L2  120 16m15(20)ここで落石防護工の実績を踏まえて 3m とする.また落石防護ワイヤーの直径をφ18mm とする.A = 129mm2 = 129×10-6 m2、E = 1×105 N/mm2= 105×10-3kN×106/m2 = 105×103kN/m2 とすると撓み角 0.084 ラジアン、引張り力 94.5kN が求められる.ワイヤーロープの降伏荷重を 118kN とすると,降伏荷重に対する安全率は約 1.2 である.従って支柱 3m間隔で,横方向のワイ-65- ヤーロープを 10cm ピッチで 10 本配置すると移動土塊に対して抗することができ,これは落石防護工の施工範囲にあると考えられる.最終的には間伐材などから得られた板などにより民家壁としての化粧を施し、定期的に修復することも必要になろう.7.砂防ダムと民家囲い防災壁の比較現在の災害対策は砂防ダムに頼りがちである.砂防ダムは土石流危険個所渓流を対象に設置される.土石流の発生が予想され、その直下に 1 戸以上の民家があり、その民家への被害が予想される場合に土石流危険渓流として認定され、砂防ダムが整備されていく.砂防ダムの工事費は条件により幅広い金額が予想されるが、ここでヒアリングにより約 3 億円程度を想定する.また砂防ダムの建設により防護される民家個数を 5 戸程度とする.すると砂防工事費は1戸あたり 6000 万円になる.落石防護柵を基本構造とした屋敷囲い防災壁の費用を基礎工+防災フェンスで評価 15)して 10 万円/m と考える.防災壁の延長を30m/戸とすると、300 万円/戸になる.戸当りの工事費は防護柵延長による工事規模により大きく異なる.砂防ダムによる防護民家は 5 戸としているので落石防護柵を基本とする防護壁の工事費総額は砂防ダム推定 3 億円に対し 1500 万円が対置される.砂防ダムと民家囲い防災壁の関係は洪水対策とする維持管理ゼロを期待する長くて高い堤防で封じ込まれた河動主義治水と小規模の多様な対策を重合して減災する氾濫受容型治水の関係 16)に似ている.土石流対策でも氾濫受容型のような思想の展開が求められ、経費節減にもつながることを示した.8. おわりに国交省告示 332 号の提示式を用いて民家囲い防災壁の設計に活用する方法を提案した.火山性地形の斜面災害の多くは土石流である.阿蘇地域の民家集落は地形的にも土石流の舌端部に形成されている.このため急激な山地勾配ではなく、過去の土石流が停止した付近で、比較的平坦な傾斜勾配に分布している.したがって地形的にも土石流の落下エネルギーは低減される.こうした地形条件を考慮し、防災を先人の知恵として展開していくためには、民家囲い防災壁の思想を発展させることが重要であり、かつ砂防ダムに匹敵する効果を発揮できることを期待した.天草棚底の屋敷囲い石垣が防災壁として効果的であったことは明らかであり、実績として示した.また土石流の支配式を地盤工学の体系化された斜面安定解析に組み込むことによって、土石流も地盤工学の対象にすることが可能であることを示した.本論文では防災壁の設計指針案を示したが、個人の財産や生命を守るためには設計手法としての安全性や信頼性を確保していかねばならない.土石流の支配式と国交省告示 332 号の式が地盤工学の体系からも理解できることを示したが、今後地盤工学が土石流防災分野でも社会の責務を果たしていくためには、データを蓄積するとともに、土石流を地盤工学から把握する必要がある.参考文献1) 地盤工学会 平成 24 年 7 月九州北部豪雨による地盤災害調査団:平成 24 年 7 月九州北部豪雨による地盤災害調査報告書、pp.137-211、2013.2) 福田光治・西浦譲二・西英典・山崎智寛・北園芳人:1972 年天草災害における倉岳町の被災条件の追跡、地盤工学会、第 4 回土砂災害に関するシンポジウム論文集、pp.85-90、2008.3) 国土交通省:告示 332 号 土砂災害警戒区域などに関する土砂災害防止対策の推進に関する法律施行令第 2 条第 2 号の規定に基づき国土交通大臣が定める方法などを定める告示、2001.4) 国土交通省 国土技術政策総合研究所:国土技術政策総合研究所資料、NO.225、2005.5) 山口伯樹:土質力学(全改定)、技報堂出版、p.206-207、1986.6) 赤井浩一:土木工学大系 7 土質力学持論,森北出版株式会社,pp.103-118、1974.7) 高橋保:地質・砂防・土木技術者/研究者のための 土石流の機構と対策、近未来社、pp.56-61、2004.8) 高橋保:地質・砂防・土木技術者/研究者のための 土砂流出現象と土砂災害対策、近未来社、pp.57-87、2006.9) 芦田和男・江頭進治・神矢弘:斜面における土塊の滑動・停止機構に関する研究、京都大学防災研究所年報、vol.27、pp.331340、1984.10) 熊本県治水砂防協会:上天草の砂防災害と復旧、1976.11) 漆原和子:石垣が語る風土と文化 屋敷囲いとしての石垣、古今書院、pp.1-6、2008.12) 建設省河川砂防部編集・全国治水砂防協会発行:砂防便覧平成 7 年版、pp.57-73、1995.13) 日本道路協会:落石対策便覧、pp.132-161、2010.14) 勘田益男:落石対策工 設計マニュアル、理工図書、pp.103-137、2002.15) 建設物価調査会:建設物価 6、pp.365-367、2011.16) 大熊孝:ローカルな思想を創る① 技術にも自治がある 治水技術の伝統と近代、農山漁村文化協会、pp.105-125、2004.-66-
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  • タイトル
  • メコンデルタ下流域における災害と環境の変化に及ぼす気候変動の影響:影響評価と適応策策定における地盤工学の役割
  • 著者
  • 安原 一哉・田村 誠・齋藤 修・村上 哲・安島 清武
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 67〜72
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69522
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)3-2メコンデルタ下流域における災害と環境の変化に及ぼす気候変動の影響:影響評価と適応策策定における地盤工学の役割安原一哉 1・田村誠 1・齋藤1 茨城大学1.修 2・村上哲 2・安島清武 1ICAS・2 茨城大学工学部はじめにメコンデルタは,アジアの穀倉のひとつであるが,同時に気候変動に対して最も脆弱な地域のひとつでもある。気候変動に起因する外力としては,海面上昇、降雨増大、台風の巨大化などとしてあらわれ,それらが本来脆弱な産業(特に,水産業、農業),インフラ施設(堤防など)や居住空間などは勿論のこと,沿岸域の自然環境や人間環境にも大きな影響(塩水の侵入や侵食の激化など)を与えている。特にメコンデルタの下流域においては,これらに加えて,上流からの土砂供給の不足,下流域の地盤沈下の継続など人為的要因が重なって影響が加速されている。本文は,気候変動に対して脆弱なメコン川下流域や沿岸地域が気候変動の影響をどのように受けているのか,その影響の将来予測はどうすればよいのか,その影響に対してどのように適応していくべきか,について,著者らの過去の研究の成果を紹介する。次いで,それぞれのカテゴリーについて,地盤工学の果たす役割はあるのか,また,あるとすればどのようなことが,あるいはどのような考え方や手法が適用可能なのか,について考察を加える。最後に,メコンデルタの人間活動や生産活動に共通の課題である脆弱性を克服するためには,地盤工学の知見や経験をどのように生かしていけばよいか,について提案をする。2.気候変動に対するメコンデルタ沿岸域の災害脆弱性図-1 ベトナム沿岸域の脆弱性 1)図-3 ベトナムにおける災害分布 2)図-2 ベトナムとメコンデルタの脆弱性 1)-67- ベトナムは長い海岸線を有しているが,脆弱なインフラ施設を有しているために,気候変動に対して敏感である。図-1 は 脆弱性の要因となると考えられる,災害歴,海面上昇,人口密度及び貧困歴の現状評価と将来予測を行った結果を示したものである。これらを考慮して,ベトナム沿岸域の脆弱性を定量化したものが図-2 に示されている。なお,脆弱性の定量化のために,以下の式(1)で定義される指標が提案されている(田村ほか,20131))。・・・・・・(1)図-3 によると,ベトナムでは, 災害に脆弱な地域が北部,中部,南部にそれぞれ存在することがわかる 2)。この地域は,いずれも沿岸域であり,北部と南部は,それぞれ, 紅河デルタ,メコンデルタと呼ばれ,中部はフエラグーンと称されている。ここで,災害の内容について言及すると,図-3 に示すように,沿岸域のほぼ全体にわたって荒天と台風による影響とそれに伴う高潮被害が顕著あることが分かる。沿岸域の災害に最もかかわりの深い台風(熱帯低気圧)の特性についてNumber of cyclonesみると,図-4 に示したように,過去 10 年くらいの間に,特に増加している傾向がうかがわれる。20Number of Cyclones1510y Mov. Average5y Mov. Average105201320092005200119971993198919851981197719731969196519610Year図-4ベトナムにおける台風の発生回数の経年変化 3)3.ベトナムの海岸侵食 4)荒天と台風による高潮は,しばしば,海岸侵食を引き起こし,海岸線を後退させる。砂浜は消失し,堤防の侵食破壊を起こす。ベトナムの海岸線は顕著な後退を示しているが,ことは深刻で河川沿岸を含めた沿岸域の侵食はしばしば大きな水害をもたらし,インフラ施設, コメの生育など産業やマングローブの消失など生態系にも大きな影響を及ぼしている。ベトナム全体における海岸侵食の実態の全容については,まとめられたデータがないため,個々の研究結果から抽出する以外に方法がないが,少なくとも,南部の海岸の侵食は他の地域に比べて,一段と顕著である。45% の海岸は,小さいところGoogle: 2006/1/9Google: 2006/1/9UAV: 2014/6/18240 m140 mUAV: 2014/6/18(a)メコン支流の Hau 川河口近傍(b)メコン支流の Hau 川河口からやや離れた位置図-5 (a)(b) UAV 画像と Google earth の比較による海岸侵食状況の比較-68- で,5 m/year 以下であるが,大きいところ約 16(%)の海岸では,30 m/year を超えるところもあり,全体的に増加傾向であることがわかっている 4)。メコンデルタのソクチャン省(Soc Trang province)で UAV(無人飛行機)を用いて著者ら 5)が行った最近の測定によると,写真-1 に示したように,河口からの距離に依存するものの,6 年間の間に約 240 m および 140 m 侵食が進んでいることから,平均して,年間約 20 m~30 m の速度で侵食が進んでいることがわかる(図-5)。ベトナムにおける海岸侵食の原因は単一ではなく, (i)上流の構造物築造に伴う河川からの供給砂の減少,(ii)底質土の建設材料(レンガなど)への利用,(iii)地下水の過剰くみ上げによる地盤沈下,(iv)気候変動(台風の強大化、海面上昇など)などが複雑に絡み合って顕著な侵食を引き起こしている。このうち,海面上昇について取り上げてみると,表-1 に示すように,想定するシナリオによって異なるが,今世紀末までに,65 cm ~ 100 ㎝ と予測されている。一方,1978 年以降の海水面観測点での観測値の平均は 2.8 mm/year の速度で上昇しており,表-1 の予測値よりは小さくなっている。表-1 ベトナムにおける海面上昇の予測値 2)海面上昇が海岸侵食に及ぼす影響の予測は難しいが,日本の海岸の砂浜侵食については,三村らが行った予測がある。三村ら6)は Bruun7) 則を適用して,IPCC AR4 (2007) のシナリオを仮定して,今世紀末までに日本の砂浜の約85% は消失すると予測した。 Bruun7)によると,図-6に示すように、海面が上昇すると縦断地形は新しい水位に対する平衡地形に向かって変化するため、静的な後退以上に砂浜は侵食され、汀線が後退すると考えられる。それゆえ,同じ海面上昇量でも海底地形が緩やかな場所は、急な地形の場所よりも後退量は大きくなる。三村ら6)は,このBruun則を利用して、海面上昇とともに地盤沈下に伴ってより砂浜侵食が進むとともに,沿岸構造物へも影響することを指摘している。また,先述したように,後退する海岸の底質がシルト質なほど、侵食が顕著である。筆者らは、当地の陸地の後退量の差異はこれらを実証したものになっているのではないかと推測している。この立場から海岸侵食に対する地盤工学的なアプローチも必要と考えられる。図-6 海面上昇による砂浜の後退(Bruun7)、三村他6)に基づき国土交通省河川局が作成8))-69- 4.沿岸域脆弱性の対応策 9)表-2 は,沿岸域を含めた,IPCC などで考えられている気候変動対応技術と地盤工学で考えられ気候変動対応技術をまとめている。ここでは,このことを念頭において議論する。表-2 気候変動対応技術の例対応策緩和策適応策・二酸化炭素の排出削減・排出権取引の利用・再生可能エネルギーの開発・Geo-engineering (ジオ・エンジニアリング) -太陽放射管理(SRM)- CO2除去(CDR)地盤工学的対応策例・二酸化炭素の地中封じ込め・二酸化炭素を吸着できる地盤材料の開発・間伐材による二酸化炭素の吸着・固定・地中熱の利用防護・気候変動の影響を引き起こす外力の制御・ジオシンセティックスや地盤改良技術を援用した多重防護施設順応・気候変動の影響をある程度許容して対応・粘り強い土構造物の構築・損傷してもすぐ取り換えられる壁体構造物退避・気候変動の影響を受ける地域からの撤退緩和策と適応策の融合4.1具体的な対応策例・ICTを利用した早期警戒システム・ジオシンセティックスを利用した強靭な避難施設の建設・ICTを利用したモニタリングシステム・森林保全管理・ICTを利用した早期警戒システム・シナリオ別気候予測に基づく早期警戒システ・二酸化炭素を吸着できる地盤材料の防災施設ムへの適用ハードウエアを用いた対応策4.1.1 堤体の安定化侵食を中心とした沿岸域の脆弱性に対する対応策は,当然のことながら脆弱性を増加させている要因を取り除くことであるが,先にあげた,(i)上流の構造物築造などに伴う河川からの供給砂の減少,(ii)底質土の建設材料(レンガなど建設資材)への利用,(iii)地下水の過剰くみ上げによる地盤沈下,(iv)気候変動(台風の強大化、海面上昇など)の影響のいずれをとっても克服するのは難しい。侵食は,陸地の後退を招くので多くの場合は,堤防を構築して防御しようとする。したがって,強固な堤防の構築が求められる。ここに地盤技術が必要になるが,ベトナム沿岸域の堤防の構築には地盤工学の基礎知識が生かされているようには見えない。堤防を守るために,欧米の技術として,ジオシンセティックスの適用がしばしば見られるが,それ以前に講じておくべきことがあると思われる。まずはこれらの基本的技術を施工した上で,最新の地盤改良・補強技術を適応することが望まれる。図-7 (a) に示したように,まず,適切な粒度配合を有する地盤材料をしっかり締固めることが土構造物構築の基本であることは周知である。次に,(b) に示したように,現地で手に入れやすいヤシ(椰子)繊維や竹材から作られた繊維のような自然由来の材料を混合して見かけの内部摩擦角 φ を増加させることが考えられる。さらに,これにセメントのような固化材を混合すれば,粘着力 c の増加にもつながる。ここで,内部摩擦角と粘着力のどちらが沿岸域堤防の安定性に寄与するかに関する著者らの最近の数値計算結果(未発表)によると,粘着力を付与するほうが水の流れの影響を受ける堤防はより安定であることが分かっていることから,セメントの添加や混合が有利であると考えられる。なお,堤体材料に自然由来の繊維を混合する場合,経年的な耐久性の確認が求められる。ベトナムの河川や海岸沿岸の堤防は,しばしば,シルト質土などの細粒土で築堤される。筆者らが行ったメコンデルタの堤防材料(シルト質土)の物理試験によれば,自然含水比 w = 30 (%), s = 2.66 t/m3, wL = 36%, Ip = 17, シルト含有率 62(%)で,土質分類上は,〔MH〕に属する。このような材料を自然含水比のまま築堤することは,しばしば困難を伴うため,含水比調整やセメント固化などが求められるが,このような技術が不可能な場合は代替案として,図-7 (c)のように,シルト質土の築堤の途中に段階的に透水性の良い粒状土をサンドイッチ状に敷設することが有効と考えられる。このような方法では、細粒土の混入によって粗粒土が目詰まりして透水性を劣化させる可能性がある。このような事態を避けるために,粗粒土の上下に不織布などのジオシンセティックスを敷設すると粗粒土の透水性を維持できる。なお、ベトナム水資源大学の Trinh Cong Van 博士は,サンドイッチ状に敷設する粒状土の代わりに,ヤシ繊維や竹繊維を敷設することを提案している。ここでも,堤体材料に自然由来の繊維を敷設する場合も,前述した堤防材料への-70- 図-7水際線における堤防を安定化させる地盤技術の例混合と同様に,経年的な耐久性の確認やクロッギング(目詰まり)除去の工夫が必要である。これらの地盤技術を整理したものが表-3 である。表-3安定した沿岸域の堤体構造物を構築するための地盤技術4.1.2 堤体法面の保護4.1.1 で述べた強固な堤体を構築するだけでは,長期にわたって安定な堤防を維持するのは困難である。気候変動を受ける沿岸域の侵食に伴う水際線堤防の安定性の長期的維持のためには,もはや単一の防御技術では対応できなくなっている。図-7 は盛土のような土構造物の安定性を向上させる基本的な技術の例を示したが、水際線構造物の場合,水の浸透を防ぐためのコンクリート壁体のような保護構造物が必要である。ベトナムでは,図-6 のような工夫を施さないまま,斜面に透水性のジオシンセティックス(織布や不織布)を敷設してこの上にコンクリートブロックを並べる,と言う方策をしばしば講じるが,早晩、洗屈や侵食が進んでノリ面の損傷が進み,最終的にはノリ面崩壊に至る。このようなことを何回か繰返して現在に至っていると考えられる。このような崩壊を完全に防ぐことは難しいが,損傷を遅らせることは出来ると考えられる。ハードウエア技術には,このような要請を満足することが求められる。4.2 ソフトウエアを用いた対応策気候変動に伴う沿岸域災害や環境変化の診断や監視のために,ICT(Information & Communication Technology)-71-ICRT( Information, Communication & Robot Technology)の利活用が有望な技術と考えられる。これらのうち,地盤災害のために有用と考えられる技術をまとめたものが 表-4 である。表中には,すでに利用されているものもたくさんあるし,各種センサーや UAV などは有望な機器である。また,これから利用が展開される可能性のあるものも多い。表-4地盤防災・地盤環境技術の展開に利活用できる ICT のまとめ(安原・齋藤(2014),未発表)5.防災・減災と環境負荷低減の関係性黄麻やヤシ繊維の利用のような“廃棄物を利用した災害低減技術”は,災害の対応策が環境負荷低減に寄与するひとつの事例である。それになぞらえると,未利用の植物繊維を利用して堤体を安定化させる技術はこれに属すると考えられる。一方,気候変動は地盤災害を増加させ複雑化させるともに,地盤環境の劣化にも影響を及ぼす。海面上昇に伴う塩水の遡上の穀物の生育や水産業に及ぼす影響,マングローブなどの生態系の破壊などはその例であるが,これらを総合した沿岸域のシステム全体への影響評価手法が明らかにされていない。著者らも試みているが,学術領域や専門領域及び課題関係者をまたがったトランスディシプリナリ-(Trans-disciplinary) な方向へ向けた努力の展開が期待される。6.あとがきメコンデルタ下流域における災害と環境の変化に及ぼす気候変動の影響を概観し,それらに対する対応策における地盤工学の役割を明らかにするとともに,ICT の有用性を強調した。安価で操作性の高い,センサーや無人飛行機(UAV)などの展開の可能性を示した。ここにおける成果を基にして,現在,カウンターパートであるベトナム水資源大学と連携して沿岸防御適応策としての地盤技術と ICT を中心とした総合技術を駆使した,パイロットスタディを現地において準備中である。謝辞:本研究の成果は,環境省環境研究総合推進費(S-8)(FY2010-FY2014)によるものである。付記するとともに,課題代表者(三村信男茨城大学学長)とサブ課題 S-8-3 の関係各位に対し,深甚の謝意を表する次第である。引用文献1) 田村誠:「アジア太平洋地域における気候変動への脆弱性評価:課題と展望」,茨城大学人文学部紀要 (社会科学論集),53, 25-36, 2012. 2) Tran Hong Thai(2011) : Workshop on Vietnamese Deltas and Their Sustainability, Mito, 2011.12.19. 3) Duc,D. M., et al. (2012): Journal of Asian Earth Sciences, 43(1), pp. 98-109. 4) Pham Huy Tien and Nguyen Van Cu (2005): Reporton State level research project. Hanoi, 497p. 5) 安原一哉他:地盤工学会誌,63-2(685), 48-49, 2015.2. 6) 三村信男他:海岸工学論文集,41,pp. 1161-1165, 1994.7) Bruun, P (1962): J. of Waterways & Harbor Division, Proc. ASCE, Vol. 88, No. WW1,117-130. 8) 国土交通省 (2003):中期的な展望に立った新しい海岸保全の進め方報告書, 2003. 9) 桑原祐史他:地盤工学会誌,62-3 (674), pp. 77-83, 2014.2.10) Yasuhara, K. et al. (2013): Proc. 2nd Intern’l Conf. Geo-Tech. Hanoi, 2014.-72-
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  • タイトル
  • 伊豆大島における大雨の頻度変動と平成25 年台風26 号に伴う土砂災害後の住民意識に関する一考察
  • 著者
  • 荒木 功平・石井 篤志
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 73〜78
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69523
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)3-3伊豆大島における大雨の頻度変動と平成 25 年台風 26 号に伴う土砂災害後の住民意識に関する一考察荒木功平 1・○石井篤志 21 山梨大学大学院,2 山梨大学工学部1. はじめに平成 25 年 10 月 15 日から 16 日にかけての台風 26 号の通過により,伊豆大島(東京都大島町)では未曾有の豪雨に見舞われた。観測史上最大の 24 時間降水量 824mm を記録し,10 月 16 日午前2時から3時頃にかけて,元町地区上流域の大金沢を中心とした渓流において,流木を伴った土砂流出が発生するなど甚大な土砂災害が生じた結果,死者・行方不明者 40 名の人的被害がもたらされた 1),2)。近年,地球温暖化等の気候変動に伴う大雨の頻度増加が指摘されるようになり,経験したことのない災害の発生,各種産業への影響等の懸念が指摘されている。国土交通省気象庁 3),4)は災害をもたらした気象事例について,被害を総合的にみて規模の大きなもの,社会的な関心・影響が高いものをとりまとめているが,平成元年以降,毎年,報告されている。脅威化する自然現象と共存するためには,自然災害が毎年必ず起こると想定し,気候変動のような 50 年,100 年といった長期的視点で捉え,防災意識の経年的な薄れや大雨の頻度変動などを想定した適応策の策定が求められる。本論文では,東京都大島町元町にある大島特別地域気象観測所(以下,大島観測所)の気象,特に降雨変動について概観する。加えて,近年の離島災害例として 2010 年奄美豪雨を取り上げレビューし,土砂災害との関係性を新たに考察する。また,大金沢周辺で簡単なヒアリング調査を行い,一考察を述べる。2. 過去の離島における大雨と土砂災害事例および一考察平成 25 年 10 月 16 日未明,台風第 26 号は強い勢力を保ったまま北東に進みながら伊豆諸島三宅島付近を通過し,伊豆大島で 24 時間に 800 ミリを超える大雨をもたらした。この大雨の要因として,台風からの暖かく湿った空気と関東平野および房総半島から流出した冷気により形成された局地前線が大島付近に停滞し,それに沿って線上の降水帯が形成されたことがあげられている 5)。秋雨前線と台風の影響が重なって起きる大雨は,平成 12 年の「東海豪雨」などの例がある。特に紀伊半島や四国では,流れ込む空気が高い山にぶつかって上昇しやすいため,大雨になりやすい。しかし,標高の低い離島では,2010 年奄美豪雨が「非常にまれな現象」6)とよばれたように,ほとんど例が無い。本章では,平成 25 年台風 26 号による伊豆大島(最大標高 764m)における土砂災害について考察するにあたり,第一段階として,奄美大島(最大標高 694m)での 2010 年奄美豪雨を例に取り上げ,レビューする。2.1 2010 年奄美豪雨における降雨パターンに関するレビュー安福ら 7)は 2010 年奄美豪雨の降雨パターンについて,14 の観測所の降雨記録を分析し,2パターン(一山型豪雨,二山型豪雨と称している)に分けられることを述べている。図-1(a),(b)はそれぞれ 2010 年 10 月 20 日おける一山型豪雨,二山型豪雨の降水量~時間関係を示している。正午頃にピークが来る一山型豪雨と午前4時頃,午後 5 時頃のピークが2回現れる二山型豪雨に分けられている。140大金久喜瀬120東城120長雲100住用支所100大熊80大勝市80節子60瀬戸内合庁40古仁屋(気象)降水量(mm)降水量(mm)140根瀬部40西田20200大島支庁600:006:0012:0018:0000:000:006:0012:0018:000:00時刻時刻(a) 一山型豪雨(b) 二山型豪雨図-1 2010 年奄美豪雨における降雨パターンA consideration on frequency change of heavy rain in Izu Oshima Island and residents consciousness for landslides after 2013 typhoonNo. 26Kohei Araki1, Atsushi Ishii1 (1University of Yamanashi)KEY WORDS: Climate change, Rainfall intensity, 2014 Hiroshima landslides-73- 2.2 2010 年奄美豪雨における降雨パターンと土砂災害との比較図-2 に降水量の観測所位置 7)を示す。図中の数字は最大時間降水量を示している。ここで,南西部が一山型豪雨,北東部が二山型豪雨に分けられている。境界の目安となる境界線を加筆した。図-3 に引き起こされた土砂災害(土石流等,地すべり,がけ崩れ)の分類を示す。図-2 で加筆した境界線を図-3 に示している。この図より,北東部ではがけ崩れが多く,南西部では土石流等が多いことがわかる。二山型豪雨川上:58mm長雲:87mm笠利(気象):47mm大熊:75mm名瀬(気象):69.5mm根瀬部:81mm大金久:71mm大島支庁:73mm西田:99mm今里:35mm生勝:22mm喜瀬:88mm大勝:108mm東城:109mm宇検村:23mm二山型豪雨住用支所:131mm花天:19mm市:83mm深浦:67mm節子:125mm薩川:67mm一山型豪雨瀬戸内合庁:90mm一山型豪雨古仁屋(気象):85mm瀬相:51mm野見山:26mm与路島:19mm請島:20mm図-2 観測所位置と降雨パターン(参考文献 7)に加筆)図-3 土砂災害と降雨パターン(参考文献 8),9)に加筆)2.3 2010 年奄美豪雨における降雨パターンと土砂災害との関連性に関する一考察図-3 における土砂災害と降雨パターンから,一山型豪雨で土石流等が多く,二山型豪雨でがけ崩れ・地すべりが多くみられることがわかる。ここで,そのメカニズムについて簡単に考察する。一山型豪雨では,表層地盤が不飽和状態のときに急激に大量の降水が供給されている。不飽和透水係数は飽和透水係数に比べ非常に小さく,雨水と地盤内にトラップされている空気との置換には時間を要する。突発的な大雨のほとんどが地表面を流れる表流水となるので,土石流等に警戒する必要がある。二山型豪雨では,降雨ピーク値が二つ現れる。一つ目のピーク値に対しては,一山型豪雨と同じくがけ崩れ・地すべりより土石流等を発生させやすいとおもわれる。しかし,二つ目のピーク時には,一つ目のピーク時に比べ,浸透により地盤の飽和度が高くなる。地盤の飽和度の上昇はすべり面付近の見かけの粘着応力度等の低下を引き起こすと考えられる。がけ崩れ・地すべりを発生させやすくする懸念がある。今後,地質的な要因と合わせて検討し,がけ崩れと地すべりにおけるメカニズムの差異や共通点を明らかにする必要がある。2.4 2013 年 10 月 16 日伊豆大島土砂災害時の降雨と関連性に関する一考察図-4 は気象庁 10)大島観測所における 2013 年 10 月 15 日 9 時~16 日 7 時にかけての時間降水量,累積降水量の経時変化を示している。なお,10 月 14 日および 17 日に降水は記録されていない。図-4 より,時間降水量がピークを示す3~4時まで,累積降水量は緩やかに増加している。このことは,奄美豪雨でみられた突発的な一山型豪雨の土石流等の誘発性に加え,長時間雨水に地表面がさらされ,浸透に伴うすべり破壊の誘発性を同時に有するとおもわれる。写真-1 は 2013 年 11 月 9 日に撮影した崩壊・被害概況の遠景を示している。土石流等による大量の土砂の運搬が確認できる。加えて多発的に起こっている斜面崩壊が確認できる。伊豆大島土砂災害は,表層崩壊が広範囲で起こるとともに,土石流災害の様相を呈している。降雨パターンと土砂災害(すべり破壊と土石流)には関連性があると考える。140900800累積降水量700時間降水量(mm)120100600805006040030040200200累積降水量(mm)時間降水量10091215182124360図-4 2013 年 10 月 15 日 9 時~16 日 7 時の降雨(大島観測所)写真-1 崩壊・被害概況遠景(撮影日:2013 年 11 月 9 日)-74- 3. 伊豆大島における大雨の頻度変動に関する一考察気候変動等の影響による大雨の頻度増加が懸念され始めて久しい。標高の低い離島であっても,前線と台風の影響が重なって起きる大雨が「非常にまれな現象」と今後も考えられるかどうかは検討する必要がある。本章では,大島観測所(気象庁)における長期的な降雨変動について考察する。ただし,1991 年 12 月 17 日と 18 日の間に観測方法(観測場所または観測装置または観測の時間間隔)の変更があったことが注釈されている。また,気象庁は予報用語 11)として,災害が発生するおそれのある雨に「大雨」,数時間続いても降水量が1mm に達しないくらいの雨に「小雨」,時間降水量 30mm 以上 50mm 未満に「激しい雨」,時間降水量 50mm 以上 80mm 未満に「非常に激しい雨」,時間降水量 80mm 以上に「猛烈な雨」を用いている。本論文では,特に断らない限り,気象庁の定義に従う。図-5 は,激しい雨(時間降水量 30mm 以上)の年間発生日数を示している。また,その過去 10 年移動平均を示している。図-5 より,1950 年頃~1990 年頃まで発生日数の減少傾向があったが,1990 年頃から激しい雨の増加傾向が見てとれる。言い換えると,過去 20 年~30 年の間,激しい雨の頻度が増加していたことがわかる。図-6 は,非常に激しい雨(時間降水量 50mm 以上)の年間発生日数を示している。また,その過去 10 年移動平均を示している。図-6 より,1950 年代前半は頻度が多かったが,1950 年代後半~2000 年頃まで頻度は横ばい傾向にみえる。そして,2000 年頃から再び増加傾向が見てとれる。言い換えると,過去 10 年~20 年の間,非常に激しい雨の頻度が増加していたことがわかる。激しい雨や非常に激しい雨の増加傾向があることから,今後も警戒すべきと考える。30mm/h以上過去10年移動平均10864201939194919591969 1979西暦(年)50mm/h以上550mm/h以上の雨の日数30mm/h以上の雨の日数1219891999過去10年移動平均4321019392009図-5 時間降水量 30mm 以上の頻度変動(大島観測所)194919591969 1979西暦(年)198919992009図-6 時間降水量 50mm 以上の頻度変動(大島観測所)図-7 は,猛烈な雨(時間降水量 80mm 以上)の年間発生日数を示している。また,その過去 10 年移動平均を示している。図-7 より,概ね横ばい傾向にみえる。過去 10 年移動平均で 0.1~0.2 日である。言い換えると 10 年間に1~2 日発生している。猛烈な雨が起こることを想定し,適切にリスクを評価・管理しつつ備えることが重要とおもわれる。図-8 は,日降水量 1mm 以下の年間日数を示している。また,その過去 10 年移動平均を示している。図-8 より,1960年頃から 1970 年頃に増加傾向がみられる。1990 年頃以降は若干の増加傾向がわかる。80mm/h以上330過去10年移動平均日降水量1mm以下の日数80mm/h以上の雨の日数2101939194919591969 1979西暦(年)19891999290270250230210193920091mm/day以下過去10年移動平均310194919591969 1979 1989西暦(年)19992009図-8 日降水量 1mm 以下の頻度変動(大島観測所)図-7 時間降水量 80mm 以上の頻度変動(大島観測所)図-9 は,年降水量の経年変化を示している(ただし,1945 年についてはデータ欠損のため除外した)。また,その過去 10 年移動平均を示している。図-9 より,1960 年頃をピークに概ね減少傾向がみてとれる。このことは,激しい雨や非常に激しい雨のような大雨の頻度増加のリスクとともに,渇水の頻度増加のリスクが増えていることを示している。言い換えれば,雨の降り方の二極化が進んでいる。-75- 図-10 は,平均気温の経年変化と,その過去 10 年移動平均を示している。図-10 から,1989 年頃までは若干の減少傾向がみられていたが,それ以降顕著な平均気温の上昇がみてとれる。この顕著な平均気温の上昇について,1991 年の 12月 17 日と 18 日の間に観測方法の変更があったことの影響が考えられるが,1991 年前後での 1990 年や 1992 年との差は大きくないので,観測方法の変更の影響は小さいと考えている。また,1990 年頃から日本は広範囲で猛暑に見舞われるケースが増えていたので,この顕著な平均気温の上昇はその影響と考える。4700過去10年移動平均16.5平均気温(℃)37003200270022001700平均気温17.0過去10年移動平均4200年降水量(mm)17.5年降水量16.015.515.014.514.0193919491959196919791989199920091939194919591969西暦(年)1979198919992009西暦(年)図-9 年降水量の経年変化(大島観測所)図-10 年平均気温の経年変化(大島観測所)一般に,温暖化等に伴う水蒸気量の増加が積乱雲を発達させやすくするといわれる。平均気温の上昇は渇水だけでなく,大雨の頻度を増加させやすくするとおもわれる。まれな現象と考えず,警戒すべきと考える。また,年平均気温の上昇,激しい雨の頻度増加はともに 1990 年頃からみられたが,非常に激しい雨の頻度増加は 2000年頃からみられ,10 年程度の時間差がみられた。年平均気温の上昇と大雨の頻度増加の関連メカニズムを理論的に説明することは難しいが,実際に年平均気温の上昇と大雨の頻度増加が観測されていたことは重要である。経年変化とともに災害リスクが増加する恐れがあることを周知し,防災意識の薄れを生じさせない必要がある。また,気候変動のような 50年,100 年といった長期的大雨災害のリスク増加といった視点を持つことは,時間を要する対策施設の配備計画に一定の根拠を与え得る。4. 平成 25 年台風 26 号に伴う土砂災害後の住民意識に関する一考察平成 25 年台風 26 号から約 1 年後の平成 26 年 11 月 16~17 日に元町地区上流域の大金沢周辺にて災害時の対応についてヒアリングした。図-4(Q1)~(Q9)にヒアリングアンケート調査項目および結果を示す。図-4(Q1)は,過去において,防災訓練や防災講演会などへの参加の有無を示している。図-4(Q1)より,回答者の約5割が参加していた。参加率を上げるには,訓練や講演会への参加による具体的なメリットを示す必要がある。図-4(Q2)は,水害・土砂災害に関する情報の取得の有無を示している。図-4(Q2)より,回答者すべてが情報の取得を心掛けていたことがわかる。船便等に天候が大きく作用する地域であることが要因とおもわれる。図-4(Q3)は,その災害時の情報元を示している。図-4(Q3)より,最もテレビ・ラジオが約9割であり,インターネットまで含めた電子媒体で 10 割を占める。町内会長や隣近所といった地域での情報共有はみられなかった。これらのことは,電子媒体による情報共有システムの確立が求められていることを示している。住民は情報の取得に積極的であるので,予報の信頼性を向上し,周知できるシステムが確立できれば,大きな効果が期待できる。図-4(Q4)は,道路の浸水の有無を示している。図-4(Q4)より,回答者の約8割が道路の浸水を経験していた。図-4(Q5)は,建物内への浸水の有無を示している。図-4(Q5)より,回答者の約2割が建物の浸水を経験していた。図-4(Q6)は,過去において,水害などの自然災害にあった経験の有無を示している。図-4(Q6)より,回答者の約 8 割が災害を経験していた。その災害については,昭和 33 年の狩野川台風,昭和 61 年の三原山噴火であった。図-4(Q7)は,避難の呼びかけの有無を示している。図-4(Q7)より,呼びかけは約1割にとどまっている。図-4(Q8)は,避難行動の有無を示している。図-4(Q8)より,避難は約1割にとどまっている。図-4(Q9)は,避難しなかった理由を示している。図-4(Q9)より,約8割が「危険を感じなかった・自宅(マンション)の方が安全だと感じた」に回答した。台風の経路予報を過信したこととそれに伴う災害を過小評価し,安全と判断し就寝したケースがみられた。猛烈な雨が降り始めた時間帯は深夜であったために,避難が非常に困難であったことがわかっている。住民が危険を感じていない状態であっても避難を促すための方策が必要である。メディア等から情報を入手しているが,避難行動には移っていない。大雨の前に避難を促すには,情報と避難所の信頼の確保などととともに,避難行動によるメリットを示すことが必要と考える。例えば,ポイントカード等配布し,防災訓-76- 練や防災講演会,避難行動により,ポイントが付与されるようにし,ポイントに応じて災害時に保険で優遇される仕組みの確立などが考えられる。(Q1) 過去において,防災訓練や防災講演会などに参加されたことはありますか?(Q2) 水害・土砂災害に関する情報を取ることをしましたか?(Q3) 災害時どこから情報を得ましたか?YesNoYesNo(1)テレビ,ラジオ1,11%(2)インターネット(3)携帯電話450%450%7100%(4)町内会長8,89%(5)隣近所(6)家族・親戚(Q4) この道路は浸水しましたか?(Q5) この建物内(マンション・自宅・店舗)は浸水しましたか?YesNo222%Yes222%778%788%675%(Q8) 実際に避難しましたか?YesNo114%YesNo225%No778%(Q7) 避難の呼びかけはありましたか?112%(Q6) 過去において,水害などの自然災害にあった経験はありますか?YesNo(Q9)避難しなかった理由は何ですか?(i)雨が弱くなった・水が引いた1,17%686%(ii)危険を感じなかった・自宅(マンション)の方が安全だと感じた(iii)避難誘導・土嚢積み等を行っていた。(iv)忙しかった。5, 83%(v)自宅・店舗が心配だった。図-11 ヒアリングアンケート調査結果5. まとめ本論文では,2013 年 10 月 15 日~16 日にかけての伊豆大島土砂災害について,第一に標高の低い離島で秋雨前線と台風の影響が重なって起きる例として,2010 年奄美豪雨をレビューした。その結果,一山型豪雨は土石流等を発生させやすく,二山型豪雨はがけ崩れ・地すべりを発生させやすいと考えられることを述べた。第二に伊豆大島での長期的な降雨変動を概観し,激しい雨や非常に激しい雨が増加傾向にあることを示した。一方で,年降水量が減少傾向にあることから,渇水の危険性が増していることを示した。第三に元町地区上流域の大金沢周辺にて災害時の対応についてヒアリングした。その結果,住民は情報の収集には積極的であったが,避難行動には消極的であったことがわかった。このことから,避難行動を勧めるには住民に対し,具体的なメリットを示す方策が必要と考えられることを述べた。具体的な案として,ポイントカード等配布し,防災訓練や防災講演会,避難行動により,ポイントが付与されるようにし,ポイントに応じて災害時に保険で優遇される仕組みの確立を述べた。また,伊豆大島の住民は気象情報を積極的に収集している。気象予知の精度向上等が成されれば,大きい効果が期待できる。今後の技術開発研究が一層望まれる。2010 年奄美豪雨による被害と平成 25 年台風 26 号による伊豆大島での被害の共通点は,共に離島であったことと,前線と台風の影響が重なって起きたことが挙げられる。2010 年奄美豪雨時には「非常にまれな現象」とされていたが,平成 25 年台風 26 号による伊豆大島土砂災害をきっかけに,今後は稀な現象と捉えず,警戒していくべきと考える。-77- 謝辞アンケートにご協力いただいた方々はじめ多くのご支援をいただきました。ここに深甚の謝意を表します。本研究の一部は,土木学会重点研究課題「脆弱な火山国日本での土砂災害の発生メカニズムの究明と法制度も考慮した総合的防災・減災対策に関する研究」(研究代表者:安養寺信夫)(主に2章),国土交通省富士川砂防事務所平成 26 年度河川砂防技術研究開発公募地域課題分野(砂防)(主に3章),JSPS 科研費 24760381(若手 B)(主に4章)により実施されました。ここに深甚の謝意を表します。参考文献1) 国土交通省気象庁:災害をもたらした気象事例,http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index.html,(2015 年3 月 11 日閲覧)2) 国土交通省気象庁:災害をもたらした気象事例(平成元年~本年),http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index_1989.html,(2015 年 3 月 11 日閲覧)3) 東京都:東京都防災ホームページ,大島の応急復旧に向けた取組について,第 1 章主な被害と各機関の対応 (PDF330.1KB),http://www.bousai.metro.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/231/oshima_report3.pdf,(2015 年 3 月11 日閲覧)4) 東 京都:東京 都防災ホ ームペ ージ ,【第 62 報】 平成 25 年 台風 26 号・ 27 号に伴 う被害状 況等につ いて,http://www.bousai.metro.tokyo.jp/saigai/1000036/1000802/1000809/1000670.html,(2015 年 3 月 11 日閲覧)5) 国土交通省気象庁気象研究所:報道発表資料,平成 25 年台風第 26 号にともなう伊豆大島の大雨の発生要因~局地前線の停滞と伊豆大島の地形による強化~,平成 25 年 12 月 2 日,http://mri-3.mri-jma.go.jp/Topics/H25/press/20131202/press20131202_T1326heavyrainfall.pdf6) 産経ニュース:http://megalodon.jp/2010-1113-2210-31/sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/101022/dst1010220907001-n1.htm,(2010 年 10 月 22 日配信)7) 安福規之,大嶺聖,荒木功平:2010 年 10 月奄美豪雨における降雨・土砂災害の特徴とその適応策の方向性,土木学会論文集 G(環境),Vol.67(No.5) I_97-I_102,2011 年 9 月8) 九州大学奄美大島豪雨災害調査団報告書, p.21,九州大学,2011.3.9) 鹿児島県ホームページ:https://www.pref.kagoshima.jp/ah08/bosai/dosya/saigai/documents/amami101125.pdf,(2015 年 3 月11 日閲覧)10) 国土交通省気象庁:過去の気象データ検索,http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php,(2015 年 3 月 11 日閲覧)11) 国土交通省気象庁:雨と風の表,http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/amehyo.html,(2015 年 3 月 11 日閲覧)-78-
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  • タイトル
  • 地盤環境問題へのUAV 適用の可能性
  • 著者
  • 齋藤 修・安原 一哉
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 79〜82
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69524
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)3-4地盤環境問題への UAV 適用の可能性〇齋藤1修 1・安原一哉 2茨城大学工学部防災セキュリティ教育研究センター・2 茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)1. はじめに2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震が引き起こした大津波は東日本各地を襲った.この時に撮影された航空機映像は大災害の非情さを伝え,様々な分野の技術者や研究者にショックを与えた.また,陸・海・空から撮影された被害のリアルタイム映像が多数残った災害もまれである.この映像は今後の防災に有効であることは明らかである.これらの地震災害や,近年の気候変化や極端気象が起こす海岸侵食や土砂災害には迅速で継続的な現地状況把握が必要であり,簡便な手段によって現地の情報がリアルタイムに把握できる監視システムのニーズが高まっている.地盤災害や地盤環境把握を含めた広域情報の取得には衛星を利用した画像が有効である.また,リアルタイムで簡単に動画も収集できることから航空機の利用も有効である.このように地盤環境変化の把握には上空監視が有効である.しかし,運用や管理に莫大な費用や大型の設備が図-1 宮城県女川町震災後の様子必要であり,手軽に利用できるものではない.また必要な(2014 年 3 月 27 日 Google earth)時に直ぐに行動できるシステムとしては不向きである.そこで手軽に上空監視ができるツールとして UAV が注目されている.UAV とは Uncrwed Aerial Vehicle の略称であり、無人で飛行する航空機の総称である.無線操縦の小型模型航空機は UAV と分類され,さまざまな分野で利用が進んでいる.今回 UAV を用いた上空監視による地盤環境把握のための情報収集についてその可能性を検討した.2. UAV とは近年,UAV は機体素材の軽量化や通信系の電子装置の高機能化と低価格化,GPS の利用や飛行時間が数 10 分ではあるが,電動モーターを推進力とした飛行も可能になり,手軽に利用できる環境が整ってきた. UAV の種類としては有翼機,ヘリコプタ,マルチロータ型,飛行船などが有るが,マルチロータ型のマルチコプタが注目されている1).マルチコプタの種類は 4 個のモーターを持つクアッドコプタ(図‐2 参照),さらに 6 個(ヘキサコプタ) (図‐3 参照),8 個(オクトコプタ)のモーターをもつ大型のマルチコプタに分けられる.また,カメラと一体になったオールインワン型のマルチコプタ(図‐4 参照),本格的な一眼レフカメラとジンバルを搭載できるもの(図‐5 参照)などがある.図-2クアッドコプタ例(DJI Phantom2)図-3ヘキサコプタ例(DJI F550)Possibility of the UAV application to geo-environmental issues.Osamu Saitou1, Kazuya Yasuhara2 (1 Center for Disaster Prevention and Security, Ibaraki University, 2 Institute for Global ChangeAdaptation Science, Ibaraki University)KEY WORDS: UAV, Geo-environment, Multicopter-79- 図-4 カメラ一体型例(DJI Inspire1)図-5一眼レフカメラとジンバル搭載例(Tarot S680)表-1現在,様々な低価格マルチコプタが市場を賑わせているが,ほとんどが中国製である.2.4GHz の無線帯域による操作で混信が無いために同時に複数の機体が飛行可能である.GPS を利用し地図情報やオープンソフトウェアを利用した自動飛行も可能である.表-1 に機体価格が 10 万円以内の代表的なクアッドコプタ(DJI Phantom2)の基本仕様を示す 2).本機の最大の魅力はその安定したホバリング能力に有る.積載重量に注目すると一般的な小型デジタルカメラやデジタルビデオを搭載し空撮が行える.飛行時間は 25 分,カメラとジンバルを搭載した場合は 15 分程度の飛行が可能である.実用上昇高度・通信距離は 300m であり高度については航空法の遵守は基本であるが,災害地での災害現場確認等,人の立ち入れない現場での利用が期待できる.さらに,土砂崩れや河川氾濫時の人命救助にも側面支援が可能であると考える.また,日本国内でも利用可能なリアルタイム画像伝送により,手元で撮影現場のリアルタイム映像も確認できる FPV(First Person View)機能も利用できるシリーズもある.3. カメラの選択と空撮について空撮に用いるマルチコプタ搭載カメラは,軽量・高解像度であることが要求される.軽量であれば飛行中のバッテリーの消費が少なくなり撮代表的低価格 UAV 機能仕様(DJI Phantom2)機体仕様全長390mmローター直径203mm重量(飛行時) 1000g動作温度-10℃-50℃消費電力3.12W垂直±0.8mホバリング精度水平±2.5m最大ヨー角200度最大傾斜角45度積載重量約400g垂直6m/s最大飛行速度水平10m/s実用上昇高度300m(実測)飛行時間約10分(実測)通信仕様動作周波数2.4GHz制御チャンネル 6CH通信距離300m(遮蔽無し)影効率が良くなる.また,自動的に指定時間間隔でシャッターを切るインターバル撮影も必要な機能である.インターバル撮影が可能であれば,サーボ等でシャッターを押す機能が不要になり,図-6Gopro HERO3+ホワイトエディション図-7DJI Inspire1 に付属するカメラ撮影画像例(1200 万画素による広角撮影画像例(700 万画素ワイド)歪防止フィルタ)送受信機のチャネルも少なくて済む.筆者らが利用したのはUAVがDJIのPhantom2,カメラはGoPro HERO3 ホワイトエディションである(表‐2参照).Goproは動画と静止画が同時に撮影できるために,映像のアーカイブにも有効である.Goproのような超広角カメラによる撮影映像は周辺部が歪曲し歪-80- 表-2 Gopro HERO3+ホワイトエディション概略仕様基本仕様カメラ本体:59×40.5×30mm/74gサイズ1920×1080-60P/30P1280×960-60P/30P動画撮影1280×720120P/60P/30P848×480120P/60P/30P1000万画素(ワイド)700万画素(ワイド)写真撮影 500万画素(ミディアム)0.5, 1, 2, 5, 10, 30,60秒/1枚ウルトラシャープf2.8レンズ非球面ガラスレンズ図-8 大型の UAV(ヘキサコプタ) DJI S900Phantom2 との比較 ジャイロ校正も 2 名で行うが大きくなる(図‐6参照).したがって写真測量を行う場合の利用には非常に不利である3)5).立体地図の作成等を目的とした空撮調査には,一眼レフクラスの性能を持つカメラを用いることになる.つまり大型の機体に一眼レフ用のジンバルと大容量のバッテリーを搭載する必要があり,ジャイロの校正等表-3 DJI Inspire1 付属カメラ仕様の煩わしさから手軽に飛行させることは難しくなる(図‐8参Inspire1 カメラ部分仕様照).そこで筆者らはDJIのInspire1(図‐4参照)に注目している.本機で撮影した画像例を図‐7に,付属カメラの仕様を表‐3モデルFC350総画素数12.76Mピクセル有効画素数12.4Mピクセル最大サイズ4000×3000ISOレンジ100~3200FOV(視野)94°CMOSSONY EXMOR 1/2.3レンズF/2.8 9枚構成ひずみ防止フィルターUVフィルター写真モードシングルモードバーストモード:3/5/7枚オートブラケット:3/5枚(±0.7EVステップ)タイムラプスビデオ録画モード 4K:4096x2160p24/25 3840x2160p24/25/30図-9FHD:1920x1080p24/25/30/48/50/60DJI Phantom2 にとりつけられたブラシレスジHD:1280x720p24/25/30/48/50/60ンバルと Gopro カメラ動作環境温度0℃~40℃に示す.歪防止フィルタを用いて,立体地図作成にも耐える画質であり今後,検証を継続するものである.次にUAVで空撮を行う場合に問題になるのが駆動モーターによる振動である.マルチコプタのモーターは10,000 rpm程度で回転しており,機体は振動を起こす.完全にカメラを機体に固定してしまうと機体の振動がカメラに直接伝わって撮影された画像は品質低下を起こす.これを防ぐためには,機体とカメラのマウントの間に振動を吸収する材料(ゴム等)のダンパーを取り付ける.また,機体の傾きがもう一つの問題である.マルチコプタの機体は進行方向に,停図-10メコン川支流 Hau 川河口近傍止時には逆方向に傾き.風の影響があれば更に傾く.飛行時Phantom2+Gopro3 で撮影 4)の機体の傾きはカメラの傾きとなり,ジャイロセンサーを内2014 年 6 月-81- 図-112014 年 11 月 2 日広島県広島市八木地区災害現場Gopro HERO3+ホワイトエディションによる撮影画像例(1080/30fps 狭角)図-13宮城県女川町の震災遺構と災害地域の変化の記録2014 年 6 月 27 日UAV 撮影映像とGoogle earth 映像との比較蔵した能動的なジンバルで補正する必要がある.現状のラジコン空撮用のジンバルはブラシレスモータで制御(図‐9参照)するのが一般的である3) 5).4. UAVによる空撮映像の地盤環境への適用UAVによる地盤環境への最大の適用手法は現地で行う,図-12ほぼリアルタイムな映像取得であると考える.図‐10は海広島県安佐南区八木地区災害現場のGoogle earth との比較岸侵食の現状を明らかにした映像である.2014年6月にベト(作図は礒﨑朝光 茨城大学地球変動適応科学研究機関ナムSoc Trang省のメコン川支流のHau川の河口付近でUAVによる)(Phantom2+Gopro)を用いて空撮を行い,2006年1月9日のGoogle earthとの比較を行ったものである.この図から約8年という短期間で海岸線が河口近傍で約240m後退していることが分かる.図‐11は2014年11月2日に地盤工学会地盤災害リスクマネージメントと気候変動適応の融合に関する研究委員会が行った広島土砂災害視察時に同じくPhantom2+Goproを用いて撮影したものである.図‐12は図‐11等の映像を基にGoogle earthとの比較を行ったものである.災害地の災害全体像が把握できる.図‐13は宮城県女川町の震災後の地域の変化を記録するために,Google earthとの比較を行ったものある.このようにUAVによる映像は震災直後の調査だけでなく災害地域の刻々の変化を捉えることにも有効である.どちらもGoproで撮影した映像をそのまま利用しており,一般的な小型デジタルカメラの画像品質でこれらは実現できることを示している.5. おわりにUAV 空撮映像は集中豪雨,それに伴う斜面崩壊,洪水,地震による液状化等,社会基盤施設,土構造物,地盤構造物への被害把握や,災害発生前後の防災・減災への適用などに有効であると考える.UAV の稼働時間や制御範囲の制約はあるものの,複数の UAV を利用するなど,運用により解決できる事も多い.さらに,小型で 4 K 画質に対応する高画質デジタルカメラ,小型低価格の赤外線・サーモカメラなどの開発が進めば防災に有効な情報を得ることができる.雨天や強風でも安定した飛行のできる全天候型 UAV が実現すれば災害発生前の情報を得ることが可能になり強力な防災ツールとなる.しかし,最近多発する UAV による事故により,法整備や運用のスキルについて早急な検討を要するものでもある.利用者は安全を重視した運用を心掛ける必要がある.参考文献1) 齋藤 修, 安原一哉:地盤防災における無人小型飛行機(UAV)の可能性:地盤工学会第 49 回地盤工学研究発表会,2014. 7, 2) DJI 社ホームページ http://www.dji.com/ja/product/phantom-2-vision-plus. 3) 齋藤 修:防災システムへの小型UAV 利用技術:社団法人土木学会第 39 回土木情報学シンポジウム講演集,2014 年.9 月, 4)安原一哉・田村 誠・齋藤 修:UAV,ベトナムの空を飛ぶ, 地盤工学会誌 Vol.63, No.2 pp.48-49, 2015, 5) 井上公,内山庄一郎,鈴木比奈子:自然災害調査研究のためのマルチコプタ空撮技術:独立行政法人防災科学技術研究所研究報告,第 81 号抜刷(平成 26 年 3 月) .-82-
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  • タイトル
  • 平成26 年8 月豪雨による広島市土砂災害現地踏査・ヒアリング調査結果の速報
  • 著者
  • 荒木 功平・川越 清樹・山中 稔・ハザリカ・ヘマンタ・原 忠・中澤 博志・熊本 直樹・齋藤 修・酒井 直樹
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 83〜88
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69525
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)3-5平成 26 年 8 月豪雨による広島市土砂災害現地踏査・ヒアリング調査結果の速報○荒木功平 1・川越清樹 2・山中稔 3・ハザリカ・ヘマンタ 4・原忠 5・中澤博志 6・熊本直樹 7・齋藤修 8・酒井直樹 61 山梨大学,2 福島大学,3 香川大学,4 九州大学,5 高知大学,6 防災科学技術研究所,7 広島工業大学,8 茨城大学1. はじめに2014 年 8 月豪雨災害では,台風 12 号,11 号および前線と暖湿流などにより日本の広範囲で被害が生じた。中でも広島市安佐北区可部,安佐南区八木などでは 8 月 20 日午前 3 時 20 分から 40 分にかけて短時間の局地的な降水の影響で住宅地後背の斜面が崩壊し,同時多発的に大規模な土石流が発生し,74 名の死者を出すなど甚大な被害をもたらした。広島県災害対策本部のまとめ(8 月 22 日時点)によれば,広島市一帯で少なくとも土砂崩れ 170 か所,道路や橋梁への被害290 か所が確認され,広島県全体では,両区を主として,133 軒が全壊したのをはじめ 330 棟の家屋が損壊し,4,100 棟以上が浸水被害を受けたと報告されている。本報告では,まず,広島の気候変動状況等について概観する。次に,(公社)地盤工学会地盤災害リスクマネジメントと気候変動適応の融合に関する研究委員会の活動として,甚大な被害が生じた安佐北区可部東 6 丁目におけるヒアリング(2014 年 11 月 2 日)や安佐南区八木 6 丁目土石流現地踏査結果および源頭部すべり面付近で採取した試料の物理試験について報告している。2. 平成 26 年 8 月豪雨による広島市土砂災害時の降水概観図-1 は気象庁 1)の広島県にある観測所の位置を示している。広島観測所(広島市中区)(以下,広島と表記する。)は三入観測所(広島市安佐北区,2001 年 12 月 19 日までの地点名「可部」)(以下,三入と表記する。)の南西に位置する。それぞれの標高は 3.6m,70m であり,約 66m の差がある。2 地点間の距離は約 17.5km 離れている。図-2 は広島市土砂災害時 2014 年 8 月 19 日 12 時~8 月 20 日 12 時にかけて広島と三入における時間降水量と累積降水量を示している。ただし,2 地点共に 8 月 18 日~19 日 11 時および 8 月 20 日 13 時~21 日 12 時における降水は 0mm である。図-2 より,広島と三入において,時間降水量のピーク値は,広島が 19 日 22 時に 41.5mm,三入が 20 日 4 時に 101mmを記録し,大きく異なっていることがわかる。ピーク値を示した時間が約 6 時間異なっている。広島に着目すると,19 日23 時以降,時間降水量 30mm を超えるような雨は発生していない。三入に着目すると,19 日 21 時から 20 日 1 時にかけて時間降水量の減少がみられたのち,20 日 2 時から急激に時間降水量が上昇し,4 時に 100mm を超えると再び急激に減少し,6 時から 11 時までの 6 時間は 0mm が続いている。雨が一旦収まる傾向をみせたことから,就寝した可能性が考えられる。なお,19 日~20 日にかけて時間降水量 100mm を超えた広島県内の観測所は三入のみであった 2)。一方,累積降水量は 20 日の 2 時頃に三入が広島を抜き逆転し,最終的に,広島が 78.5mm,三入が 257mm となり,約180mm の差を生じた。150100三入(時間雨量)200三入(累積雨量)75150501002550002014/8/19図-1 気象庁 1) の広島県の観測所の位置250広島(累積雨量)累積降水量(mm)時間降水量(mm)125300広島(時間雨量)2014/8/20図-2 広島市土砂災害時における降水A preliminary report of field and interview survey on Hiroshima landslides following August 2014 heavy rainKohei Araki1, Seiki Kawagoe2, Minoru Yamanaka3, Hemanta Hazarika4, Tadashi Hara5, Hiroshi Nakazawa6, Naoki Kumamoto7,Osamu Saito8, Naoki Sakai9 (1University of Yamanashi, 2Fukushima University, 3Kagawa University ,4Kyushu University, 5KochiUniversity, 6Fukken co., ltd.,7Hirishima Institute of Technology,8Ibaraki University, 9National Research Institute for Earth Science andDisaster Prevention)KEY WORDS: Climate change, Rainfall intensity, 2014 Hiroshima landslides-83- 表-1(a),(b)はそれぞれ広島,三入における観測史上 1 位~2 位の日降水量と日最大 1 時間降水量を示している。ただし,統計期間に約 100 年の差がある。表-1(a)をみると,広島の日降水量の 1 位と 2 位の差は約 120mm あることがわかる。日最大 1 時間降水量は 1 位でも 80mm を超えず,2 位との差は約 6mm 程度しかないことがわかる。表-1(b)をみると,三入の 8 月 20 日の日降水量が 1 位であるが,2 位との差は 45mm であることがわかる。8 月 20 日の日最大 1 時間降水量が1 位であり,2 位との差は約 40mm と大きく更新されている。表-1(a)と(b)を比較すると,日降水量は広島の 2 位と三入の1 位がほぼ同じ値を示している。しかし,日最大 1 時間降水量の 1 位の値は,三入は広島と 20mm 以上の差がある。広島は統計期間が約 130 年あるため,観測史上値を信頼し,値が大きく更新される可能性は高くないと判断しがちである。しかしながら,広島と三入でそれほど距離が離れていないこと,気候変動に伴う大雨の頻度増加の指摘などを考慮すると,将来,広島においても時間降水量 80mm 以上や 100mm 以上を記録する可能性は考えられる。表-1 日降水量と日最大 1 時間降水量の観測史上値(a) 広島要素名/順位日降水量(mm)日最大1時間降水量(mm)1位(b) 三入2位統計期間339.6223(1926/ 9/11) (1982/ 7/16)79.273(1926/ 9/11) (1905/ 8/ 7)1879/ 12015/31888/ 12015/3要素名/順位日降水量(mm)日最大1時間降水量(mm)1位2位統計期間224(2014/8/20)101(2014/8/20)179(1983/9/28)62(2008/8/14)1976/32015/31976/32015/33.広島における長期的降水変動の概観三入の統計期間が約 40 年であるが,広島は約 130 年である。長期的な気候の変動を概観するのに広島は優位性がある。本研究では降水変動と土砂災害の関係性を探る第一段階として,広島における気候変動を調べる。ただし,気象庁は予報用語3)として,災害が発生するおそれのある雨に「大雨」,数時間続いても降水量が1mmに達しないくらいの雨に「小雨」,時間降水量 30 以上~50mm 未満に「激しい雨」,時間降水量 50 以上~80mm 未満に「非常に激しい雨」,時間降水量 80mm 以上に「猛烈な雨」を用いている。本論文では,特に断らない限り,気象庁の定義に従うものとする。また,広島では時間降水量 80mm 以上の発生日数は 0 日である。図-3 は時間降水量 30mm 以上の発生日数およびその過去 10 年の移動平均の経年変化を示している。図-3 より,右肩上がりの傾向がみられる。このことから激しい雨の頻度は増加傾向にあるといえる。図-4 は時間降水量 50mm 以上の発生日数およびその過去 10 年の移動平均の経年変化を示している。図-4 より,右肩上5430mm/h以上過去10年移動平均3210時間降水量50mm以上の発生日数時間降水量30mm以上の発生日数がりの傾向はみられない。このことから非常に激しい雨の頻度は増加傾向がなく,通年通りと考える。西暦(年)250mm/h以上過去10年移動平均10西暦(年)図-3 時間降水量 30mm 以上の頻度変動(広島)図-4 時間降水量 50mm 以上の頻度変動(広島)図-5 は日降水量 1mm 以下の年間日数およびその過去 10 年の移動平均の経年変化を示している。図-5 より,1960 年以降,右肩上がりの傾向がみてとれる。このことから,小雨が増加傾向にあることがわかる。すなわち,降水量が少ない日が増加傾向にあり,渇水の懸念があるといえる。図-6 は年降水量およびその過去 10 年の移動平均の経年変化を示している。図-6 より,年降水量はほぼ横這い(もしくは若干の減少)傾向にある。このことから,年降水量自体は増加傾向にあるとはいえない。これらの観測値は,年降水量は増えていないのに対し,激しい雨と小雨が増加していることを意味している。このことは,雨の降り方の二極化を示している。大雨の懸念と渇水の懸念が同時に増していることを示している。-84- 3202750年降水量2500過去10年移動平均1mm/day以下過去10年移動平均年降水量(mm)日降水量1mm 以下の日数310300290280270225020001750150012502601000250750西暦(年)西暦(年)図-5 日降水量 1mm 以下の頻度変化(広島)図-6 年降水量の経年変化(広島)4. 可部東6丁目におけるヒアリング調査の結果と考察(公社)地盤工学会地盤災害リスクマネジメントと気候変動適応の融合に関する研究委員会では,甚大な被害が生じた可部東 6 丁目(2番地~20番地まで)にてヒアリング調査(2014 年 11 月2日)を行った。ヒアリング対象者数は12名で,在宅者や歩行者から無作為に選抜した。図-7(Q1)~(Q6)にヒアリング項目及びヒアリング結果を示す。図-7(Q1)は,ヒアリング対象者の今回の土砂災害の被害(周辺の道路を含む)の有無を示している。図-7(Q1)より,約8割が被害を受けていることがわかる。可部東における被害経験者の割合は高いとおもわれる。図-7(Q2)は,避難行動の有無を示している。図-7(Q3)より,約8割が避難していることがわかる。豪雨発生が午前2時~4時であり,雷等により周囲は深夜にしては明るかったようであるが,雨が止んでから避難したようである。道路が土砂で埋まっているため,避難者の約8割(8名)が徒歩で避難していた。1名は消防員に担がれ避難していた。災害前に避難した者はいなかったが,側溝から溢れる水をみて,異常を感じ車で逃げた者が1名いた。図-7(Q3)は,ヒアリング対象者が過去において土砂災害などの自然災害にあった経験の有無を示している。図7(Q3)より,約3割が過去に災害経験があったことがわかる。図-7(Q4)は,今回の土砂災害においてハザードマップの利用の有無を示している。図-7(Q4)より,利用者は約 1 割であることがわかる。ハザードマップ等の利用の拡大が今後の防災における課題として挙げられる。図-7(Q5)は,水害・土砂災害に関する情報の取得の有無を示している。図-7(Q5)より,約6割が情報を取得していたことがわかる。図-7(Q6)は,その情報元を示しているがテレビ・ラジオが約6割を占める。携帯電話を含めた電子媒体としては約7割である。地域からの情報は,隣近所からなされており,全体の約3割であった。(Q1) 土砂災害の被害(周辺の道路を含む)を受けましたか?Yes217%No(Q2) 実際に避難しましたか?No1083%1083%(Q4) 今回の土砂災害においてハザードマップを利用しましたか?18%Yes217%(Q3) 過去において土砂災害などの自然災害にあった経験はありますか?Yes(Q5) 水害・土砂災害に関する情報を取ることをしましたか?542%No758%1192%No(Q6) 情報はどこから取りましたか?(1)テレビ,ラジオYesYesNo867%433%229%(2)インターネット457%114%(3)携帯電話(4)町内会長(5)隣近所(6)家族・親戚図-7 ヒアリングアンケート調査結果(広島市安佐北区可部東6丁目)-85- その他,住民からコメント・意見・要望等の聞き取りが出来た。以下,表-2 にその聞き取りメモを列挙する。表-2 ヒアリング調査による住民からのコメント等(a) 過去の災害について・当該地域ではここ 30 年間,災害は無かった。・台風により屋根が飛んだ経験があった。(b) 土砂災害時の土砂や雨,被災状況について・雨水が道路に流れていた・午前3時前に土砂が流れるのをみた。・稲光で明るい。・午前3時頃雷がすごく,土のにおいがした。・午前0時から雷が鳴り,雨がストレートにたたきつ・午前3時半頃土砂崩れがあった。けた。・午前4時20分頃,床下浸水した。・午前 1 時~2時は大雨(道路冠水)のため雨がやん・午前5時頃消防が来た。だ午前3時に避難した。・明け方停電した。・土砂よりも側溝からあふれる水の浸水により,ただ・土砂が道路に 40~50 センチ堆積した。事ではないことを認識した。浸水の時点で,車で逃げ・周りの土砂のために動くことができなかった。た。車の移動時に土石流はなかったが道に石がごろご・床上 20~30 ミリ浸水した。ろと落ちていた。・流木があった。(c) 防災意識について・警戒区域なのは知っていた。・警戒区域の指定には納得していた。・避難指定区域ということは知っていた。・ハザードマップの存在は知っていた。・ハザードマップは S56 年位のもの。・可部高校で防災訓練は年 1 回 2 年続けて行った。・降水量をテレビで見るようになった。・自助が大切。防災組織の積極的な参加。地域の連絡。・危険を感じなかったので避難が遅れた。・考えが及んでなかった。土砂災害を甘く見ていた。・災害時の適切な行動について知りたい。(d) 避難・避難生活・復旧について・道が通れず橋を渡して避難した。・自分の家の周りは土砂が少なかったため2F に滞在すれば問題ないと思った。・2 階のベランダから避難。・自分たちで土砂どけた。・電気・水道は4日後に復旧した。・1週間くらいで車が通れた。・一般のボランティアは再開してから一週間以内に来た。・昼間は家の片付けに行き夕方迎えの車で避難所に戻った。(2 週間)・9月12日に道路が再開した。・可部小に10日間避難した。・4年前に引っ越してきた。ホテルに移り4日間避難した。・砂防ダムを建設して欲しい。・家の土砂を取るのは一苦労で,ボランティアが来るまでは何もできなかった。行政の助け早くほしい。・夜中に発令されても困る。-86- 5.土石流危険渓流太田川支川72(八木 6 丁目)の概況土石流危険渓流太田川支川72(八木6丁目)にて現地踏査(2014 年 11 月 3 日)を行った。写真-1(a)~(g)に現地踏査概況を示す。なお,当該地域は,土砂災害警戒区域「太田川支川(1009a)」(土石流)に指定されている。写真-1(a)は渓流出口から市街地方向の概況を示している。渓流出口と市街地が近い状況にあることがわかる。写真-1(b)に被災家屋の概況を示す。土砂の痕跡が残されており,家屋1階の高さ 3 分の 2 程度まで到達していることがわかる。写真-1(c)に渓流内概況を示す。流木や堆積土砂の存在が確認されることがわかる。写真-1(d)に渓岸の概況を示している。渓岸の崩壊が発生していた。写真-1(e)は源頭部下の谷合流点付近から源頭部を撮影したものである。向かって左側に滑落崖がみえ,それに伴う堆積土砂や倒木が確認できる。写真-1(f)は源頭部(右岸側)概観を示している。幾つかの樹木が直立したままであり,土塊ごとの移動が確認できた。写真-1(g)-1,(g)-2 は源頭部(左岸側)でパイピング(土中水の浸透力を受けて土粒子が動き,地盤内にパイプ状の水みちができること 4) )が疑われる痕跡を確認できた。(a) 渓流出口と住宅街の位置関係(d) 渓岸の概況(b) 被災家屋概観(c) 渓流内概況(下流から上流)(e) 合流点からの源頭部概況(下流から上流)(g)-1 パイピングの痕跡(f)源頭部(右岸側)概観(g)-2 パイピングの痕跡写真-1 土石流危険渓流太田川支川72現地踏査概況6. 土石流危険渓流太田川支川72源頭部における土質特性土石流危険渓流太田川支川72源頭部で採土円筒を用いて乱れの少ない試料を採取した。写真-2 にその採取概況を示す。滑落崖の中央部にて採取した。表-3 に採取した試料の土質特性,図-8 に粒度を示す。表-2,図-8 よりシルト分・粘土分が 80%以上を占め,50%通過粒径は約0.02mm であることがわかる。砂礫混じり細粒土に分類される。写真-2 試料採取場所概観-87- 表-3 源頭部土質特性土粒子の密度 湿潤密度 乾燥密度 自然含水比ρsρtρdwnMg/m3Mg/m3Mg/m3%2.6391.7131.28633.1610%通過粒径 50%通過粒径 均等係数 曲率係数D 10D 50UcU c'mmmm0.00150.019318.91.06通過質量百分率 (%)1008060402000.0010.010.1110粒径 (mm)図-8 粒径加積曲線7. おわりに本報告では,第一に,広島の長期的な降水変動状況等について概観した。その結果,激しい雨の頻度が増加傾向にあること,渇水のリスクが増加しており,雨の降り方に二極化がみられることを示した。第二に,安佐北区可部東 6 丁目におけるヒアリング(2014 年 11 月 2 日)結果を報告した。回答者の約8割が避難行動をとっていた。一方で,情報の取得率が約6割,ハザードマップの利用率は約1割であり,情報の有効活用に課題がみられた。第三に,甚大な被害が生じた安佐南区八木 6 丁目土石流現地踏査結果および源頭部すべり面付近で採取した試料の物理試験について報告している。住宅街と渓流出口が非常に近いこと,渓岸の崩壊がみられたこと,パイピングが疑われる痕跡があったことがわかった。源頭部すべり面付近で採取した試料については,シルト・粘土分が多いことがわかった。以上のことから,今後,パイピング等の発達メカニズムに雨の降り方の二極化が与える影響を土質特性と関連付けて明らかにしていく必要がある。加えて,これらの研究報告を住民に定期的に発信し,防災意識の向上などに役立てていくことが望まれる。謝辞アンケートにご協力いただいた方々はじめ多くのご支援をいただきました。ここに深甚の謝意を表します。本研究の一部は,JSPS 科研費 24760381(若手 B)(主に2章),国土交通省富士川砂防事務所平成 26 年度河川砂防技術研究開発公募地域課題分野(砂防)(主に3章),(公社)地盤工学会地盤災害リスクマネジメントと気候変動適応の融合に関する研究委員会(主に4章および5章)により実施されました。ここに深甚の謝意を表します。参考文献1) 気象庁:過去の気象データ検索,http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/select/prefecture.php?prec_no=67&block_no=&year=2014&month=08&day=21&view=h0,(2015 年 3 月 25 日閲覧)2) 広島地方気象台:平成 26 年 8 月 20 日 14 時現在気象速報,平成 26 年 8 月 19 日から 20 日にかけての広島県の大雨について, http://www.jma-net.go.jp/hiroshima/siryo/20140820_sokuhou.pdf, (2015 年 3 月 25 日閲覧)3) 気象庁:予報用語,http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html, (2015 年 3 月 25 日閲覧)4) 小林康照・小寺秀則・岡本正広・西村友良:実用地盤・環境用語辞典,(株)山海堂,p.247,2004.-88-
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  • タイトル
  • カラム試験による災害廃棄物の処理過程で発生した分別土砂からの透水に伴う元素溶出挙動の変化
  • 著者
  • 山口 拓也・加藤 雅彦・佐藤 健
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 89〜92
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69526
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)4-1カラム試験による災害廃棄物の処理過程で発生した分別土砂からの透水に伴う元素溶出挙動の変化○山口拓也 1・加藤雅彦 2,3・佐藤健 21 岐阜大学大学院工学研究科・2 岐阜大学工学部・3 現明治大学農学部1. はじめに2011 年 3 月 11 に発生した東北地方太平洋沖地震により、北海道から関東にいたるまで太平洋沿岸に津波が押し寄せた。特に、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の被害が大きく、岩手県、宮城県、福島県の 3 県だけで災害廃棄物が約 1700 万トン、津波堆積物が約 1100 万トン発生した 1)。宮城県は災害廃棄物が最も多く発生し、その量は約 1100万トンであり、一般廃棄物の 12~13 年分に相当する。これらの約 3 分の 1(重量比)は土砂であり、災害廃棄物や津波堆積物は、様々な設備を用い、分別処理され、2014 年 3 月には 9 割以上の処理が完了している。災害廃棄物や津波堆積物の分別処理を行なう過程で生成される土を分別土砂と呼ぶ。これらは、純粋な土質材料とは異なり、土がヘドロ状である場合や木質、コンクリート片等の異物の混入、海水かぶりによる土の高塩分化などにより物理化学的特性が異なる。そのため、再生利用するためには、さらに処理が必要な場合があり、利活用範囲は限られたものになる。分別土砂の再生利用にあたり、人の健康に害を及ぼす重金属の溶出を調査することは重要である。津波堆積物のうち、泥質の堆積物において鉛やヒ素の溶出量が環境基準値を超過した報告がある2)。仙台平野に位置する主要な河川として迫川、江合川、鳴瀬川、七北田川、名取・広瀬川、石川がある。これらの水源は重金属の溶出を伴う 5 つの火山地帯(栗駒,鬼首,鳴子,船形,蔵王)が分布しており、川では局所的にヒ素の溶出量が高い部分が存在する周辺ではヒ素を含有する金属鉱山が密集しており3)。また、宮城県4)、鉱床由来のヒ素流出が懸念されている。河川による鉱山からの重金属類の溶出では、鉱山の近隣の流域よりも、さらに下流のより大きな流域に由来する底質試料のほうが重金属類を濃縮している 5)。したがって、河川から流出した土砂が沿岸堆積物として堆積し、土壌よりも高濃度の重金属類を含有している可能性がある。津波の被害を受けた地域では、海底堆積物に由来する砂や粘土等で構成された大量の津波堆積物が拡散した 6)。そのため、海底堆積物を含む分別土砂は重金属類を含有している可能性が考えられる。塩分濃度の指標として EC を用いることができる。東北地方太平洋沖地震によって発生した分別土砂の EC は数 mS/mから 5000 mS/m のものまで幅広く存在しており、一般的に高い傾向にある 7)。これは、海水等に含まれるイオン類の混入が主な原因である。分別土砂内の物質の溶解は液相と固相との平衡関係にある。そのため、分別土砂を土質材料として利用した場合、降雨等により分別土砂内の物質溶解の化学平衡関係が変わり、物質溶出挙動が変化する可能性がある。これまでの知見では分別土砂の利用前の物理化学性について検討がなされてきたが、分別土砂からの経時的な元素溶出挙動は未知である。そこで、本研究ではカラム透水試験を行い、分別土からの重金属を含む元素の溶出挙動を調査した。2. 試験方法2.1. 対象試料流出口本研究の対象試料は岩手県山田町で発生した分別土砂のうち、可燃系混合物を多く含む土砂を振動ふるい処理により分別した土砂 (以下土砂混合くず) を用いた。この土砂混合くずを 1内径:2cm2.2. 水抽出試験固液比 1:10 となるように 15 ml コニカルチューブに試料 1 g、超純水 10 ml を加え、24 時間連続振とうした。振とう後、遠心分離(5000 rpm,5 min)し上澄み液を孔径 0.45 μm メンブレ供試材料ンフィルターでろ過し、pH・EC を pH・EC 計で、陽イオン(Na+、K+、Mg2+、Ca2+)陰イオン供試試料高さ:10cm分したものを使用した。カラム高さ:12cm週間風乾させた後、パワーミルを用いて粉砕した。その後、ふるいを用い 2 mm 以下にふるい(F-、Cl-、NO3-、SO42-)をイオンクロマトグラフを用いて測定した。2.3. カラム試験図-1 に上向流カラム透水試験で用いたカラムの概要を示す。内径 2 cm、有効高さ 12 cm のガラス製カラムを用い、土砂混合くずを高さ 10 cm になるように充填し締め固めた。カラムの充填密度は 1.47 g/cm3 であった。カラム内の土砂混合くずの間隙体積を土砂混合くずの土粒子密流入口図-1 カラム概要Changes in characteristics of elemental release from separated soil generated through disaster waste with water percolation bycalumn textYamaguchi Takuya1, Katoh Masahiko2, Sato Takeshi2(1Graduate School of Engineering, Gifu University, 2Faculty of Engineering, Gifu University )KEY WORDS: Column test, Changes in the dissolution, Heavy metals, Ion-89- 度(2.67 g/cm3)とカラム内の土砂混合くずの体積(31.4 cm3)と質量(46.2 g)より求めた。本試験ではこの間隙体積を1 PV とする。試料の充填後、定流量ポンプを用いカラム下端から超純水を 0.1 ml/min で通水し、上端からその溶液を回収した。通水した溶液を 2 PV ずつ回収し、通水量 60 PV までおこなった。ポンプ流量は 19 mm 時間降水量に相当する。回収した溶液を 0.45 μm メンブレンフィルターでろ過し、pH・EC を pH・EC 計で、Cu、Zn、Cd、Pb、As を ICP-MSにて、陽イオン(Na+、K+、Mg2+、Ca2+)陰イオン(F-、Cl-、NO3-、SO42-)をイオンクロマトグラフを用いて測定した。3. 結果と考察3.1.水抽出試験土砂混合くずの化学特性と海水組成 8)を表-1 に示した。pH は 7.7 と中性域の値を示した。EC は 220 mS/m であり一般土壌に比べ高い値であった。復興資材の品質基準として 200 mS/m より大きいものは土中構造物を腐食させやすいため200 mS/m 以下を指標にしている 9)。このことから、本研究で使用した土砂混合くずは品質基準よりやや高い値を示しており、復興資材として利用するためには除塩対策が必要と推察される。土砂混合くずの硫酸イオンは 1280 mg/l、カルシウムイオンは 481 mg/l と他のイオンに比べて高く、海水中の濃度と比較すると硫酸イオンは約半分、カルシウムイオンは海水と類似した結果となった。海水を被った土砂は、海水の組成に似てくるといわれている。土砂混合くずと海水のイオン組成を比較すると類似しない割合でイオンが含まれている。このことから土砂混合くずには海水以外の影響を受けていることが示唆された。3.2. 透水による pH と EC の経時変化図-2 にカラム試験による pH の経時変化を示した。透水初期の pH は 7.7 の値であったが通水量の増加とともに pH も少しずつアルカリ側になる傾向を示し、最大で 8.1 の値となった。図-3 にカラム試験による EC の経時変化を示した。透水初期に 408 mS/m と大きな値を示した。その後は、16 PV まで約 230 mS/m で一定であったが、徐々に低下し、36 PV 以降は 20 mS/m 未満で推移した。3.3.陽イオンおよび陰イオンの経時変化図-4 にカラム試験による陽イオン濃度の経時変化を示す。カルシウムイオン濃度は図-3 の EC と同様の挙動を示した。カルシウムイオン濃度は通水量 18 PV まで 547~632 mg/l の範囲で一定に推移した。その後低下し始め、26PV 以降カルシウム濃度は 28~42 mg/l の範囲で一定となった。ナトリウムイオンは透水初期にイオン濃度 291 mg/l と大きな値を示したが、その後濃度は急速に減少し 12 PV 以降 1 mg/l で一定となった。カリウムイオン、マグネシウムイオンは透水初期にピーク濃度が観測され、その後濃度は減少していき通水量 26 PV 以降で一定となった。図-5 にカラム試験による陰イオン濃度の経時変化を示す。硫酸イオンはカルシウムイオンと同様に図-3 の EC と類似した挙動を示した。硫酸イオン濃度は透水初期に 2276 mg/l と高い値であったが、16 PV 以降低下し始めた。36 PV 以降、硫酸イオン濃度は 2~17 mg/l の範囲で一定となった。塩化物イオン、硝酸イオンはナトリウムイオンと同様に透水初期に大きな値であったが、急速に減少し 8 PV 以降は 1 mg/l 以下で一定に推移した。フッ素イオンはイオン濃度が透水初期から 1 mg/l で一定であったが、通水量 18 PV から増加し始め,26 PV で 3 mg/l の値で最大となった。その後は緩やかに減少した。表-1 土砂混合くずの化学特性と海水の組成pH土砂混合くず海 水 8)7.7EC(mS/m)220+Na3110556各 イ オ ン 濃 度 (mg/l)Mg2+Ca2+Cl1248130127240018980+K12380NO33SO42128026498.5EC[mS/m]pH4008.07.5200002040通水量[PV]60図-2 カラム試験による pH の経時変化02040通水量[PV]図-3 カラム試験による EC の経時変化-90-60 80800カルシウムイオンカリウムイオン60ナトリウムイオン濃度[mg/l]濃度[mg/l]600400200マグネシウムイオン402000020通水量[PV]4006020通水量[PV]406040604060図-4 カラム試験による陽イオン濃度の経時変化(Na+,K+,Mg2+,Ca2)43000硝酸イオン20003塩化物イオン濃度[mg/l]濃度[mg/l]硫酸イオン1000フッ素イオン2100020通水量[PV]4006020通水量[PV]図-5 カラム試験による陰イオン濃度の経時変化(F-,Cl-,NO3-,SO42-)0.0120.1銅鉛亜鉛0.06濃度[mg/l]濃度[mg/l]0.08カドミウム0.04ヒ素0.0080.0040.020020通水量[PV]40600020通水量[PV]図-6 カラム試験における重金属類濃度の経時変化これらより、EC の経時変化には硫酸イオンとカルシウムイオンが影響を与えており、中でも硫酸イオンが最も影響が大きいことが示唆された。また、その他のイオン類(Na+、K+,Mg2+、Cl-、NO3-)はカラム試験において透水初期以外ほとんど溶出せず、EC の挙動にカルシウムイオンや硫酸イオンに比べ影響を与えないことが示唆された。また、土砂混合くずから硫酸イオンとカルシウムイオンが多量に溶出し、そのモル濃度がおよそ 1:1 の関係にあったことから、本試験で使用した試料には硫酸カルシウムを主成分とした石膏が混入していると推察された。そのため土砂混合くずは、カルシウムイオンと硫酸イオンの溶出濃度が高くなったと考えられる(表-1)。3.4.重金属の溶出挙動図-6 にカラム試験における重金属類濃度の経時変化を示す。カドミウムはカラム試験おいて通水量 60 PV の間で溶出は確認できなかった。銅、亜鉛濃度は透水初期に高い値を示したが通水量が増加するにつれ、元素濃度は低下する傾向を示した。他方、鉛、ヒ素濃度は透水初期に低濃度であったが、通水量 20 PV 以降、元素濃度は増加傾向にあった。これは図-4、5 にあるカルシウムイオン、硫酸イオンが低下し始めた PV とほぼ一致している。そのため、硫酸イオンやカルシウムイオンなどの分別土内に含まれる多量なイオン類が溶出したことで、分別土内の化学平衡関係が変化し、ヒ素濃度、-91- 鉛濃度が増加したことが推察された。以上の結果から、分別土内を水が移動することによって、元素溶出挙動が変化することが明らかとなった。このことから土木資材等で再生利用する場合、利用場所周辺の土壌や地下水等への影響を観測するため施工後からのモニタリングの継続が重要になると考えられる。3.5. 硫酸イオン、カルシウムイオンと鉛、ヒ素の溶出挙動のメカニズム硫酸イオン、カルシウムイオンと鉛、ヒ素の溶出挙動の変化に関連があることが明らかとなった。これら元素溶出の挙動変化について、以下のことが一要因として考えられた。すなわち、分別土砂に鉛やヒ素が硫酸鉛、ヒ酸カルシウムとして含まれていた場合、透水することにより、水に溶解する可能性がある。しかし、透水初期では、ヒ素と同じ陰イオンである硫酸イオン、鉛と同じ 2 価陽イオンであるカルシウムイオンが多量に溶出したためイオン溶解平衡関係により、硫酸鉛、ヒ素カルシウムからの溶出が抑えられたと考えられた。しかしながら、通水とともに硫酸イオン、カルシウムイオン濃度が低下したことにより、鉛、ヒ素が溶出しやすくなったため、元素濃度が増加したと考えられた。4. まとめ本研究では土砂混合くずを用いたカラム試験における元素溶出挙動の経時変化を調査した。以下に得られた成果を記す。・pH は水抽出試験において 7.7 であった。カラム試験を行なうことにより透水初期では 7.7 であったが、通水量が増加するにつれアルカリ側になる傾向を示し、最大で 8.1 となった。・EC は透水初期に 408 mS/m と高い値を示した。その後は、16 PV まで約 230 mS/m で一定であったが、徐々に低下し、36 PV 以降は 20 mS/m 未満で推移した。・元素溶出挙動の変化は、いくつかのパターンに分類することができた。1 つ目にカルシウムイオン、硫酸イオンのように通水初期に一定で推移し、通水量がある一定のところに達すると減少するもの、2 つ目にナトリウムイオン、塩化物イオン、硝酸イオン、銅のように通水初期に急速に減少するもの、3 つ目にカリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛のように通水初期から緩やかに減少するもの、4 つ目にフッ素のように透水初期から徐々に増加し、ピーク濃度となった後、減少するもの、5 つ目に鉛、ヒ素のように透水初期に急速に減少し、低い値で一定に推移した後、通水量がある一定のところに達すると濃度が増加するものがあった。・硫酸イオンとカルシウムイオン濃度の低下とともに、ヒ素、鉛濃度が増加する傾向にあった。この結果から分別土内を水が透水することにより、分別土内の元素溶出挙動が変化することが明らかとなった。このことから土木資材等で再生利用する場合、利用場所周辺の土壌や地下水等への影響を観測するため施工後からのモニタリングの継続が重要になると考えられる。謝辞:本研究は環境研究総合推進費補助金(課題番号:3K133003)によって行なわれた。本研究を進めるにあたり災害廃棄物処理に従事されている現場 JV の関係者各位に材料提供等に協力していただいた。記して謝意を表します。参考文献1)環 境 省 : 東 日 本 大 震 災 に お け る 災 害 廃 棄 物 処 理 に つ い て ( 避 難 区 域 を 除 く ) ,http://kouikishori.env.go.jp/table/pdf/shori140425.pdf, 20142)川辺能成・原淳子・保高徹生・坂本靖英・張銘・駒井武:東日本大震災における津波堆積物の重金属類とそのリスク,土木学会論文集 G(環境), Vol. 68, No. 3, pp195-202, 20123)駒井武:土壌汚染対策の課題と環境地質学の役割, 地学雑誌, Val.116, No.6, pp.853-863, 20074)土屋範芳・井上千弘・山田亮一・山崎慎一・平野伸夫・岡本敦・小川泰正・渡邉隆広・奈良郁子・渡邉則昭:東北地方太平洋沖地震による岩手,宮城,福島県沿岸域の津波堆積物のヒ素に関するリスク評価, 地質学雑誌, Vol118,No7, pp.419-430, 20125)土屋範芳・狩野真吾・小川泰正・山田亮一:地圏における重金属類の分布と岩石からの移行プロセスにおける化学形態に関する基礎的検討, 地学雑誌, Val. 116, No.6, pp.864-876, 20076)菅原大助・今村文彦・後藤和久・松本秀明・箕浦幸治:仙台平野における 2011 年東北地方太平洋沖地震津波の浸水域:貞観地震津波との比較, 日本地球惑星科学連合 2011 年大会予稿集, MISO36-P129, 20117)環境省:【参考資料】津波堆積物の性状, http://www.env.go.jp/jishin/attach/sisin110713_r1.pdf, 20118)青木斌・井口博夫・末永和幸・井内美朗・加藤和久:地球の水圏-海洋と陸水, 東海大学出版会, 19959)国土交通省:迅速な復旧・復興に資する再生資材の宅地造成盛土への活用に向けた基本的考え方 ,http://www.mlit.go.jp/common/000208618.pdf, 2012-92-
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  • タイトル
  • 東日本大震災で発生した岩手県における分別土砂の特性評価
  • 著者
  • 山根 華織・高井 敦史・勝見 武・乾 徹・三方 浩允・大河原 正文・川島 光博
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 93〜98
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69527
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)4-2東日本大震災で発生した岩手県における分別土砂の特性評価山根華織 1・高井敦史 1・勝見1武 1・乾徹 1・三方浩允 1・大河原正文 2・川島光博 3京都大学・2 岩手大学・3 岩手県環境生活部1. はじめに東日本大震災で発生した災害廃棄物は,重量でその 3 分の 1 以上を土砂が占めていることから,その選別処理過程で発生する分別土砂は,最終処分量低減のため復興資材として再資源化されることが期待されている。しかし,このような分別土砂は,各地域の土質特性の違いや処理現場毎に異なる処理手法のため,地域毎に異なる性質のものが発生していた。岩手県・宮城県での災害廃棄物処理は平成 26 年 3 月末に完了しており,工事管理のために取得された災害廃棄物処理データを体系化することは,今後起こり得る災害への備えとしても極めて重要である。大河原ら 1)は 2012 年に各現場で採取された土砂混合くず,ふるい下くずを対象に物理特性・化学特性の評価を行い,適切な材料管理が行われれば復興資材として活用できる可能性が高いことを示しており,事業期間全体の性状についても同様に評価しておくことが望ましい。そこで本研究では,岩手県で蓄積された分別土砂の特性データを分析し,各地区で排出された分別土砂の品質を追跡調査するとともに,それら特性に及ぼす影響因子を考察した。2. 岩手県での災害廃棄物処理と対象データ2.1 分別土砂・不燃系廃棄物の定義岩手県の復興資材活用マニュアル2)で復興資材の対象となる災害廃棄物は,二次仮置場にて破砕・選別等の分別または中間処理がなされ,その処理物は復興資材又は廃棄物として分類される。図-1 に示すように,復興資材活用マニュアルではコンクリートがらの他に,土砂態の処理物をその品質に応じて分別土 A 種,分別土 B 種と定義し復興資材と定めている。それ以外の,処理過程で発生した不燃系廃棄物をふるい下くず及び土砂混合くずと図-1 岩手県災害廃棄物処理フロー定義し,一般的には廃棄物として処分された。ただし土砂混合くずに関しては,今後の工学的特性の研究成果によっては復興資材として不燃系廃棄物の更なる活用を図ることが明記されており,特性評価と活用用途が検討されている。2.2 分別土砂の品質判定の流れ岩手県で復興資材活用マニュアルにおいて定められている分別土砂の品質判定の基本的な流れと項目は,以下の通りである。これらの判定基準に基づき,岩手県では表-1 に示す項目について処理地区ごとに分析,報告がされた。判定基準①土壌汚染対策法の溶出量基準及び含有量基準を満足すること。判定基準②対象構造物の利用目的に応じた一定の品質を備えていること。判定基準③用途に応じて事業を行う者が定める,構造物が求める品質を満たしていること。2.3 対象地域岩手県被災地沿岸部の災害廃棄物処理二次仮置場の設置されている,久慈・宮古・山田・大槌・釜石・大船渡・陸前高田の 7 地区で分別された分別土砂に関し表-1 分析項目一覧て分析を行った。本研究で対象とした分別土砂は岩手県における被災地沿岸部のほぼカドミウム及びその化合物含水比全ての市町村を網羅している。六価クロム及びその化合物液性・塑性限界本研究では岩手県が発行している分別土3砂約 3000m 毎の復興資材の品質判定証および計量証明書のデータ合計 405 件を基に水銀及びその化合物土壌分析(溶出量・含有量)セレン及びその化合物土質区分判定項目鉛及びその化合物分析を行った。表-2 に計量証明書に記載さ砒素及びその化合物れている分別土砂の種類毎のデータ件数をふっ素及びその化合物示す。このように現場ごとに様々な名称がほう素及びその化合物与えられていたが,以下の 3 章および 4 章土粒子密度コーン指数粒度組成維持管理項目塩化物含有量電気伝導度pH有機物の判定強熱減量Characterization of Recovered Soils in Iwate Prefecture Generated by the Great East Japan Earthquake, K. Yamane, A. Takai, T.Katsumi, T. Inui, K. Mikata (Kyoto University), M. Okawara (Iwate University), M. Kawashima (Iwate Prefecture)KEY WORDS: Disaster Waste Treatment, Tsunami Deposit, Recovered Soil, The Great East Japan Earthquake-93- では傾向分析を容易にするため,また復興資材活用マニュアルに記載の分別土名称を考慮し,次のとおりグルーピングを行った。分別土 A 種,分別土 A 種(浚渫土),津波堆積土(乾式)を「分別土 A 種」,分別土 B 種のみを「分別土 B種」,分別土 C 種(新 B 種)のみを「土砂混合くず」,分別土 C 種・分別土 B 種(C 種)を「ふるい下くず」,湿式分級土,土工資材(砂),土工資材(粘土),分別土 B・C 混合,農地堆積物(乾式)を「その他」の 5 種類に分類した。合計久慈,宮古,山田,大槌地区に関農地堆積物(乾式)81327大槌52161釜石1634大船渡236陸前高田3167 10 112695033584 11561110 56 18 8814 11 10 56 18 405該当地区内容津波堆積物を起源として分別したもの釜石では鉄鋼スラグで改質可燃系混合物及び不燃系混合物を起源釜石では鉄鋼スラグで改質大船渡ではコンクリートがらで改質湿式分級後の砂分に石灰を混入したもの--大船渡湿式分級後の粘土分に石灰を混入したもの湿式分級土陸前高田湿式分級後,切り土を混入し調整したもの農地堆積土陸前高田農地堆積物を分別したもの久慈 (53,160)宮古 (196,410)36,220大槌 (161,421)釜石 (132,000)大船渡 (92,034)8,00027,00048,00048,0003.1 分別土砂の発生量と活用用途改質・粒度調整等を行っていない津波堆積土(乾式)15土工資材(粘土) 大船渡5,160た分別土砂の量を地区毎に示す。湿式分級土山田分別土 B 種復興資材 土工資材(砂)砂分と粘土分の混合による粒度調図-3 に,活用先が明記されてい土工資材(粘土)85分別土 A 種前高田地区での農地利用のための3. 結果と考察土工資材(砂)2分別土砂等の種類部湿式分級後,生石灰の混合,陸整,の特異な処理が施されている。分別土B・C種混合1とするが,釜石地区での鉄鋼スラ土 B 種の生産,大船渡地区での一分別土C種(新B種)59 10 1325表-3 分別土砂の地区・種類毎の特徴のまとめ用マニュアルに従った分類を基本ンクリートがらの混合による分別分別土C種宮古5を表-3 に示す。岩手県復興資材活グによる改質,大船渡地区でのコ分別土B種(C種)分別土B種202.4 各地区の処理内容品質判定証記載の分別土の種類分別土A種(浚渫土)分別土A種久慈合計図-2 各処理現場の位置関係表-2 分別土砂の種類とデータ件数山田(67,791)19,93184,03428,120134,421132,07084,00047,860単位:m3分別土A種分別土A種(浚渫土)分別土B種分別土B種(C種)しては分別土 A 種の方が分別土 B図-3 地区別の分別土砂の活用数量種よりも大きな割合を占めている(活用先不明のものは除く,円グラフの直径は総量を示す)ことがわかる。分別土 A 種の活用用途を図-4 に,分別土 B 種の活用用途を図-5 に示す。分別土 A 種は農用地,海岸防災林に分類される防潮林盛土等,上に構造物を構築しない可能性が高いものに全体の約 45%が用いられている。分別土 B 種は約 25%以上が工作物の埋戻し材料や道路盛土等の地耐力を確保する必要がある部分に用いられているが,ほぼ全てが大船渡地区でコンクリートがらの混合により改質された分別土 B 種であり,強度や粒度を改善することで適用用途の拡大につながったと考えられる。また,防潮堤盛土として活用されている割合は分別土 A 種と同じように 20%程を占めている。-94- 3.2 各物性値の地区ごとの傾向品質判定結果に基づき,分別土砂の土粒子密度,粘土分含有率,塑性指数,強熱減量,pH,塩化物含有量,電気伝導度,コーン指数に関し,ヒストグラムを用いて地区ごとに評価した。護岸背面盛土 1.0%試験施工 港湾施設 1.0%河川堤防 2.3% 1.2%道路盛土 1.0%工作物等の埋戻し材 3.4%覆土 0.8%覆土 1.5%嵩上げ盛土 1.0%河川堤防 0.6%鉄道盛土 1.6%裏込め材 0.6%公園・緑地造成 2.8%港湾施設3.0%整地材 4.6%農用地24.3%海岸堤防12.7%工作物等の埋戻し材12.2%宅地造成37.2%いずれの図も,久慈地区,宮古地区,山田地区,大槌地区,釜石地区,大船渡地区,陸前高田公園・緑地造成13.9%地区の順に示している。3.2.1土粒子密度宅地造成14.3%土粒子密度の度数分布を図-6 に示す。添海岸防災林20.5%図-4 分別土 A 種の活用用途道路盛土15.7%海岸防災林23.0%図-5 分別土 B 種の活用用途加材による改質を行っていない地区では約 2.70 g/cm3 の最頻値を有しており,分別土 B 種と比較し木片の混入が少ない分別土 A 種の方が高い値を示した。北から南に土粒子密度が若干大きくなる傾向が見られており,津波によって運搬された海底土砂の粒径や浸水時間が影響していると考えられる 5)。釜石地区では,未改良の分別土砂は 2.80 g/cm3 以下の土粒子密度を有しており,他地区の処理物と同様に一般的な土砂と大差がないが,鉄鋼スラグにより改質を行った分別土砂は 2.90 g/cm3 以上を示した。鉄鋼スラグの粒子密度が 3.3~3.6 g/cm3 であり 6),原土に対して 30%程度添加していたことを考慮すれば妥当な値である。大船渡地区では湿式分級後の砂分及び粘土分を分けて排出していたが,砂分の方が粘土分より大きい値を示し,粘土分は 2.4~2.6 g/cm3 程度の小さい値を示している。3.2.2 粘土分含有率図-7 に粘土分含有率の度数分布を示す。改質を行っていない地区では,分別土の種類に拘わらず概ね 0~20%に分布している。釜石地区は全て 10%以下の粘土分含有率であったが,鉄鋼スラグの細粒分が極めて少ないことに加え,上述のとおり粒子密度が大きいことから相対的に粘土分の重量比率が低下したことが要因として挙げられる。大船渡地区も同様に,粗大なコンクリートがらを添加したため,概ね 10%未満の相対的に低い粘土分含有率を示しており,当然ながら土工資材(粘土)は細粒分主体であるため高い値を示した。陸前高田地区は他地区と異なり,農地利用を目的に粘土分と砂分を混合しているため,やや高い値を示している。3.2.3 塑性指数塑性指数の度数分布を図-8 に示す。改質を行っていない地区の中でも,久慈地区のみ高い値を示すものが多く存在した。前述のとおり,これら 4 地区で粘土分含有率に大差がないこと,処理システムも同様であることを考慮すると,海底堆積物そのものの性質の差異である可能性が考えられる。釜石地区では鉄鋼スラグの影響で小さい値を示しており,大船渡地区や陸前高田地区では粘土分含有率が高いため,塑性指数も高い値を示した。既往の研究ではいずれの現場で採取された分別土砂も液性限界,塑性限界ともに NP であったが 1),本研究で検討したデータで NP であった数は 198/405 検体であった。処理の進捗とともに分別土砂の組成が変化し塑性指数算出の可否に影響したことも十分に考えられるため,経時的な品質の変化についても今後明らかにする必要があろう。3.2.4 コーン指数コーン指数の分布を図-9 に示す。いずれの地区においても,木片の混入量が多い分別土 B 種の方が貫入抵抗が増大し,分別土 A 種より高い値を示した。分別土の種類を問わず 395/397 検体の分別土が第 4 種建設発生土相当の 200 kN/m2 以上のコーン指数を有しており,さらに 337/395 検体で第 1 種建設発生土相当の 800 kN/m2 も満足していたことから,貫入抵抗の観点からは分別土は地盤材料として利用できる。ただし,コーン試験は粒状試料の貫入抵抗を評価する目的の試験であることから,利用用途に応じて CBR 試験等で支持力を評価する必要がある。大船渡地区では,混合したコンクリートがらの粒径が大きいため,貫入抵抗が増大し他地区の分別土砂と比べ相対的に高い値を示したと考えられる。大船渡地区の土工資材は砂・粘土ともに,他の分別土砂と比べ相対的に低い値を示しており,陸前高田地区の湿式分級土が高い値を示す傾向にあり,粒度調整を行うことでコーン指数が影響を受けたと考えられる。陸前高田の農地堆積物(乾式)1 検体,分別土 A 種 1 検体のみ,第 4 種建設発生土基準の 200 kN/m2 を満足しなかった。しかし,陸前高田地区の農地堆積物は農地利用のための砂,粘土の混合資材であり,強度発現を期待したものではない。以上のように、粒度調整を行うことで若干の差異が見られるものの,コーン指数から判断した強度の観点からは,地盤材料としての利用が期待できる。3.2.5 強熱減量強熱減量の度数分布を図-10 に示す。この図から,改質等の追加処理を施していない地区では,分別土 A 種より分別土 B 種が高い値を示すことが分かる。特に,久慈・山田・大槌地区では分別土 A 種は 7%以下,分別土B 種は 7%以上と,分別土の種類によって明確な差異が確認された。大船渡地区は広範囲に値が分散しており,10.0%を越えるものも多く存在しており,特に土工資材(粘土)が 15.0%以上の大きな値を示していた。これは,分別土砂に含まれる可燃物だけでなく,コンクリートがらの混合によりセメント水和物が影響したこと,土工資材(粘土)に含水比-95- 2020久 10慈久慈 10分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他020宮古 10宮 10古0200山田 10山 10田0200大槌 10大 10槌0200釜石 10釜 10石0200大船渡 10大船 10渡00陸 20前高 10田陸前高 10田02.4分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他02.52.62.72.82.93.03.103.205.010.015.0土粒子密度 (kg/m3)30.035.040.045.050.055.0図-7 粘土分含有率の度数分布152010久 10慈5分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他0宮 10古 5分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他0宮 10古00山 10田 5山 10田00大槌10大 10槌00釜石10釜 10石5500大 10船渡 5大船 10渡00陸前 10高田 5陸前高 10田00.025.0粘土分含有率 (%)図-6 土粒子密度の度数分布久慈20.005.010.015.020.025.030.035.040.045.050.055.060.0020004000塑性指数60008000 10000 12000 14000 16000 18000 20000 22000 24000コーン指数 (kN/m2)図-8 塑性指数の度数分布図-9 コーン指数の度数分布調整として添加された生石灰との水和反応による水和水の影響であると考えられる。鉄鋼スラグを添加し改質を行っていた釜石地区では,鉄鋼スラグの粒子密度の影響を受け相対的に土砂分,燃焼分の割合が低くなるため,見かけ上小さい強熱減量を有していた。このように添加材の種類により強熱減量は大きく影響を受け,中でもコンクリートがらの混合により強熱減量が高い値を示すが,結晶水や水和水等の影響が大きくなるためであり,有機物・木片混入量を判断する指標として強熱減量を利用することは適当でない。有機物量の同定手法としては,例えば 330°C で 11 時間加熱する方法も検討されており 7),目的に応じて測定方法を判断する必要がある。3.2.6 pH pH の分布を図-11 に示す。この結果から,釜石地区と大船渡地区を除く地区では概ね中性域に分布していることが確認できる。他の特性と同様に,釜石地区では分別土砂中の鉄鋼スラグの含有する石灰が水と反応したため,大船渡地区では,混合したコンクリートがらと分別土砂中に含まれていた水分とのアルカリ骨材反応が生じたため,ともに高い pH を示した。ただし岩手県の復興資材活用マニュアルにおいても,セメント系改良材による地盤改良工法は一般的に広く採用されており,さらに経験的にも時間経過とともに周辺地盤と同程度の pH に戻ることが知られていることを背景に,地盤改良や安定化処理等の品質改善対策により利用が可能になる場合,pH の上限値(pH=9)は適用し-96- 403030久 20慈 10久 20慈10分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他030宮 20古10分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他020宮古 10003020山 20田山田 10100030大 20槌 10大 20槌100030釜 20石 10釜 20石1000大 30船 20渡 10大 20船渡 1000陸 30前高 20田 10陸前 20高田 1000.05.010.015.020.025.006.030.07.08.09.010.011.012.013.014.0pH強熱減量 (%)図-10 強熱減量の度数分布図-11 pH の度数分布403030久 20慈 10久 20慈10分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他030宮 20古10分別土A種分別土B種土砂混合くずふるい下くずその他0宮 20古 100030山 20田 10山 20田10003020大槌 10大 20槌10003020釜石 10釜 20石1000大 30船 20渡 10大 20船渡 1000陸 30前高 20田 10陸前 20高田 10000.51.01.52.02.53.03.54.04.55.0塩分含有量 (mg/g)050100150200250300350400450500電気伝導度 (mS/m)図-12 塩化物含有量の分布図-13 電気伝導度の分布ないことが明記されている。海域あるいは公共用水域に地盤材料からの溶出水の流入が想定される場合には覆土等の対策を施す必要があるが,高 pH のみを判断指標として利用可能性を限定することは妥当ではないと考えられる。また酸性側では最も低い値でも久慈地区の 6.40 であった。2011 年 12 月に福島県で採取した津波堆積物単体の pH は,硫化物イオンに起因する酸化により 4 以下の値を示していたこと 5)を考慮すると,被災地からの撤去および運搬,処理の過程で他材料との撹拌により緩衝されたと考えられる。3.2.7 塩化物含有量 塩化物含有量の分布を図-12 に示す。塩化物含有量の基準値である 1.0 mg/g を超過しているものは全体で 35/405 検体であり,グラフ描画範囲外で大槌地区の分別土 A 種で 6.6 mg/g が 1 試料,大船渡地区の分別土 A種で 5.1 mg/g の 2 試料,陸前高田地区の分別土 A 種で 7.4 mg/g の 1 試料がそれぞれ存在した。基準値超過検体数を地区別に見ると,久慈地区で 3 検体(A 種 2,B 種 1),宮古地区で 16 検体(A 種 14,土砂混合くず 2),山田地区で 1 検体(ふるい下くず),大槌地区で 6 検体(A 種 5,ふるい下くず 1),大船渡地区で 3 検体(A 種 2,ふるい下くず 1),陸前高田地区で 6 検体(A 種)であった。種類別では分別土 A 種の超過率が 23/167 = 13.8%と最も高く,処理を経ても海水由来の塩分がある程度残存していたことがわかる。復興資材活用マニュアルでは,海岸近くでの活用,埋設物や植生を-97- 伴わない場所での活用が明確な場合にはこの規定を適用しないとされており,鋼材の腐食が懸念されるような場合には,既存の耐食技術を併用しつつ積極的な利用を図ることが望ましい。3.2.8 電気伝導度電気伝導度の分布を図-13 に示す。電気伝導度は溶液中の電解質濃度を表す指標であるため,釜石地区を除いては塩化物含有量と同様の傾向を示している。釜石地区では,鉄鋼スラグが水との反応することで,主要な構成要素であるカルシウム及びマグネシウムが溶解し,その結果塩化物含有量が相対的に低いにも関わらず,高い電気伝導度を示したと考えられる。一般的な土壌の電気伝導度が 10~50 mS/m 程度であることを考慮すると,海水の影響あるいは鉄鋼スラグと水の反応により,いずれの地区の分別土も高い値を示しているが,200 mS/m を超過するのは全体で46/392 検体であり,電気伝導度の小さい他材料と混合することで調整可能である。5. おわりに本研究では,東日本大震災における災害廃棄物の処理過程で排出された分別土砂の特性を網羅的に評価するため,岩手県で蓄積されていた特性に関する資料をデータ化,分析し,各地区および種類ごとの差異と,それに及ぼす影響因子を考察した。その結果,以下に示すことが明らかとなった。1. 添加材による改質を行っていない地区では約 2.70 g/cm3 の最頻値を有しており,分別土 B 種と比較し木片の混入が少ない分別土 A 種の方が高い値を示す。釜石地区で鉄鋼スラグにより改質を行った分別土砂は,2.90 g/cm3 以上を示す。粒子密度の大きい鉄鋼スラグの影響により相対的に粘土分の重量比率が低くなるため,釜石地区の粘土分含有率は10%以下の値を示すが,改質を行わない場合は 0~20%である。2. 木片の混入量が多い分別土 B 種の方が貫入抵抗が増大するため,分別土 A 種より高いコーン指数を示す。分別土の種類を問わず 395/397 検体の分別土が 200 kN/m2 以上の,337/395 検体が 800 kN/m2 以上のコーン指数を示すことから,貫入抵抗の観点からは分別土は地盤材料として利用可能である。3. 強熱減量に関しては,改質を行っていない地区では,分別土 A 種より分別土 B 種が高い値を示す。コンクリートがらや生石灰を添加することでセメント水和物や水和水の影響で強熱減量は高くなり,鉄鋼スラグを添加した場合には,粒子密度の影響で土砂分,燃焼分の割合が低くなるため,見かけ上強熱減量が小さくなる。改質材の化学的作用により高い pH を示す場合があるが,その他の分別土の pH は 6~9 の中性域を示す。塩化物含有量は,全体で 35/405検体が 1.0 mg/g を超過するが,最大でも 3.0 mg/g 未満であり,種類別には分別土 A 種の超過率が最も高い。電気伝導度は,塩化物含有量と同様の傾向を示すが,鉄鋼スラグを添加することで主要成分のカルシウム及びマグネシウムが溶解するため,高い電気伝導度を示す。以上のように,改質材の添加により物理的,化学的に異なる性質を有するものも存在するが,そのほとんどが復興資材活用マニュアルで述べられているように他の分別土砂と混合することや既存の対策技術を併用することで利用可能であると考えられることから,トレーサビリティを確保しつつ積極的な利用を図ることが望ましい。本研究の実施にあたり,環境省環境研究総合推進費「災害廃棄物分別土砂・篩下残渣の物性評価と、戦略的有効利用に向けた基準化(3K133003)」を受けるとともに,松本 実氏をはじめとする岩手県環境生活部の各位,岩下信一氏(応用地質(株)),大塚義一氏((株)奥村組),西村龍彦氏(伊藤忠テクノソリューションズ(株))ならびに地盤工学会東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会の関係各位にご助力頂いた。ここに記して謝意を表する。参考文献1) 大河原正文・大塚義一・阪本廣行・高井敦史・今西肇・遠藤和人・大嶺聖・風間基樹・加藤雅彦・小竹珠玖隆行・鈴木弘明・中川雅夫・中野正樹・西村伸一・藤川拓朗・松山祐介・山中稔・勝見望・武:災害廃棄物処理過程で発生する分別土砂の特性評価,第 10 回環境地盤工学シンポジウム論文集,pp.355-360,20132) 岩手県:岩手県復興資材活用マニュアル(改訂版),http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?nd=4406&of=1&ik=1&pnp=4406&cd=43951(2015 年 2 月 10 日閲覧), 2013.3) 地盤工学会:災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン,20144) 国土交通省:迅速な復旧・復興に資する再生資材の宅地造成盛土への活用に向けた基本的考え方,http://www.mlit.go.jp/common/000208618.pdf(2015 年 2 月 5 日閲覧),20125) 高井敦史・保高徹生・遠藤和人・勝見 武・東日本大震災対応調査研究委員会地盤環境研究委員会:東日本大震災における津波堆積物の分布特性と物理化学特性,地盤工学ジャーナル, Vol.8, No.3, pp.391-402, 20136) 鐵鋼スラグ協会 HP,http://www.slg.jp/slag/green/g_ziban.html(2015 年 3 月 17 日閲覧).7) 高井敦史・森田康平・勝見武・Uddin, M.N.・山根華織・乾徹:災害廃棄物分別土の材料特性に及ぼす木片混入量・木片寸法の影響,第 11 回地盤改良シンポジウム論文集,日本材料学会,pp.67-70, 2014.-98-
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  • タイトル
  • 電磁探査による津波被災水田の土壌水電気伝導度分布の評価
  • 著者
  • 山本 清仁・小林 晃・原科 幸爾・倉島 栄一・武藤 由子・塚田 泰博
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 99〜104
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69528
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)4-3電磁探査による津波被災水田の土壌水電気伝導度分布の評価○山本清仁 1・小林晃 2・原科幸爾 1・倉島栄一 1・武藤由子 1・塚田泰博 31岩手大学農学部・2 関西大学環境都市工学部・3 株式会社 安藤・間1. はじめに2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震の地震動と津波により沿岸の農地は大きな被害を受けた。地盤沈下が著しい農地においては、満潮時に海水が流入する場合もあり、このような地域においては盛土による復旧対策が行われている。陸前高田市は、岩手県内における津波の農地被害面積が最大の地域であり、広田半島の付け根に位置する同市小友町においては、水田復旧のために 2013 年 5 月ごろから広範囲にわたり盛土と水利施設の工事が行われ、2014 年に水田が復旧し作付が行われた。津波による被災農地が広範囲にわたり盛土により復旧した事例は過去に存在せず、盛土前と盛土後にわたり長期的に塩分濃度や沈下量などの地盤環境の変化を調査することにより得られる記録は、農地の大規模な津波被害及び復旧の実態を伝える一つの資料になるものと考える。また、植物の根内部の塩分濃度より根外部の土壌水の塩分濃度が高く、植物の水分が外部へ流れることにより植物の枯死が起こるので、土壌水の塩分濃度を評価することは農作物のための除塩効果を把握する上で重要であると考える。1)ここでは、物理探査手法の一つである電磁探査を用いて盛土前の津波被災水田の調査を行った。電磁探査は、電磁誘導による渦電流の生じ方と地中の比抵抗分布が密接に関係していることを利用し、調査対象に非接触で計測する探査手法である。光畑2)は、九十九里浜平野において実施した電磁探査の調査結果より、地下の間隙水の塩分濃度推定を行っている。また、冠ら3)は、津波浸水農地における電磁探査法の計測特性を調査し、見かけの電気伝導度分布が容易に測定できること、土壌 EC センサを併用することで除塩に必要な調査ができることを示している。本報においては、盛土前の津波被災水田において電磁探査及び土壌電気伝導度測定を行い、塩分濃度の上昇にともない水の電気伝導度が高くなる性質を踏まえ、調査結果を比較検討することにより電磁探査による水田の土壌水電気伝導度分布の評価手法について考察した。1.70.7跨線橋1.1(0.52)(0.52)3.8W-5 (0.60)2.1(0.57)1.3W-6 (0.59)定点観測地点(0.60)1.4(1.16)6.27.41.3W-4 (0.75)(0.63)(0.70)W-3 (0.79)(0.49)(1.21)(0.67)0.7(0.76)1.5(0.79)1.81.11.21.9W-2 (1.08)(1.09)1.6(0.75)W-1 (1.23)(1.11)2.1排水フリューム28.32.6幹線排水路2.8(1.65)(1.98)(2.10)2.5(1.56)44.3(2.59)2.75.43.310.38.73.011.14.324.7・震災前:5.828.640.712.20100m23.65.54.3200m図-1 調査地航空写真及び標高(括弧内数値はRTK-GPSによる標高、括弧なし数値は災害復興計画基図1/2,500数値地形図の標高で単位はメートル、Google earth, Image © 2014 Digital Globe)Evaluation for distribution of salinity concentration using electromagnetic survey in the paddy fields damaged from TsunamiKiyohito Yamamoto1, Akira Kobayashi2, Koji Harashina1, Eiichi Kurashima1, Yoshiko Muto1, Tsukada Yasuhiro3 (1Iwate university,2KansaiUniversity, 3Hazama Ando Corporation)KEY WORDS: Electromagnetic survey, Electrical conductivity, Tsunami, Paddy field, Salinity concentration-99- 2012/11/22012/12/282013/2/221002013/4/19通過質量百分率(%)-0.4-0.200.20.4日降水量地下水深さ(m)日降水量(mm・d-1)2012/9/7020406080100120140160180200806040W-1W-4W-6200.6地下水深さ00.0010.80.01図-2 日降水量と地下水位の地表からの深さ(2012/9/7~2013/4/30の日降水量友町の大船渡線跨線橋東部の水y田である。広田半島の付け根に位置し、東西の海より津波が押(262m,113m)(250m,100m)(342m,113m)調査地は岩手県陸前高田市小x小友西調査地A 地区W-5(335m, 40m)より運ばれたと思われる砂が残排水路(x=85m)(0m,100m)W-3(176m, 40m)W-2(81m, 40m)A-1排水路(x=345m)A-2は大きなガレキは撤去されたが、表層には細かなガレキと津波に10小友東調査地B 地区し寄せ、住宅等のガレキが堆積した地域である。調査前までに1図-3 表土の粒度分布は定点観測地点にて観測。他の期間はアメダスデータを使用。)2. 調査地0.1粒径(mm)W-4(250m, 40m)W-6(343m, 10m)(262m,13m)W-1(0m,40m)(0m,0m)(250m,0m)幹線排水路(x=255m)留し、大きな損傷を受けた水路図-4 調査箇所概要図はそのままの状態で、用水路から淡水を田面全体に供給できる状況ではない。図-1 は調査地の航空写真であり、表-1 表土の物性一覧(2012.11.22 採土試料)含水比 乾燥密度 体積含水率 間隙率 飽和度(%) (103kg/m3) (%)(%) (%)図上に表土の電気伝導度測定地点 W-1~W-6 を示す。また、図中括弧内の数値は RTK-GPS 計測による標高、括W-175.10.86565.06699図中の太い白点線は幹線排水路、W-2 付近の細い点線はA-144.71.23355.155100幅 0.6~0.8 m 高さ 0.5 m の排水フリュームで、北東へ幹W-437.71.27548.15292線排水路とつながっている。図中南東の三角点の標高にW-630.11.44543.54694ついて、震災前は 5.8 m であったが、震災後には 4.3 mA-242.01.27053.353100弧なし数値は災害復興計画基図の標高である。さらに、となり、震災により約 1.5 m 標高が低下している。盛土前の調査時期においては、調査地全域にわたり地盤が沈下し、雨水は一時的に田面を覆うが、残存している水路を通じて排水されている状況である。また、跨線橋より約 1 km 西にある海より、満潮時に排水路を通じ調査地南西に海水が流れ込む場合があり、このような箇所は高い塩分濃度であることが予想される。図-2 に定点観測地点(図-1 の W-6 近傍)において測定した降水量と地下水深さを示す。図-2 より、地下水深さは 0.0~0.7 m の範囲で降雨の影響を受けながら変動していることが観察されている。また、図-3 の粒度分布が示すように、W-1 と W-4、W-6 近傍の表土の組成は粘土 0.1~5.3%、シルト 21.8~25.1%そして砂 69.6~78.1%であり、土性区分は砂壌土(SL)である。図-4 に調査箇所の概要を示す。表土の電気伝導度は、図-4 の W-1~W-6 において測定し、 W-1、W-4、W-6、A-1、A-2 においては含水比、乾燥密度、体積含水率を測定した。電磁探査は、幹線排水路をはさみ、図-4 A 地区の 80 m×100m の範囲(小友西調査地)及び B 地区の 250 m×100 m の範囲(小友東調査地)に分けて行った。表-1 に表土の物性一覧を示す。この物性は、表土の含水比に対応する乾燥密度を締め固め曲線から求め、それらと土粒子の密度より体積含水率、間隙率、飽和度を算出したものである。3. 調査方法表土の電気伝導度は、土壌 EC センサ(ハンナ社 HI 98331(Soil Test))を用いて、直接センサを地面に深さ 0.1 m 程度挿し込むことにより電気伝導度と地温を測定した。電磁探査は、Geophex 社製 GEM-2 を用いて推測航法により 2012 年 9 月と 2013 年 5 月に行った。測線長は y 方向に-100- 100 m、測線間隔は x 方向に 10 m であり、A 地区においては計 9 本の測線、B 地区においては計 26 本の測線となる。測定周波数は 2025 Hz、 3675 Hz、 6525 Hz、 11625 Hz、 20625 Hz、 36625 Hz 及び 65025 Hz の 7 つであり、得られたデータは(独)産業技術総合研究所による比抵抗断面分布推定1次元逆解析プログラム 4)(gem2_inv_prof.exe(Ver.8))を用いることにより深さ方向の比抵抗分布を算出(逆解析条件:0 m~25 m で 28 層、反復計算数最小 2 回~最大 50 回、比抵抗範囲最大 3000 Ωm~最小 0.1 Ωm)し、表土に相当する深さ 0.025 m の電気伝導度分布を求めた。4.土壌水の電気伝導度算定方法電磁探査により得られた電気伝導度から土壌水の電気伝導度を換算するために、まず、表-1 の採土試料について突固めによる土の締固め試験を行い、各々の含水比に対応する土壌の見かけ電気伝導度 ECa と 1:5EC 測定法による電気伝導度 EC1:5 を測定する。次に EC1:5 と含水比から土壌水の電気伝導度 ECw を求める。最後に ECw と ECa のデータをフィッティングによりアーチーの式の係数を決定し、得られた式の ECa の項に土壌 EC センサ及び電磁探査の結果を代入し、土壌水の電気伝導度 ECw を求める。本章では、EC1:5 及び ECa から土壌水の電気伝導度 ECw を算定する方法を説明するが、算定式においては土壌水の電気伝導度を前提としている。一方、ここでは土壌に吸着しているイオンを土壌水に溶解させた状態の電気伝導度を ECw として算出することにより、作物の生育に最も好ましくないと考えられる状況について考察することにする。4.11:5EC 測定法による電気伝導度からの土壌水の電気伝導度算定方法EC1:5土壌の含水比を w、1:5EC 測定法に供する試料の含水比を wとすると、それぞれ次式で示される。mm EC1:5(1),(2)w  w  100wEC1:5  w 100msmsここで、ms は土粒子の質量、mw は採土の自然状態における土壌水の質量、mwEC1:5は 1:5EC 測定法に供する試料の水分EC1:5の質量である。また、1:5EC 測定法は ms と mwの比率を 1:5 にした懸濁液の電気伝導度を計測する方法なので、wEC1:5=500 となる。次に、水の質量を水の密度で割ると水の体積になるので、式(1)と式(2)から自然試料の土壌水の体積Vw と 1:5EC 測定法に供する試料の水分の体積 Vw EC1:5 は、それぞれ次式のように示される。Vw wms100 wVwEC1:5 (3),500ms100 w(4)ここでw は水の密度である。さらに、電気伝導度 EC とイオン濃度 C(ここでは海水中の塩分濃度とする)の関係が正比例の関係であると考え、それらの関係は次式で示される。C  aEC(5)ここで a は定数である。上式の EC の項に ECw と EC1:5 を代入して濃度を算出し、どちらの試料も溶質の質量が同一であるので体積と濃度の積は一定であることから次式の関係が示される。aECwVw  aEC1:5VwEC1:5(6)ここで、ECw について土粒子に吸着しているイオンも土壌水にすべて溶解し、作物の根が水分を吸収する場合において最も好ましくない状況を仮定している。式(6)に式(3)と式(4)を代入すると次式のようになる。ECw 500EC1:5w(7)4.2 見かけの電気伝導度からの土壌水の電気伝導度算定方法地盤調査における電気探査で用いられるアーチーの式 2)より ECw と見かけの電気伝導度 ECa の関係は次式のようになる。ECw b mS nECa(8)ここでは間隙率、S は飽和度、b と m、n は定数である。土の締め固め試験結果より間隙率と飽和度を求め、式(7)よりECw を求め、式(8)にフィッティングし、b と m、n を求める。ただし、ECw は式(7)における土粒子に吸着しているイオンも土壌水にすべて溶解している状態での電気伝導度としている。また、電気伝導度の温度 T に対する依存性 2)は次式により示される。ECw (T )  ECw (25)1  0.020(T  25)(9)測定器の基準温度が異なる場合や地中温度が分かる場合は、式(9)を用いて電気伝導度を補正する。5. 調査結果表-2 に W-1~W-6 の土壌 EC センサによる表土の電気伝導度を示す。表土の電気伝導度は、W-1 が低く、西に行くに従い高くなり、W-6 の表土の電気伝導度が最高になった。これは、満潮時流入する海水が標高の低い A 地区に集中する-101- ためであると考えられる。電磁探査結果である A 地区の電気伝導度分布を図-5 に示す。また、図-6 に B 地区の電磁探査による電気伝導度分布を示す。ここで、表-2 の表土の電気伝導度測定結果を踏まえ、各電気伝導度分布において、1,000 mS/m 以上の電気伝導度はノイズとして除外する処理を行っている。2012 年 9 月測定の図-5(1)においては、 240 mS/m 以上の高い電気伝導度の領域が多く分布している。一方、2013年 5 月測定の図-5(2)においては、180 mS/m 以上の高い電気伝導度の領域が局所的に分布している。2013 年 5 月の調査時、調査地周辺の工事が進んでおり、満潮時の海水の流入が 2012 年 9 月当時よりは抑制されていたため、このように電気伝導度が低下したものと推定される。以上より、A 地区において 2012 年 9 月の時点では表面に塩分が留まっているが、2013 年 5 月においては表土の塩分は減少していることが電磁探査結果より推定される。図-6(1)の x=70 m 付近は、相対的に電気伝導度が高い状態であるが、これは x=85 m 付近に y 方向に配置された排水路があり、幹線排水路からの海水の流入もしくは上流流域の塩分を洗い流した水が塩分濃度を上昇させているものと推定される。図-6(1)2012 年 9 月計測において、ほとんどの領域で電気伝導度が 90 mS/m 以上である。一方、2013 年 5月計測の図-6(2)においては、2012 年 9 月計測の図-6(1)の電気伝導度の高い領域が 30~90 mS/m の領域として残存しているが、全体的に電気伝導度は低下している。以上より、2012 年 9 月においては、B 地区の表土の塩分濃度は高い値であるが、 2013 年 5 月になると表土の塩分は雨水により殆ど洗い流された状況であると電磁探査結果より推定される。表-3 に W-1~W-6 付近の電磁探査による電気伝導度を示す。2013 年 5 月測定の表-2 の土壌 EC センサによる表土の電気伝導度(深さ 0.1 m)と表-3 の深さ 0.025 m の電気伝導度を比較すると、W-1~W-3 の電磁探査結果は非常に近い値であるが、W-4、W-5、W-6 の電磁探査結果は低い値となっている。よって、高塩分濃度の表土を電磁探査で調査した場合、土壌を直接計測して求めた電気伝導度より低くなる傾向があると考えられる。この傾向の原因について、冠ら 3) の報告においては、電磁探査装置 GEM-2 による電気伝導度の測定値は、土壌 EC センサーによる電気伝導度の測定値より低く、地表から深さ 1 m 程度までの土壌の電気伝導度の平均値と相関が高いと考察している。また、ここでは Mitsuhata ら4)の逆解析プログラムを用いて電磁探査結果を求めているが、地層モデルや初期値、送信周波数の組み合わせも計算結果に影響を与えると考えられる。以上より電磁探査結果の電気伝導度が低く示される理由は、上述報告の考察のような測定装置の特性あるいは逆解析プログラムのモデル設定による影響によるものと考えられるが、原因の詳細は不明である。6.電磁探査による津波被災水田の土壌水電気伝導度分布の評価小友調査地の W-1、W-4、W-6、A-1、A-2 において採取した表土について土の締め固め試験を行い、式(8)にフィッテ表-2 表土電気伝導度(深さ 0.1m)の測定結果一覧表土電気伝導度(mS/m)年月日 2012.12.13 2013.4.8 2013.5.8W-1131612W-2422619W-3574128W-4216396153W-5544237313W-6439534575(mS/m)90120150180113113939373533321090120150180210240(1)2012 年 9 月 12 日計測240距離(m)60距離(m)距離(m)3060距離(m)(mS/m)030距離(m)0735333240距離(m)13342322302282距離(m)26213342322302282距離(m)(2)2013 年 5 月 8 日計測262図-6 見かけ電気伝導度 ECa 分布(電磁探査・B 地区)(2)2013 年 5 月 8 日計測(1)2012 年 9 月 14 日計測図-5 見かけ電気伝導度 ECa 分布(電磁探査・A 地区)-102- 7000表-3 電磁探査結果(深さ 0.025m)電気伝導度(mS/m)年月日2012.9.12, 142013.5.8W-110017W-210916W-312616W-410599W-529558W-636541ECw(mS/m)6000500040003000y = 0.877 xR² = 0.8725200010000NaCl濃度(%)020004000ECa/(65600080002.68S 2.68)図-7 土壌見かけECと土壌水ECの関係432y = 0.7135xR² = 0.99831005電気伝導度(S/m)10図-8 NaCl濃度と溶液ECの関係(20℃)ィングした結果を図-7 に示し、年月日W-1W-2W-3W-4W-5W-6表-4 土壌水電気伝導度 ECw の評価結果一覧電気伝導度(mS/m)土壌 EC センサ電磁探査2012.12.13 2013.4.8 2013.5.82012.9.12, 142013.5.881100756251062631631196811003562561757881001350247595665661944441936255724104743587436346982982335113係数を求めた式を次に示す。(mS/m)00.877 2.68S 2.68ECa(10)こ こ で 、 ECa は ハ ン ナ 社 HI98331(Soil Test) 、 EC1:5 は 東 亜DKK 製 WM32-EP を用いて計測30609012015018021024073距離(m)ECw 距離(m)935333した。また、ECa の基準温度は20℃、EC1:5 の基準温度は 25℃であるので、式(9)より EC1:5 の基準温度を 20℃に合わせて換算し、13342322302282距離(m)(a)A 地区262距離(m)(b)B 地区図-9 土壌水の電気伝導度 ECw 分布の評価結果(2013 年 5 月 8 日計測)式(7)より ECw を計算した。採土の時期と位置により間隙率と飽和度は異なるが、ここでは、A 地区と B 地区に分けてそれぞれの b/m S n の最大値(A地区で 8.17、B 地区で 6.25)を用いて土壌 EC センサ及び電磁探査の結果から土壌水電気伝導度を算出する。この方法では、定量的に適切な評価はできないが、土壌水の電気伝導度が高い最悪の状況として定性的に評価できるものとして検討を行う。電磁探査調査時の表土温度について、2012 年 9 月調査時は未測定、2013 年 5 月調査時は W-1~W-6 において 14.0~22.5℃であったが、ここでは温度補正を行わず、式(9)に電磁探査結果を直接代入することにより、土壌水の電気伝導度を算出した。さらに、純水に食塩を添加し、NaCl 濃度と電気伝導度の関係を得たものが図-8 であるが、これより NaCl 濃度も推定し、検討を行う。土壌水の電気伝導度の評価結果を表-4 に示す。また、電磁探査結果より求めた土壌水の電気伝導度分布の評価結果を図-9 に示す。測定時期が異なり、間隙率や飽和度を仮定しているので、一概に比較はできないが、200 mS/m 未満を灌漑水とする分類 5)、水飽和土壌抽出液が 200 mS/m 未満の場合は作物への塩類障害がほとんどないとする分類 6)を踏まえて表-4 を見ると、2013 年 5 月における W-1~W-3 の土壌センサ及び電磁探査の電気伝導度は、作物への影響がない程度まで除塩されたと考えられる。一方、W-4~W-6 の電気伝導度は、どちらの測定方法においても高い値となっており、その中でも低い値である 2013 年 5 月の電磁探査による W-6 の値でも 200 mS/m を超えており、最悪の場合、作物の生育が阻害されると判断される。表-4 の 2013 年 5 月の土壌センサによる W-6 の電気伝導度が最高であり、これを図-8 の関係から NaCl 濃度に換算すると 3.35%であり、海水の濃度に近い値となっている。図-9 においては、(a)A 地区のほぼ全域と(b)B 地区の x=70 m 付近と x=250 m 付近及び下端の x=80~250 m 付近の土壌水の電気伝導度が 210 mS/m を超えており、この領域の除塩は完了していない可能性がある。以上より、5 章の調査結果においては、土壌の見かけの電気伝導度を比較し、2012 年 9 月から 2013 年 5 月へと塩分濃度が減少していると考察したが、土壌水の電気伝導度により評価すると A 地区においては大部分で、B 地区においては一部において作物が生育できるレベルにまで土壌水の塩分-103- 濃度が下がっていない可能性があると考えられる。また、ここでは、特定の条件下で土壌水の電気伝導度を評価したが、より精度の高い測定を行うためには、式(8)と(9)より ECw を算出する上で重要な測定項目である地温 T と体積含水率Sを適切に把握する必要があり、体積含水率については TDR 測定器の利用が現時点では現実的であると考えるが、広範囲で短時間に測定するためには、竹下ら7)による地中レーダーを用いた体積含水率の測定方法も考慮し、土壌水の電気伝導度評価の技術開発を進める必要があると考える。7. まとめ津波被災水田において電磁探査及び土壌 EC センサにより電気伝導度測定を行い、電磁探査による土壌水の電気伝導度評価の有効性を検討した。その結果、以下の知見が得られた。1)電磁探査による表土の見かけ電気伝導度の結果より、調査地全域において 2012 年 9 月から 2013 年 5 月までの間に表土の塩分濃度は減少していると推定される。2)土壌 EC センサによる表土の見かけ電気伝導度の結果との比較より、電磁探査は表土の電気伝導度の評価に適しているが、土壌を直接測定して求めた電気伝導度より低くなる傾向があると考えられる。3)電磁探査による土壌水の電気伝導度評価より、2013 年 5 月における盛土前の表土について、小友西調査地(A 地区)においては大部分で、小友東調査地(B 地区)においては一部において作物が生育できるレベルにまで土壌水の塩分濃度が下がっていない可能性があると考えられる。4)電磁探査による土壌水の電気伝導度評価において、地温が低下すると電気伝導度は低く評価され、体積含水率を大きく評価すると土壌水の電気伝導度を小さく評価してしまうので、より精度の高い塩分濃度測定を行うためには、地温と体積含水率を適切に把握する必要があり、広範囲で適切に測定する技術を併用することが望ましいと考えられる。以上より、電磁探査は、表土の電気伝導度を良好に捉えることができ、広範囲を短時間で計測できる作業性及び既報3)の考察とあわせて考えると、水田の土壌水の塩分濃度分布を把握する場合において電磁探査は有用であると考えられる。また、本調査後に水田は盛土復旧されたが、地中の塩分濃度分布がどのように変化するのか、本報の知見を踏まえて盛土後も継続して調査することが必要であると考える。謝辞:本報の現地調査においてご協力をいただいた岩手県農林水産部、大船渡農林振興センター及び気仙川かんがい排水路小友地区水利組合の皆様、関西大学と京都大学、岩手大学の学生及び卒業生の皆様に、記して感謝の意を表する。参考文献1) 小西尚俊:電磁探査法(EM 法),土と基礎, 51(2), pp.41~42, 20032) 光畑裕司:電磁探査法による海岸平野における高塩分地下水調査-九十九里浜平野における例-,地学雜誌,115(3),pp.416~424,20063) 冠秀昭・関矢博幸・遊佐隆洋・大谷隆二:電磁探査法による津波浸水農地の土壌電気伝導度迅速調査法,土壌の物理性,121,pp.19~28,20124) Mitsuhata, Y.,Uchida, T., Matsuo, K., Marui, A., and Kusunose,K.: Various-scaleelectromagnetic investigations ofhigh-salinity zones in a coastal plain, Geophysics, 71, pp.B167~B173, 20065) 岩田進午・喜田大三:土の環境圏,フジテクノシステム, p.1277 ,19976)7)G.H.Bolt・M.G.M.Bruggenwert:土壌の化学,学会出版センター,pp.194~195,1980竹下祐二・森上慎也・森田周三・黒田清一郎・井上光弘:地中レーダを用いた砂質土地盤における不飽和浸透挙動の非破壊計測,土木学会論文集C,Vol.65,No. 4,pp.943-950,2009-104-
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  • タイトル
  • 災害廃棄物由来の分別土を用いた試験盛土の観測(1 年目)
  • 著者
  • 遠藤 和人・竹崎 聡・高井 敦史・勝見 武
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 105〜112
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69529
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)4-4災害廃棄物由来の分別土を用いた試験盛土の観測(1 年目)○遠藤和人 1 ・竹崎 聡 1 ・高井敦史 2 ・勝見 武 21国立研究開発法人国立環境研究所・2国立大学法人京都大学大学院はじめに1.東北地方太平洋沖地震に伴う大津波によって発生した災害廃棄物は,仮置場に集められた後,破砕選別等の処理が行われた。岩手県では処理後に 20 mm ふるいを通過した不燃系の処理物は分別土として扱われ,復興資材としての利用が進められた。この分別土は,夾雑物混じりの津波堆積物由来のものを分別土 A 種,混合廃棄物由来のものを分別土 B種として区別している 1) 。分別土の一部には木くず等の有機物が混入しており,将来的な沈下や腐敗性のガス発生等が懸念され,当初は利用が思うように進まなかった。そこで,分別土 A 種ならびに B 種のそれぞれを単体で利用した場合の長期的な変形挙動,発熱,ガス発生,汚濁成分の溶出等を評価するために試験盛土を構築して長期的なモニタリングを行った。本論では,初年度のモニタリングによって得られた結果を記し,分別土の挙動について考察する。試験盛土の概要2.2.1表− 1 試験盛土に用いた分別土 A 種と B 種の材料特性一覧分別土の材料特性区分      項     目含 水 比分別土 A 種ならびに B 種の材料特性について表 −13.42.70320.22.668小数 3 桁%%%%1.12.34.64.92.66.09.29.70.10.10.10.10.010.060.130.210.080.2714.9437.1247.180.050.210.930.130.080.8314.6432.2450.89小数 2 桁その他(0.425∼5mm)%%%%%%%%%水素イオン濃度指数 pH−mS/mmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/Lmg/L7.3973.46.60.870.0634.14.2N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.0.0010.70N.D.7.41503.9141.50.0318.75.4N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.0.800.2−0.0010.50.50.020.0020.30.30.00030.0050.10.00050.00050.0010.0010.0010.080.1mg/kgmg/kgmg/kgmg/kgmg/kgmg/kgmg/kgmg/kgmg/kgN.D.N.D.N.D.N.D.N.D.74N.D.697N.D.N.D.N.D.N.D.N.D.130N.D.77135510.05555505土粒子密度減量試験は燃焼時間を 2 時間,各温度の試料量を 10(平成 3 年 8 月)にて検液を作成し,JIS K 0102 にし強熱減量:250◦強熱減量:350◦CC強熱減量:650 ◦ C強熱減量:800 ◦ C1202,組成分析は環整 95 号(昭和 52 年 11 月),強熱試験の内,生活環境項目については環境省告示 46 号紙・布類組 合成樹脂・ゴム・皮革類木・竹・わら類たがって分析を行った。土壌溶出量基準項目について成 厨芥類は,環境省告示第 18 号(平成 15 年 3 月)にしたがっ分 ガラス類て実施した。土壌含有量項目については環境省告示第 19 号(平成 15 年 3 月)にしたがった。組成分析の結果をみると,木・竹・わら類といった木くずに相当する組成が分別土 A 種よりも B 種の方が多いことが確認される。強熱減量値をみても,どの温度帯であったとしても B 種の方が大きな値になっている。木くず等の混入による汚濁成分の溶出特性については,分別土 B 種の全窒素(T-N)と全有機炭素量(TOC),化学的酸素消費量(COD)が,A 種金属類コンクリート・玉石・アスファルト類析 シルト・粘土分(0.425mm 未満)電気伝導率 EC生物化学的酸素消費量 BOD溶 化学的酸素消費量 COD全窒素 T-N全リン T-P出 全有機炭素量 TOC無機炭素量 ICカドミウム及びその化合物の約 2 倍となっており,木くず等含有量が多いため量 六価クロム化合物に水への汚濁成分の溶出も多くなっていることがわシアン化合物かる。溶出量試験結果の重金属類は砒素,フッ素,ホウ素以外の全ての項目は N.D.(検出下限値未満)となっており,含有量についても鉛,フッ素,ホウ素以外は N.D. という結果であった。検出された項目につ水銀及びその化合物試 アルキル水銀セレン及びその化合物鉛及びその化合物験 砒素及びその化合物フッ素及びその化合物いても土壌汚染対策法第 6 条の基準を下回る結果とホウ素及びその化合物なった。カドミウム及びその化合物JIS A 1204 にしたがった粒度分布を図 − 1 に,JIS六価クロム化合物含 シアン化合物A 1210 の A-a 法で求めた締固め曲線を図 − 2 に示す。有 水銀及びその化合物分別土 A 種と B 種の均等係数 Uc はそれぞれ 57.50,量 セレン及びその化合物69.25 であった。分別土 B 種の方が A 種よりも細粒試 鉛及びその化合物験 砒素及びその化合物分がやや多い結果となっているが,これは,破砕等フッ素及びその化合物の処理工程に起因すると考えられる。最大乾燥密度ホウ素及びその化合物3分別土 A 種 分別土 B 種 定量下限値%g/cm31 に示す。含水比は JIS A 1203,土粒子密度は JIS Ag としてそれぞれ 3 検体の平均値を求めた。溶出量単位0.1小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁小数 2 桁3ρdmax は 1.772 g/cm ,1.445 g/cm ,最適含水比 woptMonitoring Results of Experimental Banking using Recovered Soils from Disaster Waste; -First year resutls-.Kazuto ENDO1 , So TAKEZAKI1 , Atsushi TAKAI2 , Takeshi KATSUMI2 . ( 1 National Institute for EnvironmentalStudies, 2 Kyoto University)KEY WORDS: Disaster waste, Recovered soil, Experimental banking, Deformation, Environmental impact.-105- 㻞㻚㻜㻭✀㻮✀㻤㻜㻝㻚㻥஝⇱ᐦᗘ䚷䠄㼓㻛㼏㼙㻟䠅㏻㐣㉁㔞ⓒศ⋡䠄䠂䠅㻝㻜㻜㻢㻜㻠㻜㻞㻜㻿㼞㻌㻩㻌㻝㻜㻜㻑㻝㻚㻤㻭✀㻮✀㻝㻚㻣㻝㻚㻢㻿㼞㻌㻩㻌㻝㻝㻚㻡㻝㻚㻠㻜㻜㻑㻝㻚㻟㻜㻜㻚㻜㻜㻝㻜㻚㻜㻝㻜㻚㻝㻝㻝㻜㻝㻚㻞㻝㻜㻜㻝㻜㻝㻡㻞㻜㻞㻡㻟㻜㻟㻡㻠㻜ྵ䚷Ỉ䚷ẚ䚷䠄䠂䠅⢏䚷䚷䚷ᚄ䚷䠄㼙㼙䠅図 − 2 締固め曲線図 − 1 粒径加積曲線㻠㻌㻡㻜㻜㻞㻌㻜㻜㻜㻠㻌㻡㻜㻜ኳ➃㠃✚ 䠖㻝㻞㻌㼙㻞㻝㻝㻌㻜㻜㻜㻝㻡㻌㻜㻜㻜ศูᅵ㻭✀ᗏ∧㠃✚䠖㻝㻢㻡㻌㼙㻞㻝㻝㻌㻜㻜㻜㻔㼍㻕㻌᪋ᕤ୰䛾⥾ᅛ䜑≧ἣ㻢㻌㻜㻜㻜㻠㻌㻡㻜㻜䝛䝑䝖ᢚ䛘ᕤ㻝 㻚㻡䠍㻦㣕ᩓ㜵┒ᅵᐜ㔞䠖㻞㻞㻡㻌㼙 㻟Ṇ㻟㻌㻜㻜㻜㻝㻡㻌㻜㻜㻜ศูᅵ㻮✀㻠㻌㻡㻜㻜䝛䝑䝖㻝㻡㻌㻜㻜㻜㻔㼎㻕㻌タ⨨᏶ᡂᚋ䛾ヨ㦂┒ᅵ䠄ศูᅵ㻭✀䠅㻔㼍㻕㻌ᐇド┒ᅵ఩⨨ᅗ㻔㼎㻕㻌ᐇド┒ᅵ䛾ᑍἲᅗ䠄ୖ䠖ᖹ㠃䠈ୗ䠖᩿㠃䠅写真 − 1  施工状況と完成後の写真図 − 3 試験盛土の概要は 15.3 %,22.6 %であった。最大乾燥密度における透水係数(変水位法)は極めて小さく,それぞれ 2.49×10−9 m/s,4.52×10−9 m/s であった。このような低透水性を示したのは,最適含水比が自然含水比よりも大きく,動的な締固め過(1)試験盛土の概要㞟Ỉᱝ構築した試験盛土の平面図と断面図を図 − 3 に示す。ᾐ㏱Ỉ㔞ィỿୗᯈまた,施工中と完成後の状況を写真 − 1 に示す。試験盛㻝㻌㻜㻜㻜 㻞㻌㻜㻜㻜試験盛土の構築土の構築にあたっては,転圧後の厚さが 1 層当たり 25䜺䝇᥇ྲྀ⟶将来的な変位,発熱,汚濁成分の放出,腐敗性ガスの放 ᗘィ㻞㻌㻜㻜㻜施工した。試験盛土でのモニタリングは,盛土構造の㞟Ỉᱝ出の有無を評価することを目的として沈下量等の変位,㞟Ỉᱝ㻞㻌㻡㻜㻜cm になるように調整して撒き出し,層厚管理によって㻝㻌㻜㻜㻜2.2㻞㻌㻡㻜㻜程で供試体の一部が泥濘化したことが要因と考えられる。盛土内の温度,浸透水量,浸透水の水質,盛土内のガス組成を測定するためのセンサーや器具類を設置した。設置したセンサー類と測定方法設置したセンサーや装置類の位置図を図 − 4 に示し,それぞれの規格や測定方法等について以下に詳述する。⃝1 沈下板層別の沈下量を把握するため,分別土 A 種㻞㻌㻡㻜㻜㻞㻌㻜㻜㻜㻞㻌㻜㻜㻜㻝㻌㻜㻜㻜㻞㻌㻜㻜㻜㻞㻌㻜㻜㻜㻝㻌㻜㻜㻜ᾐ㏱Ỉ㔞ィ㞟Ỉᱝ㻞㻌㻡㻜㻜 ᗘィ䠈䜺䝇᥇ྲྀ⟶㻝㻌㻜㻜㻜㻝㻌㻜㻜㻜㻝㻌㻜㻜㻜(2)と B 種それぞれの試験盛土に対し,沈下板を深さ 2 mに 2 カ所,深さ 1 m に 2 カ所の計 4 カ所設置し,試験盛土天端に測量杭を 5 本打ち込んだ。ỿୗᯈ測量杭については沈下量である Z 方向の変位だけで図 − 4 センサーや装置類の設置位置図なく,水平変位として XY 方向についても計測した。沈-106- 下板と測量杭の位置図と番号を図 − 5 に示す。分別土ヨ㦂┒ᅵ䛾ኳ➃䠄㻮✀䠅A 種の場合は記号 B が A となる。⃝2 温度計㻮㻠温度計にはシース直径 6 mm,シース延長㻮㻠㻿㻔㼔㻩㻞㼙㻕 㔞ᮺ0.5 m と 1.0 m の K 型熱電対(岡崎製作所製)を用い,試験盛土天端から深さ 0.5 m と 1.0 m の位置に測点が㻮㻟くるように設置した。分別土 A 種の北側の測点を A1-㻮㻝㻿㻔㼔㻩㻝㼙㻕ỿୗᯈ㻮㻡㻮㻟㻿㻔㼔㻩㻝㼙㻕㻮㻞㻿㻔㼔㻩㻞㼙㻕㻮㻝㻮㻞0.5m,A1-1.0m,南側を A2-0.5 m,A2-1.0 m とし,分別土 B 種ではそれぞれ B1,B2 とした。測定データはHIOKI 製ミニデータロガーを用いて,1 時間間隔で記図 − 5 沈下板と測量杭の位置と番号録した。⃝3 浸透水量計試験盛土内の不飽和帯を浸透する水量の測定には,図 − 6 に示すように転倒桝雨量計を用い㼂㼁㻞㻜㻜⟶た埋込型の浸透水量計 2) を自作して設置した。気象庁認定の転倒桝雨量計は高さがあるため,汎用型の転倒ルフの棚を水平に設置して,その上に転倒桝雨量計を㼂㼁⥅ᡭ㻵㻺㻞㻡㻜㽢㻞㻜㻜㻡㻡㻜桝雨量計を用いている。水平をとるため,メタルシェ置き,塩ビ管(VU 管)で作成した枠を被せた。塩ビ㻞㻠㻜管の中はロート状になっており,不織布を 1 枚敷いた上に 10 mm 程度の単粒砕石を厚さ数 cm で入れ,さら㌿ಽᱝ㞵㔞ィにその上に 25mm 程度の単粒砕石を充填した。塩ビ管の上部まで砕石を設置してしまうと,キャピラリーバ㻔㼍㻕㻌ᇙ㎸ᆺᾐ㏱Ỉ㔞ィ䛾᩿㠃ᅗリアの効果で浸透水が側方に逃げてしまうため,上部㻔㼎㻕㻌タ⨨䞉ᇙᡠ䛧๓䛾ᾐ㏱Ỉ㔞ィ図 − 6 埋込型浸透水量計から数 cm 下まで単粒砕石を充填して,そこからは周辺に設置される分別土を入れた。設置位置は,温度計䃥㻞㻜㻜と同様に天端の北側と南側に 1 つずつ,深さ 1 m に設置した。測点番号も温度計と同様である。測定データは HIOKI 製データミニロガーを用いて転倒桝から出䃥㻝㻜䝏䝳䞊䝤⃝4 浸透水集水桝不飽和領域の浸透水をサンプリング㻞㻜㻜力されるパルス信号を記録した。するための集水桝を図 − 7 (a) に示す。この集水桝は鍋䝟䞁䝏䞁䜾䝯䝑䝅䝳䠖䃥㻟ター層を通過して鍋状の容器(集水桝)に自動的に溜㻡㻜のようになっており,上から浸透してきた水は,フィルまる仕組みとなっている。溜まり続けた浸透水はいず䃥㻝㻜㻜れオーバーフローするが,下部に溜まった水が交換される訳ではないので,採取時期にそれ程気を遣わなく㻔㼍㻕㻌ᾐ㏱Ỉ㞟Ỉᱝ䛾᩿㠃ᅗ㻔㼎㻕㻌タ⨨䞉ᇙᡠ䛧๓䛾㞟Ỉᱝてよく,適宜の採水によって浸透水の水質を測定することが可能となる。集水桝に溜まった水は,集水桝か㻮㻠ら接続されて地上に出ている内径 10 mm のチューブから手動式サクションポンプを用いて採取する。一度の採水で概ね 3 リットルの浸透水を採取可能である。㻮㻟㻮㻢㻮㻡㻮㻝1 つの試験盛土には 6 個の浸透水集水桝を設置した。2 つは天端の下部,残りの 4 つは斜面部とし,設置深㻮㻞さは基盤面(天端からの深さ 3 m)とした。法面に設置した理由は,試験盛土の深さによって水質が異なる㻔㼏㻕㻌ᾐ㏱Ỉ㞟Ỉᱝ䛾 Ⅼ␒ྕ可能性があるためである。図中 (c) は設置した集水桝図 − 7 浸透水集水桝の測点番号である。これまでと同様に分別土 A 種の場合は記号 B が A となる。採取した浸透水は,表 − 1 と同様の方法によって分析を行った。⃝5 ガス採取管試験盛土内のガスをサンプリングするため,天端から深さ 1 m(温度計と同じ深度)に内径 6 mm の SUS管を挿入した。設置位置は温度計と同じ位置と天端中心部の 3 カ所ずつ設置した。測点番号は,A 北,A 中,A 南とし,A 北が温度計の A1 と,A 南が A2 と同じ位置となっている。サンプリングは不定期にアルミニウム製テドラバックにポンプを用いて採取し,即日分析を行った。採取した土壌ガスの内,酸素,二酸化炭素,メタン,窒素,水素についてはGC-TCD を,一酸化炭素については GC-FID を,硫化水素については GC-FPD を用いて分析した。-107- 試験盛土のモニタリング結果3.3.1表 − 2 現場密度試験結果と締固め度現場密度試験砂置換法試験盛土の築造が終了した後,天端で 2 カ所,法面部ヤード位置RI法ρtρdwDcρtρdwで 2 カ所ずつ現場密度試験を実施した。現場密度は「砂g/cm3g/cm3%%g/cm3g/cm3%%置換法による土の密度試験方法(JIS A 1214)」と「RI1.8151.54817.287.41.8021.54716.587.31.7331.48316.983.71.7061.45517.282.11.9211.65516.193.41.9591.67417.094.51.7011.44517.781.61.7161.45018.381.81.6911.35025.393.41.6831.31228.390.81.7681.42124.498.31.7671.39626.696.61.7991.41127.697.71.8171.41928.198.21.8011.40328.497.11.7861.34732.793.2天端計器による土の密度試験方法(JGS 1614-2003)」の両方A種法面を実施した。測定結果を表 − 2 に示す。砂置換法と RI 法の差は小さく,分別土に対しては,どちらの方法で現場天端密度を測定しても問題ないと考えられる。また,天端にB種比較すると法面部の方が密度が大きい結果となったが,法面2 × 8 m という狭い天場におけるローラー転圧よりも,Dc法面バケットを用いた整形の方が実施しやすかったことが原因と思われる。分別土 A 種の乾燥密度の方が B 種よりも大きいが,A 種の締固め度(Dc )が 81.6 %以上であるのに対し,B 種は 90.8 %以上であり,締固め度としては B 種の方が大きな値となった。3.2試験盛土の変位天端に設置した測量杭,ならびに試験盛土内に設置した沈下板を用いた変位の測量結果を図 − 8 に示す。水平変位(XY変位)については測量杭を用いた結果を,沈下量(Z 変位)については測量杭と沈下板を用いた結果を示している。なお,水平変位については設置から約 1 年後(358 日後)の値のみを示している。水平変位の図中 (a) と (b) を見ると,分別土 A 種,B 種共に北東もしくは東方向に移動していることが確認できる。試験盛土の東は海側となるが,基準点を盛土から数メートル離れた基盤に設置していることから,地盤自体が移動したのではなく,試験盛土が変形したと考えられる。天端法肩の水平方向への移動は 1 年間で数 mm∼十数 mm 程度に収まっており,実用上,問題の無い範囲であると想定される。図中 (c) と (d) の沈下量をみると,分別土 B 種の場合,1 年間で 40 mm 程度,A 種では 50 mm 程度の沈下量となっていることが確認できる。層別の沈下が分かるように設置した沈下板では,基盤面から高さ 2 m(天端から深さ 1 m)の㻠㻦㻝㼥ヨ㦂┒ᅵ䛾ኳ➃䠄㻭✀䠅㼤㻦㻝㻤㻭㻠㻝㻤㻦㻞㼥ヨ㦂┒ᅵ䛾ኳ➃䠄㻮✀䠅㼤㻦㻙㻞㻭㻡㻞㼥㻦㻝㻠㼤㻦㻜㻢㻦㼥㼤㻦㻥㻝㻜㻮㻡㻢㻙㻦㼥㻞㻝㼥㻦㻢㻞㼤㻦㻥㻭㻟㼤㻦㻙㻝㻜㻮㻠㻭㻝㻭㻞㻮㻟㼤㻦㻙㻟㻝㻡㻠㻟㻦㼥㼤㻦㻝㻞㼤㻦㻜㻦㻡㼥㻝㻝㻝㻟㻜㻜㻝㻜㻜㻙㻝㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻠㻜㻜㻙㻞㻜㻙㻟㻜㻙㻠㻜㻙㻡㻜㧗䛥䠎㼙䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻙㻝㻜㻙㻞㻜㻭㻝㻭㻞㻭㻟㻭㻠㻭㻡㻜㻭㻝㻿㻭㻟㻿㧗䛥䠏㼙䠄ኳ➃䠅䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻮㻝㻮㻞㻮㻟㻮㻠㻮㻡㧗䛥䠎㼙䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻮㻝㻿㻮㻟㻿㧗䛥䠍㼙䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻮㻞㻿㻮㻠㻿㻜㻙㻝㻜㻙㻞㻜㻙㻡㻜㻭㻞㻿㻭㻠㻿㻜㻙㻝㻜㻙㻞㻜㻙㻟㻜㻙㻠㻜㻙㻠㻜㻙㻡㻜㻠㻜㻜㻙㻡㻜㻙㻠㻜㧗䛥䠍㼙䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻟㻜㻜㻙㻠㻜㻙㻡㻜㻙㻟㻜㻞㻜㻜㻙㻟㻜㻙㻟㻜㻙㻞㻜㻝㻜㻜㻙㻞㻜㻙㻠㻜㻜㻜㻙㻝㻜㻙㻟㻜㻙㻝㻜㻮㻞㻢㼥㻦㻔㼎㻕㻌㻮✀䛾㼄㼅ኚ఩䠄㻟㻡㻤᪥ᚋ䠅㧗䛥䠏㼙䠄ኳ➃䠅䛛䜙䛾ỿୗ㔞㻜㼤㻦㻙㻣㻥㻌㻌䠄༢఩䛿㼙㼙䠅㻔㼍㻕㻌㻭✀䛾㼄㼅ኚ఩䠄㻟㻡㻤᪥ᚋ䠅㻮㻝㻞㼥㻦㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜⤒䚷䚷㐣䚷䚷᪥䚷䚷ᩘ㻟㻜㻜㻙㻡㻜㻠㻜㻜㻔㼏㻕㻌㻭✀䛾ᒙูỿୗ㔞䠄༢఩䠖㼙㼙䠅㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜⤒䚷䚷㐣䚷䚷᪥䚷䚷ᩘ㻟㻜㻜㻔㼐㻕㻌㻮✀䛾ᒙูỿୗ㔞䠄༢఩䠖㼙㼙䠅図 − 8 XY 変位と沈下量(Z 変位)の測定結果-108-㻠㻜㻜 位置での沈下量は天端のそれよりもやや小さい程度であり,高さ 1 m(天端から深さ 2 m)の沈下量は B 種で 20 mm 程度,A 種では 10 mm 以下となっていた。天端での最大ひずみ(ϵmax )は A 種で 1.6 %,B 種で 1.3 %程度であった。また,経過日数に対する沈下量の挙動をみると,B 種は沈下曲線の傾きが緩くなってきており,沈下速度がやや落ちてきているように見えるが,A 種の沈下は直線的であり,今後も沈下が継続していく可能性が伺える。B 種は混合廃棄物由来であり,A 種は津波堆積物由来であるため,B 種の方が沈下するように想像していたが,結果的には A 種の方が沈下がやや大きく,かつ沈下が長期にわたって継続する傾向が確認された。これは,初期の締固め度の影響もあると考えられる。3.3温度変化気温と試験盛土内の温度変㻞㻡温ならびに層内温度は 1 時間㻞㻜㻞㻜毎に記録したが,図中では日平均値で表している。北側と南側の測点 1 と 2 では概ね同じ値となっており,深さ 0.5 mよりも深さ 1.0 m の温度変化がやや遅れているが,これは 䚷䚷ᗘ䚷䚷䠄䉝䠅㻟㻜㻞㻡 䚷䚷ᗘ䚷䚷䠄䉝䠅㻟㻜化について図 − 9 に示す。気㻝㻡㻝㻜Ẽ 㻭㻝㻙㻜㻚㻡㼙㻭㻝㻙㻝㻚㻜㼙㻭㻞㻙㻜㻚㻡㼙㻭㻞㻙㻝㻚㻜㼙㻡㻜㻙㻡㻙㻝㻜㻜㻡㻜㻝㻜㻜㻝㻡㻜㻞㻜㻜㻞㻡㻜⤒䚷䚷㐣䚷䚷᪥䚷䚷ᩘ㻟㻜㻜㻝㻡㻝㻜Ẽ 㻮㻝㻙㻜㻚㻡㼙㻮㻝㻙㻝㻚㻜㼙㻮㻞㻙㻜㻚㻡㼙㻮㻞㻙㻝㻚㻜㼙㻡㻜㻙㻡㻟㻡㻜㻠㻜㻜㻙㻝㻜㻜㻡㻜(a) 分別土 A 種分別土の熱伝導率によって時間遅れが生じていることが原㻝㻜㻜㻝㻡㻜㻞㻜㻜㻞㻡㻜㻟㻜㻜⤒䚷䚷㐣䚷䚷᪥䚷䚷ᩘ㻟㻡㻜㻠㻜㻜(b) 分別土 B 種図 − 9 分別土内の温度変化と気温因である。分別土 A 種と B 種での違いもほとんどなく,同様の変化となっていることも確認される。有機物の多い廃棄物等を高さ 3 m 程度で堆積すると,発熱が生じて気温変化とは異なる温度変化となるが,分別土を堆積させても,そのような発熱は確認されず,気温を追随する形で温度が変化している。分別土には有機物が多く含まれると言われているが,このような温度変化をみる限り,分別土 A 種,B 種共に発熱を伴うような易分解性の有機物を多く含んでいるとは言えない結果となった。3.4浸透水量試験盛土内に設置した転倒桝雨量計によって測定された浸透水量と近傍に設置した転倒桝雨量計による降雨量の結果を図 − 10 に示す。経過日数 100 日前後にまとまった雨が降っており,浸透水量もそれに合わせてカウントされている。た㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻠㻜㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻔㼙㼙㻛᪥䠅㻞㻜㻜㻔㼙㼙㻛᪥䠅ᾐ㏱Ỉ㔞㻟㻜㻜㻟㻜㻜㻟㻜㻜㻭㻝䠄໭䠅㻟㻜㻜㻭㻞䠄༡䠅㻞㻜㻜㻞㻜㻜㻝㻜㻜㻝㻜㻜㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻠㻜㻜㻜㻝㻜㻜⤒䚷㐣䚷᪥䚷ᩘ㻞㻜㻜㻟㻜㻜ᾐ㏱Ỉ㔞㝆㞵㔞㻝㻜㻜㻠㻜㻜㻜㝆㞵㔞㻜㻜㻜㻠㻜㻜⤒䚷㐣䚷᪥䚷ᩘ(a) 分別土 A 種㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻠㻜㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻔㼙㼙㻛᪥䠅㻞㻜㻜㻔㼙㼙㻛᪥䠅ᾐ㏱Ỉ㔞㻟㻜㻜㻟㻜㻜㻟㻜㻜㻮㻝䠄໭䠅㻟㻜㻜㻮㻞䠄༡䠅㻞㻜㻜㻞㻜㻜㻝㻜㻜㻝㻜㻜㻜㻜㻝㻜㻜㻞㻜㻜㻟㻜㻜㻠㻜㻜㻜⤒䚷㐣䚷᪥䚷ᩘ㻝㻜㻜㻞㻜㻜⤒䚷㐣䚷᪥䚷ᩘ(b) 分別土 B 種図 − 10 分別土層内への浸透水量と日降雨量の関係-109-㻟㻜㻜㻜㻠㻜㻜ᾐ㏱Ỉ㔞㝆㞵㔞㻝㻜㻜㻠㻜㻜㻜㝆㞵㔞㻜㻜 だし,分別土 A 種の A1 と A2 を比較すると,その浸透水量は大きく異なっており,かつ,A1 では降雨量よりも大きな浸透水量が記録される等,測定結果は信頼性に欠ける結果となっている。この傾向は B1 でも同様であり,100 日前後の降雨量よりも浸透水量が多い。しかしながら 300 日前後の降雨時には浸透水量がほとんど記録されていない結果となった。200 日前後では降雨が発生していないものの,浸透水量が増加しているが,これは雪解け等の影響と考えられる。これらの結果から,浸透水は確かに存在しているが,定量的な観測には至らなかったことから,浸透水量計自体,もしくは測定方法に更なる改善が必要であることがわかった。3.5浸透水の水質試験盛土に設置した浸透水集水桝で集められた浸透水は,不定期にサンプリングし,水質の分析を行った。水質の内,生活環境項目について得られた結果を表 − 3 に示す。水温と ORP は浸透水を採取後,現地で測定した値であり,それ以外は持ち帰り後に分析を行った結果である。また,342 日後の試料に対しては,水道水検査等において難分解性溶存有機物(腐植質等)の指標として用いられる紫外部(260 nm)の吸光度(E260)についても追加分析した。土壌由来の腐食物質が増加すると E260 と TOC の比も増加する傾向が報告されており 3) ,分別土における溶存有機物の指標として適している可能性があったため採用した。分別土 A 種の ORP はプラス側であるが,B 種については初期からマイナス側であり,やや嫌気的な状況となっていることが確認できる。A 種,B 種共に,時間が経過するにしたがって ORP は減少しており,A 種の約半分は 1 年経過後にマイナスとなっている。ただし,ORP については採水頻度等も影響することから,盛土内の全てが嫌気的に変化したとは断言しにくい状況である。pH は初期に中性から弱アルカリ性であったものが,時間とともに弱酸性側に移行しており,A 種よりも B 種の方がやや小さい pH となる傾向が観察される。電気伝導率(EC)には大きな違いは無く,概ね 800∼1000 mS/m の範囲で変動しており,時間と共に減少傾向にあることが確認できるが,その変化は緩慢であるといえる。生物化学的酸素要求量(BOD)については,総じて低く,易分解性の有機物の溶出は,A 種,B 種共に少ないと思われるが,A 種では BOD が微増している傾向も確認されている。化学的酸素要求量(COD)については,A 種と B 種で明確な差があり,B 種の方が A 種に比較して数倍大きな値となっている。ORP が低いのも,この COD 成分が影響していると考えられる。全有機炭素(TOC)も同様の傾向となっており,A 種に比較すると B 種が数倍大きな値となっている。TOC 成分の具体までは特定できていないが,BOD が低く,COD,TOC が高いことから,難分解性の有機物が多いと推測される。次いで,有機汚濁成分の指標として,BOD/COD,E260/TOC について評価した。図 − 11 (a) と (b) に各測点における計算値を示す。また,BOD/COD と E260/TOC の関係を図中 (c) に示す。なお,本来であれば TOC ではなくてろ過表 − 3 浸透水の水質分析結果 項  目水温 (℃)ORP (mV)pH (-)EC (mS/m)BOD (mg/L)COD (mg/L)T-N (mg/L)TOC (mg/L)E260 (mAbs)日数8212434282124342821243428212434282124342821243428212434282124342342A15.019.1133-357.26.78806602.86.033719533940502A25.57.019.515714657.27.16.78607607802.131234693516381944648A36.27.520.21471571547.37.16.78909407401.933283391662362433551A4 A5A65.0 8.16.07.0 7.87.619.4 19.9 20.2150 123 120149 110 1095-133 -947.3 7.97.87.1 6.96.66.7 6.86.7880 840 790890 980 1000670 830 7900.9 2.22.10.61.23.1 2.92.5325454262930367449100 36187052547714455455212423365039574 1273 1085-110-B15.019.8-100-1307.06.89307804.93.41501301417110682709B25.56.620.7-100-116-1587.17.26.799010006904.84.016014013013151813085552045B38.07.520.8-82-117-1487.16.86.7100010007607.01.82.61701001001391714062602039B4 B5 B66.09.76.87.820.0 - 20.5-82-91-124 - -118-137 - -1036.97.07.07.06.97.2980 - 930980 - 1000750 - 7505.37.47.6135.4150 - 170240 - 490210 - 120131517301715120 - 100110 - 18060712027 - 1284 㻭㻝㻭㻞㻭㻟㻭㻠㻭㻡㻭㻢㻮㻝㻮㻞㻮㻟㻮㻠㻤㻜㻭㻝㻭㻞㻭㻟㻭㻠㻭㻡㻭㻢㻮㻝㻮㻞㻮㻟㻮㻠㻜㻚㻜㻞 㻜㻚㻜㻠 㻜㻚㻜㻢 㻜㻚㻜㻤 㻜㻚㻝㻱㻞㻢㻜㻛㼀㻻㻯㻠㻜㻞㻜㻮㻢㻜㼅㻌㻩㻌㻡㻤㻚㻜㻌㼑㼤㼜㻔㻙㻝㻤㻚㻤㻌㼄㻕㼞㻞㻌㻩㻌㻜㻚㻣㻤㻢㻜㻜㻜㻝㻜㻞㻜㻟㻜㻮㻻㻰㻛㻯㻻㻰㻱㻞㻢㻜㻛㼀㻻㻯㻔㼍㻕㻔㼎㻕㻠㻜㻜㻜㻚㻜㻞㻜㻚㻜㻠㻜㻚㻜㻢㻜㻚㻜㻤㻜㻚㻝㻮㻻㻰㻛㻯㻻㻰㻔㼏㻕図 − 11 浸透水の有機汚濁成分の評価後の DOC を用いるべきであるが,本分析ではろ過を実施していないので TOC を用いた。廃棄物という観点で考えると,易分解性と難分解性有機物の指標として BOD/COD が用いられることが多いが,試験盛土浸透水の BOD/COD は0.1 以下であり易分解性有機物量は極めて少ない状況であることがわかる。E260/TOC の値は分別土 A 種で 12∼27 程度であり,A1∼A4 に比較して A5 と A6 が大きな値となっている。これは,A1∼4 は法面部の下部の基盤層に設置しているが,A5∼6 は天端の下部の基盤層に設置しているため,分別土の層厚が異なっていることが原因と考えられる。分別土 B 種の E260/TOC については,A 種に比較すると総じて大きな値となっている。ただし,B6 については A 種よりも低い結果となり,分別土 A 種とは異なる挙動も確認されている。E260/TOC に明確な基準値はないが,長野県の湖沼水の E260/DOC の値は 11∼38 程度と報告 4) されており,大阪市の河川水域では 12∼18 程度 5) であることから,A 種の浸透水は河川水域とほぼ同等,B 種の浸透水は湖沼水とほぼ同等の汚濁指標といえる。BOD/COD の指標を用いる場合,BOD 試験には少なくとも 5 日間を要することから,災害時における有機物指標としては適していないと考えられる。そこで,E260/TOC を有機汚濁の大体指標として用いる可能性について検討した。図 − 11 (c) をみると,BOD/COD の増加と共に E260/TOC が減少している傾向が確認できる。線形で近似するとBOD/COD が増加したときに E260/TOC の値が負になることから,ここでは累乗近似とした。E260/TOC が減少することは水質が改善される方向であるが,BOD/COD が増加するのは水質が悪化している指標になることから,この関係は辻褄が合っていない。BOD/COD は易分解性有機物量を測る指標であるが,E260/TOC は難分解性有機物の指標であるため,BOD/COD が 0.1 以下のような汚濁成分の少ない環境下では,両者に明確な相関が無い可能性もある。そのため,E260/TOC を BOD/COD の代替指標としてでは無く,有機汚濁成分の指標として E260/TOC そのものの値を用いる方が無難な気がしている。今後,更にデータを蓄積し,有機炭素成分の具体等についても検討していく予定である。3.6土壌ガス組成各試験盛土に設置した 3 本のガス採取管から採取された土壌ガスの組成を表 − 4 に示す。表中の酸素,二酸化炭素,窒素以外に,メタン,水素,一酸化炭素,硫化水素ガスの測定を行ったが,いずれも定量下限値未満であり,今回の調査ではガスが検出されなかった。酸素濃度はいずれの分別土においても大気に近い値となっている。”B 中 ”の初期数十日は酸素が消費されていることが伺えるが,その後に大気濃度にほぼ等しくなっていることから,酸素消費速度がかなり低減したと推察される。窒素も同様であり,ほぼ大気と同値となっている。二酸化炭素は大気よりも高く,酸素濃度が明確に低下するような発熱を伴う速度ではないものの,好気性分解による微生物反応が進行していることが表 − 4 土壌ガスの分析結果 項   目日数8290酸素(%)1041243428290二酸化炭素(%) 1041243428290窒素(%)104124342A北19201920201.31.01.30.40.48079797878A中18181820181.92.01.90.31.88080797879A南20202020200.60.70.70.80.97879797978B北17181819171.82.01.51.63.18081797879B中14141921201.01.30.50.21.08585797979B南20211719190.40.41.41.03.37978818079伺える。ただし,ガスフラックスを測定していないため,この二酸化炭素が分別土中に停滞しているのか,常にこの濃度になるようなガスが発生しているかは,濃度の検証だけでは明らかにすることができなかった。ただし,酸素濃度が大きく減少していないことから,活発な微生物活動が無いことは確認できる。-111- 4.まとめ災害廃棄物由来の分別土 A 種(津波堆積物由来)と分別土 B 種(混合廃棄物由来)を用いた試験盛土を構築し,初期の 1 年間のモニタリングよって得られた結果を以下にまとまる。(1) 材料特性として 250∼800 ℃の温度域で強熱減量試験をした結果,分別土 A 種よりも B 種の方が減量値が大きくなる傾向が確認された。(2) 溶出量試験結果より,生活環境項目の汚濁成分をみると,分別土 A 種よりも B 種の方が大きくなる傾向が確認された。特に,COD ならびに TOC の値が大きく異なっており,B 種は A 種の数倍の値であった。(3) 溶出量試験ならびに含有量試験の結果,鉛,砒素,フッ素,ホウ素が検出されたが,いずれも土壌汚染対策法の基準値未満であった。(4) 試験盛土に対して現場密度試験を実施した結果,砂置換法と RI 法のいずれの方法でも同様の値が得られた。現場的に同じエネルギーで現場締固め管理を行ったが,分別土 A 種よりも B 種の方が締固め度が大きくなる結果となった。(5) 層別の沈下板や測量杭も用いて変位を測定した結果,水平方向の変位は 1 年間で 18 mm 以下であり,沈下は A 種で 50 mm 程度,B 種で 40 mm 程度であり,それぞれの沈下ひずみは 1.6 %,1.3 %と計算された。また,沈下曲線をみると,分別土 B 種の沈下が収束傾向であるのに対し,A 種では 1 年を経過した後でも,沈下が継続していることが確認された。これは,A 種の方が締固め度が小さかったことも要因の一つとして考えられる。(6) 高さ 3m の盛土を構築して試験盛土としたが,分別土 A 種,B 種ともに発熱現象は生じておらず,堆積物火災のような温度挙動は全く確認されなかった。(7) 試験盛土内への浸透水量を,盛土内に設置した転倒桝雨量計によって観測しようと試みたが,定量的な値を得るには至らず,測定装置や測定方法の更なる改善が必要であることがわかった。(8) 浸透水の水質を分析した結果,分別土 B 種の ORP が低く,A 種の浸透水も時間の経過と共に ORP が減少する傾向が確認された。また,A 種,B 種ともに BOD は低いものの,B 種の COD と TOC が高くなることもわかった。この結果は溶出量試験と同様の結果となった。(9) 災害時に迅速に汚濁成分を測定するため,BOD/COD の代替指標として E260/TOC を用いることの可能性について検証した結果,直接的な代替指標とはなりにくいが,E260/TOC の値自体を評価して汚濁性の良否を判定できる可能性が示唆された。本試験盛土浸透水の結果は,一般河川や湖沼水と同等の E260/TOC の数値であった。(10) 試験盛土内の土壌ガス組成を分析した結果,メタンや水素ガス,硫化水素ガスの発生は認められなかった。二酸化炭素が大気よりも高い濃度であるものの,酸素と窒素濃度は,ほぼ大気濃度となっており,活発なガスの発生は確認されなかったことから,微生物活動も活発で無いことが推察され,分別土内の木質等の有機物分解に起因する沈下の可能性は低いことが推測された。参考文献1) 岩手県環境生活部(2013):岩手県復興資材活用マニュアル(改訂版),pp. 5-9.2) Gee, G.W., Ward, A.L., Caldwell, T.G., and Ritter, J.C. (2002): A vadoze zone water fluxmeter with divergencecontrol, Water Resources Research, Vol. 38, No. 8, pp. 16-1-16-7.3) Zumstein, J. and Buffle, J. (1989): Circulation of Pedogenic and Aquagenic Organic Matter in an Eutrophic Lake,Water Research, Vol. 23, No. 2, pp. 229-239.4) 小澤秀明・今井章雄・福島武彦(2005):長野県内のいくつかの湖沼水のトリハロメタン生成能,長野県環境保全研究所研究報告,Vol.1,pp. 1-8.5) 新也将尚・西尾孝之・藤原康博・大島 詔・北野雅昭・福山丈二(2007):大阪市内水域における難分解性有機物の特性解析,大阪市立環科研報告,Vol. 69,pp. 31-36.-112-
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  • タイトル
  • 災害廃棄物から再生された復興資材を有効活用するための提言ならびにガイドライン制定の取り組み
  • 著者
  • 肴倉 宏史・勝見 武・野口 真一・中村 吉男
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 113〜120
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69530
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)4-5災害廃棄物から再生された復興資材を有効活用するための提言ならびにガイドライン制定の取り組み肴倉宏史 1,2・勝見武 1,3・野口真一 1,4・中村吉男 1,4,51 地盤工学会・2 国立環境研究所・3 京都大学・4 泥土リサイクル協会・5 株式会社アイコ1. はじめに被災地では復興に関わる多くの社会基盤整備事業が進められており、相当量の土砂が必要とされている。そこでこの一部を賄うために、災害廃棄物や津波堆積物の混合物から土砂を土砂以外の材料と分離し、新しい「復興資材」という材料として有効活用が試みられている。このような復興資材の有効活用は、最終処分される廃棄物の量や自然改変を伴い調達される土砂の量を減らせることから、環境負荷低減や社会便益等の観点においても、大震災からの復旧・復興における地盤工学の重要な貢献である。しかしながら、復興資材は新しい土木資材であるため、その一部は、土構造物としての性能確保や環境安全性の懸念などから有効活用が躊躇され、利用用途の確保が課題となった。そこで公益社団法人地盤工学会では、上記の課題解決にあたるべく、2013 年 9 月に「災害からの復興における災害廃棄物、建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会」(略称:復興資材提言委員会、委員長:勝見)を設置し、2014 年 12 月まで、計 6 回の委員会にて検討を重ね、以下の成果物を発表した 1)。災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言・解説 (2014 年 3 月 28 日)災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン (2014 年 10 月 2 日)本稿では、委員会活動の経緯と上記成果物の概要を紹介する。2. 復興資材提言委員会復興資材提言委員会の活動スキームを図-1 に示す。国立環境研究所は 2013 年度、泥土リサイクル協会への委託により、下記の調査を遂行した 2)。復興資材提言委員会は、これらの調査成果に基づき、復興資材の有効活用推進に資するための提言等をとりまとめることを目的として設置されたものである。復興資材有効活用の提言公益社団法人(独)国立環境研究所地盤工学会(JGS)委託先:(一社) 泥土リサイクル協会•••••資材需給バランス調査資材輸送環境負荷調査資材輸送関係法令等調査用途ごとの利用条件整理フィージビリティスタディ調査結果報告提言素案の提案情報提供、調査協力•••復興資材提言委員会の設置調査結果の解釈提言とりまとめ委員参画がれき処理コンソーシアムJGS東日本大震災地盤環境研究委員会JGS 21世紀地盤環境問題研究委員会助言、オブザーバ参画助言、情報提供、調査協力岩手県・宮城県・福島県(土木部局・環境部局)復興庁・農林水産省・国土交通省・環境省図-1復興資材提言委員会の活動スキームRecommendation and guideline by JGS for beneficial utilization of soils recovered from disaster wastesHirofumi Sakanakura1,2, Takeshi Katsumi1,3, Shinichi Noguchi1,4, Yoshio Nakamura1,4,5 (1JGS, 2NIES, 3KU, 4MRA, 5Aico)KEY WORDS: Tsunami Deposit, Beneficial Utilization, Guideline, Environmental Safety-113- 復興資材等の需給バランス復興資材等の利用に際しての環境負荷復興資材等の利用に際しての関係法令用途ごとの利用条件フィージビリティスタディ表-1委員は、震災がれきと産業副産物のアロケーション最適化コンソーシアム(代表:久田真 東北大学教授)の他、地盤工学会 東日本大震災地盤環境研究委員会(委員長:勝見)、地盤工学会 21 世紀の新しい地盤環境問題とその解決方策に関する研究委員会(委員長:福岡大学 佐藤研一教授)から選出した 11 名の委員で構成した(表-1)。さらに、岩手県、宮城県、福島県、復興庁、農林水産省、国土交通省、環境省ほか関係機関・団体からのオブザーバー参画、情報提供、調査協力、助言等を得た。準備会合を含めて合計 7回開催された委員会は、毎回 30 名前後の委員ならびにオブザーバーの出席を得て、様々な立場からの意見交換が活発に行われた。また、メールによる意見聴取においても極め復興資材提言委員会の構成委員(敬称略)委員所属○勝見 武(委員長)京都大学今西 肇東北工業大学大河原正文岩手大学大嶺 聖長崎大学風間 基樹東北大学菊池 喜昭東京理科大学○阪本 廣行(株)フジタ佐藤 研一福岡大学○鈴木 弘明日本工営(株)○中島 誠国際環境ソリューションズ(株)久田 真東北大学○保高 徹生(独)産業技術総合研究所オブザーバー岩手県県土整備部、岩手県環境生活部、宮城県土木部、宮城県環境生活部、福島県土木部、福島県生活環境部、復興庁、国土交通省、環境省、農林水産省、リサイクルポート推進協議会、○(独)国立環境研究所(委託元)事務局(公社)地盤工学会、○(一社)泥土リサイクル協会○:ガイドライン編集部会メンバーて多くの意見が寄せられた。3. 災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言提言は、①「本提言の前提」、②「社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する基本方針」、③「基本方針の実現を目指すために必要な取り組み」の 3 部から構成した。①で建設リサイクルをはじめとする循環型社会構築に向けてこれまでの取り組みを継承することの必要性、分別土砂の特性の観点からみた東日本大震災の災害廃棄物処理の実情、復興における資材確保の必要性といった「前提」を示した上で、②基本方針として、(1) 強靭な社会基盤の整備、(2) 復興資材等の利用の推進、(3) 複数事業の総和としての最適化を目指す取り組み、の 3 点を掲げた。そして③基本方針の実現に向けて、(1) 復興資材等の利用を促進する枠組・制度の整備が必要なこと、(2) 強靭で環境安全な土構造物を構築するためにガイドラインの整備を行うこと、(3) より高次な「資材マネジメント」の実施が必要なこと、(4) 啓発活動と継承のための活動を行うこと、を提示した。提言の全文を表-2 に示す。提言は文のみとし、この内容を説明するための A4 版 16 ページから成る「解説」を同時に作成した 1)。解説では、先述の委託調査で行われた復興資材等の利用に際しての環境負荷の計算例(図-2)や複数事業の総和として資材利用の最適化を図ること(図-3)などの概念がわかりやすく示されている。図-2環境負荷計算の条件図-3(提言解説より抜粋)「総和としての最適化」(提言解説より抜粋)-114- 表-2提言の全文 1)2014 年 3 月 28 日災害からの復興における社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する提言はじめに本提言は、(公社)地盤工学会「災害からの復興における災害廃棄物、建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会(以下、復興資材提言委員会)」において、岩手県、宮城県、福島県、復興庁、農林水産省、国土交通省、環境省ほか関係機関・団体からの情報提供、調査協力、助言等のもと、とりまとめたものである。本提言の前提 我が国は循環型社会の構築に向け、廃棄物の発生抑制、廃棄物・副産物の有効利用の推進、最終処分の低減に取り組んできた。社会基盤整備の分野においても「建設リサイクル」として、副産物の発生抑制・有効利用促進・処分量低減に取り組んできた。 2011年東北地方太平洋沖地震と大津波で大量に発生した災害廃棄物(津波堆積物を含む)の約3分の1(重量比)は、「土砂」である。関連する諸機関の様々な取り組みにより、これらの土砂は廃棄物と適切に分離・選別され、その多くは通常の土砂と同レベルの品質を有する「分別土砂」として再生されている。また、災害廃棄物の約3分の1(重量比)は「コンクリートがら」であり、適切に処理することによって「再生砕石」等の資材とすることができる。 災害復興のための社会基盤整備事業では多量の資材を必要とする。その資材として新材を使うことは、土取り場開発による新たな自然改変などの環境影響をもたらすことにつながる。一方、災害廃棄物を処理して得られた分別土砂等の利用にあたっては、新たな取り組みとしての理解が必要である。 東日本大震災における災害廃棄物処理と復興資材利用の取り組みは世界的にも初めてのものであり、将来起こる災害においても参考とすべきものであることが求められる。社会基盤整備への復興資材等の利用のあり方に関する基本方針(1) 強靭な社会基盤の整備東日本大震災からの復興に関して現在多くの社会基盤整備事業が実施されているが、これらの事業では、今後再び来るであろう災害への備えも考慮し、将来世代への負担を減らすためにも、安全で品質の良い強靭な社会基盤を残していく必要がある。(2) 復興資材等の利用の推進社会基盤整備事業そのものが環境負荷を生じうることに鑑み、可能な限り環境負荷を少なくする取り組みが求められる。そのために、「分別土砂」や「コンクリート再生砕石」などの災害廃棄物を処理した材料(復興過程から産み出された資材であることも踏まえ、これらを「復興資材」と呼ぶ)や、発生土や産業副産物などの循環資材を積極的に利用することが推奨される。また、資材の運搬等による環境負荷も考慮し、地産地消を進めることが推奨される。(3) 複数事業の総和としての最適化を目指す取り組み復興のための社会基盤整備事業は様々な事業主体により行われている。一方、復興資材の製造や発生土・副産物の発生も、異なる事業主体によって行われている。それぞれ個別の事業の最適化を目指すだけではなく、地域で行われている複数の事業の「総和としての最適化」を目指す取り組みが必要である。基本方針の実現を目指すために必要な取り組み(1) 復興資材等の利用を促進する枠組・制度の整備 復興事業を個別にみれば、必要な資材の調達が購入土で対応できれば、再生資材や副産物の活用は躊躇されるのは当然である。しかし、復興資材提言委員会が示すように、分別土砂などの再生資材や副産物を復興事業の材料として優先的に有効利用することは、処分場の容量消費の抑制や新材利用による環境負荷増大等の観点から重要である。そのため、例えば国土交通省が経済性には関わらず可能な範囲で積極的に再生資源の利用を促進するために「リサイクル原則化ルール」として直轄工事を対象に定めているように、「復興資材利用原則化ルール」を制定するなどの枠組みが必要である。 復興資材の活用にあたっては、経済支援も含めたストックヤードの整備や運搬費用の負担の問題などをクリアする必要があり、関連する諸機関が連携して制度の整備に取り組むことが求められる。(2) 強靭で環境安全な土構造物の構築 災害廃棄物からの「分別土砂」は地域によって、そして処理の方式によって様々あることがわかっている。また、土砂の中には、自然由来の重金属等を含むものも存在することがある。これらのことに鑑み、地盤工学特性と環境安全性の観点に基づく利用用途に応じた合理的な品質基準に依拠して有効利用を推進する。復興資材等の品質管理のための基準や設計施工を行う上でのガイドラインやマニュアルの整備は重要である。(3) 高次な「資材マネジメント」の実施 個々の事業のレベルではなく、地域全体のマテリアルバランスと環境負荷を考慮した資材の割当のためのマネジメントが求められる。これには行政・事業主体間の連携が重要で、ときには管轄・所掌を超えた取り組みも求められよう。必要があればそのための事業主体を立ち上げることも考えられる。 この資材マネジメントが適切に行われているかを評価するための第三者機関の参画も有効と考えられる。(4) 啓発活動と継承 復興資材の利用を促進するための啓発活動に取り組むことが必要である。具体的には、「分別土砂」の特性と有効利用可能性への正しい理解が普及されるよう努める。言葉の定義も重要で、「災害廃棄物」や「コンクリートくず」いう呼び名は、これらの材料のそもそもの成り立ちと特性を考え資材としての有効利用を推し進めるにあたって望ましくなく、災害廃棄物から再生された復興資材の正しい理解のための取り組みを続ける必要がある。 将来の災害への備えも踏まえ、ここで提示する取り組みとそれにより産み出される知見を継承するための必要な情報を、国として記録を保存・活用し、未来に伝達する。-115- 4. 災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン4.1 目的と構成復興に向けた社会基盤整備事業では、環境負荷に配慮しながら安全で品質の良い強靱な社会基盤を残していく必要がある。一方、災害廃棄物等(津波堆積物を含む)から再生した復興資材は、地域によって、そして処理の方式によって様々であり、また、自然由来の重金属を含むものも存在する。このため復興資材提言委員会は「復興資材等の品質管理のための基準や設計施工を行う上でのガイドラインやマニュアルの整備は重要である。」との立場から、復興資材等の利用に関して、地盤工学特性と環境安全性の観点に基づく利用用途に応じた合理的な品質基準に依拠して有効利用を推進することを目的とし、品質管理や設計施工を行うためのガイドラインを整備した。本ガイドラインは、地盤材料として用いられる復興資材のうち、特に分別土砂により力点をおいている。また、用語の定義の重要性や、環境リスクを考慮した有効利用と管理のあり方についても、若干踏み込んだ記述をしている。図-4 にガイドラインの構成を示す。第 1 章では本ガイドラインの基本的な考え方、用語、関連する法律等の基本事項を示した。第 2 章では復興資材を様々な用途へ有効活用する際の範囲、記録・保存、品質評価等の共通事項を示した。第 3 章では用途と活用方法を参考とすべき技術指針とともに示した。第 4 章と第 5 章は共通事項から特出しして、循環資材による改良とモニタリングの考え方をそれぞれ示した。以下にガイドラインの内容の一部を紹介する。4.2復興資材の位置づけ(1.3 節)ガイドライン 1.3 節では、用語について整理を行った。用語の正しい使用は、多くの関係者と認識を共有するために極めて重要である。図-5 は様々な用語の中での復興資材の位置づけを整理したものである。ガイドラインでは、復興資材はコンクリート再生砕石、災害廃棄物から再生された分別土砂、津波堆積物由来の分別土砂、および、津波堆積土から構成されることとした。本ガイドラインでは分別土砂を公共工事等の資材として活用することを提案している(2.1 節)が、自然的原因により基準をわずかに超過する分別土砂も含むため、そのような分別土砂の利用にあたっては厳格な管理が必要となる(2.2節、第 5 章:後述)。4.3用途と活用方法(第 3 章)ガイドライン第 3 章では、復興資材の用途と活用方法を図-4 の図中に示す 11 種類の用途に整理した。各用途における要求品質は、既存のガイドラインやマニュアルを引用してとりまとめており、本ガイドラインは、様々な地盤材料の要求品質に関する情報が一覧できる点においても価値があるものと思われる。例えば、盛土としての利用であっても表面がコンクリート二次製品等で被覆される場合、河川水に常時接する場合、繰り返し荷重を受ける場合などで、用途ごとの要求品質は異なってくる。さらに、農用地や海岸防災林への利用では土木構造物とは異なり塩や pH が重要となる。第3章 用途と活用方法第1章 総説3.1 海岸堤防3.2 河川堤防3.3 港湾施設3.4 水面埋立3.5 土地造成3.6 道路盛土1.1 目的1.2 基本的な考え方1.3 用語について1.4 関連する法令と指針3.7 鉄道盛土3.8 農用地3.9 海岸防災林3.10 工作物の埋戻し材料3.11 裏込め第2章 共通事項2.1 有効活用の範囲2.2 有効活用の記録・保存<トレーサビリティー>2.3 品質評価2.4 ストックヤードの活用2.5 環境安全性2.6 放射性物質2.7 検査頻度2.8 その他留意すべき事項第4章 循環資材による復興資材の改良特に 2.4, 2.5 と関連第5章 モニタリング特に 2.2, 2.5 と関連図-4ガイドラインの構成-116- 循環資源・廃棄物注1)災害廃棄物等注3)金属等循環資源注2)復興資材分別土砂建設副産物産業副産物津波堆積土コンクリート再生砕石災害廃棄物から再生された分別土砂津波堆積物注4)由来の分別土砂図-5注 1)注 2)注 3)注 4)復興資材の位置づけ循環型社会形成推進基本法のいう「廃棄物等」と同義である。循環型社会形成推進基本法:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO110.html循環資源のうち,建設資材として利用可能なものを「循環資材」という。「循環資材」は,本ガイドラインで定義している。災害廃棄物および津波堆積物(注 4)参照)をいう。津波堆積物処理指針(http://www.env.go.jp/jishin/attach/sisin110713.pdf)の定義による。なお環境安全性については共通事項として、本ガイドライン 2.5 節を参照すること、とした。4.4環境安全性(2.5 節、第 5 章)ガイドライン 2.5 節では環境安全性に関する考表-3土壌環境基準(重金属等(全シアンを除く。)を抜粋)え方を整理した。復興資材のうち特に分別土砂は、環境上の条件(環境基準)基準項目「土壌の汚染に係る環境基準」(土壌環境基準)と、地下水から離れて、かつ原状において地下水が汚「土壌汚染対策法」の汚染状態に関する基準が重要となる。染されていない土壌カドミウム注1)0.01 mg/L以下0.03 mg/L以下鉛行政上の目標基準である。カドミウム、鉛、六価0.01 mg/L以下0.03 mg/L以下六価クロム0.05 mg/L以下0.15 mg/L以下クロム、砒(ひ)素、総水銀、セレン、ふっ素お砒(ひ)素0.01 mg/L以下0.03 mg/L以下よびほう素は、土壌が地下水面から離れており、総水銀0.0005 mg/L以下0.0015 mg/L以下かつ、原状において当該地下水中のこれら物質のアルキル水銀濃度が地下水環境基準の値を超えていない場合にセレン0.01 mg/L以下0.03 mg/L以下ふっ素0.8 mg/L以下2.4 mg/L 以下ほう素1 mg/L以下3 mg/L 以下土壌環境基準(表-3)は政府が定める環境保全は、3 倍相当の基準値(3 倍値基準)を適用できるものとしている。なお、3 倍値基準の適用は「原状において」の制約条件があり、盛土等に適用された事例はない。また、「原状において」は盛土等検出されないこと注1)カドミウムについては、地下水の水質汚濁に係る環境基準が平成23年10月27日に"0.003 mg/L以下"に見直されており、土壌の環境基準等の見直しについて現在諮問されているところである。への利用後の状態を指すことになるため、盛土等への利用のためには、「地下水面から離れており」の状態を担保する必要がある。方法としては、地下水位の上昇を防止する施工方法および構造とすること、あるいは盛土等に利用する範囲が地下水面から離れた状態であることを、施工中ならびに施工後のモニタリングで確認すること等が考えられる。ガイドラインでは 3 倍値基準を適用した千葉県の建設発生土管理基準の事例を紹介した。土壌汚染対策法は汚染状態に関するいわゆる規制基準として溶出量基準と含有量基準を定めている(さらに、対策の内容に関連するものとして地下水基準と第二溶出量基準を定めている)。溶出量基準は、土壌環境基準と同値となっている。このため、復興資材の利用に際して、土壌環境基準における 3 倍値基準を含め、土壌溶出量基準以上の値で運用する場合は、将来の形質変更の可能性を考慮し、土壌汚染対策法における取扱いに留意する必要がある。土壌含有量基準は、直接摂取の曝露経路であることから、覆土等の対策をした上で活用をすることも考えられる。分別土砂は沿岸域等での活用が多く見込まれることから、沿岸域等での活用が明確な場合についても整理した。まず、海面埋立に利用する場合は、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律第一条で定められている水底土砂に-117- 表-4No.1234復興資材を有効利用する場合の、有害物質による環境影響に関するモニタリングの考え方材料履歴と環境分析結果分別処理前他の材料との混合分別土砂の分析改質基準適合無無基準適合無無実施の有無を問わ有無ない実施の有無を問わ有有ない不溶化を目的としな利用先制限分別・改質処理後分析基準適合分析なし基準適合施工後モニタリング注)制限なし制限なし制限なし不要不要不要基準適合制限なし不要基準適合制限なし「緩やかなリスク管理(レベル1)」の考え方でモニタリングを実施制限あり「厳格なリスク管理(レベル2)の考え方でモニタリングを実施い改質-石膏や石灰等-に限る5基準超過実施の有無を問わ有ない不溶化を目的とした改質-キレート処理等-を含む6基準超過/基準適 実施の有無を問わ 実施の有無を問わ 基準超過/基準適ない合が確認できてい合が確認できてい ないないものないもの注)有効利用後に環境安全性が継続して確保されていることの確認係る判定基準に適合するものであることが求められており、水底土砂の埋立ての場所等に係る土壌であって埋立て終了後も同法に基づく護岸、外周仕切施設等により一般環境(周辺の土壌)から区別されているものは土壌環境基準の適用対象とならないこととされている(平成 3 年 8 月 28 日付け環水土第 116 号環境庁水質保全局長通知)。一方、埋立後に陸地化され、一般環境と区別されない場合は、土壌環境基準は適用される。沿岸域での利用におけるふっ素・ほう素の取扱いは下記のとおりである。なお、埋立後の土地改変においては土壌汚染対策法が適用される可能性がある。土壌環境基準における海水由来と考えられるふっ素とほう素の取扱いについては、平成 13 年 3 月 28 日付け環水土第44 号環境省環境管理局水環境部長通知に、「人為的な影響と自然的な影響の寄与度等については個別の事例ごとに異なるものと考えられ、人為的な影響と自然的な影響を区別して評価した上で、個別の事例ごとに判断する必要がある」とされている。「海水の影響を受けていると考えられる土壌については、もっぱら自然的原因によるものとして一律に土壌環境基準の適用外とすることは、適用外とする土壌の範囲の特定を含めて非常に困難」であり、「汚染原因や周辺地下水への影響等を個別の事例ごとに総合的に評価して、土壌環境基準の適用の是非等を判断するものとする」とされている。4.5モニタリングとトレーサビリティー(2.2 節、5 章)「復興資材」は新しい材料であるので、十分な安全・安心と信頼確保のためにもモニタリングの実行とトレーサビリティーの確保を基本とすることが望ましい。トレーサビリティー確保のためには、「復興資材」の種類に関する情報、利用範囲、品質管理記録、工事記録等を書類として整理し、適切に管理することが必要である。工事発注者は、受領した当該書類を台帳等として整理して必要な期間保存し、台帳等を必要に応じて第三者に公開する。このうち「復興資材」の種類に関する情報としては、復興資材の種類と量、復興資材の中間処理等が行われた場所、中間処理等が行われる前に災害廃棄物として仮置きされていた場所、「廃棄物に該当しないもの」の用件を満たすことを示す根拠、が挙げられる。「廃棄物に「東日本大震災からの復旧復興のための公共工事における災害廃棄物由来の再生材の活用について」3)では、該当しないものの要件を満たすことを示す書類として①分別または中間処理の方法を記載した書類、②測定会社等が発行する検査証明書等(濃度計量証明書、土質試験データシートが該当する)異物混入の有無の記録(目視確認の記録)、③当該物を資材として活用する公共工事の設計図書、④公共工事の名称および施工場所を記載した書類、⑤当該物の品質が要求条件を満たすことが確認できる書類(設計図書)、⑥記録および保存方法を記載した書類、を定めている。環境安全性に関する基準超過した復興資材の有効活用にあたっては、「公共事業で」、「管理が継続され」、「地下水汚染が生じない状態が確認されている」ことによる、リスク管理が求められる。そこでガイドライン第 5 章では復興資材の環境安全性に着目して、リスク管理不要、緩やかなリスク管理(レベル 1)、厳格なリスク管理(レベル 2)の三つのレベルに整理し、それぞれに対するモニタリングとトレーサビリティーの考え方を提案した。モニタリング(表-4)に関しては、土壌分析の有無やタイミングと基準の適否、中間処理における添加材の有無等を指標とし、利用先の制限と施工後のモニタリングのレベルを示している。緩やかなリスク管理(レベル 1)では、例えば、土壌汚染対策法における原位置不溶化措置完了の確認の考え方(地下水質の基準適合を 2 年間確認すること)等が準用できる。なお、汚染物質の移動現象を考慮すればモニタリング期間はより長期であることが望ましいが、そのための予算確保の課題がある。厳格なリスク管理(レベル 2)としては、利用場所・環境に応じて求められる環境安全性に対して、地下水質等を継続してモニタリングすることが考えられる。-118- 材料有効利用No.1モニタリング不要No.2〜No.4モニタリング不要発生源環境分析結果※発生源環境分析結果利用部位変状、地下水質等トレーサビリティートレーサビリティー供用中発生源環境分析結果トレーサビリティー利用部位トレーサビリティー(利用部位)No.5〜No.6モニタリング必要形質変更※No.1については、環境安全性が確保されていることから、必ずしもトレーサビリティーを確保する必要はない。なお、この場合においてもトレーサビリティーを確保することにより、形質変更時の環境安全性に関する分析は不要となる。図-6復興資材の有効利用におけるトレーサビリティーの考え方次にトレーサビリティー(図-6)については、ガイドライン 2.2 節で示した利用材料・利用部位等の記録に加えて、供用中の環境モニタリングの結果を反映させることとした。特に、表-4 中の No. 1 は処理前・処理後とも基準適合しているが、試験結果等を記録・保管することで将来の形質変更時における環境分析等が不要となることも踏まえ、材料としての記録を保存することが望ましい、とした。なお、ここで示した考え方は、自然由来の重金属等によって土壌環境基準をわずかに超過する分別土砂等に適用することを想定しており、現状有姿や利用形態を勘案して適切な評価を行い、利用後の管理・保管・モニタリング方法を含めた有効活用の方法を考えることが重要である。この他の視点として、分別土砂には木くず等の有機物・可燃物の残存の影響が考えられる。具体的には、材料がおかれた環境や木くずの混入率によっては木くずが分解し、沈下や汚水・ガス発生の可能性があるため、それによる環境影響の防止・監視を目的としてモニタリングを行う必要のあることを述べている。モニタリング項目は施工時と施工後に分けて項目立てを行い、施工時は表流水、地下水質および大気・気象について、施工後は地下水とガスについて、モニタリングを行うこと、としている。4.6復興資材の循環資材による改良(第 4 章)災害廃棄物等から再生された分別土砂表-5の地盤材料特性に関しては、現在、多くの調査・研究が進められている。先述のフィージビリティスタディにおいても、分別土砂で盛土を構築する際に循環資材を混合することにより、地盤材料特性が向上することを確認し、その成果を復興資材提言委員会の基礎資料とした。その詳細はガイドラインの参考資料として掲載したので参照されたい 2, 4, 5)。復興資材の改良が期待できる循環資材の例期待される改良効果循環資材コンクリート再生砕石石炭灰(フライアッシュ)粒度調整等含水比調整等。ポゾラン反応を示す場合がある。石炭灰(クリンカーアッシュ)高炉スラグ製鋼スラグフェロニッケルスラグ銅スラグ製紙スラッジ焼却灰廃石膏ボード粒度調整等粒度調整、ポゾラン反応等粒度調整等粒度調整等粒度調整等含水比調整等含水比調整、農用地土壌改質等建設発生土粒度調整等循環資材とは、例えば表-5 に示す資材が挙げられ、用語としては、循環型社会形成推進基本法の規定する循環資源(廃棄物等のうち有用なもの)のうち、建設資材として利用可能なものをいう(ガイドライン 1.3 節)。ガイドライン第 4 章では、このような循環資材による復興資材の改良について述べている。最大の留意点として、循環資材には鉛やふっ素、ほう素等の重金属等を含有しているものがあるので、(1) 循環資材単味での環境安全性と、(2) 復興資材に循環資材を混合した混合物としての環境安全性を確認する必要のあることを指摘した。-119- 5.おわりに本提言ならびにガイドラインは、東日本大震災からの復旧・復興に貢献するのはもちろんのこと、近未来の発生が避けられないであろう南海トラフ地震など他の災害への対応にも寄与しうる知見を与えるものである。復興資材提言委員会の活動成果による提言とガイドラインが、この重要課題への一助となれば幸いである。謝辞提言、提言解説、ならびにガイドラインは復興資材提言委員会ホームページから全文をダウンロードすることが可能です。これらの成果物の作成・とりまとめ、ならびに復興資材提言委員会の運営にご尽力いただいた全ての方々に、深く感謝申し上げます。参考文献等1)災害からの復興における災害廃棄物、建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する提言検討委員会(略称:復興資材提言委員会)ホームページhttps://www.jiban.or.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=1540&Itemid=1482)国立環境研究所、泥土リサイクル協会 (2014) 災害からの復興における災害廃棄物、建設副産物及び産業副産物の有効利用のあり方に関する調査業務報告書3)東日本大震災からの復旧復興のための公共工事における災害廃棄物由来の再生材の活用について(通知)(平成 24年 5 月 25 日、環境省 環廃対発第 120525001 号、環廃産発第 120525001 号)4)野口真一、中村吉男、肴倉宏史、勝見武 (2015) 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第1報)、第 10 回環境地盤工学シンポジウム講演論文集(投稿中)5)中村吉男、小島淳一、野口真一、肴倉宏史、勝見武 (2015) 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第 2 報)、第 10 回環境地盤工学シンポジウム講演論文集(投稿中)-120-
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  • タイトル
  • 災害廃棄物分別土の木片腐朽過程を考慮した力学試験の試み
  • 著者
  • 野々山 栄人・中野 正樹・新木 毅・浜島 圭佑・神野 琢真・吉村 剛
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 121〜126
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69531
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)5-1災害廃棄物分別土の木片腐朽過程を考慮した力学試験の試み野々山栄人 1・中野正樹 2・新木毅 2・浜島圭佑 2・神野琢真 2・吉村剛 31 防衛大学校・2 名古屋大学・3 京都大学生存圏研究所1. はじめに2011 年東北地方太平洋沖地震では大量の災害廃棄物等が発生した。震災で発生した廃棄物の中で、除去しきれない木くず等の可燃物を含む分別土砂(以下、木片混じり土)に関しては、木片混じり土の性状が不明であることや土砂に含まれる木片腐朽の影響による沈下等が懸念されていることなどから、有効利活用があまり進んでいないのが現状である。本研究では、岩手県山田地区で採取された分別土砂に、同地区で採取された災害廃棄物由来の木片および建材廃棄物由来の木片の 2 種類を、それぞれ混合した木片混じり土に対して、各種土質試験を実施し、得られた締固め特性および力学試験の結果を報告する。また、木片腐朽を考慮し、木材腐朽菌により腐朽促進させた木片や締固め供試体を用いて力学試験を実施した。その実験結果も併せて報告する。2.木片混じり土の力学挙動の把握2.1 試験試料について本研究では 5 種類の試料を用いた。1 つは回転式破砕混合装置(以下、回転式)1)を用いて分別土砂(岩手県山田地区で採取)を破砕混合し振動ふるい機等を用い、9.5 mm までふるい選別した試料(T9.5)である。9.5 mm を通過した材料ではあるが細かい木片は存在している。本研究ではこの T9.5 が木片を混合する際の基本となる試料である。T9.5 の試料に災害廃棄物由来の木片を追加し、再度回転式を用いて破砕混合した試料を W4.0 および W8.0 と呼ぶ。木片の混入量はT9.5 の乾燥重量比で 4.0、8.0%である。また T9.5 に建材廃棄物由来の木片を追加し、手作業でよく混合した試料が BW4.0および BW8.0 である。木片の追加量は、災害廃棄物由来の木片と同様に T9.5 の乾燥重量比で 4.0、8.0%である。なお混合した木片はすべて 4.75 mm ふるい通過試料を使用した。2.2 木片混じり土の物理・化学特性の把握試験に用いた木片混じり土の物理特性を把握するために、粒度試験(JIS A 1204)および土粒子の密度試験(JIS A 1202)をそれぞれ実施した。また化学特性の 1 つとして、各試料に含まれる可燃系混合物の割合を調べるために、強熱減量試験を実施した。JIS A 1226 に規定される方法では 2 mm ふるい通過分の試料に対して試験を実施するが、今回は 9.5 mmふるい通過試料を乳鉢ですりつぶし、全試料を 2 mm 以下に粒度調整した後で実施した。この点以外は JIS A 1226 に従っている。図-1 に粒径加積曲線を、表-1 に土粒子密度試験および強熱減量試験の結果をそれぞれ示す。また表-1 には粒度試験より得られた各試料の均等係数 Uc、曲率係数 Uc’および工学的分類も示す。土粒子密度試験の結果から土粒子密度は木片混合率が高い試料の方がより小さい結果となった。この傾向は災害廃棄物由来・建材廃棄物由来の木片どちらについてもあてはまる。これは、木片の密度が土粒子の密度よりも小さいため、木片の割合が多い試料ほど土粒子密度の値が小さくなったものと考えられる。一般的な無機質の鉱物の密度が 2.5~2.8g/cm3 であるため、一般的な土粒子の密度も同様に 2.5~2.8 g/cm3 の範囲内である場合が多い 3)。今回試験を行った 5 試料の土粒子密度はいずれもこの範囲内にはあるが、その範囲内でも比較的小さい値となった。これは先ほど述べたように密度の小さいえられる。粒度試験の結果から図-1 に示すように 5 試料の粒径加積曲線に大きな差はなかった。均等係数と曲率係数について、今回試験を行った試料はいずれも均等係数が 10 以上かつ曲率係数が 1 から 3 の範囲内に分布しているため粒径幅の広い土であるといえる2)。なお工学100Percent passing (%)木片が混入したことで、土粒子密度が小さく求められたためだと考8060強熱減量試験の結果から、木片混入量の増加に伴い試料中の可燃物の割合が増加したため、強熱減量の値は T9.5 より W4.0 およびT9.5W4.0W8.0BW4.0BW8.0402000.001的分類はいずれも細粒分まじり砂(SF)であった。―――――0.010.11Grain size (mm)図-1 粒径加積曲線10100BW4.0 の方が大きくなることがわかった。Mechanical test of Disaster Debris Soil with Decay of Wood ChipsHideto Nonoyama1, Masaki Nakano2, Takeru Araki2, Keisuke Hamajima2, Takuma Jinno2, Tsuyoshi Yoshimura3 (1Natinal DefenseAcademy,2Nagoya University, 3Kyoto University)KEY WORDS: Disaster debris, Decay of wood chips, Unconfined compression test, Compaction behavior,-121- 表-1 物理・化学試験結果試験試料土粒子密度(g/cm3)礫分(%)砂分(%)細粒分(%)均等係数曲率係数T9.52.657.766.226.128.11.3W4.02.608.664.027.423.61.2W8.02.539.165.625.530.01.8BW4.02.574.467.628.023.31.5BW8.02.556.564.329.235.01.3強熱減量(%)工学的分類7.113.6細粒分まじり砂(SF)8.110.22.3 締固め特性の把握木片混じり土の締固め特性を把握するために締固め試験(A-b1.60法)を実施した。A 法の許容最大粒径は 19 mm 以下であるが、今T9.5回用いた試料はすべて粒径が 9.5 mm 以下である。また既往の研のではなく、モールド内のすべての試料を用いた。また試験試料には木片が多く混入しているため、試験実施時に含水比を調整しても均質な含水状態にならない可能性があった。そこで含水比調整を試験実施日の前日に行い、その試料を袋詰めして密封保存し、3(g/cm )水比測定のために、締固め後のモールド内の一部の試料を用いる1.40dり含水比に大きな誤差が生じることがわかっている。そこで、含Dry density3)より、災害廃棄物は通常の土と異なり、サンプリング量によ究1.50BW4.01.30W4.0W8.0W4.0W8.0BW4.0BW8.01.20一日恒温状態で放置してから実験を実施した。以上のように、許1.100容最大粒径・含水比計測方法・試料の準備方法の 3 点以外は JIS A1210 に従い実施した。図-2 に締固め曲線、表-2 に得られた最適含水比・最大乾燥密度をそれぞれ示す。図-2 および表-2 より、木片混入量が多い試料ほど、最大乾燥密試験試料T9.5最適含水比wopt(%)最大乾燥密度ρdmax(g/cm3)21.31.53W4.031.11.36W8.026.71.32BW4.026.71.38BW8.027.81.28曲線は右下に移動するものの、試験を実施した感覚ではあるが、W8.0、BW8.0 以外は通常の土と同様に締固め特性を有すると思われる。以下では、得られた締固め特性の結果をもとに締固め度(Dc)を変化させて試験を行う。標準圧密試験では供試体(直径 6cm×高さ 2cm)を圧密リング2験同様の方法で、試料を最適含水比・目標締固め度を 100%および 90%に設定し、鋳鉄製のモールドに 3 層で突き固めて供試体(直径 5 cm×高さ 10 cm)を作製した。なお、標準圧密試験および一軸圧縮試験においては対象試料を T9.5、W4.0、BW4.0 の 3 試料とした。図-3 に標準圧密試験より得られた比体積~鉛直有効応力関係、図-4 に一軸圧縮試験より得られた応力~ひずみ関係を示す。図-3 から、載荷過程および再載荷過程ともに、W4.0 およびBW4.0 は同様の挙動を示し、T9.5 よりも比体積の減少が顕著であった。したがって圧縮性については木片が多く混入した試料の方が大きいといえる。図-4 から試料の違いで比較すると、締固め度 Dc によらず一軸Specific volume v (=1+ e)に締固めて作製する。その際、含水状態を最適含水比・締固め度を 100%に設定した。一軸圧縮試験(JIS A 1216)では標準圧密試40表-2 最適含水比と最大乾燥密度度は小さく、最適含水比は大きい値をとる結果となった。締固め2.4 圧密特性および変形・強度特性の把握102030Water content w (%)図-2 締固め曲線T9.5W4.0BW4.01.91.81.71.61.5010110102310104Vertical effective stress 'v (kPa)図-3 圧密試験結果圧縮強さは BW4.0 と T9.5 とでほぼ同じ値か BW4.0 の方が若干大きくなっている。一方で W4.0 の一軸圧縮強さは、他の 2 試料よりも小さくなっている。また同一試料で比較すると、締固め度 90%よりも 100%の方が強度は増加しており、木片混じり土は十分な締固めによって、安定した強度を発揮-122- Compressive stress σ (kPa)Compressive stress σ (kPa)1501251007550 T9.52500BW4.036Axial strain(a) Dc90%W4.0W8.09a (%)12150125100 T9.575BW4.050W4.0W8.0250036Axial strain(b) Dc100%図-4 一軸圧縮試験結果a9(%)12するといえる。応力~ひずみ関係は、T9.5 よりも木片を追加した W4.0 および BW4.0 の初期剛性の方が小さく、延性的な挙動を示している。BW4.0 と W4.0 の強度および応力ひずみ関係で違いが現れた理由として、樹種の違いおよび木片の置かれた状況の違いが考えられる。表-3 は、両者の樹種を示したものである。今回用いた災害廃棄物は針葉樹が 90%以上を占めているが、建材廃棄物は針葉樹、広葉樹がほぼ同程度に混在している。また災害廃棄物は津波による海水浸水を受け、その後分別処理して 1 年以上経過し、若干の腐朽進行も予想される。一方、建材廃棄物は、4.75 mm 以下になるよう破砕した木片をすぐに T9.5 に混合している。災害廃棄物の木片は、放置時間に応じて力学特性が変化することが予想され留意する必要がある。表-3 災害廃棄物と建材廃棄物の樹種の違い試料針葉樹(%)広葉樹(%)災害廃棄物96.23.8建材廃棄物56.243.83. 滅菌処理した締固め供試体上端からの木片腐朽の影響3.1 試験方法木片混じり土の木片腐朽による力学挙動への影響を調べるため、まず木片混じり土内を滅菌処理し、木材腐朽菌など様々な菌のない木片混じり土の一軸圧縮試験を実施した。対象とした試料は W4.0 で、締固め曲線より含水状態を最適含水比・目標締固め度は 100%を設定した。供試体寸法は直径 5 cm×高さ 10cm の円筒供試体である。試験方法は以下の通りである。1)締固め度 100%の W4.0 供試体に対し、写真-1 クリーンベンチ写真-2 木材腐朽菌の接種オートクレーブを用いて供試体表面、内部や供試体を入れる培養瓶を高温高圧(120 ℃、20 分間)で滅菌処理を行う。この処理により W4.0 の供試体は木片を腐朽させる腐朽菌を保持しないことになる。2)その後、空気中から他の菌が供試体につかないようにするために、クリーンベンチ(写真 1)内で木材腐朽菌(カワラタケ)を接種する。今回の菌の接種の方法として、菌体を供試体上端にのせ(写真 2)、供試体内部まで菌が成長するように室温 26 ℃一定に保った培養室内で放置する。放置期間としては、2、5、10、11、13 か月とした。3)所定の放置期間が経ったら供試体を培養室から取り出し、表面を観察して、一軸圧縮試験を行い、腐朽菌を接種した供試体の一軸圧縮強さを確認する。-123- 3.2 木片腐朽過程における木片混じり土の供試体表面観察と一軸圧縮強さの変化図-5 に各腐朽期間における一軸圧縮試験の結果((a)150す。本試験は、腐朽期間ごとに一軸圧縮試験を行うこと125qu (kPa)一軸圧縮強さ qu~腐朽期間、(b)含水比 w~腐朽期間)を示から、図-5 に示す腐朽期間ごとの一軸圧縮強さのプロットは、それぞれ違う供試体となっている。供試体作製にはなるべく均質になるよう、四分法による材料採取、締1007550固め層厚ごとの土重量計測、層厚が等しくなるようにモ25ールド内に高さ 3 等分線をつけたりした。そして、各腐035朽期間における一軸圧縮強さは、目標締固め度と最適含水比に最も近いものを代表値として示す。w (%)図-5 から腐朽期間に応じた木片混じり土の一軸圧縮強さ qu を比較する。(b)に示すように 5、10、11 ヶ月は低い含水比の供試体となっている。(a)に示すように、含水3025比が低いほど、一軸圧縮強さ qu は増加している。13 ヶ月後には初期含水比とほぼ等しい含水比となっており、や200はり、それに応じて一軸圧縮強さ qu も初期の qu とほぼ同じ値を示している。すなわち、木片の腐朽菌を除去した木片混じり締固め供試体は、供試体周り(今回は供試体上部)に木材腐朽菌が接種され、さらに腐朽菌の進行を369腐朽期間(月)1215図-5 腐朽期間に応じた一軸圧縮強さと含水比の変化促進する環境下であっても、含水比が等しければ、その一軸圧縮強さは変化しない。木材腐朽菌の進行について詳しく見るために、腐朽期間に応じた供試体表面の観察結果を示す。写真-3、4 に腐朽 2か月、腐朽 13 か月の腐朽菌の進行状況を示す。腐朽 2 か月と腐朽 13 か月の供試体上端において菌糸の広がりが十分見られ、腐朽が進行していることがわかる。さらに写真-5 に示すように一軸圧縮試験後の供試体の内部も菌糸の広がりが確認できない。木片混じり土内を滅菌し適切な締固め度にすることにより、外部からの菌糸は内部へ進行せず一軸圧縮強さも変化しなかったと考えられる。213菌体供試体上端菌体菌糸写真-3 腐朽期間 2 ヶ月菌糸供試体上端写真-4 腐朽期間 13 カ月写真-5 供試体中部4. 木片の腐朽を考慮した実験4.1 角材を含む締固め供試体の腐朽試験3.においては、木片混じり土内部に木片があっても木材腐朽菌などのない状態で締固めると、腐朽菌は供試体内に侵入することができないことがわかった。そこで本試験では、様々な菌が存在し、菌の成長を促進する最適な環境下であるファンガスセラー室(恒温恒湿内に設置された腐葉土充填箱)に、角材を含む締固め供試体を埋め一定期間放置することで、供試体内の角材の質量が減少するかどうかを確認し木片の腐朽の程度を調べること写真-6-124-JIS 規定角材図-6 角材混入締固め供試体 である。また供試体の締固め度の違いによっても腐朽40用いた角材はスギ(針葉樹)およびブナ(広葉樹)質量減少率(%)であり、JIS K 1571 の規定に従うものとした。写真-6に示すように、角材の寸法は縦 20 mm、横 20 mm、高さ 10 mm の直方体である。供試体(直径 5 cm×高さ10 cm)はモールドの体積から角材の体積を引いた分を土試料の体積として計算して、土試料を締固めることによって作製した。なお図-6 に示すように、供試体は40○Dc100%◇Dc90%30質量減少率(%)の程度がどの程度変わるのかについても調べた。2010各試料、各腐朽期間でそれぞれ 3 個準備し、1 供試体ごとに 3 つずつ角材を混入させた。土試料には上述の0T9.5 を使用し、含水状態は最適含水比、締固め度は100%および 90%に設定した。腐朽期間は 1、3、5 ヶ月とした。図-7 にスギとブナの質量減少率の結果を示す。1330201005135腐朽期間(月)腐朽期間(月)(a) スギ(b) ブナなお質量減量率は、腐朽前後の絶乾状態での角材の質量から算出した。図-7 締固め供試体の木片腐朽試験結果図-7 から腐朽期間に着目するとブナ、スギともに腐朽が進行している。ブナについては腐朽が収束しつつあることが確認できる。またいずれの期間においてもスギよりブナの腐朽が進んでおり、十分に締固めた場合でも腐朽が見られる結果となった。4.2 腐朽の影響を考慮した締固め供試体による力学試験木片混じり土に含まれる木片の腐朽による力学特性の変化を把握する。対象とした試料は T9.5 および建材廃棄物由来の木片である。今回は角材ではなく BW4.0 で用いた同様の木片で、木材腐朽菌を接種してから 1 か月腐朽させた。腐朽した木片を混入させた試料と直径 5 cm×高さ 10 cm の鋳鉄製のモールドを用いて密詰め供試体(締固め度 90~95%、12本)、緩詰め供試体(締固め度 85%前後、8 本)を作製した。その後、腐葉土内に供試体を埋め、1 ヶ月経過後に掘り起し一軸圧縮試験を実施した。またこの月を基準の月とし、その後 1、3、4 ヶ月で同様の試験を実施した。一軸圧縮試験後の供試体は再び鋳鉄製モールドを用いて締固め、各腐朽期間まで腐葉土内にて腐朽させた。図-8 に一軸圧縮試験で得られた一軸圧縮強さと腐朽期間の関係を示す。図-8 から密詰め供試体については、腐朽期間によって各供試体の一軸圧縮強さの推移はあるものの、いずれの腐朽期間においても一軸圧縮強さが 40~75kPa の範囲内に分布している。緩詰め供試体についても、いずれの腐朽期間においても一軸圧縮強さが 15~45kPa の範囲内に分布している。以上から本研究で実施した試験期間内では、密詰め供試体および緩詰め供試体の一軸圧縮強さについて腐朽による大きな変化はみられなかったといえる。1008080606040123456101112200qu [kPa]qu [kPa]100123腐朽期間 [月]131415161718192040204(a) 密詰め供試体0123腐朽期間 [月](b) 緩詰め供試体図-8 腐朽期間における一軸圧縮強さの変化-125-4 5. おわりに以下に本論文で得られた結果を以下にまとめる。(1) 木片混じり土の物理化学特性については、木片混合率が大きいほど、土粒子密度は小さく、強熱減量値は大きくなった。また、粒度試験の結果から、木片混合率は異なるものの、試料による差はほとんどなく、どのケースも細粒分まじり砂(SF)に分類された。(2) 締固め特性については、木片混入量が多いほど、最大乾燥密度は小さく最適含水比は大きい値をとる。(3) 圧密特性として、載荷過程および再載荷ともに木片を追加した試料の方が T9.5 よりも比体積の減少が顕著であった。(4) 強度・せん断特性については、分別土砂および木片混じり土は十分な締固めによって安定した強度を発揮した。応力~ひずみ関係は、BW4.0 の初期剛性の方が小さく延性的な挙動を示した。W4.0 が BW4.0 よりも小さい一軸圧縮強さであった理由に、樹種の違いおよび木片の置かれた状況の違いが考えられる。(5) 木片混じり土内部に木片があっても、木材腐朽菌などのない状態で締固めると、今回の条件下では腐朽菌は供試体内に侵入することができないことがわかった。そのため、腐朽菌が進行しやすい環境下でも一軸圧縮強さは変化しない。(6) 角材を含む締固め供試体の腐朽試験では、角材の腐朽による質量減少が確認できた。針葉樹であるスギよりも広葉樹であるブナの方が腐朽しやすく、十分に締固めた木片混じり土であっても腐朽が進行した。(7) ファンガスセラーでの 4 か月の腐朽期間において、密詰めの場合、BW4.0 の一軸圧縮強さは顕著な減少傾向や増加傾向はみられず 40~75 kPa の範囲内に分布し、緩詰めにおいても 15~45 kPa の範囲内に分布した。角材を含む締固め供試体の腐朽試験では、角材の腐朽が確認できたものの、木片混じり土の一軸圧縮強さは、4 か月の腐朽期間において、顕著な減少傾向はみられなかった。この理由については、放置期間ごとの強熱減量の変化を調べ、木片混じり土がファンガスセラー内で木片腐朽が進行するのかなどの更なる実験を行い明確にしていきたい。しかし締固め 100%であっても、一軸圧縮強さが 40~75kPa の範囲内であることから、復興資材としての強度は必ずしも高いとは言えない。またファンガスセラーにおける腐朽試験について、腐朽が既に十分収束しているかは不明である。したがってさらに木材の腐朽試験を継続していくことでより厳密に災害廃棄物分別土の有効利活用について検討していく。謝辞:本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究・25630199、代表:中野正樹)の助成、環境省の環境研究総合推進費(3K133003、代表:勝見武)の助成および京都大学生存圏研究所全国共同利用研究による助成を受けた。また、本研究を行うに当たって明治大学講師加藤雅彦先生には強熱減量試験を実施して頂いた。ここに記して謝意を表する。参考文献1)二宮康治・赤神元英・尾山利彦・宮本光則:回転式破砕混合工法を用いた事前混合処理工法の実施例,土木学会第 1回土木建設技術シンポジウム,pp.1-8,2002.2)公益社団法人地盤工学会:土質試験基本と手引き第二回改訂版,丸善出版株式会社,251p,2010.3)藤川拓朗・佐藤研一・古賀千佳嗣:災害廃棄物処理過程において発生する分別土の含水比測定方法の検討,第 48 回地盤工学研究発表会,No.44,pp.87-88,2013.-126-
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  • タイトル
  • 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第1 報)-復興資材の物理・力学特性および施工性の評価と利用環境における環境安全性について-
  • 著者
  • 野口 真一・中村 吉男・肴倉 宏史・勝見 武
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 127〜134
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69532
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)5-2分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第1報)−復興資材の物理・力学特性および施工性の評価と利用環境における環境安全性について−○野口真一 1・中村吉男 1,2・肴倉宏史 3・勝見武 4(一社)泥土リサイクル協会・2 株式会社アイコ・3 国立環境研究所・4 京都大学11.はじめに東日本大震災の被災地では、復興のための土砂等(土取り場からの購入土や、宅地造成による切土など)の調達が進められている一方で、災害廃棄物や津波堆積物の処理によって得られた「復興資材」の一部は、その利用用途確保が課題となっている。この課題解決にあたっては、(a) これら資材の物性・力学特性・環境安全性に基づき利用可能な用途を把握し、(b) 利用による社会的な便益を明らかにすることで、(c) 用途ごとに利用を優先するべき資材を提言することが必要である 1)。本文は、(a)の観点から、高度に選別された津波堆積物由来の分別土砂と、この分別土砂にコンクリート再生砕石や各種循環資材(石炭灰、製鋼スラグ、製紙スラッジ)を原位置混合して生成した復興資材を用いた試験盛土 2),3)を構築して行った試験・調査に基づいて、物理・力学特性の吟味と汎用機による現場転圧試験による施工性の評価および利用環境における環境安全性について議論するものである。2.試験盛土の構築2.1 試験材料試験盛土は、津波堆積物由来の分別土砂(10 mm ふるい通過分)、および分別土砂とコンクリート再生砕石(破砕がれき 40 mm ふるい通過分、以下再生砕石と呼ぶ)ならびに分別土砂と各種循環資材(石炭灰、製鋼スラグ、製紙スラッジ)を原位置で混合して生成した材料で構築した。以下、本文では各材料を次のように呼称する。・ 分別土砂の単味材料(材料名を TD と称す)。・ 分別土砂と再生砕石の混合土砂(材料名を TR と称す)。・ 分別土砂と石炭灰(クリンカーアッシュ)の混合土砂(材料名を TC と称す)。・ 分別土砂と製鋼スラグの混合土砂(材料名を TS と称す)。・ 分別土砂と製紙スラッジ焼却灰を主原料とした石灰系固化材の混合土砂(材料名を TP と称す)。2.2 原位置混合分別土砂と再生砕石および循環資材の混合は、図−1に示すように、均質な混合攪拌を目途として定量供給装置と一軸式油圧連続式ミキサーを用いた可搬式混合土砂系循環資材供給装置処理設備により行った。TR の混合比率は容積比で 1:0.2(=分別土砂:再生砕石)、分別土砂と循環資材の混合では分別土砂の敷均し時の密度を想定したジッキングによるかさ密度から換算した 100 kg/m3 の循環資材を紛体系循環資材(PS 灰)供給装置混合土砂(排出)2.3 盛土形状および盛土転圧仕様図−1 分別土砂と循環資材の原位置混合状況m、勾配 1:1.0、盛土天端は 4.0 m×4.0 m である。盛土1500底部には盛土を浸透した雨水を採水することを目的と4000して、盛土と基盤の境界部には遮水シートを敷き、盛⑤④③②①1:1土中央部に砕石と有孔管を配置した幅 0.5 m×深さ 0.5mの底設暗渠を設置した。また、盛土の転圧仕様は、道路土工、河川土工などで用いられる標準的な重機構成とし、7 t 級ブルドーザーによる敷均し、10 t 級タイ砕石ヤローラーによる転圧、仕上がり厚 30 cm、転圧回数 4∼8 回により行った。盛土の構築状況を図−3 に示す。1500図−2有孔管1500300@ 5試験盛土の横断形状は図−2 に示すように、高さ 1.5300分別土砂に添加した。分別土砂供給装置シート試験盛土横断図Test embankments to promote the use of recovered earth materials composed of source-separated and recycled sediments(Part 1)Shin-ichi Noguchi1, Yoshio Nakamura1,2, Hirofumi Sakanakura3, and Takeshi Katsumi 4(1 MRA, 2 Aico, 3NIES, 4 Kyoto University)KEY WORDS: Disaster waste, Tsunami deposits, Industrial by-products, Environmental suitability, Field test-127- 有孔管の設置単粒砕石による埋戻し敷均し(7tブルドーザー)転圧(10t級タイヤローラー)図-3 試験盛土造成状況転圧3.各材料の特性分別土砂および混合土砂の物理・力学特性は表−1 に示すとおりである。表-1 各材料の物理・力学特性混合土母材:TD  (分別土砂単味)名   称TD(分別土砂単味)TR(再生砕石)TC(石炭灰)TS(製鋼スラグ)TP(製紙焼却灰)kg/m300.2(容積比)100100100rsg/cm32.6832.7242.6452.7662.672wn%34.725.327.625.525.6改質剤配合量    土粒子の密度含水比D maxmm26.537.537.519.037.5礫分75 ∼2.0 mm%22.031.826.425.822.1砂分2.0 ∼0.075 mm%32.129.846.132.734.375 m 未満%最大粒径粒度組成細粒分地盤の工学的分類45.938.427.541.543.6分類名細粒分質礫質砂細粒分質砂質礫細粒分質礫質砂細粒分質礫質砂細粒分質礫質砂記号(SFG)(GFS)(SFG)(SFG)(SFG)%12.211.711.011.415.0強熱減量 強熱温度 600 ℃強熱温度 750 ℃%8.76.88.99.011.5強熱温度 330 ℃可燃物混入率(手選別)%4.22.94.44.35.75 mm以上%1.10.81.51.21.62~5 mm%1.61.11.32.02.52.61.92.83.24.19.69.99.611.112.6A-cA-cA-cA-cA-cg/cm1.4141.5001.4001.3951.212%29.925.030.530.235.32.18.84.46.138.2CUbCUbCUbCUbCUb28.133.225.526.029.828.226.026.721.6合計土懸濁液のpH方法締固め 最大乾燥密度 r d max最適含水比w opt3設計CBR試験方法2全 粘着力三 応力せん断抵抗角軸有効 粘着力ckN/m71.4f°23.0c'kN/m58.431.724.023.6応力 せん断抵抗角f'°32.636.638.735.2透水係数km/s2-7-98.9×10 ~2.2×10-6-93.3×10 ~7.8×10-6-91.0×10 ~6.0×10-72.4×10 ~5.1×1037.5-9-62.3×10 ~8.9×10-8分別土砂および混合土砂の細粒分含有率(Fc)は 50%以下であり日本統一分類の細粒分質礫質砂(SFG)と細粒分質砂質礫(GFS)に区分される。また、強熱減量試験は、JIS A 1226 : 2009 に準拠して行い、加熱温度は同基準で規定されている 750±50℃、熱しゃく減量試験(「一般廃棄物処理事業に対する指導に伴う留意事項について」(平成 2 年衛環第22 号環境整備課長通知別紙 2)で規定されている 600±25℃、および紙等の有機物の発火点を参考とした 330±25℃の 3-128- 不燃物および土砂可燃物粒径 5 mm 以上可燃物 混入率不燃物および土砂1.1%可燃物粒径 2∼5 mm 以上可燃物混入率1.6%図-4 2mm 以上の選別後の試料(TD)水準とした。また、2 mm および 5 mm ふるい残留分20.0を手選別により分級し乾燥重量比による可燃物混入率を求めた。図−4 に TD の手選別後の試料の状況を15.0強熱減量(%)示す。強熱温度を変えた強熱減量と可燃物混入率の関係は、図−5 に示すように強熱減量は可燃混合率の値より高い結果となっており、JIS 法で規定される強熱温度 750±50℃は、有機物の他に結晶水や炭酸塩も焼失されることから、分別土砂に残存する木くず等10.0強熱温度 750 ℃5.0強熱温度 600 ℃の評価には強熱温度が高すぎ、330℃程度の強熱が適強熱温度 330 ℃当であるとの報告 4)もある。0.0締固め仕事量 Ec≒550 kJ/m3 の“Standard Proctor”の0.05.0条件で行った突固めによる土の締固め試験(JIS A10.015.01210)において得られた各材料の最大乾燥密度は、図−5可燃物混合量と強熱減量の関係1.6g/cm3、TR;1.500 g/cm3、 TC;1.400 g/cm3、TS;1.395g/cm3、TP;1.212 g/cm3 が得られた。また、図−6 に12実線:締固め曲線1.5破線:CBR 値最適含水比(wopt)、D 値 90%湿潤側含水比(D90wwet)、最適含水比と湿潤側含水比の中間点および採取時自然含水比(wn)の締固め状態で CBR 値を計測したところ、CBR 値は含水比が最適含水比を超えると急激に低下する傾向を示したが、圧密非排水条件で実施乾燥密度 rd (g/cm3)示すように含水比の変化による強度特性を調べるた1.481.3盛土への活用が十分可能な強度を有していることが6TDTR1.24TCTS1.1した三軸圧縮試験では表−1 に示したように一般的な砂質∼礫質土と同程度の値が得られ、堤防や道路10設計CBR %表−1 および図−6 に示すように、TD;rdmax=1.414めに、締固め曲線上の密度と含水比の関係において、20.0可燃物混入率(%)2TP1.005確認された。15図−625含水比 w %3545締固め曲線と設計 CBR の関係締固め曲線に対応した締固め条件で実施した透水試験より、各材料の透水性を把握した。得られた透水係数は、表−1 に示したように同一材料においても締固め時の含水比や飽和度等の影響を受け変化し、k=3.3×10-6~2.2×10-9 m/s の範囲にあり、半透水∼不透水性材料の透水性を持つことが確認され、堤防などの水利構造物において遮水性が求められる築堤材料として活用が見込まれる。また、各材料の透水係数の最小値が得られる締固め条件は、最適含水比より若干高い含水比での締固め状態で得られており、この特性は一般的な土質材料の特性と一致している。4.現地転圧試験および原位置強度の確認一般土工における転圧の標準仕様(撒出し;7 t 級ブルドーザーによる敷均し、転圧;10 t 級タイヤローラー、仕上がり厚;30 cm、転圧回数;4∼8 回)により現地盛立試験を行い施工性の確認を行った。図−7 は、撒き出し厚(t0)と仕上がり厚(t1)の関係の一例として TD と TS の試験結果を示したものである。他の材料も同様な傾向を示しており、t0-129- と t1 の関係から t0 を 35∼39 cm で行えば、t1 は 30 cm 以下となることが確認された。図−8 は、TD と TS における締固め曲線と現場転圧密度の関係を示したものである。TD の自然含水比は D 値 90%の湿潤側(D90wwet)の含水比状態にあるが、鋼製スラグを混合することにより最適含水比(wopt)状態に改良される。TR、TC材料も同様な結果を得ているが、TP は、固化反応によりさらに含水比が低下して”パサパサ”した状態となり十分な締固め効果が得られなかった。その他の材料は、図−9 に示すとおり一般土工の品質管理で規定される D 値 90%の密度を図−7 撒き出し厚と仕上がり厚の関係図−8 締固め曲線との場転圧密度の関係(TD,TS)(TD,TS)100締固め度 D値 (%)959085TDTR80TCTSTP75246810転圧回数 N (回)図-9 転圧回数(N)と締固め度(D 値)の関係図-10 現場 CBR と室内 CBR の関係-130- 4 回の転圧で満足する結果が得られた。また、転圧盛土の強度を現場 CBR 試験により把握した。現場 CBR と室内 CBRの関係は、図−10 に示すように TP を除き、室内 CBR と現場 CBR はほぼ一致しており一般的な土の特性(室内 CBR=0.5∼1.5×現場 CBR)5)と類似した傾向にある。5.モニタリング5.1 調査項目および期間試験盛土において、表−2 に示す期間に 4 回のモニタリング調査を行った。表-2 モニタリング項目および数量項目規 格H25H26H26H2612/121/307/2410/7計沈下量測定レベル測量2020202080土壌硬度中山式硬度計による1010101040現場 CBR 試験JIS A 1222555520植生調査―――112土懸濁液の pH 試験JGS 02111515151560浸出水の試験環境省告示 17 号555520・沈下量測定:天端 4 測点のレベル測量による沈下量の計測。・土壌硬度:貫入式土壌硬度計を用い試験盛土法面(東面:軽度な土羽うち法面,北面:入念な土羽打・植生調査:試験盛土法面における植生・植被の調査。・現場 CBR 試験:試験盛土天端で JIS A 1222 に準拠して実施。・土懸濁液の pH 試験:JGS 0211 に準拠し実施した。検体は、軽度な土羽打ち法面に対し表層(GL-.0.0ち法面)の土壌硬度の計測。m)・GL-0.1 m・GL-0.3 m の 3 地点から採取。浸出水の試験:試験盛土に設けた底設暗渠に連結したタンクの貯留水の水質試験(平成 15 年 3 月 6・日環境省告示第 17 号)。5.2 盛土法面の土壌硬度軽度な土羽打ち法面(東面)と入念な土羽た。図−11 は土壌硬度の経時変化を整理したものであり、試験盛土の近傍の気象庁宮気温 ℃打ち法面(北面)において 40cm×40cm の観測面を設定し、中山式硬度計により測定し城県気仙沼観測所の水文データ(気温・降雨量)を併記している。モニタリング期間の累積降雨は、約 1,400 mm、1 月初旬より 3 月中旬の最低気温は 0℃以下となる日が続き、によれば、中山式硬度計による土壌硬度を指標とし、植生の活着の目安値を土壌硬度 23 以下としている。今回の試験盛土においては入念な土羽打ちを行った場合においても凍上や乾湿の繰り返しにより盛土表面の土壌硬度は 23 程度となっており盛平均温度最低温度降雨量累積TD○:軽度な土羽打ち法面△:入念な土羽打ち法面TRTCTS25土壌硬度ュアル6)0200400600800100012001400160018002000日降雨量30盛土表面では凍上を招来していたことが予測される。港湾緑地の植生設計・施工マニ35302520151050-5-10-1535降雨量 mm (日÷10mm)土壌硬度はバックホウのバケットによるTP2320151050060120土構築当初は植生の活着が認められなかった。一方、軽度な土羽打ち法面の土壌硬度図-11は、整形時より目安値の 23 以下でありその180経過日数 日240300360法面の土壌硬度計測結果後の土壌硬度の低下は顕著でなく、次項で示すように法面には植生が活着する結果となっている。図−12 は、H.26.10.07に行った TR 盛土の土壌硬度測定状況を示したものであり、植生の活着の相違および累積降雨約 1,400 mm(1 年間)に曝されてもガリー浸食が生じていないことが観察された。-131- 軽度な土羽打ち法面(東面)入念な土羽打ち法面(北面)図−12 土壌硬度測定状況(TR 盛土)5.3盛土法面の植生状況植生の活着は軽度な土羽打ち法面が主体であり、入念な土羽打ちを行った法面には観られなかった。盛土表面積に対して植生の占める面積から植被率を求めると、TD:20∼25%,TR:30∼35%,TC:10∼15%,TS:5%程度,TP:10∼15%となり、TP についてはコケ類のみの植生でありこれ以外の植生は生育していない。植種構成は、図−12 に示すように、主にイネ科,タデ科,カヤツグサ科,アカザ科,ツユクサ科,アカバナ科が生息する。また、数本ではあるがナス科,キク科,ウリ科等が生息していた。カヤツグサ科イネ科 イヌビエキク科 ノボロギクタデ科 イヌタデヤマゴボウ科ウリ科 アレチウリアカザ科 ホコガタアザカツユクサ科ツユクサナス科 トマト類アカバナ科コマツヨイグサスベリヒユ科 スベリヒユ苔類ヨウシュヤマゴボウ図-13観察された植生の主な種類5.4 現地強度確認試験試験盛土天端において現場 CBR 試験を行い強度の経時変化を把握した。試験結果は図−14 に示すように、盛り立て後約 2 ヶ月後の強度増加がみられ、それ以降若干の強度低下がみられるものもあるが強度はほぼ横ばいで推移している。5.5 盛土表層部の pH軽度な土羽打ち法面に対して表層(GL-0.0 m)・GL-0.1 m・GL-0.3 m から採取した試料に対して pH を測定したところ、図−15 に示すように造成直後の試験盛土の pH はアルカリ域にあるが、時間経過とともに pH は低下し、TP 盛土の表層より 10 cm 以深のデータ以外は中性域を示す範囲に達している。-132- 30現場CBR (%)252015105TDTRTCTSTP0060120180経過日数 (日)図-14240300360現場 CBR 試験結果図-15pH 計測結果5.6 環境安全性試験盛土に設けた底設暗渠パイプに連結させた貯留タンクから浸透水を採水して、環境省告示第 17 号(平成 15 年 3月 6 日)に準拠した水質試験を行った。試験結果は表−3 に示すとおりであり、盛立 2 ヶ月後行った試験では土壌汚染対策法の地下水基準を上回る砒素の溶出が認められたが、それ以降の試験では基準値を上回る砒素の溶出は検出されていない。試験盛土で使用した材料は、溶出試験による土壌環境基準を満足したものを使用している。この試験は土に水を 10 倍量(重量比)加えて溶かし出す試験であり、盛土などの実際の条件では、盛土直後に 10 倍量の水が一度に供給される可能性は低く、盛土構築初期の段階で溶出してくる物質の場合、1 倍量の雨水の浸透では 10 倍の濃度で溶出する可能性もあると考えられる。その後、地下へ浸透後に希釈や吸着などの影響を受けるので溶出量は低下する傾向にあると想定されるので、今回のようなモニタリングのように暗渠等に集水される水等では、環境行政上の目標値である地下水環境基準ではなく、排水基準を管理値として運用するのが適当であると考えられる。また、2014/10/8 の採水の水質試験からは TR 盛土と TC 盛土においてほう素の溶出量が環境基準を上回る値が計測された。この値はそれまでに測定された 10 倍近い値であり、その原因の一つとして海水の混入による可能性が考えられたので塩化物イオンの試験を行うとともに再試験を行うため 2014/10/25 に採水し、あわせて試験盛土から採取した土壌の溶出試験を行った。試験盛土は津波堆積物由来である材料による盛土であることから、塩化物イオンの値は一般の土壌と比べて相対的に高い値を示すが、塩化物イオンと相関性の高い電気伝導率の推移から判断して 2014/10/8 の採水に海水が混入した可能性は低いものと判断される。また、2014/10/25 の再試験においても同様な結果が得られた一方で、試験盛土から採取した土壌に対する溶出試験においては環境基準値を満足する結果となった。ほう素などの重金属類が遅延して溶出する現象は、カラム試験でも見られる溶出特性の特徴的な現象であり、この種の現象の解明については、さらに実験・実測データを集積し議論すべき課題であると考えられる。第 2 報 7)においては、降雨浸透特性を踏まえた砒素・ほう素の溶出における液固比の影響などについて二・三議論した。-133- 表-3 浸透水の水質試験結果TD2014/1/30単位土壌汚染対策法地下水基準カドミウムmg/L0.01以下0.001鉛mg/L0.01以下0.005未満六価クロム化合物mg/L0.05以下0.01未満砒素mg/L0.01以下0.009水銀mg/L0.0005以下0.0005未満セレンmg/L0.01以下0.002未満0.0020.002未満0.002未満ふっ素mg/L0.8 以下0.140.090.21ほう素mg/L1以下0.130.279.6分析項目名2014/8/262014/10/252013/10/302013/12/12土壌溶出試験採水採水採水採水採水底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠2014/10/80.0003未満 0.0003未満 0.0003未満浸出水不足TR2014/8/262013/12/12土壌溶出試験採水採水採水採水採水底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠--0.001未満2014/1/302014/10/82014/10/252013/10/30土壌溶出試験0.0005 0.0003未満 0.0003未満浸出水不足土壌溶出試験--0.005未満0.005未満0.005未満--0.005未満0.005未満0.005未満0.005未満-0.01未満0.01未満0.01未満--0.01未満0.01未満0.01未満0.01未満-0.0060.005未満0.005未満--0.009-0.0100.005未満0.005--0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満-- 0.0005未満--0.002未満0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満0.0040.002未満0.002未満--0.22--0.390.210.210.28--0.171.00.510.280.040.130.151.61.50.216.9(23℃)7.6(23℃)7.3(23℃)-9.96.9(23℃)7.6(22℃)7.3(23℃)--−690170350-−690170500--−120935-−1801385--−--286-−--520--5.8 ∼ 8.6(排水基準)6.0 ∼ 7.5(農業用水基準)30mS/m 以下mS/m電気伝導率(農業用水基準)3以下有機体炭素(TOC) mg/L(水道水質基準)200mg/L 以下mg/L塩化物イオン(水道水質基準)水素イオン濃度−単位土壌汚染対策法地下水基準カドミウムmg/L0.01以下0.001未満0.0006鉛mg/L0.01以下0.005未満0.005未満0.005未満0.005未満六価クロム化合物mg/L0.05以下0.01未満0.01未満0.01未満砒素mg/L0.01以下0.0090.0110.007水銀mg/L0.0005以下セレンmg/L0.01以下0.002未満0.002未満0.0040.002未満ふっ素mg/L0.8 以下0.150.08未満0.08ほう素mg/L1以下0.160.219.6分析項目名水素イオン濃度−5.8 ∼ 8.6(排水基準)6.0 ∼ 7.5(農業用水基準)30mS/m 以下mS/m電気伝導率(農業用水基準)3以下mg/L有機体炭素(TOC)(水道水質基準)200mg/L 以下mg/L塩化物イオン(水道水質基準)2013/10/302013/12/12土壌溶出試験採水採水採水採水採水底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠2014/8/262014/10/80.0005 0.0003未満 0.0003未満2014/10/252014/10/80.005未満--0.005未満0.005未満0.005未満0.005未満0.01未満0.01未満--0.01未満0.01未満0.01未満0.0050.005未満--0.0090.0160.0050.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満土壌溶出試験-0.005未満--0.01未満0.01未満--0.005未満0.005未満---- 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満--0.002未満--0.002未満0.002未満0.0060.002未満0.002未満--0.130.16--0.390.08未満0.050.130.23--0.210.131.21.30.340.040.100.050.160.350.510.216.9(20℃)6.8(23℃)7.8(22℃)7.5(23℃)--11.17.1(19℃)7.0(23℃)7.6(23℃)7.2(23℃)--−660690140340--−790910180370--−1501701142--−3503601948---227--−--539---−TP2014/8/260.001未満 0.0003未満 0.0003未満 0.0003未満 0.0003未満--鉛mg/L0.01以下0.005未満0.005未満0.005未満0.005未満0.005未満--六価クロム化合物mg/L0.05以下0.01未満0.020.01未満0.01未満0.01未満--砒素mg/L0.01以下0.0050.0070.0060.0060.005未満--水銀mg/L0.0005以下0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満 0.0005未満--セレンmg/L0.01以下0.002未満0.002未満0.0040.0030.002未満--ふっ素mg/L0.8 以下1.40.08未満0.070.140.27--ほう素mg/L1以下0.020.040.040.370.490.290.0212.611.6(20℃)9.0(21℃)7.5(22℃)7.5(22℃)--−650490600240--−43031012010----436--2013/10/302013/12/12土壌溶出試験採水採水採水採水採水底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠−2014/1/302014/10/80.0005 0.0003未満 0.0003未満2014/10/25-0.01以下(農業用水基準)30mS/m 以下mS/m電気伝導率(農業用水基準)3以下mg/L有機体炭素(TOC)(水道水質基準)200mg/L 以下mg/L塩化物イオン(水道水質基準)2014/1/300.001未満 0.0003未満mg/L−採水採水採水採水採水底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠 底設置暗渠-カドミウム水素イオン濃度2013/12/12土壌溶出試験-土壌汚染対策法地下水基準5.8 ∼ 8.6(排水基準)6.0 ∼ 7.5TS2014/8/262013/10/30土壌溶出試験単位分析項目名6.TC2014/1/302014/10/25土壌溶出試験おわりに復興資材活用への提言の取り組みとして、分別土砂によるモデル盛土試験を行った。この結果、復興資材は土木資材として具備すべき施工性・強度特性等を有し、ガリー浸食に強く植生基盤として活用できることを確認した。また、盛土の浸透水の一部から環境基準を上回る砒素、ほう素が検出されたことは、この種の材料の環境安全性を議論する上で、室内試験で得られた数値と現場との照合、溶出試験の解釈や試験法自体の改良・改善を喚起するものである。謝辞:末尾ながら本研究の遂行にあたり、宮城県環境生活部にご尽力を頂いた。また、地盤工学会復興資材提言委員会のメンバー・オブザーバーの方々には貴重な意見を頂いた。記して謝意を表する。参考文献1)(公社)地盤工学会(略称:復興資材提言委員会):ホームページhttps://www.jiban.or.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=1540&Itemid=148 (参照 2015.3.27)2)(公社)地盤工学会:災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン、pp.78-93、20143)中村吉男、野口真一、肴倉宏史、勝見武:災害廃棄物由来の再生土砂を用いた盛土実証試験、第 21 回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会、講演論文集 (投稿中)4)遠藤和人・鈴木弘明・勝見武:災害廃棄物処理残さにおける木くず含有量の判定に関する一考察、第 35 回全国都市清掃研究・事例発表会、講演論文集、20145)(公社)地盤工学会:地盤材料試験の方法と解説6)運輸省港湾局監修:港湾緑地の植栽設計・施工マニュアル、1999−二分冊の 1−、p.403、20107)中村吉男・小島淳一・野口真一・肴倉宏史・勝見武:分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第 2 報)、第 11 回環境地盤工学シンポジウム、講演論文集 (投稿中)-134-
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  • タイトル
  • 分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第2 報)-復興資材を用いた盛土の降雨浸透性と実環境における重金属類の溶出特性について-
  • 著者
  • 中村 吉男・小島 淳一・野口 真一・肴倉 宏史・勝見 武
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 135〜142
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69533
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)5-3分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第 2 報)−復興資材を用いた盛土の降雨浸透特性と実環境における重金属類の溶出特性について−○中村吉男 1、3・小島淳一 2・野口真一 3・肴倉宏史 4・勝見武 511.株式会社アイコ・2(一財)東海技術センター・3(一社)泥土リサイクル協会・4 国立環境研究所・5 京都大学はじめに復興資材活用への提言の取り組みとして、分別土砂によるモデル盛土試験を行った 1)。前報 2),3)では、材料の物理・力学特性の吟味と汎用機による現場転圧試験およびモニタリング調査を通して、復興資材は土木資材として具備すべき施工性・強度特性等を有し、ガリー浸食に強く植生基盤として活用できることを報告し、盛土を浸透した水の一部から環境基準を上回る砒素、ほう素が検出されたことを踏まえ、この種の材料の利用環境における環境安全性については、室内試験で得られた溶出値と現場との照合、溶出試験の解釈や試験法自体の改良・改善の重要性を指摘した。本研究は、モデル盛土における降雨浸透特性を飽和―不飽和浸透流解析により明らかにし、復興資材を用いた盛土の降雨浸透予測に対する解析手法の適用性・妥当性について、算定された浸透水量と計測された浸透水量を比較して検証した。また、上向流カラム通水試験により砒素・ほう素の溶出特性(溶出速度・積算溶出量等)を定量評価し、通水量を指標とした液固比と積算溶出量の関係を求めた。実環境下における砒素・ほう素の溶出特性については、同様な観点から、浸透水量を指標とした液固比と浸透水の水質分析結果から積算溶出量濃度を算出し、両者を比較して室内試験と現場で観測される双方の溶出メカニズムについて議論した。2.試験盛土の構造2.1 試験盛土材料試験盛土は、津波堆積物由来の分別土砂(10 mm ふるい通過分)、および分別土砂とコンクリート再生砕石(破砕がれき 40 mm ふるい通過分、以下再生砕石と呼ぶ)ならびに分別土砂と各種循環資材(石炭灰、製鋼スラグ、製紙スラッジ)を原位置で混合して生成した材料で構築した。以下、本文では各材料を次のように呼称する。・ 分別土砂の単味材料(材料名を TD と称す)。・ 分別土砂と再生砕石の混合土砂(材料名を TR と称す)。・ 分別土砂と石炭灰(クリンカーアッシュ)の混合土砂(材料名を TC と称す)。・ 分別土砂と製鋼スラグの混合土砂(材料名を TS と称す)。・ 分別土砂と製紙スラッジ焼却灰を主原料とした石灰系固化材の混合土砂(材料名を TP と称す)。2.2 試験の盛土形状と浸透水の採水構造試験盛土形状は図−1 に示すように、高さ 1.5 m、勾配 1:1.0、盛土天端は 4.0 m×4.0 m である。盛土底部には盛土を浸透した雨水を採水することを目的として、盛土と基盤の境界部には遮水シートを敷き、盛土中央部に砕石と有孔管を配置した幅 0.5 m×深さ 0.5 mの底設暗渠を設置した。3.浸透流解析3.1 解析方法および盛土のモデル化降雨浸透を考慮した浸透流解析は、FEM による二次元(断面)飽和−不飽和浸透流によるものであり、解析に用いたプログラム(SAUSEVer3.1.2:ニタコンサルタント㈱)は、河川堤防の構造検討などで汎用的に使用されているものである。解析モデルは、図−1 に示すように底部暗渠排水溝に沿った二次元断面(B−B 断面)とした。底部暗渠は φ100 の有孔管が図−1試験盛土平面図および解析断面図設置されているが、排水溝は透水性の高い砕石層によりモデTest embankments to promote the use of recovered earth materials composed of source-separated and recycled sediments(Part 2)Yoshio Nakamura1,3, Jun-ichi Kojima2, Shin-ichi Noguchi3, Hirofumi Sakanakura4, and Takeshi Katsumi 5(1 Aico , 2 TTC, 3 MRA, 4 NIES, 5 Kyoto University)KEY WORDS: Disaster waste, Environmental suitability, Saturated and unsaturated seepage flow analysis, Up-flow percolation test-135- ル化を行った。盛土及び基盤の表面を浸出面および降雨浸透面とし、基盤の地下水位は試験盛土区域が漁港に位置していることから漁港の平均的な朔望水位とした。また盛土の基盤面には不透水の遮水シートが設置されているのでこれをモデル化した要素を与えた。暗渠に集水される浸透水量は砕石層への浸透量を積算し単位幅(砕石層の幅)0.5 m を乗じて算出した。砕石層への降雨浸透は、図−1 の A−A 断面に示すように、側方からの流入が考えられるが今回の計算においてはこの量を積算していない。3.2 降雨データおよび物性値の設定解析の期間は、試験盛土の設置期間を踏まえて平成 25 年 11 月 1 日より平成 26 年 10 月 31 日の 1 年間とした。この間の降雨データは近傍の気象庁宮城県気仙沼観測所の降雨データを用い、非定常計算を行った。また、浸透流解析に用いた物性値については、盛土材の鉛直方向の飽和透水係数(kv)は試験盛土の平均含水比を指標として室内透水試験結果より算定した。また、水平方向の飽和透水係数(kh)はタイヤローラーにより転圧された盛土であることを考慮し、一般に提案されている kh/kv=20∼30 の平均値 25 を採用し設定した 4)。盛土の透水係数において、締め固め密度が低く、含水比(wn)が最適含水比(wopt)より乾燥側にある TP 盛土は、他の盛土に比べて透水係数が 2 オーダー程度大きいことが特徴的である。ドレーン材、遮水シート、再生砕石により造成された基盤の透水係数は、材料特性を考慮して仮定した。比貯留係数及び不飽和浸透特性は『河川堤防の構造検討の手引き(改訂版) 5)を参考として設定した。各物性値を総括し表−1、図−2 に示す。表-1 飽和透水係数および比貯留係数3.4×10-88.5×10-71.0×10-3ρd=1.476 g/cm3、wopt=25.0%、wn =24.5%、ρs=2.724 g/cm3TC-95.6×10-71.4×10-31.0×10ρd=1.309 g/cm3、wopt=30.5%、wn =31.1%、ρs=2.645 g/cm3TS2.4×10-86.0×10-71.0×10-3ρd=1.306 g/cm3、wopt=30.2%、wn =27.0%、ρs=2.766 g/cm3TP-6-5-3ドレーン1.6×104.0×101.0×10ρd=1.058 g/cm3、wopt=35.3%、wn =27.6%、ρs=2.672 g/cm31.0×10-52.5×10-41.0×10-4―-11-111.0×10-3―-4-4―1.0×10遮水シート-51.0×10基礎地盤0備考(盛土管理:平均値)ρd=1.308 g/cm3、wopt=29.9%、wn=37.0%、ρs=2.683 g/cm31.0×102.5×101.0×10見かけの飽和度 Sr(%)4060802010001.0比透水係数0.6粘性土[M,C]kr礫質土[G,G-F,GF]砂質土[S,S-F,SF]0.40.20.60.40.20.00.00.000.040200.080.12見かけの体積含水率0.16q見かけの飽和度 Sr(%)4060800.200.000.021000200.040.06見かけの体積含水率0.08q見かけの飽和度 Sr(%)4060800.101001010Y(m)1000.8kr0.8負の圧力水頭見かけの飽和度 Sr(%)406080201.0比透水係数土TR比貯留係数(1/m)1.0×10-38Y(m)盛TD飽和透水係数(m/s)kvkh8.3×10-92.1×10-7称礫質土[G,G-F,GF]砂質土[S,S-F]6砂質土[SF]負の圧力水頭名428粘性土[M,C]642000.000.040.080.12見かけの体積含水率0.16q0.000.20a) 礫質土・砂質土0.020.040.06見かけの体積含水率b)0.08q粘性土図−2 浸透流計算に用いる体積含水率と比透水係数・負の圧力水頭の関係 5)-136-0.10 3.3 降雨浸透における飽和域の形成盛土への降雨浸透現象に影響する要因としては、土の種類、締固め度など土質材料に関連する要因、降雨強度、降雨パターンのような降雨に関わる要因およびのり面形状などが考えられる。また、盛土の初期状態に違いがあれば同じ降雨が作用しても、浸透挙動に差異が生じ、盛土内に形成される飽和域に及ぼす影響も異なってくる。木村 6)は、降雨強度(r)と飽和透水係数(k)の比を指標とし、r/k<1.0 での降雨浸透においては、降雨開始と共にのり面表面から湿降雨による盛土の浸透 6)図−3潤前線が降下していき、のり面表面に近いのり面先から順次基盤面に到達し、これにより飽和域が形成され、一方 r/k>1.0 の場合は 、盛土内に浸透した降雨が盛土表層部の飽和度を高め飽和域を形成しながら,以後飽和域が下方へ移行して湿潤前線が順次基盤面に到達し飽和域を形成することを実験と解析により見出した。また、降雨終了後における飽和域は、図−3 に示すように、いずれの場合においても基盤面上に形成されるとしている 6),7)。図−4 は、試験盛土の降雨浸透状況を調べるため、後述する盛土内の圧力水頭が最大となる2014/7/21 を選定し、等ポテンシャル線と流向および飽和域の形成を整理したものである。図中飽和域は、圧力水頭値 0 を浸潤面と考え、ψ>0 を飽和域、ψ<0 を不飽和域としている。図より、何れの盛土においても盛土内の降雨の浸透は鉛直浸透が卓越し、木村が指摘しているような飽和域が基盤面に形成されている。また、TD と TC、TR と TS は、流向、浸透域、飽和域の形成状況において比較的類似した傾向にあるのに対し、TP 盛土はドレーン流下する浸透範囲が狭くなり底面に形成される飽和域も小さく他の 4 つの盛土と比べて若干異なった流況を示している。これは、TP の透水係数は他の盛土に比べて 2 オーダー程度大きく盛土内での降雨の浸透速度が速くなり、また湿潤域を形成するのに必要な水分量がいち早く盛土内部へ供給されるが、同時にドレーンやのり先からの排水も早く生じることが影響しているものと考えられる。3.4 盛土の浸透量と圧力水頭図−4浸透量は、法先部のドレーンを横切る浸透水降雨浸透状況(2014/7/21)の量に単位幅(砕石層の幅)0.5 mを乗じて算出した。砕石層への降雨浸透は、図−1 の A−A断面に示すように、側方からの流入が考えられるが今回の計算は断面二次元の解析でありこの量は積算されていない。図−6 は、TD、TR、TP の浸透量および圧力水頭の経時変化を日降雨量、累積降雨量と対比図−5して整理したものである。-137-圧力水頭の着目節点 図−6 日降雨量・累積降雨量と浸透量・圧力水頭の推移(TD、TR、TP)-138- 表-2 累積採水量と累積浸透量(リットル)表-3TDTRTCTSTP累積採水量2013/12/12累積浸透量累積採水量2014/1/30累積浸透量00.451.101.31210.750.3110.850.9178.991.3213.6累積採水量2014/7/26累積浸透量累積採水量2014/10/7累積浸透量1723.63134.33072.250以上101.12514.84122.2日付区分採水量および浸透量から求めた見かけの浸透能(%)日付333958.371.253以上 59以上82.688.6累積降雨量2013/12/1235 mm2014/1/30110 mm2014/7/26923 mm2014/10/71,246 mm区分TDTRTCTS採水量005.85.8TP12浸透量採水量0.41.91.54.50.34.116.31.78.9浸透量0.440.33.31.5採水量0.81.31.11.52浸透量採水量113.21.6以上0.71.3浸透量1.13.30.72.63.61.7以上 2.2以上2.73.3※)TD、TR、TC、TS の集水面積は図−4 より(3.4+1.5)×0.5m=2.45 m2、TP は(2.8+1.5)×0.5 m=2.15 m2 として算定した。累積採水量(実測値)と累積浸透量(解析値)関係は、図−6 において実測値を●印、解析値を実線で示している。個々の数値については表−2 に示すように両者はオーダー的に一致していることから、復興資材を用いた盛土の浸透特性を実務的な手法により一般土の特性を用いて評価することは、信頼性と妥当性を十分有し、実務に活用できる方法であるものと考えられる。また、図−4 に示した流向からドレーンに流入する浸透範囲は、天端部(2.8 m、3.4 m)とのり部(1.5m)の水平長さにドレーン幅を乗じた面積(集水面積)を考え、これに降雨量を乗じることで盛土に流入した水量とみなし、盛土に浸み込んだ水量(採水量、浸透量)から蒸発散量を無視した見かけの浸透能を両者の比として定義すると、表−3 に示すようになる。この浸透能は数%オーダーであり、復興資材は降雨が浸み込み難い材料であるといえる。圧力水頭については、図−5 に示したように基盤面(A∼F)と基盤面より約 20 cm 高い位置(a∼f)の節点について調べた。図−6 に示した盛土の圧力水頭の変動に着目すると、TP の圧力水頭は、TD、TR の圧力水頭の経時変化に比べ昇降が激しいことがわかる。これは前述したように、TP の透水係数は他の盛土に比べて 2 オーダー大きく盛土内での降雨の浸透速度が速くなり、また湿潤域を形成するのに必要な水分量がいち早く盛土内部へ供給されるが、同時にドレーンやのり先からの排水も早く生じることが影響しているものと考えられる。このことは、累積浸透量の履歴においてもみられ、TD、TR の浸透量は比較的なだらかに推移しているのに対し、TP の浸透量は降雨強度に鋭敏に反応して階段状を呈した浸透流出を呈していることからも理解される。さらに透水係数の差は、TR の圧力水頭の変動が TD に比べ大きいことや、基盤の A∼D の圧力水頭が正値となり、基盤との境界に飽和域を形成し始める時期は、TR の 2 ヶ月(2014/1/1頃)であるのに対し、TD は 3.5 ヶ月(2014/2/15 頃)要していることにも表れている。TD の A∼E の圧力水頭は、2014/2中旬以降、負値をとることなく推移しており、この領域は恒常的に保水された状態にあるものと考えられる。ただし、水頭値は 0.2 m 以下であり、この種の盛土において採水を目的として基盤から約 0.2 m 上部の位置に水平方向の水抜き孔を設置しても浸透水を得ることはできないことを意味し、a∼fの基盤 0.2 m 直上の圧力水頭が正値を取る期間が極めて短期間であることからも理解される。底設ドレーン等を設けずに盛土内の浸透水を採取する場合は、鉛直方向に試験孔を設置したオープンピエゾ方式とした方が有効と考えられるが、この場合における留意点としては盛土表面から試験孔への雨水の流入の防止する構造上の検討や、中水的なたまり水を採取する可能性があり、浸透水の環境安全性を評価する上で代表した水の採水が行われているかについては一考の余地がある。4.カラム通水試験と浸透水の水質試験の比較4.1 上向流れカラム通水試験前報 2,3)で詳述したように、浸透水の一部から地下水基準を上回る砒素とほう素溶出量が検出された。試験盛土に使用した材料は、土壌環境基準、特定有害物質および汚染状態に関する基準を満足しており、浸透水からほう素が検出された時期は盛り立て後約一年経ってからであり、同時に試験盛土から土壌を採取して行った土壌溶出量は、環境基準値を満足する結果となっている。このように、土壌の溶出試験と浸透水の水質分析で異なった数値が検出された要因の一つとして、前者は実環境における重金属類の溶出挙動とはかけ離れた条件で実施されていることが挙げられる。そこで、本章では、より実環境に近い状況下での試験であるカラム通水試験(カラム試験)を行い、液固比を指標として砒素・ほう素の溶出特性(溶出速度・最大濃度・積算溶出量等)を整理し、前章で検討した降雨浸透特性に基づいて実環境時の溶出挙動について考察することとした。本研究で行ったカラム通水試験は、ISO/CEN 規格8,9)をベースとしカラム通水試験の基準化10,11)に向けて検討されている方法に準じて行った。具体的には、内径 6 cm、高さ 30 cm のアクリル製の円筒カラムに 11 層に分けて土壌試料を充填し、125g ランマーを高さ約 20cm から一層あたり 5 回自由落下させて突き固めた。試料の充填後、流量調整が可能なペリスタルティックポンプにより蒸留水をカラム下端から飽和速度約 20 mL/h で通水させて飽和させた後、カラムを2 日間静置し、通水速度が約 15 mL/h となるように通水を開始した。通水は,累積液固比 10 まで行い、所定の測定時間ごとに浸出液を採取し、水量、EC、pH の測定を行った。採水した検液は、砒素については水素化物発生原子吸光法、ほう素については ICP 発光分光分析法、塩素についてはイオンクロマトグラフ法、によりそれぞれ定量した。-139- 図−7 は、2015/10/25 に採取した TD と TS のカラム試験結果を示したものであり、累積液固比と浸出水の砒素、ほう素、塩素の濃度の関係と、累積液固比と積算溶出量の関係を整理したものである。累積液固比と積算溶出量の関係は、実験値を式(1)のワイブル分布曲線により近似し、また累積液固比とイオン濃度の関係は式(1)を累積液固比で1階微分した式(2)をあてはめて、それぞれ図中に破線で示した。図−8 はワイブル分布曲線の特徴を調べるために、c、c`、を a で除し T を b で除して正規化し、m=0.5、1.0、3.0 の場合の分布曲線を描いたものである。図より明らかなように、この分布曲線を適用した場合、m < 1 は初期の溶出速度が速い現象を、m = 1 は溶出速度がほぼ一定となり推移する現象を、m > 1 は T の増加に対して溶出速度が増す遅延効果を生ずる現象が表されることになる。また、図の横軸の推移は b に支配され、同様に式(1)から bm の大きさは溶出速度の尺度を表すパラメーターとなり、これらが大なるほど溶出は遅延し長期にわたることを意味する。パラメーターa は積算溶出量の漸近値を表し極限積算溶出量となる。実験結果の近似定数を表−4 に示す。また、図−9 は実験値および近似値の積算溶出量を a で除して正規化し、積算溶出量の推移を調べたものであり、近似曲線と実験値(○印、△印、◇印)を対比して示したが、図で明らかなように、尺度パラメーター(b、bm)の小さい塩素は、累積液固比 1.0 以内で極限積算溶出量の 95%に達しているのに対し、砒素は液固比 10 で 45~71%、ほう素は 61~89%の溶出にとどまっておりこれらのイオンは長期にわたって溶出が生じることが示されている。c  a  1  exp((T / b) m )c' (1)amTT exp(( ) m )  ( ) m1bbb(2)ここに、c :積算溶出量(mg/kg-soil) c’ :イオン濃度(mg/L)a :近似定数(極限累積溶出量、mg/kg-soil)0.060.60AsAsTD-As実験値TS-As実験値(2)による近似(TD-As)(2)による近似(TS-As)0.04As (mg/L)0.030.020.010.0002468累積液固比 (L/kg)10TD-As実験値TS-As実験値(1)による近似(TD-As)(1)による近似(TS-As)0.50積算溶出量As (mg/kg-soil)0.050.400.300.200.100.001203.02468累積液固比 (L/kg)10126.0BBTD-B実験値TS-B実験値(2)による近似(TD-B)(2)による近似(TS-B)B (mg/L)2.05.0積算溶出量B (mg/kg-soil)2.51.51.00.50.04.03.0TD-B実験値TS-B実験値(1)による近似(TD-B)(1)による近似(TS-B)2.01.00.002468累積液固比 (L/kg)10120100002468累積液固比 (L/kg)10121200ClTD-Cl実験値ClTS-Cl実験値10001000積算溶出量Cl (mg/kg-soil)(2)による近似(TD-Cl)(2)による近似(TS-Cl)100Cl (mg/L)T :累積液固比(L/kg)b,m:近似定数10800600400TD-Cl実験値TS-Cl実験値(1)による近似(TD-Cl)(1)による近似(TS-Cl)2000102468累積液固比 (L/kg)100122468累積液固比 (L/kg)図-7 累積液固比とイオン濃度・積算溶出量の関係(砒素・ほう素・塩素)-140-1012 1.24a)c'/a∼T/bm=1m=0.5m=30.8c/ac’/ab)c/a∼T/b1320.60.410.2m=1m=0.5m=300012T/b30412T/ b図−8 ワイブル分布曲線の特徴344.2 浸透水の液固比と積算溶出量の推定浸透流解析から底設ドレーンに集まる浸透水の集水面積は表表−4ワイブル分布曲線における近似定数−3 に示したように仮定した。集水面積に盛土の高さを加味し浸透域の体積を求め盛土の単位重量により固体重量を算定し、また砒素TDTS0.68 0.12616.58.01.05 0.98197.7区分浸透流解析で得られた浸透量と固体重量から液固比を算定し、浸abmbm透水の砒素、ほう素の濃度と浸透量から積算溶出量を求めると、カラム試験に対応する盛土試験体の液固比と濃度・積算溶出量の関係が得られる。算定結果は表−5 に示すとおりであり、累積液ほう素塩素TDTSTDTS0.71 5.2 658.9 82210.5 4.1 0.195 0.3211.01 0.91 1.161.110.7 3.60.150.29固比は最大でも 0.03 を示し、土壌環境試験の液固比 10 に対して約 1/333 の極めて液固比の低い状態で溶出が生じていることにな1.00る。この状態においては、浸透水の濃度は高くなる可能性がある0.80の周辺の利用環境への負荷は小さいことが想定される。図−10 は、表−5 の累積液固比と濃度および積算溶出量の関係を示したものである。破線はカラム試験で得た近似式をプロット積算溶出量/aが、浸透の絶対量は小さく物質量が少なくなるので、地下水など0.600.40しており液固比の低い領域での濃度および積算溶出量は浸透水の結果と大きな差がないことがわかる。のり面からの流出等ドレー0.20図−90.00ンで集水されない水や蒸発散量などの影響を考えると液固比や積TD-AsTS-AsTD-BTS-B累積液固比と正規化した積算溶出量の関係TD-ClTS-Cl010累積液固比 (L/kg)算溶出量の算定精度は十分ではなく、さらに実盛土における不飽和浸透と飽和通水によるカラム試験との整合性にも議論の余地は図−920累積液固比と正規化した溶出量の関係あるが、新たな知見として興味深いデーターであると考えられる。表−5試験盛土における液固比と積算溶出量砒素採水日項 目3浸透域(m )TD盛土3d (t/m)固体重量(kg)3浸透域(m )3d (t/m )TR盛土固体重量(kg)3浸透域(m )3d (t/m )TC盛土固体重量(kg)3浸透域(m )3d (t/m )TS盛土固体重量(kg)3浸透域(m )3d (t/m )TP盛土固体重量(kg)5.累積浸透量(L)液固比-3(×10 )累積濃度 物質量物質量(kg/L) (mg)(mg)ほう素積算溶出量(kg/kg)累積濃度 物質量物質量(kg/L) (mg)(mg)積算溶出量(kg/kg)3.11 2013/12/120.40.0980.0060.00240.0024 0.0000010.270.1081.308 2014/1/304,071 2014/8/262014/10/83.11 2013/12/121.123.634.31.30.2705.7978.4250.2830.0060.0050.0050.0010.00420.11250.05350.00130.00660.11910.17260.00130.0000020.0000290.0000420.0000000.270.171.00.130.1893.82510.70.1690.108 0.0000270.2974.12214.8220.1690.0000730.0010120.0036410.0000371.476 2014/1/304,594 2014/8/262014/10/83.11 2013/12/1210.772.2101.10.32.32915.71622.0070.0740.0010.0050.0050.0110.00940.30750.14450.00330.01070.31820.46270.00330.0000020.0000690.0001010.0000010.130.151.60.211.2229.22546.240.0631.39110.61656.8560.0630.0003030.0023110.0123760.0000151.309 2014/1/304,074 2014/8/262014/10/83.11 2013/12/120.814.822.20.90.1963.6335.4490.2210.0070.0050.0050.0160.00350.070.0370.01440.00680.07680.11380.01440.0000020.0000190.0000280.0000040.210.131.20.10.1051.828.880.090.1681.98810.8680.090.0000410.0004880.0026670.0000221.306 2014/1/304,065 2014/8/262014/10/82.66 2013/12/128.958.382.61.32.18914.34220.3200.4610.0050.0050.0050.0070.040.2470.12150.00910.05440.30140.42290.00910.0000130.0000740.0001040.0000030.050.160.350.040.47.9048.5050.0520.498.39416.8990.0520.0001210.0020650.0041570.0000181.058 2014/1/302,817 2014/8/262014/10/83.671.288.61.27825.27631.4530.0060.0060.0050.01380.40560.0870.0229 0.0000080.4285 0.0001520.5155 0.0001830.040.370.490.09225.0128.5260.144 0.00005125.156 0.00893033.682 0.011957おわりに復興資材を用いた試験盛土の降雨浸透特性を実務的な手法で調べたところ、浸透量の計算値と計測値は比較的良好な一致をみた。復興資材を河川堤防などに活用する際の構造検討において一般の土砂と同様な手法で浸透特性を評価する-141- 0.050.0005AsAs(積算溶出量)(2)式による近似(TDカラム-As)As (mg/L)(2)式による近似(TSカラム-As)0.03TR(浸透水)TS(浸透水)TR(浸透水)TC(浸透水)TS(浸透水)0.0001TP(浸透水)0.00TP(浸透水)0.000000.023.000.040.06累積液固比 (L/kg)B0.080.10B(積算溶出量)0.05積累算溶出量B (mg/kg-soil)(2)式による近似(TSカラム-B)TD(浸透水)2.00TR(浸透水)TC(浸透水)1.50TS(浸透水)TP(浸透水)1.000.020.06(2)式による近似(TDカラム-B)2.50B (mg/L)TD(浸透水)0.0002TC(浸透水)0.01(1)式による近似(TSカラム-As)0.0003TD(浸透水)0.02(1)式による近似(TDカラム-As)0.0004積算溶出量As (mg/kg-soil)0.040.500.040.06累積液固比 (L/kg)0.080.1(1)式による近似(TDカラム-B)(1)式による近似(TSカラム-B)TD(浸透水)0.04TR(浸透水)TC(浸透水)0.03TS(浸透水)TP(浸透水)0.020.010.000.0000.020.040.060.0800.10.02累積液固比 (L/kg)0.040.06累積液固比 (L/kg)0.080.1図−10 浸透水の液固比と濃度・積算溶出量の関係ことが可能であると考えられる。また、復興資材の透水性は低く見かけの浸透能は数%オーダーであり、液固比が 10 に達するには相当の年月を有することが予測された。したがって、環境基準を満足する材料を使用した場合においても盛土構築後の初期段階での浸透水から環境基準を上回る重金属の濃度が検出される可能性があり、利用環境における安全は濃度と物質量の両面から評価することが必要である。また、この種の材料の環境安全性を議論する上では、室内と現場を結ぶ有効な試験方法の開発や現象の解釈が重要な課題であり、本研究で適用した近似式で推定した液固比の低い領域における溶出と盛土の溶出には一定の関係が認められた。このことの検証は、さらに実験・実測データを集積し有害物質の存在形態や移流・分散の観点からの検討を加える必要があるものと考えている。本研究で得られた知見が、室内試験と現場で観測される溶出メカニズムの議論の一助となれば幸いである。謝辞:末尾ながら本研究の遂行にあたり、宮城県環境生活部にご尽力を頂くとともに地盤工学会復興資材提言委員会のメンバー・オブザーバーの方々には貴重な意見を賜った。また、カラム通水試験における検液分析には小笠原利明氏((一財)東海技術センター)にご協力を頂いた。記して謝意を表する。参考文献1)(公社)地盤工学会:災害廃棄物から再生された復興資材の有効活用ガイドライン、pp.78-93、20142)中村吉男、野口真一、肴倉宏史、勝見武:災害廃棄物由来の再生土砂を用いた盛土実証試験、第 21 回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会、講演論文集 (投稿中)3)野口真一・中村吉男・肴倉宏史・勝見武:分別土砂と循環資材を原位置混合し生成した復興資材による試験盛土(第 1 報)、第 11 回環境地盤工学シンポジウム、講演論文集 (投稿中)4)山口柏樹・大根義男:フィルダムの設計及び施工、技報堂、p.214、19735)(財)国土技術研究センター:河川堤防の構造検討の手引き(改訂版)、pp.54-55、20126)木村勝行:フィルダム取り付け地山部における浸透流に関する水理学的研究,中央大学学位論文,19907)荻田誠実・奥村哲夫・木村勝行・成田国朝:盛土斜面内の降雨浸透流に関する研究、愛知工業大学研究報告、第37 号 B、Vol37-B、20028)ISO/TS 21268-3 Soil quality Leaching procedures for subsequent chemical and ecotoxicological testing of soil and soilmaterials9)Part 3: Up-flow percolation test 、2007CEN/TS 14405 Characterization of waste −Leaching behavior tests− Up-flow percolation test ( under specifiedconditions)、200410) 中村謙吾・保高徹生・藤川拓朗・竹尾美幸・佐藤研一・渡邊保貴・井野場誠治・田本修一・肴倉宏史:上向流カラム通水試験の標準化に向けた重金属等の溶出挙動評価、地盤工学ジャーナル Vol.9、No.4、pp.697-706、201411) 肴倉宏史・保高徹生・井野場誠治・渡邊保貴・中村謙吾・藤川拓朗:環境影響評価のためのカラム通水試験の基準化に向けて、地盤工学誌、Vol.63、No.1、pp.16-21、2015-142-
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  • タイトル
  • 津波堆積物分別土に混入する木くずが一面せん断強さに及ぼす影響
  • 著者
  • 小竹 望・山中 稔・多田 有汰・山内 聡士
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 143〜148
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69534
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)5-4津波堆積物分別土に混入する木くずが一面せん断強さに及ぼす影響小竹望 1・山中稔 2・多田有汰 1・山内聡士 21 香川高等専門学校・2 香川大学工学部はじめに1.東日本大震災で大量の津波堆積物が発生した。その量は約 1,100 万トンであり,6 県の広域に渡っている。津波堆積物の分別処理は福島県以外の地域では 2014 年 3 月に終了し,現在は仮置き場に搬入されている 1)。これらの津波堆積物については,早期の段階から環境省の津波堆積物処理指針2)により震災復興に不可欠な土工資材として有効利用していく方針が示されている。また,震災直後から津波堆積物の物理化学特性やこれを分別処理した津波堆積物分別土の土質物性について調査研究 3), 4)が実施され,一部が盛土材等に利用されている。しかし,通常の分別処理では除去しきれない木くずの混入などの理由から,土工材料としての有効利用が十分に進んでいない状況にある。津波堆積物分別土に係わる課題として,発生地域によって土砂物性が元々異なること,分別処理方法の違いにより木くずの大きさと混入程度に違いがあること,木くず等が土の力学特性に与える影響が未解明であることなどが挙げられる。これらの課題により津波堆積物分別土の復興資材への利用は消極的なのが現状である。本研究は,上述の現況を踏まえて津波堆積物分別土の試料採取を行い,土質特性・締固め特性・力学特性に基づき土工材料としての適用性を評価して有効利用法を検討することを目的とする。本論では,現地採取した津波堆積物分別土の土質特性,締固め特性についてまとめ,大型一面せん断試験により津波堆積物分別土に混入する木くずが一面せん断強さに及ぼす影響について評価したので報告する。2. 津波堆積物分別土の土質特性岩手県・宮城県の津波被災地に仮置きされている津波堆積物分別土(図-1)を 5 ヶ所から採取した。これらは,被災地から集積した津波堆積物をふるい選別によって廃棄物を分離し,20 mm ふるいで分別された土砂である。岩手県復興資材活用マニュアル5)では分別土 A 種に分類される。図-2 に採取試料の例を,図-3図-1 津波堆積物分別土の仮置き状況に混入する木くずの例を示す。また,各試料の土質試験から得られた土質特性を表-1 に示す。各試料の粒径加積曲線を図-4 に示す。最大粒径が 19~37.5 mm で,均等係数 Uc は 10 以上,曲率係数 Uc’は 0.5~5.1 の範囲である。土質分類(三角座標)は,いずれの試料も細粒分まじり砂{SF}である。上記の土質特性から一般的な土工材料の範疇にあると考えられる。津波堆積物分別土には,木くず等の有機物が混入しa) 採取試料ている(図-3)。木くずは津波堆積物の集積・運搬過程b)含有礫図-2 津波堆積物分別土の例(試料 C)で混入し,ふるいによる分別処理では分離できなかったものである。長さ 4~5 cm までの細長い建材の破片,木片,木根,草木など様々な寸法,形状の木くずが混在している。木くず等の混入により土粒子密度は,やや小さめの試料がみられる。木くずを 37.5 mm から850 μm でふるい分けして試料 A試料 B得られた各ふるい残留分ご図-3 混入する木くず (2 mm ふるい残留)Evaluation of Shear Strength of Soils Separated from Tsunami Deposit using Large Type Direct Shear TestNozomu Kotake1, Minoru Yamanaka2, Yuta Tada1 and Satoshi Yamauchi2 (1NIT Kagawa College, 2Kagawa University)KEY WORDS: Tsunami deposit, Wood debris, Direct shear test, Compaction characteristics-143-試料 C との木くず含有率を図-5 に示す。ここで,表-1 津波堆積物分別土の土質特性木くず含有率は,津波堆積物分別土の乾燥質量に対する木くずの乾燥質量の割合(%)である。また,表-1 に 850 μm もしくは 2 mm 以上の木くず含有率をそれぞれ示す。採取試料の範囲では,木くず含有     試料土質特性土粒子密度ρ (g/cm3)ABCDE2.62(2.68)2.59(2.63)2.58(2.64)2.532.65率は,850 μm 以上は 0.3~1.3%,2mm 以最大粒径 (mm)19.026.537.5上は 0.1~0.9%の範囲にある。採取地に礫分 (%)17.126.130.911.136.7よって分別処理方法の違い,土砂物性等砂分 (%)51.546.940.755.339.4細粒分 (%)31.427.128.533.723.9均等係数 U c216.7160.576.238.7227.3曲率係数 U c'5.13.00.50.82.0の違いがあり,木くず混入量とその組成が異なっている。採取試料 A~E の強熱減量試験(JIS1226)から得られた 650 ℃による強熱減量値は Li=6.3~11.8%の範囲にある。同試える影響を調べるため,9.5 mm 通過試料を粉砕した試料の強熱減量試験を行った。9.5 mm 通過試料は,2 mm 通過試料に比して相対的に砂礫分が多くなるため強熱減量値は減少する。また,木くずを除去19.0細粒分まじ 細粒分まじ 細粒分まじ 細粒分まじ 細粒分まじり砂 SFり砂 SFり砂 SFり砂 SFり砂 SF土質分類験では 2 mm 通過試料を用いるが,2 mm以上の木くず除去試料が強熱減量値に与19.0強熱減量 L i (%)2mm通過試料9.5mm通過試料木くず含有率 (%)  850μm以上   2mm以上することにより,ばらつきがみられるが6.34.7(3.7)9.45.3(5.2)11.811.8(10.7)9.46.8--0.400.310.800.611.290.880.290.130.570.46※( )は2mmm以上の木くず除去試料の試験値強熱減量値は減少する(表-1)。木くず含有率と強熱減量との関係を図-6 に示す。木くず含10090807060504030201000.001有率の方が強熱減量値より小さいことから,津波られていない微細な有機物等を含んでいると考えられる。3. 津波堆積物分別土の締固め特性木くず混入試料(A~E の 5 種試料)について,木くず混入試料(採取試料)の締固め試験(JIS通過質量百分率(%)堆積物分別土はふるい分けあるいは手選別で捉え実験粒度A1210)を実施した。試験法は許容最大粒径に応じて決定した。すなわち,A・D・E 試料の 3 種は,ABCDE0.01最大粒径が 19 mm であることから,直径 10 cm の0.11粒径(mm)図-4 粒径加積曲線10100モールドを用いて A-a 法(2.5 kg ランマー使用,3層 25 回締固め,乾燥法・繰返し法)で試験した。0.5B 試料と C 試料は,最大粒径がそれぞれ 26.5 mm,37.5mm37.5 mm であることから,直径 15 cm のモールド26.5mm0.4を用いて B-a 法(2.5 kg ランマー使用,3 層 55 回試験における試料の含水比調整では,含水比を低下させる場合は最大 40 ℃までの温度で長時間かけて炉乾燥を行ない,含水比を増加させる場合は加水後 12 時間以上の放置時間をおいた。締固め試験から得られた最大乾燥密度 ρdmax(g/cm3)と最適含水比 wopt (%)を表-2 に,締固め曲9.5mm木くず含有率(%)締固め,乾燥法・繰返し法)で試験した。締固め19mm4.75mm0.32mm850μm0.20.1線を図-7 に示す。5 種の木くず混入試料は同様な土質分類{SF}の土であるが,その最大乾燥密度は0.0ρdmax=1.44~1.82 g/cm3 と幅広く分布している。ま試料A試料B試料C試料D試料E図-5 各ふるい残留の木くず含有率た,個々の締固め曲線は,比較的平坦な形状であ-144- る。14本研究では,試料 A~C の 3 試料について木くず除去2mm通過試料12強熱減量 Li(%)試料の締固め試験を実施した。木くず除去試料は 19 mm以下に粒度調整し,A-a 法により試験を行った。木くず除去試料の締固め試験結果を表-3 に,木くず除去試料と木くず混入試料の両者の締固め曲線を図-8 に示す。いずれの試料も木くず除去試料は,木くず混入試料に比して9.5mm通過試料(混入)9.5mm通過試料(除去)10864最大乾燥密度 ρdmax が増加し,最適含水比 wopt が減少する2傾向を示した。特に,試料 A の木くず除去による ρdmax00.00.20.40.60.82mm以上木くず含有率(%)の増加が大きい。試料 B と C の木くず除去による ρdmax1.0図-6 木くず含有率と強熱減量値の関係の増加が比較的小さい原因として,木くず除去試料の粒度を 19 mm 以下に調整していることが考えられる。締固め試験を実施した全試料について,土粒子密度と表-2 木くず混入試料の締固め試験結果最大乾燥密度の関係を図-9 に示す。これら物性値間には高い相関があり, 木くず除去により土粒子密度が増加す試料ABCDEるとともに締固めによって密実な状態になることが認め方法A-aB-aB-aA-aA-aρdmax(g/cm3)1.7691.7221.5921.4421.817Wopt (%)16.216.221.425.715.3られる。4. 津波堆積物分別土の一面せん断試験4.1 試験方法試料 A~C の木くず混入試料と木くず除去試料を対象表-3 木くず除去試料の締固め試験結果(A-a 法)とする圧密定圧一面せん断試験(JGS 0561)を行った。本研究で使用した一面せん断試験装置(図-10)は,垂直力を上面に作用させ,上側せん断箱を固定して,可動の下側せん断箱にせん断力を作用させる構造である。また,加圧側(上側)と反力側(下側)の両方の垂直力を測定試料ABCρdmax(g/cm3)1.9721.7881.634Wopt (%)11.615.420.6する。圧密圧力ならびにせん断過程の垂直応力は2.0る沈下がほぼ収束するまで圧密を行い,圧密圧1.9力を維持したまま垂直圧力として作用させた状1.8態でせん断過程に移行した。せん断力は,せん断変位 δ を 0.66 mm/min とするひずみ制御で作用させ,δ=23 mm まで載荷した。せん断過程における垂直圧力の定圧制御は,反力側の垂直応力が所定の応力になるように加圧力を調整した。4.2 供試体の作製AB乾燥密度 ρd(g/cm 3)σ=50, 100, 150 kN/m2 の 3 通りとした。圧密によCDE1.71.61.51.41.31.2供試体寸法は,実際に混入する木くずを有姿1.1のまま試験する目的から,直径 φ200 mm・高1.00さ H100 mm の大型とした。試料を締固め試験51015202530354045含水比 w(%)から得られた最適含水比 wopt に調整し,締固め図-7 津波堆積物分別土の締固め曲線度 Dc=90%以上に締固めた供試体をせん断箱内に作製した。その作製方法は,試料の最大粒径19 mm に対して 1 層の層厚を 20 mm とし,5 層で高さ 100 mm の供試体を作製した。締固めは,1.0 kg ランマーを使用して落下高さ 10cm で突き固め,1層あたりの落下回数を 150~200 回とした。本試験の供試体作製に与えた単位体積当たりエネルギーは Ec=230~310 kJ/m3 であった。これは,締固め試験(JIS A1210)における A 法・B 法におけるエネルギーが Ec≒550 kJ/m3 であるのに比して約 1/2 程度である。供試体の締固め度は,後述する圧密過程における供試体の圧縮量と供試体含水比の試験値を用いて算定すると,試料A は Dc=96.6~99.3%(平均 97.8%),試料 B は Dc=95.4~98.8%(平均 97.0%)であり,Dc=95%以上になった。試料 C は,やや低く Dc=92.8~95.9%(平均 94.0%)であった。ここでは,採取試料の状態を把握するため,木くず混入試料の供試-145- 体は非繰返し法とした。木くず除去試料の供2.1試体は,利用可能な試料に量的制約を受けた混入2.0乾燥密度 ρd(g/cm3)ため,使用後の木くず混入試料を用いて作製した。4.3 一面せん断試験の結果と考察1) 圧縮特性試料 C の木くず混入・除去試料について圧密圧力 σ=50, 100, 150 kN/m2 をそれぞれ作用させた圧密過程における時間~沈下量関係を除去A:B:C:1.91.81.71.61.5図-11 に示す。0.5 min 以内に全圧縮量の 90%1.4程度が圧縮したが,圧縮量が安定するまで051015t=60~120 min の圧密時間を設けた。木くず混20253035含水比 w(%)入試料の方が圧縮性が高いことが認められる。図-8 木くず混入・除去試料の締固め曲線なお,試料 A と B でも同様な傾向がみられた。2) せん断特性2.0木くず混入試料と木くず除去試料の差異に着目し最大乾燥密度 ρdmax(g/cm 3)混入試料て,一面せん断試験から得られた強度変形特性について述べる。ここでは試料 B と C の試験結果について,a)せん断応力~せん断変位の関係,b) 垂直変位~せん断変位の関係,c) せん断応力~垂直応力の応力経路と破壊包絡線を図-12,図-13 にそれぞれ示す。せん断応力τ~せん断変位δの関係(図-12a,図1.9除去試料1.81.71.61.51.4-13a)から,試料 B,C ともせん断変位 δ=0~10 mm2.502.55のせん断初期段階において,せん断応力 τ は木くず2.602.65土粒子密度 ρs (g/cm 3 )2.70図-9 土粒子密度と最大乾燥密度の関係混入試料よりも木くず除去試料の方が大きく,木くず除去により初期の剛性が大きくなる傾向が見られた。木くず除去により供試体の密度が高くなることが主な原因であると考えられる。垂直変位 ΔH~せん断変位 δ の関係(図-12b, 図-13b)から,木くず混入試料と木くず除去試料とも垂直応力が小さい試験(σ=50kN/m2)では,せん断初期で収縮し,その後膨張する正のダイレイタンシーが明瞭に現れる。これに対し,垂直応力が大きい場合には(σ=100,150 kN/m2),せん断初期に体積収縮が進み,せん断変位が大きくなっても膨張傾向を示さなくなる。試料 C では収縮状態に溜まっている。図-10 一面せん断試験装置この状況から,木くず除去によって土粒子間の接触,かみ合わせがよく働くようになり,正のダイレイタ0.01ンシーが大きくなる傾向が現れると考えられる。経過時間 t(min)1100.0せん断応力 τ~垂直応力 σ の応力経路(図-12c, 図0.5-13c)から。木くずを除去することによる応力経路圧密量 ∆H(mm)の大きな変化はみられない。なお,応力経路に示す垂直応力は,せん断面に発生する垂直応力として上側(載荷側)と下側(反力側)の平均値とした0.16)。この平均値は下側の垂直応力よりも大きな値になる。これは,せん断初期段階では供試体が圧縮して周面摩擦が上向きに働くためである。1.01.52.02.53.03.54.04.5σ 混入50100150除去図-11 圧密過程の時間~沈下量関係-146-100 300300混入試料除去試料混入試料除去試料σ=150せん断応力 τ(kN/m 2)せん断応力 τ(kN/m 2)250200σ=100150σ=5010050250200σ=100150σ=5010050005101520せん断変位 δ(mm)2503005a)せん断応力~せん断変位の関係1.5101520せん断変位 δ(mm)301.5σ=1501垂直変位 ∆H(mm)0.50.0051015202530-0.5-1.0σ=1000.500510-1.5-2b) 垂直変位~せん断変位の関係300垂直応力(kN/m2)300混入試料除去試料混入試料除去試料せん断応力 τ(kN/m 2)250200150100500c)30せん断変位 δ(mm)b) 垂直変位~せん断変位の関係5025除去試料せん断変位 δ(mm)020-1-2.025015-0.5混入試料混入試料除去試料-1.5せん断応力 τ(kN/m2 )25a) せん断応力~せん断変位の関係1.0垂直変位 ∆H(mm)σ=150100150垂直応力 σ(kN/m 2)20020015010057.136624109.49860169.97747249.09394500せん断応力~垂直応力の応力経路図-12 一面せん断試験結果(試料 B)100150垂直応力 σ(kN/m 2)200250せん断応力~垂直応力の応力経路図-13 一面せん断試験結果(試料 C)表-4 津波堆積物分別土の強度定数  試料力cが 4.2 kN/m2 減少するが内部摩擦角 φ はほぼ同様であった。試料 C では,粘着力cはほぼ同様であり,内部50c)破壊包絡線を図-12c と図-13c に示している。木くずを除強度2ABC混入除去混入除去混入除去摩擦角 φ は 2.6°増加した。表-4 に試料 A~C の一面せc (kN/m )37.049.651.746.864.263.7ん断試験で得られた強度定数を示す。本実験で確認したφ (°)43.342.0046.346.146.849.4範囲では,木くずの除去の効果がせん断強さに明瞭に現れない結果となった。-147-54.27183597.561980171.25071251.07482垂直応力(kN/m2)0250去することによる強度定数の変化は,試料 B では,粘着y=1.0728x+64.175 5. まとめ本研究では,津波堆積物分別土の土工材料としての適用性を評価するため,現地採取試料について土質特性,締固め特性を調べ,大型一面せん断試験を用いて分別土に混入する木くずが一面せん断強さに及ぼす影響について評価した。以下に得られた知見を示す。・仮置きされている津波堆積物分別土を 5 ヶ所から採取して土質試験を行った結果,分別処理で分離できなかった木くずを混入することが確認できた。この点を除けば,特に土工材料として問題のない土質と考えられた。・津波堆積物分別土は締固めにより最大乾燥密度と最適含水比が通常の土砂と同様に得られる。しかし,木くず混入により平均的な土粒子密度が低下するため,締め固めた状態でも土の密度は比較的小さくなる。混入する 2 mm 以上の木くずをふるい分別で除去した試料は,締固めによって密実な状態になりうることが確認できた。・津波堆積物分別土の採取試料と 2 mm 以上の木くずを除去した試料について大型一面せん断試験を実施した。本実験では,それぞれの最適含水比に調整して締固め度を概ね 95%以上で締固めた供試体を用いた。試験の結果から,木くずの除去により土の剛性が高まること,正のダイラタンシーが生じやすくなることから,通常の砂質材料に近い性状に近づくことが確認された。一面せん断強さについては,木くず除去による効果が明瞭に現れない傾向を示した。・本研究の木くず混入に係わる比較試験結果の範囲で,津波堆積物分別土の土工材料としての適用性を結論づけるのは早計であり,木くずの性状,その混入の程度などによる影響,長期的な安定性などの検討課題を残している。謝辞:本研究を実施するにあたり環境省環境研究総合推進費・補助金の支援を受けた。また,地盤工学会震災対応地盤環境研究委員会の指導・協力を受けた。代表者かつ委員長である京都大学勝見教授ならびに関係各位に深く謝意を表します。参考文献1)環境省 HP:災害廃棄物処理の経過,2014.3. http://kouikishori.env.go.jp/disaster_waste/progress/2)環境省 HP:東日本大震災津波堆積物処理指針,2011.7. https://www.env.go.jp/jishin/attach/sisin110713.pdf3)高井敦史,保高徹生,遠藤和人,勝見武:東日本大震災における津波堆積物の分布特性と物理化学特性,地盤工学ジャーナル,Vol.8, No.3, pp.391-402, 2013.4)風間基樹,森友宏,大沼清孝,大山浩一,相川良雄:災害がれき及び津波堆積物由来の木くず混じり発生土の有効利用のための土質力学特性の評価,地盤工学会特別シンポジウム-東日本大震災を乗り越えて-発表論文集,pp.93-101, 2014.5)岩手県環境生活部:岩手県復興資材活用マニュアル, 2013.6)蓮井 優,濱口竜一,小竹望:自然由来繊維を混合した砂質土の強度変形特性に関する基礎研究,2014 年度土木学会四国支部第 20 回技術研究発表会講演概要集, pp.123-124, 2014.-148-
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  • タイトル
  • 災害廃棄物分別土と産業副産物の混合土の環境特性に関する検討
  • 著者
  • 大河原 正文・吉野 貴尋・齊藤 康明・山川 裕美恵
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 149〜152
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69535
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)5-5災害廃棄物分別土と産業副産物の混合土の環境特性に関する検討○大河原正文 1・吉野貴尋 1・齊藤康明 1・山川裕美恵 11岩手大学工学部1. はじめに2011 年 3 月 11 日の東日本大震災により岩手県,宮城県,福島県では 2800 万トンにも及ぶ災害廃棄物等が発生した。災害廃棄物等には金属,コンクリート,木材などの廃棄物のほかに津波堆積物といった土砂態のものも含まれている。これら災害廃棄物等は仮置き場において破砕・選別処理され,このうち土砂分は分別土もしくは分級土などと呼ばれている。津波堆積物と廃棄物から分別された土砂の総量は全体の約半分に達し,分別土の活用は復興事業における重要課題のひとつである。しかし,分別土には強熱減量で 10%程度の木片が含まれており強度が不足することから,海岸堤防の中込土や道路の盛土材といった地盤材料としての活用は困難であった。そこで,これら分別土の有効活用を図るべく,粒子間に大きな摩擦が生じることで強度増加が見込める産業副産物を混合した混合土について環境性能について検討した。2. 試料の概要2.1 分別土および産業副産物試験に用いた試料は,東日本大震災の被災沿岸部にある A 地区および B 地区の災害廃棄物分別土(以後,A 地区分別土,B 地区分別土とする)である。A 地区分別土は,津波堆積物に石膏系改質剤を添加し含水比調整後 30mm 目のフルイを通過した土,B 地区分別土は,津波堆積物に高分子系改質剤を添加し含水比調整後20mm 目のフルイを通過した土である。これら分別土と鉄鋼系の産業副産物を乾燥質量比 4:6 の割合で混合したものを混合土(以後,A 地区混合土,B 地区混合土とする)とした。本試験ではこれら 4 種類の土を対象とした。図-1 災害廃棄物分別土2.2 試料単体での環境安全性A 地区分別土,B 地区分別土,産業副産物,これら三つの試料に対して単独での第二種特定有害物質 9 種の溶出試験を行った。Cd,B,Pb,As,Se は ICP-AES また水素化物 ICP-AES(JIS K 0102 54.3,47.3,55.3,61.3,67.3)により測定し、Cr6+はジフェニルカルバジド吸光光度法(JIS K 0102 65.2.1),F はランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法(JIS K 0102 34.1),CN-はピリジン-ピラゾロン吸光光度法(JIS K 0102 38.2),Hg は還元気化吸光分析(JIS K 010266.1.1)により測定した。表-1,図-2 に測定結果を示す。Pb,As,F,B,Se が検出されたが,環境基準値を超過する物質は検出されなかった。F は分別土から比較的多く検出されたが,いずれも海水由来と考えられる。海水には平均して 1.3mg/L の F が含まれていることが知られている1)。表-1試験分析項目カドミウム及びその化合物六価クロム化合物シアン化合物溶水銀及びその化合物出試 セレン及びその化合物験 鉛及びその化合物砒素及びその化合物フッ素及びその化合物ほう素及びその化合物第二種特定有害物質の測定結果環境基準値A地区分別土 分析結果0.01mg/L 以下0.001mg/L 未満0.05mg/L 以下不検出(定量限界値0.1mg/L)検出されないこと不検出(定量限界値0.1mg/L)水銀0.0005mg/L以下、かつアル0.0005mg/L 未満キル水銀が検出されないこと0.01mg/L 以下0.001mg/L 未満0.01mg/L 以下0.001mg/L 未満0.01mg/L 以下0.001mg/L 未満0.8mg/L 以下0.34mg/L1mg/L 以下0.07mg/LB地区分別土 分析結果0.001mg/L 未満0.005mg/L 未満不検出(定量限界値0.1mg/L)産業副産物 分析結果0.001mg/L 未満0.005mg/L 未満不検出(定量限界値0.1mg/L)0.0005mg/L 未満0.0005mg/L 未満0.001mg/L 未満0.007mg/L0.003mg/L0.61mg/L0.07mg/L0.001mg/L0.005mg/L0.001mg.L 未満0.08mg/L 未満0.01mg/L 未満Environment Characterization of the Mixed Soil by Mixing Classified Soil of Disaster Waste and Industry by-products.Masafumi Okawara1, Takahihiro Yoshino1, Yasuaki Saito1 ,Yumie Yamakawa (1Iwate University)KEY WORDS: Column test, Classified Soil, Industry by-product-149- 図-2 第二種特定有害物質の測定結果(環境基準値に対する測定値の割合)3. カラム試験の概要A 地区分別土,B 地区分別土およびそれらに産業副産物を混合した A 地区混合土,B 地区混合土の計 4 試料に対してカラム試験を行った。具体的には,試験盛土からシンウォールで採取した不攪乱土をアクリル製のカラム(直径:130mm、高さ:1m)に充填し、送液ポンプにより超純水を供給した。浸透水の流下方向は実地盤と同じ鉛直方向とした。透水量は、年間降水量約 1300mm(2004 年から 2013 年の当該県 28 観測地点の平均年間降水量 1282mm)2)をもとにし,同量を 30 日で通水した。浸透水はカラム下部の三角フラスコで 1L 毎に採水した。次に,採取した浸透水に対し pH,EC(電気伝導率),塩分濃度,色度・濁度を測定するとともに,浸透水に含まれている陰イオン(PO43-,Cl-,SO42-)濃度を測定した。イオン分析では浸透水を 0.45μm のメンブレンフィルターで濾過し,測定ごとに校正を行った。なお,測定はイオンクロマトグラフィー法による。図-3 室内カラム試験の様子図-4 カラム試験概要図4. 浸透水の測定結果および考察4.1 pHA 地区分別土,B 地区分別土はともに pH7~8 を示しほぼ中性であった。一方、A 地区混合土は pH 7~12,B 地区混合土は pH 12 とアルカリ性を示した。混合土で pH が高いのは,産業副産物の主成分である石灰(CaO)が水と反応するためと考えられる。4.2 EC(電気伝導率)採水開始時,EC は A・B 地区分別土で 15mS/cm 程度,A・B 地区混合土で 7~10mS/cm 測定されたが,時間経過に伴って 2~4mS/cm 程度まで低下した。これらの値は海水の EC(44mS/cm)3)レベル以下である。4.3 塩分濃度採水開始時,塩分濃度は A・B 地区分別土が 0.7%程度,A・B 地区混合土で 0.1~0.4%であったが時間経過に伴い低下して 0%になった。採水開始時に測定された塩分濃度は汽水(0.05~3%)4)レベルである。-150- 4.4 色度・濁度浸透水を 50 倍希釈し,色度・濁度を測定した。分別土の色度は試験開始時には低い値を示したが,A 地区分別土で採水量が 5L のとき,B地区分別土で採水量が 7L を境に急増した。このとき濁度も増加していることから,色度の上昇はカラム下部の濾紙が破れて試料が混入したことによるものである。一方,混合土は採水初めから褐色を呈し色度も 20~25 であったが時間経過とともに低下した。濁度には大きな変化は認められず低い値を示していた。4.5 陰イオン濃度分別土には不溶化剤として石膏が添加されているケースがあり,産業副産物にはリン(P)や石灰が入っているため陰イオン分析を行った。PO43-図-5 褐色の浸透水(B 地区混合土):分別土から PO43-は検出されなかったが,混合土から採水開始時に検出された。:分別土から採水開始時に最大 800mg/L の Cl- が検出されたが時間経過とともに減少した。これは分別土に含Cl-まれる海水由来の Cl-が希釈したと考えられる。混合土からは検出されなかったが産業副産物の主成分である石灰(CaO)と反応し,塩化カルシウムになった可能性がある。SO4 :分別土,混合土から 100~1200mg/L の SO42-が検出されたが,B 地区混合土を除いて時間経過に伴う減少は認2-められなかった。分別土には津波堆積土処理の際に不溶化材として石膏(CaSO4・2H2O)が添加されている。図-6図-7pH の経時変化EC の経時変化図-8 塩分濃度の経時変化図-9 色度の経時変化-151- 図-10図-11図-123PO4 -濃度の経時変化Cl-濃度の経時変化2SO4 -濃度の経時変化※図-10~12 の横軸(採水量)1:1~4L 2:5~7L 3:8~10L 4:11~13L5. まとめ本研究では,東日本大震災の災害廃棄物処理過程で発生した分別土の有効活用を図るべく,強度増加が見込める産業副産物を混合した混合土の環境性能に関する試験を行ってきた。具体的には,(1)分別土および産業副産物単体での第二種特定有害物質の測定,(2)分別土および混合土のカラム試験から得られた浸透水の電気化学測定,である。得られた知見を以下に示す。(1) A 地区分別土,B 地区分別土,産業副産物の単体 3 試料に対して,第二種特定有害物質の溶出量試験を行った。土壌汚染対策法に示された環境基準値を超過する第二種有害物質は検出されなかった。(2) A 地区分別土,B 地区分別土,A 地区混合土,B 地区混合土の 4 試料についてカラム試験を実施し,浸透水に対して電気化学測定を行った。分別土(A 地区,B 地区)は,pH は約 7~8 でほぼ中性,EC は 15mS/cm 未満,塩分濃度は 0.7%未満と低く,いずれも採水時間の経過とともに低下した。イオン分析結果から海水由来と考えられる Cl-が検出されたほか,SO42-が測定された。混合土は,pH が最大 12 でありアルカリ性である。EC は 10mS/cm 未満,塩分濃度は 0.4%未満と低く,採水時間の経過とともに低下した。また,採水の初期段階では浸透水が褐色となり,色度は 50 倍希釈にもかかわらず 20~25 まで上昇した。その後,採水時間の経過に伴い色度は 5 未満にまで低下している。上昇の原因については今後の課題である。イオン分析結果から採水開始時に PO43-が検出されたが時間経過とともに未検出となった。A 地区混合土では SO42-が測定された。以上より,分別土および産業副産物との混合土の電気化学測定値から環境に重大な負荷を与えるような特異性は認められなかった。混合土については浸透水が褐色を呈し,pH がアルカリ性を示すといった特徴が認められた。参考文献1) 日本海水学会・日本ソルト・サイエンス研究財団:海水の科学と工業,東海大学出版会,p.28,19942) 気象庁:気象データ検索(降水量,気温,風,日照,詳細雪など)2015.3 現在3) 和田洋六:入門水処理技術,東京電機大学出版局,p.71,20124) 「汽水域の科学」講師グループ:汽水域の科学 中海・宍道湖を例として,たたら書房,p.1,2001-152-
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  • タイトル
  • 廃棄物埋立地盤の物理組成が圧縮強度の発現に及ぼす影響
  • 著者
  • 川井 晴至・島岡 隆行・坂口 伸也
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 153〜160
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69536
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)6-1廃棄物埋立地盤の物理組成が圧縮強度の発現に及ぼす影響○川井晴至 1・島岡隆行 2・坂口伸也 31九州大学東アジア環境研究機構・2 九州大学大学院工学研究院・3 前田建設工業株式会社1. はじめに全国の不法投棄現場や不適正な処分場にはプラスチックを多く含む埋立廃棄物が残置されている。不法投棄による支障除去の対策や有効な跡地利用が望まれており、廃棄物埋立地盤特有の力学特性を明らかにすることが求められている。筆者らのこれまでの研究により、廃棄物埋立地盤に含まれるプラスチック等の繊維状物が引張抵抗を発揮するため、その力学特性は盛土等の通常の地盤とは大きく異なること 1)、また一軸圧縮試験において長さ 40 mm 以上の軟プラスチックが張力による拘束効果(補強効果)を発揮する結果、供試体中央部に発生するはらみ出しの変形を拘束し、大きな圧縮応力の発現に寄与することを指摘している2)。日本においてプラスチックを多く含む廃棄物埋立地盤の土質試験の事例は少ない。しかし、紙類やプラスチック等の繊維状物を多く含む類似した試料として、海外の最終処分場で形成される都市ごみ地盤が挙げられ、欧米を中心に 1990 年代頃から多くの土質試験が実施されている。せん断試験に関しては、様々な最終処分場から採取した都市ごみ試料を用いて実施されており、そこでは、繊維状物による補強効果の影響を受け、試験装置の限界までせん断変位を与えてもピークを示さず、せん断応力が増加し続ける結果が得られている3)。また、国際的にも都市ごみ地盤の土質定数を定量的に得る試験装置および試験方法は確立していない。これらの背景を受け、筆者らは従来のせん断試験とは異なる、廃棄物埋立地盤に含まれる軟質のプラスチックの補強メカニズムに着目した研究を行っているが、廃棄物埋立地盤には様々な材質および形状を有した成分が不規則に混在しており、また現場毎に異なる組成を有することから、廃棄物埋立地盤の力学特性の一般性を明らかにするためには、各ごみ成分が地盤中で示す役割を個別に明らかにする必要性がある。本研究では、類似した物理組成を有する 2 つの廃棄物埋立地盤から採取した試料を用い、組成分析や一面せん断試験を通じて両試料に含まれる各成分の差を比較した後、一軸圧縮試験によって各成分が圧縮強度の発現に及ぼす影響を考察した。2. 試験に用いた埋立廃棄物の比較2.1. 埋立廃棄物の組成分析産業廃棄物の不法投棄によって形成される廃棄物埋立地盤は様々である。しかし、大規模に形成され、斜面崩壊の危険性が指摘される廃棄物埋立地盤はプラスチックを多く含むものが多い。また、このような大規模な廃棄物埋立地盤は、全量撤去が費用の観点から難しく、跡地利用が望まれる事案でもある。本研究では、プラスチックを多く含む関東地方と中部地方の不法投棄現場(図-1)から試料をそれぞれ採取した。関東地方の不法投棄現場から採取した試料を関東試料とし、中部地方の不法投棄現場から採取した試料を中部試料とする。廃棄物埋立地盤の力学特性を把握する観点において、国際的に標準化された組成分析方法はまだ存在していないため4)、本研究では一般廃棄物のごみ質の分析方法 5)に準拠した。その状況を図-2 に示す。通常プラスチックはプラスチック類として一つの項目で表記されるが、本研究では軟プラスチックと硬プラスチックに分類した。軟プラスチックは容器包装のシートやフィルムとして用いられたと考えられる軟らかい紐状・シート状のもので、手で容易に引き延ばせる図-1不法投棄によって形成されたプラスチックを多く含む廃棄物埋立地盤(左:関東地方、右:中部地方)Effect of each components contained in the illegally dumped solid waste on the expression of compressive strengthSeiji Kawai1, Takayuki Shimaoka1, Shinya Sakaguchi2 (Kyushu University1, Maeda Corporation2)KEY WORDS: Illegally dumped solid waste, Soft plastic, Compressive stress, Confined stress-153- ゴム類繊維その他陶磁器・石類硬プラ軟プラ金属類木図-2類木紙類厨芥類ガラス類0金属類ゴム類陶 磁 器・ 石 類その他その他関東試料中部試料7060504030201000.001土砂)図-3ゴム・皮革類80(陶磁器・石類90通過質量百分率(%)0.0 0.0 木・竹・ワラ類0.0 0.0 繊維0.0 0.0 軟プラスチック0.1 3.6 0.3 0.2 硬プラスチック0.5 0.6 5.9 8.5 金属類1.5 2.0 7.2 0.1 2010062.2 35.4 49.1 中部試料23.0 組成割合 % (重量比)関東試料40類硬プラ組成分析状況(左:関東試料、右:中部試料)8060軟プラ繊維0.01埋立廃棄物の組成分析結果0.11粒径(mm)図-410100粒径加積曲線ものとした。硬プラスチックは食卓容器等として用いられたと考えられる硬く三次元的な構造を有し、手では引き延ばせないものとした。また,本稿ではプラスチックと表記した場合は両方を含むものとする。紙類や厨芥類は含まれておらず、ガラス類に関しては瓶の破片のようなものは含まれているが、本試験では陶磁器・石類に含めた。その他に分類される成分は、目開き 4.75 mm の篩を通過したもので、両試料とも主に土砂であった。各成分の乾燥状態における重量比を図-3 に示す。試料は恒温乾燥炉を用いて乾燥させ、乾燥温度は 110℃,乾燥時間は 24 時間とした。プラスチック等には,乾燥後も土砂分が付着しているため、手で可能な限り除去した。その結果、関東試料は陶磁器・石類 49.1 %、硬プラスチック 5.9 %、軟プラスチック 1.5 %、その他 35.4 %であり、この 4 種で全重量比の 91.9 %を占めた。中部試料は陶磁器・石類 23.0 %、硬プラスチック 8.5 %、軟プラスチック 2.0 %、その他 62.2 %であり、この 4 種で全重量比の95.7 %を占めた。両試料とも、陶磁器・石類、土砂分から成る廃棄物土粒子とプラスチックによって主に構成される複合地盤と言えるが、関東試料には粗礫分および中礫分に相当する粒径の大きな廃棄物土粒子が多く含まれていた(図-4)。また、本研究で着目する軟プラスチックの重量比の差は 0.5 %であるが、全体的には中部試料に多くの軟プラスチックが含まれているように見受けられた。しかし、軟プラスチックは廃棄物土粒子と比較すると密度が小さいため、試料全体における重量比の割合は小さい。このため、体積比として表記することも考えられるが、軟プラスチックの体積比測定に関する試験法は確立しておらず、具体的な数値の測定には至っていない。2.2. 軟プラスチックの樹脂別含有量と機械的性質廃棄物埋立地盤に含まれる軟プラスチックは、その力学特性に大きく影響を及ぼすと考えられる。詳細な成分分析として、軟プラスチックの樹脂成分の判別試験を行った。判別方法は、試料に含まれる軟プラスチックの中から、比較的寸法の大きな 100 サンプルを抽出し、密度差を利用した水中での浮き沈み等の簡易な方法 6)を用いて樹脂を分類した。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)はある程度明確に判別できるが、はっきりと判別できないものはポリスチレン(PS)とした。判別結果を表-1 に示す。両試料とも PE がもっとも多く含まれているが、PEと PP の機械的性質は類似しており、また、PVC の引張強さは PP、PE と比べるとやや小さいが、破断時伸びの下限は PPよりも大きい。PE、PP、PVC が占める割合は、関東試料で 98 %、中部試料で 87 %であり、両試料に含まれるほとんどの軟プラスチックの破断時伸びは地盤の変形量と比較すると極めて大きいため、軟プラスチックは転圧や上載荷重の増加による地盤内での応力履歴に関わらず、地盤の変形に追随すると考えられる。また、我が国におけるプラスチックの年間生産量の約 6 割は PE、PP、PVC で占められており、用途別生産比率ではフィルム・シートがもっとも多く約 4 割を占-154- 表-1軟プラスチックの樹脂別割合と機械的性質含有割合(%)樹脂名比重引張強さ破断時伸び(%)37(g/cm )0.94(MPa)22-3850-800200.9129-38200-70018301.356.9-25300-4502131.0734-821.0-2.5関東試料中部試料ポリエチレン(PE)50ポリプロピレン(PP)30ポリ塩化ビニル(PVC)ポリスチレン(PS)3注)比重、引張強さ、破断時の伸びは参考文献 7)より抜粋表-2項目単位2せん断箱内の土質条件と試験結果関東プラ除去試料中部プラ除去試料圧密応力:σ ckN/m2537.5502537.550湿潤密度:ρ tg/cm 31.501.491.451.601.611.61乾燥密度:ρ dg/cm 31.171.161.131.301.321.320.8320.830含水比:w%土粒子の密度:ρ s28.5g/cm 3間隙比:e2.5251.167定圧せん断強さ:τ fkN/mせん断変位:δ fmmせん断抵抗角:φ粘着力:C222.32.4161.1731.2420.85241.654.569.937.747.963.132.533.733.217.920.528.7°48.545.5kN/m 212.911.5せん断応力 (kN/m2)806040関東プラ除去中部プラ除去2000図-5定圧一面せん断試験の実施状況10図-6203040垂直応力 (kPa)5060せん断応力-垂直応力の結果めている 8)。生産量の観点からも、不法投棄現場に含まれる軟プラスチックには、PE、PP、PVC のシート状のものが多く含まれると推測される。2.3. 廃棄物土粒子の土質定数両試料の陶磁器・石類、土砂分からなる廃棄物土粒子の土質定数の差を明らかにするため、関東試料、中部試料の篩い下 19 mm からプラスチックを手選別によって除去した関東プラ除去試料、中部プラ除去試料をそれぞれ作製し、定圧一面せん断試験を行った。使用した一面せん断試験機(図-5)は大嶺によって廃棄物埋立地盤の現地試験用に開発された装置で、せん断箱の面積は 30 cm×30 cm、高さは 15 cm である。この装置を用いたプラスチックを含む関東試料の現地試験の結果は宮本 9)によって報告されている。本研究では、廃棄物土粒子の土質定数を得ることが目的であり、圧密応力は 25.0 kN/m2、37.5 kN/m2、50.0 kN/m2、せん断速度は宮本による試験と同様に 1 mm/min とした。両試料とも自然含水比とほぼ同等となるように調整され、充填方法はランマー質量 2.5 kg、自由落下高さ 30 cm、締固め層数 3、1 層当たりの締固め回数 100 とした。圧密完了後のせん断箱内の土質条件を表-2 に、試験結果を図-6 および図-7 に示す。せん断応力-せん断変位および鉛直変位は両試料で多少の差が見られるが、関東プラ除去試料でせん断抵抗角:φ=48.5°、粘着力:C=12.9 kN/m2、中部プラ除去試料でφ=45.5°、C=11.5 kN/m2 となり、ほぼ同等の土質定数であった。関東プラ除去試料の圧密応力 50.0 kN/m2 における鉛直変位は、せん断変位 22 mm 付近から沈下に転じている。プラスチックを除去した陶磁器・石類、土砂分からなる試料であるためせん断変位に伴う陶磁器・石類の試料への埋没等の特異な挙動が生じたにものと推察される。-155- 807070せん断応力 (kN/m2)せん断応力 (kN/m2)8060504030関東プラ除去‐σc: 25.0 kN/m220関東プラ除去‐σc: 37.5 kN/m2関東プラ除去‐σc: 50.0 kN/m21060504030中部プラ除去‐σc: 25.0 kN/m220中部プラ除去‐σc: 37.5 kN/m2100中部プラ除去‐σc: 50.0 kN/m200510152025せん断変位 (mm)3035400‐4.010152025せん断変位 (mm)303540303540‐4.0関東プラ除去‐σc: 25.0 kN/m2‐3.0中部プラ除去‐σc: 25.0 kN/m2‐3.0関東プラ除去‐σc: 37.5 kN/m2中部プラ除去‐σc: 37.5 kN/m2関東プラ除去‐σc: 50.0 kN/m2鉛直変位 (mm)鉛直変位 (mm)5‐2.0‐1.00.01.0中部プラ除去‐σc: 50.0 kN/m2‐2.0‐1.00.01.02.02.00510図-7152025せん断変位 (mm)3035400510152025せん断変位 (mm)定圧一面せん断試験の結果(左:関東プラ除去試料、右:中部プラ除去試料)3. 廃棄物埋立地盤試料を用いた一軸圧縮試験3.1. プラスチックの含有による圧縮強度の比較関東試料と中部試料を用いて一軸圧縮試験(φ100 mm×h200 mm)を実施した。供試体は、篩いなし試料、篩い下 19 mm試料、篩い下 19 mm 試料からプラスチックを除去したプラ除去試料(一面せん断試験と同試料)の 3 種類の試料から非繰返し法によって作製され、それぞれ 3 回実施された。関東試料を用いた一軸圧縮試験の結果は、前回の本シンポジウムにて報告されている 2)。プラ除去試料の圧縮応力、破壊ひずみがもっとも小さく、供試体の中央部がはらみ出すように破壊した。一方、篩なし試料(長さ 40 mm 以上の軟プラスチックを含む試料)の圧縮応力はもっとも大きく、供試体全体が圧縮変形した。中部試料を用いた供試体の作製方法も関東試料と同様とし、ランマー質量 2.5 kg、自由落下高さ30 cm、締固め層数 3、1 層当たりの締固め回数 25 とした。圧縮速度は 1 mm/min とし、データは 5 秒毎に取得し 1 分間の相加平均とした。各供試体の土質条件および結果を表-3 に、圧縮応力ひずみ曲線を図-8 に示す(関東試料が線のみ、中部試料がマーカー付きで表示。各試料 3 供試体の中から最大圧縮応力が中央値を示す 1 供試体の結果を抽出)。中部試料の結果も関東試料と同様、プラ除去試料の圧縮強度が小さく、比較的大きなプラスチックを含む篩なし試料の圧縮強度がもっとも大きかった。しかし、両試料とも篩なし試料の試験結果はばらつきが大きく、中部篩なし試料の圧縮強度は 150.0~213.8 kN/m2、関東篩なし試料で 133.1~270.2 kN/m2 であった。一方、中部篩い下 19 mm 試料の圧縮強度は 69.3~75.9 kN/m2 であった。一般的に供試体に含まれる成分の最大寸法は供試体の 5 分の 1 以下でなければならず、埋立廃棄物においても篩い下 19 mm 試料およびプラ除去試料の結果が定量的なデータであると推測される。しかし、データのばらつきを考慮しても、篩なし試料の圧縮強度は篩い下 19 mm の 2 倍以上であり、長さ 40 mm 以上 2)の軟プラスチックが供試体の変形を抑制する結果、大きな圧縮応力が発現すると考えられる。関東試料と中部試料を比較すると、全体的に見れば両試料の応力ひずみ曲線は類似した傾向を示した。特に、プラ除去試料における両試料の結果はよく一致している。一面せん断試験によって得られた土質定数がほぼ同等であるため、妥当な結果と考えられる。篩い下 19 mm 試料に関しては、関東試料の最大圧縮応力の平均値 89.2 kN/m2 は中部試料の 73.7kN/m2 の 1.21 倍であるが、弾性係数はほぼ同等で、図-8 中の応力ひずみ曲線においても圧縮ひずみ 8 %程度まではよく一致した。篩なし試料の結果はばらつきが大きいが、関東試料の最大圧縮応力の平均値は 206.0 kN/m2 であり、中部試料の 176.6 kN/m2 の 1.17 倍であった。また、供試体の圧縮状況も異なっており、関東篩なし試料は供試体全体が圧縮する変形であるのに対し、中部篩なし試料では供試体の上半分がはらみだすような変形であった(図-9)。中部篩なし試料の 3 供試体は、はらみだすような変形状態においても圧縮応力は増加または微増し続け、減少には転じなかった。-156- 表-3項目プラスチックの含有別による供試体の土質条件と結果(3 回の平均値)関東試料単位中部試料篩なし篩し下19mmプラ除去篩なし篩し下19mmABCA'B'C'試料名プラ除去湿潤密度:ρ tg/cm 31.411.551.541.501.561.66乾燥密度:ρ d1.101.161.201.191.281.37含水比:wg/cm 3%28.133.428.525.721.821.3土粒子の密度:ρ sg/cm 32.4282.4402.5252.2592.3032.4161.2071.1031.1040.8980.7990.764206.089.258.3176.673.756.7破壊ひずみ:ε xkN/m 2%16.28.63.824.16.33.3弾性係数:E 50kN/m 2168714752086107014672293間隙比:e最大圧縮応力:σ max250圧縮応力(kN/m2)200150100関東:篩なし関東:篩い下19mm関東:プラ除去中部:篩なし中部:篩い下19mm中部:プラ除去500051015202530圧縮ひずみ(%)図-8図-9 篩なし試料の圧縮状況(左:関東篩なし試料、右:中部篩なし試料)圧縮ひずみ-圧縮応力の結果3.2. 軟プラスチックおよび硬プラスチックが圧縮強度に100与える影響果に着目している。一方、硬プラスチックは組成分析においては軟プラスチックよりも重量比で大きな割合を占めるが、硬プラスチックに着目した研究はほとんどなされていない。そこで、関東試料の篩い下 19 mm の試料から、軟プ80圧縮応力(kN/m2)本研究は、軟プラスチックに発生する張力による拘束効ラスチック、硬プラスチックのみをそれぞれ手選別によって取り除いた試料を作製し、繰返し法にて供試体を作製した。充填条件および計測条件は 3.1.と同様とし、圧縮試験6040関東:篩い下19mm篩い下19mm(軟プラのみ)篩い下19mm(硬プラのみ)関東:プラ除去200051015202530圧縮ひずみ(%)は各試料に対しそれぞれ 3 回実施された。試験結果を表-4 および図-10 に示す(各試料 3 供試体の図-10圧縮ひずみ-圧縮応力の結果中から最大圧縮応力が中央値を示す 1 供試体の結果を抽出)。軟・硬プラスチック両方を含む試料と軟プラスチックのみを含む試料の応力ひずみ曲線はよく一致した。一方、硬プラスチックのみを含む試料の最大圧縮応力は 48.9 kN/m2 であり、プラスチック除去試料の 58.3 kN/m2 よりも 16 %小さく、弾性係数も小さな値となった。弾性係数がプラスチック除去試料よりも小さい理由は不明である。硬プラスチックのみを含む試料は、関東篩い下 19 mm から軟プラスチックのみを除去した試料であるため、ゴム類等の他の成分が局所的に混入した可能性は低い。試料のばらつきの範囲とも考えられるが、乾燥密度や含水比は他の供試体とほぼ同等である。以上の結果より、圧縮応力の発現に寄与するのは軟プラスチックであり、硬プラスチックは圧縮応力の発現には寄与せず、むしろ圧縮応力を低下させる傾向が示唆された。3.3. 締固め回数および含水比の変化による圧縮強度の比較これまでの試験結果より、廃棄物埋立地盤中の成分の中で軟プラスチックが圧縮応力の発現に大きく寄与していることが明らかとなった。しかし、軟プラスチックが圧縮応力の発現に寄与するためには、地盤内で伸ばされ張力の発生が必要であると考えられる。軟プラスチックは廃棄物土粒子との摩擦を通じて伸ばされるため、摩擦が大きくなるための適した条件が存在すると考えられる。本研究では、締固め回数と含水比をパラメータとし、軟プラスチックのみを含む試料(試料 D)を用い、繰返し法によって供試体を作製した。締固め条件はランマー質量 2.5 kg、自由落下高さ 30 cm、-157- 表-4軟プラスチックと硬プラスチックのみをそれぞれ含む供試体の一軸圧縮試験結果(3 回の平均値)項目関東試料篩い下19mm単位試料名軟・硬プラ有りプラ除去軟プラのみ有りBCD硬プラのみ有りE1.541.541.58湿潤密度:ρ tg/cm 31.55乾燥密度:ρ d1.161.201.191.22含水比:wg/cm 3%33.428.531.029.8土粒子の密度:ρ sg/cm 3間隙比:e2.4402.525--1.1031.104-48.9kN/m 2%89.258.391.2破壊ひずみ:ε x8.63.89.24.5弾性係数:E 50kN/m 21475208614101211最大圧縮応力:σ max表-5項目単位試料名締固め回数および含水比の変化による圧縮強度の比較締固め回数変化含水比変化25回/層3回/層16回/層16回/層w=39.9%w=47.9%DD-1D-2D-3D-4D-5w=11.3%D-6湿潤密度:ρ tg/cm 31.541.201.361.501.761.651.18乾燥密度:ρ dg/cm 31.200.921.041.151.261.121.06締固めエネルギー:E ckJ/m 3%5506617635255055055031.031.031.031.039.947.911.391.215.735.558.257.516.645.9破壊ひずみ:ε xkN/m 2%9.22.63.84.63.64.75.3弾性係数:E 50kN/m 21410303469638807177435含水比:w最大圧縮応力:σ max100100含水比: 11.3%締固め: 3回/層締固め: 8回/層含水比: 31.0%80締固め: 16回/層圧縮応力(kN/m2)圧縮応力(kN/m2)80締固め: 25回/層6040含水比: 39.9%含水比: 47.9%604020200005101520250図-11510152025圧縮ひずみ(%)圧縮ひずみ(%)圧縮ひずみ-圧縮応力の結果(締固め回数変化)図-12圧縮ひずみ-圧縮応力の結果(含水比変化)締固め層数 3 は同じであるが、1 層当たりの締固め回数を 3 回、8 回、16 回、25 回と変化させた。また、含水比は湿潤法によって変化させ、それぞれ 11.3 %、31.0 %、39.9 %、47.9 %とした。試験結果を表-5 および図-11、図-12 に示す。締固め回数に関しては、締固め回数の増加に伴い最大圧縮応力も増加し、ほぼ比例関係となった。一方、締固め 16回/層と 25 回/層の湿潤密度はそれぞれ 1.50 g/cm3 と 1.54 g/cm3 で 3 %程度の差であったが、最大圧縮応力の差は 1.5倍であった。含水比に関しては、最適含水比(wopt=33.2 %、ρdmax=1.208 g/cm3)付近の試料がもっとも大きな圧縮強度を示した。表-5 に示した物性値を用いて、含水比、乾燥密度および間隙比(試料 B:Gs=2.440 g/cm3 を用いて仮算出)等と圧縮強度の相関性を調べたが、弾性係数と圧縮強度がほぼ比例関係となる以外、明確な結果は得られなかった。軟プラスチックと廃棄物土粒子間の摩擦に最適な含水比が存在すると推測されるが、本試験では明確なデータを得るに至らなかった。4. 考察関東試料と中部試料の一軸圧縮試験結果は、全体的に見ればほぼ同等であるが、プラスチックを含む試料では関東試料の最大圧縮強度が約 20 %大きい。その要因を次の 2 点から考察する。1 つ目は硬プラスチックの含有量が中部試料の方が多い点である。中部試料の硬プラスチックの含有量は 8.5 %で関東試料の 5.9 %の 1.4 倍であり、最大圧縮強度は16 %程度小さい(図-10)。硬プラスチックは供試体の中で伸びにくいため拘束効果を発揮せず、廃棄物土粒子と比べると硬度が小さいため圧縮強度の発現に悪影響を及ぼすとも考えられる。しかし、軟プラスチックのみの試料と軟・硬プ-158- 上載荷重100関東試料篩い下19mm通過質量百分率(%)90廃棄物土粒子張力(拘束圧)中部試料篩い下19mm807060軟プラスチック5040張力(拘束圧)30関東試料上載荷重廃棄物土粒子201000.0010.01図-130.11粒径(mm)10100軟プラスチック粒径加積曲線(篩い下 19 ㎜試料)図-14中部試料軟プラスチックの張力発生の模式図ラスチック有りの試料の最大圧縮応力の差は 2 %に過ぎない(図-10)。硬プラスチックは圧縮強度の発現には寄与しないが、悪影響も及ぼさないと考えられる(空のペットボトルのように内部に空隙を多く含む硬プラスチックが多量に含まれる場合は本考察の対象外)。2 つ目は軟プラスチックによる拘束効果の違いである。軟プラスチックによる補強メカニズムはジオシンセティックスの補強メカニズム 10)と類似すると考えられ、廃棄物土粒子と軟プラスチックとの摩擦により、軟プラスチックは伸びて張力が発生するが、廃棄物土粒子側から見れば張力は拘束圧として作用する。このときの応力状態は、真の粘着力がない場合、せん断抵抗角φを用いた以下の式として表される 11)。Δσ1=Δσ3・(1+sinφ)/(1-sinφ)Δσ1:供試体が耐えられる鉛直圧縮応力の増加分Δσ3:軟プラスチックによって供試体に作用する水平拘束圧の増加分φ:廃棄物土粒子のせん断抵抗角最大圧縮応力の増加分Δσ1 はΔσ3 と sinφが変数となり、2 つのシナリオが考えられる。(1)Δσ3 が関東試料と中部試料で同じ場合軟プラスチックの含有量は、中部試料が 2.0 %であり、関東試料の 1.5 %よりも多く含まれている。サイズに関しては篩い下 19 mm 試料のため、同サイズの軟プラスチックが含まれていると推測され、また、両試料の軟プラスチックの機械的性質もほぼ同じである(表-1)。一面せん断試験で得られたφは全応力であるが、(1+sinφ)/(1-sinφ)に代入すると、関東試料で 6.967、中部試料で 5.975 となる。Δσ3 は一定と仮定しているため、最大圧縮応力の増加分Δσ1は 6.967/5.975=1.17 となり、最大圧縮応力の差 20 %と近い値が得られる。しかし、上記式がそのまま適応できるのであれば、軟プラスチックを含む篩なし試料の最大圧縮応力は、プラスチック除去試料の 6~7 倍にならなければならないが、実際の篩なし試料の最大圧縮応力はプラスチック除去試料の 3 倍程度である(表-3)。この差を考察するためには、有効応力状態におけるせん断抵抗角φ’を求める等、さらなる試験が必要である。(2)sinφが関東試料と中部試料で同じ場合両試料における篩なし試料の供試体の変形(図-9)を比較すると、はらみだすような変形が観察された中部試料のΔ(1+sinφ)/σ3 が小さいと推測される。また、両試料のプラスチック除去試料の最大圧縮応力はほぼ同等であるため、(1-sinφ)は一定とする本シナリオが妥当のように思われる。両試料におけるΔσ3 が異なる要因の 1 つとして、廃棄物土粒子の粒径の違いが考えられる。図-13 に両試料の篩い下 19 mm 試料の粒径加積曲線を示すが、4.75 mm 以上の中礫分は関東試料で 46.0 %、中部試料で 26.5 %であり、関東試料に含まれる廃棄物土粒子の粒径の方が大きい。軟プラスチックは圧縮に伴い廃棄物土粒子との凹凸に沿って伸ばされることにより張力が発現されると考えられるため、粒径の大きな関東試料の軟プラスチックに発生する張力は中部試料よりも大きいと推測される(図-14)。しかし、Δσ3 を具体的に計測する方法はまだ確立されていない。また、圧縮応力が最大となるような軟プラスチックの含有量が存在するとも考えられる。本研究で用いた試料には、金属やゴム・皮類も含まれているが具体的な検証は行っていない。金属は伸びないため硬プラスチックと同様に圧縮強度の発現への影響は小さいと推測され、ゴム等の伸びやすいものは軟プラスチックと同様に圧縮強度の発現に寄与すると考えられる。しかし、本試験で得られた結果を現地地盤に適用するには、さらなる研究が必要であると考えられる。実際の廃棄物埋立地盤には数メートルにも及ぶシートなども含まれており、大きな形状を有するごみ成分の影響を室内試験で明らかにするためには大型の装置が必要である。また、供試体は乱した試料によって作製されており、今回の一連の試験で用いた供試体は、現地の廃棄物埋立地盤を再現するには至っていない。世界中-159- で行われている都市ごみ試料を用いた室内試験も同様の課題を抱えている。難題ではあるが解決すべき課題である。今後は、様々な廃棄物埋立地盤から試料を採取し、本研究で得られた埋立廃棄物の物理組成と土質定数の一般性および軟プラスチックによる補強メカニズムを明らかにするためにデータを蓄積し、土質構造計算への適用を目指すつもりである。5. おわりに本研究を通じて、以下の結論が得られた。1) 関東地方と中部試料の不法投棄現場から採取した試料の組成分析を行った。関東試料は陶磁器・石類 49.1 %、硬プラスチック 5.9 %、軟プラスチック 1.5 %、その他 35.4 %であった。中部試料は陶磁器・石類 23.0 %、硬プラスチック 8.5 %、軟プラスチック 2.0 %、その他 62.2 %であった。この 4 種でそれぞれ全重量比の 91.9 %、95.7 %を占めた。2) 両試料からプラスチックを取り除き廃棄物土粒子中心の試料を用いて定圧一面せん断試験を行った結果、関東プラ除去試料でせん断抵抗角:φ=48.5°、粘着力:C=12.9 kN/m2、中部プラ除去試料でφ=45.5°、C=11.5 kN/m2であり、ほぼ同等の土質定数であった。3) 篩なし試料、篩い下 19 mm 試料、プラ除去試料の 3 種類の試料を用いて一軸圧縮試験を行った。両試料ともプラスチックを含む供試体の最大圧縮応力は大きな値を示した。また、関東試料のプラスチックを含む試料の最大圧縮応力は、中部試料よりも約 20 %大きかった。4) 関東試料の篩い下 19 mm の試料から、軟プラスチック、硬プラスチックのみをそれぞれ含む試料を用いて一軸圧縮試験を行った結果、軟プラスチックが圧縮強度の発現に大きく影響していることが明らかとなった。5) 関東試料の篩い下 19 mm 軟プラスチックのみの試料において、締固め回数と含水比をパラメータとした一軸圧縮試験を行った。締固めエネルギーと最大圧縮応力は比例関係となり、また、最適含水比付近における最大圧縮応力がもっとも大きかった。6) 関東試料の廃棄物土粒子の粒径は中部試料より大きく、廃棄物土粒子と軟プラスチック間の凹凸が中部試料よりも大きいと推測される。関東試料に含まれる軟プラスチックは、廃棄物土粒子の凹凸に沿って大きく伸ばされ、大きな張力(拘束圧)が発生する結果、供試体のはらみだすような変形は抑制され、より大きな圧縮応力を示すと考えられる。謝辞:本研究は平成 25 年度「環境研究総合推進費補助金」(研究代表者:山脇敦,課題番号 3K133011)の支援を受けて実施され、一面せん断試験は安福規之教授、宮本慎太郎氏(九州大学大学院)の協力を得て実施された。ここに記して謝意を表す。参考文献1) 不法投棄等の斜面安定性評価研究グループ:不法投棄等の堆積廃棄物の斜面安定性評価方法,大成出版社,20132) 川井晴至・島岡隆行・山脇敦・大嶺聖・川嵜幹夫・土居洋一・勝見武・柴暁利・坂口伸也・宮本慎太郎:廃棄物埋立地盤中の紐状プラスティックに発生する引張ひずみに関する考察,第 10 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,pp.477-482,20133) Timothy D. Stark・Nejan Huvaj-Sarihan・Guocheng Li: Shear strength of municipal solid waste for stabilityanalyses,Environmental Geology,Vol.57,pp.1911-1923,20094) Neil Dixon ・ D. Russell V. Jones: Engineering properties of municipal solid waste, Geotextiles andGeomembranes,Vol.23,pp.205-233,20055) 環境省 HP:一般廃棄物処理事業に対する指導に伴う留意事項について,各都道府県一般廃棄物処理担当部(局)長あて環境衛生局水道環境部環境整備課長通達, 1977.6) 安田武夫:プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果(21),プラスチックス,Vol.52,No.10,pp.85-90,20017) 安田武夫:プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果(7),プラスチックス,Vol.51,No.8,pp.97-106,20008) プラスチック循環利用協会:プラスチックリサイクルの基礎知識 2013,20139) 宮本慎太郎・安福規之・大嶺聖・石藏良平・山脇敦・川井晴至・川嵜幹生・土居洋一:組成割合に着目した廃棄物地盤の原位置せん断強度特性に関する検討,第 10 回環境地盤工学シンポジウム発表論文集,pp.493-496,201310) 西本俊晴・竜田尚希・王宗建・筒井弘之・太田秀樹:三軸圧縮試験結果に基づく補強土の見かけの粘着力の評価,ジオシンセティックス論文集,第 26 巻,pp.27-34,201111) 国際ジオシンセティックス学会日本支部:ジオシンセティックス入門,pp.12-13,理工図書,2001-160-
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  • タイトル
  • 覆土層に用いるジオシンセティッククレイライナーの不同沈下に対する挙動と遮水性能への影響
  • 著者
  • 小川 翔太郎・佐藤 一貴・乾 徹・勝見 武・高井 敦史
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 161〜166
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69537
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)6-2覆土層に用いるジオシンセティッククレイライナーの不同沈下に対する挙動と遮水性能への影響小川翔太郎・○佐藤一貴・乾徹・勝見武・高井敦史京都大学地球環境学大学院1. はじめに東北地方太平洋沖地震に伴い発生した福島第一原子力発電所の事故により,放射性物質が広域に移流拡散し,除染作業等から放射性物質を含む廃棄物等が大量に発生している。仮置きされている廃棄物等は既存の管理型最終処分場への処分や中間貯蔵が実施されるが,放射性物質の周辺環境への移動を抑制する観点から浸出水の発生を抑制することが求められる。そのため処分場や貯蔵施設の覆土層中に雨水浸透を防止するための上部隔離層が設置されるが,この隔離層としてジオシンセティッククレイライナー(Geosynthetic Clay Liner, 以下 GCL)の適用が検討されている。GCL は中間層となるベントナイト層の上下を織布,不織布,遮水シート等のジオシンセティックス材で挟み込んだ多層構造のシート状製品である。工業製品のため品質が安定している,ベントナイトの水和膨潤性から高い遮水性を確保できる,現場で敷設する際の接合部の処理も重ね合わせるだけで遮水性が確保されるため施工が容易である,といった利点を有する。しかし,廃棄物地盤において頻繁にみられる不同沈下が発生した場合,GCL に引張力が作用し,GCL の端部同士を重ね合わせた領域の幅が減少することで重ね合わせ部から局所的な漏水が発生する恐れがあるが,GCL 重ね合わせ部の不同沈下に対する挙動や遮水性に及ぼす影響については知見が限られている 1), 2)。特に,覆土層内で隔離層として適用される場合は GCL 重ね合わせ部に作用する上載圧が小さいため引き抜き抵抗力が小さく,重ね合わせ幅の減少が容易に発生することが予想される。このことから,底部遮水層として GCL を適用する場合と比較して不同沈下による影響が大きいと考えられる。本研究では,覆土層内のジオシンセティッククレイライナー重ね合わせ部の不同沈下に伴う挙動を評価するための基礎的な検討として,GCL の重ね合わせ面,また GCL と覆土層の境界面の低上載圧条件下での摩擦特性を一面せん断試験によって評価した。次に,落戸機構を備えた土槽実験装置を用いた模型実験を実施し,GCL 重ね合わせ部直下に不同沈下が発生した場合の挙動に及ぼす,覆土や重ね合わせ部の含水状態の影響を検討をした。さらに,重ね合わせ部の遮水性能を評価するために大型土槽を用いた定水位透水試験を行い,低上載圧条件下での重ね合わせ幅の減少による重ね合わせ部の遮水性能への影響を評価した。2. 実験方法2.1 使用した GCLGCL を構成するジオシンセティック材の種類,ベントナイトの種類やベントナイト量が異なる 3 種類の GCLを使用した。各 GCL の仕様を表-1 に示す。いずれの GCL もニードルパンチタイプの 3 層構造であり,Type A は中間本体ベントナイト層とは別に上層の表-1 GCL と重ね合わせ部の仕様単位面積あたり厚さ ジオテキスタイベントナイトGCLベントナイト質量(mm) ル(上部:下部)粉末状 Na 型5,000 g/m2Type A 7.0 不織布:織布ベントナイト顆粒状 Na 型≧4,000 g/m2Type B 6.0 不織布:織布ベントナイト顆粒状 Na 型5,900 g/m2Type C 6.0 不織布:不織布ベントナイト重ね合わせ部の処理そのまま重ね合わせ4 kg/m2 の密度で粒状ベントナイトを散布4 kg/m2 の密度で粒状ベントナイトを散布不織布中にも全面に粉状ベントナイトが充填されているため,重ね合わせ後にベントナイトが水和すると遮水性が発揮される。Type Aの織布面,不織布面を写真-1 に示す。Type B,C は重ね合わせ部に表-1 に示す量の顆粒状ベントナイトを散写真-1 GCL の織布面と不織布面布して使用する。また,Type C は下部層が不織布である。Type B と C の GCL図-1 使用材料の粒径加積曲線はいずれも顆粒状のベントナイトが中間ベントナイト層に使用されている。Type B と C に使用されている顆粒状ベントナイトの見かけの粒径加積曲線を図-1 に示す。これらより,Type C に使用されている顆粒状ベントナイトの粒径が小さく,ベントナイト質量も大きいことがわかる。Mechanical behavior and hydraulic barrier performance of overlapped geosynthetic clay liners subjected to differential settlementsShotaro Ogawa, Kazuki Sato, Toru Inui, Takeshi Katsumi, and Atsushi Takai, (Kyoto University)KEY WORDS: Geosynthetic clay liner, Differential settlement, Hydraulic barrier performance, Trapdoor test-161- 2.2 一面せん断試験GCL の重ね合わせ面,また GCL と覆土層の境界面の低上載圧条件下での摩擦特性を在来型一面せん断試験装置(供試体直径 60mm)を用いて評価した。GCL として表-1 に示す Type A の GCLを使用した。表-2 に試験ケースを示す。Case A ではせん断面において GCL の不織布と織布の境界面が一致するように上下せん断表-2一面せん断試験の試験ケース上部せん断箱下部せん断箱垂直応力Case試料状態試料状態(kN/m2)A GCL 不織布面 湿潤 GCL 織布面 湿潤 5, 10, 20, 40B豊浦砂湿潤 GCL 織布面 湿潤 5, 10, 20, 40C GCL 不織布面 湿潤豊浦砂湿潤 5, 10, 20, 40ん断箱に GCL を設置し,重ね合わせ部境界面の摩擦特性を評価した。なお,織布面の繊維方向は全ケースにおいて,せん断方向と直交するように設置した。GCL 中のベントナイトは吸水性が高く,覆土層内では周辺土の水分が移行して湿潤状態になると考えられる。この状態を模擬するため,GCL 同士を重ね合わせたものを金属のセルに入れ上下をポーラスストーンで挟みこみ,定体積条件で 36 時間水浸したものを乱さないように一面せん断試験に供した。試験前の GCLの含水比は w = 83~101%の範囲であった。Case B と Case C は GCL と覆土層を模擬した豊浦砂の境界面の摩擦特性を織布面,不織布面を対象にそれぞれ実施した。使用した豊浦砂の粒径加積曲線を図-1 に示す。最適含水比,締固め度 90%で締固めを行ったものせん断箱に設置した。試験は定圧条件で行い,覆土層での利用を想定していることから垂直応力 = 5,10,20,40 kN/m2 という比較的低い垂直応力を設定した。実験手順は以下の通りである。所定の垂直応力で圧密を 30 分間行った後,せん断速度 0.2 mm/min でせん断変位を与え,せん断変位と摩擦抵抗によって生じるせん断応力を測定した。最大せん断変位 7.6 mm に達した時点で試験を終了した。2.3 落戸試験落戸実験(降下床実験)は,基盤層を模擬した土層底面の床の一部(落戸)を下降させることで基盤の不同沈下を模擬できることから,不同沈下を受けた廃棄物処分場遮水工の変形挙動を評価する際に用いられてきた 1)。図-2 に実験で使用した落戸機構を有する土槽実験装置 3)を示す。高さ 860 mm,幅 1,000 mm,奥行き 300 mm で前面は透明アクリル樹脂パネル,側面,背面,および底面は鋼製の土槽内部に,落戸装置を設置した。装置は両端の固定プレート(幅 250 mm),中央の落戸部プレート(幅 160 mm),および両プレートの間に配したヒンジプレート(幅 170mm)によって構成される。ヒンジプレートは固定プレートとヒンジで連結されており,中央の落戸部プレートが降下した際にはプレート上を滑り,傾斜することで不同沈下を再現する。落戸部プレートはジャッキを用いて手動で上下させ,最大約 150 mm 降下することが可能となっている。図-2 に示すようにヒンジプレートには各 1 つずつの土圧計,落戸部プレートには 2 つの土圧計,固定プレートには荷重計をそれぞれ設置することで,各セクションに作用する土圧,もしくは上載荷重の沈下に伴う変化を測定した。実験は表-3 に示す 2 ケースで実施した。実験模型の作製手順は以下の通りである。重ね合わせ部中央が土槽中央と一致し,図-2重ね合わせ幅が 150 mm となるよう 2 枚の GCL を土槽底部に敷設した。土槽壁面側の GCL 端部は固定プレートに固定し,実験中の変位を拘束した。Case 1 では敷設した GCL 上部に最適含水比に調整した豊浦砂を層厚 500 mm,締固め度 90%で静的に締め固め,充填した。この層厚は廃棄物処分場における一般的な覆土厚さに準拠し落戸試験装置の断面・平面図表-3落戸試験の試験ケース項目豊浦砂の状態最大降下量 (mm)最大降下ひずみCase 1湿潤146.70.58Case 2乾燥1000.4ている。その後 36 時間静置し,GCL 中のベントナイトに豊浦砂中の水分を移行させて GCL を湿潤状態にした。Case 2 においては,事前に GCL を湿潤状態の豊浦砂層内で 36 時間静置して湿潤状態にした後,土槽内に敷設し,乾燥した豊浦砂を層厚500 mm,締固め度 95%で充填した。実験は降下速度 0.1 mm/s で落戸プレートを 5.0mm 降下させ,プレートに設置した土圧計,荷重計の値が安定したところで画像解析に用いる写真を撮影した。累積降下量が表-3 に示す値になるまで,5.0 mm ずつ落戸プレートを降下させ,写真撮影を繰り返した。画像の画素数および 1 ピクセルの幅は Case 1 においては 3648×2736 ピクセル,0.141 mm であり,Case 2 においては 6000×4000 ピクセル,0.0963 mm であった。画像解析では写真-2 に示すように 2枚の GCL の長さの変化,重ね合わせ幅の変化を測定した。2.4 重ね合わせ部の透水試験写真-2 画像解析による測定項目実験には著者らが製作した大型透水試験装置 3)を用いた。供試体の設置状況を図-3 に示す。2 枚の GCL を所定の重ね合わせ幅で表-1 に示した方法で重ね合わせ,重ね合わせ部以外には GCL とほぼ同じ厚さ(5 mm)の不透水性のゴム板-162- を GCL 上部と下部に図-3 に示すように設置し,供試体上部に 450 mm 水深相当の定水圧を与えた。これにより,図-4 に示すように重ね合わせ部以外では鉛直方向の通水は無視できると考えられ,重ね合わせ部の鉛直流れと 2 枚の GCLの界面を通過する流れによる流出水量を計測できる。重ね合わせ幅は現場で一般に適用される 150 mm,および不同沈下により重ね合わせ幅が減少したことを想定した 50 mm の 2 つの条件で実験を行った。なお,GCL の上部には飽和した硅砂 4 号を 300 mm の高さで所定の密度で充填し,24 時間静置して GCLを水和させた。珪砂層の設置により試験時に GCL に作用する有効上載圧は 2.6図-3透水試験装置kPa であった。使用した珪砂 4 号の粒径加積曲線を図-1 に示す。3. 実験結果とその考察3.1 一面せん断試験図-5 に一面せん断試験によって得られた GCL 重ね合わせ境界面のせん断変図-4想定される通水経路位 とせん断面に生じる摩擦応力の関係を示すグラフを,図-6 に降伏応力(kN/m2)と垂直応力 σ (kN/m2)を用い,最小二乗法により求めたクーロンの破壊規準に基づく各境界面の強度定数 c, を示す。本研究では GCL の重ね合わせ部や GCL と覆土境界面のずれの発生の有無に着目していることから,変位-摩擦応力関係で変位が急速に進展する最大曲率点での摩擦応力 τ を降伏応力と仮定した。図-7,図-8 には豊浦砂と GCL 織布面の境界,図-9,図-10 には GCL 不織布面と豊浦砂の境界面に関する同様のグラフをそれぞれ示す。(1) GCL 重ね合わせ部境界面の摩擦特性図-5 に示すように = 5 kN/m2 のケースでは, = 10 kN/m2 以上の 3 ケースと比較してせん断に伴い発生する摩擦応力が明らかに小さくなった。これは, = 5 kN/m2 程度の上載圧では,GCL 不織布面の繊維の織布面間のかみ合わせが十分に発生しなかったためと考えられる。その一方, = 10 kN/m2 以上においては, の増加に対してはほとんど変化せず,図-6 に示すようにはほぼ 0に近い結果となった。Type A の GCLのように重ね合わせ面にベントナイトを散布しない場合,境界面の摩擦抵抗はごく小さなの範囲以外では,境界面の摩擦抵抗は上載圧に依存せず,GCL 不織布面の繊維と織布面間のかみ合わせが抵抗力発揮の主要因である図-5 GCL 重ね合わせ境界面の-関係図-6 GCL 重ね合わせ境界面のクーロンの破壊規準図-7 豊浦砂と GCL 織布境界面の-関係図-8 豊浦砂と GCL 織布境界面のクーロンの破壊規準と考えられる。図に示すように,降伏点以降はは大きく増加せず,ほぼ一定値を保つ。このことから一旦重ね合わせ部にずれが生じると,沈下の進行に伴って GCL に作用する引張方向の力が増加すると,重ね合わせ部のずれが進行するといえる。(2) GCL と覆土境界面の摩擦特性図-7,図-9 に示すように,豊浦砂とGCL 織布境界面の = 40 kN/m2 のケースを除き,降伏点以降は変位の進行に伴うの顕著な増加はみられない。一方,織布面,不織布面ともにの増加に伴って,が増加している。推定された摩擦角 はぞれぞれ 18˚,34 ˚となっており,織布面より大きな摩擦抵抗を有する不織布面の方が大きな値を示した。重ね合わせ部境界面と比較すると,ごく低いの範囲を除いては豊浦図-9 GCL 不織布面と豊浦砂境界面の 図-10 GCL 不織布面と豊浦砂境界面の-関係クーロンの破壊規準-163- 砂-GCL 境界面の摩擦抵抗が大きくなっている。不同沈下発生時の GCL 重ね合わせ部の挙動は,GCL に作用する引抜きの力と GCL 同士および GCL と覆土間に作用する摩擦応力の関係により決定すると考えられる。そのため,実現場において不同沈下に伴い覆土層にアーチ作用等が発生し,GCL に作用する上載圧が大きく低下した場合,GCL 同士の境界面の摩擦特性と GCL と覆土間の摩擦特性の違いにより,重ね合わせ部の挙動に影響が生じる可能性が指摘される。3.2 不同沈下に伴う GCL 重ね合わせ部の挙動図-11 に降下ひずみ(降下量を,不同沈下領域の端から中央までの水平距離を L としたときの/ L で定義され,不同沈下の大きさを表す指標)が 0~0.35 の範囲における GCL 敷設長さの変化を示す。GCL の敷設長さは 2 枚の GCL 自体の伸び変形の合計と重ね合わせ部のずれ(図-11 中の斜線ハッチ部)の合計となるが,画像解析によって個別に測定した結果を図-11 に示している。全体的な傾向として降下ひずみが小さい段階では GCL には伸びひずみのみ発生し,重ね合わせ部のずれは発生しない。その後 Case 1 では/ L = 0.16,Case 2 では/ L = 0.06 に図-11 降下ひずみの増加に伴うGCLの伸び変形と重ね合わせ幅の変化なると重ね合わせ部のずれが発生し,降下ひずみの増加に伴ってずれが線形的に増加する。覆土が湿潤状態のときの方が重ね合わせ部のずれが発生する降下ひずみが小さくなっているが,このことは覆土が湿潤状態の方が不同沈下に対する GCL 重ね合わせ部のずれが抑制されることを示している。アーチ形成この機構は以下のように推定できる。覆土が湿潤状態の場合は実験開始直後から写真-3 に示すように落戸と共下がりしようとする GCL 直上部領域(180 mm 高さ)とアーチ効果によって自立しようとする地表面側の領域に分かれるが,覆土が乾180 mm燥状態の場合はアーチ効果が発生しない。これに伴って GCL に作用する荷重,引張力が湿潤状態である Case 1 の方が小さくなる。その一方で,図-6 に示した GCL重ね合わせ部の境界面摩擦特性を評価した結果によると,上載圧の変化に伴う摩擦力への影響が小さいことから重ね合わせ部で発揮される摩擦抵抗自体は Case 1 写真-3 覆土層内のアーチ形成状況(Case 1,/ L = 0.06)と Case 2 では大きな差異がないと推測される。このことから,Case 1 の方が不同沈下に対する GCL 重ね合わせ部のずれが抑制されたと考えられる。図-12 に降下ひずみと画像解析で求めた上下 GCL の伸びひずみの関係を示す。Case 2 においては Case 1 より生じている伸びひずみが小さいこと,Case 2 の上部 GCL においてはほとんど伸びひずみが発生していないことが観察される。これは,3.1 で述べた通り Case 2 では GCL に作用する上載圧が大きかったため,GCL と豊浦砂間に作用する摩擦抵抗が,GCL の重ね合わせ面に作用する摩擦抵抗よりも大きくなり,覆土と接する上部 GCL は覆土に追従して動いたと考えられる。その結果,上部 GCL には伸びはほとんど発生せず,沈下が始まってすぐに重ね合わせ幅の減少が始まったものと推察される。以上は定性的な議論に留まるが,今後は様々な条件下において GCL に作用す図-12 上下 GCL の伸び変形の推移る引張荷重と摩擦力の大小関係を比較し,重ね合わせ部のずれの発生機構の定量的評価,許容される不同沈下量を推定する必要があるといえる。3.3 GCL 重ね合わせ部の透水試験本実験では図-4 に示した通り GCL の重ね合わせ部を鉛直方向に流れる通水,GCL の重ね合わせ面の境界面を流れる通水が想定される 4)。垂直方向と水平方向への通水を個別に評価していないが,それぞれの寄与を議論するために 2 種類の評価指標を用いて透水試験結果を評価した。第 1 の指標として,重ね合わせ部の単位長さ・単位時間あたりの通水量 q (m2/ s) を用いた。いずれの実験ケースにおいても定水位で評価を行っていることから,流量を比較することにより重ね合わせ部の透水性が評価できる。第 2 の指標として,透水試験時の与えた水位を重ね合わせ部の厚さで除することによって得られた見かけの動水勾配,重ね合わせ部の面積,総流出量からダルシー則が成立すると仮定して見かけの透水係数を算出し,水温 15˚C の透水係数 ka (m/s) に換算した。2 つの指標を用いた理由は,重ね合わせ部の長さは 300 mmと同一であるが,透水試験時の重ね合わせ幅が 150 mm,50 mm と異なり,透水面積が異なる。よって,境界面を流れる流量が卓越する場合は単位長さあたりの流量 q,重ね合わせ部を鉛直方向に流れる流量が卓越する場合は単位面積あたりの流量 ka を用いた方が適当であるためである。重ね合わせ部の単位長さあたりの流量 q の時間変化を図-13 に示す。なお,Type C は重ね合わせ幅 150 mm,50 mm い-164- ずれの場合も試験開始から 4 週間が経過しても通水が見られなかったため,Type A と B の結果のみプロットしている。Type B の重ね合わせ幅 150 mmのケースにおいて,試験開始後 150 時間程度は q が大きく,時間の経過とともに q が低下,収束していく様子が見られる。これは Type B の重ね合わせ部に散布するベントナイトが顆粒状であることに起因すると考えられる。顆粒状のベントナイトは粉末状のものと比較して粒径が大きく,散布が均一でない場合にはベントナイトが膨潤して完全に間隙を埋めるのに時間を要するためであると考えられる。重ね合わせ幅の影響をみると,Type A,Type B ともに重ね合わせ幅 50 mm の場合が小さい q を示している。これは,図-13 単位長さ単位時間通水量の時間変化重ね合わせ部を鉛直方向に流れる流量がある程度全体の流量増加に寄与していることから,透水面積が大きい重ね合わせ幅 150 mm の方が相対的に流量が大きくなったと考えられる。見かけの透水係数と経過時間の関係を図-14 に示す。Type A,Type B ともにに重ね合わせ幅による透水係数の大きな違いはなく,10-10~10-11 m/s オーダーの値を示した。重ね合わせ幅と見かけの透水係数の関係には明確な相関はみられず,重ね合わせ幅が 50 mm 確保されていれば 150 mm の場合と同程度の遮水性を示すことがわかる。個別の GCL についてみると,Type B は重ね合わせ幅が 50 mm と 150 mm は見かけの透水係数 ka,すなわち単位面積あたりの流量がほぼ同等である。図-15 に透水試験終了後の GCL の含水比分布図-14 見かけの透水係数の時間変化を示す。下部 GCL がやや低い含水比となっているが,概ね均一な分布となっており,局所的な流れが発生していないことを示している。一方,Type A は重ね合わせ幅 50 mm の方が単位面積あたりの流量を示す ka がやや大きな値で推移している。これは,重ね合わせ部を流れる流量の寄与が Type B より相対的に大きい可能性を示唆している。Type C については,図-15 に示すように試験終了後の下部 GCL の含水比が非常に小さいことから,重ね合わせ部が非常に高い遮水性能を有していることがわかる。Tyep C に用いられている顆粒状ベントナイトは(a) 下部 GCL(b) 上部 GCL図-15 透水試験終了後の GCL (Type B) の含水比分布Type B に使用されるものより粒径が小さいこと,表-1に示すように中間層となるベントナイト量が大きいこと等が原因として推定されるが,詳細についてはさらなる検討が必要である。本実験の試験条件は 2.6 kPa という小さな有効上載圧のもと,450 mm という高い水位を与え続けて試験を実施していることから実現場と比較して厳しいものであると考えられる。しかしながら以上の実験結果より,3種類の GCL 全てに関して重ね合わせ幅が 50 mm 程度まで減少しても,重ね合わせ部の接触が維持されてい(a) 下部 GCL(b) 上部 GCL図-16 透水試験終了後の GCL (Type C) の含水比分布れば遮水性能を維持することができるといえる。4. おわりに本研究では,覆土層内のジオシンセティッククレイライナー重ね合わせ部の不同沈下に伴う挙動を評価するための基礎的な検討として,落戸機構を備えた土槽実験装置を用いた模型実験を実施し,GCL 重ね合わせ部直下に不同沈下が発生した場合の重ね合わせ部の挙動に及ぼす,覆土や重ね合わせ部の含水状態の影響を検討した。さらに,重ね合わせ部の遮水性能を評価するために大型土槽を用いた定水位透水試験を行い,低上載圧条件下での重ね合わせ幅の減少による遮水性能への影響を評価した。得られた結果と考察を以下に要約する。1) 覆土程度の上載圧が小さい条件においても覆土が湿潤状態の場合,降下ひずみが 0.16,覆土が乾燥状態の場合は降下ひずみが 0.06 程度の不同沈下に対しては GCL の重ね合わせ部で発揮される摩擦力により GCL には伸び変形のみ-165- 発生する。一方,それ以上の沈下に対しては重ね合わせ部のずれが急速に進展した。また,覆土が乾燥状態の場合に GCL に作用する上載圧,引張力の変化に起因して重ね合わせ部のずれが早い段階で発生する。2) 3 種類の構造,重ね合わせ部の処理が異なる GCL の重ね合わせ部の遮水性を実験的に評価した。本研究の実験条件下においては重ね合わせ部境界面の流れが発生している可能性は示されたものの十分な遮水性が確認され,50 mm程度の重ね合わせ幅が維持されていれば遮水性が大きく低下しない。3) 上記の実験結果から,GCL を遮水材として利用する覆土層は不同沈下への対応という観点からは変形追従性を有する材料が望ましいと考えられる。これは覆土層という上載圧が低い条件下では落戸試験の Case 1 でみられたようにアーチ作用が生じ,重ね合わせ部に作用する拘束圧が低下する。この場合,重ね合わせ部の接触が不十分となり,遮水性能が低下する可能性がある。一方,覆土層の変形追従性が高い場合は Case 2 でみられるように重ね合わせ幅の減少が生じるが,重ね合わせ部の接触が保たれていれば遮水性能の影響大きな違いは見られないためである。一方、重ね合わせ幅が遮水性に及ぼす影響は小さかったことを考慮すると,Case 2 の方が重ね合わせ幅が減少を始めるのがやや早くなるとが遮水性能への影響は大きくないものと考えられる。謝辞本研究の実施にあたり,(独)国立環境研究所遠藤和人博士,(一財)地域地盤環境研究所本郷隆雄氏には多くのご助言,ご協力をいただいた。元 京都大学大学院地球環境学舎修士課程(現 JX 日鉱日石金属(株))須本祥太氏には実験の一部を担当いただいた。さらに,実験試料とデータの提供をいただいた丸紅テツゲン(株),(株)ボルクレイジャパン,(株)ホージュンの関係者の各位に謝意を表する。参考文献1) LaGatta, M.D., Boardman, B.T., Cooley, B.H. and Daniel, D.E. (1997): Geosynthetic clay liners subjected to differentialsettlement, Journal of Geotechnical and Geoenvironmental Engineering, ASCE, 123 (5), pp.402-410.2) Rajesh, S., and Viswanadham, B.V.S. (2010): Performance assessment of deformation behavior of landfill barriers at the onset of differential settlement, Int. J. Environmental Engineering, Vol. 2, Nos. 1/2/3, pp.269-289.3) 小川翔太郎・須本祥太・乾徹・高井敦史・勝見武 (2013): 基盤の不同沈下に対するジオシンセティッククレイライナー重ね合わせ部の挙動と遮水。性能への影響, ジオシンセティック論文集,第 28 巻, pp103-108.4) Kendall, P.M. and Austin, R.A. (2014): Investigation of GCL overlap techniques using a large scale flow box, Proceedings ofthe Seventh International Congress on Environmental Geotechnics, A. Bouazza, S.T.S. Yuen, and B. Brown (eds.), EngineersAustralia (EA), pp.746-753.-166-
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  • タイトル
  • 表面保護層が傾斜キャピラリーバリアの性能に及ぼす影響
  • 著者
  • 小林 薫・松元 和伸・森井 俊広・中房 悟
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 167〜174
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69538
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)6-3表面保護層が傾斜キャピラリーバリアの性能に及ぼす影響○ 小林 薫 1・松元和伸 2・森井俊広 3・中房 悟 41 茨城大学工学部・2 飛島建設技術研究所・3 新潟大学農学部・4 原子力規制庁原子力規制部1.はじめに2011 年の東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所事故で生じた放射能汚染土壌などの長期にわたる安全,安定した中間貯蔵保管施設などの建設にあたっては,セシウム(Cs)などの拡散防止の観点から地下水と雨水からの確実な遮断が確保されなければならない 1)。また,原子力発電所廃止措置に伴う解体時の主にコンクリートや金属などの極低レベル放射性廃棄物(以下,L3 廃棄物と記す)の処分は,原子力安全委員会が定めた安全審査の考え方が基本である。それによると,L3 廃棄物はトレンチ処分することが基本となっている 2)。その場合,地下水との接触を避けるため廃棄物を地下水位面より上に埋設する必要があると考えられるが,地下水位が上昇する可能性があることや地下水位の高いわが国では処分が困難な場合が想定される。一方,海外の原子力発電所においてL3 廃棄物の処分施設に盛土形式を用いている事例 3)を参考にすると,この形式がわが国でも成立するならば,地下水位が比較的高い地域や場所で貯蔵保管施設,廃棄物処分施設の設置が可能となることから,盛土形式による処分方式の導入あるいは処分概念の検討が始められている 4)。盛土形式による貯蔵・処分施設の集排水対策としては,表面被覆工(浸透抑制・防止)と底部集排水層(地下水への流入防止)の組み合わせが効果的である。その場合,長期の供用における安全・安定性確保の面から,数十年間にわたってメンテナンスフリーで排水機能を保持しなければならないという技術課題が生じる。この集排水対策の長期安全・安定性確保の解決策の 1 つとしては,キャピラリーバリア 5)(以下,CB と記す)を利用した集排水層がある。自然材料である砂層とその下に礫層(または、上部の砂が下部層の間隙に混入するのを防止するための破砕貝殻層 6))を敷設した単純な土層構造で,構成材料は数十年間の時間経過に伴う物理的な材料劣化がほとんどないという優れた特長をもっている。この CB 層の境界面に沿って浸透水を遮断できる長さ(限界長7)と呼ぶ,図-1(e)参照)には限界があり,地表面からの連続的な水分の供給により,境界面のある地点で下層の礫層へ浸透が起きる。この長さ(限界長)をできるだけ伸ばして,CB の遮断・排水性能を有効に発揮させることが重要である。加えて,実構造物への CB の適用にあたっては,CB 層を構成する層を構築した上に,さらに表面保護層を設けるのが一般的である 8)。従って,実証試験を進めていく上での課題として,表面保護層を加えた 3 層構造の浸透特性や限界長などについて把握した上で構造設計手法を確立することが重要である。本論文では,CB の性能に及ぼす表面保護層の効果を明確にすることを目的に,表面保護層+CB 層を室内大型土槽実験と実規模大の屋外フィールド実験で,散水強度(降雨強度),土層の傾斜角度を変えて限界長などを測定し,従来の研究等で行われていた 2 層構造の CB 層の限界長と比較検討した。その結果,CB 層の構造や使用材料が同じで,かつ散水強度,土層の傾斜角度が同じ場合でも,表面保護層を設けることで限界長が伸びることを実験的に明らかにした。これにより,今後の合理的な CB の構造設計を行うには,表面保護層の効果を取り込むことが必要であることを示した。2.キャピラリーバリア(CB)の限界長降雨などにより地表面から浸透した水は,砂層(相対的に細粒な土層)と礫層(相対的に粗粒な土層)の両層の土粒子の大きさに起因した水分特性曲線などの違いにより,上部からの浸透水は両層の境界面で遮断・貯留される(図-1(a))。この層境界面に傾斜をつけると,傾斜した層境界面に沿って集積流を形成し流下する(図-1(b))。砂層と礫層の層境界面に傾斜をつけて排水層として利用する場合,砂層に集積された浸透水が傾斜境界面に沿って流下していくことになる。斜面全長にわたって降雨などが供給されるため,集積流の水分量は流下するにつれ増えていく(図-1(d))。浸透水と集積流が足し合わさって水分量が増加し,ある地点で砂層がそれ以上の水分量を保持できなくなると,下部の礫層へ浸透水が降下浸透し始め,ブレークスルー(Breakthrough)が生じる(図-1(e))。この浸透に伴う集積流の始まりからブレークスルーが最初に生じた位置までの水平距離を限界長 7)と呼んでいる。図-2 は,宮﨑 7),北村ら 9)の文献を参考にして,図-1 に示した CB 層を構成する砂層と礫層のマトリックサクションと不飽和透水係数の関係を概念図で示したものである。図中のプロット○印と△印は,図-1 の傾斜した CB への不飽和浸透過程における経過時間とともに,変化する砂礫層境界面での不飽和透水係数とマトリックサクションの状態イメージを示している。初期状態(図-2(a))では,砂層のマトリックサクション(○印)は礫層(△印)より大きい。図-1(b)に示すように,上部より降雨などによる浸透水が供給されると,砂層の含水量が増加し土層境界面直上でのマトリックStudy on Diversion Capacity of the Inclined Capillary Barrier using the Cover Soil,Kaoru Kobayashi1, Kazunobu Matsumoto2,Toshihiro Morii3 , Satoru Nakafusa4 (1Ibaraki University, 2Tobishima Corpration,3Niigata University, 4Nuclear Regulation Authority)KEY WORDS: Capillary barrier, Diversion capacity, Shell particles, cover soil, Shallow land waste repository-167- ↓↓浸潤線疑似飽和↓浸潤線原地盤,浸潤線廃棄物等疑似飽和↓↓↓↓↓↓↓↓礫層(粗粒土層)↓↓↓ 降雨等↓↓↓表面↓集積流↓流↓砂層(細粒土層)↓↓↓↓降雨等↓↓表 面↓集積流流↓↓↓↓↓ 降雨等 ↓↓↓ 降雨等↓↓↓↓↓↓浸潤 表↓↓↓水 面流↓ ↓ 浸潤水表面↓流↓↓ブレークスルー浸潤線限界長(b)浸潤線が下方に進む(a) 初期状態(c) 浸潤線が砂礫層の境界面に到達(d) 疑似飽和領域が砂層に拡大(e) 下流側でブレークスルーが生じて浸潤水が礫層に進むマトリックサクション(a)初期状態マトリックサクションマトリックサクション(b)浸潤線が下方に進む(c)浸潤線が砂礫層の境界面に到達交点不飽和透水係数不飽和透水係数砂層不飽和透水係数礫層不飽和透水係数不飽和透水係数図-1 傾斜した CB への不飽和浸透過程とブレークスルーの概念図マトリックサクションマトリックサクション(d)疑似飽和領域が砂層に拡大(e)下流側でブレークスルーが生じて浸潤水が礫層に進む図-2 不飽和透水係数とマトリックサクションの関係と砂礫層境界面での砂層と礫層の含水状態の概念図サクションは小さくなるが,境界面直下の礫層のマトリックサクションは初期状態のままである(図-2(b))。図-1(c)に示すように浸透水が砂層と礫層の境界面に達した時でも,境界面の砂層のマトリックサクションは礫層よりも大きく(図2(c)),浸透水は礫層には浸透しないことになる。その後,降雨などの浸透水が供給され続けると,境界面付近の砂層は疑似飽和領域 9)が拡大し,境界面直上の砂層と直下の礫層の不飽和透水係数とマトリックサクションの関係は図-2(d)の交点に近づいて行く。交点を過ぎ,更にマトリックサクションが低下すると境界面直上の砂層と直下の礫層のマトリックサクションは同じになり,礫層の不飽和透水係数は砂層より大きくなって CB 機能が消滅し,ブレークスルーが発生する(図-2(e))。現状では,砂層と礫層で構築されたCB層の限界長は推定可能である。例えば,CB限界長に関する推定式は,宮﨑,森井ら10) は,Steenhuis et al.の提案式によるCB限界長の推定精度が高いことを報告している。以下には,地盤に浸透するフラックス(浸透量)qが,砂層の飽和透水係数ksに比べて十分小さい場合のSteenhuis et al.の推定式(1)を示す。Lkstanφ α -1+ ha-hwq(1)ここで,L:CB限界長(cm)q:地盤に浸透するフラックス(浸透量)(cm/h)ks :砂層の飽和透水係数(cm/s)φ :砂層と礫層の層境界面の傾斜角度(°)ha :砂層の空気侵入値(SWCCの排水過程から求まる飽和状態近傍にある垂直に立ち上がる部分の高さに相当する値)(cmH2O)hw :礫層の水侵入値(SWCCの吸水過程から求まる飽和状態近傍にある垂直に立ち上がる部分の高さに相当する値)(cmH2O)α :式(2)に示すh≧haの場合の砂層の不飽和透水係数 k を h の指数関数で近似した場合の係数6)k = ksh<ha ;k = ks×exp[-α (h - ha)]h≧ha(2)-168- ここで,k :砂層の不飽和透水係数(cm/s)h :土中水のマトリックサクション(cmH2O)しかし,式(1)を CB 層に表面保護層を加えた 3 層構造の表面保護層+CB 層の限界長推定にそのまま適用することは不可能である。以上より,廃棄物処分場や放射能汚染土壌などの長期貯蔵保管時(中間貯蔵を含め)の降雨浸透制御・防止のために,表面保護層+CB 層の適用も検討 4)されており,合理的かつ長期的視野で安全性や信頼性をより一層高めるためには,「表面保護層+CB 層」の限界長などを十分検証しておくことが必要不可欠と言える。3.表面保護層が CB の性能に及ぼす影響について3.1 大型土槽を用いた室内実験3.1.1 試料実験には,砂材は硅砂 6 号(豊浦砂と類似粒度分布),礫材は硅砂 6-8 mm で,表面保護層として今回は極細砂(硅砂 8号)を用いた。前記の 3 試料の土質試験による物理的性質を表-1 に,粒径加積曲線を図-3 に示す。また,図-4 には土柱法で求めた各試料の水分特性曲線(SWCC)を示す。なお,透水試験および土柱法は,室内およびフィールド実験時と同一乾燥密度(硅砂 6 号,8 号は締固め度 Dc=90%)に締め固めた供試体を初期状態とした。ここで,マトリックサクション h を増加(又は減少)させる過程では,供試体から排水(又は供試体に吸水)が起きることから,この過表-1 試料の物理的性質程を排水(又は吸水)過程と呼ぶ。試料調整は,硅砂6 号および 8 号は,110℃に設定した乾燥炉で 24 時間乾燥した後,常温になるのを待って霧吹きで水を項目単位粒子密度 ρs硅砂6-8mm硅砂8号g/cm32.7012.6522.705自然含水比 W n%0.80.50.3最大粒径mm0.459.500.25粒 均等係数 U c度 曲率係数 Uc'-1.741.402.79-0.9380.9400.891加えながら,含水比を事前の締固め試験より得られた最適含水比(wopt)に調整した。24 時間以上静置後,実験用土層を作製する前に含水比を測定した。3.1.2 実験装置写真-1 に実験に用いた大型土槽と大型散水装置の外観を示す。大型土槽の大きさは,高さ 50 cm,奥行試料名硅砂6号50%粒径 D 50mm0.1946.6100.109最小間隙比 emin-0.6720.6140.612最大間隙比 emax-1.0550.7611.088供試体の乾燥密度ρdg/cm31.3341.4371.389供試体の透水係数K sm/s1.31×10-41.26×10-21.71×10-5き 20 cm,幅 300 cm である。土槽底面部には,高さ3 cm の仕切板を 10 cm 間隔に設け,ブレークスルー通過質量百分率 (%)100が生じた位置を 10 cm 単位で把握できるようにした。加えて,土槽底面からの流出水量も 10 cm 間隔で測定可能である。各流出水をスムーズに土槽外部に排出させるため,底版を流出口にむけて傾斜をつけた(図-5 参照)。図-6 には,大型土槽の下流部に設けた80硅砂8号60硅砂6号40硅砂6-8mm200幅 10 cm の排水引き込み部を示す。各排水引き込み0.010.101.00粒径 (mm)部は,最下流端は表面保護層(硅砂 8 号)のみ,その横は砂層(硅砂 6 号)を流下した浸透水を各々個別に10.00100.00図-3 各試料の粒径加積曲線外部に排水させる役割を有する。これは,土槽下端部排水過程(硅砂8号)0.6付近に流下した水を貯留させないために設けた。吸水過程1回目0.6吸水過程(硅砂8号)吸水過程2回目排水過程(硅砂6号)置(大きさ;高さ 70 cm,奥行き 20 cm,幅 300 cm)の下面に 50 mm 間隔に配置した工業用注射針を用いて土層表面に与えた。なお,散水強度は散水装置と連結した予備タンクの水位を制御することで一定に保った。ここで,散水強度(mm/h)とは,土層表面に与え0.5吸水過程(硅砂6号)0.40.30.20.5体積含水率 θ (cm3/cm3)体積含水率 θ (cm3/cm3)また,散水は,大型土槽の上部に備えた大型散水装0.10.40.30.20.1た散水量を単位時間当りで示したものである。0.03.1.3 土層作製0.0020406080 100マトリックサクション (cmH2O)大型土槽への礫材(硅砂 6-8 mm)の充填は,所定(a) 硅砂 6 号と硅砂 8 号の乾燥密度になるように,質量を測定した試料を土020406080 100マトリックサクション (cmH2O)(b) 硅砂 6-8mm図-4 硅砂 6 号と 8 号および 6-8 mm の SWCC槽に投入後,木製の突き固め板で礫層の上面を静的-169- 散水装置3,0002mm砂層礫層流出口写真-1 大型土槽と散水装置外観30(仕切板)細砂層砂層引き込み部500仕切板375細砂層油圧ジャッキ75 100 200大型土槽大型土槽礫層30@100 =3,000傾斜勾配図-5 土槽底版の傾斜単位: mm図-6 土層断面と排水引き込み部に締固めて 7.5 cm 厚に仕上げた。締め固めた後に,上面を平滑に仕上げた上で浸透挙動に影響を及ぼさない不織布を設置した 11)。次に,砂層(硅砂 6 号および硅砂 8 号)は各最適含水比に調整した試料を用いて,所定の乾燥密度(締固め度 Dc =90%)になるように,質量を測定した試料を大型土槽に投入後,木製の突き固め板で所定の 5 cm 高さにゆっくりと静的に締固めた。この作業を繰り返し,硅砂 6 号は 10 cm 厚,硅砂 8 号(表面保護層)は 20 cm 厚の土層を作製した(図-6 参照)。土層完成後は,写真-1 に示す油圧ジャッキにより大型土槽の傾斜角度を設定角度に調整した後,所定の散水強度で散水を開始した。なお,散水前に土層表面に,散水装置から落下する水滴による洗掘防止と共に,散水が土層表面に均等に行き渡るようにするため,地盤への浸透を阻害しない厚さ 0.3 mm のガーゼを土層上面の全面に敷いた。3.1.4 実験ケース大型土槽を用いた実験は,土層完成後に散水強度(5.0,10.0 および 20 mm/h)と土槽(層境界面)の傾斜角度(1.25,2.5,5.0 および 10.0°)を順次組み合わせながら,各ケースにおいて定常状態を確認し実験を終了した上で,次の実験ケースに入り連続的に実施した。なお,表面保護層を設けた場合でも土層表面に散水した水は,全て土層中に浸透し表面流出水が無いことを確認している。よって,各実験ケースにおける定常状態の判断は,総散水量≒総流出水量とした。3.1.5 実験結果(1) 土槽底面部からの流出水量およびその分布代表的なケースの定常後における流出水量とその分布を図-7(a),(b)に示す。横軸は,各流出口の土槽上流端からの距離を示し,数値の大きい方が下流側である。図-7(a),(b)より,定常時において流出水が認められる流出口の箇所数は,土槽の傾斜角度が小さく(10°→1.25°),また散水強度が強く(5 mm/h→20 mm/h)なるほど多くなった。また,土槽底面部からの流出水量については,土槽下流部の排水引き込み部の流出水量が最も多く,ブレークスルーがある場合でも砂層上を流下する集積流が多いことが見受けられる。加えて,下流部の排水引き込み部から遠ざかるほど,流出水量が全体的に少なくなっているものの,その減少傾向には規則性はない。さらに,実験条件毎の定常時の流出水量分布については,図-7(a),(b)に示すように,時間をずらして流出水量を複数回測定したが,ほぼ同等の流出水量およびその分布が得られた。複数回測定した流出水量およびその分布に再現性が見られることから,一度生じた土層内の流れは,散水強度や土槽傾斜角度に変化がなければ,そのまま変化せずに定常状態を維持しているものと考えられる。(2) CB の限界長図-7(a),(b)に,土槽の最上流部より一番近い場所でブレークスルーが生じた位置までの各斜距離を示すと共に,土槽の傾斜角度を基に,角度補正を行い水平距離に換算した表面保護層+CB 層の限界長を表-2 にまとめて示す。なお,ここで示した推定値とは,Steenhuis ら 12)が提案した CB 層の限界長推定時に用いた式(1)で算出した値である。また,筆者らが行なってきた表面保護層が無い場合における,硅砂 6 号と硅砂 6-8 mm により構成される CB 層の限界長も比較のために併記した 13)。本実験結果と既往の CB 層の限界長を比較して,同一実験条件で比較可能な 5 ケース全てにおいて,表面保護層+CB 層の限界長の方が伸びていることが分かる。例えば,土槽の傾斜角度 10°,散水強度 10 mm/hの場合の実験に基づく限界長は,CB 層では 167 cm に対して,表面保護層+CB 層では最低でも 276 cm 以上(大型実験土槽の測定範囲をオーバーしたため「以上」とした)であり,大幅に伸びていることが分かる。ここで,同一実験条件時の CB 層と表面保護層+CB 層の限界長の比較を図-8 にまとめて示した。表面保護層+CB 層の限界長は,同一条件の CB層のそれに対して平均で約 1.7 倍になっている。加えて,図-8 の点線で示すように比較的良好な直線関係(相関係数 0.98以上)が得られた。したがって,直線関係が得られていることから,表面保護層を通過し砂層への浸透フラックス q を評価できれば,表面保護層+CB 層の限界長を推定できる可能性があるものと考えられる。-170- 1025.2cm3 )2回目(実流出量1006.8cm3 )3回目(実流出量1011.2cm3 )800流出水量(cm3)流出水量(cm3)1回目(実流出量斜距離 280cm超7001回目(実流出量 2067.6cm3 )6002回目(実流出量 2083.6cm3 )5004003回目(実流出量 2085.4cm3 )斜距離 約 60cm300200(下流端)100(下流端)80070060050040030020010000上流面端部からの距離 (cm)上流面端部からの距離(cm)(a) 傾斜角度 10.0 °,散水強度 10 mm/h(b) 傾斜角度 5.0 °,散水強度 20 mm/h図-7 土槽底面部からの流出水量および流出水量分布と上流端から一番近いブレークスルーした位置までの斜距離3.2 実規模大のフィールド実験表-2 表面保護層+CB 層の限界長3.2.1 試料試料は,礫代替材として破砕貝殻を用いている以外は,前記の傾斜角度(°)室内実験とまったく同じである。貝殻試料は 80 ℃の乾燥炉で 241.25時間乾燥し,その後自然大気中で 24 時間以上放置した上で,斜2.5-表面保護層+CB層測定値CB層-表面保護層+CB層測定値推定値表面保護層+CB層体の平均的な試料として粒度試験などを行った。破砕貝殻の粒度測定値測定値CB層10.0推定値表面保護層+CB層試験結果を比較のために硅砂 6 号と共に図-9 に,土柱法による5---160169159279超276300-測定値CB層5.0および下部の 3 箇所から破砕貝殻を採取・混合し,破砕貝殻層全散水強度 (mm/h)CB層面基盤上に厚さ約 25 cm にまき出し,4 ton 振動ローラーにより所定の転圧回数で破砕した 14)。所定の転圧回数後,斜面の上,中測定値または推定値種類測定値10-40-707084100167157276超20---303042607983128350SWCC を図-10 に示す。3003.2.2 斜面基盤と散水装置の概要(cm)図-11に示す様な勾配10 %(約5.7°)の斜面基盤を造成する。そ測定値して,ブレークスルーが生じた位置を把握してCB限界長を確認するため,斜面基盤に50 cm間隔で流出水溝を掘り込み,流出水口に向かって5 %の勾配をつけた直径5 cmの半割塩ビ管を設置した(図-11のB-B断面)。その後,半割塩ビ管に破砕貝殻を詰め斜面250200150CB層(砂+礫)の測定値=推定値のライン10050基盤高まで埋め戻した。○:Morii et al.(2012)■:本研究による測定値00次に,破砕貝殻層を通過した浸透水を流出水溝に全て集水するため,斜面基盤の全面をビニールシートで覆い,その上で流出水50100150推定値200250300350(cm)図-8 表面保護層+CB 層と CB 層の限界長比較溝の上部を5 cm×100 cmの短冊状に切り抜いた。これにより,流100出水溝間に浸透した水は,全てシート上を流下し,各区間の下流構造とした。これにより,CB限界長は,50 cm単位で測定できると共に,流出水口からの流出水量も50 cm間隔で測定できる。斜面基盤の上空部には,噴射範囲を考慮した散水用ノズル(噴射角度 約30 °)を,CB土層表面より約120 cmの高さに均等間隔に12個配置した。噴霧状の散水は,CB土層の表面に直接与える方式を採用した。散水強度の調整は,室内実験時とは異なり,送水圧力通過質量百分率(%)側に位置する流出水溝に流れ込み,流出水口から外部に排水する重機破砕貝殻硅砂6号8060402000.010.1A-A断面に示す10%傾斜の配管であっても,散水ノズル(12個)の時間当たりの各噴出水量のバラツキは最大でも3%程度14)であり,本実験における散水強度の均一性はほぼ確保されている。3.2.3 実験土層の作製斜面基盤造成後の貝殻の破砕方法については,前記の 3.2.1 で示した通りである。なお,転圧回数は,事前に実施した転圧回数と破砕貝殻の粒度分布の関係を基にして 12 回とした。次に,破0.5体積含水率 θ (cm3/cm3)力を制御した。また,噴出水量の均一性を確認した結果,図-11の10100図-9 破砕貝殻の粒径加積曲線(0.075~0.42 MPa)と散水強度との関係を事前に求め,実験時の散水強度にあわせて送水用ポンプ(nikuni製,出力0.31 kW)の圧1粒径 (mm)0.4排水過程吸水過程0.30.20.10.00 20 40 60 80 100マトリックサクション (cmH 2O)図-10 破砕貝殻の SWCC(排水・吸水過程)砕貝殻層の上面を平滑に仕上げた上で,事前に校正した写真-2 の土壌水分センサー(デカゴン社製:EC-5)をプローブ中心部が土層幅 100 cm の中央になるように埋設した。各センサーの埋設は,締め固めた破砕貝殻層を乱さない様にヘラなどで溝掘りを行い,斜面基盤の長手方向に 100 cm ピッチで 9 箇所設置した。埋設した土壌水分センサーは,周りに空隙-171- を残さない様に注意しながら破砕貝殻で埋め戻した。その後,破砕貝殻層の上面を再度平滑に仕上げ,密度管理のための層厚を測定した。破砕貝殻層を構築後,砂層(硅砂 6 号)は最適含水比(wopt=11.9%)に調整し,所定の乾燥密度(Dc=90%)になる様に,質量を測定した試料を幅 100 cm の土槽に投入後,手製の突き固め板で 10 cm の厚さにゆっくり静的に締め固めた。こ散水用ノズル(12個)(散水強度調整可能)細砂層( 表面保護層)B砂層105cm貝殻層浸食防止用不織布15cm20cm8cmA基盤層排水孔20@50cm=1000cmBピットビニールシート流出水溝100cm(幅)( 径5cm半割) (排水溝上部は無し)設置した。その上で,表面保護層の硅砂 8 号を最適含水比製の突き固め板で 7.5 cm の厚さにゆっくり静的に締め固めた。A流出水溝集水溝次に,砂層より透水性の良い厚さ 0.13 mm の不織布を上面になる様に,質量を測定した試料を幅 100 cm の土槽に投入後,手タンク 水道10% 勾配の作業を 2 回繰り返して層厚 20 cm の砂層を完成させた。(wopt=19.8%)に調整した上で,所定の乾燥密度(Dc=90%)に流量調整用送水ポンプ斜面基盤集水溝流出水溝 20@50cm=1000cmこの作業を 2 回繰り返し層厚 15 cm の表面保護層を完成させ,流出水口A-A断面最後に上面全体を平滑に仕上げ密度管理の層厚を測定した。図-12 には,埋設した土壌水分センサーの配置位置とセンサ散水ノズル噴霧状散水ー番号を示す。また,散水開始や停止直後は,散水ノズル先端( 表面保護層)より短時間であるが水滴が落下することがある。このことから,細砂層(15cm)砂層(20cm)貝殻層(8cm)不織布側壁土層表面の洗堀などを防止するため,室内試験と同様の厚さ(合板)0.13 mm の不織布を上面に設置した(写真-3)。実験時の土層底部の流出水口からの流出水量と CB 限界長の測定は,総流出水量が総散水量と同量になったこと(定常)を流出水溝5%勾配(径5cm半割塩ビ管)土層幅 1000cm確認した後に実施した。各流出水口からの流出水量を 1 リットB-B断面ルビーカーで受け,1 分間の流出水量を時間をずらして 3 回測定した。流出水量の測定完了後,流出水が出ている流出水口を集水溝基盤層図-11 土層の断面・平面・正面図と散水装置概要目視観察した上で,斜面の上流端からの斜距離を測定した。3.2.4 実験ケース実験は,散水強度を 5,3 および 2 mm/h とした全 3 ケースについて実施した。本フィールド実験においても各散水強度における定常(総散水量 ≒ 総流出水量)状態を確認後,散水強度を順次切り替え連続的に実施した。最後に,土壌水分センサーの作動確認を行うため, 3 ケース目の 2 mm/h で約 14 日間散水写真-2 土壌水分センサー(EC-5)の外観後,最後に散水強度を上げて各センサーが連動して,正常かつ砂層(硅砂8号)リアルタイムに挙動することを確認し実験を終了した。3.2.5 実験結果と考察破砕貝殻層(1) 土槽底面部からの流出水量および流出水量分布実験条件毎に定常時の流出水量と流出水量分布を図-13 に示す。横軸は,斜面土層の上流端からの距離を示し,数値が大きい方が下流側である。各図より,定常時において流出水が認められる流出水口の箇数は,散水強度が強いほど多くなることが15cm10cm10cm4cm4cmS7S9 S8砂層(硅砂6号)S2 S1S4 S3S6 S5H3 H2H5 H4H7 H6H9 H88 @ 100cm = 800cm(土壌水分センサーの設置間隔)センサーの位置H1センサー番号斜面基盤図-12 土壌水分センサーの配置位置と番号分かる。加えて,下流端に近いほど流出水量が全体的に多くなっている。また,定常時の流出水量とその分布については,時間をずらして各 3 回測定した。その結果,図-13 に示すように,各流出水口に対する流出水量はほぼ同じ値が得られた。このことから,ブレークスルー後の流出水量とその分布については,散水強度土層表面の不織布に変化がなければ,変動することなく安定,つまり,定常状態を維持しているものと考えられる。(2) 体積含水率(θ)の変化図-14 に散水開始から実験終了までの砂層と破砕貝殻層の代表的な土壌水分センサーによる体積含水率の経時変化を示す。代表的な砂層内の体積含水率(センサー番号 S2,S5 および S8 )-172-写真-3 ビニールハウス内での実験状況 200(10日)θ(cm3/cm3)100斜距離=250 cm0.0-0.50.5-1.01.0-1.51.5-2.02.0-2.52.5-3.03.0-3.53.5-4.04.0-4.54.5-5.05.0-5.55.5-6.06.0-6.56.5-7.07.0-7.57.5-8.08.0-8.58.5-9.0(上流側)09.5-1050体積含水率1509.0-9.5流出水量 (g/min)0.55 mm/h(ケース 1)S50.2H8H50.1H20.001440028800時間 (min)3mm/h432002mm/h表-3 表面保護層+CB 層の限界長150100斜距離=500 cm0.0-0.50.5-1.01.0-1.51.5-2.02.0-2.52.5-3.03.0-3.53.5-4.04.0-4.54.5-5.05.0-5.55.5-6.06.0-6.56.5-7.07.0-7.57.5-8.08.0-8.58.5-9.09.5-10(上流側)9.0-9.5500S20.3図-14 実験開始から一連の実験終了までの土壌水分センサーによる体積含水率の経時変化200流出水量 (g/min)S80.45mm/h上流端からの距離 (m)(a) 散水強度(30日)(20日)ケース1ケース2ケース3斜面 (層境界面)勾配 (%)10.0散水強度(mm/h)5.03.02.0表面保護層+CB層249 (250) 498 (500) 697 (700)測定値(cm)CB層149 (150) 398 (400) 547 (550)※表中の測定値は,( )内の値を角度補正し水平距離に換算した値である。上流端からの距離 (m)(b) 散水強度3 mm/h(ケース 2)150700斜距離=700 cm1000.0-0.50.5-1.01.0-1.51.5-2.02.0-2.52.5-3.03.0-3.53.5-4.04.0-4.54.5-5.05.0-5.55.5-6.06.0-6.56.5-7.07.0-7.57.5-8.08.0-8.58.5-9.0(上流側)09.5-1050上流端からの距離 (m)(c) 散水強度測定値(cm)8009.0-9.5流出水量 (g/min)900200600500400CB層(砂層+礫層)の測定値=推定値のライン300200○:下層が礫層 (森井らの既往研究15))□:下層が破砕貝殻層 (中房らの既往研究13))1002 mm/h(ケース 3)■:本研究(表面保護層+CB層)00図-13 表面保護層+CB 層の流出水量および流出水量分布とブレークスルー位置までの斜距離100 200 300 400 500 600 700 800 900推定値(cm)図-15 表面保護層の有無による限界長の比較は,破砕貝殻層の同位置に設置された体積含水率(H2,H5 および H8)より相対的に高い。また,砂層内の体積含水率は,初期乾燥密度をほぼ一定に作製していることから,上流部より下流部の体積含水率が高くなっていることが分かる(S2 < S5 < S8 の順)。これは,CB 効果で層境界面上部の砂層を流下する集積流が下流側ほど多くなったためと考えられる。加えて,両層ともに体積含水率は,散水強度が弱くなるほど小さくなる傾向を示した。また,ケース 3 では散水強度2 mm/h の一定条件で,約 14 日間散水を継続させた結果,体積含水率の経時変化は,図-14 に示すように砂層,破砕貝殻層共に温度変化による変動は認められるもののほぼ一定値を示した。長時間に渡る散水時でも散水強度が変化しなければ,体積含水率に変化はなく,つまり,定常状態が維持されていることがわかる。さらに,限界長についての詳細は後述するが,2 mm/h の散水強度で約 14 日間の連続散水後の CB 限界長は,散水開始の初期段階の定常状態で求めた CB 限界長と同じであった。以上より,長時間に渡り一定の散水強度を与えた場合,他の条件が変動しなければ,CB 層内の水分状態は変化せず,体積含水率は一定値のまま安定した定常状態を示した。加えて,約 30 日間にわたり散水強度を徐々に低下させたが,CB 層(特に,砂層)の体積含水率も徐々に減少した。したがって,長期間の散水時および散水強度の変化時において,破砕貝殻を用いた表面保護層+CB 層は,浸透フラックス q に伴う CB 性能を発揮したものと考えられる。(3) CB 限界長の把握図-13 には,斜面土層の上流端より一番近い場所でブレークスルーが生じた位置までの斜距離を示すと共に,土層の傾斜角度を基に,角度補正を行い水平距離に換算した各ケースの CB 限界長を表-3 にまとめて示す。実験により得られた表面保護層+CB 層の限界長は,散水強度の影響を大きく受け,散水強度が弱いほど長くなる傾向にある。また,表面保護層+CB 層の安定性を確認するため,散水強度 2 mm/h 時において,散水初期の定常時と約 14 日間の連続散水後の限界長を測定した。その結果,表面保護層+CB 層の限界長は,両者共に 697 cm(斜距離=700 cm)で変動はまったくなく,流出水量などと同様に安定,つまり,長期間に渡り定常状態を維持しているものと考えられる。(4) CB 限界長の比較図-15 は,表面保護層+CB 層と CB 層のみによる限界長を比較した結果を示す。ここで,CB 層の限界長とは,筆者らが今回と同一材料・条件で実施した表面保護層が無い場合の限界長である。両者の限界長を比較した場合,全ケースにお-173- いて散水強度が同じであっても,表面保護層+CB 層の限界長の方が大きくなっている。例えば,散水強度が 2 mm/h の限界長は,表面保護層+CB 層では 697 cm,CB 層では 547 cm であり,表面保護層+CB 層の限界長は CB 層の限界長に対して約 1.5 倍(平均)である。加えて,同図に点線で示した様に,比較的良好な直線関係が得られ,表面保護層を通過し砂層(硅砂 6 号)への浸透フラックス q を評価できれば,表面保護層+CB 層の限界長を推定できる可能性がある。4. まとめ本研究では,大型土槽を用いた室内実験と実規模大のフィールド実験を行い,散水強度,土層傾斜角度を変化させながら,表面保護層+CB 層の限界長などを測定した。主な結論は次の通りである。1) 流出水が認められる流出口の数は,散水強度が強くなるほど,土槽傾斜角度が小さくほど多く,また,複数回測定した流出水量に再現性があり,一度生じた土層内の流れは,散水強度,傾斜角度に変化がなければ定常状態を維持する。2) 表面保護層+CB 層の限界長は表面保護層を設けない CB 層の限界長と比較して大きな値になり,表面保護層の設置に伴い限界長が伸びることを実験的に明らかにした。3) 表面保護層+CB 層の限界長は,同一の散水強度と土槽傾斜角度で実施した CB 層の限界長より,室内試験は平均で約1.7 倍,フィールド実験は平均では約 1.5 倍になった。加えて,両実験ともに比較的良好な直線関係が得られた。表面保護層を通過し砂層への浸透フラックス q を評価できれば,表面保護層+CB 層の限界長を推定できる可能性がある。4) 表面保護層の有無による限界長の比較において,室内実験の比とフィールド実験の比が多少異なるのは,表面保護層の厚さ以外は同一材料,同一条件であり,表面保護層の厚さが室内実験では 20 cm,フィールド実験では 15 cm(装置の制約条件から 15 cm が限界)であることから,表面保護層の厚さが限界長に影響を及ぼした可能性がある。今後は,表面保護層の効果の定量的評価と共に,土層表面のひび割れやエロージョンの影響も検討する必要がある。謝辞:本研究は,(独)科学技術振興機構 A-STEP シーズ顕在化タイプ(課題番号;AS2321502E)並びに JSPS 科研費25420514 の援助を受けて行った。また,各種実験については,(有)TNS に協力頂いた。ここに記して謝意を表す。参考文献1) 坂本靖英・保高徹生・張 銘・宮崎晋行・井本由香利・鈴木正哉・三田直樹・金井 豊・駒井 武:放射性セシウム廃棄物等の保管施設の設置に関わる安全管理技術の開発,GREEN2)NEWS,No.46,p.4,2014.原子力安全委員会 放射性廃棄物・廃止措置専門部会:第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方,pp.11-14,2010.3)Aronsson, D.:Landfill repositories for very low level waste and its application in Sweden, CEG Workshop on Disposal ofRadioactive Waste and Spent Nuclear Fuel-Experience and Plans,pp.2-19,2009.4) 阪 絵梨子・森井俊広・松元和伸・小林 薫:土のキャピラリーバリア機能を用いた盛土形式の廃棄物貯蔵施設の提案,平成 26 年度農業農村工学会大会講演会講演要旨集,pp.708-709,2014.5) 森井俊広:土のキャピラリー・バリア,地盤工学会誌,Vol.59,No.2,pp.50-51,2011.6) 小林 薫・西村友良・森井俊広・中房 悟:水産系副産物(貝殻)のキャピラリーバリアへの有効活用に関する基礎的研究-破砕した貝殻の保水性について-,地盤工学会誌,Vol.59,No.7,pp.14-17,2011.7) 宮﨑 毅 : 傾斜キャピラリーバリアの限界長に関する研究, 農業土木学会論文集,No.179,pp.49-56,1995.8) 増岡健太郎・檜垣貫司・今村 聡・安田晋雄・森 雄治:キャピラリーバリアの設計方法に関する研究,第 7 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  • タイトル
  • UAV を用いた除染廃棄物等仮置場キャッピングシートの健全性モニタリング手法に関する研究
  • 著者
  • 宮原 哲也・中山 裕文・島岡 隆行・上田 滋夫
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 175〜180
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69539
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)6-4UAVを用いた除染廃棄物等仮置場キャッピングシートの健全性モニタリング手法に関する研究○宮原哲也 1・中山裕文 2・島岡隆行 2・上田滋夫 31九州大学大学院工学府・2 九州大学大学院工学研究院・3 東洋紡株式会社1.はじめに東京電力福島第一原子力発電所の原発事故により放出された事故由来放射性物質に汚染されたものである特定廃棄物と除染に伴う土壌・廃棄物のうち,除染土壌等の除染廃棄物の発生量は,福島県内で 1,870 万 m3~2,815 万 m3 と見積もられている 1)。除染土壌等の除染廃棄物は,中間貯蔵施設へ搬出されるまで除染廃棄物仮置場(以下,仮置場と称する。)で保管されことになり,仮置場には保管期間中の除染廃棄物の飛散防止,雨水等の浸入防止機能が求められる 2)。仮置場の上部キャッピング工として用いられている通気性防水シートは,保管期間中,その機能の健全性が維持されることが求められる。これらの維持管理は,主に目視による点検が実施されているが,除染特別地域(直轄除染)における一時保管所及び仮仮置場を含む仮置場は,208 箇所 3)にもなる。これら多数の仮置場を維持管理することは容易ではない。このように仮置場は,広域かつ多数設置されているため,その維持管理には,広域をモニタリングできるリモートセンシングを適用することが効率的であると考えられる。廃棄物分野におけるリモートセンシング技術の適用については,最終処分場など,特に地上観測が難しい広域の面的情報取得を効率的に実施する手段として,上空からのリモートセンシング技術が期待されている 4)。近年,小型無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle,以下,UAVと称す。)を利用した空撮技術が目覚ましく進歩しており,上空から写真を撮影し,建設現場の記録,植生調査,災害調査などに利用されている 5)6)7)8)。本研究は,UAVを用いて上空から広範囲をモニタリングできる可視・熱赤外画像によるリモートセンシングを実施することを想定し,空中からの計測で得られる可視画像及び熱赤外画像を用いてキャッピングシート表面の破損あるいは破損の原因となる内部温度や特異部の検出手法を検討し,その特異部がキャッピングシートに与える応力を考察した。2.仮置場の概要とUAV計測システムの概要2.1 計測を行った仮置場の概要可燃物を含む除染土壌等の除染廃棄物は,フレキシブルコンテナや大型土のうに入れ,2~3 段程度積み上げる。底部は,遮水シート等を敷き,上部を通気防水シート等で覆った上で仮置きされる。福島県双葉郡楢葉町の上繁岡地区除染廃棄物等仮置場(図-1)は,敷地面積が約 35,200 m2,であり,2,014 年 11 月 30 日時点で 35,564 袋のフレキシブルコンテナが搬入されている。仮置きの区画は,19 区画あり,そのうち可燃物区画は 9 区画である。本研究では,この可燃物区画を対象とした。図-1 上繁岡地区除染廃棄物等仮置場の様子2.2 UAV計測システムの概要可視カメラ及び熱赤外センサを搭載したUAV(図-2)にて上空から撮影して可視画像と熱赤外画像を取得した。使用機器及び撮影条件等を表-1 に示す。取得した可視画像に対してオルソ補正(空中写真を正射投影により,その歪みを補正すること)を行った。補正にあたっては予め設定された GCP(Ground Control Point)を用いて地理情報を付与した。表-1 使用機材の概要及び計測条件使用機材撮影条件観測日時気象条件 UAV:アミューズワンセルフ社製8枚ロータUAV 可視カメラ:4Kデジタルカメラ 熱赤外センサ NEC製非冷却型赤外線イメージャ センサ波長帯 8~14㎛ センサ画素数 640×480 撮像高度:約25m 撮影方法:あらかじめ設定した撮影経路,撮影高度情報と      GPSに基づく自動操縦による撮影2014年12月2日午前7:00~7:45(画像撮影は各10分程度)平均気温:7.7 ℃平均湿度:47.0%平均気圧:990.3hpa図-2 UAVの飛行状況Development of Monitoring Method for Soundness Evaluation of Capping Sheet Used for Decontamination Waste Storage usingUAVTetsuya Miyahara1, Hirofumi Nakayama2, Takayuki Shimaoka 2, Shigeo Ueda3KEY WORDS: Decontamination waste, Temporal waste storage area, Capping, UAV, Remote Sensing-175- 3.UAVによる可視画像及び熱赤外画像の計測結果UAVによって撮影した仮置場のオルソ補正済み可視画像を図-3 に,熱赤外画像を図-4 に示す。これらのエリアを計測するのに要した時間は,可視画像及び熱赤外画像ともにそれぞれ約 10 分であった。B-1B-2A-5A-6A-7A-1A-2A-3A-4図-3 UAVによる可視画像撮影結果約2030図-4 UAVによる熱赤外画像撮影結果40 ℃4.UAV取得画像によるキャッピングシートの内部温度検出,特異部判別及び応力の推定4.1 UAV熱赤外画像を用いたキャッピングシート内部温度の検出UAVにより撮影した熱赤外画像を用いて,キャッピングシート内部温度分布の把握について検討した。本計測に用いたUAV搭載の熱赤外センサの解像度は,今回の撮影高度である約 25 m の場合,約 3 cm/画素である。各区画内には数箇所ずつ内部温度測定が実施されている。このうち A-7 区画においては,図-5 に示す位置の内部温度が他の場所の 15~30 ℃程度と比較して高く,約 60 ℃であった。しかし,熱赤外画像では明確な差が検出できなかった。このキャッピングシート内部と表面の温度差を検出できなかA-7区画った原因として以下の 2 点が考えられる。1 点目は,シート上内部温度計測位置部表面まで内部温度が十分伝播していない可能性があげられる。仮置区画の内部構造は,分解により発熱の可能性があるフレキシブルコンテナ内に充填されている除染廃棄物と上部にキャッピングされた通気防水シートの間に遮蔽材となる汚染されていない山砂等を充填した土嚢が設置されている。さらに,通気防水シートは柔軟性が小さいため,その間には隙間があると考えられる。この状態において内部温度が表面まで伝播するにはかなりの高温が必要であると推察される。2 点目は,太陽光による影響があげられる。図-6 に示すように各区画短辺側の側面部が上部と比較して高温であることが計測されている。これはシ約20図-5 仮置場の熱赤外画像と A-7 区画における内部温度計測位置ートの該当箇所が太陽光照射を多く受け止める角度になっており,他より温度が上昇としたことが原因である。また,シート上の温度不均一箇所については,可視画像で確認される表面の凹凸と赤外画像における放射輝度差とが対応していることから,太陽光照射による温度上昇と細かい凹凸に太陽光が反射してい可視画像熱赤外画像ることに起因しているものと推察される。太陽光がない夜間に観測を行えば太陽光による影響を避けることができるが,UAV飛行時の事故確率が上がるため推奨できない。また,日の出直前の観測が可能であれば,太陽光の影響を避けられるが,観測時間帯が非常に限定されることが課題である。上空からの内部温度を推定するためには,太陽光の影響除去とキャッピングシート内部温度のシート表面への熱伝導の解明が必要である。-176-30図-6 可視画像と赤外画像の比較40 ℃ 4.2 UAV可視画像を用いたキャッピングシート表面に発生した特異部の判別UAVにより撮影した可視画像を用いて,キャッピングシート表面に発生した特異部の判別を試みた。具体的には地上において仮置場を踏査し,キャッピングシート表面に何らかの特異な部分を見つけ,地上にて撮影した特異部の写真と,UAVで上空から撮影した可視画像とを比較した。表-2 に今回対象としたキャッピングシート表面のモニタリング対象とした特異部の一覧,生じた原因,大きさ,図番号(図-7~12),UAV画像での判別の容易さ及び考察を示す。本計測に用いたUAV搭載の可視カメラの解像度は,今回の撮影高度である約 25 m の場合,約 2 mm/画素となるが,今回,実験的に直径約 3 cm 貫通した穴を有するキャッピングシート片を作為的にテープで貼り付けたものをUAV画像で確認したところ,画像上では黒点として判別することができた(図-8-a、8-b)。ただし,鳥の糞や枯葉等を傷と誤認識しやすかった。これらの結果から,UAV撮影により要監視部を抽出し,現地での確認と併用することにより,小さな異常部から大きな破損に発展することを回避できるものと考えられる。図-7-a キャッピングシート表面の 図-8-a キャッピングシート表面の傷傷(未貫通):地上撮影012(m)012(m)図-7-b キャッピングシート表面図-8-b キャッピングシート表面の傷の傷(未貫通):UAV 撮影(人工貫通傷貼付):UAV 撮影図-10-a キャッピングシート表面の図-11-a キャッピングシート接合12(m)突起物による凸部:地上撮影001擦れによる傷:UAV 撮影2(m)物による凸部:UAV 撮影)図-12-a キャッピングシート接合パッチによる補修部:地上撮影2(m)0図-10-b キャッピングシート表面の1図-9-b キャッピングシート背後突起部のしわ:地上撮影擦れによる傷:地上撮影0図-9-a キャッピングシート背後の(人工貫通傷貼付):地上撮影図-11-b キャッピングシート接合部のしわ:UAV 撮影-177-12(m)図-12-b キャッピングシート接合部パッチによる補修部:UAV 撮影 表-2 UAV可視画像を用いたキャッピングシート表面特異部のモニタリング結果特異部の種類原因大きさ表面の傷(未貫通)鳥類がキャッピングシート表面の繊維を巣の材料直径約3cmとするため採取したと考えられる。表面の傷(貫通)貫通し た穴 を有 するキャッピングシート片を直径約3cm作為的にテープで貼り付けたもの。図番号図7a考察△UAV画像上で黒点として判別できる.ただし,鳥の糞や枯葉等を傷と誤認識しやすい。△UAV画像上で黒点として判別できる.ただし,鳥の糞や枯葉等を傷と誤認識しやすい。○凸部にできた影によりUAV画像でも容易に判別できる。○擦れによる傷の範囲が大きいものは,UAV画像で容易に判別できる。○しわの影によりUAV画像で容易に判別できる。△影の状況によって判別が難しい。図7b図8a図8bシート背後の突起物により押されたシート表面にシート背後の突起物に突起部の直径約3cm,できた凸部.凸部を鳥類よる凸部高さ約2cmが啄ばむことにより,傷に発展しやすい。シート表面の擦れによ不明る傷UAV画像での判別容易さ図9a図9b図10a接合部に対して平行に20~30cmの幅で分布図10bシート接合部のしわ熱融着接合時に発生したしわ.今回発見したしわ長さ約75cmは 接 合 不 良で はな かった。パッチ補修部パッチ補修部.補修部は正常であり,接合不良と 幅5cm長さ10cm程度いうわけではない。図11a図11b図12a図12b備考:特異部の種類については,いずれもシート表面での現象であり,現地踏査においては,貫通などの破損は認められなかった。4.3 UAV可視画像を用いたキャッピングシートの引張応力,接合部せん断応力の推定4.3.1 UAV可視画像を用いたキャッピングシート上部に生成した雨水溜り水量の推定UAVからの計測結果や地上での現地踏査から,キャッピングシート上面に不陸部(凹部)が発生することによる雨水溜りが多③数確認された(図-13)。その水深はもっとも深いものは約 70 cm①であった(表-3)。そこで,UAVからの計測によって得られた②可視画像を用いてキャッピングシート上部に生成した雨水溜りの④水量を推定することを試みた。その手順を図-14 に示す。雨水溜りの面積はUAVにより撮影し,オルソ補正済みの可視画像から,CAD ソフトの面積計測機能を用いて求めた。また,体積について⑤は,平均水深を最深部の水深の半分と仮定して計算により求めた。A-6⑦結果を表-3 に示す。各雨水溜りの体積は,0.04 m3 から大きいと⑥3ころでは 11.03 m にもなる。検討を行った 3 区画のうち,A-6 区画の雨水溜りが数,水量ともに他の区画と比較して大きかった。最も大きな雨水溜りは A-6-7 であり,その水量は 11.03 m3 と推定01020(m)された。1 m2 あたりの平均荷重は 350 kg という計算になる。また,図-13 A-6 区画の雨水溜りの状況A-6 区画の合計では 29.22 m3 と推定された。表-3 雨水溜りの最深部水深の実測値及び雨水溜りの平均水深,面積,体積の推計結果雨水溜り番号A-2-1A-2-2A-2-3A-2-4A-2-5A-6-1A-6-2A-6-3A-6-4A-6-5A-6-6A-6-7A-7-1A-7-2A-7-3A-7-4A-7-5最深部水深平均水深 ※面積(m 2) 体積(m 3)(cm)(cm)52.57.040.1842.02.140.042412.011.241.35105.02.610.132010.07.310.73A-2計2.432010.06.620.66105.06.900.354120.57.731.585326.519.475.16136.55.050.336532.531.1210.117035.031.5011.03A-6計29.223015.08.701.31157.55.110.383015.011.661.75189.024.092.172713.516.492.23A-7計7.84UAVにて上空から可視画像を撮影現地踏査により雨水溜りの水深を実測計測データをオルソ化オルソ化データをもとにCADソフトを用いて雨水溜りの面積を計測CADソフトから求めた面積と踏査において実測した水深から雨水溜りの体積を算出図-14 雨水溜りの水量推定手順※:平均水深は,最深部水深の半分と仮定した。-178- 4.3.2 UAV可視画像を用いたキャッピングシートの引張応力,接合部せん断応力の推定表-3 のUAV画像及び実測による計測結果を用いて,雨水溜りの荷重によって発生するキャッピングシートの引張応力を推定することを試みた。仮置場では,内部フレキシブルコンテナに充填されている可燃性除染物の分解等に伴って容積が減少し,それによる変形,崩れが発生し,キャッピングシート表面に不陸が生じることによって発生した凹地に雨水が溜まるものと推察される。この溜まった雨水による荷重によってキャッピングシートに引っ張り応力が発生しているものと考えられる。ここでは大きな雨水溜りである A-6-7 を対象に,簡易的なモデルを考え,発生した雨水溜りの荷重でキャッピングシートが引っ張られることにより発生する応力を求めた。(1) キャッピングシートに弛みがない場合仮置場の構造から図-15 のような簡易的なモデルを考え,キャッピングシートに弛みがない場合に発生する応力を次式(1)により求めた。キャッピングシートL・・・・・(1)ここでσ:引張応力(Pa)L:シートの初期長さ(m)E:弾性係数(Pa)L':シートの変形後長さ(m)ε:歪み(-)ΔL:変位(m)フレコンバッグ降雨雨水溜り固定端L固定端L’ = L + ΔL図-15 雨水溜りの簡易モデル(弛みがない場合)(2) キャッピングシートに弛みがある場合もうひとつのケースとして,弛みを考慮した計算を行った。仮置場の施工時には,キャッピングシートの張力をゆるめるための余裕(以下,弛みと称す。)があるものと推察される(図-16)。この弛みを考慮した場合にキャッピングシートに発生する応力を次式(2)により求めた。なお,現踏査時には施工時に弛みをどの程度見込んでいたかは不明であった。よって,計算では弛みを 0%,5%,10%と設定し,3 通りの条件で計算を行った。・・・・・(2)L・施工時弛み(r %)ここでσ:引張応力(Pa) L:シートの初期長さ(m)雨水溜りE:弾性係数(Pa) L':シートの変形後長さ(m)ε:歪み(-)キャッピングシートΔL:変位(m)・現地踏査時降雨固定端フレコンバッグL固定端r :緩み(%)L’ = L + ΔL本研究において対象とした仮置場に用いられている通気防水シートの図-16 雨水溜りの簡易モデル初期弾性率,破壊基準,接合部破壊等の諸元を表-4 に示す。(弛みがある場合)計算結果を図-17 に示す。なお,キャッピング施工にあたってシートの弛みをどの程度見込んでいたか不明であったため,計算では弛みを 0%,5%,10%と設定し,3 通りの条件で計算した。図-17 を見ると,弛みを 5%,表-4 通気防水シートの諸元10%として計算した場合はいずれの場合にも引張応力は材料の破壊強度よりも低い値となり,安全性が確認された。しかし,弛みを 0%として計算し質量600g /m 2た場合,雨水溜りの長辺方向となる接合ラインに対して垂直方向の引張応厚さ4.5mm6力は 3.2×10 Pa と許容範囲内であったが,雨水溜りの短辺方向となる水透湿度平 方 向 で は 1.8×107 Pa と なり , 後 者 の 引 張応 力 は 材料 の 破 壊 強 度初期弾性率(弾性係数)  1.5× 10 8(Pa)1.1×10 Pa を超える結果となった。接合ラインに対し垂直方向の変形につ破壊基準(公称応力)  1.1× 10 7(Pa)いては,接合部せん断応力も計算した(図-18)。この結果,施工時の弛み破壊基準(公称ひずみ)が 5%,10%のときは接合部のせん断応力は 0 と計算されたが,弛みが無か接合部せん断破壊基準ったときはせん断応力が 385 N/5cm となり,日本遮水工協会の自主基準 8)※接合部破壊基準は,日本遮水工協会の自主7である 345 N/5cm を超える結果となった。基準シートの健全性維持には,仮置場設置時に雨水溜りの発生原因となるシート表面の不陸発生防止のための対策 9)を講じ,維持管理時において不陸や雨水溜りの早期発見、対策を講じることが重要である。-179-3000g/m 2.24h0.175  345(N/5cm) ※8)であり,風速を 30 m/s として接合部に発生するせん断荷重に基づき設定されたものである。 20.00450接合ラインに垂直方向16.00接合ラインに平行方向引張り応力(MPa)14.00400接合部せん断応力(N/5cm)18.00破壊基準(=11MPa)12.0010.008.006.004.00日本遮水工協会自主基準(=345N/5cm)350300250200接合ラインに垂直方向150100502.000.0000123456789101101234567891011弛み(%)弛み(%)図-17 引張り応力の計算結果図-18 接合部せん断応力の計算結果5.結 論本研究を通じて,以下の結論が得られた。1) UAVによる可視画像及び熱赤外画像計測結果について,今回の計測対象である仮置場 9 区画を計測するのに要した時間は,可視画像,熱赤外画像ともそれぞれ約 10 分であった。2) UAV搭載の熱赤外センサにより,仮置場内部温度差をキャッピングの外側から捉えることを試みたが,内部温度が異なる部分であっても,キャッピングの外側の温度に顕著な差は認められなかった。上空からのキャッピング内部温度を推定するためには,太陽光の影響除去と内部温度のキャッピングシート表面への熱伝導を解明することが必要である。3) 今回,実験的に直径約 3cm 貫通した穴を有するキャッピングシート片を作為的にテープで貼り付けたものをUAV可視画像で確認したところ,画像上では黒点として判別することができた。ただし,鳥の糞や枯葉等を傷と誤認識しやすかった。UAV撮影により要監視部を抽出し,現地での確認と併用することにより,小さな異常部が大きな破損に発展することを回避できるものと考えられる。4) キャッピングシート上部に生成した,最も大きな雨水溜りを対象として,雨水溜りの荷重によって発生するキャッピングシートの引張応力を推定するためにキャッピングシートの張力をゆるめるための弛みを 5%,10%と設定して計算した場合はいずれの場合にも引張応力は材料の破壊強度よりも低い値となり,安全性が確認された。しかし,弛みを 0%として計算した場合,雨水溜りの短辺方向となる水平方向では引張応力は材料の破壊強度を超える結果となった。接合ラインに対し垂直方向の変形について,接合部せん断応力については,弛みが無い場合のせん断応力が 385 N/5cm となり,日本遮水工協会の自主基準である 345 N/5cm を超える結果となった。シートの健全性維持には,仮置場設置時に雨水溜りの発生原因となるシート表面の不陸発生防止のための対策9)を講じ,維持管理時において不陸や雨水溜りの早期発見、対策を講じることが重要である。6.今後の課題今後,研究をさらに進め,除染廃棄物仮置場をはじめとする廃棄物処理施設の新たな維持管理手法確立を目指したい。謝辞:本研究を進めるにあたり,除染借置場における現地計測では,前田・鴻池特定建設工事共同企業体,株式会社イッコウ,岩野物産株式会社,一般財団法人リモート・センシング技術センターの皆様にご協力をいただきました。記して謝意を表します。参考文献1) 復興庁:除去土壌等の中間貯蔵施設の案について,平成 26 年 5 月2) 環境省:廃棄物関係ガイドライン第 2 版,平成 25 年 5 月(平成 26 年 12 月追補)3) 環境省:除染特別地域における仮置場等の箇所数及び保管物数について,平成 25 年 3 月 6 日4) 島岡隆行:廃棄物管理におけるリモートセンシング技術の役割,生活と環境,第53巻,第1号,pp.46-52,20085) 宮原哲也・中山裕文・島岡隆行・高山裕明・山下修一・上田裕一・八村智明・永岡修一:リモートセンシングによる廃棄物処分場の情報取得に関する研究,第24回廃棄物資源循環学会研究発表会論文集,pp509-510,20136) 佐伯和人・大場武:火山観測ツールとしての無人観測機の開発,火山,第55巻,第3号,pp137-146,20107) 間野真哉・鈴木太郎・天野嘉春・橋詰匠・瀧口純一:災害情報収集のための小型 UAV 搭載シンバルカメラを用いた物体追跡に関する研究,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集,pp.1A2−C14(1)~(3),20108) 日本遮水工協会:現場保管場所・仮置場の上部シート(通気性防水シート・遮水シート)および下部シート等の自主基準(第 3 版),平成 26 年 4 月 2 日9) 国際ジオシンセティックス学会日本支部ジオメンブレン技術委員会:除染廃棄物等の仮置場遮水マニュアル第 1 版,平成 26 年 7 月 1 日-180-
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  • タイトル
  • 温度条件が異なるベントナイトの水分保持曲線
  • 著者
  • 西村 友良・古関 潤一
  • 出版
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム
  • ページ
  • 181〜184
  • 発行
  • 2015/07/06
  • 文書ID
  • 69540
  • 内容
  • 第11回環境地盤工学シンポジウム 発表論文集(2015年7月郡山)6-5温度条件が異なるベントナイトの水分保持曲線西村友良 1・古関潤一 21 足利工業大学創生工学科・2 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻1. はじめに放射性廃棄物処分は放射能レベルの大きさによって処分深度,処分施設仕様が区別される。例えば高レベル放射性廃棄物の地層処分は地下深度 300~500m に建設が計画されている。また東京電力福島第一原子力発電所の事故が原因で大気中に放出された放射性物質により汚染された廃棄物(指定廃棄物)1)の適切な処分も求められている。高レベル放射性廃棄物の地層処分には圧縮ベントナイトが緩衝材ブロックとして施設構造体を形成し,廃棄体を安全に支え,地下水浸透を遮水する性能が求められる2)。一方で原子力発電環境整備機構の報告 3)によると高温,多湿環境下で緩衝材ブロック(圧縮ベントナイト)にひび割れ等が発生するとされている。ところが,高温,湿度がベントナイトの物性に与える影響について詳細な検討は不十分である。本研究は蒸気圧法によるサクション制御方法を用いて,ベントナイトの水分保持曲線に与える温度の影響について長期試験結果をもとに検討を行った。また圧縮ベントナイト表面に現れる亀裂などを報告するとともにベントナイト以外のカオリン,シルト,ケイ砂も水分保持曲線の比較土質材料2. 試料と試験方法本実験は締固めあるいは圧縮を施していないベントナイト(以後:粉末)と静的締固めによって作製した圧縮ベントナイトを供試体とし,蒸気圧法 4)で保水性試験を実施し水分保持曲線を求めた。試料はベントナイトクニゲル V1,通過質量百分率 %として用い,温度影響の有無についても示している。 10080シルト60ベントナイトGX4000.0010.010.1ベントナイト GX,カオリン,シルト(DL クレイ),ケイ砂(飯豊 4 号)である。カオリン,シルト,ケイ砂はベントナイトの保水性評価のケイ砂ベントナイトクニゲルV1カオリン20110粒径 mm図-1 粒径加積曲線表-1 粒度分析結果比較土質材料として使用した。5 種類の試料の粒径加積曲線を図-1に示す。図-1には(・)印の測定値に従い滑らかな曲線を描いている。ベントナイトクニゲルV1ベントナイトGXカオリンシルト(DLクレイ)ケイ砂(飯豊4号)また表-1には全ての試料の細粒分含有率な細粒分 %10096.299.198.21.3どをとりまとめている。特にベントナイトクニシルト 分4.426.418.3890.8粘土 分95.669.880.89.20.5ゲル V1の粘土含有率は 95%を超え,他の 4試料に比べて非常に高いことがわかる。また,ベントナイトクニゲル V1とベントナイト GX表-2 蒸気圧法で用いた塩の諸量の化学組成は以下のとおりである。()内はベントナイト GX の値である。化学組成は SiO269.7(72.4)%,TiO2 0.14(0.13)%,Al2O3 15.8(14.0)%,Fe2O3 1.69(1.79)%,MgO 2.19(1.83)%,CaO 2.00(1.70)%,Na2O 2.04(1.67)%,K2O 0.24(0.24)%である。ベントナイトの透水係数 5)は 1×10-12m/sec 程度で硫酸カリウム硝酸カリウムリン酸二水素アンモニウム塩化ナトリウム硝酸マグネシウム塩化マグネシウム塩化リチウム記号湿度 %サクション MPaK2S04KNO3NH4H2PO4NaClMg(NO3)2・6H 2OMgCl2・6H 2OLiCl989593.1755433112.836.949.83983.4148296あり、Nishimura ら 6)の報告によると膨潤圧は 376.3kPa であった。蒸気圧法で制御した湿度,サクションならびに塩の名称を表-2に示す。制御湿度範囲は 98%から 11%であり,対応するサクション値は 2.8MPa から 296MPa であった。粉末試料の水分保持曲線の測定は,容量が 0.5 リットルの耐熱ガラス性密閉容器に過飽和塩溶液と初期含水比が異なる試料(ベントナイトクニゲル V1:5.7%,ベントナイト GX:5.9%,その他 6.15%)を湿潤質量で 6g~14g程度入れて行った。初期段階として湿度 98%環境下に置き,その後湿度を段階的に低下させ,サクションを高めた。その試験の様子を図-2に示す。制御温度は使用試験装置・器具の仕様能力から 20℃から 60℃とした。同一条件下での測定期間を少なくとも 1 カ月以上とした。質量の変化から含水比とサクションおよびSoil-water characteristic curves of bentonite under different temperatureTomoyoshi Nishimura1, Junichi Koseki2 (1Ashikaga Institute of Technology, 2 the University of Tokyo)KEY WORDS: Bentonite, Temperature, Humidity, Soil-water characteristic curve, Vapor pressure technique-181- 80粉末初期値乾燥密度1.600g/cm3 寸法(直径6cm 高さ2cm)初期値乾燥密度1.617g/cm3 寸法(直径5cm 高さ10cm)初期値乾燥密度1.490g/cm3 寸法(直径5cm 高さ10cm)含水比 %604020温度 20℃ 湿度 98%0図-2 蒸気圧法による湿度制御0400日数図-3 ベントナイトクニゲルV1の含水比の変化50含水比 %4030ベントナイトクニゲルV1湿度 98%から11%温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃4020103020ベントナイトGX湿度 98%から11%100110100サクション MPa01000図-4 含水比の変化 粉末11510100020温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃含水比 %カオリン湿度 98%から11%10100サクション MPa図-5 含水比の変化 粉末20含水比 %60050含水比 %温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃2005温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃1510シルト湿度 98%から11%50110100サクション MPa図-6 含水比の変化 粉末01000110100サクション MPa1000図-7 含水比の変化 粉末温度との関係を求めた。圧縮ベントナイトの保水性試験では試料の含水比を 6.0%に調整,目標乾燥密度を 1.600g/cm3とした。内径 6cm,高さ 2cm の締固め用モールドを用いて静的に締固めた。図-2のように蒸気圧法で湿度一定環境下に供試体を置いた。供試体寸法(直径,高さ)の測定はノギス(最小目盛り 0.05mm:JIS B 7507)を用いて行い,質量測定と合わせて諸量(体積ひずみ,含水比,乾燥密度,飽和度)を求めた。湿度を 98%から 33%へ低下させ,再び 98%に戻し,湿潤→乾燥→湿潤の過程の試験を行った。この湿度制御に要した測定期間は少なくとも 500 日以上である。また供試体の表面を目視で観察している。188 日後の全供試体の表面の写真撮影を行った。3. 締固めていないベントナイトの水分保持曲線に与える温度の影響温度が異なる 5 種類の粉末試料の保水性試験を実施した。全ての試料は初段階で湿度 98%の環境に置かれた。図-3に湿度 98%,温度 20℃における含水比の経日変化を示す。図-3には粉末試料(図中●)の他に,締固め条件が異なる3 種類の圧縮ベントナイトの含水比も示している。粉末試料(図中●)の含水比は 55 日間で 5.7%から 15.4%にまで増大し,粒子間に水分子が取り込まれていることがわかる。初期含水比 6.0%,初期乾燥密度 1.600g/cm3 の供試体(直径6cm,高さ 2cm)の場合(図中□),含水比は 70 日後に 17.9%にまで増大し,242 日後の含水比は 18.6%であった。一方,初期含水比 5.8%,初期乾燥密度 1.617g/cm3 と 1.490g/cm3 の場合(図中△○,直径 5cm,高さ 10cm),供試体側面保護のためにゴムスリーブで覆って試験を継続した。よって供試体側面がゴムスリーブによって湿度制御された空気と遮断さ-182- 20れたことで含水比増大の経日変化はゆるやかであった。燥密度 1.617g/cm3)と 14.8%(初期乾燥密度 1.490g/cm3)にまで高まっている。次に 98%から 11%のそれぞれの湿度環境で平衡した含水比 %しかし 240 日後にはそれぞれの含水比は 13.6%(初期乾温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃1510状態の含水比を求め,温度が異なる 5 種類の粉末試料のケイ砂湿度 98%から11%5水分保持曲線を図-4から8に示す。ベントナイトクニ0ゲル V1,ベントナイト GX ともに湿度 98%における含1水比は 20%近くまで増加している。その他の試料は,カオリンが 7.8%~10.1%,シルトが 0.9%~1.2%,ケイ砂が 0.8%~1.1%の範囲であった。粘土分が高いベント10100サクション MPa図-8 含水比の変化 粉末ナイトとカオリンの中でも,ベントナイトの含水比が高50える。しかし,シルトやケイ砂の含水比は非常に小さくかつ両者に明確な違いは見られなかった。一方で,含水比に与える温度の影響は見られないこと含水比 %いのは,モンモリロナイト系粘土鉱物の吸水性が高く,多くの水分量(水分子)を粒子間に取り込んだ結果といサクション 2.83MPaサクション 9.8MPa40サクション 39MPaサクション 83.4MPa30サクション 148MPaサクション 296MPa20がわかる。たとえば図-9にベントナイトクニゲル V110の温度と含水比の関係をとりまとめた。サクションが同00じであれば温度が増大してもほぼ変わらないといえる。20図-4から8より,サクションが増大(湿度低下)すると,全ての試料の含水比は低下する。サクションが100040温度 ℃6080図-9 含水比の変化 ベントナイトクニゲルV1 粉末39MPa よりも大きくなると片対数座標上でプロットし表-3 水分保持曲線の直線勾配たサクションと含水比の関係を全ての試料で直線近似することが可能となる。全ての試料の直線から傾きを求めた。傾きを算出する際は,含水比の値を百分率で,ま勾配ベントナイトクニゲルV1ベントナイトGXカオリンシルトケイ砂2.362.360.170.140.12たサクションは常用対数で取り扱った。得られた傾きを表-3に示す。ベントナイトクニゲル V1,ベントナイト GX,カオリン,シルト,ケイ砂の順に,2.36,2.36,0.17,0.14,0.12 であり,ベントナイトクニゲル V1とベントナイト GX が最も大きくカオリンの 14 倍近くもあった。4. 締固めた圧縮ベントナイトのサクション低下に伴う変形と水分量の変化圧縮ベントナイト(ベントナイトクニゲル V1)を湿度 98%,33%の環境でかつ 20℃から 60℃に温度増加した場合のベントナイトの変形ならびに水分量の経日変化を求めた。体積ひずみの経日変化を図-10 に示す。湿度 98%の環境下に置かれた初期含水比 6%の供試体は温度の大きさに関わらず体積膨張を示している。60℃の場合,体積ひずみの増分が最も大きく見受けられる。40 日以降は体積ひずみ増分も安定し,220 日までほぼ一定値を示している。供試体が体積膨張を示している間,含水比は図-11 のように 6%から 20%近くまで増加している。200 日を超えた辺りで含水比は若干の減少を示している。供試体を納めている容器の密閉確認をしたが問題はなかった。湿度 33%へ移る前の含水比は16%から 18%であり,供試体の温度と含水比との間に明瞭な関係は見受けられなかった。供試体の体積膨張が生じたことで乾燥密度(図-12)は初期値 1.600g/cm3 から小さくなり,40 日以降は乾燥密度の大きさがほぼ一定であり,かつ 60℃であっても乾燥密度は他の温度条件の供試体と大きな差異はないことがわかる。体積膨張と含水比の増加によって,供試体は図-13 のように初期飽和度 22.9%から 38%程度まで増加している。また,湿度98%環境下に置かれた間に供試体の表面(上面および側面)には亀甲状のクラックや亀裂,剥離が目視で観察された。図-14 に 98%の湿度環境下に供試体を置いてから 188 日経過後の供試体上面の様子を示す。供試体温度が 60℃の場合に最も多数の亀甲状クラックや割れ目が観察された。また供試体温度が 20℃へと低下するに従い,クラック発生数が減少していることがわかる。このような圧縮ベントナイトの変状は原子力発電環境整備機構が報告3)した緩衝材ブロックの変状(図-15)に極めて類似している。湿度を 98%から 33%に低下(サクションは 2.8MPa から 148MPa に増加)させると,約 80 日の間に温度 40℃の場合に体積ひずみは 14%まで減少し,供試体の体積が小さくなっている。含水比は温度に関わらず 5%程度まで乾燥し,飽和度も 13%程度に低下している。次に湿度 33%から湿度 98%に移行し 220 日間,供試体の諸量を測定すると体積膨張が起こり,含水比の増加,乾燥密度の低下,飽和度の増加が見られた。測定終了時と 220 日後の諸量を比較すると測定値にバラつき程度の差異はあるが,概ね同じ値にまで戻っているといえる。さらに,図-10 から 13 で示したように温度 20℃から 60℃の間の諸量に対する温度の定性的な影響を見出すことはできない。-183- 2520含水比 %体積ひずみ %454035302520151050温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃湿度 33%温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃湿度 33%10500200400日数600800図-10 体積ひずみの変化 圧縮ベントナイト0湿度 33%飽和度 %1.51温度20℃温度40℃温度60℃0.5温度30℃温度50℃00200400日数600454035302520151050800図-12 乾燥密度の変化 圧縮ベントナイト図-14200400日数600800図-11 含水比の変化 圧縮ベントナイト2乾燥密度 g/cm315温度20℃温度30℃温度40℃温度50℃温度60℃湿度 33%0200400日数600800図-13 飽和度の変化 圧縮ベントナイト測定開始から188日の供試体上面の様子 (左から20℃、30℃、40℃、50℃、60℃)5. まとめ圧縮を施していない状態のベントナイトクニゲル V1,ベントナイト GXと同様にカオリン,シルト,ケイ砂も湿度が低下すると,含水比は減少する。しかし,ベントナイトの保水性は他の土質材料に比べて高い。図-15 ベントナイト緩衝ブロックの変状39MPa 以上のサクションに対する含水比低下の割合は粉末状態のベントナイトが最も大きく,例えばカオリンの 14倍近くもあったが,水分保持曲線に与える温度の定性的な影響は確認されなかった。98%の湿度環境下に置かれた圧縮ベントナイトクニゲル V1は温度が 60℃になると多数の亀甲状クラックや割れ目が生じた。圧縮ベントナイトは湿度の増大,低下で体積変化,含水比および飽和度の変化を示すが,温度変化に対する定性的な関係を確立することはできない。今後は締固め時のベントナイトの含水比の影響を検討項目とする。参考文献1) 指 定 廃 棄 物 に つ い て : 放 射 性 物 質 汚 染 廃 棄 物 処 理 情 報 サ イ ト , 環 境 省http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/designated_waste/2) Hywel, R. Thomas., Philip J. Vardon. and Peter J. Cleall.: Three-dimensional behaviour of a prototype radioactive wasterepository in fractured granitic rock, Canadian Geotechnical Journal, Vol.51, pp.246-259, 2014.3) 原子力発電環境整備機構:第 6 章処分場の設計と建設・操業・閉鎖,地層処分事業の安全確保 2010 ~確かな技術による安全な地層処分の実現のために~,6-1~6-140,2010 年 11 月.4) Delage, P., Howat, M.D. and Cui, Y.J.: The relationship between suction and swelling properties in a heavily compactedunsaturated clay, Engineering Geology, 50, pp.31-48, 1998.5) 核燃料サイクル開発機構: 4.1.2.1.5 水理的特性,わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性地層処分研究開発第2次とりまとめー-分冊2,地層処分の工学技術,JNC TN1400 99-022,pp.Ⅳ-87~Ⅳ-94,1999.6) Nishimura, T., Koseki, J. and Matsumoto, M: Measurement of swelling pressure for bentonite under relative humidity control,Unsaturated Soils: Research and Applications, E-UNSAT 2012, Vol.1, pp.235-240, 2012.-184-
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